IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023050112
(43)【公開日】2023-04-10
(54)【発明の名称】架橋ポリエチレン管及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/08 20060101AFI20230403BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20230403BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
F16L11/08 B
C08J3/22 CES
C08J3/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138165
(22)【出願日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2021158938
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】寺浦 和紗
(72)【発明者】
【氏名】小岸 優太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博次
【テーマコード(参考)】
3H111
4F070
【Fターム(参考)】
3H111AA02
3H111BA15
3H111BA34
3H111DA26
3H111DB03
3H111EA04
4F070AA13
4F070AB21
4F070AC52
4F070AC56
4F070AC63
4F070AE08
4F070AE30
4F070FB03
4F070GA01
4F070GC04
4F070GC07
(57)【要約】
【課題】架橋度を高め、臭気を低減でき、かつ多様な製品特性に対応できる架橋ポリエチレン管の製造方法を得ること。
【解決手段】原料ポリエチレン系樹脂とラジカル発生剤とシラン化合物と結晶核剤マスターバッチとを含む樹脂組成物を可塑化する工程(A)と、前記の可塑化した樹脂組成物を管状に成形して、未架橋ポリエチレン管を得る工程(B)と、前記未架橋ポリエチレン管のポリエチレン系樹脂を水架橋して架橋ポリエチレン管とする工程(C)と、を有する、架橋ポリエチレン管の製造方法を採用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ポリエチレン系樹脂とラジカル発生剤とシラン化合物と結晶核剤マスターバッチとを含む樹脂組成物を可塑化する工程(A)と、
前記の可塑化した樹脂組成物を管状に成形して、未架橋ポリエチレン管を得る工程(B)と、
前記未架橋ポリエチレン管のポリエチレン系樹脂を水架橋して架橋ポリエチレン管とする工程(C)と、
を有する、架橋ポリエチレン管の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、前記原料ポリエチレン系樹脂100質量部に対して、前記結晶核剤マスターバッチ0.01~5.0質量部を含む、請求項1に記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
【請求項3】
前記架橋ポリエチレン管の密度が0.930~0.950g/cmである、請求項1又は2に記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
【請求項4】
架橋ポリエチレン系樹脂を含み、前記架橋ポリエチレン系樹脂における球晶半径が2μm以下である、架橋ポリエチレン管。
【請求項5】
前記架橋ポリエチレン管の密度が0.930~0.950g/cmである、請求項4に記載の架橋ポリエチレン管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリエチレン管及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリエチレン管は、高い施工性(施工しやすい)、優れた耐久性を持つ。このため、架橋ポリエチレン管は、給水給湯配管や床暖房用配管として好適に使用されている(特許文献1)。
架橋ポリエチレン管は、長期に渡って高温水に晒される環境で使用される。このため、架橋ポリエチレン管には、長期使用に耐えうる耐久性の向上が求められている。
一般に、架橋ポリエチレン管では、高温での長期使用に必要なクリープ性能と、架橋度とが相関関係にある。しかし、架橋ポリエチレン管の架橋度を高めるためにシラン化合物(架橋剤)の量を増やすと、架橋ポリエチレン管の臭気が強くなるという問題がある。
【0003】
こうした問題に対し、特定のメルトフローレート、密度及び分子量分布のポリエチレン系樹脂組成物を用いた架橋ポリエチレン管が提案されている(特許文献2)。特許文献2の発明によれば、高温条件下でのクリープ性能の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4066114号公報
【特許文献2】特開2019-143035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の技術では、樹脂の特性が限定されるため、多様な製品特性(例えば、低密度化による柔軟性の向上等)に対応できない。
そこで、本発明は、架橋度を高め、臭気を低減でき、かつ多様な製品特性に対応できる架橋ポリエチレン管の製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
<1>
原料ポリエチレン系樹脂とラジカル発生剤とシラン化合物と結晶核剤マスターバッチとを含む樹脂組成物を可塑化する工程(A)と、
前記の可塑化した樹脂組成物を管状に成形して、未架橋ポリエチレン管を得る工程(B)と、
前記未架橋ポリエチレン管のポリエチレン系樹脂を水架橋して架橋ポリエチレン管とする工程(C)と、
を有する、架橋ポリエチレン管の製造方法。
<2>
前記樹脂組成物は、前記原料ポリエチレン系樹脂100質量部に対して、前記結晶核剤マスターバッチ0.01~5.0質量部を含む、<1>に記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
<3>
前記架橋ポリエチレン管の密度が0.930~0.950g/cmである、<1>又は<2>に記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
<4>
架橋ポリエチレン系樹脂を含み、前記架橋ポリエチレン系樹脂における球晶半径が2μm以下である、架橋ポリエチレン管。
<5>
前記架橋ポリエチレン管の密度が0.930~0.950g/cmである、<4>に記載の架橋ポリエチレン管。
【発明の効果】
【0007】
本発明の架橋ポリエチレン管の製造方法によれば、架橋度を高め、臭気を低減でき、かつ多様な製品特性に対応できる架橋ポリエチレン管を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための単なる例示であって、本発明をこの実施の形態にのみ限定することは意図されない。
【0009】
[架橋ポリエチレン管]
本発明の製造方法で製造される架橋ポリエチレン管は、ポリエチレン系樹脂のシラン架橋体(以下、単に「シラン架橋体」ということがある)である架橋ポリエチレン系樹脂と、結晶核剤マスターバッチとを含む、架橋ポリエチレン管である。
シラン架橋体は、シラン基が導入されたポリエチレン系樹脂において、ポリエチレン系樹脂のシラン基と水とが反応し、架橋した樹脂である。
【0010】
架橋ポリエチレン管は、円筒状又は多角筒状の管である。架橋ポリエチレン管の大きさは、一般的に使用されている給湯配管等の仕様のものであれば特に限定されないが、通常は、外径が6~200mmであることが好ましく、厚さが1~30mmであることが好ましく、長さが0.3~200mであることが好ましい。
【0011】
なお、架橋ポリエチレン管は、少なくとも内表面、中間及び外表面のいずれかに、被覆層及び補強層の少なくとも一層を有する多層管とされてもよい。即ち、多層管は、架橋ポリエチレン管からなる本体管と、被覆層又は補強層とを有する。
被覆層の材質としては、可撓性の熱可塑性樹脂が好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミドが挙げられる。熱可塑性樹脂は、1種単独でもよいし、2種以上の組み合わせでもよい。
被覆層の厚さは、0.01~5mmが好ましく、0.05~0.2mmがより好ましい。補強層の材質としては、金属が好ましい。補強層の材質としては、例えばアルミニウム、銅が挙げられる。
多層管は、例えば多層押出成形により製造される。
【0012】
架橋ポリエチレン管の密度は、特に限定されないが、0.930~0.950g/cmが好ましく、0.932~0.948g/cmがより好ましく、0.935~0.945g/cmがさらに好ましい。
多層管において、架橋ポリエチレン管の密度に、被覆部分は含まない。
【0013】
[架橋ポリエチレン管の製造方法]
本発明の架橋ポリエチレン管の製造方法は、樹脂組成物を可塑化する工程(A)と、前記の可塑化した樹脂組成物を管状に成形して、未架橋ポリエチレン管を得る工程(B)と、前記未架橋ポリエチレン管のポリエチレン系樹脂を架橋して架橋ポリエチレン管とする工程(C)と、を有する、製造方法である。
【0014】
<工程(A)>
工程(A)は、樹脂組成物を可塑化する工程である。樹脂組成物は、原料ポリエチレン系樹脂とラジカル発生剤とシラン化合物と結晶核剤マスターバッチとを含む。結晶核剤マスターバッチは、結晶核剤を含む。工程(A)を経ることで、ポリエチレン系樹脂にシラン化合物がグラフト重合したPE-シラン重合体を得る。
【0015】
可塑化は、樹脂組成物を加熱し、混練して行う。
混練方法としては、例えば、スクリューを有する押出機等で溶融し、押し出す方法が挙げられる。
混練する際の温度は、例えば、120~220℃が好ましく200~210℃がより好ましい。
【0016】
(原料ポリエチレン系樹脂)
原料ポリエチレン系樹脂としては、例えば、エチレンの単独重合体、エチレンとα-オレフィンとの共重合体が挙げられる。
α-オレフィンとしては特に限定されないが、炭素数3~10、好ましくは炭素数3~6のα-オレフィンが挙げられ、具体的にはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-へキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン等が挙げられる。
α-オレフィンは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
原料ポリエチレン系樹脂の製造方法としては特に限定されないが、例えば任意の重合触媒を用いて公知の重合方法により、エチレン単独を、またはエチレンとα-オレフィンとを、1段階重合あるいは多段階重合して、未架橋のポリエチレンを得る製造方法が挙げられる。
【0018】
原料ポリエチレン系樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
樹脂組成物における樹脂の総質量に対し、原料ポリエチレン系樹脂の含有量は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%でもよい。
【0019】
原料ポリエチレン系樹脂の密度は特に限定されないが、0.920~0.955g/cmが好ましく、0.930~0.950g/cmがより好ましく、0.935~0.945g/cmがさらに好ましい。
【0020】
原料ポリエチレン系樹脂の密度が、上記下限値以上であれば、架橋ポリエチレン管の耐水圧性が向上する。ポリエチレン系樹脂の密度が上記上限値以下であれば、架橋ポリエチレン管の剛直性が過度に強くなりにくく、施工時に曲げやすく、取り扱いやすい。
【0021】
原料ポリエチレン系樹脂の密度は、JIS K 7112に準拠し、水中置換法により測定された値である。
【0022】
未架橋のポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に限定されないが、0.01~10g/10分が好ましい。未架橋のポリエチレンのMFRが上記下限値以上であれば、未架橋のポリエチレンの分子量が低下し、その結果、流動性が向上し、成形性が良好になる。未架橋のポリエチレンのMFRが上記上限値以下であれば、架橋ポリエチレン管の長期耐久性が向上する。
【0023】
未架橋のポリエチレン系樹脂のMFRは、JIS K 7210-1に準拠し、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定された値である。
【0024】
(ラジカル発生剤)
ラジカル発生剤は、例えば有機ペルオキシド、有機ペルエステルが挙げられ、具体的には、ベンゾイルペルオキシド、ジクロルベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ペルオキシベンゾエート)ヘキシン-3,1,4-ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ラウロイルペルオキシド、tert-ブチルペルアセテート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert-ブチルペルベンゾエート、tert-ブチルペルフェニルアセテート、tert-ブチルペルイソブチレート、tert-ブチルペル-sec-オクトエート、tert-ブチルペルピバレート、クミルペルピバレート、tert-ブチルペルジエチルアセテートが挙げられる。これらの中でも、ベンゾイルペルオキシドが好ましい。
【0025】
また、ラジカル発生剤としては、上述した以外にも、例えばアゾビスイソブチルニトリル、ジメチルアゾイソブチレート等のアゾ化合物を用いてもよい。
【0026】
ラジカル発生剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
ラジカル発生剤の樹脂組成物中の含有量は、原料ポリエチレン系樹脂100質量部に対して0.01~0.3質量部が好ましく、0.01~0.2質量部がより好ましく、0.01~0.15質量部がさらに好ましい。ラジカル発生剤の含有量が上記下限値以上であれば、架橋反応が充分に進行する。ラジカル発生剤の含有量が上記上限値以下であれば、臭気性の問題を防げる。
【0028】
(シラン化合物)
シラン化合物は、オレフィン系不飽和結合、および、加水分解可能な有機基を持つシラン化合物である。このような特徴を備え、本発明に用いるに好ましいシラン化合物としては、例えば、ビニルトリスアルコキシランがあり、中でも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス( メトキシエトキシ) シランが好ましい。また、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルフェニルジメトキシシラン等でもよい。
シラン化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
シラン化合物の樹脂組成物中の含有量は、原料ポリエチレン系樹脂100質量部に対して0.1~3.0質量部が好ましく、0.1~2.0質量部がより好ましく、0.1~1.5質量部がさらに好ましい。
ビニルシラン化合物の含有量が上記下限値以上であれば、架橋反応が充分に進行する。
ビニルシラン化合物の含有量が上記上限値以下であれば、管の臭気を抑制できる。
【0030】
(結晶核剤マスターバッチ)
樹脂組成物が結晶核剤マスターバッチを含むことで、シラン架橋反応が補助され、優れた架橋効率を発現し、シラン架橋体である架橋ポリエチレン系樹脂を実現することが可能となる。
【0031】
結晶核剤マスターバッチとはポリエチレン系樹脂、結晶核剤およびその他添加剤を混練し、ペレット状、粉末状または板状にしたものである。
【0032】
結晶核剤としては、未架橋ポリエチレン管の架橋効率を向上させることができるものであれば、特に限定されず、無機系核剤および有機系核剤のいずれでもよい。
【0033】
無機系核剤としては、例えば、炭酸カルシウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、二酸化ケイ素、膨張化黒鉛、シルセスキオキサン(POSS)、多層カーボンナノチューブ、モンモリロナイト、バーミキュライト、タルク、ハロイサイトが挙げられる。
無機系核剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
有機系核剤としては、例えば、安息香酸アルミニウム、リン酸エステル金属塩、ベンジリデンソルビトール、超高分子量ポリエチレン、サイザル繊維、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、アントラセン、フタル酸カリウム、ジナトリウム-ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3-ジカルボキシラート、1,3:2,4-ビス(3,4-ジメチルベンジリデン)ソルビトール、亜鉛グリセロレート、2,4,8,10-テトラ-tert-ブチル-6-(ソジオオキシ)-12H-ジベンゾ[d,g][1,3,2]ジオキサホスホシン-6-オキシドが挙げられる。
有機系核剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
結晶核剤マスターバッチとしては、例えば、市販のリケマスターCN-001(理研ビタミン株式会社製)、リケマスターCN-002(理研ビタミン株式会社製)が挙げられる。
【0036】
結晶核剤マスターバッチの樹脂組成物中の含有量としては特に限定されないが、適切な核剤効果を発現する観点から、原料ポリエチレン系樹脂100質量部に対し0.01~5.0質量部が好ましく、0.01~4.0質量部がより好ましく、0.01~3.0質量部がさらに好ましい。
【0037】
結晶核剤マスターバッチの樹脂組成物中の含有量が上記下限値以上であれば、架橋度の向上効果が得られる。結晶核剤マスターバッチの樹脂組成物中の含有量が上記上限値以下であれば、コストの増加、および不純物の生成を防げる。
【0038】
(その他の任意成分)
樹脂組成物は、必要に応じて、プロセス熱安定剤、紫外線吸収剤、有機充填剤、無機充填剤、顔料、染料、加工助剤等の任意成分を含んでいてもよい。また、樹脂組成物は、シラノール縮合触媒を含んでもよい。樹脂組成物がシラノール縮合触媒を含むことで、後述する工程(C)において、ポリエチレン系樹脂の架橋をより促進できる。
本発明に用いられるシラノール縮合触媒は、シラノール間の脱水縮合を促進する触媒として一般的に用いられる任意の化合物であれば特に限定されず、例えばジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート、酢酸第一錫、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸鉛、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン等の化合物;硫酸、塩酸等の無機酸;トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸等の有機酸が挙げられる。これらの中でも、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレートが好ましい。
シラノール縮合触媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
<工程(B)>
工程(B)は、工程(A)で可塑化した樹脂組成物(可塑化物)を管状に成形し、これを冷却固化して未架橋ポリエチレン管を得る工程である。未架橋ポリエチレン管において、ポリエチレン系樹脂は全部または一部が架橋されていない。
【0040】
樹脂組成物を成形する方法としては、例えば、押出成形法が挙げられる。押出成形法としては、可塑化物をダイから円筒状に吐出しつつ、これを引き取って円筒状の可塑化物とし、次いで、円筒状の可塑化物を冷却して固化する方法が挙げられる。
【0041】
円筒状の可塑化物の冷却方法としては、従来公知の方法が挙げられ、例えば、水を吹き付けるか、又は水に浸漬する方法が挙げられる。
冷却速度は、例えば、10~200℃/分が好ましく、50~200℃/分がより好ましい。冷却速度が上記下限値以上であると、架橋ポリエチレン管の球晶半径をより小さくできる。冷却速度が上記上限値以下であると、冷却固化する設備の負荷を低減できる。
なお、冷却速度は、冷却方法、冷却水の温度等の組み合わせにより調節できる。
【0042】
<工程(C)>
工程(C)は、未架橋ポリエチレン管のポリエチレン系樹脂(PE-シラン重合体)の一部又は全部を架橋し、架橋ポリエチレン管を得る工程である。
【0043】
未架橋ポリエチレン管のポリエチレン樹脂を架橋する方法としては、例えば、未架橋ポリエチレン管を加熱する方法(加熱架橋法)が挙げられる。
加熱架橋法としては、例えば、未架橋ポリエチレン管内に水または蒸気を充填した状態で、未架橋ポリエチレン管に加熱処理を施して、ポリエチレン系樹脂の一部または全部を架橋する方法(水架橋)が好ましい。
加熱方法としては、例えば、未架橋ポリエチレン管を加熱炉で任意の温度で加熱する方法、未架橋ポリエチレン管に任意の温度の蒸気を吹き付けて加熱する方法、赤外線照射により加熱する方法が挙げられる。
【0044】
加熱の際の温度は、未架橋ポリエチレン管に含まれる未架橋のポリエチレン系樹脂の融点以下が好ましい。加熱温度は、例えば、40~120℃が好ましく、60~120℃がより好ましく、80~120℃がさらに好ましい。加熱温度が上記下限値以上であれば、未架橋のポリエチレン系樹脂の架橋処理をより短時間で行うことができる。加熱温度が上記上限値以下であれば、架橋ポリエチレン管の変形や破損を抑制できる。
【0045】
得られた架橋ポリエチレン管は、未架橋ポリエチレンの一部又は全部が架橋されているので、耐クリープ性に優れる。
【0046】
架橋ポリエチレン管の架橋度は、65~100%が好ましく、70~100%がより好ましく、75~100%がさらに好ましく、80%~100%が特に好ましい。架橋度が上記下限値以上であれば、長期耐久性をより高められる。
即ち、本発明の架橋ポリエチレン管は、架橋ポリエチレン管を構成する樹脂の総質量に対し、架橋ポリエチレン系樹脂と未架橋ポリエチレン系樹脂との合計が90質量%以上であり、かつ架橋度が65%以上であるものが好ましい。
【0047】
架橋ポリエチレン管の球晶半径は、2μm以下が好ましく、0.1~2μmがより好ましく、0.5~1.5μmがさらに好ましい。架橋ポリエチレンの結晶化速度が速い程、成形時間が短縮でき、また、球晶半径は小さくなる。球晶半径が小さいほど透明度や光沢度の向上を図れる。
球晶半径の大きさは、冷却速度、組成等の組み合わせにより調節できる。
【0048】
本実施形態の架橋ポリエチレン管の製造方法によれば、結晶核剤の存在下でPE-シラン重合体を架橋する。これにより、樹脂組成物におけるシラン化合物(架橋剤)の含有量を高めることなく、ポリエチレン系樹脂の架橋度を高められる。このため、製造された架橋ポリエチレン管におけるシラン化合物由来の臭気を低減しつつ、架橋ポリエチレン管の架橋度を高められる。即ち、本実施形態の架橋ポリエチレン管は、臭気を低減しつつ、クリープ特性を高めて、耐久性を高められる。
加えて、本実施形態の製造方法によれば、結晶核剤の存在下でPE-シラン重合体を架橋することで、架橋度を高められる。このため、多様なポリエチレン系樹脂を原料として用いることができる。
【実施例0049】
次に、本発明を具体的に説明するために、実施例を挙げて説明する。
【0050】
(使用原料)
・ポリエチレン系樹脂:クレオレックスK4125(旭化成社製)、密度0.941g/cm、MFR2.5g/10分。
・結晶核剤マスターバッチ:リケマスターCN-002(理研ビタミン社製)。
【0051】
[実施例1]
ポリエチレン系樹脂としてクレオレックスK4125を100質量部と、シラン化合物としてビニルトリメトシキシラン2質量部と、ラジカル発生剤としてベンゾイルペルオキシド0.2質量部と、結晶核剤マスターバッチであるリケマスターCN-002を2.5質量部と、を押出機に供給し、溶融混練して、可塑化物とした(工程(A))。押出機の先端のダイから、可塑化物を円筒状に押し出し、これを冷却して未架橋ポリエチレン管を得た(工程(B))。
得られた未架橋ポリエチレン管内を蒸気で満たし、加熱処理を施すことで架橋ポリエチレン管を得た。
得られた架橋ポリエチレンの寸法は、外径17mm、肉厚2.0mmであった。
【0052】
[比較例1]
結晶核剤マスターバッチであるリケマスターCN-002の量を0質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして架橋ポリエチレン管を製造した。
【0053】
[比較例2]
結晶核剤マスターバッチであるリケマスターCN-002の量を0質量部に変更し、シラン化合物であるビニルトリメトキシシランの量を3.0質量部に変更し、ラジカル発生剤であるベンゾイルペルオキシドの量を0.3質量部に変更した以外は実施例1と同様にして架橋ポリエチレン管を製造した。
【0054】
得られた架橋ポリエチレン管を用いて、以下の評価を行った。
評価結果を表1に示した。
【0055】
<評価方法>
(架橋度)
架橋度の評価として、以下の方法で求められるゲル分率を測定した。ゲル分率が高いほど架橋度が高いことを表す。
ゲル分率測定方法:キシレン浸漬下で140℃に加熱し、ゾル成分を溶解させ、残ったゲル分の質量をキシレン浸漬前の質量で除して求める。
【0056】
(臭気性)
臭気性の評価として、以下の方法で官能試験を行った。
パネラー:3名。
【0057】
(評価基準)
×・・・僅かでも臭気を感じる。
〇・・・全く臭気を感じない。
パネラーのうち1人でも「×」判定の場合、評価は「×」とし、全てのパネラーが「〇」判定の場合、評価は「〇」とした。
【0058】
(球晶半径)
実施例1、比較例1について、球晶半径を求めた。
球晶半径は、散乱プロファイルの最大強度の散乱ベクトルqmaxから、球晶半径=4.09/qmaxの理論式で求めた。散乱ベクトルqmaxは、大塚電子社製高分子相構造解析システム(PP-1000)を用い、標準サンプル台にセットし、下記の測定条件で測定を行った。
【0059】
≪測定条件≫
測定モード:1shot。
偏光状態:Hv。
HDR機能:ON。
露光時間1:50msec。
露光時間2:5msec。
露光時間3:100μsec。
カメラゲイン:なし。
サンプル-ステージ間距離:150.3mm。
NDフィルタ:100%。
最大散乱ベクトル:2.6μm-1
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すように、実施例1は、架橋度が80%であり、臭気性の評価が「〇」、球晶半径が1.46μmであった。
結晶核剤を含まない比較例1は、臭気性の評価が「〇」であったものの、架橋度が75%、球晶半径が2.78μmであった。
実施例1の架橋度が比較例1の架橋度よりも向上した理由は明確でないが、結晶核剤の添加により球晶半径が微細化したことで、架橋点が生成しやすくなったと考えられる。
比較例1よりも架橋剤(シラン化合物)を増やした比較例2は、架橋度が80%となったものの、臭気性の評価が「×」であった。
以上より、本発明を適用することで、架橋ポリエチレン管の臭気を低減し、かつ、架橋度を高められ、多様な製品特性に対応できることが判った。