(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023045534
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】補修材料、硬化性組成物セット及びコンクリート構造物の補修方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20230327BHJP
C04B 41/68 20060101ALI20230327BHJP
C04B 41/70 20060101ALI20230327BHJP
E21D 11/10 20060101ALN20230327BHJP
【FI】
E04G23/02 A
C04B41/68
C04B41/70
E21D11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154017
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】島田 昌紀
【テーマコード(参考)】
2D155
2E176
4G028
【Fターム(参考)】
2D155LA16
2E176AA01
2E176BB04
2E176BB15
4G028DA01
4G028DB06
4G028DB11
4G028DB14
4G028DC07
(57)【要約】
【課題】高湿度かつコンクリートが湿っているような環境においても十分な付着強度を発現可能な補修材料を提供すること。
【解決手段】補修材料10は、コンクリート構造物の補修に用いられる補修材料であって、硬化性組成物と、改質剤水溶液と、緻密化剤水溶液と、透液性の補修用基材4と、を備える。硬化性組成物は、珪酸ナトリウムを含む水溶液と、ポゾラン活性物質とを含む。改質剤水溶液は、2価以上の陽イオンと硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンとを含む。緻密化剤水溶液は、珪酸塩を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の補修に用いられる補修材料であって、
珪酸ナトリウムを含む水溶液と、ポゾラン活性物質とを含む硬化性組成物と、
2価以上の陽イオンと、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンとを含む改質剤水溶液と、
珪酸塩を含む緻密化剤水溶液と、
透液性の補修用基材と、を備えた、補修材料。
【請求項2】
前記珪酸塩を含む緻密化剤水溶液は、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、および珪酸カルシウムのいずれか1つを含む、請求項1に記載の補修材料。
【請求項3】
前記改質剤水溶液は、硝酸カルシウムを含む、請求項1又は2に記載の補修材料。
【請求項4】
前記ポゾラン活性物質は、電気伝導率差が0.4mS/cm以上である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の補修材料。
【請求項5】
前記珪酸ナトリウムを含む水溶液は、下記式で表される数値nが0.5~1.1である、請求項1~4のいずれか1項に記載の補修材料。
n=S/M
(S:水溶液に含まれるケイ素のモル数、M:水溶液に含まれるナトリウムのモル数)
【請求項6】
前記ポゾラン活性物質がメタカオリンである、
請求項1~5のいずれか1項に記載の補修材料。
【請求項7】
前記珪酸塩を含む緻密化剤水溶液は、珪酸塩の濃度が20重量%~60重量%である、請求項1~6のいずれか1項に記載の補修材料。
【請求項8】
前記補修用基材は、少なくとも二層のシート状部材の積層体からなり、
前記コンクリート構造物側から第一層及び第二層の順に配置され、
前記第一層は、マルチフィラメントが多軸メッシュ状に組み合わされており、
前記第二層は、引裂強度が2.0N以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の補修材料。
【請求項9】
前記硬化性組成物は、前記補修用基材に塗布または含侵され、
前記改質剤水溶液は、前記補修用基材に塗布または含侵された前記硬化性組成物に塗布され、
前記緻密化剤水溶液は、前記改質剤水溶液が塗布された前記硬化性組成物に塗布される、
請求項1~8のいずれか1項に記載の補修材料。
【請求項10】
コンクリート構造物の補修に用いられる硬化性組成物セットであって、
珪酸ナトリウムを含む水溶液と、ポゾラン活性物質とを含む硬化性組成物と、
2価以上の陽イオンと硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンとを含む改質剤水溶液と、
珪酸塩を含む緻密化剤水溶液と、を備えた、
硬化性組成物セット。
【請求項11】
珪酸ナトリウムを含む水溶液と、ポゾラン活性物質とを含む硬化性組成物を、透液性の補修用基材を有する補修用基材に含浸または塗布し、コンクリート構造物に貼付けて硬化させる第1工程と、
硬化した前記硬化性組成物の表面に、2価以上の陽イオンと硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンとを含む改質剤水溶液を塗工する第2工程と、
前記改質剤水溶液が指触乾燥した後の表面に、珪酸塩を含む緻密化剤水溶液を塗工する第3工程と、を含むことを特徴とするコンクリート構造物の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンクリート構造物の補修に用いられる補修材料、硬化性組成物セット、及びコンクリート構造物の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物は、高強度で施工性及び耐久性に優れ、安価であるというメリットがあるため、日本では高度成長期を中心に、多くのコンクリート建造物が作られてきた。その一方、コンクリート建造物は、長年の使用で膨張と収縮を繰り返すうちにヒビ割れが生じることがあり、ひび割れが進展することによってコンクリート片の落下が起こる恐れがある。
【0003】
このようなコンクリート構造物を補修する材料として、特許文献1には珪酸塩と高炉水砕スラグとを含む硬化性液状組成物が、特許文献2には珪酸塩とフライアッシュとを含む硬化性液状組成物が記載されている。また、特許文献3には珪酸塩とメタカオリンとを含む硬化性液状組成物とメッシュシート又は不織布等を組み合わせた種々の剥落防止用積層基材とさらにそれを改質することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-301638
【特許文献2】特開平8-301639
【特許文献3】特開2019-206896
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、珪酸塩水溶液とポゾラン活性物質を用いた硬化性組成物は、その結合が強固であるにもかかわらず、硬化物の中に残った珪酸塩水溶液由来の水が最終的には蒸散するため、気孔の多いポーラスな硬化物となってしまう。この気孔は高湿度環境においては空気中の水蒸気を吸着してしまうため、硬化物はその水分により可塑化することによって本来の強度を発現することができない。
【0006】
特許文献3の改質剤を用いることにより、未反応の珪酸塩と改質剤の反応硬化物によって気孔を埋め緻密化することはできるが、コンクリート構造物の中でもトンネルのようなコンクリート自体も湿っているような環境においては、十分な強度を発現することができなかった。
【0007】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高湿度かつコンクリートが湿っているような環境においても十分な付着強度を発現可能な補修材料、硬化性組成物セットおよびコンクリート構造物の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、第1の開示にかかる補修材料は、コンクリート構造物の補修に用いられる補修材料であって、硬化性組成物と、改質剤水溶液と、緻密化剤水溶液と、透液性の補修用基材と、を備える。硬化性組成物は、珪酸ナトリウムを含む水溶液と、ポゾラン活性物質とを含む。改質剤水溶液は、2価以上の陽イオンと硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンとを含む。緻密化剤水溶液は、珪酸塩を含む。
【0009】
このように改質剤水溶液を用いることによって、硬化性組成物に含まれる水分の蒸散が進みポーラスな硬化物となった場合でも、改質剤水溶液を硬化物に浸透させ、硬化物中に含まれる未反応の珪酸ナトリウムと反応させることにより、反応をさらに成長させることができる。さらに、緻密化剤水溶液を用いることによって、硬化性組成物に含まれる水分の蒸散が進みポーラスな硬化物となった場合でも、緻密化剤水溶液を硬化物に浸透させ、硬化剤組成物を表面から十分に深くまで緻密化することができる。
【0010】
このため、高湿度かつコンクリートが湿っているような環境においても十分な付着強度を発現することができる。
【0011】
第2の開示にかかる補修材料は、第1の開示にかかる補修材料であって、珪酸塩を含む緻密化剤水溶液は、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、および珪酸カルシウムのいずれか1つを含む。
緻密化剤水溶液として珪酸リチウムを用いることにより硬化物は耐水性を得ることができ、珪酸ナトリウムを用いることにより安価に緻密化を行うことができ、水溶液濃度を高くすることができる。珪酸カリウムを用いることにより、硬化物の緻密化をより効率的に進めることができる。
第3の開示にかかる補修材料は、第1または第2の開示にかかる補修材料であって、改質剤水溶液は、硝酸カルシウムを含む。
【0012】
このように硝酸カルシウムを用いることは、水への溶解度が高く、ナトリウム塩となった時の水への溶解度が高く、また、炭酸イオンの無害化の観点からも好ましい。
【0013】
第4の開示にかかる補修材料は、第1~3のいずれかの開示にかかる補修材料であって、ポゾラン活性物質は、電気伝導率差が0.4mS/cm以上である。
【0014】
これにより、珪酸ナトリウムを含む水溶液との反応性を十分に確保でき、補修材料とコンクリート構造物との接着強度を高めることができる。ここでの電気伝導率差は、アルカリ物質により誘発されるポゾラン活性物質の反応性に関連する指標であり、飽和水酸化カルシウム水溶液のポゾラン活性物質投入前後の電気伝導率の差を意味する。
【0015】
第5の開示にかかる補修材料は、第1~4のいずれかの開示にかかる補修材料であって、珪酸ナトリウムを含む水溶液は、下記式で表される数値nが0.5~1.1である。
【0016】
n=S/M
(S:水溶液に含まれるケイ素のモル数、M:水溶液に含まれるナトリウムのモル数)
これにより、珪酸ナトリウム水溶液はポゾラン活性物質の活性を十分に引き出すことができ反応性を十分に確保することができる。
【0017】
第6の開示にかかる補修材料は、第1~5のいずれかの開示にかかる補修材料であって、ポゾラン活性物質がメタカオリンである。
メタカオリンを用いることにより、珪酸ナトリウム水溶液との反応が早過ぎず十分な成形時間を確保することができ、また遅過ぎず十分な硬化性脳を発現することができる。
【0018】
第7の開示にかかる補修材料は、第1~6のいずれかの開示にかかる補修材料であって、珪酸塩を含む緻密化剤水溶液は、珪酸塩の濃度が20重量%~60重量%である。
このような緻密化剤の濃度範囲とすることにより、1回の塗工によってより緻密化することができる。
【0019】
第8の開示にかかる補修材料は、第1~7のいずれかの開示にかかる補修材料であって、補修用基材は、少なくとも二層のシート状部材を有する。コンクリート構造物側から第一層および第二層の順に配置されている。第一層は、マルチフィラメントが多軸メッシュ状に組み合わされている。第二層は、引裂強度が2.0N以上である。
【0020】
これによって、コンクリート片落下時等に、第二層は、第一層が第二層を破り出てくる際の抵抗力を高める補強層としての機能を果たすことができる。
【0021】
第9の開示にかかる補修材料は、第1~8のいずれかの開示にかかる補修材料であって、硬化性組成物は、補修用基材に含侵される。改質剤水溶液は、補修用基材に含侵された硬化性組成物に塗布される。緻密化剤水溶液は、改質剤水溶液が塗布された硬化性組成物に塗布される。
【0022】
これによって、硬化性樹脂組成物を含侵した補修用基材をコンクリート構造物に貼り付けることができ、さらに改質剤水溶液および緻密化剤水溶液を用いることによって、高湿度かつコンクリートが湿っているような環境においても十分な付着強度を発現することができる。
【0023】
第10の開示にかかるコンクリート構造物の補修に用いられる硬化性組成物セットであって、硬化性組成物と、改質剤水溶液と、緻密化剤水溶液と、を備える。硬化性組成物は、珪酸ナトリウムを含む水溶液と、ポゾラン活性物質とを含む。改質剤水溶液は、2価以上の陽イオンと硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンとを含む。緻密化剤水溶液は、珪酸塩を含む。
【0024】
このように改質剤水溶液を用いることによって、硬化性組成物に含まれる水分の蒸散が進みポーラスな硬化物となった場合でも、改質剤水溶液を硬化物に浸透させ、硬化物中に含まれる未反応の珪酸ナトリウムと反応させることにより、反応をさらに成長させることができる。さらに、緻密化剤水溶液を用いることによって、硬化性組成物に含まれる水分の蒸散が進みポーラスな硬化物となった場合でも、緻密化剤水溶液を硬化物に浸透させ、硬化剤組成物を表面から十分に深くまで緻密化することができる。
【0025】
このため、高湿度かつコンクリートが湿っているような環境においても十分な付着強度を発現することができる。
【0026】
第11の開示にかかるコンクリート構造物の補修方法は、第1工程と、第2工程と、第3工程と、を備える。第1工程は、珪酸ナトリウムを含む水溶液と、ポゾラン活性物質とを含む硬化性組成物を、透液性の補修用基材に含浸または塗布し、コンクリート構造物に貼付けて硬化させる。第2工程は、硬化した硬化性組成物の表面に、2価以上の陽イオンと硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンとを含む改質剤水溶液を塗工する。第3工程は、改質剤水溶液が指触乾燥した後の表面に、珪酸塩を含む緻密化剤水溶液を塗工する。
【0027】
このように改質剤水溶液を用いることによって、硬化性組成物に含まれる水分の蒸散が進みポーラスな硬化物となった場合でも、改質剤水溶液を硬化物に浸透させ、硬化物中に含まれる未反応の珪酸ナトリウムと反応させることにより、反応をさらに成長させることができる。さらに、緻密化剤水溶液を用いることによって、硬化性組成物に含まれる水分の蒸散が進みポーラスな硬化物となった場合でも、緻密化剤水溶液を硬化物に浸透させ、硬化剤組成物を表面から十分に深くまで緻密化することができる。
【0028】
このため、高湿度かつコンクリートが湿っているような環境においても十分な付着強度を発現することができる。
【発明の効果】
【0029】
本開示によれば、高湿度かつコンクリートが湿っているような環境においても十分な付着強度を発現可能な補修材料、硬化性組成物セットおよびコンクリート構造物の補修方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本開示のコンクリート構造物の補修材料(二層構造)を用いたコンクリート構造物の補修形態の一例を示す模式的な断面図である。
【
図2】本開示のコンクリート構造物の補修材料(三層構造)を用いたコンクリート構造物の補修形態の一例を示す模式的な断面図である。
【
図3】本開示のコンクリート構造物の補修方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
〔コンクリート構造物の補修材料〕
本開示のコンクリート構造物の補修材料は、既設のコンクリート構造物の補修に用いられるものである。
【0032】
補修材料は、主として珪酸ナトリウム水溶液とポゾラン活性物質とを含む硬化性組成物からなる第1材料と、改質剤水溶液からなる第2材料と、珪酸塩を含む緻密化剤水溶液からなる第3材料と補修用基材とを含む。第2材料の改質剤水溶液は、通常、第1材料の硬化性組成物の硬化物の表面に塗工して用いることが好ましい。第3材料の緻密化剤水溶液は、通常、第2材料が指触乾燥したのちに、第2材料が塗工された硬化性組成物の硬化物の表面に塗工して用いることが好ましい。
【0033】
(第1材料:硬化性組成物)
第1材料とは、珪酸ナトリウムを含む水溶液と、ポゾラン活性物質とを含む硬化性組成物(以下、「ジオポリマー」という場合がある)である。第1材料を構成する硬化性組成物は、通常、液状の組成物として調製されている。
【0034】
珪酸ナトリウムは、コンクリート構造物の表面に塗布及び/又は含浸されたときに、コンクリート中の水酸化カルシウムとC-S-Hゲルを生成することができるため、補修材料又は硬化性組成物とコンクリート構造物との接着強度をより強固にすることができる。
【0035】
ジオポリマーは、珪酸ナトリウム水溶液からなる液体成分とポゾラン活性物質からなる固体成分との比重差が、セメントスラリーに含まれる水とセメントとの比重差に比べて小さいため、硬化性組成物における成分の分離を抑制することができる。
【0036】
硬化性組成物、つまり、ジオポリマーにおいて、珪酸ナトリウム水溶液に由来するナトリウムは、その合計含有率が、硬化性組成物から得られる硬化物の乾燥固形分に対し、Na2Oに換算して、5重量%~30重量%であることが好ましく、10重量%~30重量%であることがより好ましい。
【0037】
また、硬化性組成物は、珪酸ナトリウムを含む水溶液の下記数式で表される数値nが0.4~1.1であるものが好ましく、0.5~1.1であるものがより好ましく、0.5~1.0であるものがさらに好ましい。
【0038】
n=S/M
(S:水溶液に含まれるケイ素のモル数、M:水溶液に含まれるアルカリ金属のモル数)
【0039】
これにより、珪酸ナトリウム水溶液はポゾラン活性物質の活性を十分に引き出すことができ反応性を十分に確保することができる。
【0040】
ポゾラン活性物質とは、水と、酸化カルシウム、水酸化カルシウム又は水酸化アルミニウム等とが反応することにより硬化する物質であり、例えば、シリカダスト、珪藻土、タルク、アエロジル、ホワイトカーボン、カオリン、メタカオリン、活性白土、酸性白土等が挙げられる。なかでも、メタカオリンが好ましい。
【0041】
ポゾラン活性物質は、通常、ポゾラン活性物質に由来するシリカの含有率が、硬化物の乾燥固形分に対し、SiO2に換算して、40重量%以上であるものが好ましい。
【0042】
また、ポゾラン活性物質に由来するアルミニウムの含有率は、硬化物の乾燥固形分に対し、Al2O3に換算して、20重量%~40重量%であることが好ましく、25重量%~35重量%であることがより好ましい。
【0043】
ポゾラン活性物質は、電気伝導率差0.4mS/cm以上であるものが好ましく、0.5mS/cm以上、0.6mS/cm以上又は0.7mS/cm以上であるものがより好ましく、0.8mS/cm以上、1.0mS/cm以上、1.2mS/cm以上であるものがさらに好ましい。このような電気伝導率差とすることにより、珪酸ナトリウム水溶液との反応性を十分に確保でき、補修材料とコンクリート構造物との接着強度を高めることができる。ここでの電気伝導率差は、アルカリ物質により誘発されるポゾラン活性物質の反応性に関連する指標であり、後述する評価方法により得られる飽和水酸化カルシウム水溶液のポゾラン活性物質投入前後の電気伝導率の差を意味する。
【0044】
ポゾラン活性物質は、通常、塊又は粉末状であるが、塊状又は粉末状のものをそのまま用いてもよい。また、活性化させるために、溶射処理、粉砕分級、機械的エネルギーの作用等の方法を用いて、その状態を変化させたものを用いてもよい。
【0045】
溶射処理する方法としては、セラミックコーティングに適用される溶射技術が応用される。溶射技術は、例えば、プラズマ溶射法、高エネルギーガス溶射法、アーク溶射法等が挙げられる。好ましくは、材料粉末を2000℃~16000℃の温度で溶融し、30m/秒~800m/秒の速度で噴霧し、比表面積が0.1m2/g~100m2/gの粉末とすることが好ましい。
【0046】
粉砕分級する方法としては公知の任意の方法が採用できる。粉砕は、ジェットミル、ロールミル、ボールミル等を用いる方法が挙げられる。また、分級は、篩、比重、風力、湿式沈降等を用いる方法が挙げられる。これらの手段は任意に併用することができる。
【0047】
機械的エネルギーを作用させる方法としては、ボール媒体ミル、媒体撹拌型ミル、ローラーミル等を用いる方法が挙げられる。作用させる機械的エネルギーは、適度に活性化しつつ、負荷を最小限とするために、0.5kwh/kg~30kwh/kgが好ましい。
【0048】
(その他の成分)
硬化性組成物は、上記成分に加えて、特開2017-186825号、特開2017-226955号等に開示された成分及び当該分野で公知の添加剤等を含んでいてもよい。例えば、フィラー、分散剤、硬化時間調整剤、顔料、酸化防止剤、ポリマーエマルション等が挙げられる。これらは特に限定されず、公知のものを利用することができる。フィラーとしては、一般に充填剤として使用されるもののいずれであってもよい。例えば、カーボン、セルロース、鉱物質微粉末、合成された無機質結晶粉末などが挙げられる。ポリマーエマルションとしては、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム又はこれらの混合物等が挙げられる。これらの添加剤は、硬化性組成物の意図する作用を損なわない範囲において、任意の含有量で用いることができる。特に、ポリマーエマルションは、硬化物の乾燥固形分に対して、固形分重量が3重量%~10重量%となるように配合されていることが好ましい。これにより、硬化性組成物の流動性を向上し、硬化物の接着強度を向上し、硬化物の乾燥収縮を抑制することができる。
【0049】
このような硬化性組成物は、25℃での粘度が400mPa・s~3000mPa・sであるものが好ましい。このような粘度とすることにより、補修用基材を使用する場合の含浸性を確保することができる。また、コンクリート構造物に貼着した際の硬化性組成物の液だれを防止することができる。
【0050】
(第2材料:改質剤水溶液)
第2材料とは、改質剤水溶液である。改質剤水溶液は、2価以上の陽イオンと硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンとを含む。第2材料である改質剤水溶液は、硬化性組成物に対して塗工されるものである。
【0051】
また、硬化物は、完全に硬化した硬化物のみならず、硬化反応が生じた後の硬化物であれば、その程度は特に限定されることなく、塗工することができる。なかでも、硬化性組成物の硬化物の表面含水率が8%を下回ってから行うことが好ましい。別の観点から、硬化性組成物の硬化直後から7日以内に行うことが好ましく、30分~24時間後に行うことがさらに好ましい。このような改質剤水溶液を塗工することにより、硬化性組成物に含まれる水分の蒸散が十分に進み、改質剤水溶液を十分に浸透させることができる。
【0052】
改質剤水溶液に含まれる改質剤としては、2価以上の陽イオンと、硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンとが挙げられる。
【0053】
2価以上の陽イオンとしては、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等が挙げられる。
【0054】
2価以上の陽イオンと硝酸イオン及び/又は亜硝酸イオンとを含む改質剤は、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、亜硝酸カルシウム等が挙げられる。これらの化合物を水溶液とすることにより、これらのイオンを供給することができる。なかでも、水への溶解度、ナトリウム塩となった時の水への溶解度、炭酸イオンの無害化の観点から硝酸カルシウムが特に望ましい。
【0055】
改質剤水溶液は、改質剤の濃度が20重量%~60重量%であることが好ましい。改質剤水溶液を110℃で乾燥すると、改質剤が、水和物結晶として析出することがあるが、130℃で乾燥することにより、結晶水を揮発させることができる。従って、ここでの改質剤の濃度は、改質剤を構成する物質が結晶水を含まない状態での濃度を示す。
【0056】
改質剤水溶液を、硬化性組成物に塗工することによって、硬化性組成物の硬化物中に含まれる未反応の珪酸ナトリウムが、改質剤と反応硬化するだけでなく、硝酸ナトリウム及び/又は亜硝酸ナトリウムを生成し、内部破壊の原因となる炭酸ナトリウムの発生を防止することができる。特に、上述した改質剤の濃度範囲とすることにより、1回の塗工によって、未反応の珪酸ナトリウムを簡便かつ十分に反応させることができ、内部破壊などを有効に防止することができる。
【0057】
また、硝酸ナトリウムおよび亜硝酸ナトリウムは水への溶解度が高いため、乾燥しても析出しにくく、白亜化の原因となる炭酸ナトリウムの濃縮を抑制することができる。
【0058】
さらに、塗工前に既に発生している炭酸ナトリウムは2価以上の陽イオンと反応して炭酸塩の不溶物を形成し、内部破壊及び白亜化に対して無害な物質となる。
【0059】
硬化性組成物セットにおける第1材料と第2材料との量は、用いる水溶液の濃度、成分の種類、他の成分の有無等によって適宜調整することができる。例えば、第1材料による硬化性組成物の硬化物の表面に第2材料による改質剤水溶液を塗工して用いることから、硬化した硬化性組成物の表面積に対し、20g/m2~250g/m2塗布し得る量で、両者の量を組み合わせることが好ましい。このような量での範囲で塗工することにより、未反応の珪酸ナトリウムを簡便かつ十分に反応させることができ、内部破壊などを有効に防止することができる。
【0060】
(第3材料:緻密化剤水溶液)
第3材料とは、緻密化剤水溶液である。緻密化剤水溶液は、第2材料に含まれる2価以上の陽イオンと反応することができる珪酸塩を含む。第3材料である緻密化剤水溶液は、第2材料が指触乾燥した後の表面に、硬化性組成物に対して塗工されるものである。なかでも、硬化性組成物の硬化物の表面含水率が8%を下回ってから行うことが好ましい。別の観点から、第1材料への第2材料の塗工直後から7日以内に行うことが好ましく、30分~24時間後に行うことがさらに好ましい。このように緻密化剤水溶液を塗工することにより、硬化性組成物に含まれる水分の蒸散が十分に進み、緻密化剤水溶液を十分に浸透させ、硬化性組成物を表面から深くまで緻密化することができる。
【0061】
緻密化剤水溶液に含まれる緻密化剤としては、珪酸塩が挙げられる。珪酸塩としては、珪酸リチウム、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム等が挙げられる。なかでも、経済性の観点から珪酸ナトリウムが特に望ましい。
【0062】
緻密化剤水溶液に含まれる珪酸塩の濃度は、20重量%~60重量%であることが好ましい。珪酸塩水溶液を110℃で乾燥すると、珪酸塩が水和物結晶として析出することがあるが、130℃で乾燥することにより、結晶水を揮発させることができる。従って、ここでの緻密化剤の濃度は、緻密化剤を構成する物質が結晶水を含まない状態での濃度を示す。
【0063】
緻密化剤水溶液を、第2材料の改質剤を塗工した硬化性組成物に塗工することによって、緻密化剤が第2材料に含まれる2価以上の陽イオンと反応し、硬化性組成物を緻密化することができる。特に、上述した緻密化剤の濃度範囲とすることにより、1回の塗工によってより緻密化することができる。
【0064】
硬化性組成物セットにおける第1材料と第2材料と第3材料の量は、用いる水溶液の濃度、成分の種類、他の成分の有無等によって適宜調整することができる。例えば、第1材料による硬化性組成物の硬化物の表面に第2材料、第3材料を塗工して用いることから、硬化した硬化性組成物の表面積に対し、20g/m2~250g/m2塗布し得る量で、両者の量を組み合わせることが好ましい。このような量での範囲で塗工することにより、硬化性組成物の十分な緻密化を進めることができ、高湿度かつコンクリートが湿っているような環境においても、十分な強度を発現することができる。
【0065】
(補修用基材)
補修用基材は、透液性のシート状部材である。シート部材は、少なくとも二層を積層して構成されるものが好ましい。
【0066】
例えば、
図1に示すように、補修用基材4は、コンクリート構造物5側から第一層1及び第二層2がこの順に積層されたものである。補修用基材4に後述する第1材料を含侵させ、第2材料を塗工し、更に第3材料を塗工したものを補修材料10として示す。
図1では、コンクリート構造物5の表面5aに第一層1が配置されており、第二層2が、第一層1のコンクリート構造物5とは反対側の表面に配置されている。
【0067】
(第一層)
第一層1は、マルチフィラメントを多軸メッシュ状に組み合わせたシート状部材であることが好ましい。マルチフィラメントは、長繊維を利用して構成されたものが好ましく、引張強度150N以上のものが好ましい。マルチフィラメントを多軸メッシュ状に組み合わせたシート状部材の式(1)で表される値Xは1.5以上であることが好ましく、2.0以上、2.8以上又は3.0以上であることがより好ましい。
【0068】
X=A×B (1)
ここで、Aは上記シート状部材の1方向の引張強度kN/50mmを表し、Bは上記シート状部材の軸数を表す。Aは、マルチフィラメントの50mm当たりの本数を変えることにより任意の値をとることができる。Bは、2~4の範囲を有するものが挙げられる。なかでも、Aは、0.75kN以上であることが好ましく、Bは2~3であるものが好ましい。
【0069】
このような第一層1により、コンクリート構造物から落下するコンクリート片を受け止める耐力層としての機能を満たすことができる。
【0070】
第一層1の材質としてはポリエステル、ポリオレフィン、ビニロン、アラミド、炭素繊維、ガラス繊維等が挙げられる。なかでも、ビニロンメッシュシート又はガラスメッシュシートからなることが好ましい。ガラス繊維は、ガラスヤーン又はロービングを用いることが好ましい。ガラスヤーンは、ガラス繊維に撚りをかけて合撚糸としたものであり、ロービングは、ガラス繊維を集束したものである。多軸メッシュの織り方は、平織り、綾織り、絡み織り、組布等が挙げられる。多軸メッシュの織り方の方向は、直交する二軸又はそれ以上の多軸織物であってもよい。
【0071】
第一層1の厚みは、0.1mm以上1.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以上1mm以下がより好ましい。
【0072】
第一層1は、50g/m2以上の目付量であることが好ましく、60g/m2以上であることがより好ましく、75g/m2以上であることがさらに好ましい。このような目付量の範囲とすることにより、引張強度を向上させて、コンクリート片剥落時に破断を生じさせることなく、補修材料の十分な耐力を確保することができる。
【0073】
第一層1は、5mm以上25mm以下の目開きの二軸織物であることが好ましい。目開きをこの範囲とすることにより、後述する第二層2とコンクリート構造物5との接着力又は第二層2と第三層3(後述する)との接着力を向上させ、補修材料の十分な強度を確保することができる。また、第一層1の単位面積当たりの長繊維本数を適度な数として、第一層1が第二層2を破り出てくる際の抵抗力を高め、補修材料の十分な強度を確保することができる。
【0074】
第一層1は、5mm以上25mm以下の目開きで、50g/m2以上の目付量の二軸織物であることがより好ましい。また、二軸織物と同等の開口率の多軸織物であってもよい。特に、引張強度150N以上のマルチフィラメントを、目開き5mm~25mmで組み合わせた二軸又は三軸メッシュのシート状部材であることがより好ましい。
【0075】
(第二層2)
第二層2は、透液性のシート状部材である。また、第二層2の引裂強度は2.0N以上であることが好ましい。引裂強度を2.0N以上とすることにより、第二層2は、第一層1が第二層2を破り出てくる際の抵抗力を高める補強層としての機能を満たすことができる。
【0076】
第二層2の形状としては、織布、不織布等が挙げられる。第二層2の材質としてはポリエステル、ポリオレフィン、ビニロン、アラミド、炭素繊維、ガラス繊維等が挙げられる。なかでも、ポリプロピレン不織布又はガラス不織布で構成されることが好ましく、特に、長繊維不織布であることがより好ましい。ガラス不織布は、硬化性組成物との相溶性に優れるため、硬化性組成物が浸透しやすく、硬化性組成物を硬化させたときに補修材料をコンクリート構造物に強固に固着させることができる。好適なガラス不織布として、チョップドストランドマット、ガラスペーパー、フェルト等が挙げられる。
【0077】
ポリプロピレン不織布を用いる場合は、硬化性組成物との相溶性を高めるため、繊維に親水化処理を行うこともできる。親水化処理は、当該分野で公知の方法のいずれを利用してもよい。
【0078】
第二層2の厚みは、0.1mm以上1.5mm以下であることが好ましく、0.15mm以上0.8mm以下であることがより好ましい。このような厚みの範囲とすることにより、第一層1が第二層2を破り出てくる際の抵抗力を高める補強層としての機能を満たすとともに、硬化性組成物の補修用基材への含浸量を抑えることができ、経済的にも有利である。
【0079】
(第三層等)
補修用基材が、三層以上の構造の場合、第一層がコンクリート構造物側、第二層がその外側に配置されるのであれば、第三層目以上の層が、どこに何層配置されていてもよい。このような積層構造により、補修材料の強度とコンクリート構造物への密着性を両立することができる。これらの第三層目以上の層は、上述した第一層及び第二層のなかから選択してもよいし、当該分野で使用されるどのような層であってもよい。使い易さ、経済性等を考慮すると、2層構造、3層構造が好ましい。
【0080】
図2は、3層の補強用基材4´を有する補強材料10´を示す図である。
図2に示す補強用基材4´では、第三層3が、第一層1とコンクリート構造物5の表面5aとの間に配置されている。
【0081】
(積層一体化)
補修用基材が、二層以上のシート状部材を積層して構成される場合、補修用基材は、硬化性組成物を含浸することにより一体化してもよいが、予め一体化させておくことが好ましい。一体化させておくことにより、塗布含浸時の各シート部材のズレを防ぐことができる。
【0082】
一体化の方法は、機械的な繊維交絡、化学的な接着等を利用することができ、例えば、縮絨、ニードルパンチ、ケミカルボンド、サーマルボンド、水流交絡、ステッチボンド等が挙げられる。
【0083】
〔コンクリート構造物の補修方法〕
本願のコンクリート構造物の補修方法は、上述した補修材料、つまり、第1材料、第2材料、第3材料及び補修用基材を準備し、第1材料の硬化性組成物を補修用基材に含浸させてコンクリート構造物に貼付し、得られた補修用基材に対し、第2材料の改質剤水溶液、および第3材料の緻密化剤水溶液を塗工することを含む。
【0084】
図3は、本開示にかかるコンクリート構造物の補修方法を示すフロー図である。
【0085】
(準備工程)
はじめに、ステップS10において、第1材料、第2材料、第3材料、および補修用基材、を準備する。
【0086】
補修材料を準備する場合、第1材料、第2材料、第3材料、および補修用基材は、それぞれ別個に存在させてもよいが、補修の際に、後述するように第1材料、つまり、硬化性組成物を補修用基材に含浸させた状態とすることが好ましい。
【0087】
(含浸工程)
次に、ステップS20において、第1材料である硬化性組成物を、補修用基材に塗布及び/又は含浸させる。補修用基材を形成してから硬化性組成物を含浸させてもよいし、硬化性組成物を含浸させてから補修用基材を形成してもよいし、補修用基材を形成しながら硬化性組成物を含浸させてもよい。また、補修用基材を対象のコンクリート構造物に貼り付ける前後のいずれに硬化性組成物を含浸させてもよい。
【0088】
硬化性組成物を含浸させる方法としては、例えば、(1)ローラーを使って手作業で塗布含浸を行うハンドレイアップ法、(2)スプレーにより塗布含浸する方法、(3)金型により補修用基材の厚みを規定した後に、圧入によって硬化性組成物を補修用基材に塗布含浸させる方法、(4)減圧により補修用基材の厚みを規定した後、減圧注入によって硬化性組成物を補修用基材に含浸させる方法、(5)補修用基材を硬化性組成物に浸漬し、補修用基材に硬化性組成物を連続的に含浸させた後に、ロールによって補修用基材の厚みを規定する方法、(6)ロール転写により連続的に塗布含浸を行う方法等が挙げられる。これらは組み合わせて利用してもよい。
【0089】
含浸時の作業性を上げるため、また含浸シートへのゴミの付着及び含浸シート同士の付着を防止するため、補修用基材の表裏面を樹脂製の保護フィルムでカバーしてもよい。この保護フィルムはコンクリート構造物に貼り付ける際に除去すればよい。
【0090】
(貼付工程)
次に、ステップS30において、第1材料である硬化性組成物が含浸された補修用基材を、コンクリート構造物に貼り付ける。この際、硬化性組成物が含浸された補修用基材とコンクリート構造物の表面との間に入り込んだ気泡を取り除くことは、コンクリート構造物の表面との密着性を高めるために重要である。気泡除去の方法としては、ローラー又は金鏝等を使って気泡を外側に追い出すことが好ましい。
【0091】
含浸工程と貼付工程とはそれぞれ別個に行ってもよいし、同時に行ってもよい。
【0092】
(硬化工程)
次に、ステップS40において、補修用基材に含浸された第1材料である硬化性組成物の硬化が、コンクリート構造物に密着させた状態で行われる。コンクリート構造物の表面に、硬化性組成物を含浸させる時間を確保するという観点から、硬化性組成物の硬化時間は15分間~300分間であることが好ましく、30分間~240分間がより好ましい。硬化時間は、珪酸ナトリウムの含有率等によって、また、含まれる水分量、他の成分の量等によって、さらに、ポゾラン活性物質の電気伝導率差、アルミニウムの含有率等によって、適宜調整することができる。
【0093】
硬化性組成物の硬化が完了すると、コンクリート構造物に硬化性組成物が含浸された補修用基材を固着させることができる。なお、上述したステップS20、S30、S40が、第1工程の一例に対応する。
【0094】
(改質剤水溶液の塗工)
次に、ステップS50において、第2材料である改質剤水溶液が、硬化性組成物に塗布される。改質剤水溶液を、コンクリート構造物に、硬化性組成物が含浸された補修用基材を密着させた状態で塗工することが好ましい。改質剤水溶液は、硬化性組成物に混合すると、その直後に硬化性組成物が硬化することから、硬化性組成物の硬化表面に塗工することが適している。そのタイミングは、硬化前、中又は後のいずれでもよく、硬化性組成物の硬化が進行した直後から、完全に硬化した後において塗工してもよい。特に、改質剤水溶液の硬化性組成物の硬化物又は補修用基材へ含浸性の観点から、硬化性組成物の硬化が進み、表面含水率が8%を下回ってから行うことが好ましい。また別の観点からは、硬化性組成物の作製直後から7日以内に行うことが好ましく、30分~24時間後に行うことがさらに好ましい。このような改質剤水溶液を塗工することにより、硬化性組成物に含まれる水分の蒸散が十分に進み、改質剤水溶液を十分に浸透させることができる。
【0095】
塗工の方法は、一般的な方法を用いることができ、刷毛、ローラー、スプレーガン等が挙げられる。
【0096】
硬化した硬化性組成物への改質剤水溶液の塗工は、硬化した硬化性組成物全体にわたって均一に行うことが好ましい。
【0097】
改質剤水溶液の塗布量は、硬化した硬化性組成物の表面積に対し、20g/m2~250g/m2であることが好ましく、30g/m2~150g/m2であることがより好ましい。
【0098】
なお、ステップS50が、第2工程の一例に対応する。
【0099】
(緻密化剤水溶液の塗工)
次に、ステップS60において、第3材料である緻密化剤水溶液が、ステップS50の塗布工程後の硬化性組成物に塗布される。緻密化剤水溶液を、改質剤水溶液と同様に、コンクリート構造物に、硬化性組成物が含浸された補修用基材を密着させた状態で塗工することが好ましい。緻密化剤水溶液は、改質剤水溶液に混合すると、その直後に改質剤と反応硬化することから、改質剤水溶液が塗工された硬化性組成物の硬化表面に塗工することが適している。そのタイミングは、改質剤水溶液を塗工した直後から、完全に乾燥した後において塗工してもよい。改質剤水溶液が指触乾燥した状態で、緻密化剤水溶液が塗布されてもよい。指触乾燥は、指先で接触しても塗布した材料が指につかない状態を示す。
特に、緻密化剤水溶液の硬化性組成物の硬化物又は補修用基材へ含浸性の観点から、改質剤水溶液が充分に乾燥し、硬化性組成物の表面含水率が8%を下回ってから行うことが好ましい。また別の観点からは、改質剤水溶液の塗工直後から7日以内に行うことが好ましく、30分~24時間後に行うことがさらに好ましい。
【0100】
このように緻密化剤水溶液を塗工することにより、硬化性組成物に含まれる水分の蒸散が十分に進み、緻密化剤水溶液を十分に浸透させ、硬化剤組成物を表面から深くまで緻密化することができる。
【0101】
塗工の方法は、一般的な方法を用いることができ、刷毛、ローラー、スプレーガン等が挙げられる。
【0102】
硬化した硬化性組成物への改質剤水溶液の塗工は、硬化した硬化性組成物全体にわたって均一に行うことが好ましい。
【0103】
改質剤水溶液の塗布量は、硬化した硬化性組成物の表面積に対し、20g/m2~250g/m2であることが好ましく、30g/m2~150g/m2であることがより好ましい。
【0104】
なお、ステップS60が、第3工程の一例に対応する。
【0105】
以下、本開示のコンクリート構造物の補修材料及びコンクリート構造物の補修方法を、実施例を挙げてより詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。
【0106】
(実施例1)
JIS K 1408で規定する3号珪酸ナトリウム水溶液100gへ15重量%水酸化ナトリウム水溶液78gを加えて調整した珪酸ナトリウムを含む水溶液(n=0.8)に、その他成分のポリマーエマルションとしてスチレンブタジエンゴムエマルション(日本ゼオン株式会社製 商品名:LX407 F43、)20gを加え24時間撹拌し、その他成分を含む珪酸ナトリウムを含む水溶液を得た。
【0107】
上記水溶液に、ポゾラン活性物質としてメタカオリン140g(BASF社製 商品名:SP-33 電気伝導率差0.8mS/cm)、JIS A 6206で規定する高炉スラグ微粉末80g(日鉄住金セメント株式会社製 商品名:エスメント)を混合することにより、第1材料の硬化性組成物を調製した。
【0108】
また、第2材料の改質剤水溶液として、45重量%の濃度の硝酸カルシウム水溶液を調製した。
【0109】
また、第3材料の緻密化剤水溶液として、JIS K 1408で規定する3号珪酸ナトリウム水溶液100gへ15重量%水酸化ナトリウム水溶液78gを加えて珪酸ナトリウム水溶液(珪酸塩濃度28重量%)を調製した。
【0110】
また、引張強度200Nのビニロンマルチフィラメントからなる3軸メッシュシート(目付量60g/m
2、目開き13mm、厚み0.35mm、X=2.0)を第一層1、親水化ポリプロピレンスパンボンド不織布(目付量30g/m2、厚み0.2mm、引裂強度16N)を第二層2、ガラス不織布(目付量25g/m
2、厚み0.2mm)を第三層3として積層し、3層のシート状部材を積層した補修用基材を作製した(
図2参照)。
作製した補修用基材300mm×300mmに、第1材料である硬化性組成物110gを含浸させることにより、硬化性組成物が含浸された補修用基材を作製した。
【0111】
硬化性組成物の補修用基材への含浸は、前日より蓋つき樹脂製容器の中において、水道水に半浸漬することで状態調整されたJIS A 5371で規定するコンクリート普通平板(300×300×60mm)の上で行い、硬化性組成物の含浸とコンクリートへの貼り付けを同時に行った。
【0112】
標準条件(温度23℃、相対湿度50%)下で18時間硬化後に、第2材料の改質剤水溶液として、濃度45重量%の硝酸カルシウム水溶液7.2g(80g/m2)を表面にローラー塗工し、さらに24時間後に第3材料の緻密化剤水溶液として珪酸塩濃度27重量%の珪酸ナトリウム水溶液8.1g(90g/m2)をローラー塗工し、半浸漬のまま蓋を閉め7日間養生してコンクリート構造物の補修材料を得た。
【0113】
(実施例2)
第3材料の緻密化剤水溶液として、JIS K 1408で規定する3号珪酸ナトリウム水溶液(珪酸塩濃度37~40重量%)を使用したこと以外は実施例1と同様にしてコンクリート構造物の補修材料を得た。
【0114】
(実施例3)
第3材料の緻密化剤水溶液として、珪酸カリウム水溶液(日本化学工業株式会社製 商品名:1K珪酸カリ、珪酸塩濃度48.5~52重量%)を使用したこと以外は実施例1と同様にしてコンクリート構造物の補修材料を得た。
【0115】
(実施例4)
第3材料の緻密化剤水溶液として、珪酸リチウム水溶液(日本化学工業株式会社製 商品名:珪酸リチウム35、珪酸塩濃度22.8~25.1重量%)としたこと以外は実施例1と同様にしてコンクリート構造物の補修材料を得た。
【0116】
(比較例1)
第3材料の緻密化剤水溶液を使用しなかったこと以外は実施例1と同様にしてコンクリート構造物の補修材料を得た。
【0117】
(電気伝導率差)
ポゾラン活性物質について『Cement Concrete Research, Vol.19, pp.63-68, 1989』に従い、40±1℃の条件で、Ca(OH)2飽和水溶液200mlの電気伝導率を測定した。続いて、メタカオリン5gを投入し、攪拌して2分後の電気伝導率を測定し、投入前の電気伝導率との差を電気伝導率差とした。実施例1におけるポゾラン活性物質の電気伝導率差は、上述したように0.8mS/cmであり、実施例2~4および比較例1におけるポゾラン活性物質の電気伝導率差も、実施例1と同様に0.8mS/cmである。
【0118】
(付着強度)
実施例1~4及び比較例1で得られたコンクリート構造物の補修材料を貼り付けたコンクリート普通平板の、補修材料付着力を建研式簡易引張試験機にて測定した。
【0119】
これらの結果を表1および表2に示す。付着強度の判定には、一般的な剥落防止材料として必要とされる付着強度1.0N/mm2を用いた。
【0120】
【0121】
上記(表1)および(表2)より、緻密化剤水溶液を用いることによって、1.0N/mm2以上の付着強度を発現可能なことがわかる。
【符号の説明】
【0122】
1 第一層
2 第二層
3 第三層
4、4´ 補修用基材
5 コンクリート構造物
5a 表面
10、10´ 補修材料