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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046016
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】内燃機関用ピストン
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/00 20060101AFI20230327BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20230327BHJP
   F01M 1/08 20060101ALN20230327BHJP
【FI】
F02F3/00 P
F01M1/06 C
F01M1/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021154684
(22)【出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村松 恵治
【テーマコード(参考)】
3G313
【Fターム(参考)】
3G313BA02
3G313BC03
3G313BD32
3G313FA06
(57)【要約】
【課題】オイルを効率的に利用でき、かつ重量増加を抑制できる内燃機関用ピストンを提供する。
【解決手段】ピストン6は、環状のオイルリング溝35を有するピストンヘッド31と、一対のピストンスカート32と、一対のピストンスカート32に繋がるサイドウォール33と、を備えている。ピストン6は、ピストンヘッド31の下面31c、ピストンスカート32の内面32b、およびサイドウォール33の内面33bに囲まれるピストン内部空間51と、オイル戻し通路41、42と、を有している。オイル戻し通路41、42は、ピストンスカート32に隣接し、かつオイルリング溝35内に開口する第1開口44、45と、サイドウォール33の外面33aに開口する第2開口65、66と、第1開口44、45と第2開口65、66の間を繋ぐ流路61、62と、を含んでいる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に設けられた環状のオイルリング溝を有するピストンヘッドと、
前記ピストンヘッドから延びる一対のピストンスカートと、
前記ピストンヘッドから延びて前記一対のピストンスカートに繋がるサイドウォールと、を備え、
前記ピストンヘッドの下面、前記ピストンスカートの内面、および前記サイドウォールの内面に囲まれる内部空間と、
前記ピストンスカートに隣接し、かつ前記オイルリング溝内に開口する第1開口と、前記サイドウォールの外面に開口する第2開口と、前記第1開口と前記第2開口の間を繋ぐ流路と、を含み、前記内部空間から離隔する少なくとも1つのオイル戻し通路と、を有する内燃機関用ピストン。
【請求項2】
前記少なくとも一つのオイル戻し通路は、個別に独立する前記流路を有する複数の前記オイル戻し通路を含む請求項1に記載の内燃機関用ピストン。
【請求項3】
前記流路の一端は、前記オイルリング溝の上および下の少なくとも一方に配置され、前記オイルリング溝に繋がる請求項1または2のいずれか一つに記載の内燃機関用ピストン。
【請求項4】
少なくとも一つの前記オイル戻し通路は、正スラスト方向側に設けられ、
前記オイル戻し通路の前記流路の一端は、前記オイルリング溝の下部に繋がる請求項3に記載の内燃機関用ピストン。
【請求項5】
少なくとも一つの前記オイル戻し通路は、反スラスト方向側に設けられ、
前記オイル戻し通路の前記流路の一端は、前記オイルリング溝の上部に繋がる請求項3に記載の内燃機関用ピストン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用ピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンを冷却するピストンクーリングジェットを備える内燃機関が知られている。ピストンクーリングジェットは、ピストンヘッドの下面にオイルを噴射することによってピストンを冷却する。
【0003】
ピストンヘッドは、その外周面に環状に設けられるオイルリング溝を有している。オイルリング溝には、シリンダー内側面のオイルを掻き取るオイルリングが装着される。オイルリングがシリンダー内側面から掻き取ったオイルは、オイルリング溝に溜まる。オイルリング溝に溜まったオイルは、オイルリング溝内に開口するオイル戻し通路を通って例えばピストンの内部空間に排出されて再利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007―23972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ピストンの内部空間に開口する従来のオイル戻し通路では、ピストンクーリングジェットから噴射されたオイルがオイル戻し通路を逆流し、オイルリング溝から染み出して燃焼室内へ到達する場合がある。燃焼室内に侵入したオイルは、燃焼室内の混合気とともに燃焼してしまう。そのため、従来のオイル戻し通路を有するピストンを備える内燃機関では、オイル消費量が増え、排ガス中の粒子状物質が増える。
【0006】
そこで、噴射されたオイルがオイル戻し通路に流れないように、ピストン内側にガイドを設ける場合がある。
【0007】
しかしながら、ピストン内側にガイドを設けた場合には、オイルがピストン内側全体に当たることを阻害する。そうすると、ピストンの冷却効率が低下して好ましくない。また、ピストン内側のガイドは、ピストンの重量を増加させる。
【0008】
そこで、本発明は、オイルを効率的に利用可能かつ重量増加を抑制可能な内燃機関用ピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するため本発明に係る内燃機関用ピストンは、外周面に設けられた環状のオイルリング溝を有するピストンヘッドと、前記ピストンヘッドから延びる一対のピストンスカートと、前記ピストンヘッドから延びて前記一対のピストンスカートに繋がるサイドウォールと、を備え、前記ピストンヘッドの下面、前記ピストンスカートの内面、および前記サイドウォールの内面に囲まれる内部空間と、少なくとも一つのオイル戻し通路とを有し、少なくとも一つの前記オイル戻し通路は、前記ピストンスカートに隣接し、かつ前記オイルリング溝内に開口する第1開口と、前記サイドウォールの外面に開口する第2開口と、前記第1開口と前記第2開口の間を繋ぐ流路と、を含み、前記内部空間から離隔する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オイルを効率的に利用可能かつ重量増加を抑制可能な内燃機関用ピストンを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態における内燃機関の一部を示す正面図。
図2】本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンを示す斜視図。
図3】本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンを示す断面図。
図4図3のIV-IV線における本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンの背面側の部分断面図。
図5図2のV-V線における本発明に係る内燃機関用ピストンの部分断面図。
図6図3のK部を示す部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0013】
本発明に係る内燃機関用ピストンの実施形態について図1から図5を参照して説明する。なお、複数の図面中、同一または相当する構成には同一の符号がふされている。
【0014】
図1は、本発明の実施形態における内燃機関の一部を示す正面図である。主要構造を明示するため、図1は、後述するピストン6、シリンダー3、シリンダーライナー17を断面にして示している。
【0015】
図1において、内燃機関1は、クランクケース2と、クランクケース2に組み合わされるシリンダー3と、クランクケース2内に回転可能に配置されるクランクシャフト5と、シリンダー3内に配置されるピストン6と、ピストン6とクランクシャフト5とを連結するコンロッド7と、ピストンクーリングジェット8と、を備えている。
【0016】
なお、本実施形態における上下の表現は、シリンダー3内をピストン6が往復して摺動する方向における上死点と下死点に対応している。
【0017】
クランクケース2は、上半体11と、下半体12と、を有している。上下の半体11、12は、結合面2mで組み合わされて一体化している。
【0018】
クランクケース2の上半体11とシリンダー3とは、シリンダーブロック13として一体に形成されている。
【0019】
シリンダーブロック13は、シリンダー3としての胴部15と、胴部15の下に設けられたクランクケース2の上半体11としてのスカート部16と、を一体に有している。シリンダーブロック13は、胴部15およびスカート部16を上下方向に貫通する内部空間を有している。
【0020】
スカート部16の内部空間には、クランクシャフト5が配置されている。スカート部16の下端面は、下半体12の上端面に結合している。スカート部16の下端面と下半体12の上端面とは、クランクシャフト5の両端を回転可能に支持している。
【0021】
シリンダー3は、シリンダーライナー17を備えている。
【0022】
シリンダーライナー17は、胴部15の内部空間に配置されている。シリンダーライナー17は、例えば円筒形状である。シリンダーライナー17の内面17aは、ピストン6を上下に摺動させるシリンダーボア18を画定している。
【0023】
シリンダー3は、シリンダーライナー17の外面と胴部15との間に冷却水を流通させるウォータージャケット19を有している。
【0024】
コンロッド7の一方の端部は、ピストン6に回転可能に接続され、コンロッド7の他方の端部は、クランクシャフト5に回転可能に接続されている。
【0025】
ピストンクーリングジェット8は、クランクケース2の底部に設けられたオイルパン(図示せず)に溜まったオイルを吸い上げるオイル通路21と、ピストン6の下方からオイルを噴射するオイル噴出部22と、を有している。
【0026】
内燃機関1は、オイルパンからシリンダー3、ピストン6、クランクシャフト5などにオイルを循環させるオイル通路(図示せず)を備え、オイルが内燃機関1内を潤滑および冷却する。これにより、シリンダーライナー17の内面17aとピストン6の外面との間は、オイルによって潤滑されている。
【0027】
次に、本実施形態のピストン6について説明する。
【0028】
図2は、本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンを示す斜視図である。
【0029】
ピストン6は、一体成形品である。ピストン6は、ピストンヘッド31と、対向する一対のピストンスカート32F、32R(以下、総称してピストンスカート32と表記することもある)と、対向する一対のサイドウォール33F、33R(以下、総称してサイドウォール33と表記することもある)と、を有している。ピストンヘッド31は、略円盤形である。ピストンヘッド31の上面31aは、ピストン6の上面を構成している。ピストンヘッド31の外周面31bは、図1に示すシリンダーライナー17の内面17aに沿った曲面である。
【0030】
ピストンヘッド31の外周面31bには、環状のオイルリング溝35と、オイルリング溝35の上方に配置された環状のセカンドリング溝36と、セカンドリング溝36の上方に配置された環状のトップリング溝37と、が設けられている。オイルリング溝35、セカンドリング溝36、およびトップリング溝37は、ピストンヘッド31の外周面31bにおいてピストンヘッド31の径方向外側へ向かって開口している。つまり、オイルリング溝35、セカンドリング溝36、およびトップリング溝37は、外周面31bからピストンヘッド31の径方向内側へ凹んだ溝である。
【0031】
オイルリング溝35は、上壁35aと、上壁35aに略平行な下壁35bと、上壁35aと下壁35bとに連接する奥壁35cと、によって区画されている。オイルリング溝35には、環状のオイルリング(図示せず)が間隙を持って嵌め込まれる。オイルリングの幅は、オイルリング溝35の上壁35aと下壁35bとの間隔より例えば小さい。オイルリングは、ピストンヘッド31の外周面31bから僅かに突出して設けられる。
【0032】
図3は、本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンを示す断面図である。図3は、詳細には、後述するオイル戻し通路41F、42Fの第1開口44、45を通る上下方向に平行な断面図である。
【0033】
以後、説明の便宜上、下方から見て、一対のピストンスカート32が並ぶ方向をスラスト方向D1といい、一対のサイドウォール33が並ぶ方向を非スラスト方向D2という。スラスト方向D1、非スラスト方向D2、および上下方向は、互いに直交している。吸入行程および燃焼行程でピストン6がスラスト力を受けるスラスト方向D1の一方を正スラスト方向D11といい、その反対方向を反スラスト方向D12という。非スラスト方向D2において、ピストン6の中心よりも一方側を例えば正面側といい、他方側を背面側という。
【0034】
一方のピストンスカート32Fは、正スラスト方向D11側に設けられており、他方のピストンスカート32Rは、反スラスト方向D12側に設けられている。一方のサイドウォール33Fは、正面側に設けられており、他方のサイドウォール33Rは、背面側に設けられている。一対のピストンスカート32と一対のサイドウォール33とは、ピストンヘッド31の下面31cの周りに配置されている。
【0035】
図2および図3に示すように、ピストンスカート32は、サイドウォール33より長く延びている。換言すると、ピストンスカート32は、サイドウォール33より下方へ突出している。ピストンスカート32の外面32aは、シリンダーライナー17の内面17aに沿った曲面であり、ピストンヘッド31の外周面31bに連続した曲面である。具体的には、ピストンスカート32の外面32aは、ピストンヘッド31の外周面31bに平行な曲面を含む。
【0036】
サイドウォール33は、非スラスト方向D2から見て、一対のピストンスカート32の間に配置されている。それぞれのサイドウォール33は、双方のピストンスカート32に繋がっている。
【0037】
それぞれのサイドウォール33は、ピンボス47を備えている。ピンボス47は、ピストン6の周方向においてサイドウォール33の中央部に配置されている。これら一対のピンボス47は、サイドウォール33の外面33aから僅かに外方に突出している。それぞれのピンボス47は、サイドウォール33を非スラスト方向D2に貫通する円筒状のピン孔48を有している。これら一対のピン孔48に、図1に示すピストンピン49が嵌合される。このピストンピン49の中央部は、ピストン内部空間51内に配置され、図1に示すコンロッド7の一方の端部を回転可能に支持する。
【0038】
図4は、図3のIV-IV線における本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンの背面側の部分断面図である。
【0039】
図2および図4に示すように、サイドウォール33の外面33aは、ピストンヘッド31の外周面31bおよびピストンスカート32の外面32aよりもピストン6の中心側へ凹んだ面である。したがって、サイドウォール33の外面33aは、ピストンヘッド31の外周面31bの下端に連接し、下方から見て、外周面31bより内側に設けられている。図4に示すように、サイドウォール33の外面33aは、下方から見て、外周面31b上の接点P1でピストンスカート32の外面32aに連接し、ピストンスカート32の外面32aより内側に設けられている。
【0040】
ピストンの下方から見て、サイドウォール33の外面33aとピストンヘッド31の外周面31bとの距離は、ピンボス47の中心において最も長く、ピストンスカート32に近づくに従って短くなる。
【0041】
ピストン6は、ピストンヘッド31、ピストンスカート32およびサイドウォール33に囲まれたピストン内部空間51を有している。ピストン内部空間51は、具体的には、ピストンヘッド31の下面31c、ピストンスカート32の内面32b、およびサイドウォール33の内面33bによって囲まれており、下方が開放されている。ピストンクーリングジェット8がオイル噴出部22から噴出するオイルは、このピストン内部空間51に噴き掛かり、ピストンヘッド31の下面31cを主に冷却する。
【0042】
以下、ピストン6に設けられたオイル戻し通路41、42について説明する。
【0043】
図2から図4に示すように、ピストン6は、正スラスト方向D11側に設けられた二つのオイル戻し通路41F、41R(以下、総称してオイル戻し通路41と表記することもある)と、反スラスト方向D12側に設けられた二つのオイル戻し通路42F、42R(以下、総称してオイル戻し通路42と表記することもある)と、を有している。オイル戻し通路41Fは、正スラスト方向D11側における正面側に配置され、オイル戻し通路41Rは、正スラスト方向D11側における背面側に配置されている。オイル戻し通路42Fは、反スラスト方向D12側における正面側に配置され、オイル戻し通路42Rは、反スラスト方向D12側における背面側に配置されている。
【0044】
図2および図4に示すように、オイル戻し通路41、42は、ピストンヘッド31およびサイドウォール33を貫通する流路61、62と、流路61、62の一端においてピストン6の径方向外側に向かって開口する第1開口44、45と、流路61、62の他端においてピストン6の径方向外側に向かって開口する第2開口65、66と、を有している。
【0045】
図4に示すように、流路61、62は、ピストン内部空間51から離隔している。換言すると、流路61、62は、ピストン内部空間51に繋がっていない。また、流路61、62は、それぞれ個別に独立し、互いに繋がっていない。流路61、62は、ピストンヘッド31の外周面31bから延びる流入側流路61a、62aと、流入側流路61a、62aの末端に繋がり、サイドウォール33の外面33aに向かって延びる排出側流路61b、62bと、を含む。
【0046】
図5は、図2のV-V線における本発明に係る内燃機関用ピストンの部分断面図である。
【0047】
図6は、図3のK部を示す部分拡大図である。
【0048】
流入側流路61a、62aは、上方から見て、ピストンヘッド31の外周面31bに交差する方向であって、例えばピストンヘッド31の上面31aに略平行に延びている。流入側流路61a、62aの一端は、ピストンスカート32の直上域に配置されている。この流入側流路61a、62aの一端は、上方から見て、オイルリング溝35の領域に配置され、オイルリング溝35に繋がっている。流入側流路61a、62aは、詳細には、オイルリング溝35近傍のピストンヘッド31の外周面31bとオイルリング溝35とに繋がっている。より詳細には、流入側流路61a、62aの一端は、オイルリング溝35の下に配置され、オイルリング溝35の下部に繋がっている。さらに詳細には、流入側流路61a、62aの一端は、オイルリング溝35の下部と交わり、かつオイルリング溝35より僅かに下に配置され、オイルリング溝35下の外周面31bに接している。
【0049】
図4に示すように、排出側流路61b、62bが延びる方向は、流入側流路61a、62aが延びる方向に交差している。詳細には、排出側流路61b、62bは、下方から見て、流入側流路61a、62aが延びる方向に略直交している。また、排出側流路61b、62bが延びる方向は、サイドウォール33の外面33aに交差する方向に延びている。詳細には、排出側流路61bは、サイドウォール33の外面33aの上部においてピンボス47より正スラスト方向D11側の領域に向かって延び、排出側流路62bは、サイドウォール33の外面33aの上部においてピンボス47より反スラスト方向D12側の領域に向かって延びている。より詳細には、排出側流路61bは、サイドウォール33の外面33aの上部においてピストンスカート32Fの近傍領域に向かって延び、排出側流路62bは、サイドウォール33の外面33aの上部においてピストンスカート32Rの近傍領域に向かって延びている。
【0050】
排出側流路61b、62bは、流入側流路61a、62aより長い。排出側流路61b、62bは、流入側流路61a、62aより上に設けられている。
【0051】
第1開口44、45は、ピストンスカート32の直上域に配置されている。つまり、第1開口44、45は、ピストンスカート32に隣接して配置されている。2つの第1開口44は、ピストンスカート32Fの直上域の正面側および背面側にそれぞれ配置され、2つの第1開口45は、ピストンスカート32Rの直上域の正面側および背面側にそれぞれ配置されている。
【0052】
図2および図6に示すように、第1開口44、45は、上方から見て、オイルリング溝35の領域、つまりオイルリングの配置領域で開口している。また、第1開口44、45は、オイルリング溝35内に開口している。第1開口44、45は、詳細には、オイルリング溝35近傍のピストンヘッド31の外周面31bとオイルリング溝35内とに渡って開口している。より詳細には、第1開口44、45は、オイルリング溝35の下方のピストンヘッド31の外周面31bと、オイルリング溝35の下壁35bと、奥壁35cと、に渡って開口している。
【0053】
第2開口65、66は、第1開口44、45より下に位置し、サイドウォール33F、33Rの外面33aに開口している。詳細には、第2開口65は、サイドウォール33の外面33aの上部においてピンボス47より正スラスト方向D11側の領域に開口し、第2開口66は、サイドウォール33の外面33aの上部においてピンボス47より反スラスト方向D12側の領域に開口している。より詳細には、第2開口65は、サイドウォール33の外面33aの上部においてピストンスカート32Fの近傍領域に開口し、第2開口66は、サイドウォール33の外面33aの上部においてピストンスカート32Rの近傍領域に開口している。
【0054】
オイル戻し通路41、42は、例えばドリルを用いてピストン6を切削することにより形成される。具体的には、流入側流路61a、62aを、第1開口44、45の配置位置から切削して形成し、排出側流路61b、62bを、第2開口65、66の配置位置から切削して形成する。
【0055】
以下、本実施形態における内燃機関1の動作について説明する。
【0056】
図1図2図3に示すように、ピストンクーリングジェット8は、ピストン6が下死点に位置する時に、ピストン6の下方からピストン内部空間51にオイルを噴射し、ピストン6を冷却する。ピストン内部空間51は、オイル戻し通路41、42から離隔し、かつピストン6の外面から離隔している。そのため、ピストン内部空間51を有するピストン6は、ピストンクーリングジェット8から噴射したオイルがシリンダーボア18内の燃焼室側に侵入することを抑止している。これにより噴射されたオイルのほとんどが、オイルパンに滴下して再利用され、オイルが効率的に利用される。
【0057】
内燃機関1の吸入行程、圧縮行程、燃焼行程、および排気行程に亘って、ピストン6は、シリンダーボア18において上死点と下死点との間を2往復する。この間、オイルリングは、シリンダーライナー17の内面17aを上下方向に滑ってオイルを掻き取る。オイルリングが掻き取ったオイルは、オイルリングとオイルリング溝35との間隙に溜まる。オイルリングとオイルリング溝35との間隙に溜まったオイルは、オイルリング溝35内に開口する第1開口44、45から流路61、62を通って第2開口65、66、つまりサイドウォール33の外面33aに排出され、オイルパンに滴下する。
【0058】
オイルリングはシリンダーライナー17の内面17aに押しつけられるため、第1開口44、45におけるオイルの圧力は、第2開口65、66におけるオイルの圧力以上になる。また、流入側流路61a、62aは、排出側流路61b、62bより上方に位置している。つまり、第1開口44、45は、第2開口65、66より上方に位置している。このため、オイル戻し通路41、42は、オイルリング溝35に溜まったオイルをサイドウォール33の外面33aへ効果的に排出する。したがって、オイル戻し通路41、42でのオイルの逆流が抑制される。
【0059】
シリンダーライナー17の内面17aから受けるオイルリングの圧力は、非スラスト方向D2側よりスラスト方向D1側で高くなる。そのため、オイルリングのスラスト方向D1側が、多くオイルを掻き取る。また、第1開口44、45は、ピストンスカート32に隣接し、スラスト方向D1側に配置されている。そのため、オイルリングのスラスト方向D1側で掻き取られたオイルは、第1開口44、45に流入し易い。また、掻き取られたオイルの圧力は、非スラスト方向D2側より第1開口44、45で高くなる。これにより、オイル戻し通路41、42は、オイルを効果的に排出する。
【0060】
また、流入側流路61a、62aの一端は、上方から見て、オイルリング溝35の領域に配置され、オイルリング溝35に繋がっている。そのため、流入側流路61a、62aの一端にもオイルを溜めることができる。また、第1開口44、45は、上方から見て、オイルリング溝35の領域、つまりオイルリングの配置領域で開口している。そのため、掻き取られたオイルがオイル戻し通路41、42に流入しやすい。詳細には、第1開口44、45は、オイルリング溝35下方の外周面31bとオイルリング溝35の奥壁35cと下壁35bとに渡って形成されているため、オイルがオイル戻し通路41、42へより流入し易い。
【0061】
複数のオイル戻し通路41、42は、それぞれ個別に独立する流路61、62を有している。そのため、ピストン6は、複数のオイル戻し通路41、42からオイルを排出できる。また、個別に独立した流路61、62は、互いのオイル流れを干渉させず、より効率的にオイルを排出する。
【0062】
図1図3および図6を用いて、内燃機関1の吸入行程と燃焼行程とにおける動作について詳述する。オイルリングは、シリンダーライナー17の内面17aを下方に滑ってオイルを掻き取る。図6に示すように、このとき、オイルリングは、内面17aから上方に力を受けるため、オイルリング溝35の上壁35aに押しつけられる。これにより、オイルリングの下面とオイルリング溝35の下壁35bとの間隔が大きくなる。ピストン6は、この間隔に繋がる流入側流路61a、62aの一端とこの間隔とにオイルリングが掻き取ったオイルを溜めることができる。
【0063】
さらに、第1開口44、45は、オイルリング溝35の下壁35bに開口する。そのため、オイルリングが上壁35a側に変位した場合に、第1開口44、45は、オイルリングによって全体を覆われることがなく、オイル戻し通路41、42へのオイルの流入量の減少を抑止できる。
【0064】
シリンダーライナー17から受けるオイルリングの圧力は、反スラスト方向D12側より正スラスト方向D11側で高くなり易い。そのため、オイルリングの正スラスト方向D11側が、多くオイルを掻き取る。この正スラスト方向D11側で掻き取られたオイルは、第1開口44に流入し易い。また、オイルの圧力は、第1開口45より第1開口44で高くなり易い。これにより、正スラスト方向D11側にあるオイル戻し通路41は、オイルを効果的に排出し易い。
【0065】
図1図3図6を用いて、内燃機関1の混合気の圧縮行程と排気行程とにおける動作について詳述する。オイルリングは、シリンダーライナー17の内面17aを上方に滑ってオイルを掻き取る。このとき、オイルリングは、内面17aから下方に力を受けるため、オイルリング溝35の下壁35bに押しつけられる。これにより、オイルリングの上面とオイルリング溝35の上壁35aとの間隔が大きくなる。オイルリングに掻き取られたオイルは、主にこの間隔に溜まり、この間隔に例えばオイルリング溝35の奥壁35c側で通じる第1開口44、45からオイル戻し通路41、42に流れ込む。
【0066】
シリンダーライナー17から受けるオイルリングの圧力は、正スラスト方向D11側より反スラスト方向D12側で高くなり易い。そのため、オイルリングの反スラスト方向D12側が、多くオイルを掻き取る。この反スラスト方向D12側で掻き取られたオイルは、例えば第1開口45の奥壁35cの開口からオイル戻し通路42へ流入し易い。また、オイルの圧力は、第1開口44より第1開口45で高くなり易い。これにより、反スラスト方向D12側にあるオイル戻し通路42は、オイルを排出し易い。
【0067】
反スラスト方向D12側のオイル戻し通路42の流入側流路62aの一端は、オイルリング溝35の上に配置され、オイルリング溝35の上部に繋がっていてもよい。また、流入側流路62aの一端は、オイルリング溝35の上部と交わり、かつオイルリング溝35より僅かに上に配置され、オイルリング溝35の上の外周面31bに接していてもよい。この場合、オイルリングがオイルリング溝35の下壁35bに押し当てられる圧縮行程と排気行程とにおいて、反スラスト方向D12側のオイル戻し通路42は、オイルリングによって第1開口45全体を覆われることがなく、効果的にオイルを排出できる。
【0068】
流入側流路61a、62aの一端は、オイルリング溝35の上および下に渡って配置され、オイルリング溝35の上部および下部に繋がってもよい。この場合、オイルリングが上下のいずれに変位しても、オイルを効果的に排出できる。また、流入側流路61a、62aの一端を、上方から見て、オイルリング溝35の領域に配置せず、オイルリング溝35の奥壁35c側でオイルリング溝35に繋げてもよい。
【0069】
オイル戻し通路41、42の流路61、62は、少なくとも一部で相互に繋がっていてもよく、例えば排出側流路61b、62bの一部を共有させてもよい。
【0070】
本実施形態に係るピストン6は、ピストン内部空間51から離隔する少なくとも一つのオイル戻し通路41、42を有し、このオイル戻し通路41、42は、ピストンスカートに隣接し、かつオイルリング溝35内に開口する第1開口44、45と、サイドウォール33の外面33aに開口する第2開口65、66と、第1開口44、45と第2開口65、66の間を繋ぐ流路と、を含んでいる。そのため、ピストン6は、ピストンクーリングジェット8が噴射したオイルが、シリンダーボア18の燃焼室側に侵入することを困難にし、第1開口44、45からオイル戻し通路41、42へのオイルの流入量を増やし、かつ第2開口65、66からのオイルの排出効率を向上している。これにより、ピストン6は、オイルの消費量を低減し、オイルを効率的に利用できる。
【0071】
また、本実施形態に係るピストン6は、個別に独立する流路61、62を含む複数のオイル戻し流路を有する。そのため、ピストン6は、複数のオイル戻し通路41、42からオイルを排出し、かつ個別に独立した流路61、62によってオイル流れの干渉を抑制して、より効率的にオイルを排出できる。
【0072】
さらに、本実施形態に係るピストン6は、流路61、62の一端をオイルリング溝35の上および下の少なくとも一方に配置し、オイルリング溝35に繋げている。そのため、第1開口44、45は、上方から見て、オイルリング溝35の領域で開口する。このため、掻き取られたオイルは、流路61、62の一端にも溜まり、かつ第1開口44、45からオイル戻し通路41、42に流入し易くなり、より効率的にオイルを排出できる。
【0073】
さらにまた、本実施形態に係るピストン6は、正スラスト方向D11側に設けられる少なくとも一つのオイル戻し通路41を備えている。オイル戻し通路41の流路61の一端は、オイルリング溝35の下部に繋がっている。そのため、第1開口44は、オイルリング溝35の下壁35bに開口する。吸入行程と燃焼行程とにおいて、第1開口44は、シリンダーライナー17から上方向に力を受けるオイルリングによって全体が塞がれることを防ぎ、オイルの排出量の減少を抑制する。また、このとき、オイルリングの正スラスト方向D11側で多く掻き取られたオイルは、第1開口44から高い圧力でオイル戻し通路41に流入する。これらにより、ピストン6は、オイルをより効果的に排出できる。
【0074】
さらにまた、本実施形態に係るピストン6は、反スラスト方向D12側に設けられる少なくとも一つのオイル戻し通路42を備えている。このオイル戻し通路42の流路62の一端は、オイルリング溝35の上部に繋がっている。そのため、第1開口45は、オイルリング溝35の上壁35aに開口する。圧縮行程と排気行程とにおいて、第1開口45は、シリンダーライナー17から下方向に力を受けるオイルリングによって全体が塞がれることを防ぎ、オイルの排出量の減少を抑制する。また、このとき、オイルリングの反スラスト方向D12側で多く掻き取られたオイルは、第1開口45から高い圧力でオイル戻し通路42に流入する。これらにより、ピストン6は、オイルをより効果的に排出できる。
【0075】
したがって、本実施形態に係るピストン6によれば、オイルを効率的に利用でき、かつ重量増加を抑制できる。
【符号の説明】
【0076】
1…内燃機関、2…クランクケース、3…シリンダー、5…クランクシャフト、6…ピストン、7…コンロッド、8…ピストンクーリングジェット、11…上半体、12…下半体、13…シリンダーブロック、15…胴部、16…スカート部、17…シリンダーライナー、17a…内面、18…シリンダーボア、19…ウォータージャケット、21…オイル通路、22…オイル噴出部、31…ピストンヘッド、31a…上面、31b…外周面、31c…下面、32…ピストンスカート、32a…外面、32b…内面、33…サイドウォール、33a…外面、33b…内面、35…オイルリング溝、35a…上壁、35b…下壁、35c…奥壁、36…セカンドリング溝、37…トップリング溝、41…オイル戻し通路、42…オイル戻し通路、44…第1開口、45…第1開口、47…ピンボス、48…ピン孔、49…ピストンピン、51…ピストン内部空間、61…流路、61a…流入側流路、61b…排出側流路、62…流路、62a…流入側流路、62b…排出側流路、65…第2開口、66…第2開口、D1…スラスト方向、D11…正スラスト方向、D12…反スラスト方向、D2…非スラスト方向、P1…接点
図1
図2
図3
図4
図5
図6