(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023044793
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】インジェクタの固定構造及びインジェクタの引き抜き方法
(51)【国際特許分類】
F02M 61/14 20060101AFI20230327BHJP
F02M 61/16 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
F02M61/14 320A
F02M61/16 Q
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021152838
(22)【出願日】2021-09-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】長田 英樹
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066AA07
3G066AB02
3G066AC02
3G066AD02
3G066BA56
3G066CC03
3G066CD04
(57)【要約】
【課題】専用の工具を用いずにインジェクタを引き抜けるインジェクタの固定構造の提供。
【解決手段】シリンダヘッド103の壁部105の貫通孔104a、104bに挿入され燃焼室101内に露出するインジェクタ107を壁部105に固定するインジェクタ107の固定構造1であって、壁部105に固定されインジェクタ107と係合するブラケット3と、ブラケット3をインジェクタ107の挿入向きに貫通するブラケット側ネジ孔7と、ブラケット側ネジ孔7に螺合せず挿通して壁部105と螺合し、固定ボルト側ボルト頭17がブラケット3を壁部105と挟み込むことでブラケット3及びインジェクタ107を壁部105に固定するインジェクタ固定ボルト5を備え、インジェクタ固定ボルト5を取り外し、引き抜き用ボルト201をブラケット側ネジ孔7に螺合させ壁部105を押圧することで、ブラケット3をインジェクタ107ごと引き抜く固定構造1。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃料又は燃料が燃焼後の排ガスが流れる流路の壁部に形成された貫通孔に挿入されて前記流路内に先端が露出する筒状の燃料噴射管であるインジェクタを前記壁部に固定するインジェクタの固定構造であって、
前記壁部の外壁に固定され、前記インジェクタの挿入向きと交差する方向に延在し、前記交差する方向に前記インジェクタと係合して前記壁部と前記インジェクタを連結して、前記挿入向きと平行な方向への前記インジェクタの移動を規制する連結部材であるブラケットと、
前記ブラケットを前記挿入向きに貫通して設けられたネジ孔であるブラケット側ネジ孔と、
前記ブラケット側ネジ孔よりネジ径が短く、前記ブラケット側ネジ孔に螺合せず挿通して前記壁部と螺合し、ボルト頭又はナットが前記ブラケットを前記壁部と協働して挟み込むことで前記ブラケット及び前記インジェクタを前記壁部に固定するインジェクタ固定ボルトと、
を備え、
前記インジェクタ固定ボルトを前記壁部及び前記ブラケットから取り外し、前記ブラケット側ネジ孔と螺合するネジ径の引き抜き用ボルトを前記ブラケット側ネジ孔に螺合させて回転させ、先端を前記壁部と接触させ押圧することで、前記ブラケットを前記インジェクタごと前記挿入向きと逆向きに移動させて前記インジェクタを引き抜くように構成されたことを特徴とするインジェクタの固定構造。
【請求項2】
前記ブラケットは、
前記インジェクタの外周面と係合する先端が、二叉に分かれたクランプ状の係合部を有し、
二叉に分かれた前記係合部は、前記インジェクタの外周面に前記挿入向きと直交する向きに形成された溝である横溝に挿入され、前記インジェクタを把持するように係合している請求項1に記載のインジェクタの固定構造。
【請求項3】
二叉に分かれた前記係合部は、
前記インジェクタの外周面2か所に前記挿入向きに直交する1方向に沿って形成され、互いに対向する1対の前記横溝に各々挿入されることで前記インジェクタと係合する、請求項2に記載のインジェクタの固定構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の固定構造が前記インジェクタと係合し、前記インジェクタ固定ボルトが前記ブラケットを前記壁部に固定することで、前記インジェクタを前記壁部に固定した状態から、
前記インジェクタ固定ボルトを前記壁部及び前記ブラケットから取り外すインジェクタ固定ボルト取り外し工程と、
前記ブラケット側ネジ孔と螺合するネジ径の前記引き抜き用ボルトを前記ブラケット側ネジ孔に螺合させて回転させ、先端を前記壁部と接触させ押圧することで、前記ブラケットを前記インジェクタごと前記挿入向きと逆向きに移動させて前記インジェクタを引き抜くインジェクタ引き抜き工程と、
を実施することを特徴とするインジェクタの引き抜き方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、インジェクタの固定構造及びインジェクタの引き抜き方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インジェクタは先端から燃料を噴射する筒状の装置であり、内燃機関の燃焼室や排気路に燃料を供給するため、これらの流路の壁部を貫通して先端が流路内に露出するように挿入される。挿入されたインジェクタは、壁部にボルト締結されるブラケット等の固定構造で固定される。
【0003】
インジェクタは交換時に取り外されるが、インジェクタが挿入部に固着している場合、ボルト締結を解除しただけでは、インジェクタを作業員がペンチ等で挟んで引っ張っても引き抜きに要する力が不足し引き抜けないことが多い。そのため、人力を加勢する構造の引き抜き工具を用いる場合がある。特許文献1には支持台をシリンダヘッドに固定し、シャフトをインジェクタに螺合して支持台を貫通させ、支持台の上からシャフトにナットを螺合して締めることでインジェクタを上方に移動させて引き抜く工具が開示されている(特許文献1)。この構造はナットを螺合する回転力を、シャフトの軸方向の力に変換する機構を利用したもので、螺合する工具に全長の長いスパナを使うほど締結時のトルクを大きくできるので、人力を加勢できる。
(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1の工具はインジェクタの引き抜き専用であるため、インジェクタを引き抜く度に専用の引き抜き工具が必要になる問題があった。
【0006】
本開示は上記課題に鑑みてなされたもので、専用の工具を用いずにインジェクタを引き抜けるインジェクタの固定構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本開示の一態様は、内燃機関の燃料又は燃料が燃焼後の排ガスが流れる流路の壁部に形成された貫通孔に挿入されて前記流路内に先端が露出する筒状の燃料噴射管であるインジェクタを前記壁部に固定するインジェクタの固定構造であって、前記壁部の外壁に固定され、前記インジェクタの挿入向きと交差する方向に延在し、前記交差する方向に前記インジェクタと係合して前記壁部と前記インジェクタを連結して、前記挿入向きと平行な方向への前記インジェクタの移動を規制する連結部材であるブラケットと、前記ブラケットを前記挿入向きに貫通して設けられたネジ孔であるブラケット側ネジ孔と、前記ブラケット側ネジ孔よりネジ径が短く、前記ブラケット側ネジ孔に螺合せず挿通して前記壁部と螺合し、ボルト頭又はナットが前記ブラケットを前記壁部と協働して挟み込むことで前記ブラケット及び前記インジェクタを前記壁部に固定するインジェクタ固定ボルトと、を備え、前記インジェクタ固定ボルトを前記壁部及び前記ブラケットから取り外し、前記ブラケット側ネジ孔と螺合するネジ径の引き抜き用ボルトを前記ブラケット側ネジ孔に螺合させて回転させ、先端を前記壁部と接触させ押圧することで、前記ブラケットを前記インジェクタごと前記挿入向きと逆向きに移動させて前記インジェクタを引き抜くように構成されたことを特徴とする。
【0008】
本開示の他の態様は、インジェクタの引き抜き方法であって、前記固定構造が前記インジェクタと係合し、前記インジェクタ固定ボルトが前記ブラケットを前記壁部に固定することで、前記インジェクタを前記壁部に固定した状態から、前記インジェクタ固定ボルトを前記壁部及び前記ブラケットから取り外すインジェクタ固定ボルト取り外し工程と、前記ブラケット側ネジ孔と螺合するネジ径の前記引き抜き用ボルトを前記ブラケット側ネジ孔に螺合させて回転させ、先端を前記壁部と接触させ押圧することで、前記ブラケットを前記インジェクタごと前記挿入向きと逆向きに移動させて前記インジェクタを引き抜くインジェクタ引き抜き工程と、を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、専用の工具を用いずにインジェクタを引き抜けるインジェクタの固定構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態に係る固定構造を備えた内燃機関のシリンダヘッドを示す縦断面図であって、インジェクタ内部の構造は記載を省略している。
【
図2】(a)は
図1の領域Aの拡大図であって、(b)は(a)に示す状態からインジェクタ固定ボルトを取り外し、引き抜き用ボルトをブラケット側ネジ孔に螺合させた状態を示す。
【
図3】
図1のインジェクタの横溝が設けられた付近、及びブラケットを模式的に示す図であって、(a)は分解斜視図、(b)は(a)の上面図、(c)はブラケットとインジェクタが係合した状態を示す側面図である。
【
図4】本開示の実施形態に係る固定構造を備えた内燃機関のシリンダヘッドからインジェクタを引き抜く手順を示す縦断面図であって、
図1の領域Aに対応する領域を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本開示に好適な実施形態を詳細に説明する。ここではインジェクタ107の固定構造1として、内燃機関であるディーゼルエンジンの燃焼室101内に燃料を噴射するインジェクタ107をシリンダヘッド103の壁部105に固定する構造を例示する。まず、
図1を参照して、インジェクタ107が固定されたシリンダヘッド103の構造について、簡単に説明する。
【0012】
図1に示すシリンダヘッド103は、ディーゼルエンジンの燃焼室101の上部を構成する部品である。より具体的には、シリンダヘッド103は、図示しないシリンダが設けられたシリンダブロックを、シリンダの上端を塞ぐように覆う部品である。燃焼室101はシリンダとシリンダヘッド103、及びシリンダ内に配置された図示しないピストンで囲まれた空間であり、燃焼室101内で燃料が燃焼する際の気体の膨張圧でピストンが往復することでディーゼルエンジンが機械仕事を得る。
【0013】
燃焼室101内に燃料を供給するため、シリンダヘッド103にはインジェクタ107が設けられる。インジェクタ107は燃料の流路及び燃焼する場所である燃焼室101内に先端が露出する筒状の燃料噴射管である。インジェクタ107の先端には図示しないノズルが設けられており、ノズルから燃焼室101内に燃料を噴射する。
【0014】
シリンダヘッド103の壁部105には貫通孔104a、104bが設けられており、インジェクタ107は貫通孔104a、104bを
図1のZ1の向きに挿通して、その先端が燃焼室101内に露出する。また、シリンダヘッド103は固定構造1によってシリンダヘッド103の壁部105に固定され、
図1のZ方向への移動を規制される。
【0015】
以上が、インジェクタ107が固定されたシリンダヘッド103の構造の説明である。
【0016】
次に
図1~
図3を参照して固定構造1の構造の詳細について説明する。
【0017】
図1~3に示すように固定構造1はブラケット3、ブラケット側ネジ孔7、及びインジェクタ固定ボルト5を備える。
【0018】
ブラケット3は、シリンダヘッド103の壁部105とインジェクタ107を連結して、インジェクタ107の挿入向きであるZ1の向きに平行な方向であるZ方向へのインジェクタ107の移動を規制する連結部材である。
【0019】
具体的にはブラケット3は
図1及び
図2に示すように壁部105の外壁103aに固定され、インジェクタ107の挿入向きであるZ1の向きと交差する方向であるX方向に延在する部材である。ブラケット3はこのX方向にインジェクタ107と係合して壁部105とインジェクタ107を連結する。より具体的には
図3に示すブラケット3はX方向に延在する外形がブロック状の部材であり、ブラケット本体11及び係合部9を備える。ブラケット本体11はブラケット3を構成する他の部材が設けられる基部であり、
図3では外形がブロック状である。
図3ではブラケット本体11は、上面のX方向中央付近にZ2の向きに突出した凸部12が形成されている。また、
図3ではブラケット本体11のX方向端部のうち、インジェクタ107から遠い側の端部である手前側端部に接する下面にZ1の向きに突出した凸部14が形成されている。
図1に示す凸部14の下面はインジェクタ107がシリンダヘッド103に固定された状態では壁部105の外壁103aに当接している。
【0020】
図3に示す係合部9はインジェクタ107の挿入向きであるZ方向と交差する方向であるX方向にインジェクタ107と係合する部分であり、ブラケット本体11のX方向端部のうち、インジェクタ107に近い側の端部に設けられる。
【0021】
係合部9はインジェクタ107の挿入向きであるZ1の向きと平行な方向であるZ方向へのインジェクタ107の移動を規制できる構造であれば、具体的な構造は適宜設定できる。
図3に示す係合部9はインジェクタ107の外周面と係合する先端が、二叉に分かれたクランプ状の形状を例示している。
【0022】
より具体的には係合部9は、ブラケット本体11のX方向端部のうち、インジェクタ107に近い側の端部からインジェクタ107に向けて突設されたアーム部9a、9bを備える。アーム部9aとアーム部9bはY方向から見ると互いに重なる位置にあるが、
図3(b)に示すようにY方向に間隔Gだけ離間している。
【0023】
係合部9がクランプ状の場合、
図3に示すように、インジェクタ107の外周面には、インジェクタ107の挿入向きであるZ1の向きと直交するX1の向きに形成された溝である横溝109a、109bが設けられる。この構成では
図3(a)(c)に示すようにインジェクタ107にネック部111が形成される。ネック部は横溝109a、109bに挟まれた部分であり、X方向から見た径方向の長さLが、横溝109a、109bが設けられていない筒状の部分の径方向の長さMより短い部分である。
【0024】
この構成では
図3(a)に示す状態からブラケット3をX1の向きに移動させ、二叉に分かれた係合部9の先端であるアーム部9a、9bが横溝109a、109bに各々挿入されると係合部9がネック部111を把持するようにブラケット3とX方向に係合する。これにより、係合部9がインジェクタ107を把持してZ方向への移動を規制する。
【0025】
この構成では、インジェクタ107側の加工が、外周面に横溝109a、109bを設けるだけで良いので、係合部分のインジェクタ107側の加工が容易であり、ブラケット3側の係合部9も単純な二叉構造でインジェクタ107のZ方向への移動を規制できる。
【0026】
横溝109a、109bは、インジェクタ107と係合できるのであれば、インジェクタ周面の全周に渡って形成してもよい。具体的には、横溝109a、109bのように複数本の横溝を設けるのではなく、1本のリング状の横溝をインジェクタ107の外周面の全周に渡って形成してもよい。
【0027】
ただし横溝は、
図3に示すように、インジェクタ107の外周面2か所に挿入向きであるZ1の向きに直交する1方向であるX1の向きに沿って形成され、互いに対向する1対の横溝109a、109bとするのが好ましい。この構成ではインジェクタ107の全周に横溝を形成する必要が無いため、インジェクタ内部の燃料の流路等と干渉しない位置に横溝を形成しやすいためである。
【0028】
係合部9がインジェクタ107のZ方向への移動を規制するためにはアーム部9a、9bが横溝109a、109bの上面及び下面に当接してインジェクタ107のZ方向への移動を規制する必要がある。よって
図3(c)に示すアーム部9a、9bのZ方向高さL1は横溝109a、109bのZ方向高さL2以下である。またネック部111をアーム部9a、9bで把持するために、アーム部9a、9bのY方向の間隔Gはネック部111の幅L以上、横溝109a、109bが設けられていない部分の長さM未満である。横溝109a、109bの溝深さPはインジェクタ107内部の燃料の流路等と横溝109a、109bが干渉せず、かつアーム部9a、9bと係合できる範囲で適宜設定する。また溝深さPは横溝109a、109bで同じ深さとすると、Z方向から見て、アーム部9a、9bがインジェクタ107の中心を把持する態様になる。この態様では、インジェクタ107が燃料を噴射する際に、挿入方向であるZ方向に直交する方向、ここでは水平方向に均等に燃料の噴射が行われるので好ましい。
【0029】
係合部9とインジェクタ107の係合は、Z方向へのインジェクタ107の移動を規制できればよいが、締り嵌めのように互いに相対移動しないように固定するのが好ましい。これは、インジェクタ107は燃焼室101内で燃料が燃焼する際に生じる排ガスの膨張圧よる力をZ2の向きに断続的に受けるため、これらの力でインジェクタ107が移動しないようにする必要があるためである。またインジェクタ107は、ディーゼルエンジンの駆動に伴う振動による力をX方向、Y方向、Z方向から受けるため、これらの力でインジェクタ107が移動しないようにするのが好ましいためである。係合部9とインジェクタ107が互いに相対移動しないように係合することで、固定構造1は、X方向、Y方向、Z方向のいずれの向きにもインジェクタ107が移動しないように固定できる。なお、係合部9とインジェクタ107が互いに相対移動しないようにするために、インジェクタ107とブラケット3を一体に形成してもよい。締り嵌めのように固定する場合は、係合前のアーム部9a、9bのZ方向高さL1が横溝109a、109bのZ方向高さL2より大きくてもよく、係合前のアーム部9a、9bのY方向の間隔Gはネック部111の幅L未満でもよい。
【0030】
図3では係合部9として、先端が二叉に分かれたクランプ状の構造を例示したが、Z方向へのインジェクタ107の移動を規制できるのであれば係合部9の形状は適宜変更できる。例えばインジェクタ107側にアーム部のようなX方向に突設する部材を設け、ブラケット3側にインジェクタ側のアーム部と係合する溝や孔を設けてもよい。また、ブラケット3の設置位置は、インジェクタ107と壁部105を連結して固定できる位置であれば、適宜設定できる。
【0031】
ブラケット側ネジ孔7は
図2(a)に示すように、ブラケット3を壁部105に固定する際に固定用のボルトであるインジェクタ固定ボルト5が挿通するネジ孔である。ブラケット側ネジ孔7はインジェクタ107をシリンダヘッド103から引き抜く際にも用いられる。
図2(a)及び
図3に示すように、ブラケット側ネジ孔7はブラケット3のブラケット本体11を、インジェクタ107の挿入向きであるZ1の向きに貫通して設けられたネジ孔である。
図3(a)ではブラケット側ネジ孔7はブラケット本体11の凸部12に一端が露出している。
【0032】
インジェクタ固定ボルト5はブラケット3を壁部105に固定するボルトであり、
図2(a)に示すようにシャフト部13、ネジ部15、及び固定ボルト側ボルト頭17を備える。
【0033】
シャフト部13は丸棒であり、ブラケット3を壁部105に固定する際にブラケット側ネジ孔7を挿通して、ブラケット側ネジ孔7内に配置される。シャフト部13はネジ棒でもよいが、ブラケット側ネジ孔7とは螺合せず、挿通するだけである。具体的にはシャフト部13の直径D4は、ブラケット側ネジ孔7の内径であるネジ径D2よりも短い。
【0034】
ネジ部15はシャフト部13の軸方向の一端に設けられたネジ棒であり、ブラケット3を壁部105に固定する際にブラケット側ネジ孔7を挿通して、挿通する向きの前方に設けられた壁部105の壁部側ネジ孔113に螺合される。ネジ部15もシャフト部13と同様にブラケット側ネジ孔7とは螺合せず、挿通するだけである。具体的にはネジ部15のネジ径D1は、ブラケット側ネジ孔7のネジ径D2よりも短い。
【0035】
固定ボルト側ボルト頭17は、
図2(a)に示すように、ブラケット3とインジェクタ107が係合し、ネジ部15がブラケット側ネジ孔7に螺合した状態でブラケット3を壁部105と協働して挟み込む部材である。挟み込むことでブラケット3及びインジェクタ107を壁部105に固定できる。固定ボルト側ボルト頭17はシャフト部13の軸方向の他端に設けられた部材である。固定ボルト側ボルト頭17はZ方向に直交する方向の最大幅D3がブラケット側ネジ孔7のネジ径D2よりも大きいため、ブラケット側ネジ孔7には挿通も螺合もしない。固定ボルト側ボルト頭17はネジ部15がブラケット側ネジ孔7に螺合する際にスパナやレンチ等の工具で挟んで回転させる部分なので、これらの工具で挟みやすいように、平面形状が6角形等の、工具に対応した形状であるのが好ましい。
【0036】
図2(a)では固定ボルト側ボルト頭17はシャフト部13やネジ部15と一体化している。しかしながら、ブラケット3を壁部105と協働して挟み込める最大幅D3があれば、固定ボルト側ボルト頭17の替わりにナットのようなシャフト部13やネジ部15と別体の部品を用いてもよい。この場合、シャフト部13は両端がネジ棒のスタッドボルトになる。固定ボルト側ボルト頭17をシャフト部13やネジ部15と一体化する場合、シャフト部13とネジ部15の軸方向長さの合計値は、ネジ部15がブラケット側ネジ孔7に螺合した状態で固定ボルト側ボルト頭17がブラケット3に当接する程度である。
【0037】
図2(a)に示すように、ブラケット3とインジェクタ107が係合し、ネジ部15がブラケット側ネジ孔7に螺合し、固定ボルト側ボルト頭17がブラケット3に当接した状態では、ブラケット3とインジェクタ107はZ方向への移動を規制される。具体的にはZ2の向きに移動しようとしても固定ボルト側ボルト頭17に移動を阻止される。また、Z1の向きに移動しようとしても壁部105に移動を阻止される。
【0038】
ここで、
図2に示すように、ブラケット側ネジ孔7がインジェクタ固定ボルト5と螺合しないにも関わらず、ネジ孔である理由を説明する。
図2(a)に示すように、ブラケット3とインジェクタ107が係合し、インジェクタ固定ボルト5が壁部側ネジ孔113に螺合した状態では、ブラケット側ネジ孔7は螺合する部材がない。よって、この状態ではブラケット側ネジ孔7は、単にインジェクタ固定ボルト5を挿通させるボルト挿通孔としての機能しか発揮しない。
【0039】
一方で、インジェクタ107を交換する場合のように、インジェクタ107をシリンダヘッド103から引き抜く必要が生じたとする。この場合、まずインジェクタ固定ボルト5を壁部105から取り外し、ブラケット側ネジ孔7から引き抜く必要がある。
【0040】
次にインジェクタ107を
図1に示す壁部105の貫通孔104a、104bから引き抜く必要がある。しかしながらインジェクタ107が貫通孔104a、104bに固着している場合等は、インジェクタ107を作業員がペンチ等の汎用の引き抜き工具で挟んで引っ張っても引き抜きに要する力が不足し引き抜けないことが多い。一方で、引き抜き専用工具を用いてインジェクタ107を引き抜く場合は、専用工具を用意し、専用工具特有の手順に従って専用工具を操作する必要があり、汎用の引き抜き工具を用いる場合よりも作業性が悪い。また、専用工具はペンチのような汎用の引き抜き工具よりも高価である。
【0041】
一方で、固定構造1はブラケット3にブラケット側ネジ孔7が設けられている。
図2(a)に示すブラケット側ネジ孔7のネジ径D2はインジェクタ固定ボルト5のシャフト部13の直径D4やネジ部15のネジ径D1よりも大きいため、インジェクタ固定ボルト5よりもネジ径の大きいボルトを螺合させられる。
【0042】
そこで、
図2(b)に示すように、インジェクタ固定ボルト5よりもネジ径D6が大きく、ブラケット側ネジ孔7に螺合するボルトである引き抜き用ボルト201をブラケット側ネジ孔7に螺合させる。さらに引き抜き用ボルト201のボルト頭である引き抜き側ボルト頭205をスパナ等の工具を用いて
図2の矢印Bで示すように回転させる。すると、引き抜き用ボルト201はZ1の向きに移動して先端が壁部側ネジ孔113に接触するが、引き抜き用ボルト201のネジ径D6はインジェクタ固定ボルト5のネジ部15のネジ径D1よりも大きいため、壁部側ネジ孔113のネジ径D7よりも大きい。そのため、引き抜き用ボルト201は壁部側ネジ孔113と螺合せず、Z1の向きに移動もできないので、壁部側ネジ孔113の周囲の壁部105をZ1の向きに押圧しつつ、その場で回転する。この回転力は、螺合した部分を介して引き抜き用ボルト201からブラケット3に伝達されるが、ブラケット3はインジェクタ107と係合しており回転できない。そのため、ブラケット側ネジ孔7のネジ溝がインジェクタ固定ボルト5のネジ溝にガイドされることで、挿入向きであり押圧向きであるZ1の向きと逆向きのZ2の向きにブラケット3がインジェクタ107ごと移動する。このように引き抜き用ボルト201の回転力をブラケット3が直動する力に変換することでインジェクタ107を貫通孔104a、104bから引き抜ける。
【0043】
引き抜き用ボルト201を用いた引き抜きの際のインジェクタ107のZ2の向きへの最大移動距離は、
図2(b)に示す距離Hである。距離Hは、引き抜き用ボルト201の先端が壁部側ネジ孔113に接触した状態での、引き抜き用ボルト201の引き抜き側ボルト頭205のZ方向下端と、ブラケット3のZ方向上面との距離である。距離H以上、インジェクタ107をZ2の向きに移動させようとすると、引き抜き用ボルト201の引き抜き側ボルト頭205の下端がブラケット3の上面に接触してZ2の向きへの移動を規制するためである。そのため距離H以上、ブラケット3を移動させる場合は、まず、距離H以下の移動でインジェクタ107と貫通孔104a、104bの固着を解除する。その後、引き抜き側ボルト頭205をペンチで引っ張る等して引き抜き用ボルト201とブラケット3ごとインジェクタ107を引き抜けばよい。
【0044】
また、引き抜き用ボルト201のネジ部の全長Kは、引き抜き用ボルト201をブラケット側ネジ孔7に螺合させて壁部105と接触させた状態で、距離Hがインジェクタ107と貫通孔104a、104bの固着を解除するのに必要な長さとなる程度の長さである。さらに、引き抜き側ボルト頭205のZ方向に直交する方向の最大径D5は、引き抜き側ボルト頭205を回転させる際にインジェクタ107やシリンダヘッド103と干渉しない範囲で適宜選択すればよい。なお、引き抜き側ボルト頭205は引き抜き用ボルト201を回転させる際にスパナやレンチ等の工具で挟んで回転させる部分なので、これらの工具で挟みやすいように、平面形状が6角形等の、工具に対応した形状であるのが好ましい。
【0045】
このように、固定構造1では、インジェクタ107をシリンダヘッド103に固定する際にインジェクタ固定ボルト5を挿通させる孔を、固定する際には他の部材と螺合しないネジ孔であるブラケット側ネジ孔7としている。また、固定構造1では、ブラケット側ネジ孔7をインジェクタ107の引き抜き時にインジェクタ固定ボルト5を螺合させるために利用している。つまり、固定構造1は固定時の挿通孔を敢えてネジ孔にすることで、インジェクタ107をシリンダヘッド103に固定する機能だけでなく、インジェクタ107をシリンダヘッド103から引き抜く機能の一部も有している。これが、ブラケット側ネジ孔7がインジェクタ固定ボルト5と螺合しないにも関わらず、ネジ孔である理由である。
【0046】
この構造では、インジェクタ107をシリンダヘッド103に固定する際にはブラケット側ネジ孔7にインジェクタ固定ボルト5を挿通して壁部105に螺合する。インジェクタ107をシリンダヘッド103から引き抜く際にはインジェクタ固定ボルト5を取り外し、引き抜き用ボルト201をブラケット側ネジ孔7に螺合させて壁部105と接触させて押圧する。
【0047】
この構造では、インジェクタ107の引き抜きに使用する工具が引き抜き用ボルト201、引き抜き用ボルト201を回転させるスパナやレンチ、及び引き抜き用ボルト201を引っ張るペンチである。引き抜き用ボルト201はブラケット側ネジ孔7に螺合するネジ径D6と、所望のネジ部の全長Kと、インジェクタ107やシリンダヘッド103と干渉しない最大径D5の引き抜き側ボルト頭205を備えれば、汎用品のボルトを用いることができる。スパナやレンチ、ペンチも引き抜き側ボルト頭205を回転させたり、挟んで引っ張ったりできるのであれば、汎用の工具を用いることができる。よって、固定構造1は専用の工具を用いずにインジェクタ107を引き抜ける。以上が固定構造1の構造の詳細の説明である。
【0048】
次に、インジェクタ107がシリンダヘッド103に固定された状態から、インジェクタ107を引き抜く、インジェクタ107の引き抜き方法の手順について、
図4を参照して簡単に説明する。まず前提として、
図4(a)に示すように、固定構造1がインジェクタ107と係合した状態で、インジェクタ固定ボルト5がシリンダヘッド103の壁部105にブラケット3を固定することで、インジェクタ107を壁部105に固定した状態であったとする。
【0049】
この状態では、まずインジェクタ固定ボルト5の固定ボルト側ボルト頭17をスパナ等の工具を用いて、壁部105に固定する際と逆向きに回転させて、ネジ部15を壁部105の壁部側ネジ孔113から取り外す。さらにネジ部15及びシャフト部13をブラケット側ネジ孔7から引き抜く。これにより、
図4(b)に示すようにインジェクタ固定ボルト5を壁部105及びブラケット3から取り外す。このインジェクタ固定ボルト5を取り外す工程をインジェクタ固定ボルト取り外し工程とも呼ぶ。
【0050】
次にブラケット側ネジ孔7と螺合するネジ径D6で、インジェクタ107の引き抜きに必要な全長Kで、インジェクタ107やシリンダヘッド103と干渉しない最大径D5の引き抜き側ボルト頭205の引き抜き用ボルト201を汎用品のボルトから選択する。次に
図4(c)に示すように、選択した引き抜き用ボルト201をブラケット側ネジ孔7に螺合させ、引き抜き側ボルト頭205をスパナ等の工具で回転させ、ボルト先端を壁部側ネジ孔113の周囲の壁部105と接触させZ1の向きに押圧する。これにより、
図4(d)に示すように、ブラケット3をインジェクタ107ごとZ1の向きと逆向きのZ2の向きに移動させる。最後に引き抜き用ボルト201の引き抜き側ボルト頭205をペンチで挟んでZ2の向きに引っ張る等してインジェクタ107をシリンダヘッド103の壁部105から引き抜く。
図4(c)及び
図4(d)に示す、インジェクタ107を引き抜く工程をインジェクタ引き抜き工程とも呼ぶ。以上がインジェクタ107の引き抜き方法の手順の説明である。
【0051】
このように本実施形態の固定構造1は壁部105とインジェクタ107を連結するブラケット3と、ブラケット3を貫通するブラケット側ネジ孔7と、ブラケット側ネジ孔7と螺合せずに挿通して壁部105と螺合するインジェクタ固定ボルト5を備える。
【0052】
この構成では、インジェクタ107を壁部105に固定する際はインジェクタ固定ボルト5をブラケット側ネジ孔7に螺合せずに挿通して壁部105に螺合する。インジェクタ107を壁部105から引き抜く時はインジェクタ固定ボルト5を取り外し、引き抜き用ボルト201をブラケット側ネジ孔7に螺合させて壁部105と接触させて押圧する。
【0053】
よって、固定構造1は、インジェクタ107の引き抜きに使用する工具が引き抜き用ボルト201のような汎用品のみなので、専用の工具を用いずにインジェクタ107をシリンダヘッド103の壁部105から引き抜ける。
【0054】
以上、実施形態に基づき本開示を説明したが本開示は実施形態に限定されない。当業者であれば本開示の技術思想の範囲内において各種変形例及び改良例に想到するのは当然のことであり、これらも当然に本開示に含まれる。
【0055】
例えば上記した実施形態では固定構造1として、シリンダヘッド103の壁部105にインジェクタ107を固定する構造を例示したが、固定構造1はこの構造に限定されない。固定構造1は内燃機関の燃料又は燃料が燃焼後の排ガスが流れる流路の壁部に形成された貫通孔に挿入されて流路内に先端が露出するインジェクタ107を壁部に固定する構造であればよい。例えば排ガスを浄化に適した空燃比に調整するため、排気管内に燃料を噴射する、いわゆる排気管噴射のために排気管に設けられるインジェクタ107を排気管の壁部に固定する構造にも本開示は適用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 :固定構造
3 :ブラケット
5 :インジェクタ固定ボルト
7 :ブラケット側ネジ孔
9 :係合部
9a、9b:アーム部
11 :ブラケット本体
12 :凸部
13 :シャフト部
14 :凸部
15 :ネジ部
17 :固定ボルト側ボルト頭
101 :燃焼室
103 :シリンダヘッド
103a :外壁
104a、104b :貫通孔
105 :壁部
107 :インジェクタ
109a、109b :横溝
111 :ネック部
113 :壁部側ネジ孔
201 :引き抜き用ボルト
205 :引き抜き側ボルト頭