(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048639
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】建物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/76 20060101AFI20230331BHJP
【FI】
E04B1/76 100
E04B1/76 400F
E04B1/76 400Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158065
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本間 瑞基
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DD01
2E001DD04
2E001FA04
2E001FA12
2E001FA16
2E001GA06
2E001GA23
2E001HA32
2E001HA33
2E001HB04
2E001HB05
2E001HD01
(57)【要約】
【課題】簡易な構造でありながら、下方空間の環境を向上させることが可能な建物を提供すること。
【解決手段】建物(1)は、屋根部(2)と、屋根部を下方から支える壁部(3,4)と、壁部の内方に位置し、屋根部の下方に位置する床部(5)とで屋内空間(6)が形成される。屋内空間(6)は、屋根部側に位置する上方空間(61)と、上方空間の下方に位置し、床部側に位置する下方空間(62)とを備える。下方空間(62)には、下方空間の空気を空調する空調装置(8)が設けられており、壁部(3,4)は、下方空間を取り囲む領域には断熱材(73,74)を有し、上方空間を取り囲む領域には断熱材を有していない。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根部と、前記屋根部を下方から支える壁部と、前記壁部の内方に位置し、前記屋根部の下方に位置する床部とで屋内空間が形成される建物であって、
前記屋内空間は、前記屋根部側に位置する上方空間と、前記上方空間の下方に位置し、前記床部側に位置する下方空間とを備え、
前記下方空間には、前記下方空間の空気を空調する空調装置が設けられており、
前記壁部は、前記下方空間を取り囲む領域には断熱材を有し、前記上方空間を取り囲む領域には断熱材を有していない、建物。
【請求項2】
前記壁部の断熱材の高さは、2m以上3.5m以下であり、
前記床部から前記屋根部までの高さは、4m以上7m以下である、請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記屋根部は、表面が屋外に面する屋根材と、熱放射性材料で形成されており、熱放射率が低く、前記屋根材の裏面側に配置された低放射率部材とを含む、請求項1または2に記載の建物。
【請求項4】
前記屋根部は、前記屋根材の裏面に貼り付けられ、前記屋根材と前記低放射率部材とに挟まれた断熱材をさらに含む、請求項3に記載の建物。
【請求項5】
前記空調装置の送風方向は、水平方向または水平方向よりも下側である、請求項1~4のいずれかに記載の建物。
【請求項6】
前記床部は、断熱材で形成される、請求項1~5のいずれかに記載の建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物に関し、特に、屋根部と、屋根部を下方から支える壁部と、壁部の内方に位置し、屋根部の下方に位置する床部とで屋内空間が形成される建物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な工場、倉庫、仮設施設、店舗などの大型の建物は、天井が高く、屋内空間の面積が大きいため、冷房を行う場合には使用エネルギーが大きくなりやすい。そのため、使用エネルギーを小さくするために、屋内空間を上下に分けて、下方空間だけを空調する技術が提案されている。
【0003】
たとえば、特開平11-141937号公報(特許文献1)には、屋根の高い大規模建物内の屋内空間を、高温の屋根裏空間と低温の床上空間とに分け、床上空間に小型送風機を配置して、床上空間だけを冷房することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の大型の建物は、建物の高さ方向の中間に位置する配線や電灯の架台に、風向が下向きおよび横向きの送風機を設ける必要があり、構造が複雑である。さらに、送風機を常に稼働させなければ、床上空間(下方空間)が高温になってしまう。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、簡易な構造でありながら、下方空間の環境を向上させることが可能な建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある局面による内装構造は、屋根部と、屋根部を下方から支える壁部と、壁部の内方に位置し、屋根部の下方に位置する床部とで屋内空間が形成される建物であって、屋内空間は、屋根部側に位置する上方空間と、上方空間の下方に位置し、床部側に位置する下方空間とを備え、下方空間には、下方空間の空気を空調する空調装置が設けられており、壁部は、下方空間を取り囲む領域には断熱材を有し、上方空間を取り囲む領域には断熱材を有していない。
【0008】
好ましくは、壁部の断熱材の高さは、2m以上3.5m以下であり、床部から屋根部までの高さは、4m以上7m以下である。
【0009】
好ましくは、屋根部は、表面が屋外に面する屋根材と、熱放射性材料で形成されており、熱放射率が低く、屋根材の裏面側に配置された低放射率部材とを含む。
【0010】
好ましくは、屋根部は、屋根材の裏面に貼り付けられ、屋根材と低放射率部材とに挟まれた断熱材をさらに含む。
【0011】
好ましくは、空調装置の送風方向は、水平方向または水平方向よりも下側である。
【0012】
好ましくは、床部は、断熱材で形成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の建物によれば、簡易な構造でありながら、下方空間の環境を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施の形態に係る建物を模式的に示す模式断面図である。
【
図2】本実施の形態に係る建物の屋根部の模式断面図である。
【
図3】一般的な折半屋根を備えた建物を模式的に示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0016】
はじめに、本実施の形態に係る建物の説明に先立ち、一般的な工場、倉庫、仮設施設、店舗などの大型の建物の屋内環境について、
図3を参照しながら簡単に説明する。
【0017】
図3を参照して、建物101の屋根部102は、たとえば、折板屋根の屋根材102で構成される。屋根材102が日射熱を受けると、屋根材102の温度は高温になり、屋根材102は強い放射熱を放出する。そのため、屋根材102からの放射熱によって、屋内空間106内の温度は高温となる。
【0018】
なお、建物101は、屋根材102の下方に天井を有していない。「天井」とは、屋根材102の下方に位置する空間、すなわち、屋根材102と床部105と壁部103,104とによって囲まれる屋内空間106全体を、隙間なく上下に仕切る部材である。なお、建物101において、屋根材102および屋根材102を支える複数の梁は、屋内空間106において露出していてもよい。
【0019】
また、一般的な大型の建物は、屋根部102までの高さが4m以上であり、建物によっては10m、20mであることもあるため、自然の原理として、屋内空間106内に温度成層が形成される。すなわち、屋内空間106の屋根材102側の上方空間161は高温となる一方で、屋内空間106の床部105側の下方空間162は、上方空間161よりは低温となる。なお、
図3において、下方空間162を太字線で示している。
【0020】
下方空間162には人が滞在するため、特に夏季などは、下方空間162の環境改善のために冷房空調が行わる。一方で、上述のように、屋根材102からの放射熱によって、上方空間161の温度が高温となり、下方空間162にまでその放射熱が及ぶ。そのため、上方空間161と下方空間162との間で対流が発生し、上方空間161の高温の空気と下方空間162の低温の空気が混ざり合い、下方空間162に冷房空調が効かないといった現象が生じる。
【0021】
また、特に夏季などは冷房空調を行っているが、下方空間162の壁部103,104および床部105に下方空間162の冷気が熱伝導して屋外空間に逃げてしまうとともに、屋外空間の高温の空気が下方空間162に熱伝導するため、下方空間162を効率よく空調することができない。
【0022】
このような下方空間162の環境を改善するべく、本実施の形態では、屋内空間に形成される温度成層を利用して、人が滞在する下方空間162のみを断熱することで、特に夏季などにおける下方空間162の保温効果を高めて、下方空間162の環境を向上させている。以下に、このような建物について詳細に説明する。
【0023】
図1,2を参照して、本実施の形態に係る建物1について説明する。
【0024】
建物1は、一般的な工場などの建物101と同様に、屋根部2と、対向し合い屋根部2を下方から支える壁部3,4・・・と、壁部3,4の内方に位置し、屋根部2の下方に位置する床部5とを含む。
【0025】
建物1には、屋根部2と、壁部3,4・・・と、床部5とで屋内空間6が形成される。屋内空間6は、屋根部2側に位置する上方空間61と、上方空間61の下方に位置し、床部5側に位置する下方空間62とを備える。
【0026】
特に
図2を参照して、屋根部2について説明する。屋根部2は、表面が屋外に面する屋根材21と、屋根材21の裏面に配置された断熱材22と、断熱材22の裏面側に配置された低放射率部材23とを含む。つまり、断熱材22は、屋根材21と低放射率部材23とに挟まれており、屋根部2は、屋根材21、断熱材22および低放射率部材23の複層構造である。床部5から屋根部2までの高さH1は、4m以上7m以下であるが、大きいもので10m、20mの場合もある。
【0027】
屋根材21は、典型的には、折板屋根であり、たとえば、鋼板や、ガルバリウム鋼板(
登録商標)に塗料を塗付したものが用いられる。屋根材21として日射反射率の高い鋼板を用いることで、より屋根部2の裏面を低放射化することが可能である。
【0028】
断熱材22は、折半屋根材の下面全体に亘って貼り付けられている。断熱材22は、たとえば、グラスウール、発砲ポリオレフィンフォームなどの断熱材が用いられる。断熱材22は、主に、屋根材21の結露を防止するために用いられる。断熱材の厚さは、4mm以上10mm以下であり、好ましくは5mm以上10mm以下である。
【0029】
低放射率部材23は、熱放射率が低く、熱放射性材料で形成される。低放射率部材23は、断熱材22の下面全体に亘って貼り付けられている。熱放射性材料の放射率は、0.9以下であり、好ましくは0.5以下であり、さらに好ましくは0.4以下である。熱放射性を有する熱放射性材料としては、たとえば、アルミニウムや銅などを含有する材料が用いられる。低放射率部材23は、典型的には、塗膜またはフィルムである。低放射率部材23の厚さは、断熱材22よりも薄く、1mm以下であることが望ましい。
【0030】
このように、建物の屋根部2を屋根材21、断熱材22および低放射率部材23の複層構造とすることで、屋根部2の裏面からの放射熱を抑制することができる。これにより、屋内空間6の上方空間161の高温化を低減することができる。
【0031】
次に、壁部3,4について説明する。壁部3,4は、複数の柱部と外装材とで形成されており、内装材が設けられていない簡易な構造である。壁部3,4は、下方空間62を取り囲む領域には断熱材73,74を有し、上方空間61を取り囲む領域には断熱材を有していない。
【0032】
断熱材73,74は、下方空間62に面する全周に亘って設けられている。断熱材73,74は、壁部3,4の全高さの途中位置まで延びている。断熱材73,74は、下方空間62の高さとほぼ同一である。具体的には、断熱材73,74の高さH2は、2m以上3.5m以下である。断熱材73,74の高さは、特に夏季において空調が必要な空間の高さである。たとえば、人が滞在する高さが2m程度である場合は、断熱材73,74の高さはその周辺範囲として3m程度であることが好ましい。
【0033】
断熱材73,74は、たとえばグラスウール、ロックウール、発砲ポリオレフィンフォームなどが用いられる。断熱材73,74の配置方法は、特に限定されないが、たとえば外装材と断熱材が一体形成された外装断熱パネルを用いてもよいし、外装材と柱の間に断熱材を配置してもよい。
【0034】
床部5は、たとえばコンクリートなどを打設することにより形成される土間床である。床部5は、断熱材75で形成されることが好ましい。具体的には、断熱材75は、床材の下方に取り付けられる。断熱材75は、床部5全面に亘って設けられていてもよいし、たとえば人が滞在するエリアに部分的に設けられていてもよい。断熱材75の材質は、壁部3,4の断熱材73,74と同様である。
【0035】
下方空間62には、下方空間62の空気を空調する空調装置8が設けられている。空調装置8は、下方空間62の空調を直接的に行うものであり、冷房運転および暖房運転の双方が可能であるが、少なくとも冷房運転が可能であればよい。空調装置8は、特に限定されないが、壁部に取り付けられる壁掛けタイプ、床部5上に配置される床置きタイプなど一般的に市販されているものであってもよい。
【0036】
空調装置8の吹出口の高さH3は、断熱材73,74の高さH1よりも低いことが好ましく、具体的には、断熱材73,74の高さH1よりも0.5m低く、好ましくは1m程度低いことが好ましい。空調装置8の送風方向は、水平方向または水平方向よりも下側であり、鉛直方向下方よりも上側に傾いていることが好ましい。これにより、上方空間61の高温の空気と下方空間62の低温の空気が混ざり合うことを抑制し、下方空間62だけで空気の循環を行うことが可能となる。
【0037】
本実施の形態の建物1は、下方空間62の壁部3,4にのみ断熱材73,74を設けることで、屋内空間6の温度成層を活用して、上方空間61は屋根部2からの放射熱により高温である一方で、下方空間62は空調装置8による空調により適温という状態を維持することができる。
【0038】
さらに、上方空間61の壁部3,4には断熱材が設けられていないため、上方空間61の高温の空気を壁部3,4から放熱することができる。下方空間62にのみ断熱材73,74,75を設けているため、下方空間62の冷たい空気を屋外に放熱することなく、下方空間62を快適な温度に維持することができるとともに、省エネである。
【0039】
また、下方空間62の壁部3,4には断熱材73,74が設けられているため、下方空間62内だけで空調装置8による適温の空気を循環させることができる。これにより、上方空間61の高温の空気と下方空間62の低温の空気が対流することを防止することができ、温度成層を有効活用することができる。
【0040】
従来から、断熱材を壁部に設ける場合には、内装材が必要になり、コストが高くなっていた。本実施の形態では、壁部3,4の断熱材73,74を壁部の全面に設けるのではなく、部分的に設けるだけですむため、コストを抑えることが可能である。さらに、建物1は、屋根材102までの高さが高いため、内装材を貼るために足場を組む必要があるが、断熱材の施工が下方空間62だけで済むため、施工を簡略化することができる。
【0041】
本実施の形態の屋根部2は、屋根材21に低放射率部材23と断熱材22とを設けることで、屋根部2からの放射熱を低減することができる。これにより、一般的な折半屋根と比較して、上方空間61だけでなく下方空間62への放射熱の伝達を抑制することができる。
【0042】
なお、上記実施の形態では、屋根部2は、屋根材21、断熱材22、および低放射率部材23を含むとして説明したが、断熱材22および低放射率部材23が設けられておらず屋根材21だけであってもよいし、断熱材22だけが設けられておらず、屋根材21および低放射率部材23であってもよい。
【0043】
また、本実施の形態において、低放射率部材23は断熱材22の裏面全体に密着しているとしたが、低放射率部材23は断熱材22の裏面全体に密着している必要はない。たとえば、断熱材22が取り付けられた折板屋根の屋根材21の谷面下方に、板状の低放射率部材を設けてもよい。
【0044】
上記実施の形態の建物は、一般的な工場、倉庫、仮設施設、店舗などの建物に用いられるとして説明したが、たとえばオフィスビルなど他の建物に用いられてもよい。具体的には、屋根部2が屋内空間6に露出しており、床部5から屋根部2までの高さが高く、屋内空間6において温度成層が形成されるような建物であれば、有効に適用することができる。
【0045】
上記実施の形態の床部5は、断熱材75で形成されているとしたが、断熱材75が設けられていない単なる床であってもよい。
【0046】
今回開示した上記各実施の形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した各実施の形態のみによって解釈されるのではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲の記載と均等な意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1 建物、2 屋根部、3,4 壁部、5 床部、6 屋内空間、8 空調装置、21 屋根材、22 断熱材、23 低放射率部材、61 上方空間、62 下方空間、73,74,75 断熱材、101 建物、102 屋根部、103,104 壁部、105 床部、106 屋内空間、102 屋根材、161 上方空間、162 下方空間。