(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000480
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】放射線画像処理装置、画像処理方法、及びシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/00 20060101AFI20221222BHJP
【FI】
A61B6/00 370
A61B6/00 350M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101326
(22)【出願日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】藤央弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】影山 昌広
(72)【発明者】
【氏名】馬場 理香
(72)【発明者】
【氏名】松野 一輝
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光宏
【テーマコード(参考)】
4C093
【Fターム(参考)】
4C093AA22
4C093AA25
4C093AA26
4C093CA06
4C093FF08
4C093FF09
(57)【要約】
【課題】X線の透過率が低い部位に対応する低透過率領域と重なっている領域の陰影と、低透過率領域と重なっていない領域の陰影に対するコントラスト改善の効果が大きく変わるという課題がある。
【解決手段】被写体に放射線を照射して得られた画像に対する画像処理を実行する放射線画像処理装置は、画像のコントラストを改善するために、画像の入力信号の低周波成分を抽出し、画像の第1信号を生成する処理と、画像の入力信号を画像の第1信号で除算して、画像の第2信号を生成する処理と、画像の第2信号に対して非線形処理を実行して、画像の第3信号を生成する処理と、画像の入力信号に画像の第3信号を乗算した、画像の出力信号を出力する処理と、を実行する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体に放射線を照射して得られた画像に対する画像処理を実行する放射線画像処理装置であって、
演算装置、前記演算装置に接続される記憶装置、及び前記演算装置に接続されるインタフェースを備え、
前記画像の入力信号を取得し、
前記画像のコントラストを改善するために、前記画像の入力信号に対してコントラスト改善処理を実行し、
前記コントラスト改善処理は、
前記画像の入力信号の低周波成分を抽出し、前記画像の第1信号を生成する処理と、
前記画像の入力信号を前記画像の第1信号で除算して、前記画像の第2信号を生成する処理と、
前記画像の第2信号に対して非線形処理を実行して、前記画像の第3信号を生成する処理と、
前記画像の入力信号に前記画像の第3信号を乗算した、前記画像の出力信号を出力する処理と、を含むことを特徴とする放射線画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線画像処理装置であって、
前記画像の入力信号に対してノイズ除去処理を実行し、
前記ノイズ除去処理が実行された前記画像の入力信号に対して前記コントラスト改善処理を実行することを特徴とする放射線画像処理装置。
【請求項3】
放射線画像処理装置が実行する、被写体に放射線を照射して得られた画像に対する画像処理方法であって、
前記放射線画像処理装置は、演算装置、前記演算装置に接続される記憶装置、及び前記演算装置に接続されるインタフェースを有し、
前記画像処理方法は、
前記演算装置が、前記画像の入力信号を取得する第1のステップと、
前記演算装置が、前記画像のコントラストを改善するために、前記画像の入力信号に対してコントラスト改善処理を実行する第2のステップと、を含み、
前記第2のステップは、
前記演算装置が、前記画像の入力信号の低周波成分を抽出し、前記画像の第1信号を生成するステップと、
前記演算装置が、前記画像の入力信号を前記画像の第1信号で除算して、前記画像の第2信号を生成するステップと、
前記演算装置が、前記画像の第2信号に対して非線形処理を実行して、前記画像の第3信号を生成するステップと、
前記演算装置が、前記画像の入力信号に、前記画像の第3信号を乗算した、前記画像の出力信号を出力するステップと、を含むことを特徴とする画像処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載の画像処理方法であって、
前記第1のステップは、前記演算装置が、前記画像の入力信号に対してノイズ除去処理を実行するステップを含み、
前記第2のステップでは、前記演算装置が、前記ノイズ除去処理が実行された前記画像の入力信号に対して前記コントラスト改善処理を実行することを特徴とする画像処理方法。
【請求項5】
被写体に放射線を照射し、画像を取得する画像生成装置と、前記画像に対する画像処理を実行する放射線画像処理装置とを備えるシステムであって、
前記放射線画像処理装置は、
前記画像の入力信号を取得し、
前記画像のコントラストを改善するために、前記画像の入力信号に対してコントラスト改善処理を実行し、
前記コントラスト改善処理は、
前記画像の入力信号の低周波成分を抽出し、前記画像の第1信号を生成する処理と、
前記画像の入力信号を前記画像の第1信号で除算して、前記画像の第2信号を生成する処理と、
前記画像の第2信号に対して非線形処理を実行して、前記画像の第3信号を生成する処理と、
前記画像の入力信号に、前記画像の第3信号を乗算した、前記画像の出力信号を出力する処理と、を含むことを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項5に記載のシステムであって、
前記放射線画像処理装置は、
前記画像の入力信号に対してノイズ除去処理を実行し、
前記ノイズ除去処理が実行された前記画像の入力信号に対して前記コントラスト改善処理を実行することを特徴とするシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体を透過した放射線から得られた放射線画像を利用して治療を行うシステム、放射線画像処理装置及び画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場で行われるX線等の放射線を用いた治療において、画像誘導放射線治療(IGRT:Image Guided Radio Therapy)及びアダプティブ放射線治療(ART:Adaptive Radio Therapy)等は、低侵襲かつ経済的な治療の実現に重要である。これらの治療の精度及び効率の向上のために、コンピュータ断層撮影(Computed Tomography)等を用いて、撮影された放射線画像の画質を向上させるニーズが大きい。
【0003】
人体(患者)を被写体として得られた放射線画像は、人体を構成する骨、臓器、器官、及び組織ごとの放射線の透過率の違いを利用し、その違いが陰影の輝度差として表れた画像である。従って、骨、肺、太い血管、気管、及びがん結節の一種である充実性結節(Solid Nodule)等のように、放射線の透過率がその周囲と比較して大きく異なる部位は、放射線画像において、部位の陰影のコントラストが高く映る。一方、膀胱及び前立腺等のような臓器、及びがん結節の一種であるすりガラス状結節(Ground-Glass Nodule)等のような軟組織は、その周囲との放射線の透過率の違いが比較的小さいため、放射線画像において、軟組織の陰影のコントラストが低く映り、視認性が悪い。
【0004】
自然画像の分野では、信号処理によって画像のコントラストを向上するための技術が数多く提案されており、例えば、アンシャープマスクと呼ばれる輪郭強調技術が知られている。しかし、一般的なアンシャープマスクでは、線形特性を持った画像処理フィルタを用いているため、軟組織のような薄い輪郭が明確になるように強調してしまうと、もともと周囲との輝度差が大きくて濃い輪郭を強調しすぎてしまい、不自然な画像になるという問題が知られている。
【0005】
そこで、非特許文献1では、非線形処理を用いて輝度値を大きく変化させる信号処理技術によって、もともと濃い輪郭の強調を抑えながら、靄がかかった遠景領域等の薄い輪郭を強調することによって、画像全体のコントラストを改善する技術が開示されている。
【0006】
一方、治療計画等で使用する放射線画像は、輝度値が放射線量の計算(CT値)に影響するため、できるだけ元の輝度値を維持しなければならないという制約がある。そこで、放射線画像に映った陰影の輪郭(周囲との境界部分)だけを強調し、平坦な領域の輝度値を変化させないようにして、コントラストを改善する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0007】
特許文献1に記載の画像処理装置は、原画像信号Sorgからボケ画像信号Susを求め、原画像信号Sorgからボケ画像信号Susを減算して、信号Sorg-Susを得て、信号Sorg-Susを、値が大きいほど変換後の値が小さくなる非線形の変換関数fを用いて変換して変換信号f(Sorg-Sus)を得て、これに改善係数β(Sorg)を乗算して、原画像信号Sorgから減算する。すなわち、特許文献1には、式(1)に示すような演算を行うことが開示されている。
【0008】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Guang Deng;「A Generalized Unsharp Masking Algorithm」,IEEE TRANSACTIONS ON IMAGE PROCESSING, VOL. 20, NO. 5, MAY 2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載の技術では、脊椎及び骨盤等の「骨」のように、X線の透過率が低い領域(以下、低透過率領域と記載する。)と重なっている領域の陰影の場合、変換信号f(Sorg-Sus)が小さい。そのため、当該陰影に対するコントラストの改善効果は、低透過率領域と重なっていない領域の陰影に対するコントラスト改善の効果と比べて小さいという課題がある。
【0012】
本発明は、低透過率領域との重なりの有無に関わらず、画像のコントラストを良好に改善する画像処理技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。すなわち、被写体に放射線を照射して得られた画像に対する画像処理を実行する放射線画像処理装置であって、演算装置、前記演算装置に接続される記憶装置、及び前記演算装置に接続されるインタフェースを備え、前記画像の入力信号を取得し、前記画像のコントラストを改善するために、前記画像の入力信号に対してコントラスト改善処理を実行し、前記コントラスト改善処理は、前記画像の入力信号の低周波成分を抽出し、前記画像の第1信号を生成する処理と、前記画像の入力信号を前記画像の第1信号で除算して、前記画像の第2信号を生成する処理と、前記画像の第2信号に対して非線形処理を実行して、前記画像の第3信号を生成する処理と、前記画像の入力信号に、前記画像の第3信号を乗算した、前記画像の出力信号を出力する処理と、を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、低透過率領域との重なりの有無に関わらず、画像のコントラストを良好に改善できる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1の放射線治療システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】実施例1の放射線治療装置の構成の一例を示す図である。
【
図3A】実施例1の放射線治療装置によって取得される放射線画像の一例を示す図である。
【
図3B】実施例1の放射線治療装置によって取得される放射線画像の一例を示す図である。
【
図4A】実施例1の放射線治療装置によって取得される放射線画像の一例を示す図である。
【
図4B】実施例1の放射線治療装置によって取得される放射線画像の一例を示す図である。
【
図5】実施例1の治療計画装置の構成の一例を示す図である。
【
図6】実施例1の画像処理部の機能構成の一例を示す図である。
【
図7】実施例1のコントラスト改善部の構成の一例を示す図である。
【
図8】実施例1のコントラスト改善部が実行する処理の一例を説明するフローチャートである。
【
図9】実施例1の非線形演算部が実行する非線形処理の一例を示す図である。
【
図10】実施例1の非線形演算部が実行する非線形処理の一例を示す図である。
【
図11】実施例1の非線形演算部が実行する非線形処理の一例を示す図である。
【
図12】実施例1のコントラスト改善部の信号処理の結果の一例を示す図である。
【
図13】特許文献1に記載の画像処理装置の構成を示す図である。
【
図14】特許文献1に記載の画像処理装置による信号処理の結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0017】
以下に説明する発明の構成において、同一又は類似する構成又は機能には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、及び範囲等は、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、及び範囲等を表していない場合がある。従って、本発明では、図面等に開示された位置、大きさ、形状、及び範囲等に限定されない。
【0019】
更に、本発明の実施例は、ハードウェアで実装してもよいし、汎用コンピュータ上で稼動するソフトウェアで実装してもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで実装してもよい。
【実施例0020】
<放射線治療システムの構成例>
図1は、実施例1の放射線治療システムの構成の一例を示す図である。
【0021】
放射線治療システム10は、治療計画装置11、放射線治療装置制御装置12、及び放射線治療装置13を備える。
【0022】
放射線治療システム10は、放射線治療を行うためのシステムである。具体的には、放射線治療システム10は、放射線(治療用放射線)を照射する。放射線治療システム10が照射する治療用放射線は、X線などの電磁波でもよいし、電子線、重粒子線又は陽子線などの粒子線でもよい。
【0023】
また、放射線治療システム10は、放射線画像(例えば、X線透視画像)の撮像を行う。さらに、放射線治療システム10は、撮像した放射線画像に基づいて3次元ボリューム画像を再構成し、CT(Computed Tomography)画像を生成する。放射線治療システム10が撮像する放射線画像及び放射線治療システム10が生成するCT画像は、患部の位置の特定及び放射線照射時の患部の位置の確認のために用いられる。
【0024】
ただし、CT画像(再構成した3次元ボリューム画像)の生成は、本実施例の放射線治療システム10に必須の機能ではない。例えば、放射線治療システム10が、他の装置によって生成されたCT画像を取得し、当該CT画像を用いてユーザ(例えば、放射線治療の担当医師)が患部の位置を特定するようにしてもよい。
【0025】
治療計画装置11は、放射線治療システム10が治療用放射線を照射するための治療計画を生成する。ここで、治療計画は、どのように放射線治療装置13を動作させて治療用放射線を照射させるかという計画であり、具体的には、放射線治療装置制御装置12が放射線治療装置13に対して行う制御の内容に関する情報である。治療計画装置11は、例えば、少なくとも一つの計算機から構成される。
【0026】
放射線治療装置制御装置12は、治療用放射線の照射及び放射線画像の撮像を行わせるために、治療計画装置11が生成する治療計画に従って放射線治療装置13を制御する。
【0027】
放射線治療装置13は、放射線治療装置制御装置12の制御に従って、治療用放射線の照射及び放射線画像の撮像を行う。放射線治療装置13は、放射線治療装置制御装置12の制御に従って治療用放射線を照射することによって、治療計画装置11が生成する治療計画を実行する。
【0028】
図2は、実施例1の放射線治療装置13の構成の一例を示す図である。説明のために、3次元座標を示している。ただし、
図2の座標系は一例であって、これに限定されない。
【0029】
放射線治療装置13は、旋回駆動装置311、Oリング312、走行ガントリ313、首振り機構(ジンバル機構)321、照射部330、撮像用放射線源341、342、センサアレイ351、361、362、及び患者支持体381を備える。
【0030】
照射部330は、放射線照射装置331、及びマルチリーフコリメータ(Multi Leaf Collimator:MLC)332を備える。首振り機構321と、撮像用放射線源341、342とは、互いに独立に、走行ガントリ313に設置されている。
【0031】
旋回駆動装置311は、回転軸A11を中心に回転可能にOリング312を土台に支持し、放射線治療装置制御装置12の制御に従ってOリング312を回転させる。回転軸A11は、鉛直方向の軸である。
【0032】
Oリング312は、回転軸A12を中心とするリング状に形成され、回転軸A12を中心に回転可能に走行ガントリ313を支持している。回転軸A12は、患者支持体381の長手方向の軸である。また、回転軸A12は、水平方向の軸(すなわち、鉛直方向に直角な軸)であり、アイソセンタP11にて回転軸A11と直交する。回転軸A12は、Oリング312に対して固定されている。すなわち、回転軸A12は、Oリング312の回転に伴って回転軸A11を中心に回転する。
【0033】
走行ガントリ313は、回転軸A12を中心とするリング状に形成され、Oリング312の内側にOリング312と同心円になるように配置されている。放射線治療装置13は、さらに、図示されていない走行駆動装置を備えており、走行ガントリ313は、走行駆動装置からの動力にて回転軸A12を中心に回転する。
【0034】
走行ガントリ313は、自らが回転することによって、撮像用放射線源341及びセンサアレイ361、撮像用放射線源342及びセンサアレイ362、並びにセンサアレイ351等、走行ガントリ313に設置されている各部を一体的に回転させる。
【0035】
首振り機構321は、走行ガントリ313のリングの内側に固定され、照射部330を走行ガントリ313に支持している。首振り機構321は、照射部330を向き変更可能に支持しており、放射線治療装置制御装置12の制御に従って照射部330の向きを変化させる。具体的には、首振り機構321は、パン軸A21を中心に照射部330を回転させる。また、首振り機構321は、チルト軸A22を中心に照射部330を回転させる。
【0036】
パン軸A21は、回転軸A12に平行な軸であり、走行ガントリ313に対して固定されている。首振り機構321は、パン軸A21を中心に照射部330を回転させることで、照射部330を回転軸A12に対して左右(従って、患者T11に対して左右)に首振り動作させる。
【0037】
チルト軸A22は、パン軸A21に直交する軸であり、走行ガントリ313に対して固定されている。首振り機構321は、チルト軸A22を中心に照射部330を回転させることで、照射部330を回転軸A12方向(従って、患者T11に対して上下)に首振り動作させる。
【0038】
照射部330は、走行ガントリ313の内側に、首振り機構321に支持されて配置されており、治療用放射線や撮像用放射線を照射する。
【0039】
放射線照射装置331は、放射線治療装置制御装置12の制御に従って、患者T11の患部へ向けて治療用放射線を照射する。
【0040】
マルチリーフコリメータ332は、放射線治療装置制御装置12の制御に従ってリーフを開閉することによって、治療用放射線の一部又は全部を遮蔽する。これによって、マルチリーフコリメータ332は、患者T11に照射される治療用放射線の照射野を調整する。マルチリーフコリメータ332は、治療用放射線の一部を遮蔽することによって、治療用放射線の照射野の形状を患部の形状に合わせる。また、マルチリーフコリメータ332は、治療用放射線の一部又は全部を遮断して照射野を調整することによって、治療用放射線の強度を調整する。
【0041】
ここで、リーフとは、照射部330が照射する治療用放射線の一部を遮蔽可能に配置された可動式の遮蔽物である。リーフは、例えば金属板にて構成される。マルチリーフコリメータ332は、開閉可能に配置された複数対のリーフを有し、リーフを動作させる(移動させる)ことで、上述した治療用放射線の照射野の調整や強度の調整を行う。
【0042】
撮像用放射線源341は、放射線治療装置制御装置12の制御に従って、センサアレイ361へ向けて撮像用放射線(X線)を照射する。撮像用放射線源342は、放射線治療装置制御装置12の制御に従って、センサアレイ362へ向けて撮像用放射線を照射する。撮像用放射線源341及び撮像用放射線源342は、照射する放射線が直交する向きで、照射部330とは独立に走行ガントリ313に固定されている。
【0043】
センサアレイ351は、放射線照射装置331からの治療用放射線が当たる位置に、放射線照射装置331の方を向いて、走行ガントリ313のリングの内側に固定されている。センサアレイ351は、患者T11等を透過した治療用放射線を、照射位置の確認及び治療の記録用に受光する。なお、ここでいう受光とは、放射線を受けることである。
【0044】
センサアレイ361は、撮像用放射線源341からの撮像用放射線が当たる位置に、撮像用放射線源341の方を向いて、走行ガントリ313のリングの内側に固定されている。センサアレイ361は、撮像用放射線源341から照射されて患者T11等を透過した撮像用放射線を、患部位置を特定するために受光する。
【0045】
センサアレイ361が、撮像用放射線源341からの撮像用放射線を受光することで、放射線画像が得られる。
【0046】
センサアレイ362は、撮像用放射線源342からの撮像用放射線が当たる位置に、撮像用放射線源342の方を向いて、走行ガントリ313のリングの内側に固定されている。センサアレイ362は、撮像用放射線源342から照射されて患者T11等を透過した撮像用放射線を、患部位置を特定するために受光する。
【0047】
センサアレイ362が、撮像用放射線源342からの撮像用放射線を受光することで、放射線画像が得られる。特に、撮像用放射線源342とセンサアレイ362との組み合わせにより、撮像用放射線源341とセンサアレイ361との組み合わせとは異なる方向からの放射線画像が得られる。
【0048】
また、撮像用放射線源341及びセンサアレイ361、並びに、撮像用放射線源342及びセンサアレイ362のいずれか1対又は2対が、同時に、旋回しながら撮像することで、患者支持体381に乗った患者T11のCT画像(例えば、コーンビームCT(CBCT)画像)を得ることができる。
【0049】
患者支持体381は、治療される患者T11を支持する。本実施例では、患者支持体381はカウチであり、患者T11は患者支持体381の上に横臥する。
【0050】
患者支持体381は、長手方向が回転軸A12の方向を向くように設置されている。そして、患者支持体381は、長手方向を回転軸A12の方向に向けたまま様々な方向に水平に移動可能である。特に、患者支持体381は、長手方向や、前記長手方向に対して斜め方向に移動可能である。
【0051】
走行ガントリ313及びOリング312は、本実施例における回転機構の一例に該当する。具体的には、走行ガントリ313は、患者支持体381の長手方向の軸(回転軸A12)の周りを回転可能に、首振り機構321を支持し、自ら回転することで首振り機構321を回転させる。また、Oリング312は、第2軸(回転軸A11)の周りを回転可能に、首振り機構321を支持し、自らが回転することで首振り機構321を回転させる。
【0052】
図3A、
図3B、
図4A、及び
図4Bは、実施例1の放射線治療装置13によって取得される放射線画像の一例を示す図である。説明のために、
図2で示した座標系を示している。
【0053】
図3Aは、撮像用放射線源341又は撮像用放射線源342が、患者T11に対して、点P31から線L31及び線L32の間の範囲に治療用放射線を照射している状態を示す。
図4Aは、
図3Aの状態からアイソセンタP11を中心として走行ガントリ313を回転させて後、撮像用放射線源341又は撮像用放射線源342が、患者T11に対して、治療用放射線を照射している状態を示す。
【0054】
領域A31は、脊椎のような楕円錐の形状を輪切りにした断面であり、低透過率領域を表す。領域A32は、軟組織の断面である。撮像面S31は、センサアレイ361又はセンサアレイ362の撮像面の断面(線)を表す。陰影I35は、撮像面S31に結像した領域A31の陰影を表し、陰影I36は、撮像面S31に結像した領域A32の陰影を表す。
【0055】
図3Bは、
図3Aの状態で患者T11に照射された放射線をセンサアレイ361又はセンサアレイ362が受光することによって得られる放射線画像I30を示す。放射線画像I30には、領域A31の陰影I35と、領域A32の陰影I36とが含まれる。陰影I35及び陰影I36は重なっていない。
【0056】
図4Bは、
図4Aの状態で患者T11に照射された放射線をセンサアレイ361又はセンサアレイ362が受光することによって得られる放射線画像I31を示す。放射線画像I31には、領域A31の陰影I35と、領域A32の陰影I36とが含まれる。陰影I36の一部が陰影I35と重なっている。
【0057】
図5は、実施例1の治療計画装置11の構成の一例を示す図である。
【0058】
治療計画装置11は、表示装置510、入力装置520、通信装置530、記憶装置580、及び制御装置590を備える。
【0059】
制御装置590は、CPU(Central Processing Unit)等であり、記憶装置580に格納されるプログラムを実行する。制御装置590がプログラムに従って処理を実行することによって、特定の機能を実現する機能部(モジュール)として動作する。以下の説明では、機能部を主語に処理を説明する場合、制御装置590が当該機能部を実現するプログラムを実行していることを示す。本実施例の制御装置590は、治療計画生成部591及び画像処理部592として機能する。
【0060】
表示装置510は、例えば、液晶パネル又は有機EL(Organic Electro-Luminescence)パネル等であり、動画像、静止画像、テキスト(文字)等、各種画像を表示する。特に、表示装置510は、患部画像(例えば、患部のCT画像)、治療計画生成部591が生成する治療計画の内容を表示する。
【0061】
入力装置520は、例えば、キーボード、マウス、及びタッチパネルであり、ユーザ操作を受け付ける。特に、入力装置520は、治療計画を生成するための各種設定を入力するユーザ操作を受け付ける。例えば、入力装置520は、表示装置510が患部画像を表示している状態で、当該患部画像における患部の領域及び危険臓器の領域を入力するユーザ操作を受け付ける。また、入力装置520は、患部及び危険臓器に対する放射線照射量の目標値及び許容値を設定するユーザ操作を受け付ける。
【0062】
ここで、危険臓器とは、放射線照射量の許容値が比較的小さい臓器である。
【0063】
通信装置530は、放射線治療装置制御装置12と通信を行う。特に、通信装置530は、治療計画生成部591が生成する治療計画を放射線治療装置制御装置12に送信する。
【0064】
記憶装置580は、メモリ等であり、各種情報を格納する。特に、記憶装置580は、治療計画を生成するための各種設定情報、及び、治療計画生成部591が生成する治療計画を格納する。
【0065】
治療計画生成部591は、治療計画を生成する。治療計画生成部591が生成する治療計画に従って、走行ガントリ313は連続的に回転する。そして、放射線照射装置331は、走行ガントリ313の回転に応じて連続的に治療用放射線を照射する。また、患者支持体381は、走行ガントリ313の回転に応じて連続的に移動する。さらに、首振り機構321は、走行ガントリ313の回転に応じて放射線照射装置331の向きを調整する。
【0066】
治療計画生成部591が生成する治療計画において、マルチリーフコリメータ332は、走行ガントリ313の回転に応じてリーフの開度を調整する。
【0067】
マルチリーフコリメータ332が治療用放射線の照射野の形状や大きさを調整することによって、放射線照射装置331が照射する治療用放射線の線量分布の精度を高めることができる。
【0068】
患者支持体381が、長手方向の移動に加え、上下方向及び左右方向にも移動することによって、患者T11に対するアイソセンタP11の位置をずらすことができる。これによって、放射線照射装置331が治療用放射線を照射可能な範囲を、さらに広げることができる。また、放射線照射装置331が照射する治療用放射線の線量分布の精度を、さらに高めることができる。
【0069】
一方、患者支持体381が患者T11の横方向に移動すると、当該移動に応じて患者T11が動き、患者T11の位置のずれが生じる可能性がある。そこで、患者支持体381が、長手方向にのみ移動することによって、患者T11の位置のずれを低減させることができる。
【0070】
また、治療計画において、患者支持体381の移動と、放射線照射装置331による治療用放射線の照射と、首振り機構321による放射線照射装置331の向きと、走行ガントリ313による回転軸A11周りの回転とに加えて、Oリング312による回転軸A11周りの回転も同時に制御するようにしてもよい。
【0071】
Oリング312が、回転軸A11を中心に首振り機構321を回転させることによって、放射線照射装置331が治療用放射線を照射可能な範囲を、さらに広げることができる。また、放射線照射装置331が照射する治療用放射線の線量分布の精度を、さらに高めることができる。
【0072】
画像処理部592は、放射線画像に対して画像処理を実行する。画像処理部592が実行する画像処理の詳細は後述する。なお、画像処理部592は、画像処理専用のハードウェアを用いて実現してもよい。
【0073】
<画像処理部の構成例及び動作原理>
図6は、実施例1の画像処理部592の機能構成の一例を示す図である。
【0074】
画像処理部592は、ノイズ除去部61、コントラスト改善部62、及び再構成処理部63を含む。
【0075】
ノイズ除去部61は、放射線画像の信号I61に対して、ノイズ除去処理を実行する。ノイズ除去処理は、例えば、一つの画像(フレーム)内の輝度値を比較してノイズを除去する方式、複数の画像(フレーム)を比較してノイズを除去する方式が知られている。ノイズ除去処理は公知の技術であるため詳細な説明は省略する。コントラストを改善する前にノイズを除去することによって、コントラスト改善部62の処理によるノイズの増大を抑えることができる。
【0076】
コントラスト改善部62は、ノイズが除去された放射線画像のコントラストを改善する画像処理を実行する。コントラスト改善部62から出力される、放射線画像の信号I62は、そのまま出力されてもよいし、再構成処理部63に出力されてもよい。表示装置510は、信号I61を2次元画像として表示する。
【0077】
再構成処理部63は、複数の放射線画像を用いてCT画像(3次元ボリューム画像)を生成し、CT画像の信号I63を出力する。表示装置510は、信号I63をCT画像として表示する。
【0078】
画像処理部592は、ユーザの要求に応じて、出力する画像を切り替えることができる。
【0079】
図7は、実施例1のコントラスト改善部62の構成の一例を示す図である。
図8は、実施例1のコントラスト改善部62が実行する処理の一例を説明するフローチャートである。
【0080】
コントラスト改善部62は、ローパスフィルタ71、除算器72、非線形演算部73、及び乗算器74を含む。なお、コントラスト改善部62は、平坦化処理を実行する機能部、リミッタとして機能する機能部を含んでもよい。
【0081】
コントラスト改善部62は、ノイズ除去部61からノイズが除去された放射線画像の信号I61を取得する(ステップS801)。
【0082】
ローパスフィルタ71は、ノイズが除去された放射線画像の信号I61から低周波成分の信号I72を抽出し、除算器72に信号I72を出力する(ステップS802)。
【0083】
除算器72は、放射線画像の信号I61を信号I72で除算し、非線形演算部73に、当該演算によって得られた信号I73を出力する(ステップS803)。信号I73の輝度値については、信号I61と信号I72の輝度値が同じ画素については1となる。
【0084】
非線形演算部73は、信号I73に対して非線形処理を実行し、乗算器74に、当該演算によって得られた信号I74を出力する(ステップS804)。ここで、非線形処理は、入力信号の値が大きいほど小さい値に変換する処理、及び、入力信号の値に対して正比例の関係にない値に変換する処理である。
【0085】
乗算器74は、放射線画像の信号I61に、信号I74を乗算し、当該演算によって得られた信号I75を出力する(ステップS805)。
【0086】
図9、
図10、及び
図11は、実施例1の非線形演算部73が実行する非線形処理の一例を示す図である。
【0087】
非線形演算部73は、信号に含まれる輝度値の大きさ(x)に対して、非線形演算fを実行し、出力値yを算出する。
【0088】
非線形演算fは、例えば、式(2)のように定義できる。ここで、A、B、Gは定数である。
【0089】
【0090】
式(2)に示す非線形演算fはxが1の場合、yは1となる。すなわち、輝度値は変換されない。xが1より大きい場合、yの値はx以下となり、xが1より小さい場合、yの値はx以上となる。すなわち、式(2)の非線形演算fは、xの値が1から大きく外れている場合、1に近い値に変換するという特性を有する。
【0091】
定数A、B、Gを調整することによって、
図9に示すように、様々な変化特性の非線形演算を実現できる。グラフの下には定数A、B、Gの値を示している。
【0092】
出力値yは定数Gに比例して変化する。定数Gを大きくすると、ノイズが増えるため適切に調整する必要がある。定数Aを調整することによって、出力値yの変化点を調整できる。定数Aを大きくした場合、出力値yの変化点はx=1に近づく。定数Bを調整することによって、出力値yの減衰量(1に近づく度合い)を調整できる。定数Bを大きくした場合、出力値yは急速に1に近づく。
【0093】
また、非線形演算fは式(3)のように定義できる。ここで、A、B、Gは定数であり、maxは最大値関数である。
【0094】
【0095】
式(3)の非線形演算fは出力値yについて式(4)のような特性を有する。
【0096】
【0097】
従って、信号I61の輝度値が信号I72の輝度値より小さい場合(x<1)、信号I61の輝度値が信号I72の輝度値より大きい場合(x>1)、いずれの場合も輝度変化量は不変となる。従って、自然な画像が得られる。
【0098】
定数A、B、Gを調整することによって、
図10に示すように、様々な変化特性の非線形演算を実現できる。
【0099】
また、非線形演算fは式(5)のように定義できる。ここで、A、B、Gは定数であり、maxは最大値関数であり、THは閾値である。
【0100】
【0101】
式(5)の非線形演算fは、例えば、
図11のようなグラフとなる。
図11に示すように、非線形演算fは、xの値が-THからTHの範囲で不感帯(DZ:Dead Zone)となっており、出力値yが1で固定される。
【0102】
放射線画像のコントラストの低下は二つの原因に起因する。
(1)領域Aとその周辺の領域Bの境界における輝度値の変化量(輝度勾配)が小さい。
(2)領域Aとその周辺の領域Bともにノイズがあり、二つの領域の輝度差がノイズによってマスクされている。
【0103】
原因(1)については、式(2)、(3)で定義した非線形演算fによって解消できる。原因(2)については、式(5)の非線形演算fは、ノイズの信号強度が不感帯に入るよう場合、出力値yが1に固定されるため、ノイズの強調を抑えることができる。
【0104】
なお、上述した非線形演算fは、一例であって、これに限定されない。例えば、輝度値の絶対値が一定値以上にならないようなリミッタとして機能する非線形演算fでもよい。
【0105】
なお、画質を確認して得られた経験則に基づいて非線形演算fを設定してもよい。また、ルックアップテーブルを用いて値を変換するような構成でもよい。
【0106】
<実施例1の信号処理の効果>
次に、本実施例の信号処理の効果について、特許文献1に記載の技術と比較しながら説明する。
【0107】
図13は、特許文献1に記載の画像処理装置の構成を示す図である。ここでは、実施例1の画像処理部592と対比できるように簡略化して説明する。
【0108】
特許文献1に記載の画像処理装置は、ローパスフィルタ131、減算器132、非線形演算部133、及び加算器134を含む。画像信号I131は特許文献1の原画像信号Sorgに対応し、信号I132は特許文献1のボケ画像信号Susに対応し、信号I133は特許文献1の信号(Sorg-Sus)に対応し、信号I134は特許文献1の変換信号f(Sorg-Sus)に対応し、信号I135は特許文献1の信号Sprocに対応する。なお、改善係数β(Sorg)は「常にβ=1」として簡略化し、
図13では省略している。
【0109】
図14は、特許文献1に記載の画像処理装置による信号処理の結果の一例を示す図である。
【0110】
図14の信号波形(1)(表の列)は、低透過率領域と重なっていない領域の陰影の信号波形を表す。例えば、
図3Aの陰影I36の信号波形である。当該陰影の信号波形は比較的大きな強度で観測される。
【0111】
図14の信号波形(2)(表の列)は、低透過率領域と重なっている領域の陰影の信号波形を表す。例えば、
図4Aの陰影I35と陰影I36とが重なった部分の信号波形である。X線は低透過率領域を通過するとき大きく減衰するため、当該陰影の信号波形は比較的小さい強度で観測される。
【0112】
信号波形(1)の入力信号I131の波形Ip131(1-a)は、X線を透過しにくい線状の細い組織に対応する波形である。当該組織を通過するX線は大きく減衰するため、負方向の大きなインパルス状の波形となる。信号波形(1)の入力信号I131の波形Ip131(1-b)は、X線を透過しやすい線状の細い組織に対応する波形である。当該組織を通過するX線はあまり減衰しないため、負方向の小さいインパルス状の波形となる。
【0113】
信号波形(2)の入力信号I131の波形Ip131(2-a)は、X線を透過しにくい線状の細い組織に対応する波形である。当該組織を通過するX線は大きく減衰するため、負方向の大きなインパルス状の波形となる。信号波形(2)の入力信号I131の波形Ip131(2-b)は、X線を透過しやすい線状の細い組織に対応する波形である。当該組織を通過するX線はあまり減衰しないため、負方向の小さいインパルス状の波形となる。信号波形(2)の入力信号I131の信号強度は、低透過率領域によるX線の減衰によって、信号波形(1)入力信号I131の信号強度より小さくなっている。
【0114】
信号波形(1)の信号I133の波形Ip133(1-a)は、波形Ip131(1-a)に対する減算器132の処理後の波形である。信号波形(1)の信号I133の波形Ip133(1-b)は、波形Ip131(1-b)に対する減算器132の処理後の波形である。信号波形(2)の信号I133の波形Ip133(2-a)は、波形Ip131(2-a)に対する減算器132の処理後の波形である。信号波形(2)の信号I133の波形Ip133(2-b)は、波形Ip131(2-b)に対する減算器132の処理後の波形である。
【0115】
信号波形(1)の信号I134の波形Ip134(1-a)は、波形Ip131(1-a)に対する非線形演算部133の処理後の波形である。信号波形(1)の信号I134の波形Ip134(1-b)は、波形Ip131(1-b)に対する非線形演算部133の処理後の波形である。信号波形(2)の信号I134の波形Ip134(2-a)は、波形Ip131(2-a)に対する非線形演算部133の処理後の波形である。信号波形(2)の信号I134の波形Ip134(2-b)は、波形Ip131(2-b)に対する非線形演算部133の処理後の波形である。
【0116】
入力する信号の強度(輝度値の大きさ)に応じて、非線形処理後の強度は大きく変化する。波形Ip134(1-a)の強度のピーク値が波形Ip134(1-b)の強度のピーク値と同程度となるように、非線形処理のパラメータを調整しても、波形Ip134(2-a)の強度のピーク値は波形Ip134(2-b)の強度のピーク値とは同程度にならない。すなわち、従来技術では、低透過率領域と重なった領域の陰影は、低透過率領域と重なっていない領域の陰影とはコントラスト改善の効果が大きく相違するという課題がある。
【0117】
図12は、実施例1のコントラスト改善部62の信号処理の結果の一例を示す図である。
【0118】
図12の信号波形(1)(表の列)は、低透過率領域と重なっていない領域の陰影の信号波形を表す。
図12の信号波形(2)(表の列)は、低透過率領域と重なっている領域の陰影の信号波形を表す。
【0119】
信号波形(1)の信号I73の波形Ip73(1-a)は、波形Ip61(1-a)に対する除算器72の処理後の波形である。信号波形(1)の信号I73の波形Ip73(1-b)は、波形Ip61(1-b)に対する除算器72の処理後の波形である。信号波形(2)の信号I73の波形Ip73(2-a)は、波形Ip61(2-a)に対する除算器72の処理後の波形である。信号波形(2)の信号I73の波形Ip73(2-b)は、波形Ip61(2-b)に対する除算器72の処理後の波形である。
【0120】
信号I61の低周波成分である信号I73の信号強度は、信号I61の信号強度に比例した大きさとなる。そのため、信号I61の信号強度の大きさにかかわらず、信号I73の信号強度はほぼ同じ大きさになる。従って、除算器72からは、低透過率領域との重なりの有無にかかわらず、同じような信号強度の波形が出力される。
【0121】
信号波形(1)の信号I74の波形Ip74(1-a)は、波形Ip61(1-a)に対する非線形演算部73の処理後の波形である。信号波形(1)の信号I74の波形Ip74(1-b)は、波形Ip61(1-b)に対する非線形演算部73の処理後の波形である。信号波形(2)の信号I74の波形Ip74(2-a)は、波形Ip61(2-a)に対する非線形演算部73の処理後の波形である。信号波形(2)の信号I74の波形Ip74(2-b)は、波形Ip61(2-b)に対する非線形演算部73の処理後の波形である。
【0122】
非線形演算部73に入力される信号I73の信号強度は、低透過率領域との重なりの有無にかかわらず、同程度であるため、同様の演算結果となる。
【0123】
本実施例によれば、低透過率領域と重なっていない領域の陰影及び低透過率領域と重なった領域の陰影のいずれについても同様のコントラスト改善の効果を得ることができる。
【0124】
本発明は、実施例の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードによって実現できる。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体をシステム或は装置に提供し、そのシステム或は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出す。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施例の機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、及びそれを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。このようなプログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどが用いられる。
【0125】
また、プログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施例の機能が実現されるようにしてもよい。さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータ上のメモリに書きこまれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータのCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施例の機能が実現されるようにしてもよい。
【0126】
さらに、実施例の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを、ネットワークを介して配信することにより、それをシステム又は装置のハードディスクやメモリ等の記憶手段又はCD-RW、CD-R等の記憶媒体に格納し、使用時にそのシステム又は装置のコンピュータ(又はCPU、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Proceeing Unit)等)が当該記憶手段や当該記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行するようにしても良い。
【0127】
最後に、ここで述べたプロセス及び技術は本質的に如何なる特定の装置に関連することはなく、コンポーネントの如何なる相応しい組み合わせによってでも実装できることを理解する必要がある。さらに、汎用目的の多様なタイプのデバイスがここで記述した教授に従って使用可能である。ここで述べた方法のステップを実行するのに、専用の装置を構築するのが有益であることが判るかもしれない。また、実施例に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施例に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施例にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。本発明は、具体例に関連して記述したが、これらは、すべての観点において限定のためではなく説明のためである。本分野にスキルのある者には、本発明を実施するのに相応しいハードウェア、ソフトウェア、及びファームウエアの多数の組み合わせがあることが解るであろう。例えば、記述したハードウェアは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等で実装してもよく、記述したソフトウェアは、アセンブラ、C/C++、perl、Shell、PHP、Python、Java(登録商標)等の広範囲のプログラム又はスクリプト言語で実装してもよい。
【0128】
さらに、前述の実施例において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。全ての構成が相互に接続されていても良い。
【0129】
加えて、本技術分野の通常の知識を有する者には、本発明のその他の実装がここに開示された本発明の明細書及び実施例の考察から明らかになる。記述された実施例の多様な態様及び/又はコンポーネントは、データを管理する機能を有するコンピュータ化ストレージシステムに於いて、単独又は如何なる組み合わせでも使用することができる。