(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047394
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】車両用空調装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/32 20060101AFI20230330BHJP
【FI】
B60H1/32 623Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156286
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】縣 弘樹
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA23
3L211DA99
3L211EA56
3L211EA76
3L211FA24
3L211FA43
3L211FB04
3L211GA29
(57)【要約】
【課題】エンジンの暖機状態と冷機状態とを区別して、冷媒の状態を管理することにより、冷媒の状態をより的確に判定することができる車両用空調装置を提供する。
【解決手段】車両用空調装置100は、冷媒を圧縮するコンプレッサ102と、エンジン108の温度を計測する冷却水温センサ124と、外気温度を計測する外気温センサ126と、冷媒の不足または過充填を判定する冷媒状態判定部132と、冷媒状態判定部が冷媒の不足または過充填を判定するとコンプレッサを停止するコンプレッサ制御部134とを備え、冷媒状態判定部は、冷却水温センサで計測されたエンジンの温度と外気温センサで計測された外気温度とを比較してエンジンの暖機状態または冷機状態を判定し、冷媒の冷媒圧が第1閾値未満である場合に冷媒の不足を判定し、第2閾値以上である場合に冷媒の過充填を判定し、エンジンの暖機状態と冷機状態とで第1閾値および第2閾値を変更する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を流通させて車室内の空調を行う車両用空調装置であって、
前記冷媒を圧縮するコンプレッサと、
エンジンの温度を計測する第1センサと、
外気温度を計測する第2センサと、
前記冷媒の不足または過充填が生じているか否かを判定する冷媒状態判定部と、
前記冷媒状態判定部が前記冷媒の不足または過充填を判定すると前記コンプレッサを停止するコンプレッサ制御部とを備え、
前記冷媒状態判定部は、
前記第1センサで計測された前記エンジンの温度と前記第2センサで計測された前記外気温度とを比較し該比較結果に応じて前記エンジンが暖機状態または冷機状態のいずれかであるかを判定し、
前記冷媒の冷媒圧が所定の第1閾値未満である場合に前記冷媒の不足を判定し所定の第2閾値以上である場合に前記冷媒の過充填を判定し、
前記エンジンの暖機状態と冷機状態とで前記第1閾値および第2閾値を変更することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
当該車両用空調装置はさらに、
前記外気温度によって決定される基準閾値を示す基準閾値マップと、
前記基準閾値を補正する補正値を示す補正値マップと、を有し、
前記冷媒状態判定部は、
前記エンジンが冷機状態であるときは前記基準閾値マップに基づいて前記第1閾値および第2閾値を決定し、
前記エンジンが暖機状態であるときは前記基準閾値マップおよび補正値マップに基づいて前記第1閾値および第2閾値を決定することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記補正値マップの補正値は、前記エンジンの温度と外気温度との温度差に応じて決定されていて、
前記冷媒状態判定部は、
前記エンジンの温度と前記外気温が同じであるときは前記エンジンが冷機状態であると判定し、
前記エンジンの温度が前記外気温よりも大きいときは前記エンジンが暖機状態であると判定することを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両には、車両用空調装置が設置されている。車両用空調装置は、インストルメントパネル内などに配置された空調ユニット(HVACとも称される)を備え、空調ユニットから吹き出される空調風によって車室内の快適性を保つ装置である。
【0003】
車両用空調装置は、冷媒が不足した状態で稼働し続けると、例えばスーパーヒート過大や、冷媒を圧縮するコンプレッサの温度が異常に上昇してゴム部品の損傷やロックなどの不具合が生じる場合があり得る。このため、車両用空調装置では、冷媒の不足を判定することが必要となる。
【0004】
特許文献1には、冷媒をバイパスさせるバイパス回路と、複数の冷媒流路と、第1冷媒流量算出部と、第2冷媒流量算出部と、判定部とを備えた冷凍装置が記載されている。第1冷媒流量算出部は、バイパス回路を流れる冷媒流量を、冷凍サイクル理論に基づき第1冷媒流量として算出する。第2冷媒流量算出部は、バイパス回路を流れる冷媒流量を、流体理論に基づき第2冷媒流量として算出する。判定部は、第1冷媒流量と第2冷媒流量との比較結果に基づいて、冷媒漏洩または充填冷媒量不足の有無を判定する。
【0005】
特許文献1の冷凍装置では、バイパス回路を流れる冷媒流量が、冷凍サイクル理論に基づいた第1冷媒流量として算出される一方で、流体理論に基づいた第2冷媒流量として算出され、第1冷媒流量と第2冷媒流量との比較によって冷媒漏洩または充填冷媒量不足の有無が判定される。その結果、試験またはシミュレーションにより最適な冷媒量を予め算出する手間を要せずに、冷媒漏洩または冷媒充填量不足の有無の判定を行うことが可能となる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし特許文献1に記載の技術では、複数の冷媒流路を設ける必要があり、回路や計測装置などが複数必要になるため、装置が複雑になってしまう。また、冷媒の冷媒圧によって冷媒の状態すなわち冷媒の不足または過充填が生じているかを判定しようとしても、冷媒圧は、冷媒流量以外の条件によっても変動する。このため、特許文献1のように、冷媒流量を比較するだけでは、冷媒の状態を的確に判定することは困難である。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑み、エンジンの暖機状態と冷機状態とを区別して、冷媒の状態を管理することにより、冷媒の状態をより的確に判定することができる車両用空調装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両用空調装置の代表的な構成は、冷媒を流通させて車室内の空調を行う車両用空調装置であって、冷媒を圧縮するコンプレッサと、エンジンの温度を計測する第1センサと、外気温度を計測する第2センサと、冷媒の不足または過充填が生じているか否かを判定する冷媒状態判定部と、冷媒状態判定部が冷媒の不足または過充填を判定するとコンプレッサを停止するコンプレッサ制御部とを備え、冷媒状態判定部は、第1センサで計測されたエンジンの温度と第2センサで計測された外気温度とを比較し比較結果に応じてエンジンが暖機状態または冷機状態のいずれかであるかを判定し、冷媒の冷媒圧が所定の第1閾値未満である場合に冷媒の不足を判定し所定の第2閾値以上である場合に冷媒の過充填を判定し、エンジンの暖機状態と冷機状態とで第1閾値および第2閾値を変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エンジンの暖機状態と冷機状態とを区別して、冷媒の状態を管理することにより、冷媒の状態をより的確に判定することができる車両用空調装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例に係る車両用空調装置の構成を示す図である。
【
図2】
図1の車両用空調置の処理を示すフローチャートである。
【
図3】
図1の冷媒状態判定部で用いられる基準閾値を示す図である。
【
図4】
図3の基準閾値を補正する補正値を示す図である。
【
図5】
図1の冷媒状態判定部で用いられる他の基準閾値マップおよび補正値マップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施の形態に係る車両用空調装置の代表的な構成は、冷媒を流通させて車室内の空調を行う車両用空調装置であって、冷媒を圧縮するコンプレッサと、エンジンの温度を計測する第1センサと、外気温度を計測する第2センサと、冷媒の不足または過充填が生じているか否かを判定する冷媒状態判定部と、冷媒状態判定部が冷媒の不足または過充填を判定するとコンプレッサを停止するコンプレッサ制御部とを備え、冷媒状態判定部は、第1センサで計測されたエンジンの温度と第2センサで計測された外気温度とを比較し比較結果に応じてエンジンが暖機状態または冷機状態のいずれかであるかを判定し、冷媒の冷媒圧が所定の第1閾値未満である場合に冷媒の不足を判定し所定の第2閾値以上である場合に冷媒の過充填を判定し、エンジンの暖機状態と冷機状態とで第1閾値および第2閾値を変更することを特徴とする。
【0013】
上記構成では、エンジンの温度(例えばエンジンの冷却水やオイルの温度)と外気温とを比較することにより、エンジンの暖機状態または冷機状態を判定する。そしてエンジンの暖機状態と冷機状態とを区別して、冷媒の不足または過充填が生じているか否かという冷媒の状態を判定する閾値を変更する。
【0014】
したがって上記構成によれば、エンジンの暖機状態と冷機状態とを区別して、冷媒の状態を管理することにより、冷媒の状態をより的確に判定することができる。また、冷媒の不足または過充填とされると、コンプレッサを停止することにより、車両用空調装置に不具合が生じることを回避することもできる。
【0015】
上記の車両用空調装置はさらに、外気温度によって決定される基準閾値を示す基準閾値マップと、基準閾値を補正する補正値を示す補正値マップと、を有し、冷媒状態判定部は、エンジンが冷機状態であるときは基準閾値マップに基づいて第1閾値および第2閾値を決定し、エンジンが暖機状態であるときは基準閾値マップおよび補正値マップに基づいて第1閾値および第2閾値を決定する。
【0016】
上記構成では、基準閾値を示す基準閾値マップと、基準閾値を補正する補正値を示す補正値マップとを予め用意し、エンジンの暖機状態と冷機状態とを区別して各マップを読み出して閾値を選択可能としている。
【0017】
すなわちエンジンが冷機状態であれば、基準閾値マップが示す基準閾値としての第1閾値および第2閾値を用いて冷媒の状態を判定することができる。また、エンジンが暖機状態であれば、補正値マップが示す補正値を用いて第1閾値および第2閾値を補正した各補正閾値によって冷媒の状態を判定することができる。このように予め用意したマップを読み出すという簡易な構成により、エンジンの暖機状態と冷機状態とを区別して冷媒の状態を短時間で的確に判定することができる。
【0018】
上記の補正値マップの補正値は、エンジンの温度と外気温度との温度差に応じて決定されていて、冷媒状態判定部は、エンジンの温度と外気温が同じであるときはエンジンが冷機状態であると判定し、エンジンの温度が外気温よりも大きいときはエンジンが暖機状態であると判定する。
【0019】
このようにしてエンジンの温度と外気温を比較することにより、エンジンが冷機状態または暖機状態であるかを判定することができる。また第1閾値および第2閾値を補正した各補正閾値は、エンジンの温度と外気温度との温度差に応じて決定される補正値マップの補正値を用いて基準閾値を補正したものであり、エンジンの稼働による温度の変化を考慮した値である。このため、エンジンが暖機状態であるとき、補正閾値を用いることにより、冷媒の状態をより的確に判定することができる。
【実施例0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0021】
図1は、本発明の実施例に係る車両用空調装置100の構成を示す図である。車両用空調装置100は、冷媒を流通させて車室内の空調を行う装置であって、冷媒ガスを圧縮するコンプレッサ102と、空調ユニット(HVAC)104と、コンデンサ106とを備える。
【0022】
車両用空調装置100では、コンプレッサ102が冷媒ガスを圧縮して高温高圧の状態にする。コンプレッサ102は、エンジン108によりベルト110を介して駆動される。コンプレッサ102で高温高圧となったガス状の冷媒は、冷媒配管112を介してコンデンサ106に送られる。
【0023】
コンデンサ106の車両後方側には、エンジンルーム内に外気を取り込むコンデンサファン114が配置されている。コンデンサ106は、コンデンサファン114により取り込まれた外気によって、高温高圧のガス状の冷媒を強制的に冷却して液化させる。コンデンサ106で液化された冷媒は、冷媒配管116を介して、膨張弁118を通って減圧され、さらに空調ユニット104内のエバポレータ120まで送られる。
【0024】
エバポレータ120は、膨張弁118で減圧された冷媒と車室内の空気と熱交換し、これにより冷却される。そして、この冷却されたエバポレータ120に、空調ユニット104内の不図示のブロワファンで発生させた風を通過させることで冷風を発生させる。なおエバポレータ120に送られた冷媒は、冷媒配管122を通ってコンプレレッサ102を介して、さらに冷媒配管112を通ってコンデンサ106に戻される。
【0025】
車両用空調装置100はさらに、エンジン108の温度を計測する第1センサとしての冷却水温センサ124と、外気温度を計測する第2センサ(外気温センサ126)と、冷媒圧センサ128と、電子制御ユニット(ECU)130とを備える。なお第1センサとしては、エンジン108の冷却水を測定する冷却水温センサ124に限らず、エンジンオイルの温度を測定するセンサであってもよい。また冷媒圧センサ128は、冷媒配管116に配置されていて、冷媒の冷媒圧を計測する。
【0026】
ECU130は、冷媒状態判定部132と、コンプレッサ制御部134と、メモリ136とを有する。冷媒状態判定部132は、冷媒の状態すなわち冷媒の不足または過充填が生じているか否かを判定する。コンプレッサ制御部134は、冷媒状態判定部132が冷媒の不足または過充填を判定すると、コンプレッサ102を停止する。
【0027】
メモリ136は、冷媒状態判定部132による冷媒の状態の判定に用いられる基準閾値マップ138(
図3(a)参照)および補正値マップ140(
図4(a)参照)と、
図5に示す他の基準閾値マップ142および補正値マップ144を記憶している。
【0028】
以下、車両用空調制御装置100の動作について説明する。
図2は、
図1の車両用空調置100の処理を示すフローチャートである。
【0029】
まず、ECU130の冷媒状態判定部132は、エンジン108が暖機状態か否かを判定する(ステップS100)。ステップS100では、冷却水温センサ124で計測されたエンジン108の冷却水温度が、外気温センサ126で計測された外気温よりも大きいときはエンジン108が暖機状態であると判定する。一方、エンジン108の冷却水温度と外気温が同じであるときは、冷媒状態判定部132は、エンジン108が冷機状態であると判定する。
【0030】
図3は、
図1の冷媒状態判定部132で用いられる基準閾値Pを示す図である。
図4は、
図3の基準閾値Pを補正する補正値Aを示す図である。
図5は、
図1の冷媒状態判定部132で用いられる他の基準閾値マップ142および補正値マップ144を示す図である。
【0031】
図2のステップS100でエンジン108が暖機状態であれば(Yes)、冷媒状態判定部132は、メモリ136から
図4(a)に示す補正値マップ140および
図5(b)に示す他の補正値マップ144を読み出す(ステップS102)。つぎに、冷媒状態判定部132は、メモリ136から
図3(a)に示す基準閾値マップ138および
図5(a)に示す他の基準値マップ142を読み出す(ステップS104)。
【0032】
基準閾値マップ138の基準閾値Pは、
図3(b)のグラフに示すように外気温度によって決定される。また補正値マップ140の補正値Aは、
図4(b)のグラフに示すように、エンジン108の冷却水温度と外気温との温度差に応じて決定されている。
【0033】
そして冷媒状態判定部132は、読み出した基準閾値マップ138および補正値マップ140に基づいて、冷媒の不足を判定する第1閾値を決定する。ここでの第1閾値は、基準閾値Pを補正値Aによって補正した補正閾値「P+A」とされる。つまり、エンジン108が暖機状態であるときは、第1閾値は「P+A」となる。
【0034】
一方、ステップS100において、エンジン108の冷却水温度と外気温が同じでエンジン108が冷機状態であれば(No)、冷媒状態判定部132は、補正値マップ140を読み出さず、基準閾値マップ138のみに基づいて第1閾値を決定する。つまり、エンジン108が冷機状態であるときは、基準閾値Pが補正されず、第1閾値は「P」となる。このように冷媒状態判定部132では、エンジン108の暖機状態と冷機状態とで第1閾値を変更している。
【0035】
続いて冷媒状態判定部132は、冷媒圧センサ128から計測された冷媒の冷媒圧が第1閾値未満であるか否かを判定する(ステップS106)。ステップS106で冷媒圧が第1閾値未満であれば(Yes)、冷媒状態判定部132は、冷媒の不足(あるいは漏れ)を検出する(ステップS108)。つぎにECU130のコンプレッサ制御部134は、冷媒状態判定部132が冷媒の不足を判定するとコンプレッサ102を停止する(ステップS110)。
【0036】
一方、ステップS106において、冷媒圧が第1閾値以上であれば(No)、冷媒状態判定部132は、冷媒圧が第2閾値以上であるか否かを判定する(ステップS112)。第2閾値とは、冷媒の過充填を判定する閾値である。冷媒状態判定部132は、エンジン108が暖機状態であれば、ステップS102、S104でメモリ136から読み出した
図5に示す基準閾値マップ142および補正値マップ144に基づいて、冷媒の過充填を判定する第2閾値を決定する。
【0037】
基準閾値マップ142の基準閾値P´は、
図5(a)に示すように外気温度によって決定される。また補正値マップ144の補正値A´は、
図5(b)に示すように、エンジン108の冷却水温度と外気温との温度差に応じて決定されている。ここでの第2閾値は、基準閾値P´を補正値A´によって補正した補正閾値「P´+A´」とされる。つまり、エンジン108が暖機状態であるときは、第2閾値は「P´+A´」となる。
【0038】
一方、エンジン108が冷機状態であれば、冷媒状態判定部132は、補正値マップ144を読み出さず、基準閾値マップ142のみに基づいて第2閾値を決定する。つまり、エンジン108が冷機状態であるときは、基準閾値P´が補正されず、第2閾値は「P´」となる。このように冷媒状態判定部132では、エンジン108の暖機状態と冷機状態とで第2閾値を変更している。
【0039】
ステップS112で冷媒圧が第2閾値以上であれば(Yes)、冷媒状態判定部132は、冷媒の過充填を検出する(ステップS114)。つぎにコンプレッサ制御部134は、冷媒状態判定部132が冷媒の過充填を判定すると、コンプレッサ102を停止する(ステップS110)。一方、ステップS112において、冷媒圧が第2閾値未満であれば(No)、コンプレッサ102を停止せず、処理を終了する。
【0040】
このように車両用空調装置100では、エンジン108の温度(例えばエンジン108の冷却水やオイルの温度)と外気温とを比較することにより、エンジン108の暖機状態または冷機状態を判定する。そしてエンジン108の暖機状態と冷機状態とを区別して、冷媒の不足または過充填が生じているか否かという冷媒の状態を判定する閾値を変更するため、冷媒の状態をより的確に判定することができる。
【0041】
また車両用空調装置100では、冷媒の不足または過充填と判定されると、コンプレッサ102を停止することにより、例えばコンプレッサ102の温度が異常に上昇してゴム部品の損傷やロックなどの不具合が生じることを回避することができる。
【0042】
さらに車両用空調装置100では、基準閾値P、P´を示す基準閾値マップ138、142と、基準閾値P、P´を補正する補正値A、A´を示す補正値マップ140、144とを予めメモリ136に記憶させて、エンジン108の暖機状態と冷機状態とを区別して各マップを読み出して閾値を選択可能としている。
【0043】
すなわちエンジン108が冷機状態であれば、基準閾値マップ138、142が示す基準閾値P、P´としての第1閾値および第2閾値を用いて冷媒の状態を判定することができる。また、エンジン108が暖機状態であれば、補正値マップ140、144が示す補正値A、A´を用いて第1閾値および第2閾値を補正した各補正閾値「P+A」「P´+A´」によって冷媒の状態を判定することができる。
【0044】
このように車両用空調装置100では、予めメモリ136に記憶した各マップを読み出すという簡易な構成により、エンジン108の暖機状態と冷機状態とを区別して冷媒の状態を短時間で的確に判定することができる。
【0045】
さらにエンジン108が暖機状態であるとき、第1閾値および第2閾値を補正した各補正閾値「P+A」「P´+A´」は、エンジン108の温度と外気温度との温度差に応じて決定される補正値マップ140、144の補正値A、A´を用いて、基準閾値P、P´を補正したものであり、エンジン108の稼働による温度の変化を考慮した値である。このため車両用空調装置100では、エンジン108が暖機状態であるとき、各補正閾値を用いることにより、冷媒の状態をより的確に判定することができる。
【0046】
なお上記各マップの値は、あくまで例示に過ぎず、実際はエアコンシステムや車両によって適合が必要になる。ただし各マップに示すように外気温が高いほど基準閾値が高くなり、エンジン108の冷却水温度と外気温との温度差が大きい(エンジン108の熱影響が大きい)ほど、基準閾値の補正値を大きく設定することができる。
【0047】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
100…車両用空調装置、102…コンプレッサ、104…空調ユニット、106…コンデンサ、108…エンジン、110…ベルト、112、116、122…冷媒配管、114…コンデンサファン、118…膨張弁、120…エバポレータ、124…冷却水温センサ、126…外気温センサ、128…冷媒圧センサ、130…電子制御ユニット、132…冷媒状態判定部、134…コンプレッサ制御部、136…メモリ、138、142…基準閾値マップ、140、144…補正値マップ