(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047449
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/06 20060101AFI20230330BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20230330BHJP
F02N 11/00 20060101ALI20230330BHJP
F02N 11/04 20060101ALI20230330BHJP
F02N 11/08 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
F02D29/06 F
F02D29/02 321B
F02D29/02 321C
F02D29/06 J
F02N11/00 N
F02N11/00 E
F02N11/04 A
F02N11/08 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156368
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 広基
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 稜
【テーマコード(参考)】
3G093
【Fターム(参考)】
3G093BA21
3G093BA22
3G093CA01
(57)【要約】
【課題】ベルトにかかる張力への影響を抑えながら、エンジンの始動性を向上させることができるエンジン制御装置を提供すること。
【解決手段】エンジン2と、エンジン2を始動させるためのモータ3と、エンジン2のクランクシャフトに設けられたクランクプーリ21と、モータ3の回転軸に設けられたモータプーリ31と、クランクプーリ21とモータプーリ31とに巻き付けられたベルト6と、ベルト6の上側の張りを調整するアッパーテンショナ4と、ベルト6の下側の張りを調整するロアテンショナ5と、エンジン2停止時に、モータ3によりエンジン2の回転方向とは逆方向にトルクをかけて制動する回生制動を行ない、回生制動を行なった後にエンジン2を始動させる際には、モータ3のトルクを制限させる制御部7と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを始動させるためのモータと、
前記エンジンのクランクシャフトに設けられたクランクプーリと、
前記モータの回転軸に設けられたモータプーリと、
前記クランクプーリと前記モータプーリとに巻き付けられたベルトと、
前記ベルトの張りを調整するテンショナと、を備えるエンジンのエンジン制御装置であって、
前記エンジン停止時に、前記モータにより前記エンジンの回転方向とは逆方向にトルクをかけて制動する回生制動を行なう制御部を備え、
前記制御部は、前記回生制動を行なった後に前記エンジンを始動させる際には、前記モータのトルクを制限させるエンジン制御装置。
【請求項2】
前記テンショナは、回転軸を中心に回転するテンショナアームの先端に回転自在に設けられたテンショナプーリを、前記テンショナアームに加えられる力により前記ベルトに押し付けて前記ベルトの張りを調整するように構成され、
前記テンショナアームの角度を検出する角度センサを備え、
前記制御部は、前記角度センサの検出する角度が小さくなるにつれて、前記モータのトルクを段階的に制限する請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記テンショナは、回転軸を中心に回転するテンショナアームの先端に回転自在に設けられたテンショナプーリを、前記テンショナアームに加えられる力により前記ベルトに押し付けて前記ベルトの張りを調整するように構成され、
前記テンショナアームの角度を検出する角度センサを備え、
前記制御部は、前記角度センサの検出する角度が所定角度未満の場合、前記モータのトルクを所定値以下に制限する請求項1または請求項2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記テンショナとして、前記ベルトの上側の張りを調整するアッパーテンショナと、前記ベルトの下側の張りを調整するロアテンショナとを備える請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エンジンのクランクシャフトに設けたクランクプーリと、モータ・ジェネレータに設けたモータ・ジェネレータプーリとにベルトを巻き掛けてエンジンの始動を行なうエンジンの始動方法が記載されている。
【0003】
この特許文献1には、ベルトの張力が大きく変動してベルトの耐久性に悪影響を与えることを懸念して、モータ・ジェネレータを駆動してエンジンを始動する際に、モータ・ジェネレータの起動から所定時間は最大トルクよりも低いトルクで駆動することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エンジンの始動毎にモータ・ジェネレータを一定時間低トルクで駆動すると、エンジンの始動までの時間が長引き、エンジンの始動性の低下が懸念される。
【0006】
これに対し、ベルトにかかる張力は、エンジン停止直前の車両の走行状態に依存するため、改善の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は、ベルトにかかる張力への影響を抑えながら、エンジンの始動性を向上させることができるエンジン制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明は、エンジンを始動させるためのモータと、前記エンジンのクランクシャフトに設けられたクランクプーリと、前記モータの回転軸に設けられたモータプーリと、前記クランクプーリと前記モータプーリとに巻き付けられたベルトと、前記ベルトの張りを調整するテンショナと、を備えるエンジンのエンジン制御装置であって、前記エンジン停止時に、前記モータにより前記エンジンの回転方向とは逆方向にトルクをかけて制動する回生制動を行なう制御部を備え、前記制御部は、前記回生制動を行なった後に前記エンジンを始動させる際には、前記モータのトルクを制限させるものである。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明によれば、ベルトにかかる張力への影響を抑えながら、エンジンの始動性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係るエンジン制御装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係るエンジン制御装置のエンジン再始動制御処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施の形態に係るエンジン制御装置は、エンジンを始動させるためのモータと、エンジンのクランクシャフトに設けられたクランクプーリと、モータの回転軸に設けられたモータプーリと、クランクプーリとモータプーリとに巻き付けられたベルトと、ベルトの張りを調整するテンショナと、を備えるエンジンのエンジン制御装置であって、エンジン停止時に、モータによりエンジンの回転方向とは逆方向にトルクをかけて制動する回生制動を行なう制御部を備え、制御部は、回生制動を行なった後にエンジンを始動させる際には、モータのトルクを制限させるよう構成されている。
【0012】
これにより、本発明の一実施の形態に係るエンジン制御装置は、ベルトにかかる張力への影響を抑えながら、エンジンの始動性を向上させることができる。
【実施例0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施例に係るエンジン制御装置について詳細に説明する。
【0014】
図1において、本発明の一実施例に係るエンジン制御装置を搭載した車両1は、エンジン2と、モータ3と、制御部7と、を含んで構成される。
【0015】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行なうように構成されている。エンジン2のクランクシャフトには、クランクプーリ21が設けられている。
【0016】
モータ3は、電力が供給されることにより回転することでエンジン2を回転駆動させる電動機としての機能と、クランクシャフトから入力される回転力を電力に変換する発電機としての機能とを有する。モータ3は、例えば、ISG(Integrated Starter Generator)などにより構成される。モータ3の回転軸には、モータプーリ31が設けられている。
【0017】
クランクプーリ21と、モータプーリ31と、にはベルト6が巻き付けられている。クランクプーリ21とモータプーリ31は、ベルト6を介して連結されている。
【0018】
クランクプーリ21とモータプーリ31との間には、ベルト6の上側の張力を調整するテンショナとしてのアッパーテンショナ4と、ベルト6の下側の張力を調整するテンショナとしてのロアテンショナ5と、が設けられている。なお、本実施例においては、アッパーテンショナ4とロアテンショナ5の2つを設けたが、どちらか1つを設ける構成でもかまわない。
【0019】
アッパーテンショナ4は、回転軸41を中心に回転するテンショナアーム42の先端に回転自在に設けられたテンショナプーリ43を、テンショナアーム42に加えられる力によりベルト6に押し付けて所定の張力をベルト6に発生させる。
【0020】
ロアテンショナ5は、回転軸51を中心に回転するテンショナアーム52の先端に回転自在に設けられたテンショナプーリ53を、テンショナアーム52に加えられる力によりベルト6に押し付けて所定の張力をベルト6に発生させる。
【0021】
アッパーテンショナ4には、例えば図中αUの矢印で示した、エンジン2を始動させる際にベルト6が動く方向のテンショナアーム42の角度であるテンショナ角度としてのアッパーテンショナ角度を検出する角度センサ44が設けられている。
【0022】
ロアテンショナ5には、例えば図中αLの矢印で示した、エンジン2を始動させる際にベルト6が動く方向のテンショナアーム52の角度であるテンショナ角度としてのロアテンショナ角度を検出する角度センサ54が設けられている。
【0023】
制御部7は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、各種バックアップデータを格納するためのフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0024】
このコンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットを制御部7として機能させるためのプログラムが格納されている。
【0025】
すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、これらのコンピュータユニットは、本実施例における制御部7として機能する。
【0026】
制御部7の入力ポートには、前述した角度センサ44と、角度センサ54とを含む各種センサ類が接続されている。
制御部7の出力ポートには、前述のモータ3を含む各種制御対象類が接続されている。
【0027】
制御部7は、所定の自動停止条件が成立したときにエンジン2を停止させ、所定の再始動条件が成立したときにエンジン2を再始動させるアイドルストップ再始動制御を行なう。
【0028】
自動停止条件としては、例えば、車速が所定車速以下であること、ブレーキペダルが踏み込まれたこと、バッテリの充電容量が所定値以上であること、などの全てが成立したことを条件とする。
【0029】
一方、再始動条件としては、例えば、発進に適したシフト位置であること、ブレーキペダルの踏み込みがないこと、などのいずれか一つやいずれかの組み合わせの全てが成立したことを条件とする。
【0030】
本実施例において、制御部7は、エンジン2を停止させるときに、モータ3によりエンジン2の回転方向とは逆方向にトルクをかけて制動する回生制動を行なう。
【0031】
図1において、正回転で示した矢印の方向がエンジン2の回転方向であり、逆回転で示した矢印の方向がエンジン2の回転とは逆の回転方向である。
【0032】
前述した回生制動によって、ベルト6が逆回転の方向に進み、アッパーテンショナ4側のベルト6が張られる方向に進むとともに、テンショナプーリ43がモータプーリ31側に引き込まれる。
【0033】
逆に、ロアテンショナ5側のベルト6は緩み方向に進むことで、ダンピング力の大きいテンショナプーリ53がクランクプーリ21側に押し込まれる。
【0034】
このような動きによって、テンショナアーム42のアッパーテンショナ角度αUが小さくなり、次回のエンジン2の始動時に、ベルト6がクランクプーリ21側へ動く際、慣性力が大きくなり、図中点線で示すように、テンショナアーム42のストッパー干渉角度βUまで到達し、ベルト6の張力が過大となる可能性がある。
【0035】
そこで、制御部7は、回生制動を行なった後にエンジン2を始動させる際には、モータ3のトルクを制限させる。
【0036】
制御部7は、例えば、角度センサ44が検出するアッパーテンショナ角度が小さくなるにつれて、モータ3のトルクを段階的に制限する。制御部7は、例えば、角度センサ44が検出するアッパーテンショナ角度が小さくなるにつれて、モータ3のトルクの制限値を段階的に低下させる。
【0037】
制御部7は、例えば、角度センサ54が検出するロアテンショナ角度が小さくなるにつれて、モータ3のトルクを段階的に制限する。制御部7は、例えば、角度センサ54が検出するロアテンショナ角度が小さくなるにつれて、モータ3のトルクの制限値を段階的に低下させる。
【0038】
制御部7は、例えば、角度センサ44が検出するアッパーテンショナ角度が所定角度未満の場合、モータ3のトルクを所定値以下に制限し、角度センサ44が検出する角度が所定角度以上の場合、モータ3のトルクを制限しない。
【0039】
制御部7は、例えば、角度センサ54が検出するロアテンショナ角度が所定値未満の場合、モータ3のトルクを所定値以下に制限し、角度センサ54が検出する角度が所定値以上の場合、モータ3のトルクを制限しない。
【0040】
なお、アッパーテンショナ角度及びロアテンショナ角度の検出はエンジン2が停止しているときに行なう。
【0041】
以上のように構成された本実施例に係るエンジン制御装置によるエンジン再始動制御処理について、
図2を参照して説明する。なお、以下に説明するエンジン再始動制御処理は、エンジン2の自動停止条件が成立し、エンジン2を自動停止した後に開始される。
【0042】
ステップS1において、制御部7は、アッパーテンショナ角度及びロアテンショナ角度を検出する。ステップS1の処理を実行した後、制御部7は、ステップS2の処理を実行する。
【0043】
ステップS2において、制御部7は、アッパーテンショナ角度またはロアテンショナ角度が所定値より小さいか否かを判定する。
【0044】
アッパーテンショナ角度またはロアテンショナ角度が所定値より小さいと判定した場合には、制御部7は、ステップS3の処理を実行する。アッパーテンショナ角度及びロアテンショナ角度が所定値より小さくないと判定した場合には、制御部7は、ステップS4の処理を実行する。
【0045】
ステップS3において、制御部7は、モータ3へ次回始動を低トルクで始動することを指令する。ステップS3の処理を実行した後、制御部7は、ステップS5の処理を実行する。
【0046】
ステップS4において、制御部7は、モータ3へ次回始動を最大トルクで始動することを指令する。ステップS4の処理を実行した後、制御部7は、ステップS5の処理を実行する。
【0047】
ステップS5において、制御部7は、エンジン2の再始動条件が成立したか否かを判定する。
【0048】
エンジン2の再始動条件が成立したと判定した場合には、制御部7は、ステップS6の処理を実行する。エンジン2の再始動条件が成立していないと判定した場合には、制御部7は、ステップS5の処理を実行する。
【0049】
ステップS6において、制御部7は、指令されたトルクをモータ3に出力させエンジン2の再始動を実施する。ステップS6の処理を実行した後、制御部7は、エンジン再始動制御処理を終了する。
【0050】
このように、本実施例では、制御部7は、回生制動を行なった後にエンジン2を始動させる際には、モータ3のトルクを制限させる。
【0051】
これにより、回生制動を行なった後のエンジン2の始動時には、モータトルクを抑えることで、ベルト6にかかる張力が過大となることを抑えることができる。
【0052】
また、制御部7は、角度センサ44が検出するアッパーテンショナ角度または角度センサ54が検出するロアテンショナ角度が小さくなるにつれて、モータ3のトルクを段階的に制限する。
【0053】
これにより、回生制動に伴ってベルト6が張られる方向に動くにつれて、エンジン2の始動時のモータ3のトルクを段階的に抑制して、エンジン2の始動時にベルト6にかかる張力が過大となることを抑えることができる。
【0054】
また、制御部7は、角度センサ44が検出するアッパーテンショナ角度または角度センサ54が検出するロアテンショナ角度が所定角度未満の場合、モータ3のトルクを所定値以下に制限する。
【0055】
これにより、アッパーテンショナ角度またはロアテンショナ角度の値が所定値未満の場合に、エンジン2の始動時のモータ3のトルクが抑えられ、ベルト6に過大な張力が発生することを抑えることができる。エンジン2の始動時にベルト6にかかる張力が過大となるおそれがあるため、これを抑制する。
【0056】
なお、本実施例においては、角度センサ44及び角度センサ54により、テンショナプーリ43及びテンショナプーリ53の位置を検出したが、変位センサを用いて、テンショナアーム42及びテンショナアーム52、またはテンショナプーリ43及びテンショナプーリ53、ベルト6の位置等を検出するようにしてもよい。このようにすることで、テンショナの個数やベルト6の取り回しに影響されず対応することができる。
【0057】
本実施例では、各種センサ情報に基づき制御部7が各種の判定や算出を行なう例について説明したが、これに限らず、車両1が外部サーバ等の車外装置と通信可能な通信部を備え、該通信部から送信された各種センサの検出情報に基づき車外装置によって各種の判定や算出が行なわれ、その判定結果や算出結果を通信部で受信して、その受信した判定結果や算出結果を用いて各種制御を行なってもよい。
【0058】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。