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特開2023-50045抗ウイルス剤およびそれを含む抗ウイルス加工品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050045
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤およびそれを含む抗ウイルス加工品
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/16 20060101AFI20230403BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
A01N59/16 A
A01P1/00
A01N59/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165743
(22)【出願日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2021159945
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390000527
【氏名又は名称】住化エンバイロメンタルサイエンス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】相奈良 賢治
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BA06
4H011BB18
(57)【要約】
【課題】優れた抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤およびそれを含む抗ウイルス加工品を提供する。
【解決手段】
モリブデン酸銀と2-エチルヘキサン酸亜鉛とを含有する抗ウイルス剤は優れた抗ウイルス性を有する。また、該抗ウイルス剤が配合されてなる抗ウイルス加工品も、優れた抗ウイルス性を有し、特に該抗ウイルス剤を抗ウイルス加工品100重量部に対し、0.1~10重量部配合することにより抗ウイルス性は顕著になる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン酸銀と2-エチルヘキサン酸亜鉛とを含有する抗ウイルス剤。
【請求項2】
モリブデン酸銀と2-エチルヘキサン酸亜鉛との合計含有量に対するモリブデン酸銀の含有量が5~25重量%であることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の抗ウイルス剤が配合されてなる抗ウイルス加工品。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の抗ウイルス剤が、抗ウイルス加工品100重量部に対し、0.1~10重量部配合されてなる請求項3に記載の抗ウイルス加工品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス剤およびそれを含む抗ウイルス加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスおよびコロナウイルス等のエンベロープを有するウイルス、もしくはノロウイルス等のエンベロープを有さないウイルスは種々の疾病の原因となることから、これらウイルスを防除するための抗ウイルス性を有する組成物が開発されている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015―071752号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、優れた抗ウイルス性能を有する抗ウイルス剤およびそれを含む抗ウイルス加工品を提供することを課題とする。
【発明が解決するための手段】
【0005】
本発明者は、かかる課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に至った。すなわち本発明は、
〔1〕モリブデン酸銀と2-エチルヘキサン酸亜鉛とを含有する抗ウイルス剤。
〔2〕モリブデン酸銀と2-エチルヘキサン酸亜鉛との合計含有量に対するモリブデン酸銀の含有量が5~25重量%であることを特徴とする上記の抗ウイルス剤。
〔3〕上記の抗ウイルス剤が配合されてなる抗ウイルス加工品。
〔4〕上記の抗ウイルス剤が、抗ウイルス加工品100重量部に対し、0.1~10重量部配合されてなる上記の抗ウイルス加工品。
を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、優れた抗ウイルス性を有する抗ウイルス剤およびそれを含む抗ウイルス加工品を提供することを課題とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の抗ウイルス剤に使用されるモリブデン酸銀は、例えば、銀塩の水溶解液とモリブデン酸塩の水溶解液とを混合することによって析出した析出物を固液分離し、得られたウェット状態の該析出物を乾燥することによって得ることができる。
前記銀塩としては、例えば、硝酸銀、酢酸銀、硫酸銀等が挙げられる。また、前記モリブデン酸塩としては、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0008】
本発明の抗ウイルス剤に使用される2-エチルヘキサン酸亜鉛は、例えば、硫酸亜鉛とカプリル酸アンモニウムとの複分解により得ることができる。また、富士フィルム和光純薬株式会社製等が販売する2-エチルヘキサン酸亜鉛を使用することもできる。
【0009】
2-エチルヘキサン酸亜鉛の室温における性状は粘稠液体であることから、吸油量が1.5~5.0ml/g(JIS K5101-13-1による測定値)の担体に担持させて使用してもよい。当該担体としては、例えば、前記吸油量を有するケイ酸カルシウム、二酸化ケイ素が挙げられる。ケイ酸カルシウムとしては、フローライト(登録商標)RやRT(富田製薬株式会社製)が挙げられ、二酸化ケイ素としてはトクシール(登録商標)NR(Oriental Silicas Corporation)などが挙げられる。担体に担持させて使用するに際しては、通常、担体に対する2-エチルヘキサン酸亜鉛の量(重量/重量)を4倍以下とする。
【0010】
本発明の抗ウイルス剤は、好ましくは、モリブデン酸銀と2-エチルヘキサン酸亜鉛との合計含有量に対するモリブデン酸銀の含有量が5~25重量%の範囲である。
【0011】
本発明の抗ウイルス剤には、必要に応じ、変色防止剤、紫外線吸収剤などを配合してもよい。
【0012】
本発明の抗ウイルス剤は、樹脂フィルムまたはシート等のプラスチック剤、塗料、表面処理剤等のコーティング剤、接着剤、繊維、紙等に配合され抗ウイルス加工品として使用される。本発明の抗ウイルス剤は、特に、樹脂成分に配合されることにより優れた抗ウイルス性を発揮し得る。
【0013】
かかる樹脂成分としては、例えば、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ふっ素樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ニトロセルロース樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂などが挙げられる。
【0014】
本発明の抗ウイルス剤の配合量は、配合される材質により変わり得るが、通常、抗ウイルス加工品100重量部に対し0.1~10重量部である。
【0015】
前記の抗ウイルス加工品は、壁材、手すり、床材、木質フロア材、キッチンカウンター、家具、壁紙など住環境に関する部材、冷蔵庫やエアコンの筐体などの電機製品部材、フィルターなどの繊維製品、携帯用電子機器の画像表示部の保護フィルムなど電気製品に関する部材、自動車や電車のシートやフロアマットなど工業製品に関する部材、包装紙や段ボールなど梱包に関する部材などに使用され、夫々、抗ウイルス性能を有する各種部材として好適に使用される。
【0016】
本発明における抗ウイルスとは、ウイルス感染価が低下して感染性を低減すること、ウイルスの増殖を抑制すること及びウイルスを殺すことを含む。
【実施例0017】
以下、製剤例および試験例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
(モリブデン酸銀の調製)
イオン交換水430.0gを1L容のガラスビーカーに入れ、これに硝酸銀(富士フィルム和光純薬社製)50.0gを加え、撹拌・溶解させ、硝酸銀水溶液を調製した。また、イオン交換水463.4gを1L容のセパラブル丸底フラスコに入れ、これにモリブデン酸ナトリウム二水和物(富士フィルム和光純薬社製)36.6gを加え、撹拌・溶解させ、モリブデン酸ナトリウム水溶液を調製した。
【0019】
次いで、前記のモリブデン酸ナトリウム水溶液に、撹拌しながら硝酸銀水溶液を滴下することによりモリブデン酸銀を析出させた。ここで得られたモリブデン酸銀を含む液を吸引ろ過した後、得られたろ物を乾固することで、モリブデン酸銀を得た。
【製剤例1】
【0020】
2-エチルヘキサン酸亜鉛(富士フイルム和光純薬株式会社製、オクチル酸亜鉛純度99%) 1.0gとフローライトRT 0.25gとを混合した後、さらに前記で調製したモリブデン酸銀 0.25gを混合して抗ウイルス剤(以下、製剤-1と呼ぶ)を得た。
【製剤例2】
【0021】
2-エチルヘキサン酸亜鉛(富士フイルム和光純薬株式会社製、オクチル酸亜鉛純度99%) 1.125gとフローライトRT 0.281gを混合した後、さらに前記で調製したモリブデン酸銀 0.125gを混合して抗ウイルス剤(以下、製剤-2と呼ぶ)を得た。
【比較製剤例】
【0022】
前記で調製したモリブデン酸銀 0.25gを比較製剤(以下、比較製剤-1と呼ぶ)とした。
また、2-エチルヘキサン酸亜鉛(富士フイルム和光純薬株式会社製、オクチル酸亜鉛純度99%) 1.0gを比較製剤(以下、比較製剤-2と呼ぶ)とした。
【0023】
<抗ウイルス性樹脂成形体の試験片の作製>
ZEST-1300(ポリ塩化ビニル、新第一塩ビ製) 100g、フタル酸ジイソノニル 45g、エポキシ化大豆油 6.2gおよび塩ビ樹脂用安定剤 LBK-793K(堺化学工業製) 12.3gを混合後、ラボプラストミルにより170℃で混練し塩ビゾルを得た。前記塩ビゾル 100gと前記製剤-1とを混練し樹脂コンパウンドを得た。該樹脂コンパウンドを180℃に加温したプレス成型機にて3分間プレス後、室温になるまで冷却して厚さ0.5mmのポリ塩化ビニルシートを得て、該シートを5cm×5cmに裁断することで試験片を得た。試験片は2枚用意した。
【0024】
(インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス性試験)
ISO21702に従い、インフルエンザウイルスH3N2株(influenza A virus:A/Hong Kong/8/68:TC adapted ATCC VR-1679)をMDCK細胞(イヌ腎臓由来細胞)により培養し、ウイルス感染価2×10Plaque Forming Unit/ml(以下、PFU/mlと記す)の試験インフルエンザウイルス懸濁液を得た。
【0025】
前記の試験片の1枚をプラスチックシャーレに入れ、該試験片の略中心域に上述の試験インフルエンザウイルス懸濁液を0.4ml滴下した後、試験ウイルス懸濁液全体を覆うように4cm角のポリエチレンフィルムを載置し、25℃、湿度95%下で24時間保管した。次いで試験片とポリエチレンフィルムの間の試験インフルエンザウイルス懸濁液を、10mlのSCDLP培地(日本製薬)により洗い出し、この洗い出し液をEMEM培地を用いて10倍、100倍、1000倍、10000倍および100000倍の希釈を行い、MDCK細胞を対象にプラーク測定法によりインフルエンザウイルス感染価(IV感染価対数値)を測定した。
【0026】
(ネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性試験)
ISO21702に従い、ネコカリシウイルスF-9株(Feline calicivirus、Strain:F-9 ATCC VR-782)をCRFK細胞(ネコ腎臓由来細胞)により培養し、ウイルス感染価2×10Plaque Forming Unit/ml(以下、PFU/mlと記す)の試験ネコカリシウイルス懸濁液を得た。
【0027】
前記で用意した試験片1枚をプラスチックシャーレに入れ、該試験片の略中心域に上述の試験ネコカリシウイルス懸濁液を0.4ml滴下した後、試験ウイルス懸濁液全体を覆うように4cm角のポリエチレンフィルムを載置し、25℃、湿度95%下で24時間保管した。次いで試験片とポリエチレンフィルムの間の試験ネコカリシウイルス懸濁液を、10mlのSCDLP培地(日本製薬)により洗い出し、この洗い出し液をEMEM培地(富士フイルム和光純薬製)を用いて10倍、100倍、1000倍、10000倍および100000倍の希釈を行い、CRFK細胞を対象にプラーク測定法によりネコカリシウイルス感染価(FCV感染価対数値)を測定した。
【0028】
製剤-2、比較製剤-1および比較製剤-2についても上記と同様にして試験片を各2枚を作成し、前記試験と同様にして、インフルエンザウイルスおよびネコカリシウイルスに対する抗ウイルス性試験を実施した。
【0029】
表1に試験結果を纏めて示す。
【0030】
〔表1〕
ウイルス感染価測定結果