(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023046531
(43)【公開日】2023-04-05
(54)【発明の名称】ロックアップクラッチの制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/14 20060101AFI20230329BHJP
【FI】
F16H61/14 601B
F16H61/14 601A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021155166
(22)【出願日】2021-09-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丁 磊
【テーマコード(参考)】
3J053
【Fターム(参考)】
3J053CA05
3J053CB03
3J053CB09
3J053CB25
3J053DA04
3J053DA08
3J053DA27
(57)【要約】
【課題】急制動時におけるエンジン等の動力源のストールを確実に回避しつつ、ロックアップクラッチの係合領域を十分に確保して、車両の商品性を向上させることができるロックアップクラッチの制御装置を提供すること。
【解決手段】エンジン2と、トランスミッション3と、エンジン2とトランスミッション3との間に設けられるロックアップクラッチ17付きのトルクコンバータ10と、車両1の減速度が所定の急減速判定閾値を超えた場合、ロックアップクラッチ17を解放状態にし、車両1が低μ路を走行中であることが検知された場合は、ロックアップクラッチ17が容易に解放されるような値に急減速判定閾値を設定するTCM5と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと駆動輪との間に設けられたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータを備えた車両のロックアップクラッチの制御装置であって、
前記車両の減速度が所定の急減速判定閾値を超えた場合、前記ロックアップクラッチを解放状態にする制御部を備え、
前記制御部は、前記車両が低μ路を走行中であることが検知された場合は、前記ロックアップクラッチが容易に解放されるような値に前記急減速判定閾値を変更するロックアップクラッチの制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、アクセルがオフにされて走行するコースト走行時に、左右の前記駆動輪の回転差によって前記車両が低μ路を走行中であるか否かの判定を行なう請求項1に記載のロックアップクラッチの制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記ロックアップクラッチが容易に解放されるような値に前記急減速判定閾値を変更してから所定時間経過した後に、前記急減速判定閾値を元の値に戻す請求項1または請求項2に記載のロックアップクラッチの制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ロックアップクラッチが容易に解放されるような値に前記急減速判定閾値を変更してから所定時間経過するまでの間に、前記車両が低μ路を走行中であることが検知された場合は、前記急減速判定閾値を元の値に戻さずに現在の値を維持する請求項3に記載のロックアップクラッチの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックアップクラッチの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと車輪との間にトルクコンバータ等の流体継手が設けられた自動変速機を搭載した車両があり、この流体継手は、その入出力間を機械的に接続可能であるように油圧により作動するロックアップクラッチを備えている。ロックアップクラッチが係合状態にされて流体継手の入出力間が機械的に接続された状態である場合、車両の減速度が大きい急制動時などで車輪がロックすると、エンジンがストールしてしまう。
【0003】
そのため、車両の急制動時に、ロックアップクラッチを解放してエンジンのストールを回避するようにした車両が知られている。
【0004】
しかし、路面の状況、つまり路面が雨で濡れていたり、凍結したりしていると、急制動時に車輪が瞬時にロックしてしまうことがあり、急制動を検知した時にロックアップクラッチを解放しようとする車両では、ロックアップクラッチの解放が間に合わず、エンジンのストールを回避することができない。
【0005】
特許文献1には、前輪側車輪速センサにより検出される車輪速の平均値と後輪側車輪速センサにより検出される車輪速の平均値との差に基づいてスリップ率を算出し、トルクセンサにより検出される駆動トルクとスリップ率から車輪と路面との摩擦係数を算出し、摩擦係数が第2の所定値以下のときはロックアップクラッチを強制的に切り離して、低μ路でのエンジンストールを防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このようなロックアップクラッチの制御装置では、低μ路ではロックアップクラッチが係合されず、ロックアップクラッチの係合領域の大幅な減少によって、燃費が悪化する。その上、ロックアップクラッチを係合することにより得られるダイレクト感がなくなり、アクセル操作による駆動力のコントロール性が悪化してその商品性が低下する。
【0008】
そこで、本発明は、急制動時におけるエンジン等の動力源のストールを確実に回避しつつ、ロックアップクラッチの係合領域を十分に確保して、車両の商品性を向上させることができるロックアップクラッチの制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明は、エンジンと駆動輪との間に設けられたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータを備えた車両のロックアップクラッチの制御装置であって、前記車両の減速度が所定の急減速判定閾値を超えた場合、前記ロックアップクラッチを解放状態にする制御部を備え、前記制御部は、前記車両が低μ路を走行中であることが検知された場合は、前記ロックアップクラッチが容易に解放されるような値に前記急減速判定閾値を変更するものである。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明によれば、急制動時におけるエンジン等の動力源のストールを確実に回避しつつ、ロックアップクラッチの係合領域を十分に確保して、車両の商品性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係る車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係るロックアップクラッチの制御装置のロックアップ解放制御処理の手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係るロックアップクラッチの制御装置のロックアップ解放制御処理による低μ路走行中判定状態の変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施の形態に係るロックアップクラッチの制御装置は、エンジンと駆動輪との間に設けられたロックアップクラッチ付きのトルクコンバータを備えた車両のロックアップクラッチの制御装置であって、車両の減速度が所定の急減速判定閾値を超えた場合、ロックアップクラッチを解放状態にする制御部を備え、制御部は、車両が低μ路を走行中であることが検知された場合は、ロックアップクラッチが容易に解放されるような値に急減速判定閾値を変更するよう構成されている。
【0013】
これにより、本発明の一実施の形態に係るロックアップクラッチの制御装置は、急制動時におけるエンジン等の動力源のストールを確実に回避しつつ、ロックアップクラッチの係合領域を十分に確保して、車両の商品性を向上させることができる。
【実施例0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施例に係るロックアップクラッチの制御装置について詳細に説明する。
【0015】
図1において、本発明の一実施例に係るロックアップクラッチの制御装置を搭載した車両1は、内燃機関としてのエンジン2と、自動変速機としてのトランスミッション3と、エンジン2を制御するECM(Engine Control Module)4と、トランスミッション3を制御する制御部としてのTCM(Transmission Control Module)5と、を含んで構成される。
【0016】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程からなる一連の4行程を行うように構成されている。
【0017】
エンジン2のクランク軸2Aには、トルクコンバータ10が連結されている。トルクコンバータ10は、フロントカバー11とフロントカバー11に連結されるポンプシェル12とを有する。
【0018】
フロントカバー11は、図示しないドライブプレートを介してエンジン2のクランク軸2Aに連結されており、フロントカバー11およびポンプシェル12は、クランク軸2Aと一体で回転する。
【0019】
トルクコンバータ10は、ポンプシェル12に固定されるポンプインペラ14と、ポンプインペラ14に対向するタービンランナ15とを備えている。タービンランナ15は、タービン軸16に連結されている。
【0020】
トルクコンバータ10には作動油が供給されており、エンジン2からポンプシェル12に動力が伝達されると、ポンプインペラ14の回転による遠心力によって、トルクコンバータ10の内部の作動油にポンプインペラ14からタービンランナ15に向かう流れが生じる。
【0021】
この作動油の流れによりタービンランナ15が回転され、エンジン2の動力がタービンランナ15からタービン軸16に伝達される。
【0022】
トルクコンバータ10にはロックアップクラッチ17が設けられており、ロックアップクラッチ17は、クランク軸2Aとタービン軸16とを直結する。
【0023】
ロックアップクラッチ17がフロントカバー11に押し付けられると、ロックアップクラッチ17が締結状態に切替えられる。これにより、タービン軸16とクランク軸2Aとが直結され、エンジン2の動力が流体を介さずにタービン軸16に伝達される。
【0024】
一方、ロックアップクラッチ17がフロントカバー11から引き離されると、ロックアップクラッチ17が解放状態に切替えられる。これにより、エンジン2の動力は、ポンプインペラ14からタービンランナ15を介してタービン軸16に伝達される。すなわち、エンジン2の動力が流体を介してタービン軸16に伝達される。
【0025】
ポンプインペラ14とタービンランナ15との間にはステータ15Sが設置されている。ステータ15Sは、タービンランナ15からポンプインペラ14に向かう作動の流れをポンプインペラ14の回転方向に沿うように変換することにより、エンジン2の動力を増幅させる。
【0026】
トランスミッション3は、エンジン2から出力された回転を変速し、出力軸6を介してディファレンシャル装置7に出力する。ディファレンシャル装置7に出力された回転は、左右の駆動軸8L、8Rに分配された後に、左右の駆動輪9L、9Rを駆動するようになっている。トランスミッション3は、平行軸歯車機構からなる常時噛合式の図示しない変速機構と、シフトアクチュエータ52とを備えている。
【0027】
シフトアクチュエータ52は、TCM5の制御により変速機構におけるギア段の切換えを行なう。変速機構で成立可能なギア段としては、例えば低速段である1速段から高速段である5速段までの走行用のギア段と、後進段と、ニュートラルとがある。走行用のギア段の段数は、車両1の諸元により異なり、上述の1速段から5速段に限られるものではない。
【0028】
エンジン2とトランスミッション3の間には、ノーマルクローズタイプの乾式クラッチによって構成されるクラッチ31が設けられており、クラッチ31は、エンジン2とトランスミッション3との間の動力伝達を接続または切断する。
【0029】
クラッチ31は、タービン軸16に締結され、タービン軸16と一体で回転するクラッチホイールディスク32と、入力軸34に一体回転自在、かつ入力軸34の軸方向に移動自在に設けられ、入力軸34と一体で回転するクラッチディスク33とを有する。
【0030】
クラッチ31は、クラッチディスク33がクラッチホイールディスク32から離隔されることで、エンジン2のクランク軸2Aの動力がトルクコンバータ10のタービン軸16から入力軸34に伝達されなくなる。
【0031】
また、クラッチ31は、クラッチディスク33がクラッチホイールディスク32に密着されることで、エンジン2のクランク軸2Aの動力がトルクコンバータ10のタービン軸16から入力軸34に伝達される。
【0032】
クラッチ31は、TCM5により制御されたクラッチアクチュエータ51により接続及び解放が行なわれる。クラッチアクチュエータ51には、クラッチストロークセンサ53が設けられている。クラッチストロークセンサ53は、クラッチ31を解放する機構部品(例えば、レリーズベアリングやレリーズフォーク等の部品)の位置や移動量を検出し、検出信号をTCM5に出力する。
【0033】
トランスミッション3は、いわゆるAMT(Automated Manual Transmission)として構成されている。
【0034】
ECM4及びTCM5は、それぞれCPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0035】
これらのコンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットをECM4及びTCM5としてそれぞれ機能させるためのプログラムが格納されている。
【0036】
すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、これらのコンピュータユニットは、本実施例におけるECM4及びTCM5としてそれぞれ機能する。
【0037】
車両1には、CAN(Controller Area Network)等の規格に準拠した車内LAN(Local Area Network)を形成するためのCAN通信線61が設けられている。
【0038】
TCM5は、CAN通信線61によってECM4に接続されている。ECM4及びTCM5は、CAN通信線61を介して制御信号等の信号の送受信を相互に行なう。
【0039】
TCM5の入力ポートには、前述したクラッチストロークセンサ53に加え、シフトポジションセンサ55、左右の車輪速センサ56L、56R、操舵角センサ57、アクセル開度センサ58、ブレーキスイッチ59を含む各種センサ類が接続されている。
【0040】
シフトポジションセンサ55は、運転者によるシフトレバー54の操作により選択されたシフト位置を検出する。シフト位置は、例えば、前進走行レンジ(Dレンジ)、後進走行レンジ(Rレンジ)、停車レンジ(Nレンジ)、駐車レンジ(Pレンジ)のいずれかが選択される。
【0041】
左の車輪速センサ56Lは、左の駆動輪9Lの回転速度を検出する。右の車輪速センサ56Rは、右の駆動輪9Rの回転速度を検出する。操舵角センサ57は、不図示のステアリングの操舵角を検出する。アクセル開度センサ58は、運転者によって操作される不図示のアクセルペダルの開度であるアクセル開度を検出する。ブレーキスイッチ59は、図示しないブレーキペダルが踏まれているか否かを検出する。
【0042】
一方、TCM5の出力ポートには、前述したトルクコンバータ10、クラッチアクチュエータ51、シフトアクチュエータ52を含む制御対象類が接続されている。
【0043】
本実施例において、TCM5は、車両1の減速度が所定の急減速判定閾値を超えた場合、ロックアップクラッチ17を解放状態にする。
【0044】
TCM5は、車両1が低μ路を走行中であることが検知された場合は、ロックアップクラッチ17が容易に解放されるような値に急減速判定閾値を設定する。TCM5は、例えば、車両1が低μ路を走行中であることが検知された場合は、急減速判定閾値を通常の第1閾値から、第1閾値より値の低い第2閾値に変更する。
【0045】
TCM5は、車両1が低μ路を走行中であるか否かの判定を、アクセルがオフにされて走行するコースト走行時に行なう。
【0046】
TCM5は、左右の駆動輪9L、9Rの回転差によって車両1が低μ路を走行中であるか否かの判定を行なう。TCM5は、例えば、駆動輪9L、9Rの回転差が所定の回転差閾値を超えた場合、車両1が低μ路を走行中であると判定する。
【0047】
TCM5は、急減速判定閾値を第2閾値に変更してから所定時間経過した後に、急減速判定閾値を第1閾値に戻す。
【0048】
TCM5は、急減速判定閾値を第2閾値に変更してから所定時間経過するまでの間に、車両1が低μ路を走行中であることが検知された場合は、急減速判定閾値として第2閾値を使うことを維持する。
【0049】
TCM5は、例えば、急減速判定閾値を第2閾値に変更してから所定時間経過するまでの間に、車両1が低μ路を走行中であることが検知された場合に、所定時間の計時をリセットし、再度所定時間の計時を開始する。
【0050】
TCM5は、例えば、ステアリングの操舵角が操舵角閾値よりも小さい場合に、車両1が低μ路を走行中であるか否かの判定を行なうようにしてもよい。
【0051】
TCM5は、例えば、駆動輪9L、9Rの回転差が所定の回転差閾値を超えた場合にカウンターに1を加算し、所定時間の間にカウンターがカウンター閾値を超えた場合、車両1が低μ路を走行中であると判定するようにしてもよい。
【0052】
TCM5は、例えば、駆動輪9L、9Rの回転差が所定の回転差閾値以下になったら、時間を計るタイマーを作動させ、タイマーがタイマー閾値と等しくなる前に駆動輪9L、9Rの回転差が所定の回転差閾値を超えた場合は、カウンターに1を加算し、タイマーをリセットさせるようにしてもよい。
【0053】
TCM5は、例えば、タイマーの計時中に、アクセルが踏み込まれている間、タイマーの計時を停止させてもよい。
【0054】
TCM5は、例えば、タイマーがタイマー閾値と等しくなった場合には、カウンターとタイマーの両方をリセットしてゼロにするようにしてもよい。
【0055】
TCM5は、例えば、タイマーがタイマー閾値と等しくなった場合には、車両1が低μ路を走行中でないと判定し、急減速判定閾値を第1閾値に戻すようにしてもよい。
【0056】
以上のように構成された本実施例に係るロックアップクラッチの制御装置によるロックアップ解放制御処理について、
図2を参照して説明する。なお、以下に説明するロックアップ解放制御処理は、TCM5が動作を開始すると開始され、予め設定された時間間隔で実行される。
【0057】
ステップS1において、TCM5は、アクセルペダルが開放されアクセルオフの状態であるか否かを判定する。
【0058】
アクセルオフの状態であると判定した場合には、TCM5は、ステップS2の処理を実行する。アクセルオフの状態でないと判定した場合には、TCM5は、ステップS17の処理を実行する。
【0059】
ステップS2において、TCM5は、ステアリングの操舵角が操舵角閾値以下であるか否かを判定する。
【0060】
ステアリングの操舵角が操舵角閾値以下であると判定した場合には、TCM5は、ステップS3の処理を実行する。ステアリングの操舵角が操舵角閾値以下でないと判定した場合には、TCM5は、ステップS2の処理を実行する。
【0061】
ステップS3において、TCM5は、左右の駆動輪9L、9Rの回転差が所定の回転差閾値より大きいか否かを判定する。
【0062】
駆動輪9L、9Rの回転差が回転差閾値より大きいと判定した場合には、TCM5は、ステップS4の処理を実行する。駆動輪9L、9Rの回転差が回転差閾値より大きくないと判定した場合には、TCM5は、ステップS6の処理を実行する。
【0063】
ステップS4において、TCM5は、カウンターに1を加算する。ステップS4の処理を実行した後、TCM5は、ステップS5の処理を実行する。
【0064】
ステップS5において、TCM5は、タイマーをリセットしてゼロにし、タイマーの計時を停止する。ステップS5の処理を実行した後、TCM5は、ステップS10の処理を実行する。
【0065】
ステップS6において、TCM5は、タイマーを作動させタイマーの計時を開始する。なお、タイマーが停止されていて、タイマーの計時が止まっているときは、止まっているタイマーの値から計時を再開する。ステップS6の処理を実行した後、TCM5は、ステップS7の処理を実行する。
【0066】
ステップS7において、TCM5は、タイマーの値がタイマー閾値以下であるか否かを判定する。
【0067】
タイマーの値がタイマー閾値以下であると判定した場合には、TCM5は、ステップS8の処理を実行する。タイマーの値がタイマー閾値以下でないと判定した場合には、TCM5は、ステップS9の処理を実行する。
【0068】
ステップS8において、TCM5は、カウンターの値をそのまま保持する。ステップS8の処理を実行した後、TCM5は、ステップS10の処理を実行する。
【0069】
ステップS9において、TCM5は、カウンターとタイマーをリセットしてゼロにする。ステップS9の処理を実行した後、TCM5は、ステップS10の処理を実行する。
【0070】
ステップS10において、TCM5は、カウンターの値がカウンター閾値より小さいか否かを判定する。
【0071】
カウンターの値がカウンター閾値より小さいと判定した場合には、TCM5は、ステップS11の処理を実行する。カウンターの値がカウンター閾値より小さくないと判定した場合には、TCM5は、ステップS12の処理を実行する。
【0072】
ステップS11において、TCM5は、第1閾値を急減速判定閾値とする。ステップS11の処理を実行した後、TCM5は、ステップS13の処理を実行する。
【0073】
ステップS12において、TCM5は、第2閾値を急減速判定閾値とする。ステップS12の処理を実行した後、TCM5は、ステップS13の処理を実行する。
【0074】
ステップS13において、TCM5は、ブレーキペダルが踏み込まれているブレーキオンの状態であるか否かを判定する。
【0075】
ブレーキオンの状態であると判定した場合には、TCM5は、ステップS14の処理を実行する。ブレーキオンの状態でないと判定した場合には、TCM5は、ステップS1の処理を実行する。
【0076】
ステップS14において、TCM5は、ロックアップクラッチ17が締結状態であるロックアップオンの状態であるか否かを判定する。
【0077】
ロックアップオンの状態であると判定した場合には、TCM5は、ステップS15の処理を実行する。ロックアップオンの状態でないと判定した場合には、TCM5は、ステップS1の処理を実行する。
【0078】
ステップS15において、TCM5は、車両1の減速度が急減速判定閾値より大きいか否かを判定する。
【0079】
車両1の減速度が急減速判定閾値より大きいと判定した場合には、TCM5は、ステップS16の処理を実行する。車両1の減速度が急減速判定閾値より大きくないと判定した場合には、TCM5は、ステップS1の処理を実行する。
【0080】
ステップS16において、TCM5は、ロックアップクラッチ17を解放状態とするロックアップ解放を行なう。ステップS16の処理を実行した後、TCM5は、ロックアップ解放制御処理を終了する。
【0081】
ステップS17において、TCM5は、タイマーを停止し、タイマーの計時を一時的に止める。ステップS17の処理を実行した後、TCM5は、ロックアップ解放制御処理を終了する。
【0082】
このようなロックアップ解放制御処理による動作について
図3を参照して説明する。
時刻t1において、アクセルペダルが踏み込まれてアクセル開度が上がると、タイマーの計時が停止される。
【0083】
時刻t2において、アクセルペダルが開放されアクセルオフの状態になると、駆動輪左右輪回転差が回転差閾値を超えていないため、タイマーの計時が再開される。
【0084】
時刻t3において、駆動輪左右輪回転差が回転差閾値を超えると、カウンターが1加算され、タイマーがリセットされタイマーの計時が停止される。
【0085】
時刻t4において、駆動輪左右輪回転差が回転差閾値を下回ると、タイマーの計時が開始され、カウンターの値は保持される。
【0086】
時刻t5において、アクセルペダルが踏み込まれてアクセル開度が上がると、タイマーの計時が停止される。
【0087】
時刻t6において、アクセルペダルが開放されアクセルオフの状態になると、駆動輪左右輪回転差が回転差閾値を超えていないため、タイマーの計時が再開される。
【0088】
時刻t7において、駆動輪左右輪回転差が回転差閾値を超えると、カウンターが1加算され、カウンターがカウンター閾値以上となり、低μ路走行中判定が成立し、急減速判定閾値が第2閾値に変更される。また、タイマーがリセットされタイマーの計時が停止される。
【0089】
時刻t8において、駆動輪左右輪回転差が回転差閾値を下回ると、タイマーの計時が開始され、カウンターの値は保持され、低μ路走行中判定が成立した状態が続く。
【0090】
時刻t9において、タイマーの値がタイマー閾値を超えると、カウンターの値がゼロにリセットされ、低μ路走行中判定が不成立となり、急減速判定閾値が第1閾値に戻される。また、タイマーがリセットされタイマーの計時が停止される。
【0091】
このように、本実施例では、TCM5は、車両1が低μ路を走行中であることが検知された場合は、ロックアップクラッチ17が容易に解放されるような値に急減速判定閾値を設定する。
【0092】
これにより、車両1が低μ路を走行中であることが検知された場合に、ロックアップクラッチ17が容易に解放されるように急減速判定閾値が設定される。このため、急制動時におけるエンジン2等の動力源のストールを確実に回避しつつ、ロックアップクラッチ17の係合領域を十分に確保して、車両1の商品性を向上させることができる。
【0093】
また、TCM5は、アクセルがオフにされて走行するコースト走行時に、左右の駆動輪9L、9Rの回転差によって車両1が低μ路を走行中であるか否かの判定を行なう。
【0094】
これにより、エンジン2の回転変動やトルク変動による外乱を抑制することで、エンジン2に起因する駆動輪9L、9Rの回転変動を抑制することができ、安定的に確実に低μ路の判定を行なうことができる。特に、ディファレンシャル装置7を介して連結された左右の駆動輪9L、9Rの回転差にて判定するので、確実に低μ路の判定を行なうことができる。
【0095】
また、TCM5は、急減速判定閾値を第2閾値に変更してから所定時間経過した後に、急減速判定閾値を第1閾値に戻す。
【0096】
これにより、低μ路を走行中であると判定されてから、所定時間経過すると急減速判定閾値が第1閾値に戻される。このため、路面状態に応じて適切な急減速判定閾値を使用することができる。
【0097】
また、TCM5は、急減速判定閾値を第2閾値に変更してから所定時間経過するまでの間に、車両1が低μ路を走行中であることが検知された場合は、急減速判定閾値として第2閾値を使うことを維持する。
【0098】
これにより、低μ路が続く場合は、継続して低μ路用の第2閾値が使用され、適切な急減速判定閾値を使用することができる。
【0099】
本実施例では、各種センサ情報に基づきTCM5が各種の判定や算出を行なう例について説明したが、これに限らず、車両1が外部サーバ等の車外装置と通信可能な通信部を備え、該通信部から送信された各種センサの検出情報に基づき車外装置によって各種の判定や算出が行なわれ、その判定結果や算出結果を通信部で受信して、その受信した判定結果や算出結果を用いて各種制御を行なってもよい。
【0100】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。