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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023004872
(43)【公開日】2023-01-17
(54)【発明の名称】クロマトグラフ用データ処理システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20230110BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20230110BHJP
【FI】
G01N30/86 M
G01N30/86 Q
G01N30/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067375
(22)【出願日】2022-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2021105340
(32)【優先日】2021-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 覚
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 智裕
(57)【要約】      (修正有)
【課題】サンプルに最適な分析条件の探索を可能にするクロマトグラフィ用のデータ処理システムを提供する。
【解決手段】同一のサンプルについて複数の分析条件のクロマトグラフィ分析により取得された複数のクロマトグラムを記憶するデータ記憶部8と、データ記憶部に記憶されたクロマトグラムについてデータ処理を行なうデータ処理部10と、を備える。データ処理部は、選択された1つのクロマトグラムを基準クロマトグラム、基準クロマトグラム上の複数のピークをそれぞれ基準ピークとし、他のクロマトグラム上のどのピークが複数の基準ピークのそれぞれに対応するかを特定する自動同定を実行する。データ処理部は、複数の基準ピークのそれぞれのピークパラメータをそれぞれの基準パラメータとし、他のクロマトグラム上の成分ピークのピークパラメータについて基準パラメータを用いたフィルタリングを実行し、それぞれに対応する成分ピークを特定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一のサンプルについて互いに異なる複数の分析条件でクロマトグラフィ分析されることにより取得された複数のクロマトグラムを記憶するデータ記憶部と、
前記データ記憶部に記憶された前記複数のクロマトグラムについてのデータ処理を行なうデータ処理部と、を備え、
前記データ処理部は、前記データ記憶部に記憶された前記複数のクロマトグラムの中から選択された1つのクロマトグラムを基準クロマトグラム、前記基準クロマトグラム上の複数の成分ピークをそれぞれ基準ピークとし、前記複数のクロマトグラムのうち前記基準クロマトグラム以外の他のクロマトグラム上の成分ピークのうちのどの成分ピークが前記複数の基準ピークのそれぞれに対応するかを特定する同定処理を自動的に行なうための自動同定を実行可能であり、
前記データ処理部は、前記自動同定において、前記複数の基準ピークのそれぞれのピークパラメータをそれぞれの基準パラメータとし、前記他のクロマトグラム上の成分ピークのそれぞれのピークパラメータについて前記基準パラメータを用いたフィルタリングを実行することによって前記複数の基準ピークのそれぞれに対応する成分ピークを特定するように構成されている、クロマトグラフ用データ処理システム。
【請求項2】
前記フィルタリングに用いる前記ピークパラメータは、ピーク溶出順位、ピーク面積、ピーク高さ、ピーク面積割合、ピーク高さ割合、スペクトル類似度、マススペクトル類似度、及びマススペクトルのベースピークのm/zのうちから選択された少なくとも1つのパラメータである、請求項1に記載のクロマトグラフ用データ処理システム。
【請求項3】
前記データ処理部は、前記基準ピークのそれぞれについて実行する前記フィルタリングにおいて、それぞれの前記基準ピークの前記基準パラメータとの差が所定範囲内にあるピークパラメータをもつ成分ピークをそれぞれの基準ピークに対応する成分ピークの候補とするように構成されている、請求項1又は2に記載のクロマトグラフ用データ処理システム。
【請求項4】
前記データ処理部は、同一のクロマトグラム上の複数の成分ピークを同一の前記基準ピークに対応する成分ピークの候補としたときは、前記基準ピークの前記基準パラメータとの差がより小さい成分ピークを前記候補とするように構成されている、請求項3に記載のクロマトグラフ用データ処理システム。
【請求項5】
前記データ処理部は、同一のクロマトグラム上の複数の成分ピークを同一の前記基準ピークに対応する成分ピークの候補としたときは、ピーク溶出順位を用いて前記複数の成分ピークのうちの1つの成分ピークを前記候補とするように構成されている、請求項3に記載のクロマトグラフ用データ処理システム。
【請求項6】
前記データ処理部は、前記基準クロマトグラムとして選定すべきクロマトグラムを前記複数のクロマトグラムの中からユーザに選択させ、ユーザにより選択されたクロマトグラムを前記基準クロマトグラムとするように構成されている、請求項1又は2に記載のクロマトグラフ用データ処理システム。
【請求項7】
前記データ処理部は、前記同定処理をユーザが手動で行なうための手動同定も実行可能であり、
前記データ処理部は、前記手動同定において、前記基準ピークのうち同定対象の基準ピークをユーザに特定させ、前記同定対象の基準ピークに対応する成分ピークを特定する操作を、前記複数の他のクロマトグラムを一覧表示した状態でユーザに行なわせるように構成されている、請求項1又は2に記載のクロマトグラフ用データ処理システム。
【請求項8】
前記データ処理部は、前記手動同定において、前記複数の他のクロマトグラムを一覧表示した状態で、前記同定対象の基準ピークに対応する複数の成分ピークを連続的に又は一括的に特定する操作をユーザが実行可能であるように構成されている、請求項7に記載の液体クロマトグラフ用データ処理システム。
【請求項9】
前記データ処理部は、前記自動同定を実行した後で前記手動同定を実行可能であるように構成されている、請求項7に記載のクロマトグラフ用データ処理システム。
【請求項10】
前記データ処理部は、前記複数のクロマトグラム間における成分ピークの対応関係をユーザが視認可能なように、前記同定処理によって互いに対応付けられた複数の成分ピークに共通の表示を行なうように構成されている、請求項1又は2に記載のクロマトグラフ用データ処理システム。
【請求項11】
同一のサンプルについて互いに異なる複数の分析条件でクロマトグラフィ分析されることにより取得された複数のクロマトグラムを記憶するデータ記憶部と、
前記データ記憶部に記憶された前記複数のクロマトグラムについてのデータ処理を行なうデータ処理部と、を備え、
前記データ処理部は、前記データ記憶部に記憶された前記複数のクロマトグラムの中から選択された1つのクロマトグラムを基準クロマトグラム、前記基準クロマトグラム上の複数の成分ピークをそれぞれ基準ピークとし、前記複数のクロマトグラムのうち前記基準クロマトグラム以外の複数の他のクロマトグラム上の成分ピークのうちのどの成分ピークが前記複数の基準ピークのそれぞれに対応するかを特定する同定処理をユーザが手動で行なうための手動同定を実行可能であり、
前記データ処理部は、前記手動同定において、前記基準ピークのうち同定対象の基準ピークをユーザに特定させ、前記複数の他のクロマトグラムを一覧表示した状態で前記同定対象の基準ピークに対応する複数の成分ピークを特定する操作を連続的に又は一括的にユーザが実行可能なように構成されている、クロマトグラフ用データ処理システム。
【請求項12】
前記データ処理部は、前記複数のクロマトグラム間における成分ピークの対応関係をユーザが視認可能なように、互いに対応付けられた複数の成分ピークに共通の表示を行なうように構成されている、請求項11に記載のクロマトグラフ用データ処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィ分析などのクロマトグラフィ分析で得られるクロマトグラムのデータ処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィ分析で望ましい分析結果を得るためには、サンプルに適した分析条件で分析を行なう必要があり、サンプルごとに分析条件を設定する必要がある(特許文献1参照)。サンプルにとって最適な分析条件を探索するために、同一のサンプルについて複数の異なる分析条件での分析を実施し、それらの分析により得られた複数の分析結果に基づいて分析条件を決定することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-166724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サンプルにとって最適な分析条件を探索するためには、異なる分析条件での分析で得られた複数のクロマトグラムのそれぞれに現れている成分ピークを相対的に評価する必要があり、これまではユーザがクロマトグラムを1つずつ確認しながら各クロマトグラムに現れている成分ピークを互いに対応付ける同定処理を行っていた。しかし、このような同定作業は非常に煩雑であり、迅速な分析条件の探索の妨げとなっていた。
【0005】
そこで本発明は、サンプルに最適な分析条件の迅速な探索を可能にするクロマトグラフィ用のデータ処理システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るクロマトグラフ用データ処理システムの第1形態では、同一のサンプルについて互いに異なる複数の分析条件でクロマトグラフィ分析されることにより取得された複数のクロマトグラムを記憶するデータ記憶部と、前記データ記憶部に記憶された前記複数のクロマトグラムについてのデータ処理を行なうデータ処理部と、を備え、前記データ処理部は、前記データ記憶部に記憶された前記複数のクロマトグラムの中から選択された1つのクロマトグラムを基準クロマトグラム、前記基準クロマトグラム上の複数の成分ピークをそれぞれ基準ピークとし、前記複数のクロマトグラムのうち前記基準クロマトグラム以外の他のクロマトグラム上の成分ピークのうちのどの成分ピークが前記複数の基準ピークのそれぞれに対応するかを特定する同定処理を自動的に行なうための自動同定を実行可能であり、前記データ処理部は、前記自動同定において、前記複数の基準ピークのそれぞれのピークパラメータをそれぞれの基準パラメータとし、前記他のクロマトグラム上の成分ピークのそれぞれのピークパラメータについて前記基準パラメータを用いたフィルタリングを実行することによって前記複数の基準ピークのそれぞれに対応する成分ピークを特定するように構成されている。
【0007】
本発明に係るクロマトグラフ用データ処理システムの第2形態では、同一のサンプルについて互いに異なる複数の分析条件でクロマトグラフィ分析されることにより取得された複数のクロマトグラムを記憶するデータ記憶部と、前記データ記憶部に記憶された前記複数のクロマトグラムについてのデータ処理を行なうデータ処理部と、を備え、前記データ記憶部に記憶された前記複数のクロマトグラムの中から選択された1つのクロマトグラムを基準クロマトグラム、前記基準クロマトグラム上の複数の成分ピークをそれぞれ基準ピークとし、前記複数のクロマトグラムのうち前記基準クロマトグラム以外の複数の他のクロマトグラム上の成分ピークのうちのどの成分ピークが前記複数の基準ピークのそれぞれに対応するかを特定する同定処理をユーザが手動で行なうための手動同定を実行可能であり、前記データ処理部は、前記手動同定において、前記基準ピークのうち同定対象の基準ピークをユーザに特定させ、前記複数の他のクロマトグラムを一覧表示した状態で前記同定対象の基準ピークに対応する複数の成分ピークを特定する操作を連続的に又は一括的にユーザが実行可能なように構成されている。
【0008】
ここで、同定対象の基準ピークに対応する複数の成分ピークを特定する操作を「連続的に」実行可能であるとは、同定対象の基準ピークを固定した状態で、その基準ピークに対応する成分ピークを連続的に特定していくことが可能であることを意味する。また、同定対象の基準ピークに対応する複数の成分ピークを特定する操作を「一括的に」実行可能であるとは、複数の成分ピークを同時に選択された状態にし、それらの成分ピークを同定対象の基準ピークに対応する成分ピークとして特定可能であることを意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るクロマトグラフ用データ処理システムの第1形態によれば、複数のクロマトグラム間で互いの成分ピーク同士を対応付ける同定処理を、各成分ピークのピークパラメータを用いたフィルタリングを実行することによって自動的に行なう自動同定を実行可能であるので、ユーザが複数のクロマトグラムを1つずつ確認しながら対応関係にある成分ピークを特定する操作を行なう必要がなくなり、サンプルに最適な分析条件の迅速な探索が可能になる。
【0010】
本発明に係るクロマトグラフ用データ処理システムの第2形態によれば、複数のクロマトグラム間で互いの成分ピーク同士を対応付ける同定処理をユーザが手動で行なうための手動同定が実行可能であり、その手動同定では、複数のクロマトグラムを一覧表示した状態で対応関係にある複数の成分ピークを特定する操作を連続的に又は一括的にユーザが実行可能なように構成されているので、ユーザが複数のクロマトグラムを1つずつ確認しながら対応関係にある成分ピークを特定する操作を行なう必要がなくなり、サンプルに最適な分析条件の迅速な探索が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】データ処理システムの一実施例を示すブロック図である。
図2】同実施例の自動同定における動作の一例を示すフローチャートである。
図3】同実施例の手動同定における動作の一例を示すフローチャートである。
図4】同実施例における分析条件の探索動作の一例を示すフローチャーとである。
図5】同実施例の自動同定における同定処理の条件設定画面の一例を示す図である。
図6】同実施例の手動同定画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るデータ処理システムの一実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1にデータ処理システムの概略的構成を示す。
【0014】
データ処理システム1は、データ処理装置2、入力装置4及びディスプレイ6を備えている。データ処理装置2は、CPU(中央演算装置)を搭載する電子回路、及びハードディスクドライブやフラッシュメモリなどの情報記憶装置を搭載するPC(パーソナルコンピュータ)などのコンピュータ装置である。データ処理装置2は、データ記憶部8及びデータ処理部10を備えている。データ記憶部8は、情報記憶装置の一部の記憶領域によって実現され、データ処理部10はCPU及びCPUによって実行されるソフトウェアによって実現される。
【0015】
入力装置4は、キーボード、マウスなど、ユーザがデータ処理装置2に対して情報入力を行なうための機器である。ディスプレイ6は、データ処理装置2から与えられる情報を表示する液晶モニタなどの装置である。
【0016】
データ処理装置2には、液体クロマトグラフィ分析を行なうLC部100で得られた分析データが入力される。LC部100で取得される分析データには、同一のサンプルについて複数の互いに異なる分析条件で分析することによって得られた複数の分析データが含まれる。データ処理装置2では、データ処理部10がLC部100からの複数の分析データのそれぞれに基づく複数のクロマトグラム及び各クロマトグラム上の成分ピークに関する情報の一覧(以下、ピークテーブルという)を作成し、それらのデータが1組のデータセットとしてデータ記憶部8に記憶される。各クロマトグラム上の成分ピークに関する情報としては、ピーク面積、ピーク高さ、ピーク面積割合、及びピーク高さ割合が挙げられる。ピーク面積割合とは、同一のクロマトグラム上に現れているすべての成分ピークの合計面積のうち対象となる成分ピークのピーク面積が占める割合を意味する。ピーク高さ割合とは、同一のクロマトグラム上に現れているすべての成分ピークの合計高さのうち対象となる成分ピークのピーク高さが占める割合を意味する。なお、LC部100が、UV検出器など分離カラムからの溶出液のスペクトルを測定する装置を補助的な検出器として備えている場合は、分析データ中に各保持時間におけるスペクトル情報が含まれる。その場合、各クロマトグラム上の成分ピークに関する情報にスペクトル情報を含ませることができる。また、LC部100が質量分析計を補助的な検出器として備えている場合には、各クロマトグラム上の成分ピークに関する情報にマススペクトル、m/z(マススペクトルの横軸の値)を含むことができる。
【0017】
データ処理部10は、同定処理を自動的に実行するための自動同定、及び同定処理をユーザが手動で行なうための手動同定を実行可能なように構成されている。同定処理とは、同一のサンプルについて複数の互いに異なる分析条件で分析して得られた複数のクロマトグラムのそれぞれに現れている成分ピークを互いに対応付ける処理である。自動同定及び手動同定は、各モードの実行指示がユーザによって入力装置4を介して入力されることによって実行される。
【0018】
自動同定における動作の一例について、図1とともに図2のフローチャートを用いて説明する。
【0019】
ユーザが、同定処理を行ないたい1組のデータセットを選択し、自動同定の実行指示をデータ処理装置2に対して入力すると、データ処理部10は自動同定のための設定画面をディスプレイ6に表示し、自動同定で使用するピークパラメータをユーザに選択させる(ステップ101)。設定画面の一例は図3に示されるようなものである。図3に例示された設定画面には、ピークパラメータとして、ピーク番号、面積(ピーク面積)、高さ(ピーク高さ)、面積%(ピーク面積割合)及び高さ%(ピーク高さ割合)がそれを用いて実施されるフィルタリングの条件とともに表示されており、ユーザが任意のピークパラメータの選択欄にチェックを入れることによって自動同定に使用するピークパラメータを設定できるようになっている。なお、ピーク番号とは、同一クロマトグラム上で分離カラムからの溶出が早い順番に付される番号である。なお、各クロマトグラム上の成分ピークに関する情報にスペクトル情報、マススペクトル、m/z(マススペクトルの横軸の値)が含まれる場合には、スペクトルの類似度、マススペクトルの類似度、ベースピークのm/zをピークパラメータとすることができる。
【0020】
自動同定に使用するピークパラメータが決定された後、自動同定の基準として使用するクロマトグラム(=基準クロマトグラム)がユーザ入力に基づいて又は自動的に選択される(ステップ102)。基準クロマトグラムが選択されると、その基準クロマトグラム上のすべての成分ピークがそれぞれ基準ピークとなる。
【0021】
データ処理部10は、同じデータセット内の基準クロマトグラム以外のクロマトグラムの中から同定処理を行なうべきクロマトグラム(=対象クロマトグラム)を1つ特定する(ステップ103)。なお、対象クロマトグラムとして特定されるクロマトグラムの順序はどのようなものであってもよい。例えば、各クロマトグラムにID番号が付されている場合には、そのID番号の小さい順に対象クロマトグラムとして特定されるようになっていてもよい。
【0022】
対象クロマトグラムを特定した後、データ処理部10は、同定対象の基準ピークを特定し(ステップ104)、その基準ピークのピークパラメータ(=基準パラメータ)を用いて対象クロマトグラム上の成分ピークのフィルタリングを実行する(ステップ105)。フィルタリングでは、基準パラメータとの差がフィルタリング条件で規定された範囲(例えば±10%)内となるピークパラメータをもつ対象クロマトグラム上の成分ピークを当該基準ピークに対応する成分ピークの候補として特定される(ステップ106:Yes)。このとき、候補となる成分ピークがない場合は、この対象クロマトグラムでの当該基準ピークの同定を行わず、次の基準ピークについての同定処理へ移行する(ステップ106:No、ステップ110))。
【0023】
フィルタリングの結果、基準ピークに対応する成分ピークの候補が複数存在する場合(ステップ107:Yes)、候補となっている複数の成分ピークをそれぞれのピークパラメータの基準ピークに対する類似性によって、すなわち、複数の成分ピークのそれぞれの成分ピークを基準パラメータとの差がどれだけ小さいかによって順位付けし(ステップ108)、最も順位の高い成分ピークを当該基準ピークに対応する成分ピークとして特定する(ステップ109)。なお、最も順位の高い成分ピークが複数存在する場合には、それらの成分ピークのうちピーク溶出順位の高い(すなわち、ピーク番号の小さい)成分ピークを当該基準ピークに対応する成分ピークとして特定してもよく、また、基準ピークとの差がより小さい方を特定成分としてもよい。
【0024】
上記ステップ104~109の動作をすべてのクロマトグラムに対するすべての基準ピークの同定処理が終了するまで実行する(ステップ110、111)。
【0025】
次に、手動同定における動作の一例について、図1とともに図4のフローチャートを用いて説明する。
【0026】
手動同定は、上述の自動同定が実行された後で実行することができる一方で、自動同定とは無関係に実行することもできる。自動同定が実行された後で手動同定を実行する場合には、同定処理を行ないたい1組のデータセットがすでに選択された状態である。一方で、自動同定が未実行である場合には、ユーザが、同定処理を行ないたいデータセットを選択する。
【0027】
自動同定の実行の有無に関わらず、データ処理部10は、同定対象のデータセットに含まれる複数の分析データをそれぞれのクロマトグラムとともにディスプレイ6に一覧表示する(ステップ201)。分析データ及びクロマトグラムの一覧表示画面の一例は、図5に示されるようなものである。図5に例示された外面では、複数のクロマトグラムと各クロマトグラムのピークテーブル(各クロマトグラム上の成分ピークのパラメータの一覧)が分析条件ごとに縦に並んで配列されている。ユーザは、複数のクロマトグラムやそれらのクロマトグラム上の成分ピークに関する情報を同一画面上で確認することができ、それによって分析条件の違いによる化合物の保持時間の推移を容易に把握することができる。
【0028】
データ処理部10は、複数のクロマトグラム及び各クロマトグラムのピークテーブルを一覧表示した状態で、基準クロマトグラムとする1つのクロマトグラムをユーザに選択させる(ステップ202)。ユーザによって特定された基準クロマトグラム上の成分ピークはすべて基準ピークとなる。なお、当該手動同定が自動同定の後に実行されている場合、自動同定の過程で基準クロマトグラムがすでに特定されているので、このステップ202は省略することができる。
【0029】
データ処理部10は、さらに、複数のクロマトグラム及び各クロマトグラムのピークテーブルをディスプレイ6に一覧表示した状態で、同定対象の基準ピークをユーザに選択させる(ステップ203)。基準ピークの選択は、クロマトグラム上及びピークテーブル上のいずれにおいても行なうことができる。データ処理部10は、さらに、一覧表示されている複数のクロマトグラム上の成分ピークの中から、又は、一覧表示されている各クロマトグラムのピークテーブルの中から、同定対象の基準ピークに対応する1つ以上の成分ピークを特定する操作をユーザに行なわせ、ユーザによって特定された成分ピークのそれぞれを当該基準ピークに対応する成分ピークとして特定する(ステップ204、205)。ユーザは、複数のクロマトグラム上の成分ピークの中から同一の基準ピークに対応する複数の成分ピークを特定する操作を、連続的に又は一括的に実行することができる。上記のステップ203~205は、ユーザが任意に選択するすべての基準ピークについて順に実行することができる(ステップ206)。
【0030】
ここで、データ処理部10は、クロマトグラムの一覧表示画面上で、自動同定又は手動同定によって互いに対応付けられた成分ピークをユーザが視認可能であるような表示を行なうように構成されている。例えば、ユーザがあるクロマトグラム上で1つの成分ピークを選択すると、その成分ピークに対応する他のクロマトグラム上のすべての成分ピークがハイライト表示されるなどして、ユーザが成分ピークの対応関係を容易に認識できるような表示がなされる。図5の画面表示の例では、異なるクロマトグラム上で3つの成分ピークが破線で囲われ、これら3つの成分ピークが互いに対応していることをユーザが容易に認識できるようになっている。
【0031】
次に、上述の自動同定及び手動同定を利用してサンプルに最適な分析条件を探索する方法の一例について、図1とともに図6のフローチャートを用いて説明する。
【0032】
まず、LC部100にて分析条件を決定したサンプルについて互いに異なる複数の分析条件で分析を行ない(ステップ301)、それらの分析によって得られた複数の分析データをデータ処理システム1のデータ処理装置2に取り込む(ステップ302)。データ処理装置2では、各分析で得られた分析データに基づく複数のクロマトグラムや各クロマトグラムのピークテーブルが作成され、それらのデータが1組のデータセットとなる。
【0033】
次に、1組のデータセットに含まれる複数のクロマトグラム上の成分ピークを互いに対応付けるために自動同定を実行する(ステップ303)。特定のピークパラメータによるフィルタリングを利用して同定処理を行なう自動同定では、分析条件の決定に必要な成分ピークの同定が不完全になることがある。そこで、自動同定を実行した後、ユーザは、分析条件の決定に必要な成分ピークの同定が完全に行なわれているか否かを、自動同定の結果を見て確認し(ステップ304)、同定処理が不完全である場合には手動同定を実行する(ステップ305)。
【0034】
自動同定に必要に応じて手動同定を組み合わせた同定処理が完了した後、ユーザは同定結果に基づいてサンプルにとって最適と考えられる分析条件を決定する(ステップ306)。
【0035】
なお、以上において説明した実施例は、本発明に係るデータ処理システムの実施形態を例示したに過ぎない。本発明に係るデータ処理システムの実施形態は、以下に示す通りである。
【0036】
本発明に係るデータ処理システムの第1の実施形態では、同一のサンプルについて互いに異なる複数の分析条件でクロマトグラフィ分析されることにより取得された複数のクロマトグラムを記憶するデータ記憶部と、前記データ記憶部に記憶された前記複数のクロマトグラムについてのデータ処理を行なうデータ処理部と、を備え、前記データ処理部は、前記データ記憶部に記憶された前記複数のクロマトグラムの中から選択された1つのクロマトグラムを基準クロマトグラム、前記基準クロマトグラム上の複数の成分ピークをそれぞれ基準ピークとし、前記複数のクロマトグラムのうち前記基準クロマトグラム以外の他のクロマトグラム上の成分ピークのうちのどの成分ピークが前記複数の基準ピークのそれぞれに対応するかを特定する同定処理を自動的に行なうための自動同定を実行可能であり、前記データ処理部は、前記自動同定において、前記複数の基準ピークのそれぞれのピークパラメータをそれぞれの基準パラメータとし、前記他のクロマトグラム上の成分ピークのそれぞれのピークパラメータについて前記基準パラメータを用いたフィルタリングを実行することによって前記複数の基準ピークのそれぞれに対応する成分ピークを特定するように構成されている。
【0037】
上記第1の実施形態の第1態様では、前記フィルタリングに用いる前記ピークパラメータが、ピーク溶出順位、ピーク面積、ピーク高さ、ピーク面積割合、ピーク高さ割合、スペクトル類似度、マススペクトル類似度、及びマススペクトルのベースピークのm/zのうちから選択された少なくとも1つのパラメータである。
【0038】
上記第1の実施形態の第2態様では、前記データ処理部が、前記基準ピークのそれぞれについて実行する前記フィルタリングにおいて、それぞれの前記基準ピークの前記基準パラメータとの差が所定範囲内にあるピークパラメータをもつ成分ピークをそれぞれの基準ピークに対応する成分ピークの候補とするように構成されている。この第2態様は、上記第1態様と組み合わせることができる。
【0039】
ここで、ピーク面積などのパラメータが互いに近い成分ピークが同一のクロマトグラム上に複数存在することがあり得る。そのような場合に、ピーク面積などのパラメータを用いたフィルタリングだけでは、複数の成分ピークがフィルタリング条件に該当し、同定対象の基準ピークに対応する成分ピークを1つに絞ることができない。そこで、上記第2態様において、前記データ処理部は、同一のクロマトグラム上の複数の成分ピークを同一の前記基準ピークに対応する成分ピークの候補としたときは、ピーク溶出順位を用いて前記複数の成分ピークのうちの1つの成分ピークを前記候補とするように構成されていてもよい。また、前記データ処理部は、同一のクロマトグラム上の複数の成分ピークを同一の前記基準ピークに対応する成分ピークの候補としたときは、前記基準ピークの前記基準パラメータとの差がより小さい成分ピークを前記候補とするように構成されていてもよい。これらの態様により、同定対象の基準ピークに対応する成分ピークを1つに絞ることができる。
【0040】
上記第1の実施形態の第3態様では、前記データ処理部が、前記基準クロマトグラムとして選定すべきクロマトグラムを前記複数のクロマトグラムの中からユーザに選択させ、ユーザにより選択されたクロマトグラムを前記基準クロマトグラムとするように構成されている。なお、同定処理の目的は複数のクロマトグラム間で互いの成分ピークの対応関係を特定することであるので、原則として、複数のクロマトグラムのうちのいずれのクロマトグラムが基準となってもよい。ただし、分析条件によっては複数の成分ピークが互いに重なり合ったクロマトグラムとなっていることもあり、そのようなクロマトグラムを基準とすることは適切ではない。したがって、ユーザが同定の基準となるクロマトグラムを選定できるようになっていることが好ましい。この第3態様は、上記第1態様及び/又は第2態様と組み合わせることができる。
【0041】
上記第1の実施形態の第4態様では、前記データ処理部は、前記同定処理をユーザが手動で行なうための手動同定も実行可能であり、前記データ処理部は、前記手動同定において、前記基準ピークのうち同定対象の基準ピークをユーザに特定させ、前記同定対象の基準ピークに対応する成分ピークを特定する操作を、前記複数の他のクロマトグラムを一覧表示した状態でユーザに行なわせるように構成されている。このような態様により、ピークパラメータを用いたフィルタリングによる自動同定では同定できないような成分ピークが存在する場合にも、そのような成分ピークに対してユーザが手動で同定処理を行なうことができるようになる。この第4態様は、上記第1態様、第2態様及び/又は第3態様と自由に組み合わせることができる。
【0042】
上記第4態様において、前記データ処理部は、前記手動同定において、前記複数の他のクロマトグラムを一覧表示した状態で、前記同定対象の基準ピークに対応する複数の成分ピークを連続的に又は一括的に特定する操作をユーザが実行可能であるように構成されていることが好ましい。そうすれば、成分ピークの同定処理の効率が向上する。
【0043】
また、上記第4態様において、前記データ処理部は、前記自動同定を実行した後で前記手動同定を実行可能であるように構成されている。
【0044】
上記第1の実施形態の第5態様では、前記データ処理部が、前記複数のクロマトグラム間における成分ピークの対応関係をユーザが視認可能なように、前記同定処理によって互いに対応付けられた複数の成分ピークに共通の表示を行なうように構成されている。このような態様により、同定処理によって対応付けられた異なるクロマトグラム上の成分ピークを容易に認識できるようになり、分析条件の違いによる成分ピークの推移などを把握しやすくなる。この第5態様は、上記第1態様、第2態様、第3態様、及び/又は第4態様と自由に組み合わせることができる。
【0045】
本発明に係るデータ処理システムの第2の実施形態では、同一のサンプルについて互いに異なる複数の分析条件でクロマトグラフィ分析されることにより取得された複数のクロマトグラムを記憶するデータ記憶部と、前記データ記憶部に記憶された前記複数のクロマトグラムについてのデータ処理を行なうデータ処理部と、を備え、前記データ処理部は、前記データ記憶部に記憶された前記複数のクロマトグラムの中から選択された1つのクロマトグラムを基準クロマトグラム、前記基準クロマトグラム上の複数の成分ピークをそれぞれ基準ピークとし、前記複数のクロマトグラムのうち前記基準クロマトグラム以外の複数の他のクロマトグラム上の成分ピークのうちのどの成分ピークが前記複数の基準ピークのそれぞれに対応するかを特定する同定処理をユーザが手動で行なうための手動同定を実行可能であり、前記データ処理部は、前記手動同定において、前記基準ピークのうち同定対象の基準ピークをユーザに特定させ、前記複数の他のクロマトグラムを一覧表示した状態で前記同定対象の基準ピークに対応する複数の成分ピークを特定する操作を連続的に又は一括的にユーザが実行可能なように構成されている。
【0046】
上記第2の実施形態において、前記データ処理部は、前記複数のクロマトグラム間における成分ピークの対応関係をユーザが視認可能なように、互いに対応付けられた複数の成分ピークに共通の表示を行なうように構成されていることが好ましい。そうすれば、同定処理によって対応付けられた異なるクロマトグラム上の成分ピークを容易に認識できるようになり、分析条件の違いによる成分ピークの推移などを把握しやすくなる。
【符号の説明】
【0047】
1 データ処理システム
2 データ処理装置
4 入力装置
6 ディスプレイ
8 データ記憶部
10 データ処理部
100 LC部
図1
図2
図3
図4
図5
図6