(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000506
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】磁気ギア、磁気ギアードモータ及びこれを備えた装置、磁気ギアードモータの駆動方法
(51)【国際特許分類】
H02K 7/10 20060101AFI20221222BHJP
【FI】
H02K7/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101372
(22)【出願日】2021-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森元 瑛樹
(72)【発明者】
【氏名】河村 清美
【テーマコード(参考)】
5H607
【Fターム(参考)】
5H607AA12
5H607BB01
5H607BB14
5H607EE26
(57)【要約】
【課題】出力特性を可変にできるとともに、小型化かつ軽量化が可能な磁気ギアを提供する。
【解決手段】磁気ギア300は、第1出力軸311を有する原動ロータ310と、第2出力軸321を有する受動ロータ320と、原動ロータ310及び受動ロータ320とそれぞれ磁気的に結合されたステータ330と、を備えている。第1出力軸311は、原動ロータ310と回転一体に設けられている。第2出力軸321は、受動ロータ320と回転一体に、かつ第1出力軸311と同軸に配置されている。磁気ギア300は、受動ロータ320及び原動ロータ310が互いに同調して回転する第1モードと、受動ロータ320が原動ロータ310の回転から脱調した状態となる第2モードのいずれかで動作する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1出力軸を有する原動ロータと、
第2出力軸を有する受動ロータと、
前記原動ロータ及び前記受動ロータとそれぞれ磁気的に結合されたステータと、を少なくとも備えた磁気ギアであって、
前記第1出力軸は、前記原動ロータと回転一体に設けられ、
前記第2出力軸は、前記受動ロータと回転一体に設けられるとともに、前記第1出力軸と同軸に配置され、
前記原動ロータ及び前記第1出力軸は、外力を受けて前記第1出力軸の長手方向である軸方向回りに回転可能に構成され、
前記磁気ギアは、
前記受動ロータ及び前記原動ロータが互いに同調して回転する第1モードと、
前記受動ロータ及び前記原動ロータの一方が回転する間に、他方が一方の回転から脱調状態となる第2モードのいずれかのモードで動作可能に構成されていることを特徴とする磁気ギア。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気ギアとモータとを備えた磁気ギアードモータであって、
前記第1出力軸は、前記モータの回転軸に回転一体に接続され、前記モータの回転とともに回転することを特徴とする磁気ギアードモータ。
【請求項3】
第1出力軸を有する原動ロータと、
第2出力軸を有する受動ロータと、
前記原動ロータ及び前記受動ロータとそれぞれ磁気的に結合されたステータと、を少なくとも備えた磁気ギアードモータであって、
前記第1出力軸は、前記原動ロータと回転一体に設けられ、
前記第2出力軸は、前記受動ロータと回転一体に設けられるとともに、前記第1出力軸と同軸に配置され、
前記磁気ギアードモータは、
前記受動ロータ及び前記原動ロータが互いに同調して回転する第1モードと、
前記受動ロータ及び前記原動ロータの一方が回転する間に、他方が一方の回転から脱調状態となる第2モードのいずれかのモードで動作可能に構成されていることを特徴とする磁気ギアードモータ。
【請求項4】
請求項2または3に記載の磁気ギアードモータにおいて、
前記原動ロータから前記第1出力軸が突出する方向を第1方向とするとき、
前記第1出力軸及び前記第2出力軸は、ともに前記第1方向に沿って突出していることを特徴とする磁気ギアードモータ。
【請求項5】
請求項2または3に記載の磁気ギアードモータにおいて、
前記原動ロータから前記第1出力軸が突出する方向を第1方向とするとき、
前記第2出力軸は、前記第1方向と反対側に突出していることを特徴とする磁気ギアードモータ。
【請求項6】
請求項2ないし5のいずれか1項に記載の磁気ギアードモータの駆動方法であって、
前記磁気ギアードモータは、ブレーキをさらに備え、
前記磁気ギアードモータの動作モードを前記第1モードから前記第2モードに移行させる場合、
前記ブレーキを動作させて、前記受動ロータの回転を制動するか、または前記受動ロータを静止固定することを特徴とする磁気ギアードモータの駆動方法。
【請求項7】
請求項2ないし6のいずれか1項に記載の磁気ギアードモータの駆動方法であって、
前記磁気ギアードモータは、ブレーキをさらに備え、
前記磁気ギアードモータの動作モードを前記第1モードから前記第2モードに移行させる場合、
前記受動ロータにはずみを付けた後に、前記ブレーキを動作させて、前記原動ロータの回転を制動するか、または前記原動ロータを静止固定することを特徴とする磁気ギアードモータの駆動方法。
【請求項8】
請求項2ないし7のいずれか1項に記載の磁気ギアードモータの駆動方法であって、
前記磁気ギアードモータの動作モードを前記第1モードから前記第2モードに移行させる場合、
前記ステータで発生する回転磁界を強めることで、前記原動ロータの回転を所定値以上に加速させることを特徴とする磁気ギアードモータの駆動方法。
【請求項9】
請求項2ないし8のいずれか1項に記載の磁気ギアードモータの駆動方法であって、
前記磁気ギアードモータの動作モードを前記第1モードから前記第2モードに移行させる場合、
前記ステータで発生する回転磁界の回転方向を反転させることで、前記原動ロータの回転方向を反転させることを特徴とする磁気ギアードモータの駆動方法。
【請求項10】
請求項9に記載の磁気ギアードモータの駆動方法において、
前記ステータで発生する回転磁界の回転方向を複数回反転させることを特徴とする磁気ギアードモータの駆動方法。
【請求項11】
請求項6ないし10のいずれか1項に記載の磁気ギアードモータの駆動方法において、
前記磁気ギアードモータの回転指令に、前記原動ロータと前記受動ロータとの磁気的結合に関する共振周波数成分を重畳させることで、前記磁気ギアードモータの動作モードを前記第1モードから前記第2モードに移行させることを特徴とする磁気ギアードモータの駆動方法。
【請求項12】
請求項6ないし11のいずれか1項に記載の磁気ギアードモータの駆動方法において、
前記原動ロータの回転を減速するか、または、前記原動ロータの回転を一時的に停止して、前記受動ロータの回転と同調させることで、前記磁気ギアードモータの動作モードを前記第2モードから前記第1モードに移行させることを特徴とする磁気ギアードモータの駆動方法。
【請求項13】
請求項6ないし12のいずれか1項に記載の磁気ギアードモータの駆動方法において、
前記磁気ギアードモータは、前記受動ロータを回転させる回転機構をさらに備え、
前記回転機構を駆動して、前記受動ロータを前記原動ロータとの回転同調速度に近づけるように回転させることで、前記磁気ギアードモータの動作モードを前記第2モードから前記第1モードに移行させることを特徴とする磁気ギアードモータの駆動方法。
【請求項14】
請求項2ないし5のいずれか1項に記載の磁気ギアードモータと、
前記磁気ギアードモータにより駆動される被駆動部と、を少なくとも備えたことを特徴とする装置。
【請求項15】
請求項14に記載の装置において、
前記装置は、電気洗濯機であり、
前記被駆動部は、
前記第1出力軸に接続されたドラムと、
前記第2出力軸に接続されたパルセータと、を少なくとも有することを特徴とする装置。
【請求項16】
請求項14に記載の装置において、
前記装置は、ラック―ピニオン機構を備えた搬送装置であり、
前記被駆動部は、
前記第1出力軸に接続されたボールねじと、
前記ボールねじに接続された搬送部と、を少なくとも有しており、
前記ボールねじの長手方向は、前記ラック―ピニオン機構の長手方向と交差しており、
前記搬送部は、前記第1出力軸が回転することで、前記ボールねじの長手方向に移動可能に構成され、かつ
前記第2出力軸が回転することで、前記ラック―ピニオン機構の長手方向に移動可能に構成されていることを特徴とする装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気ギア、磁気ギアードモータ及びこれを備えた装置、磁気ギアードモータの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの回転動作を利用した装置が広く用いられている。また、この場合、モータの回転速度や回転トルクを可変にすることで、種々の用途に利用できる。
【0003】
特許文献1には、ドラム内に設けられた攪拌翼の回転軸とモータとの間にクラッチを有する減速機構を設けた電気洗濯機が開示されている。減速機構によりモータの回転数を減速して撹拌翼を回転させる。このことにより、モータのトルクを増大させること無く、撹拌翼の回転トルクを大きくすることができ、モータへの負荷を抑制しつつ、衣類の洗浄性能を高められる。
【0004】
また、特許文献2には、衣類を収容したドラムをモータにより回転させる電気洗濯機が開示されている。このモータは、6相インバータに接続され、2種類の回転磁界を発生させるステータと、同軸に設けられた2種類のロータとを有している。6相インバータは、3相交流電圧と6相交流電圧との重畳交流電圧を出力する。6相インバータにより、ステータで発生させる回転磁界を切り替えることで、モータのギア比を可変にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-000778号公報
【特許文献2】特開2016-168108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された従来の構成では、減速機構を別途設けることで、モータやモータを備えた装置の重量が大きくなる。また、当該装置内でのモータの搭載スペースが増加するという課題があった。また、クラッチ等の機械的に動作する機構を有しているため、長期使用時に故障するリスクが増加するという課題があった。
【0007】
特許文献2に開示された従来の構成では、前述の重畳交流電圧を出力するために、6相インバータの構造や制御が複雑になるという課題があった。
【0008】
また、モータの回転速度や回転トルクを切り替えるために、2種類のモータを準備することも考えられるが、モータを備えた装置の重量や体積が大きくなり、また、設備コストが増加するという課題があった。
【0009】
本開示はかかる点に鑑みてなされたもので、その目的は、出力特性を可変にできるとともに、小型化かつ軽量化が可能な磁気ギア、磁気ギアードモータ及びこれを備えた装置、磁気ギアードモータの駆動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本開示に係る磁気ギアは、第1出力軸を有する原動ロータと、第2出力軸を有する受動ロータと、前記原動ロータ及び前記受動ロータとそれぞれ磁気的に結合されたステータと、を少なくとも備えた磁気ギアであって、前記第1出力軸は、前記原動ロータと回転一体に設けられ、前記第2出力軸は、前記受動ロータと回転一体に設けられるとともに、前記第1出力軸と同軸に配置され、前記原動ロータ及び前記第1出力軸は、外力を受けて前記第1出力軸の長手方向である軸方向回りに回転可能に構成され、前記磁気ギアは、前記受動ロータ及び前記原動ロータが互いに同調して回転する第1モードと、前記受動ロータ及び前記原動ロータの一方が回転する間に、他方が一方の回転から脱調状態となる第2モードのいずれかのモードで動作可能に構成されていることを特徴とする。
【0011】
本開示に係る磁気ギアードモータは、第1出力軸を有する原動ロータと、第2出力軸を有する受動ロータと、前記原動ロータ及び前記受動ロータとそれぞれ磁気的に結合されたステータと、を少なくとも備えた磁気ギアードモータであって、前記第1出力軸は、前記原動ロータと回転一体に設けられ、前記第2出力軸は、前記受動ロータと回転一体に設けられるとともに、前記第1出力軸と同軸に配置され、前記磁気ギアードモータは、前記受動ロータ及び前記原動ロータが互いに同調して回転する第1モードと、前記受動ロータ及び前記原動ロータの一方が回転する間に、他方が一方の回転から脱調状態となる第2モードのいずれかのモードで動作可能に構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、モータの出力特性を可変にできるとともに、小型化かつ軽量化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態1に係る磁気ギアードモータの要部の断面模式図である。
【
図2】別の磁気ギアードモータの要部の断面模式図である。
【
図3】磁気ギアードモータの脱調方法を説明する模式図である。
【
図4】磁気ギアードモータの別の脱調方法を説明する模式図である。
【
図6】磁気ギアードモータの回転同調の復帰方法を説明する模式図である。
【
図8】変形例に係る磁気ギアードモータの脱調方法を説明する模式図である。
【
図9】原動ロータと受動ロータとの磁気的結合状態を説明する模式図である。
【
図10】磁気ギアードモータの伝達関数のボード線図である。
【
図11】変形例に係る磁気ギアードモータの動作シミュレーション結果を示す図である。
【
図12】変形例に係る磁気ギアードモータの回転同調の復帰方法を説明する模式図である。
【
図13A】実施形態2に係る磁気ギアードモータを軸方向から見た模式図である。
【
図13B】磁気ギアードモータを径方向から見た模式図である。
【
図14A】実施形態2に係る搬送装置をZ方向から見た模式図である。
【
図14B】搬送装置をX方向から見た模式図である。
【
図15A】別の磁気ギアードモータの模式図である。
【
図15B】別の磁気ギアードモータの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0015】
(実施形態1)
[磁気ギアードモータの構成]
図1は、本実施形態に係る磁気ギアードモータの要部の断面模式図を示し、
図2は、別の磁気ギアードモータの要部の断面模式図を示す。なお、
図1,2に示す磁気ギアードモータ100,200は、他の構成部品、例えば、軸受等を備えているが、説明の便宜上、これら以外の部品については図示及び説明を省略する。また、磁気ギアードモータ100,200を構成する各部品は、形状を簡略化して図示しており、実際の形状とは異なっている。
【0016】
なお、以降の説明において、磁気ギア300または磁気ギアードモータ100の軸心を通る方向であって、第1出力軸11,311及び第2出力軸21,321の長手方向を軸方向と呼ぶことがある。ステータ30,330の外周方向を周方向と呼ぶことがある。ステータ30,330の半径方向を径方向と呼ぶことがある。また、軸方向において、原動ロータ10から第1出力軸11が突出する方向を第1方向と呼ぶことがある。なお、
図2において、原動ロータ310から第1出力軸311が突出する方向が第1方向である。
【0017】
図1に示すように、磁気ギアードモータ100は、モータケース40の内部に原動ロータ10と受動ロータ20とステータ30とを少なくとも備えている。
【0018】
ステータ30は、磁気ギアードモータ100の軸心に配置されており、図示しない外部電源から供給された電力により、時間的に変動する回転磁界を発生させる。
【0019】
受動ロータ20は、ステータ30の径方向外側に、ステータ30と所定の間隔をあけて配置されている。受動ロータ20は、第2出力軸21を有しており、第2出力軸21は、モータケース40の外部に突出している。
【0020】
原動ロータ10は、受動ロータ20の径方向外側に、受動ロータ20と所定の間隔をあけて配置されている。原動ロータ10は、軸心部分が中空である中空構造の第1出力軸11を有しており、第1出力軸11は、第1方向に沿ってモータケース40の外部に突出している。第2出力軸21は、第1出力軸11の内部に第1出力軸11と所定の間隔をあけて収容されている。また、第2出力軸21も、第1方向に沿ってモータケース40の外部に突出している。
【0021】
原動ロータ10は、ステータ30と磁気的に結合されており、ステータ30で発生した回転磁界により、磁気ギアードモータ100の軸心回り、つまり、軸方向回りに回転する。第1出力軸11は、原動ロータ10と回転一体に設けられているため、原動ロータ10とともに回転する。なお、磁気ギアードモータ100の軸心は、原動ロータ10及び第1出力軸11の軸心に相当する。
【0022】
受動ロータ20は、ステータ30及び原動ロータ10と磁気的に結合されており、原動ロータ10が回転すると、速度比Grにしたがって、軸方向回りに回転する。第2出力軸21は、受動ロータ20と回転一体に設けられているため、受動ロータ20とともに回転する。なお、速度比Grは、以下に示す式(1)で表される。
【0023】
|Gr|= Nl/Nh ・・・(1)
【0024】
ここで、Nhは、原動ロータ10の極対数であり、Nlは、受動ロータ20の極対数または極数である。受動ロータ20が永久磁石で構成されていれば、前者が適用される。受動ロータ20が磁性体で構成されていれば、後者が適用される。
【0025】
つまり、受動ロータ20の回転速度は、原動ロータ10の回転速度を速度比Grで除した値となる。なお、式(1)から明らかなように、極対数Nhが極対数Nlよりも小さければ、速度比Grは1よりも大きくなる。つまり、受動ロータ20の回転速度は、原動ロータ10の回転速度よりも低下する。一方、極対数Nhが極対数Nlよりも大きければ、速度比Grは1よりも小さくなる。つまり、受動ロータ20の回転速度は、原動ロータ10の回転速度よりも上昇する。
【0026】
また、磁気ギアードモータ100は、
図2に示すように、磁気ギア300とモータ400とが独立して設けられた構造であってもよい。
【0027】
図2に示す磁気ギアードモータ200では、モータ400の回転軸411に対して、磁気ギア300の第1出力軸311が回転一体に連結されている。モータ400は、モータケース430の内部にロータ410とステータ420とを有している。ロータ410は、モータ400の軸心に配置され、回転軸411はロータ410と回転一体に設けられている。ステータ420は、ロータ410の径方向外側に、ロータ410と所定の間隔をあけて配置されている。ステータ420は、図示しない外部電源から供給された電力により、時間的に変動する回転磁界を発生させる。
【0028】
ロータ410は、ステータ420と磁気的に結合されており、ステータ420で発生した回転磁界により、モータ400の軸心の回りに回転する。回転軸411は、ロータ410と回転一体に設けられているため、ロータ410とともに回転する。
【0029】
磁気ギア300は、ギアケース340の内部に、原動ロータ310と受動ロータ320とステータ330とを備えている。受動ロータ320は、磁気ギア300の軸心に配置され、第2出力軸321を有している。第2出力軸321は、ギアケース340の外部に突出している。
【0030】
原動ロータ310は、受動ロータ320の径方向外側に、受動ロータ320と所定の間隔をあけて配置されている。原動ロータ310は、軸心部分が中空である中空構造の第1出力軸311を有しており、第1出力軸311は、第1方向に沿ってギアケース340の外部に突出している。第2出力軸321は、第1出力軸311の内部に第1出力軸311と所定の間隔をあけて収容されている。また、第2出力軸321も第1方向に沿ってギアケース340の外部に突出している。
【0031】
ステータ330は、原動ロータ310の径方向外側に、原動ロータ310と所定の間隔をあけて配置されている。ステータ330は、図示しない外部電源から供給された電力により、時間的に変動する回転磁界を発生させる。
【0032】
前述したように、磁気ギア300の第1出力軸311は、モータ400の回転軸411とともに回転する。一方、受動ロータ320は、原動ロータ310及びステータ330と磁気的に連結されていることにより、原動ロータ310が回転することで速度比Grにしたがって回転する。また、受動ロータ320は、磁気ギア300の軸心回り、つまり、軸方向回りに回転する。なお、磁気ギア300の軸心は、原動ロータ310及び第1出力軸311の軸心に相当する。第2出力軸321は、受動ロータ320と回転一体に設けられているため、受動ロータ320とともに回転する。この場合、第2出力軸321の回転速度は、前述したように、原動ロータ310の回転速度を速度比Grで除した値となる。
【0033】
なお、磁気ギアードモータ100において、ステータ30と原動ロータ10と受動ロータ20との配置関係は、
図1に示す形に特に限定されない。同様に、磁気ギア300において、ステータ330と原動ロータ310と受動ロータ320との配置関係は、
図2に示す形に特に限定されない。例えば、
図1に示す磁気ギアードモータ100において、ステータ30が径方向で最外側に配置されもよい。また、ステータ30の内側に原動ロータ10が配置され、さらにその内側に受動ロータ20が配置されるようにしてもよい。
【0034】
図1に示す磁気ギアードモータ100は、2つの異なる動作モードで動作可能に構成されている。第1モード(両軸駆動モード)では、第1出力軸11と第2出力軸21がともに回転する。この場合、前述したように、受動ロータ20と原動ロータ10とが互いに同調して回転する。つまり、受動ロータ20及び第2出力軸21が速度比Grにしたがって回転する。
【0035】
第2モード(片軸駆動モード)では、第1出力軸11及び第2出力軸21の一方が回転する。一方で、第1出力軸11及び第2出力軸21の他方が一方の回転から脱調する。例えば、
図1に示す磁気ギアードモータ100において、第1出力軸11は、ステータ30が発生させる回転磁界により回転する。一方、受動ロータ20及び第2出力軸21は、原動ロータ10及び第1出力軸11の回転から脱調する。場合によっては、受動ロータ20及び第2出力軸21は、回転を停止する。
【0036】
図2に示す磁気ギアードモータ200も同様に、第1モード(両軸駆動モード)と第2モード(片軸駆動モード)のいずれかで動作可能に構成されている。磁気ギアードモータ200において、第1出力軸311は、モータ400の回転軸411とともに回転する。磁気ギアードモータ200が第1モードで動作する場合、受動ロータ320及び第2出力軸321は、原動ロータ10と同調して回転する。つまり、受動ロータ20及び第2出力軸321が速度比Grにしたがって回転する。
【0037】
一方、磁気ギアードモータ200が第2モードで動作する場合、受動ロータ320及び第2出力軸321は、原動ロータ310及び第1出力軸311の回転から脱調して、回転を停止する。
【0038】
なお、通常、磁気ギアードモータ100,200において、原動ロータ10,310は高速かつ低トルクで回転し、受動ロータ20,320は、原動ロータ10,310に比べて低速かつ高トルクで回転する。また、第1モード及び第2モードの両方の動作モードで、基本的に、原動ロータ10,310及び第1出力軸11,311が回転する。
【0039】
また、原動ロータ10,310の回転方向は一方向に限定されず、例えば、時計回り方向と反時計回り方向のいずれにも回転可能に構成されている。同様に、受動ロータ20,320は、時計回り方向と反時計回り方向のいずれにも回転可能に構成されている。
【0040】
[磁気ギアードモータの駆動方法]
図3は、磁気ギアードモータの脱調方法を説明する模式図を、
図4は、別の脱調方法を説明する模式図を、
図5は、ブレーキの一例をそれぞれ示す。
図6は、磁気ギアードモータの回転同調の復帰方法を説明する模式図を示す。なお、
図3,4,6及び以降に示す
図7,8,12において、モータケース40の図示を省略している。
【0041】
図3~6に示す磁気ギアードモータ100は、以下に示す点で
図1に示す構造と異なる。まず、受動ロータ20の径方向内側に原動ロータ10が配置されている。また、第2出力軸21が中空構造であり、第2出力軸21の内部に第1出力軸11が収容されている。
【0042】
前述した通り、受動ロータ20は、ステータ30及び原動ロータ10とそれぞれ磁気的に結合されている。よって、磁気ギアードモータ100が第1モードで動作する場合は、原動ロータ10及び第1出力軸11が回転すると、速度比Grにしたがって、受動ロータ20及び第2出力軸21も回転する。
【0043】
一方、磁気ギアードモータ100の動作モードを第1モードから第2モードに移行させる場合は、受動ロータ20及び原動ロータ10の一方の回転を、他方の回転から脱調させる必要がある。この手法は様々であり、本実施形態ではそのうちのいくつかを説明する。
【0044】
まず、
図3に示すように、磁気ギアードモータ100にブレーキ50を搭載し、ブレーキ50を動作させることで、受動ロータ20の回転を制動するか、または受動ロータ20を静止固定する方法がある。前者の場合、磁気ギアードモータ100にコントローラ(図示せず)から第2モードへの移行命令が出力されると、ブレーキ50が動作して受動ロータ20に当接し、受動ロータ20の回転を制動する。例えば、
図5に示すように電磁式のブレーキ50を用いると、応答速度を高めることができる。なお、
図5に示すブレーキ50は、コイル51に通電することで、受動ロータ20とブレーキ50の本体部52との間に吸引力が働き、本体部52が受動ロータ20に当接して、受動ロータ20の回転を制動する。または、受動ロータ20を静止固定する。
【0045】
なお、ブレーキ50の構造は
図5に示した例に特に限定されない。例えば、磁気摩擦を利用した公知のヒステリシスブレーキや磁力と機械的摩擦を利用した公知のパウダーブレーキ等を利用することができる。また、ブレーキ50の構造を、受動ロータ20の当接面に対しピンや凹凸(いずれも図示せず)を噛み合わせることで、受動ロータ20の回転を固定する機械的なロック機構としてもよい。
【0046】
また、
図4に示すように、磁気ギアードモータ100にブレーキ50を搭載し、受動ロータ20を回してはずみを付けた後に、原動ロータ10の回転を制動するか、または原動ロータ10を静止固定してもよい。ブレーキ50の構造は、
図5に示したものでもよいし、前述した他の構造であってもよい。
【0047】
前者の方法、つまり、受動ロータ20の回転を制動するか、受動ロータ20を静止固定する方法は、原動ロータ10に蓄積された慣性エネルギーを利用して、原動ロータ10と同調して回転していた受動ロータ20の回転を強制的に制動する。このようにして、原動ロータ10を脱調させる。また、原動ロータ10に脱調トルク以上の電流トルクを発生させることで、原動ロータ10を脱調させてもよい。また、原動ロータ10に蓄積された慣性エネルギーを利用しつつ、原動ロータ10に脱調トルク以上の電流トルクを発生させてもよい。この場合も、原動ロータ10を脱調させることができる。
【0048】
なお、受動ロータ20をブレーキ50で制働または静止固定させないと、発生した電流トルクにより、原動ロータ10に回転加速度が生じてしまう。
【0049】
一方、後者の方法、つまり、原動ロータ10の回転を制動するか、原動ロータ10を静止固定する方法は、受動ロータ20に蓄積された慣性エネルギーを利用している。つまり、受動ロータ20と同調して回転していた原動ロータ10の回転を強制的に制動することで、受動ロータ20に脱調トルク以上のトルクが加わり、受動ロータ20が脱調する。
【0050】
一方、磁気ギアードモータ100の動作モードを第2モードから第1モードに移行させる場合、磁気ギアードモータ100の回転同調を復帰させる必要がある。この手法も様々であり、本実施形態ではそのうちのいくつかを説明する。
【0051】
まず、
図6に示すように、原動ロータ10を減速して、受動ロータ20の回転と同調させる方法がある。また、原動ロータ10の回転を一時的に停止して、受動ロータ20の回転と同調させる方法がある。これらの方法により、受動ロータ20の回転と原動ロータ10の回転とを再び同調させることができる。
【0052】
[電気洗濯機の構成及び動作]
図7は、電気洗濯機の要部の断面模式図を示し、電気洗濯機600は、磁気ギアードモータ100と、ドラム(被駆動部)610と、パルセータ(被駆動部)620と、を少なくとも備えている。なお、
図7に示す磁気ギアードモータ100は、
図1に示すのと同様の構造であるが、
図2に示す構造であってもよい。
【0053】
図7に示すように、ドラム610は、第1出力軸11に回転一体に接続されており、パルセータ620は、第2出力軸21に回転一体に接続されている。
【0054】
このように構成された電気洗濯機600を以下のように動作させる。まず、ドラム610に水を貯めて、衣類と洗剤とを投入する。この状態で、磁気ギアードモータ100を第1モードで動作させると、第1出力軸11及びこれに接続されたドラム610が回転する。また、これらの回転に同調して、第2出力軸21及びこれに接続されたパルセータ620が回転する。ドラム610とパルセータ620の両方が回転して、ドラム610に貯められた水が攪拌され、衣類が洗濯される。前述したように、受動ロータ20は、原動ロータ10に比べて低速かつ高トルクで回転する。よって、第2出力軸21に接続されたパルセータ620は、高トルクで回転する。このため、パルセータ620によりドラム610の内部の水が十分に攪拌される。
【0055】
一方、ドラム610に貯められた水を排出した後に、磁気ギアードモータ100を第2モードで動作させると、原動ロータ10及び第1出力軸11が回転する。よって、第1出力軸11に接続されたドラム610が回転する。一方、受動ロータ20及び第2出力軸21は、原動ロータ10の回転から脱調した状態となる。よって、第2出力軸21に接続されたパルセータ620は、ドラム610の内部で衣類が移動するのに応じて、供回りするのみである。したがって、衣類の脱水時において、パルセータ620が所定以上の回転トルクで衣類に衝突することが無い。よって、大きなダメージを与えること無く、衣類を脱水できる。また、大量の衣類を脱水する場合に、衣類の衝突によるパルセータ620の破損等を抑制できる。
【0056】
[効果等]
以上説明したように、本実施形態に係る磁気ギアードモータ100は、第1出力軸11を有する原動ロータ10と、第2出力軸21を有する受動ロータ20と、原動ロータ10及び受動ロータ20とそれぞれ磁気的に結合されたステータ30と、を少なくとも備えている。
【0057】
第1出力軸11は、原動ロータ10と回転一体に設けられている。第2出力軸21は、受動ロータ20と回転一体に設けられるとともに、第1出力軸11と同軸に配置されている。
【0058】
磁気ギアードモータ100は、受動ロータ20及び原動ロータ10が互いに同調して回転する第1モード(両軸駆動モード)と、受動ロータ20及び原動ロータ10の一方が回転する間に、他方が一方の回転から脱調状態となる第2モード(片軸駆動モード)のいずれかのモードで動作可能に構成されている。
【0059】
なお、磁気ギアードモータ200は、磁気ギア300とモータ400とを備えていてもよい。この場合、磁気ギア300は、第1出力軸311を有する原動ロータ310と、第2出力軸321を有する受動ロータ320と、原動ロータ310及び受動ロータ320とそれぞれ磁気的に結合されたステータ330と、を少なくとも備えている。
【0060】
第1出力軸311は、原動ロータ310と回転一体に設けられている。第2出力軸321は、受動ロータ320と回転一体に設けられるとともに、第1出力軸311と同軸に配置されている。また、原動ロータ310及び第1出力軸311は、外力、この場合は、モータ400の回転駆動力を受けて軸方向回りに回転可能に構成されている。
【0061】
また、磁気ギア300は、受動ロータ320及び原動ロータ310が互いに同調して回転する第1モード(両軸駆動モード)と、受動ロータ320及び原動ロータ310の一方が回転する間に、他方が一方の回転から脱調状態となる第2モード(片軸駆動モード)のいずれかのモードで動作可能に構成されている。
【0062】
モータ400は、回転軸411を有するロータ410とステータ420とを少なくとも備えている。磁気ギア300の第1出力軸311は、モータ400の回転軸411に回転一体に接続されている。原動ロータ310及び第1出力軸311は、モータ400の回転とともに回転する。
【0063】
磁気ギアードモータ100,200や磁気ギア300をこのように構成することで、磁気ギアードモータ100,200の出力特性を可変にできる。また、高速回転する原動ロータ10,310に対して、受動ロータ20,320を低速回転させるにあたって、クラッチや減速機等を設ける必要が無く、磁気ギアードモータ100,200の小型化及び軽量化が図れる。
【0064】
また、本実施形態に係る電気洗濯機600は、磁気ギアードモータ100と、磁気ギアードモータ100により駆動される被駆動部と、を少なくとも備えている。本実施形態に示す例では、被駆動部は、第1出力軸11に接続されたドラム(被駆動部)610と、第2出力軸21に接続されたパルセータ(被駆動部)620である。
【0065】
電気洗濯機600をこのように構成することで、ドラム610とパルセータ620の両方を回転させて、衣類の洗濯を行うことができる。特に、パルセータ620を高トルクで回転させることができ、ドラム610の内部の水を十分に攪拌させて洗濯できる。このことにより、衣類の汚れを確実に落とすことができる。また、衣類の脱水時には、ドラム610のみを積極的に回転させるため、パルセータ620の回転により、衣類が大きなダメージを受けることが無い。
【0066】
なお、本実施形態に示す磁気ギアードモータ100,200は、電気洗濯機600以外の装置、具体的には、磁気ギアードモータ100,200と、磁気ギアードモータ100,200により駆動される被駆動部と、を少なくとも備えた装置に適用できることは言うまでもない。このことについては後で述べる。
【0067】
また、磁気ギアードモータ100は、ブレーキ50をさらに備えていてもよい。その場合、本実施形態に係る磁気ギアードモータ100の駆動方法は、以下のステップを有する。
【0068】
磁気ギアードモータ100の動作モードを第1モードから第2モードに移行させる場合、ブレーキ50を動作させて、受動ロータ20の回転を制動するか、または受動ロータ20を静止固定する。
【0069】
このようにすることで、原動ロータ10に蓄積された慣性エネルギーに起因して、原動ロータ10に脱調トルク以上のトルクが加わり、原動ロータ10が脱調する。このことにより、磁気ギアードモータ100の動作モードを第1モードから第2モードに移行させることができる。
【0070】
なお、磁気ギアードモータ100の動作モードを第1モードから第2モードに移行させる場合、受動ロータ20にはずみを付けた後に、ブレーキ50を動作させて、受動ロータ20の回転を制動するか、または受動ロータ20を静止固定してもよい。
【0071】
また、本実施形態に係る磁気ギアードモータ100の駆動方法は、以下のステップを備えていてもよい。つまり、原動ロータ10の回転を減速して、受動ロータ20の回転と同調させることで、磁気ギアードモータ100の動作モードを第2モードから第1モードに移行させるようにしてもよい。
【0072】
このようにすることで、第2モードから第1モードへの移行を簡便かつ確実に行うことができる。
【0073】
なお、原動ロータ10の回転を一時的に停止して、受動ロータ20の回転と同調させることで、磁気ギアードモータ100の動作モードを第2モードから第1モードに移行させてもよい。
【0074】
<変形例>
図8は、本変形例に係る磁気ギアードモータの脱調方法を説明する模式図を示す。
図9Aは、変形例に係る磁気ギアードモータの要部の斜視図を示し、
図9Bは、
図9AのIXB-IXB線での断面模式図を示す。なお、
図8及び以降に示す各図面において、実施形態1と同様の箇所については同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0075】
前述したように、原動ロータ10及び受動ロータ20の一方を脱調させる方法、つまり、磁気ギアードモータ100の動作モードを第1モードから第2モードに移行させる方法は、実施形態1に示した方法に特に限定されない。
【0076】
例えば、
図8の左側の図に示すように、ステータ30に設けられたコイル(図示せず)に大電流を流し、ステータ30で発生する回転磁界を強めるようにしてもよい。この場合、原動ロータ10の回転が所定値以上に急加速するため、受動ロータ20の回転が脱調し、動作モードが第2モードに移行する。
【0077】
また、
図8の右側の図に示すように、ステータ30で発生する回転磁界の回転方向を反転させることで、原動ロータ10の回転方向を急反転させるようにしてもよい。この場合、ステータ30で発生する回転磁界の回転方向を複数回反転させてもよい。このようにすることで、原動ロータ10は正転と反転を繰り返すため、受動ロータ20の回転が容易に脱調し、磁気ギアードモータ100の動作モードを第2モードに移行させることができる。
【0078】
また、磁気ギアードモータ100の回転指令に特定の周波数成分を重畳させることで、磁気ギアードモータ100の動作モードを第1モードから第2モードに移行させてもよい。なお、ここで言う回転指令とは、速度指令またはトルク指令である。
【0079】
図9は、原動ロータと受動ロータとの磁気的結合状態を説明する模式図を示し、
図10は、磁気ギアードモータの伝達関数のボード線図を示す。
【0080】
図9に示すように、受動ロータ20と原動ロータ10の磁気的結合状態を模式的に示した場合、両者の間に所定の共振周波数を有する磁気ばね70が仮想的に存在していると言える。したがって、磁気ギアードモータ100の回転指令にこの共振周波数と略同じ周波数成分を重畳させると、受動ロータ20と原動ロータ10との間に共振が起こり、受動ロータ20と原動ロータ10の回転位相差が振動する。その振動の振幅が所定値を超えたとき、原動ロータ10及び受動ロータ20の回転が同調しなくなる。
【0081】
図10に示す例で言えば、回転指令の周波数が100Hzとなる近傍で、受動ロータ20のゲインが大きく変動する。なお、ここで言う「ゲイン」とは、周波数伝達関数の入出力の振幅比である。
図10から明らかなように、この傾向は、磁気ギアードモータ100内の各構成部品を数式モデル化したシミュレーション結果及び実機を用いた検証結果の両方に共通して見られた。
【0082】
なお、
図9に示すように、原動ロータ10は、慣性モーメントJ
Mを有する回転体としてモデル化される。受動ロータ20は、慣性モーメントJ
Lを有する回転体としてモデル化される。原動ロータ10と受動ロータ20の磁気結合は、原動ロータ10と受動ロータ20を連結するばね定数Kを有する磁気ばね70としてモデル化される。
【0083】
原動ロータ10は、回転トルクTMと磁気ばね70からの回転トルクTCを受けて、角速度ωMで回転する。一方、受動ロータ20は、磁気ばね70からの回転トルクTCと出力軸側からの反作用回転トルクTLを受けて、角速度ωLで回転する。
【0084】
したがって、磁気ギアードモータ100は、2慣性系の運動モデルとなり、原動ロータ10の慣性モーメントJM、受動ロータ20の慣性モーメントJL、磁気ばね70のばね定数Kに依存する共振周波数を持つ。
【0085】
つまり、磁気ギアードモータ100の回転指令に周波数が100Hz程度の成分を重畳させることで、受動ロータ20の回転が原動ロータ10の回転から脱調する。その結果、磁気ギアードモータ100の動作モードが第1モードから第2モードに移行する。この方法によれば、磁気ギアードモータ100の動作モードを簡便に移行させることができる。
【0086】
図11は、本変形例に係る磁気ギアードモータの動作シミュレーション結果を示す。
【0087】
図11に示す例では、原動ロータ10の速度指令値を、0秒から8秒までの間に徐々に引き上げて増加させる。8秒から20秒までの間は、速度指令値を1550r.p.m.に保つ。なお、この時点で、受動ロータ20との回転速度比は7.75となった。20秒を過ぎてから、速度指令値に共振周波数の脈動成分を重畳させる。その結果、受動ロータ20が脱力し、受動ロータ20に生じている摩擦等の損失によって、受動ロータ20の運動エネルギーが徐々に減少する。これを受けて、
図11に示すように、受動ロータ20の回転数が低下し、受動ロータ20が脱調するに至ることが確かめられた。
【0088】
また、磁気ギアードモータ100の動作モードを第2モードから第1モードに移行させる方法も、実施形態1に示した方法に特に限定されない。
【0089】
図12は、本変形例に係る磁気ギアードモータの回転同調の復帰方法を説明する模式図を示す。
【0090】
例えば、
図12に示すように、磁気ギアードモータ100に回転機構500を設けてもよい。回転機構500は、モータ(図示せず)と回転軸511とを有する回転部510と、回転軸511の先端に接続された歯車520とを有している。歯車520は、受動ロータ20の外周面20aに当接している。なお、図示しないが、受動ロータ20の外周面20aには、外周方向にわたって歯車520と噛み合う複数の歯(図示せず)が設けられている。
【0091】
受動ロータ20が回転停止している状態で、回転機構500を駆動すると、回転部510の回転に応じて歯車520が回転し、歯車520と噛み合った受動ロータ20も回転する。受動ロータ20の回転速度を原動ロータ10との回転同調速度に近づけることで、原動ロータ10の回転と受動ロータ20の回転とが同調し、磁気ギアードモータ100の動作モードが第2モードから第1モードに移行する。
【0092】
(実施形態2)
図13Aは、本実施形態に係る磁気ギアードモータを軸方向から見た模式図を、
図13Bは、径方向から見た模式図をそれぞれ示す。
図14Aは、本実施形態に係る搬送装置をZ方向から見た模式図を示し、
図14Bは、X方向から見た模式図を示す。
【0093】
なお、
図14A及び
図14Bにおいて、ボールねじ710の長手方向をX方向とし、ラック―ピニオン機構720の長手方向をY方向とする。X方向はY方向と交差している。また、X方向及びY方向とそれぞれ交差する方向をZ方向とする。また、
図14Aにおいて、台座760の図示を、
図14Bにおいて、ボールねじ710と搬送部750の図示をそれぞれ省略している。
【0094】
図13A及び
図13Bに示すように、本実施形態の磁気ギアードモータ100は、第1出力軸11が第2出力軸21の内側に配置されている。したがって、図示しないが、原動ロータ10は、受動ロータ20の径方向内側に配置されている。なお、ステータ30は、磁気ギアードモータ100の軸心に配置されていてもよいし、受動ロータ20の径方向外側に配置されていてもよい。また、第1出力軸11及び第2出力軸21は、ともに第1方向に突出している。
【0095】
また、
図13A及び
図13Bに示す磁気ギアードモータ100は、
図1に示す構造であってもよいし、
図2に示すように、磁気ギア300とモータ400とが別々に設けられていてもよい。
【0096】
図14A及び
図14Bに示す搬送装置700は、
図13A及び
図13Bに示す磁気ギアードモータ100と、ボールねじ(被駆動部)710と、ラック―ピニオン機構720とを備えている。また、搬送装置700は、搬送部(被駆動部)750と、リニアガイド740と、台座760とを備えている。
【0097】
ボールねじ710は、第1出力軸11に回転一体に接続されている。また、ボールねじ710は第1出力軸11と同軸に設けられている。X方向は、第1方向と略一致している。
【0098】
ラック―ピニオン機構720は、第2出力軸21の回転運動をY方向への直線運動に変換する機構である。Y方向に直線状に設けられたラック(固定部)730の表面に、複数の歯(図示せず)が形成されている。第2出力軸21の外周面21aにも、外周方向にわたって複数の歯(図示せず)が形成されている。つまり、第2出力軸21は、ラック―ピニオン機構720のピニオンに相当する。
【0099】
リニアガイド740は、X方向に沿って直線状に設けられた第1ガイド741と、Y方向に沿って直線状に設けられた第2ガイド742とを有している。第1ガイド741及び第2ガイド742は、それぞれ磁気ギアードモータ100に接続されている。
【0100】
第1ガイド741は、ボールねじ710に接続された搬送部750がX方向に移動する際のガイドとして機能する。
【0101】
台座760は、平坦な上面を有する板状の部材である。搬送部750は、台座760に支持されて、台座760の上面を移動可能に構成されている。
【0102】
搬送部750には、図示しない貫通孔が設けられており、貫通孔の内面には、ボールねじ710の表面に設けられたねじ山に対応したねじ山が切られている。ボールねじ710は、貫通孔の内面に当接しつつ、搬送部750を貫通している。第1出力軸11とともにボールねじ710が回転すると、搬送部750は、その回転方向や回転量に応じて、X方向に沿って移動する。
【0103】
第2ガイド742は、ラック730に当接して、ラック730を保持する。また、第2ガイド742は、搬送部750及び磁気ギアードモータ100がY方向に移動する際のガイドとして機能する。
【0104】
第2出力軸21に設けられた歯がラック730に設けられた歯と噛み合いつつ、第2出力軸21が回転することで、磁気ギアードモータ100及びこれに接続された第1ガイド741がY方向に移動する。また、第1出力軸11に接続されたボールねじ710及び第1ガイド741に接続された搬送部750も同時にY方向に移動する。
【0105】
つまり、搬送部750は、第1出力軸11が回転することで、X方向に移動可能に構成されている。さらに、搬送部750は、第2出力軸21が回転することで、Y方向に移動可能に構成されている。
【0106】
なお、実際には、磁気ギアードモータ100が第1モードで動作した場合、第1出力軸11と第2出力軸21の両方が回転するため、搬送部750は、X方向とY方向とで規定されるXY平面、この場合は、台座760の上面を移動する。一方、磁気ギアードモータ100が第2モードで動作した場合、第1出力軸11のみが回転する。このため、搬送部750は、X方向にのみ移動する。
【0107】
従来、2つの異なる方向に搬送部750を移動させようとすると、2つのモータが必要であった。一方、本実施形態によれば、1つの磁気ギアードモータ100の動作モードを切り替えることで、搬送部750をXY平面の任意の位置に移動させることができる。このことにより、搬送装置700のサイズが大きくなるのを抑制できる。また、搬送装置700のコストを低減できる。
【0108】
(その他の実施形態)
実施形態1,2及び変形例に示す各構成要素を適宜組み合わせて新たな実施形態とすることもできる。例えば、
図2に示す磁気ギアードモータ200に、変形例に示す回転の脱調方法や回転同調の復帰方法を適用してもよい。また、磁気ギアードモータ100の動作モードを第2モードから第1モードに移行させるにあたって、
図6に示す方法と
図12に示す方法とを組み合わせてもよい。
【0109】
また、実施形態1,2及び変形例に示す磁気ギアードモータ100,200では、第1出力軸11,311及び第2出力軸21,321は、ともに第1方向に突出している。
【0110】
しかし、本開示の磁気ギアードモータ100,200は、特にこれに限定されない。例えば、
図15A及び
図15Bに示すように、第1出力軸11と第2出力軸21とが、軸方向に沿って互いに反対方向に突出するように設けられてもよい。つまり、第2出力軸21が、第1出力軸11と同軸に設けられる一方、第1方向と反対側に突出していてもよい。
【0111】
このようにすることで、磁気ギアードモータ100,200に接続される被駆動部の配置の自由度を高められる。また、被駆動部に接続された部品の可動領域を変更することができる。このことにより、磁気ギアードモータ100,200を備えた装置を種々の用途に用いることができる。
【0112】
なお、
図15A及び
図15Bに示す例では、磁気ギアードモータ100が第1モードで動作する場合、第1出力軸11の回転速度ωaを1000r.p.m.とし、回転トルクTaを1N・mとしている。また、第2出力軸21の回転速度ωbを200r.p.m.とし、回転トルクTbを5N・mとしている。ただし、これらの値は、
図15A及び
図15Bに示す例に特に限定されず、適宜別の値を取りうる。
【0113】
同様に、磁気ギアードモータ100が第2モードで動作する場合、第1出力軸11の回転速度ωaを3000r.p.m.とし、回転トルクTaを0N・mとしているが、適宜別の値を取りうる。例えば、回転トルクTaを0に近い低トルクとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本開示の磁気ギア及び磁気ギアードモータは、出力特性を可変にできるとともに、小型化かつ軽量化が可能であり、モータにより駆動される被駆動部を有する装置に適用する上で有用である。
【符号の説明】
【0115】
10 原動ロータ
11 第1出力軸
20 受動ロータ
21 第2出力軸
30 ステータ
40 モータケース
50 ブレーキ
70 磁気ばね
100 磁気ギアードモータ
200 磁気ギアードモータ
300 磁気ギア
310 原動ロータ
311 第1出力軸
320 受動ロータ
321 第2出力軸
330 ステータ
340 ギアケース
400 モータ
410 ロータ
420 ステータ
430 モータケース
500 回転機構
510 回転部
511 回転軸
520 歯車
600 電気洗濯機
610 ドラム(被駆動部)
620 パルセータ(被駆動部)
700 搬送装置
710 ボールねじ(被駆動部)
720 ラック―ピニオン機構
730 ラック
740 リニアガイド
741 第1ガイド
742 第2ガイド
750 搬送部(被駆動部)
760 台座