(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023047510
(43)【公開日】2023-04-06
(54)【発明の名称】制振材付吸音パネル
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20230330BHJP
G10K 11/162 20060101ALI20230330BHJP
【FI】
G10K11/16 120
G10K11/162
G10K11/16 160
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021156460
(22)【出願日】2021-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】野上 洋平
(72)【発明者】
【氏名】野口 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】前田 大地
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA07
5D061AA12
5D061BB21
5D061BB37
5D061GG06
(57)【要約】
【課題】高周波だけでなく低周波の遮音性にも優れた制振材付吸音パネルの提供。
【解決手段】互いに離間しつつ対向する正面板(1)及び背面板(3)と、前記正面板と前記背面板の間隙に保持された吸音材(2)と、前記正面板又は前記背面板の少なくとも一部に貼付された、樹脂層(4)及び拘束層(5)が積層されてなる制振材(6)と、を備える制振材付吸音パネル(10)。吸音材(2)はグラスウールであることが好ましく、樹脂層(4)は塩素含有熱可塑性樹脂と塩素化パラフィンを含むことが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに離間しつつ対向する正面板及び背面板と、
前記正面板と前記背面板の間隙に保持された吸音材と、
前記正面板又は前記背面板の少なくとも一部に貼付された、樹脂層及び拘束層が積層されてなる制振材と、を備える制振材付吸音パネル。
【請求項2】
前記制振材が前記正面板又は前記背面板に接触している面積S1と、
前記制振材が貼付されている表面を有する、前記正面板又は前記背面板の前記表面の面積S2と、の(S1/S2)で表される比率が、10~100%である、請求項1に記載の制振材付吸音パネル。
【請求項3】
前記制振材の前記樹脂層は、塩素含有熱可塑性樹脂と、数平均炭素数が12~16である塩素化パラフィンと、を含む、請求項1又は2に記載の制振材付吸音パネル。
【請求項4】
前記吸音材がグラスウールである、請求項1~3の何れか一項に記載の制振材付吸音パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振材付吸音パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、グラスウール等の吸音材を一対のパネルの間に保持してなる遮音性の塀が知られている(特許文献1)。グラスウールを用いた遮音体は、空気ばねの物理的な防振効果によって遮音性を発揮する。一方、物理的な遮音効果とは異なり、樹脂層に含まれる塩素含有熱可塑性樹脂及び塩素化パラフィンの化学的な遮音効果を利用した遮音材も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-321952号公報
【特許文献2】特開2001-294845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたようなグラスウール等の空気ばねを利用した遮音体は、高周波数の音の遮音性は優れるが、80~315Hz程度の低周波数の音の遮音性が劣るという問題がある。本発明者らがこの原因を検討したところ、低周波数の音が空気ばねと共鳴することが原因であると考えられた。そこで、その共鳴による振動を制振材によって制振することによって、低周波数を含めて優れた遮音性を有する吸音パネルが得られると考え、本発明を完成するに至った。
【0005】
本発明は、高周波だけでなく低周波の遮音性にも優れた制振材付吸音パネルを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 互いに離間しつつ対向する正面板及び背面板と、前記正面板と前記背面板の間隙に保持された吸音材と、前記正面板又は前記背面板の少なくとも一部に貼付された、樹脂層及び拘束層が積層されてなる制振材と、を備える制振材付吸音パネル。
[2] 前記制振材が前記正面板又は前記背面板に接触している面積S1と、前記制振材が貼付されている表面を有する、前記正面板又は前記背面板の前記表面の面積S2と、の(S1/S2)で表される比率が、10~100%である、[1]に記載の制振材付吸音パネル。
[3] 前記制振材の前記樹脂層は、塩素含有熱可塑性樹脂と、数平均炭素数が12~16である塩素化パラフィンと、を含む、[1]又は[2]に記載の制振材付吸音パネル。
[4] 前記吸音材がグラスウールである、[1]~[3]の何れか一項に記載の制振材付吸音パネル。
【発明の効果】
【0007】
本発明の制振材付吸音パネルにあっては、高周波だけでなく低周波の遮音性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る制振材付吸音パネルの一例の模式的な断面図である。
【
図2】実施例で作製した吸音パネルの遮音性を評価するために測定した音圧レベル差を示すグラフである。
【
図3】
図2のグラフのうち、低周波(80~315Hz付近)を拡大したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態の一例を説明するが、図面の寸法等は便宜的に変更してあり、本発明を図示した実施形態のみに限定することは意図していない。
【0010】
≪制振材付吸音パネル≫
本発明の実施形態の一例の制振材付吸音パネル10は、
図1に示すように、互いに離間しつつ対向する正面板1及び背面板3と、正面板1と背面板3の間隙に保持された吸音材2と、正面板1又は背面板3の少なくとも一部に貼付された、樹脂層4及び拘束層5が積層されてなる制振材6と、を備える。
【0011】
正面板1と吸音材2と背面板3を一体化した積層体とする方法は特に制限されず、例えばこれらの接触面に図示しない接着剤層を介在させてもよいし、後述する実施例で示すように積層体の側面の周囲をアルミテープ等の粘着テープで固定してもよい。
ここで、正面板1と背面板3の呼称は両者を区別する便宜的なものであり、使用者が意図する正面と背面の向きに一致していてもよいし、不一致であっても構わない。
【0012】
正面板1と背面板3とは、制振材付吸音パネル10の側面から見たときに、平行であってもよいし(
図1参照)、一方が他方に対して傾いていても構わない(不図示)。
平行である場合の正面板1と背面板3の離間距離は特に制限されず、例えば、1mm~500mm程度とすることができる。
一方が他方に対して傾き、非平行である場合の正面板1と背面板3の離間距離は特に制限されず、例えば、最も近接している箇所の離間距離が1mm~100mm程度、最も遠く離れている箇所の離間距離が5mm~1000mm程度、とすることができる。
【0013】
制振材6を背面板3に取り付ける方法としては、制振材6の樹脂層4が粘着性を有する場合にはその粘着性を利用して貼付すればよい。また、樹脂層4と背面板3の接触面に図示しない接着剤層を介在させてもよい。制振材6における樹脂層4と拘束層5の固定も同様とすればよい。
【0014】
制振材付吸音パネル10にあっては、入射した音波の大半を吸音材2の空気ばねの効果等によって吸収することができるが、吸音材2が吸収しきれず、むしろ共鳴してしまう周波数の音は、吸音材2の振動を招く。この振動は背面板3に取り付けた制振材6によって制振することにより吸収し、遮音する(吸音する)ことができる。例えば、吸音材2がグラスウールである場合、吸音材2は80~315Hz程度の低周波の遮音性が低いが、この低周波による共鳴及び振動を制振材6によって制振し、吸音できる。
【0015】
制振材6が背面板3(又は正面板1)に接触している面積S1と、制振材6が貼付された表面を有する背面板3(又は正面板1)のその表面の面積S2との(S1/S2)で表される比率(以下、制振材貼合率ということがある。)は、10~100%が好ましい。
上記範囲のうち、制振による遮音の効果をより高める観点から、20%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましく、50%以上が特に好ましい。また、上記範囲のうち、制振材付吸音パネルの重量(面密度)を低減する観点から、95%以下、90%以下、80%以下、又は70%以下であってもよい。
【0016】
[正面板、背面板]
正面板1と背面板3は同じ材料で構成されていてもよいし、互いに異なる材料で構成されていてもよい。遮音性を向上させる観点から、空気が実質的に透過しない板であることが好ましく、例えば、金属板、樹脂板、樹脂シート、セラミック板、石膏ボード、FRP板等が挙げられる。
【0017】
正面板1と背面板3の厚みは同じであってもよいし、異なっていてもよい。それらの厚みは特に制限されず、用途や設置箇所によって適宜設定することができ、例えば、1mm~10mmが挙げられる。
【0018】
正面板1と背面板3のサイズは、厳密に同じでなくてもよいが、積層方向(Z方向)に見て概ね重なる程度に同じであることが好ましい。これらの縦と横のサイズは特に制限されず、用途や設置箇所によって適宜設定することができ、例えば、縦100mm~5000mm、横100mm~5000mmの範囲で、縦と横をそれぞれ独立に設定することができる。
【0019】
[吸音材]
吸音材2は、空気を保持する小さな空間を多数有するスポンジ質材料又は多孔質材料であることが好ましい。このような吸音材2としては、例えば、グラスウール(ガラスウール)、ロックウール、スラグウール、フェルト、連続気泡発泡樹脂、吹き付け繊維、木毛・木片セメント板、穴あき軟質繊維板、織物、植毛製品等が挙げられる。吸音材2は1種類の材料から形成されていてもよいし、複数の材料から形成されていてもよい。また、吸音材2の構造は単層(一つの塊)であってもよいし、複数の層(複数の塊)からなる多層構造(多重構造)であってもよい。
【0020】
吸音材2の厚み(正面板1から背面板3へ向くZ方向の厚み)は、例えば1mm~500mm程度の範囲で適宜設定される。厚いほど遮音性が向上する傾向がある。
ここで、吸音材2の厚みは各測定点の厚みの平均値とする。測定点は、吸音材2の全体に分散して互いに同程度に離れた10~20カ所から任意に選定される。
【0021】
正面板1と背面板3の間隙の体積V1に対する、前記間隙に収納された吸音材2の体積V2の(V2/V1)で表される充填率は、遮音性を高める観点から、10~100%が好ましく、50~100%がより好ましく、80~100%がさらに好ましい。
【0022】
[制振材]
制振材6は樹脂層4と拘束層5からなり、拘束層5は金属などの無機物で構成されている。このような制振材6として公知の拘束型制振材を適用することができる。
本発明に適用可能な市販の制振材としては、例えば、日東電工社製の拘束型制振材(商品名:レジェトレックス)や、積水化学工業社製の拘束型制振材(商品名:カルムーン)等が挙げられる。
【0023】
(樹脂層4)
制振材6の樹脂層4は、ブチルゴム等の合成ゴムや、特許文献2に開示されているように塩素含有熱可塑性樹脂と、数平均炭素数が12~16である塩素化パラフィンを含むものが、遮音性に優れるので好ましい。
前記カルムーンが有する樹脂層は、特許文献2に開示されているように塩素含有熱可塑性樹脂と、数平均炭素数が12~16である塩素化パラフィンを含むものであり、より具体的には、塩素化ポリエチレン、塩素化パラフィン、炭酸カルシウム、錫系安定剤、ロジンエステル等が含まれる。
【0024】
樹脂層4には、例えば、炭酸カルシウム、カーボンブラック、グラファイト、シリカなどの粉状の無機物が充填剤として含まれてもよい。
【0025】
樹脂層4の厚みとしては、例えば、0.1mm~5mm程度、好ましくは0.3mm~1mm程度が挙げられる。
【0026】
(拘束層5)
制振材6の拘束層5としては、例えば、軽量性、耐候性、剛性などのバランスに優れることから、アルミニウム板、鋼板等の金属板が好ましい。
制振材6の厚み方向(Z方向)に見て、拘束層5と樹脂層4の面積は互いに同程度であることが好ましい。
【0027】
拘束層5の厚みとしては、例えば、0.1mm~3mm程度が挙げられ、軽量化と遮音性を両立する観点から0.5mm~1mm程度がより好ましい。
拘束層5の厚み:樹脂層4の厚みの比は、例えば、5:1~1:20が挙げられ、背面板3に対する接着安定性と遮音性を両立する観点から、2:1~1:2がより好ましい。
【0028】
≪制振材付吸音パネルの製造方法≫
本発明に係る制振材付吸音パネルは、後述する実施例で例示するように常法により製造することができる。
【実施例0029】
[実施例1]
図1に示す制振材付吸音パネル10を作製した。具体的には、正面板1であるアルミ板/吸音材2であるグラスウールシート/背面板3であるアルミ板/制振材6の順で重なる積層体とした。
正面板1と吸音材2と背面板3の結合は、これらの積層体の外枠を形成し、積層体の内部空間を封止するように積層体の側面の周囲にアルミテープを貼付することで行った。
背面板3と制振材6の接着は、制振材6が有する樹脂層4の粘着性を利用し、樹脂層4を背面板3の中央付近に押し付けて貼付した。
(制振材6の貼付面積÷背面板3の面積)×100で算出される制振材貼合率の値(単位:%)が25.0%となるように、制振材6のサイズを貼付前に調整した。
【0030】
[実施例2~4]
制振材6の種類を後述のようにレジェトレックスからカルムーンに変更したこと、及び制振材貼合率を表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、制振材付吸音パネル10を作製した。
【0031】
[比較例1]
制振材6を背面板3に貼付しないこと以外は、実施例1と同様にして、吸音パネルを作製した。
【0032】
(使用材料)
各実施例で使用したアルミ板は、アルミニウム合金(A5052)からなる板であり、次のサイズを有するものである;長さ×幅×厚さ=L2030mm×W590mm×T1.5mm。
各実施例で使用した吸音材は、マグイゾベール社製のグラスウール(密度32K、非撥水タイプ)を次のサイズに成形したものである;長さ×幅×厚さ=L2030mm×W590mm×T75mm。
実施例1で使用した制振材は、市販されているものであり、日東電工社製のレジェトレックスD-300Nを所定の制振材貼合率となるサイズに成形したものである。レジェトレックスD-300Nは、拘束層であるアルミ箔(厚さ0.1mm)に、粘着性を有する合成ゴム層(厚さ1.4mm)が積層された積層体である。
実施例2~4で使用した制振材は、市販されているものであり、積水化学工業社製のカルムーンシート船舶タイプ(305K58)を所定の制振材貼合率となるサイズに成形したものである。カルムーンシート船舶タイプは、拘束層である高耐食性鋼板(厚さ0.8mm)に粘着性を有する塩素化ポリエチレン樹脂層(厚さ0.5mm)が積層された積層体である。上記塩素化ポリエチレン樹脂は、塩素含有熱可塑性樹脂と、数平均炭素数が12~16である塩素化パラフィンとを含む樹脂組成物からなるものである。
各実施例で使用したアルミテープは、日東電工社製のアルミテープ(品番:J3130、厚さ0.1mm、幅50mm)であり、軟質アルミニウム箔(厚さ0.05mm)の片面にアクリル系粘着剤層を有するものである。
【0033】
表1の面密度の測定は、計量器で測定したパネルの重量をパネル正面板の面積で割ることで算出した。
【0034】
【0035】
<評価方法>
各例で作製した吸音パネルについて次のように音圧レベル差を測定し、評価した。
残響室と無響室の間に制振材付吸音パネル10を設置して間仕切りをした。この際、正面板1を残響室に向けた。
次に、残響室においてスピーカーから100dBのランダムなノイズ音を発生させ、吸音パネルに入射させ、残響室における平均音圧レベルと、無響室の吸音パネルから1m離れた地点での平均音圧レベルとをそれぞれ測定し、1/3オクターブバンドごとの音圧レベル差を算出した。この結果を
図2~3のグラフに示す。
なお、平均音圧レベルの測定には、精密騒音計NA-28(リオン社製)を用いた。音圧レベル差の数値が大きいほど、遮音性能が優れると評価することができる。
【0036】
図2~3の結果から、本発明に係る実施例1~4の吸音パネルは、制振材を有しない比較例1の吸音パネルよりも遮音性能に優れており、特に低周波(80~315Hz)の遮音性能に優れていた。
実施例1~4のうち、制振材貼合率が30%を超える実施例3~4の特に低周波における遮音性能が顕著に優れていた。実施例1~2の制振材貼合率は25%で同じであるが、実施例2は、塩素化ポリエチレン樹脂を含む制振材(カルムーン)を使用しているので、実施例1よりも遮音性能に優れていた。