(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046289
(43)【公開日】2023-04-03
(54)【発明の名称】繊維シート
(51)【国際特許分類】
B32B 15/14 20060101AFI20230327BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20230327BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20230327BHJP
D06M 10/02 20060101ALI20230327BHJP
【FI】
B32B15/14
B32B15/20
D06M11/83
D06M10/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144287
(22)【出願日】2022-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2021154594
(32)【優先日】2021-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 潤
(72)【発明者】
【氏名】澤田石 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】紅林 潤也
(72)【発明者】
【氏名】林 秀樹
【テーマコード(参考)】
4F100
4L031
【Fターム(参考)】
4F100AA17B
4F100AB10B
4F100AB16B
4F100AB17B
4F100AB18B
4F100AB31B
4F100AG00A
4F100AK25A
4F100BA02
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100DG01A
4F100DG15A
4F100EH66
4F100GB33
4F100GB72
4F100GB87
4F100HB00B
4F100JA13A
4F100JD14
4F100YY00A
4F100YY00B
4L031AA16
4L031AA18
4L031AA26
4L031AB34
4L031BA04
4L031CB14
4L031DA13
(57)【要約】
【課題】消臭性を発揮しつつも変色耐久性を備える繊維シートを提供すること。
【解決手段】繊維基材と、前記繊維基材上に配置されている銅元素含有合金層とを含み、前記銅元素含有合金層中の銅よりもイオン化傾向の大きい金属元素の含有量が、前記銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して20at%以上であり、且つ前記銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有量が、前記銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して15at%以上である、繊維シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材と、前記繊維基材上に配置されている銅元素含有合金層とを含み、
前記銅元素含有合金層中の銅よりもイオン化傾向の大きい金属元素の含有量が、前記銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して20at%以上であり、且つ前記銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有量が、前記銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して15at%以上である、繊維シート。
【請求項2】
前記銅元素含有合金層中の銅元素の含有量が、前記銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して50at%以上である、請求項1に記載の繊維シート。
【請求項3】
前記銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有量が、前記銅元素含有合金層中の銅元素100at%に対して25at%以上である、請求項2に記載の繊維シート。
【請求項4】
銅よりもイオン化傾向が大きい前記金属元素が、ニッケル、亜鉛、及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属元素である、請求項1~3のいずれかに記載の繊維シート。
【請求項5】
前記繊維基材に対する銅元素の付着量が20μg/cm2以上である、請求項1~3のいずれかに記載の繊維シート。
【請求項6】
前記繊維基材の密度が0.015g/cm3~0.3g/cm3である、請求項1~3のいずれかに記載の繊維シート。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載の繊維シートを含む繊維製品。
【請求項8】
装飾用品である、請求項7に記載の繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維シート等に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維基材は、意匠性が要求される各種分野において利用されている。例えば、炭素繊維基材は、樹脂と共に複合材料(炭素繊維強化プラスチック等)を構成し、航空機のボディー等の比較的大型のものから、スポーツ用品、車の内外装材、衣服等の比較的小型の身近なものまで、幅広く利用されている。このため、繊維基材は、その意匠性を高めるために着色されることがある。また、その際に、その独特の意匠性から、光沢性を付与することがある。
【0003】
繊維基材内部または外部に対する消臭性能を付与することが望まれている。特許文献1には、布帛の面上に銅又は銀からなる金属蒸着膜が積層されてなる消臭性繊維シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、銅や銀を用いた消臭性繊維シートは、耐久性が十分ではなく、経年劣化や熱劣化によって変色してしまうことがある。一方、変色耐久性に優れた合金を使用すると、消臭性が十分ではなくなってしまうことがある。
【0006】
本発発明は、消臭性を発揮しつつも変色耐久性を備える繊維シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、繊維基材と、前記繊維基材上に配置されている銅元素含有合金層とを含み、前記銅元素含有合金層中の銅よりもイオン化傾向の大きい金属元素の含有量が、前記銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して20at%以上であり、且つ前記銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有量が、前記銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して15at%以上である、繊維シート、であれば、上記課題を解決できることを見出した。本発明者はこの知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0008】
項1. 繊維基材と、前記繊維基材上に配置されている銅元素含有合金層とを含み、
前記銅元素含有合金層中の銅よりもイオン化傾向の大きい金属元素の含有量が、前記銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して20at%以上であり、且つ前記銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有量が、前記銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して15at%以上である、繊維シート。
【0009】
項2. 前記銅元素含有合金層中の銅元素の含有量が、前記銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して50at%以上である、項1に記載の繊維シート。
【0010】
項3. 前記銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有量が、前記銅元素含有合金層中の銅元素100at%に対して25at%以上である、項2に記載の繊維シート。
【0011】
項4. 銅よりもイオン化傾向が大きい前記金属元素が、ニッケル、亜鉛、及びアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属元素である、項1~3のいずれかに記載の繊維シート。
【0012】
項5. 前記繊維基材に対する銅元素の付着量が20μg/cm2以上である、項1~4のいずれかに記載の繊維シート。
【0013】
項6. 前記繊維基材の密度が0.015g/cm3~0.3g/cm3である、項1~5のいずれかに記載の繊維シート。
【0014】
項7. 項1~6のいずれかに記載の繊維シートを含む繊維製品。
【0015】
項8. 装飾用品である、項7に記載の繊維製品。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、消臭性を発揮しつつも変色耐久性を備える繊維シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0018】
1.繊維シート
本発明は、その一態様において、繊維基材と、前記繊維基材上に配置されている銅元素含有合金層とを含み、前記銅元素含有合金層中の銅よりもイオン化傾向の大きい金属元素の含有量が、前記銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して20at%以上であり、且つ前記銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有量が、前記銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して15at%以上である、繊維シート(本明細書において、「本発明の繊維シート」と示すこともある。)、に関する。以下に、これについて説明する。
【0019】
<1-1.繊維基材>
繊維基材は、繊維又は繊維束を素材として含む基材であって、シート状のものである限り、特に制限されない。繊維基材は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、繊維及び繊維束以外の成分が含まれていてもよい。その場合、繊維基材中の繊維及び繊維束の合計量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。繊維基材としては、例えば、織物(例えば、平織、綾織(斜文織)、繻子織等)、編物、不織布、メッシュ、紙等が挙げられる。これらの中でも、消臭性の観点から、好ましくは不織布が挙げられる。また、繊維表面が平坦で光の反射率が比較的高く、本発明の繊維シートの意匠性がより高くなるという観点からは、好ましくは織物、編物等が挙げられ、より好ましくは織物が挙げられる。繊維基材は、シレー処理、エンボス処理、カレンダー処理等の各種処理がされたものであってもよい。繊維基材として、平滑性がより高いものを採用することにより、本発明の繊維シートのメタリック感をより高めることができる。
【0020】
繊維基材の層構成は特に制限されない。繊維基材は、1種単独の繊維基材から構成されるものであってもよいし、2種以上の繊維基材が複数組み合わされたものであってもよい。
【0021】
繊維基材を構成する繊維としては、特に制限されず、例えば合成繊維(例えばナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ポリオレフィン繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維等)、再生繊維(例えばレーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル、アセテート等)、植物繊維(例えば綿繊維、麻繊維、亜麻繊維、レーヨン繊維、ポリノジック繊維、キュプラ繊維、リヨセル繊維、アセテート繊維等)、動物繊維(例えば羊毛、絹、天蚕糸、モヘヤ、カシミア、キャメル、ラマ、アルパカ、ビキューナ、アンゴラ、蜘蛛糸等)等の有機繊維; 炭素繊維(例えばPAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、カーボンナノチューブ等)、ガラス繊維(例えばグラスウール、グラスファイバー等)、鉱物繊維(例えば温石綿、白石綿、青石綿、茶石綿、直閃石綿、透角閃石綿、陽起石綿等)、人造鉱物繊維(例えばロックウール、セラミックファイバー等)、金属繊維(例えば、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、鉄繊維、ニッケル繊維、銅繊維等)等の無機繊維等を広く用いることができる。
【0022】
繊維の形態は、連続長繊維や連続長繊維をカットした短繊維、粉末状に粉砕したミルド糸等、いずれでもよい。
【0023】
繊維は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0024】
繊維束は、複数の繊維からなるものである限り、特に制限されない。繊維束を構成する繊維の本数は、例えば5以上、10以上、20以上、50以上、であり、一方で例えば50000以下、20000以下、15000以下、2000以下である。これらの上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0025】
繊維基材の厚みは、繊維の種類に応じて異なり得るものであり、特に制限されない。繊維基材の厚みは、例えば3~7000μmである。当該厚みは、好ましくは5~2000μm、より好ましくは10~1000μm、さらに好ましくは20~700μm、よりさらに好ましくは50~500μmである。
【0026】
繊維基材の密度は、特に制限されないが、例えば0.005~0.4g/cm3ある。当該密度は、消臭性等の観点から、好ましくは0.35g/cm3以下であり、より好ましくは0.3g/cm3以下である。当該密度は、変色耐久性の観点から、好ましくは0.01g/cm3以上、より好ましくは0.015g/cm3以上、さらに好ましくは0.025g/cm3以上、よりさらに好ましくは0.05g/cm3以上、とりわけ好ましくは0.065g/cm3以上である。
【0027】
上記繊維基材は、難燃剤、吸水剤、撥水剤、柔軟剤、蓄熱剤、紫外線遮蔽剤、制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、防蚊剤、蓄光剤、再帰反射剤等の、公知の仕上げ剤が付着してもよい。
【0028】
<1-2.銅元素含有合金層>
本発明の繊維シートは、銅元素含有合金層を含む。銅元素含有合金層は、繊維基材上に配置されている。銅元素含有合金層と繊維基材との間には、他の層が備えられていてもよい。好ましくは、銅元素含有合金層は、繊維基材上に、他の層を介さずに配置される。
【0029】
銅元素含有合金層は、銅元素を含む合金を素材として含む層である。銅元素含有合金層は、銅元素を含む合金以外の成分が含まれていてもよい。その場合、銅元素含有合金層中の銅元素を含む合金の含有率は、銅元素含有合金層100質量%に対して、例えば70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、よりさらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0030】
本発明の繊維シートにおいて、銅元素含有合金層は、銅よりもイオン化傾向の大きい金属元素を含有する。銅よりもイオン化傾向の大きい金属元素としては、例えばニッケル、亜鉛、アルミニウム、鉄、ガリウム、チタン、スズ、モリブデン、ニオブ、インジウム、クロム、タングステン、タンタル、コバルト、鉛、アンチモン、ベリリウム、マンガン、マグネシウム、ジルコニウム等が挙げられる。これらの中でも、銅の酸化をより効果的に抑制でき、耐久性をより向上させることができるという観点から、好ましくはニッケル、亜鉛、アルミニウム、鉄が挙げられ、より好ましくはニッケル、亜鉛、アルミニウムが挙げられ、特に好ましくはニッケル、亜鉛が挙げられる。銅よりもイオン化傾向の大きい金属元素は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0031】
本発明の繊維シートにおいて、銅元素含有合金層中の銅よりもイオン化傾向の大きい金属元素の含有率は、銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して20at%以上である(特徴1)。当該含有率をこの範囲とすることにより、良好な変色耐久性を発揮することができる。当該含有率は、好ましくは30at%以上、より好ましくは40at%以上である。当該含有率の上限は、特に制限されないが、銅の含有率を一定以上確保することが可能であり、銅金属の装飾性、銅の消臭性を一定以上発揮させることが可能であるという観点から、好ましくは70at%、より好ましくは60at%、さらに好ましくは50at%、よりさらに好ましくは45at%である。
【0032】
本発明の繊維シートにおいて、銅元素含有合金層は酸化銅(II)(CuO)を含有する。
【0033】
本発明の繊維シートにおいて、銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有率は、銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して15at%以上である(特徴2)。当該含有率をこの範囲とすることにより、良好な消臭性を発揮することができる。当該含有率は、好ましくは16at%以上、より好ましくは17at%以上、さらに好ましくは18at%以上である。当該含有率の上限は、特に制限されないが、銅金属の含有率を一定以上確保することが可能であり、銅金属の装飾性を一定以上発揮させることが可能であるという観点から、好ましくは80at%、より好ましくは70at%、さらに好ましくは60at%、よりさらに好ましくは50at%である。
【0034】
本発明の繊維シートは、特徴1及び特徴2を備えることによって、消臭性及び変色耐久性の両方を良好に発揮することができる。限定的な解釈を望むものではないが、そのメカニズムは以下のとおりであると考えられる。酸化銅(II)は良好な消臭性を発揮しながらも色変化することが無く、一方で銅よりもイオン化傾向の大きい金属元素は銅よりも先に酸化する。したがって、これらの含有率を特徴1及び特徴2に規定されるように調節することにより、消臭性及び変色耐久性の両方を良好に発揮することができる。
【0035】
本発明の繊維シートにおいて、銅元素含有合金層中の銅元素の含有率は、銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して50at%以上であることが好ましい。当該含有率をこの範囲とすることにより、銅金属の装飾性、銅の消臭性をより良好に発揮させることができる。当該含有率は、好ましくは55at%以上である。当該含有率の上限は、特に制限されないが、銅よりもイオン化傾向の大きい金属元素の含有率を一定以上確保することが可能であり、より良好な変色耐久性を発揮できるという観点から、好ましくは80at%、より好ましくは70at%、さらに好ましくは60at%である。
【0036】
本発明の繊維シートにおいて、銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有率は、銅元素含有合金層中の銅元素100at%に対して25at%以上であることが好ましい。当該含有率をこの範囲とすることにより、消臭性をより良好に発揮させることができる。当該含有率は、好ましくは30at%以上である。当該含有率の上限は、特に制限されないが、銅金属の含有率を一定以上確保することが可能であり、銅金属の装飾性を一定以上発揮させることが可能であるという観点から、好ましくは70at%、より好ましくは60at%、さらに好ましくは50at%、よりさらに好ましくは40at%である。
【0037】
本発明の繊維シートにおいて、銅元素含有合金層中の酸化銅(II)以外の銅化合物として存在する銅元素の含有率は、銅元素含有合金層中の銅元素100at%に対して、40at%以下、30at%以下、20at%以下、15at%以下、10at%以下、5at%以下、又は1at%以下である。
【0038】
銅元素含有合金層中の金属元素は、銅及び銅よりもイオン化傾向の大きい金属元素のみであってもよいし、これら以外の他の金属元素を含んでいてもよい。他の金属元素としては、例えば銀、金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、テルル、白金、ステンレス等の合金等が挙げられる。
【0039】
本発明の繊維シートにおいて、銅元素含有合金層中の上記他の金属元素の含有率は、銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対して、例えば20at%以下、10at%以下、5at%以下、2at%以下、1at%以下、0.5at%以下、0.2at%以下、又は0.1at%以下である。
【0040】
上記銅元素含有合金層中の金属元素の含有率は次の方法によって、測定及び算出することができる。まず、銅元素含有合金層中の金属元素の付着量を次のようにして測定及び算出する。走査型蛍光X線分析装置(リガク社製走査型蛍光X線分析装置、ZSX PrimusIII+、又はその同等品)を用いて加速電圧は50kV、加速電流は50mA、積分時間は60秒とし、測定対象の成分のKα線のX線強度を測定し、ピーク位置に加えてバックグラウンド位置での強度も測定し、正味の強度を算出する。あらかじめ作成した検量線から、測定した強度値を付着量に換算し、同一のサンプルに5回測定を行い、その平均値を各金属元素の平均付着量とする。続いて、銅元素含有合金層中の金属元素の付着量の値と、各金属元素の原子量から、各金属元素の組成(at%)を算出する。
【0041】
上記銅元素含有合金層中の酸化銅(II)の含有率は次の方法によって、測定及び算出す
ることができる。
【0042】
銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有量(銅元素含有合金層中の銅元素100at%に対する含有量(at%))を次のようにして測定する。X線光電子分光法(XPS)装置(アルバックファイ社製、PHI5000 VersaProbeII、又はその同等品)を用いて、次の条件にて測定し、銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有率(銅元素含有合金層中の銅元素100at%に対する含有率(at%))を算出する。
(XPSの測定条件)
・X線源:単色化AlKα(1486.6eV)
・分光器:静電同心半球型分析器
・光電子取出角:45度
・帯電中和:あり
・X線ビーム径:200μm(50W15kV)
・パスエネルギー:117eV(サーベイ)、58.7eV(ナロー)。
【0043】
銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有量(銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対する含有量(at%))を次のようにして算出する。銅元素含有合金層中の銅元素中、酸化銅(II)として存在する銅元素の含有率(at%)と、銅元素含有合金層中の銅元素の組成(at%)から、銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有率(銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対する含有率(at%))を算出する。
【0044】
繊維基材に対する銅元素の付着量は10μg/cm2以上であることが好ましい。当該付着量をこの範囲とすることにより、銅金属の装飾性、銅の消臭性をより良好に発揮させることができる。当該付着量は、好ましくは15μg/cm2以上、より好ましくは20μg/cm2以上、さらに好ましくは30μg/cm2以上である。当該付着量の上限は特に制限されず、例えば150μg/cm2、120μg/cm2、100μg/cm2、80μg/cm2、70μg/cm2、60μg/cm2、又は50μg/cm2である。
【0045】
繊維基材に対する銅よりもイオン化傾向の大きい金属元素の付着量は5μg/cm2以上であることが好ましい。当該付着量をこの範囲とすることにより、変色耐久性をより良好に発揮させることができる。当該付着量は、好ましくは10μg/cm2以上、より好ましくは15μg/cm2以上、さらに好ましくは20μg/cm2以上である。当該付着量の上限は特に制限されず、例えば100μg/cm2、80μg/cm2、70μg/cm2、60μg/cm2、50μg/cm2、40μg/cm2、又は30μg/cm2である。
【0046】
上記銅元素含有合金層中の金属元素の付着量は次の方法によって、測定することができる。走査型蛍光X線分析装置(リガク社製走査型蛍光X線分析装置、ZSX PrimusIII+、又はその同等品)を用いて加速電圧は50kV、加速電流は50mA、積分時間は60秒とし、測定対象の成分のKα線のX線強度を測定し、ピーク位置に加えてバックグラウンド位置での強度も測定し、正味の強度を算出する。あらかじめ作成した検量線から、測定した強度値を付着量に換算し、同一のサンプルに5回測定を行い、その平均値を各金属元素の付着量とする。
【0047】
銅元素含有合金層の厚みは、特に制限されず、例えば1~200nmである。該厚みは、消臭性、風合いの観点等から、好ましくは5~100nm、より好ましくは10~80nmである。
【0048】
銅元素含有合金層の層構成は特に制限されない。銅元素含有合金層は、1層からなる単層であってもよいし、同一又は異なる組成を有する複数の層であってもよい。銅元素含有合金層は、好ましくは単層である。また、銅元素含有合金層は、その2つの主面の一方或いは両方において、表面が酸化皮膜等の皮膜で構成されていてもよい。
【0049】
<1-3.酸化物層>
本発明の繊維シートは、銅元素含有合金層の繊維基材側とは反対側に、酸化物層を有することができる。酸化物層により、変色性耐久性等の耐久性を向上させることができる。
【0050】
酸化物層は、金属または半金属の酸化物を素材として含む層である限り、特に制限されない。酸化物層は、本発明の効果が著しく損なわれない限りにおいて、該酸化物以外の成分が含まれていてもよい。その場合、酸化物層中の該酸化物量は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上であり、通常100質量%未満である。
【0051】
酸化物層を構成する半金属酸化物としては、特に制限されず、例えばケイ素、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス、等の半金属(好ましくはケイ素)の酸化物が挙げられる。より具体的には、半金属酸化物としては、AOX[式中、Xは式:n/2.5≦X≦n/2(nは半金属の価数である)を満たす数であり、Aはケイ素、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス、及びからなる群から選択される半金属である。]で表される化合物が挙げられる。上記式中のAが半金属元素である場合、繊維シートの色調を良好に調整できる観点から、Aはケイ素が好ましく、半金属酸化物がSiO2であることがより好ましい。半金属酸化物は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0052】
酸化物層を構成する金属酸化物としては、特に制限されず、例えばチタン、亜鉛、アルミニウム、ニオブ、コバルト、ニッケル等の金属(好ましくはチタン、亜鉛、及び、アルミニウム)の酸化物が挙げられる。より具体的には、金属酸化物としては、AOX[式中、Xは式:n/2.5≦X≦n/2(nは金属の価数である)を満たす数であり、Aはチタン、アルミニウム、ニオブ、コバルト、及び、ニッケルからなる群から選択される金属である。]で表される化合物が挙げられる。上記式中のAが金属元素である場合、繊維シートの色調を良好に調整できる観点から、Aはチタン及びアルミニウムが好ましく、金属酸化物はTiO2、ZnO及びAl2O5であることがより好ましい。金属酸化物は、1種単独であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0053】
耐変色性等の耐久性、透明性、及び色彩の調整を容易にする観点から、上記式中のXは、好ましくはn/2.4以上n/2以下、より好ましくはn/2.3以上n/2以下、さらに好ましくはn/2.2以上n/2以下、特に好ましくはn/2.1以上n/2以下である。
【0054】
酸化物層の厚みは、特に制限されず、例えば1~50nmである。該厚みは、耐変色性等の耐久性及び透明性の向上、並びに色彩の容易な調整を同時に達成する観点から、好ましくは2~20nm、より好ましくは3~10nmである。
【0055】
酸化物層の層構成は特に制限されない。酸化物層は、1層からなる単層であってもよいし、同一又は異なる組成を有する複数の層であってもよい。
【0056】
<1-4.製造方法>
本発明の繊維シートの製造方法は、特に制限されない。一例として、繊維基材の表面に銅元素含有合金層を形成する工程を含む方法により得ることができる。
【0057】
特に限定されないが、前記工程は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、化学蒸着法、パルスレーザーデポジション法等により行うことができる。これらの中でも、膜厚制御性の観点から、スパッタリング法が好ましい。
【0058】
スパッタリング法としては、特に限定されないが、例えば、直流マグネトロンスパッタ、高周波マグネトロンスパッタ及びイオンビームスパッタ等が挙げられる。また、スパッタ装置は、バッチ方式であってもロール・ツー・ロール方式であってもよい。
【0059】
2.用途
本発明の繊維シートは、メタリック感を有するものであるので、独特の意匠性を有する繊維材料として、各種分野において利用することができる。
【0060】
本発明の繊維シートは、具体的には、例えばコート、ジャケット、ズボン、スカート、スポーツウェア、ワイシャツ、ニットシャツ、ブラウス、セーター、カーディガン、ナイトウエア、肌着、サポーター、靴下、タイツ、帽子、スカーフ、マフラー、襟巻き、手袋、服の裏地、服の芯地、服の中綿、作業着、ユニフォーム、学童用制服等の衣料、カーテン、布団地、布団綿、枕カバー、シーツ、マット、カーペット、タオル、ハンカチ、マスク、フィルター、装飾布/生地、壁布、壁紙、フロア外張り等の繊維製品に利用することができる。これらの繊維製品の中でも、好ましくは装飾用品(例えば装飾布で得られた衣料品、インテリア用品(例えばカーテン、壁紙、壁布等))が挙げられる。
【0061】
また、別の具体例として、本発明の繊維シート、並びに樹脂を含有する、複合材料(本明細書において、「本発明の複合材料」と示すこともある。)として利用することも可能である。
【0062】
本発明の複合材料は、本発明の繊維シートと樹脂を含有する限りにおいて、特に制限されない。好ましくは、本発明の複合材料は、本発明の繊維材料が母材である樹脂中に含有されてなる、繊維強化プラスチックである。
【0063】
樹脂としては、特に制限されず、種々様々な樹脂を採用することができる。なお、樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂(例えば、ナイロン)、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルイミドやポリエーテルサルホン、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0064】
本発明の複合材料は、常法にしたがって製造することができ、自動車(特に、自動車の内外装)、航空機、スポーツ関連製品(ゴルフシャフト、テニスラケット、バドミントンラケット、釣り竿、スキー板、スノーボード、バット、アーチェリー、自転車、ボート、カヌー、ヨット、ウィンドサーフィン等)、医療器具、建築部材、電気機器(パソコン等の筐体、スピーカーコーン)等を製造するための構造材料等、様々な用途において活用することができる。
【実施例0065】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0066】
(1)繊維シートの製造
(実施例1)
繊維基材として不織布(目付:30g/m2、厚み:0.29mm、密度:0.1034g/cm3、組成:ガラス繊維/アクリル樹脂)を使用した。繊維基材をロール・ツー・ロール方式のスパッタリング装置内に設置し、5.0×10-4Pa以下となるまで真空排気した。続いて、アルゴンガス、及び酸素ガスを導入し、ガス圧を0.5Paとして、DCマグネトロンスパッタリング法により、繊維基材の片面に、銅元素含有合金層として銅ニッケル合金(銅含有率:57.5at%、ニッケル含有率:42.5at%)を形成して、繊維基材、銅元素含有合金層の順に積層されてなる繊維シートを得た。
【0067】
(実施例2)
繊維基材として、不織布(目付:41g/m2、厚み:0.3mm、密度:0.1367g/cm3、組成:ポリエステル)を使用した以外は、実施例1と同様にして繊維シートを得た。
【0068】
(実施例3)
繊維基材として、メッシュ生地(目付:23.6g/m2、厚み:0.115mm、密度:0.2052g/cm3、組成:ポリエステル)を使用した以外は、実施例1と同様にして繊維シートを得た。
【0069】
(実施例4)
繊維基材として、編物(目付:84g/m2、厚み:0.29mm、密度:0.2897g/cm3、組成:ポリエステル)を使用した以外は、実施例1と同様にして繊維シートを得た。
【0070】
(実施例5)
銅元素含有合金層として、銅ニッケル合金(銅含有率:67.9at%、ニッケル含有率:32.1at%)を使用した以外は、実施例4と同様にして繊維シートを得た。
【0071】
(実施例6)
繊維基材として、メッシュ生地(目付:47.9g/m2、厚み:0.675mm、密度:0.071g/cm3、組成:ポリエステル)を使用した以外は、実施例1と同様にして繊維シートを得た。
【0072】
(実施例7)
繊維基材として、不織布(目付:90.8g/m2、厚み:5.3mm、密度:0.0171g/cm3、組成:ポリエステル)を使用した以外は、実施例1と同様にして繊維シートを得た。
【0073】
(実施例8)
繊維基材として、不織布(目付:64.4g/m2、厚み:0.215mm、密度:0.2995g/cm3、組成:ポリエステル)を使用した以外は、実施例1と同様にして繊維シートを得た。
【0074】
(実施例9)
繊維基材として、織物(目付:213.2g/m2、厚み:0.6mm、密度:0.3553g/cm3、組成:ポリエステル)を使用した以外は、実施例1と同様にして繊維シートを得た。
【0075】
(実施例10)
銅元素含有合金層として、銅亜鉛合金(銅含有率:76at%、亜鉛含有率:24at%)を使用した以外は、実施例2と同様にして繊維シートを得た。
【0076】
(比較例1)
銅元素含有合金層中の酸化銅(II)含有率を変更した以外は、実施例4と同様にして繊維シートを得た。
【0077】
(比較例2)
銅元素含有合金層として、銅(銅含有率:100at%)を使用した以外は、実施例4と同様にして繊維シートを得た。
【0078】
(比較例3)
銅元素含有合金層として、銅ニッケル合金(銅含有率:31at%、ニッケル含有率:69at%)を使用した以外は、実施例4と同様にして繊維シートを得た。
【0079】
(2)測定
(2-1)銅元素含有合金層中の金属元素の付着量の測定
繊維基材に対する銅元素含有合金層中の金属元素の付着量を次のようにして測定した。走査型蛍光X線分析装置(リガク社製走査型蛍光X線分析装置、ZSX PrimusIII+)を用いて加速電圧は50kV、加速電流は50mA、積分時間は60秒とし、測定対象の成分のKα線のX線強度を測定し、ピーク位置に加えてバックグラウンド位置での強度も測定し、正味の強度を算出した。あらかじめ作成した検量線から、測定した強度値を付着量に換算し、同一のサンプルに5回測定を行い、その平均値を各金属元素の付着量とした。
【0080】
(2-2)銅元素含有合金層中の金属元素の組成の測定
銅元素含有合金層中の金属元素の組成を次のようにして算出した。上記(2-1)で測定された銅元素含有合金層中の金属元素の付着量の値と、各金属元素の原子量から、各金属元素の組成(at%)を算出した。
【0081】
(2-3)銅元素含有合金層中の銅元素中、酸化銅(II)として存在する銅元素の割合の測定
銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有量(銅元素含有合金層中の銅元素100at%に対する含有量(at%))を次のようにして測定した。
【0082】
X線光電子分光法(XPS)装置(アルバックファイ社製、PHI5000 VersaProbeII)を用いて、次の条件にて測定し、銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有率(銅元素含有合金層中の銅元素100at%に対する含有率(at%))を算出した。
(XPSの測定条件)
・X線源:単色化AlKα(1486.6eV)
・分光器:静電同心半球型分析器
・光電子取出角:45度
・帯電中和:あり
・X線ビーム径:200μm(50W15kV)
・パスエネルギー:117eV(サーベイ)、58.7eV(ナロー)。
【0083】
(2-4)銅元素含有合金層中の金属元素中、酸化銅(II)として存在する銅元素の割合の測定
銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有量(銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対する含有量(at%))を次のようにして測定した。
【0084】
上記(2-3)で測定された銅元素含有合金層中の銅元素中、酸化銅(II)として存在する銅元素の含有率(at%)と、上記(2-2)で測定された銅元素含有合金層中の銅元素の組成(at%)から、銅元素含有合金層中の酸化銅(II)として存在する銅元素の含有率(銅元素含有合金層中の金属元素100at%に対する含有率(at%))を算出した。
【0085】
(3)評価
(3-1)消臭性試験
実施例及び比較例の繊維シートの消臭性を次のようにして評価した。一般社団法人繊維評価技術協議会によるSEKマーク繊維製品認証基準の検知管法による消臭性試験方法に準拠して試験を行った。
【0086】
試料(100cm2又は1.0g又は200cm2)を内容量5Lの袋内に入れた後、袋内において濃度が4ppmとなるように硫化水素ガスを3L注入し、2時間経過後に硫化水素ガスの残存濃度を測定し、試料を入れない以外は同様にしてブランクを用意し、このブランクの硫化水素ガスの残存濃度を測定し、両社の測定値より硫化水素ガスを除去した総量を算出し、これにより硫化水素ガスの減少率を算出した。
<評価基準>
◎:減少率が99%以上。
〇:減少率が50%以上99%未満。
△:減少率が25%以上50%未満。
×:減少率が25%未満。
【0087】
(3-2)色変化試験
実施例及び比較例の繊維シートの色変化を次のようにして評価した。分光色彩計(日本電飾工業製、SD7000)を用い、JIS Z 8781-4(2013)に準拠して、繊維シートの銅元素含有合金層が付着した面のL*、a*、b*表色系におけるL*、a*、b*を測定した。
【0088】
繊維シートを120℃の雰囲気下に120時間暴露した後のL*、a*、b*と、色変化試験前のL*、a*、b*から、CIE DE2000に規定されるΔE00式を用いて色差を算出した。
<評価基準>
◎:ΔE00が5.0未満。
〇:ΔE00が5.0以上15未満。
×:ΔE00が15以上。
【0089】
(3-3)総合評価
消臭性評価及び色変化評価に基づいて以下の評価基準に従って、総合評価した。
<評価基準>
〇:消臭性評価が○又は◎であり、かつ、色変化評価が○又は◎である。
×:消臭性評価が×、かつ/又は色変化評価が×である。
【0090】
(4)評価
結果を表1及び表2に示す。
【0091】
【0092】