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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023048803
(43)【公開日】2023-04-07
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/18 20160101AFI20230331BHJP
   H02P 6/18 20160101ALI20230331BHJP
【FI】
H02P21/18
H02P6/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021158330
(22)【出願日】2021-09-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 由樹
【テーマコード(参考)】
5H505
5H560
【Fターム(参考)】
5H505AA06
5H505BB05
5H505CC01
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505GG06
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ26
5H505KK05
5H505LL14
5H505LL22
5H505LL41
5H560AA02
5H560BB04
5H560BB12
5H560DA14
5H560DB14
5H560DC12
5H560EB01
5H560GG04
5H560RR01
5H560SS01
5H560TT08
5H560TT15
5H560XA02
5H560XA04
5H560XA06
5H560XA12
5H560XA13
(57)【要約】
【課題】モータの制御の安定化を図ること。
【解決手段】モータ制御装置100aにおいて、加算器44,45は、モータMを所望の回転数で駆動するためのd軸駆動用電圧指令値Vdm,q軸駆動用電圧指令値Vqmと、モータMのロータ位置の推定に用いられる高周波電流を発生させるためのd軸高周波電圧指令値Vdh,q軸高周波電圧指令値Vqhとを加算することによりd軸電圧指令値Vd,q軸電圧指令値Vqを算出し、軸誤差演算器30は、d軸高周波電圧指令値Vdh,q軸高周波電圧指令値Vqhの印加に応じて発生する高周波電流を用いて軸誤差Δθを算出し、位置推定精度判定器71は、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqから分離される鏡相電流ベクトルIhnに基づいてロータ位置の推定精度が安定制御条件を満足するか否かを判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを所望の回転数で駆動するための駆動用電圧指令値と、前記モータのロータ位置の推定に用いられる高周波電流を発生させるための高周波電圧指令値とを加算することにより電圧指令値を算出する加算器と、
前記高周波電圧指令値の印加に応じて発生する前記高周波電流を用いて軸誤差を算出する軸誤差演算器と、
前記高周波電流を含む3相電流を算出する電流算出器と、
前記3相電流を前記高周波電流を含む2相電流に変換する変換器と、
前記2相電流から分離される鏡相電流ベクトルに基づいて前記ロータ位置の推定精度が安定制御条件を満足するか否かを判定する推定精度判定器と、
を具備するモータ制御装置。
【請求項2】
前記推定精度判定器は、鏡相電流ベクトルの振幅が閾値未満のときに、前記推定精度が安定制御条件を満足しないと判定する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記推定精度が安定制御条件を満足しないと判定されたときに高周波電圧振幅指令値を増加させる高周波電圧振幅調整器、をさらに具備する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記推定精度が安定制御条件を満足しないと判定されたときに高周波角周波数を減少させる高周波角周波数調整器、をさらに具備する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流モータのためのセンサレスベクトル制御におけるロータ位置の推定技術の一つとして、トルク発生に寄与しない高周波電圧をモータに印加し、検出電流に含まれる高周波成分(以下では「高周波電流」と呼ぶことがある)を用いてロータ位置の推定を行う技術がある。この技術では、高周波電圧の印加に応じて発生する高周波磁束ベクトルと同方向へ回転する同相電流ベクトルと、高周波磁束ベクトルとは逆方向へ回転する鏡相電流ベクトルとに基づいてロータ位置を推定する(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-171799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、モータのロータ位置の推定の精度(以下では「位置推定精度」と呼ぶことがある)は、鏡相電流ベクトルの振幅に大きく影響を受ける。また、鏡相電流ベクトルの振幅はモータのパラメータ(以下では「モータパラメータ」と呼ぶことがある)によって変化する。電流特性のあるモータパラメータは、モータの負荷やモータの回転数等のモータの駆動条件(以下では「モータ駆動条件」と呼ぶことがある)に応じて変化するため、モータ駆動条件によっては、鏡相電流ベクトルの振幅が小さくなってしまうことがある。鏡相電流ベクトルの振幅が小さくなってしまうと、鏡相電流ベクトルの振幅に対するノイズの比率が大きくなるため、S/N比が十分確保できないことになる。その結果、ノイズの影響によって位置推定精度が十分に確保できず、モータの制御が不安定になってしまう。このため、モータの制御を安定させるためには、モータの位置推定精度が十分に確保されているか否かを正しく判定することが求められる。
【0005】
そこで、本開示では、モータの制御の安定化を図ることができる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のモータ制御装置は、加算器と、軸誤差演算器と、電流算出器と、変換器と、推定精度判定器とを有する。前記加算器は、モータを所望の回転数で駆動するための駆動用電圧指令値と、前記モータのロータ位置の推定に用いられる高周波電流を発生させるための高周波電圧指令値とを加算することにより電圧指令値を算出する。前記軸誤差演算器は、前記高周波電圧指令値の印加に応じて発生する前記高周波電流を用いて軸誤差を算出する。前記電流算出器は、前記高周波電流を含む3相電流を算出する。前記変換器は、前記3相電流を前記高周波電流を含む2相電流に変換する。前記推定精度判定器は、前記2相
電流から分離される鏡相電流ベクトルに基づいて前記ロータ位置の推定精度が安定制御条件を満足するか否かを判定する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、モータの制御の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の実施例1のモータ制御装置の構成例を示す図である。
図2図2は、本開示の実施例1の高周波電圧指令値生成器の構成例を示す図である。
図3図3は、本開示の実施例1の軸誤差演算器の構成例を示す図である。
図4図4は、本開示の実施例1の同相鏡相電流ベクトル生成器の構成例を示す図である。
図5図5は、本開示の実施例1の高周波電圧振幅調整器における処理手順例を示すフローチャートである。
図6図6は、本開示の実施例1の高周波電圧振幅調整器における処理手順例を示すフローチャートである。
図7図7は、本開示の実施例1の高周波電圧振幅調整器における処理手順例を示すフローチャートである。
図8図8は、本開示の実施例2のモータ制御装置の構成例を示す図である。
図9図9は、本開示の実施例2の高周波角周波数調整器における処理手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例において、同一の部位には同一の符号を付し、重複する説明を省略することがある。
【0010】
本開示では、圧縮機を駆動する永久磁石同期モータ(Permanent Magnet Synchronous Motor:PMSM)の位置センサレスベクトル制御を行うモータ制御装置を一例に挙げて説明する。しかし、開示の技術は、磁気突極性を有するモータに対し、磁気突極性を利用してロータ位置の推定を行うモータ制御装置に広く適用可能である。
【0011】
[実施例1]
<モータ制御装置の構成>
図1は、本開示の実施例1のモータ制御装置の構成例を示す図である。図1において、モータ制御装置100aは、減算器11,18,19と、速度制御器12と、加算器21,22,44,45と、電流指令値算出器14と、電流制御器20と、d-q/u,v,w変換器23と、PWM(Pulse Width Modulation)変調器24と、IPM(Intelligent Power Module)25とを有する。IPM25は、モータMに接続される。モータMの一例としてPMSMが挙げられる。
【0012】
また、モータ制御装置100aは、シャント抵抗26と、電流センサ27a,27bと、3φ電流算出器28とを有する。なお、モータ制御装置100aは、シャント抵抗26、または、電流センサ27a,27bの何れか一方を有していれば良い。
【0013】
また、モータ制御装置100aは、u,v,w/d-q変換器29と、軸誤差演算器30と、PLL(Phase Locked Loop)制御器31と、位置推定器32と、1/Pn処理器33と、非干渉化制御器36とを有する。
【0014】
また、モータ制御装置100aは、高周波除去フィルタ41,42と、高周波電圧指令値生成器43と、Pn処理器46とを有する。
【0015】
また、モータ制御装置100aは、位置推定精度判定器71と、高周波電圧振幅調整器72aとを有する。
【0016】
減算器11は、モータ制御装置100aの外部(例えば、上位のコントローラ)からモータ制御装置100aへ入力される機械角速度指令値ωmから、1/Pn処理器33より出力される現在の推定角速度である機械角推定角速度ωmを減算することにより角速度誤差Δωを算出する。ここで、機械角速度指令値ωmは、モータMの所望の回転数に基づいて定められる指令値である。
【0017】
速度制御器12は、角速度誤差Δωの平均が0に近づくようなトルク指令値Tを生成する。
【0018】
電流指令値算出器14は、トルク指令値Tをd-q座標軸上のd軸電流指令値Idとq軸電流指令値Iqとに分配する。
【0019】
減算器18は、高周波除去フィルタ41より出力される高周波除去d軸電流値Idmをd軸電流指令値Idから減算することにより、d軸電流指令値Idと高周波除去d軸電流値Idmとの誤差であるd軸電流誤差Id_diffを算出する。減算器19は、高周波除去フィルタ42より出力される高周波除去q軸電流値Iqmをq軸電流指令値Iqから減算することにより、q軸電流指令値Iqと高周波除去q軸電流値Iqmとの誤差であるq軸電流誤差Iq_diffを算出する。
【0020】
電流制御器20は、入力されたd軸電流誤差Id_diffに基づいてPI(Proportional Integral)制御を行うことにより仮d軸電圧指令値Vdtを算出する。また、電流制御器20は、入力されたq軸電流誤差Iq_diffに基づいてPI制御を行うことにより仮q軸電圧指令値Vqtを算出する。
【0021】
非干渉化制御器36は、Pn処理器46より出力される電気角速度指令値ωeと、電流指令値算出器14より出力されるd軸電流指令値Idとに基づいて、仮d軸電圧指令値Vdtを補償するためのd軸非干渉化電圧指令値Vdaを生成する。また、非干渉化制御器36は、Pn処理器46より出力される電気角速度指令値ωeと、電流指令値算出器14より出力されるq軸電流指令値Iqとに基づいて、仮q軸電圧指令値Vqtを補償するためのq軸非干渉化電圧指令値Vqaを生成する。d軸非干渉化電圧指令値Vda及びq軸非干渉化電圧指令値Vqaは、d-q座標軸間の干渉をフィードフォワードでキャンセルするための非干渉化補償値である。
【0022】
加算器21は、d軸非干渉化電圧指令値Vdaを仮d軸電圧指令値Vdtに加算することによりd軸駆動用電圧指令値Vdmを算出する。加算器22は、q軸非干渉化電圧指令値Vqaを仮q軸電圧指令値Vqtに加算することによりq軸駆動用電圧指令値Vqmを算出する。これにより、d-q座標軸間の干渉がフィードフォワードでキャンセルされたd軸駆動用電圧指令値Vdm及びq軸駆動用電圧指令値Vqmが得られる。
【0023】
d-q/u,v,w変換器23は、加算器44,45より出力される2相のd軸電圧指令値Vd及びq軸電圧指令値Vqを、位置推定器32より出力される電気角位相θeに基づいて、3相のU相出力電圧指令値Vu、V相出力電圧指令値Vv及びW相出力電圧指令値Vwへ変換する。位置推定器32より出力される電気角位相θeは、モータMの現在のロータ位置を示す。
【0024】
PWM変調器24は、U相出力電圧指令値Vu、V相出力電圧指令値Vv、W相出力電圧指令値Vwと、PWMキャリア信号とに基づいて、6相のPWM信号を生成し、生成した6相のPWM信号をIPM25へ出力する。
【0025】
IPM25は、PWM変調器24より出力される6相のPWM信号に基づいて、直流電圧VdcからU相、V相、W相の3相の交流電圧を生成し、生成した3相それぞれの交流電圧をモータMのU相、V相、W相へ印加する。
【0026】
3φ電流算出器28は、シャント抵抗26を用いた1シャント方式で母線電流が検出される場合、PWM変調器24より出力される6相のPWMスイッチング情報と、検出された母線電流とから、モータMのU相電流値Iu、V相電流値Iv、W相電流値Iwを算出する。または、3φ電流算出器28は、電流センサ27a,27bでU相電流及びV相電流が検出される場合、残りのW相電流値Iwを“Iu+Iv+Iw=0”のキルヒホッフの法則に基づいて算出する。3φ電流算出器28は、各相の相電流値Iu,Iv,Iwをu,v,w/d-q変換器29へ出力する。
【0027】
u,v,w/d-q変換器29は、位置推定器32より出力される電気角位相θeに基づいて、3相のU相電流値Iu、V相電流値Iv、W相電流値Iwを、2相のd軸電流値Id及びq軸電流値Iqへ変換する。
【0028】
高周波除去フィルタ41は、d軸電流値Idの高周波成分をd軸電流値Idから除去することにより、トルク発生に寄与する駆動成分である高周波除去d軸電流値Idmをd軸電流値Idから抽出する。また、高周波除去フィルタ42は、q軸電流値Iqの高周波成分をq軸電流値Iqから除去することにより、トルク発生に寄与する駆動成分である高周波除去q軸電流値Iqmをq軸電流値Iqから抽出する。高周波除去フィルタ41,42は、例えば、バンドストップフィルタF(s)により実現される。高周波角周波数ωhをバンドストップの中心周波数とするバンドストップフィルタF(s)は式(1)に従って実現可能である。高周波角周波数ωhは、モータ制御装置100aの外部(例えば、上位のコントローラ)からモータ制御装置100aへ入力される。式(1)において、“s”はラプラス演算子、“d”はノッチの深さ、“ζ”はノッチの帯域幅を表す所定のフィルタ係数である。
【数1】
【0029】
PLL制御器31は、軸誤差Δθに基づいて、モータMの現在の推定角速度である電気角推定角速度ωeを算出する。
【0030】
位置推定器32は、電気角推定角速度ωeに基づいて電気角位相θeを推定する。
【0031】
1/Pn処理器33は、電気角推定角速度ωeをモータMの極対数Pnで除算することにより機械角推定角速度ωmを算出する。
【0032】
Pn処理器46は、機械角速度指令値ωmにモータMの極対数Pnを乗算することに電気角速度指令値ωeを算出する。
【0033】
高周波電圧指令値生成器43は、高周波角周波数ωhと、高周波電圧振幅調整器72aから入力される高周波電圧振幅指令値Vhとに基づいて、d軸高周波電圧指令値Vdh及びq軸高周波電圧指令値Vqhを生成する。以下では、d軸高周波電圧指令値とq軸高周波電圧指令値とを「高周波電圧ベクトル」と総称することがある。高周波電圧ベクトルVdh,Vqhは、ロータ位置の推定に用いられる高周波電流を発生させるために生成され、ロータ位置の推定のためのトルク発生には寄与しない。つまり、ロータ位置の推定に用いられる高周波電流は、高周波電圧ベクトルVdh,Vqhの印加に応じて発生する。
【0034】
加算器44は、ロータ位置の推定のためのトルク発生に寄与するd軸駆動用電圧指令値Vdmとd軸高周波電圧指令値Vdhとを加算することによりd軸電圧指令値Vdを算出する。加算器45は、ロータ位置の推定のためのトルク発生に寄与するq軸駆動用電圧指令値Vqmとq軸高周波電圧指令値Vqhとを加算することによりq軸電圧指令値Vqを算出する。以下では、d軸駆動用電圧指令値Vdm及びq軸駆動用電圧指令値Vqmを「駆動用電圧指令値Vm」と総称することがある。
【0035】
軸誤差演算器30は、d軸電流値Idと、q軸電流値Iqと、高周波角周波数ωhとに基づいて、軸誤差Δθ(実際の回転軸と推定された回転軸との差)を算出する。d軸電流値Id及びq軸電流値Iqには高周波電流が含まれる。つまり、軸誤差演算器30は、高周波電圧ベクトルVdh,Vqhの印加に応じて発生する高周波電流ベクトルを用いて、d-q座標軸とd-q座標軸の推定座標軸とのズレである軸誤差Δθを算出する。また、軸誤差演算器30は、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqに含まれる鏡相電流ベクトルIhnを検出し、検出した鏡相電流ベクトルIhnを位置推定精度判定器71へ出力する。
【0036】
位置推定精度判定器71は、モータMの制御の安定性を確保する上で、位置推定精度が安定制御条件を満足するか否かを判定する。位置推定精度判定器71は、例えば、鏡相電流ベクトルIhnに基づいて位置推定精度が安定制御条件を満足するか否かを判定し、位置推定精度が安定制御条件を満足すると判定したときはフラグFLを“0”にセットする一方で、位置推定精度が安定制御条件を満足しないと判定したときはフラグFLを“1”にセットする。ここで、安定制御条件とは、例えば、鏡相電流ベクトルIhnの振幅|Ihn|が閾値|Ihn|以上であることである。位置推定精度判定器71は、鏡相電流ベクトルIhnの振幅|Ihn|が閾値|Ihn|以上のときは位置推定精度が安定制御条件を満足すると判定する一方で、鏡相電流ベクトルIhnの振幅|Ihn|が閾値|Ihn|未満のときは位置推定精度が安定制御条件を満足しないと判定する。また、閾値|Ihn|は、モータMを安定して駆動するために十分なS/N比が確保できることが分かっている最低限の値に定められる。したがって、位置推定精度が安定制御条件を満足すると判定されたときは、位置推定精度は十分に確保されている。位置推定精度判定器71は、“0”または“1”にセットしたフラグFLを高周波電圧振幅調整器72aへ出力する。
【0037】
高周波電圧振幅調整器72aは、フラグFLに基づいて高周波電圧振幅指令値Vhを調整し、調整後の高周波電圧振幅指令値Vhを高周波電圧指令値生成器43へ出力する。これにより、モータMのロータ位置の推定に用いられる高周波電流を発生させるための高周波電圧の振幅が調整される。
【0038】
<高周波電圧指令値生成器の構成>
図2は、本開示の実施例1の高周波電圧指令値生成器の構成例を示す図である。図2において、高周波電圧指令値生成器43は、位相発生器43aと、余弦正弦信号発生器43bと、乗算器43cとを有する。
【0039】
位相発生器43aは、“0≦θh≦2π”の範囲で高周波角周波数ωhを積分することにより、高周波電圧ベクトルの位相である高周波位相θhを生成する。
【0040】
余弦正弦信号発生器43bは、式(2)に従って、高周波位相θhの余弦・正弦値u(θh)を発生する。
【数2】
【0041】
乗算器43cは、余弦・正弦値u(θh)と高周波電圧振幅指令値Vhとに基づいて式(3)に従ってd軸高周波電圧指令値Vdh及びq軸高周波電圧指令値Vqhを生成する。
【数3】
【0042】
<軸誤差演算器の構成>
図3は、本開示の実施例1の軸誤差演算器の構成例を示す図である。図3において、軸誤差演算器30は、同相鏡相電流ベクトル生成器301と、鏡相推定器302とを有する。軸誤差演算器30は、モータMの磁気突極性を利用し、高周波角周波数ωhと、d軸電流値Idと、q軸電流値Iqとに基づいて、軸誤差Δθを算出する。図4は、本開示の実施例1の同相鏡相電流ベクトル生成器の構成例を示す図である。図4において、同相鏡相電流ベクトル生成器301は、符号反転器b11と、D因子フィルタb12,b13とを有する。
【0043】
図4において、符号反転器b11は、高周波角周波数ωhの符号を反転し、符号反転後の高周波角周波数-ωhをD因子フィルタb12へ出力する。
【0044】
D因子フィルタb12,b13は、同相成分と鏡相成分とを分離・抽出するフィルタであり、D因子フィルタb12,b13におけるD因子は、単位行列Iと交代行列Jとラプラス演算子sとを用いた式(4)によって定義される。
【数4】
【0045】
D因子フィルタb12は、符号反転後の高周波角周波数-ωhに基づいて、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqに含まれる同相電流ベクトルIhpを検出する。同相電流ベクトルIhpは、高周波電圧ベクトルVdh,Vqhの印加に応じて発生する高周波磁束ベクトルと同方向へ回転する。D因子フィルタb12は、同相電流ベクトルIhpを鏡相推定器302へ出力する。
【0046】
D因子フィルタb13は、高周波角周波数ωhに基づいて、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqに含まれる鏡相電流ベクトルIhnを検出する。鏡相電流ベクトルIhnは、高周波電圧ベクトルVdh,Vqhの印加に応じて発生する高周波磁束ベクトルと逆方向へ回転する。D因子フィルタb13は、鏡相電流ベクトルIhnを鏡相推定器302及び位置推定精度判定器71へ出力する。
【0047】
ここで、D因子フィルタb12,b13は、2×1ベクトルの各成分であるスカラ信号に対して、周波数特性F(s+jωh)のフィルタと等価な働きをする。よって、F(s)をローパスの特性をもつように設計してD因子フィルタb12,b13に適用することで、D因子フィルタb12,b13は、ωhを中心周波数とするバンドパスフィルタとして機能することになる。さらに、D因子フィルタb12,b13は、極性分離の特性を有している。つまり、D因子フィルタb12,b13における極性分離のバンドパス特性により、d軸電流値Id及びq軸電流値Iqを同相電流ベクトルIhpと鏡相電流ベクトルIhnとに分離することができる。
【0048】
鏡相推定器302は、同相電流ベクトルIhpと鏡相電流ベクトルIhnとに基づいて、式(5)及び式(6)に従って軸誤差Δθを算出する。つまり、鏡相推定器302は、ノルムを同一化した同相電流ベクトルIhpと鏡相電流ベクトルIhnとのベクトル加算によって得られる合成ベクトルの逆正接を軸誤差Δθとして算出する。
【数5】
【数6】
【0049】
<高周波電圧振幅調整器における処理手順>
図5図6及び図7は、本開示の実施例1の高周波電圧振幅調整器における処理手順例を示すフローチャートである。以下では、高周波電圧振幅調整器72aが採用可能な処理手順例として、処理手順例PE1,PE2,PE3の3つの処理手順例について説明する。
【0050】
<処理手順例PE1(図5)>
図5に示すように、ステップS100では、高周波電圧振幅調整器72aは、フラグFLの値が“1”であるか否かを判定する。フラグFLの値が“1”であるときは(ステップS100:Yes)、処理はステップS105へ進み、フラグFLの値が“0”であるときは(ステップS100:No)、処理はステップS110へ進む。
【0051】
ここで、鏡相電流ベクトルIhnの振幅|Ihn|は式(7)によって表されるため、高周波電圧振幅指令値Vhが増加すると振幅|Ihn|が増加し、高周波角周波数ωhが減少すると振幅|Ihn|が増加する。式(7)において、“Ld”はモータMのd軸インダクタンス、“Lq”はモータMのq軸インダクタンスである。
【数7】
【0052】
そこで、ステップS105では、高周波電圧振幅調整器72aは、高周波電圧振幅指令値Vhを所定値V1だけ増加させる。ここで、所定値V1は、モータMの制御を不安定にすることなく、位置推定精度を迅速に確保できる値に予め定められる。これにより、位置推定精度が十分に確保されていないときには、予め定めた速さで位置推定精度が十分に確保されるように、高周波電圧振幅指令値Vhを調整することができる。
【0053】
一方で、ステップS110では、高周波電圧振幅調整器72aは、高周波電圧振幅指令値VhをV1/Kだけ減少させる。ここで、Kは1以上の値であり、高周波電圧振幅指令値Vhの調整においてハンチングの発生を抑制できる値に予め定められる。このように、位置推定精度が十分に確保されているときには、高周波電圧振幅指令値Vhを減少させることで、高周波電圧振幅指令値Vhが過度に大きくなることによるモータMの騒音増大やモータMの効率悪化等を防止する。
【0054】
<処理手順例PE2(図6)>
図6に示すように、ステップS100では、高周波電圧振幅調整器72aは、フラグFLの値が“1”であるか否かを判定する。フラグFLの値が“1”であるときは(ステップS100:Yes)、処理はステップS115へ進み、フラグFLの値が“0”であるときは(ステップS100:No)、処理はステップS110へ進む。
【0055】
ステップS115では、高周波電圧振幅調整器72aは、高周波電圧振幅指令値Vhを、式(8)に従って算出される可変値V2だけ増加させる。式(8)において、“g”は所定のゲイン値である。すなわち、可変値V2は、閾値|Ihn|と振幅|Ihn|との差分にゲイン値を乗じた値だけ、振幅|Ihn|を変化させる値である。ここで、閾値|Ihn|は位置推定精度を十分に確保するために必要な振幅を意味する。したがって、位置推定精度が十分に確保されていないときには、位置推定精度を十分に確保するために必要な振幅と現在の振幅との乖離が大きいほど、高周波電圧振幅指令値Vhの制御量を大きくすることができる。これにより、処理手順例PE1よりもさらに迅速に、位置推定精度を十分に確保することができる。
【数8】
【0056】
<処理手順例PE3(図7)>
図7に示すように、ステップS100では、高周波電圧振幅調整器72aは、フラグFLの値が“1”であるか否かを判定する。フラグFLの値が“1”であるときは(ステップS100:Yes)、処理はステップS115へ進み、フラグFLの値が“0”であるときは(ステップS100:No)、処理はステップS120へ進む。
【0057】
ステップS120では、ステップS120では、高周波電圧振幅調整器72aは、高周波電圧振幅指令値VhをV2/K(但し、K≧1)だけ減少させる。これにより、位置推定精度が十分に確保されているときには、位置推定精度を十分に確保するために必要な振幅と現在の振幅との乖離が小さいほど、高周波電圧振幅指令値Vhの制御量を小さくすることができる。これにより、処理手順例PE1,PE2よりもハンチングの発生をさらに抑制することができる。
【0058】
なお、処理手順例PE1,PE2,PE3において、高周波電圧振幅調整器72aは、フラグFLの値が“0”であり、かつ、鏡相電流ベクトルIhnの振幅|Ihn|が閾値|Ihn|より僅かに大きい閾値A1以上であるときに、高周波電圧振幅指令値Vhを減少させても良い。つまり、高周波電圧振幅調整器72aは、フラグFLの値が“0”であり、かつ、鏡相電流ベクトルIhnの振幅|Ihn|が閾値|Ihn|以上から閾値A1未満の範囲にあるときは、高周波電圧振幅指令値Vhを変化させずに維持しても良い。こうすることで、高周波電圧振幅指令値Vhの調整においてハンチングが発生してしまうことをさらに防止できる。
【0059】
以上のように、位置推定精度に基づいて高周波電圧振幅指令値Vhを調整することで、位置推定精度が十分に確保されていない場合には、高周波電圧振幅指令値Vhを増加させることにより鏡相電流ベクトルIhnの振幅|Ihn|を増加させることができる。これにより、鏡相電流ベクトルIhnのS/N比を十分に確保できるようになるため、モータMの制御の安定化を図ることができる。
【0060】
以上、実施例1について説明した。
【0061】
[実施例2]
実施例2では、フラグFLに基づいて高周波電圧振幅指令値Vhを調整する替わりに、フラグFLに基づいて高周波角周波数ωhを調整する点が実施例1と相違する。以下、実施例1と異なる点について説明する。
【0062】
<モータ制御装置の構成>
図8は、本開示の実施例2のモータ制御装置の構成例を示す図である。図8において、モータ制御装置100bは、高周波角周波数調整器72bを有する。
【0063】
高周波角周波数調整器72bは、フラグFLに基づいて高周波角周波数ωhを調整し、調整後の高周波角周波数ωhを高周波電圧指令値生成器43、軸誤差演算器30及び高周波除去フィルタ41,42へ出力する。
【0064】
高周波電圧指令値生成器43には、高周波角周波数調整器72bから高周波角周波数ωhが入力され、モータ制御装置100aの外部(例えば、上位のコントローラ)から高周波電圧振幅指令値Vhが入力される。
【0065】
<高周波角周波数調整器における処理手順>
図9は、本開示の実施例2の高周波角周波数調整器における処理手順例を示すフローチャートである。
【0066】
図9に示すように、ステップS100では、高周波角周波数調整器72bは、フラグFLの値が“1”であるか否かを判定する。フラグFLの値が“1”であるときは(ステップS100:Yes)、処理はステップS205へ進み、フラグFLの値が“0”であるときは(ステップS100:No)、処理はステップS210へ進む。
【0067】
ステップS205では、高周波角周波数調整器72bは、高周波角周波数ωhを所定値ω1だけ減少させる。ここで、所定値ω1は、モータMの制御を不安定にすることなく、位置推定精度を迅速に確保できる値に予め定められる。これにより、位置推定精度が十分に確保されていないときには、予め定めた速さで位置推定精度が十分に確保されるように、高周波角周波数ωhを調整することができる。
【0068】
一方で、ステップS210では、高周波角周波数調整器72bは、高周波角周波数ωhをω1/Kだけ増加させる。ここで、Kは1以上の値であり、高周波角周波数ωhの調整においてハンチングの発生を抑制できる値に予め定められる。このように、位置推定精度が十分に確保されているときには、高周波角周波数ωhを増加させることで、高周波角周波数ωhが過度に小さくなることを防止できる。これにより、高周波電流の周波数が駆動用電圧指令値Vmの周波数に近づくことによるモータMの制御の不安定化を防止できる。
【0069】
以上のようにして高周波角周波数ωhを調整することにより、実施例1と同様に、位置推定精度が十分に確保されていない場合に鏡相電流ベクトルIhnの振幅|Ihn|を増加させることができる。このため、鏡相電流ベクトルIhnのS/N比を十分に確保できるようになり、モータMの制御の安定化を図ることができる。
【0070】
以上、実施例2について説明した。
【0071】
[実施例3]
高周波電圧振幅指令値Vhに上限を設けた場合に実施例2を用いても良い。高周波電圧振幅指令値Vhの上限値Vh_limは例えば、以下の算出方法CM1,CM2,CM3により算出可能である。
【0072】
<算出方法CM1>
式(9)で表されるモータMの出力電圧指令値Vaは直流電圧Vdcで制限されるため、直流電圧Vdcに基づいて上限値Vh_limが設定される。実施例2における出力電圧指令値Vaは、駆動用電圧指令値Vmと高周波電圧振幅指令値Vhとの合算値として算出されるため、式(10)が成立する。
【数9】
【数10】
【0073】
式(10)より、上限値Vh_limは、式(11)に従って算出される。
【数11】
【0074】
なお、式(12)に示すように、上限値Vh_limにマージンVmgを持たせても良い。
【数12】
【0075】
<算出方法CM2>
高周波電圧振幅指令値Vhが過度に大きくなると、モータMの騒音増大やモータMの効率悪化等を招いてしまう。
【0076】
そこで、上限値Vh_limは、式(13)に従って算出される。これにより、位置推定精度が十分に確保できる鏡相電流ベクトルIhnの振幅である閾値|Ihn|が確保できる範囲に上限値Vh_limが設定される。なお、式(13)において、Aは上限値Vh_limにマージンを持たせるための所定の倍数である。
【数13】
【0077】
<算出方法CM3>
上限値Vh_limを任意の固定値としても良い。例えば、モータMの騒音やモータMの効率等を勘案し、上限値Vh_limを50[V]の固定値に設定しても良い。
【0078】
以上、実施例3について説明した。
【0079】
以上のように、本開示のモータ制御装置(実施例のモータ制御装置100a,100b)は、加算器(実施例の加算器44,45)と、軸誤差演算器(実施例の軸誤差演算器30)と、電流算出器(実施例の3φ電流算出器28)と、変換器(実施例のu,v,w/d-q変換器29)と、推定精度判定器(実施例の位置推定精度判定器71)とを有する。加算器は、モータ(実施例のモータM)を所望の回転数で駆動するための駆動用電圧指令値(実施例のd軸駆動用電圧指令値Vdm,q軸駆動用電圧指令値Vqm)と、モータのロータ位置の推定に用いられる高周波電流を発生させるための高周波電圧指令値(実施例のd軸高周波電圧指令値Vdh,q軸高周波電圧指令値Vqh)とを加算することにより電圧指令値(実施例のd軸電圧指令値Vd,q軸電圧指令値Vq)を算出する。軸誤差演算器は、高周波電圧指令値の印加に応じて発生する高周波電流を用いて軸誤差(実施例の軸誤差Δθ)を算出する。電流算出器は、高周波電流を含む3相電流を算出する。変換器は、3相電流を高周波電流を含む2相電流に変換する。推定精度判定器は、2相電流から分離される鏡相電流ベクトル(実施例の鏡相電流ベクトルIhn)に基づいて位置推定精度が安定制御条件を満足するか否かを判定する。
【0080】
例えば、推定精度判定器は、鏡相電流ベクトルの振幅(実施例の鏡相電流ベクトルIhnの振幅|Ihn|)が閾値未満のときに、位置推定精度が安定制御条件を満足しないと判定する。
【0081】
また、本開示のモータ制御装置(実施例のモータ制御装置100a)は、位置推定精度が安定制御条件を満足しないと判定されたときに高周波電圧振幅指令値(実施例の高周波電圧振幅指令値Vh)を増加させる高周波電圧振幅調整器(実施例の高周波電圧振幅調整器72a)を有する。
【0082】
また、本開示のモータ制御装置(実施例のモータ制御装置100b)は、位置推定精度が安定制御条件を満足しないと判定されたときに高周波角周波数(実施例の高周波角周波数ωh)を減少させる高周波角周波数調整器(実施例の高周波角周波数調整器72b)を有する。
【符号の説明】
【0083】
100a,100b モータ制御装置
71 位置推定精度判定器
72a,72b 高周波電圧振幅調整器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9