(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051194
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/56 20060101AFI20230404BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
A23L2/56
A23L2/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161726
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】596126465
【氏名又は名称】アサヒ飲料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】高岸 知輝
(72)【発明者】
【氏名】橋本 未来
【テーマコード(参考)】
4B117
【Fターム(参考)】
4B117LC03
4B117LE10
4B117LG12
4B117LG13
4B117LK01
4B117LK06
4B117LK16
4B117LP01
4B117LP04
4B117LP14
4B117LP17
(57)【要約】
【課題】イソブチルアルデヒドがある一定の濃度で含まれていても、飲料に含まれる素材に由来する風味を改善し、嗜好性に優れる飲料を提供すること。
【解決手段】本発明は、イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料であって、リナロールを0.6~50ppbの割合で含有する。また、本発明は、イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料であって、リナロールオキサイドを0.6~100ppbの割合で含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料であって、
リナロールを0.6~50ppbの割合で含有する、
飲料。
【請求項2】
前記リナロールを1~10ppbの割合で含有する、
請求項1に記載の飲料。
【請求項3】
イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料であって、
リナロールオキサイドを0.6~100ppbの割合で含有する、
飲料。
【請求項4】
前記リナロールオキサイドを1~10ppbの割合で含有する、
請求項3に記載の飲料。
【請求項5】
焙煎された穀物の抽出液を含む、
請求項1~4のいずれかに記載の飲料。
【請求項6】
イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料に、
リナロールをその含有量が0.6~50ppbとなるように添加する、
飲料の風味改善方法。
【請求項7】
イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料に、
リナロールオキサイドをその含有量が0.6~100ppbとなるように添加する、
飲料の風味改善方法。
【請求項8】
リナロールを含み、
イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料に、前記リナロールの含有量が0.6~50ppbとなるように添加して用いられる、
飲料の風味改善剤。
【請求項9】
リナロールオキサイドを含み、
イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料に、前記リナロールオキサイドの含有量が0.6~100ppbとなるように添加して用いられる、
飲料の風味改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物茶等の飲料においては、嗜好性向上の目的から、すっきりとした後味で止渇性を高め、素材の味わいをしっかりと感じられる設計とすることが求められている。それに加えて、穀物以外の素材を配合し、バリエーションに富んだ香味設計とすることで、商品魅力度や嗜好性を向上させることが可能となる。
【0003】
しかしながら、飲料において、天然の素材由来の抽出物を含む場合においては、設計の過程で嗜好性を低下させる好ましくない成分が混入してしまうことも少なくない。例えば、穀物茶飲料の素材の一部には、イソブチルアルデヒド(Isobutyraldehyde)という焦げ臭を付与する香気成分が含まれている。この香気成分は、穀物茶飲料の素材に由来する風味を損なわせるとともに、後味のすっきり感を低減させるため穀物茶飲料に求められる止渇性を同時に損なわせる。
【0004】
したがって、穀物茶飲料等の飲料において、イソブチルアルデヒドの混入を防ぐことが、風味の改善やそれに基づく嗜好性の向上を目指すうえで重要であるが、イソブチルアルデヒドは穀物系の主要な素材に含まれている成分であるため、混入を防ぐことは容易ではない。
【0005】
飲料の焦げ臭を抑制する方法として、例えば特許文献1では、麦芽飲料に着色料を加える方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、イソブチルアルデヒドがある一定の濃度で含まれていても、飲料に含まれる素材に由来する風味を改善し、嗜好性に優れる飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、例えば穀物素材由来の抽出物を含み、イソブチルアルデヒドが一定濃度で含まれる穀物茶飲料において、リナロールやリナロールオキサイドを特定の割合で含有させることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の(1)~(9)のように構成される。
(1)イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料であって、リナロールを0.6~50ppbの割合で含有する、飲料。
【0010】
(2)前記リナロールを1~10ppbの割合で含有する、(1)の飲料。
【0011】
(3)イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料であって、リナロールオキサイドを0.6~100ppbの割合で含有する、飲料。
【0012】
(4)前記リナロールオキサイドを1~10ppbの割合で含有する、(3)の飲料。
【0013】
(5)焙煎された穀物の抽出液を含む、(1)~(4)のいずれかの飲料。
【0014】
(6)イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料に、リナロールをその含有量が0.6~50ppbとなるように添加する、飲料の風味改善方法。
【0015】
(7)イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料に、リナロールオキサイドをその含有量が0.6~100ppbとなるように添加する、飲料の風味改善方法。
【0016】
(8)リナロールを含み、イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料に、前記リナロールの含有量が0.6~50ppbとなるように添加して用いられる、飲料の風味改善剤。
【0017】
(9)リナロールオキサイドを含み、イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料に、前記リナロールオキサイドの含有量が0.6~100ppbとなるように添加して用いられる、飲料の風味改善剤。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、イソブチルアルデヒドがある一定の濃度で含まれていても、飲料に含まれる素材に由来する風味を改善し、嗜好性に優れる飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜変更が可能である。また、本明細書において「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0020】
以下では、イソブチルアルデヒドが含まれる飲料において、リナロールを含有させることを特徴とする本発明を、第1の発明ともいう。また、イソブチルアルデヒドが含まれる飲料において、リナロールオキサイドを含有させることを特徴とする本発明を、第2の発明ともいう。
【0021】
<第1の発明>
≪1.飲料≫
第1の発明に係る飲料は、例えば穀物素材等の天然素材由来の抽出物を含み、イソブチルアルデヒド(Isobutyraldehyde)を15~120ppbの含有量で含む飲料である。具体的に、この飲料は、リナロール(Linalool)を0.6~50ppbの割合で含有する。
【0022】
このように、飲料中に特定の割合でリナロールを含有するように設計することで、穀物素材等の天然素材に含まれるイソブチルアルデヒドによる焦げ臭を抑制し、その素材の風味を改善して、嗜好性に優れる飲料とすることができる。なお、本明細書において、イソブチルアルデヒドによる焦げ臭を異臭として表現することもある。
【0023】
ここで、リナロールは、香気成分であり、本発明者らによる研究の結果、イソブチルアルデヒドを一定濃度で含む飲料に、リナロールを特定の割合で含有させることで、そのリナロールがイソブチルアルデヒドに由来する焦げ臭といった異臭をマスキングして、その異臭を効果的に抑制できることを見出した。また、リナロールを含有させることで、その異臭を抑制して飲料のすっきりとした後味(すっきり感)を改善できるだけでなく、飲料のおいしさや香りの良さを向上させることができることもわかった。
【0024】
飲料の種類としては、特に限定されるものではないが、焙煎された穀物の抽出液を含む飲料が挙げられる。イソブチルアルデヒドは、特に穀物系の素材の一部に含まれる香気成分であることから、焙煎された穀物の抽出液を含む穀物茶飲料が挙げられる。なお、焙煎された穀物の抽出液を一部に含む飲料であればよく、穀物茶等の茶飲料に限定されるものではない。例えば、焙煎された穀物の抽出液を一部に含む機能性飲料や乳性飲料、コーヒー飲料、炭酸飲料、果実飲料等であってもよい。
【0025】
また、飲料が焙煎された穀物の抽出液を含むものである場合、ある一種の焙煎された穀物を抽出して得られる抽出物を含む液体だけでなく、その抽出物に他の植物の抽出物を混合して得られる液体、もしくはこれらの液体に添加物を加えて得られる液体、又はこれらの液体を乾燥したものを分散させてなる液体等を含む。
【0026】
また、飲料が茶飲料である場合、飲料に含まれる抽出物の由来となる植物の品種、産地、摘採時期、摘採方法、栽培方法等は、特に限定されない。植物の種類も特に限定されず、例えば、大麦、ハトムギ、玄米、ハブ茶、トウモロコシ、黒豆、大豆、小豆、芋、びわの葉、チャの葉、昆布、熊笹、ごま、柿の葉、アマチャヅル、桑の葉、霊芝、クコ、みかんの皮、ユズの皮、杜仲葉、シソの葉、ドクダミ、オオバコ、ギムネマ、ルイボス、ラフマ、タンポポ、ペパーミント、モロヘイヤ、陳皮、イチョウ、松葉、蓮、オリーブ、大麦若葉、カワラケツメイ、仙草、明日葉、よもぎ、月見草等を用いることができる。これらの中でも、大麦、ハトムギ、玄米、ハブ茶、トウモロコシ、小豆、びわの葉、ユズの皮、タンポポ、カワラケツメイ等を好ましく用いることができる。なお、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
これらの植物のうち、上述したように、大麦、ハトムギ、玄米、ハブ茶、トウモロコシ、黒豆、大豆、小豆等の穀物系の素材にはイソブチルアルデヒドが含まれていることが多く、これらの穀物成分の抽出物を含む飲料において特に有効となる。
【0028】
[イソブチルアルデヒド]
第1の発明に係る飲料には、イソブチルアルデヒドが含まれる。イソブチルアルデヒドは、主には飲料を構成する素材に由来する香気成分である。また、飲料中におけるイソブチルアルデヒドの含有量は15~120ppbの範囲である。
【0029】
上述したように、イソブチルアルデヒドは、焦げ臭といった異臭を付与する成分であり、飲料のすっきりとした後味(すっきり感)を低減させ、嗜好性を低下させる成分である。このことから、飲料中におけるその含有量は低いことが好ましいが、例えば飲料を構成する穀物系の素材に由来して不可避的に含まれる。一方、第1の発明に係る飲料では、詳しくは後述するように、リナロールを特定の割合で含有することから、そのリナロールがイソブチルアルデヒドに由来する異臭を効果的に抑制する。具体的に、飲料中におけるイソブチルアルデヒドの含有量が50ppb以上であっても、あるいは100ppb以上であっても、効果的にその異臭を抑制することができる。
【0030】
飲料中のイソブチルアルデヒドの含有量は、ガスクロマトグラフタンデム質量分析計(GC-MS/MS)を用いて測定することができる。GC-MS/MSの測定は、例えば後述する実施例に示す条件に基づいて行うことができる。また、各原料中における濃度が把握できている場合には計算することもできる。
【0031】
[リナロール]
第1の発明に係る飲料には、リナロールが含まれる。リナロールは、香気成分であり、素材に由来して飲料中に含まれることとなるイソブチルアルデヒドによる異臭をマスキングする作用を有する。
【0032】
リナロールは、特に限定されないが、化合物の市販品を用いることができ、その市販品を飲料中に配合する。あるいは、リナロールが含まれる天然素材やその抽出物等を配合することで飲料中に含有させることができる。
【0033】
飲料中のリナロールの含有量は、0.6~50ppbの範囲である。飲料中のリナロールの含有量をこのような範囲に設定することで、イソブチルアルデヒドに由来する焦げ臭といった異臭を効果的にマスキングして低減させることができる。また、このような範囲でリナロールを含有させることで、飲料のすっきり感やおいしさ、香りの良さを向上させる効果も有し、飲料の嗜好性をより一層に高めることができる。
【0034】
リナロールの含有量の下限値は0.6ppb以上であり、0.8ppb以上が好ましく、1ppb以上がより好ましく、3ppb以上が更に好ましい。好ましくはこのような範囲で含有することで、イソブチルアルデヒドに由来する異臭のマスキング効果をより一層に高めることができる。他方で、リナロールの含有量が多すぎると、異臭のマスキング効果はさらに高まるものの、飲料のおいしさや香りの良さを損なわせる可能性がある。このような点から、飲料中のリナロールの含有量の上限値は50ppb以下であり、20ppb以下が好ましく、10ppb以下がより好ましい。
【0035】
飲料中のリナロールの含有量は、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)を用いて測定することができる。GC-MSの測定は、例えば後述する実施例に示す条件に基づいて行うことができる。また、各原料中における濃度が把握できている場合には計算することもできる。
【0036】
[リナロールオキサイド]
第1の発明に係る飲料には、第2の発明において後述するリナロールオキサイドが含まれていてもよい。飲料中のリナロールオキサイドの含有量は、特に限定されないが、飲料のおいしさや香りの良さが損なわれにくい点から、100ppb以下が好ましく、50ppb以下がより好ましく、20ppb以下が更に好ましく、10ppb以下が特に好ましい。リナロールオキサイドの含有量は0ppbであってもよい。飲料中のリナロールオキサイドの含有量は、リナロールの含有量と同様にして測定することができる。
【0037】
飲料中のリナロールとリナロールオキサイドの合計含有量は、0.6ppb以上が好ましく、0.8ppb以上がより好ましく、1ppb以上が更に好ましく、3ppb以上が特に好ましい。また、該合計含有量は、100ppb以下が好ましく、50ppb以下がより好ましく、20ppb以下が更に好ましく、10ppb以下が特に好ましい。
【0038】
[カフェイン]
第1の発明に係る飲料は、カフェインレスとすることが好ましい。
飲料中のカフェインの含有量は、例えば、10mg/L以下、1mg/L以下であってもよい。
飲料中のカフェインの含有量は、高速液体クロマトグラフィ法(HPLC法)によって測定する。
【0039】
[その他の成分]
第1の発明に係る飲料においては、その効果を阻害しない範囲で、一般的な飲料に通常用いられる他の原料や添加剤を適宜配合できる。なお、その配合量は、目的とする効果に応じて適宜調整できる。具体的には、例えば、酸化防止剤、pH調整剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、品質安定剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0040】
[容器]
第1の発明に係る飲料においては、容器に充填することで容器詰飲料とすることができる。容器としては、飲料業界で公知の密封容器であればよく、適宜選択して用いることができ、流通形態や消費者ニーズに応じて適宜決定できる。その具体例としては、ガラス、プラスチック(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等)、紙、アルミ、スチール等の単体、又はこれらの複合材料又は積層材料からなる密封容器が挙げられる。特に、透明(半透明も含む)容器が好ましい。透明容器は全体が透明であっても、一部が透明であってもよい。
【0041】
≪2.飲料の製造方法≫
第1の発明に係る飲料は、飲料の製造において採用される任意の条件や方法を用いて製造することができる。例えば、イソブチルアルデヒドの含有量が15~120ppbである飲料に、含有量が0.6~50ppbとなるようにリナロールを添加する。さらにその他必要に応じて加えられる成分を添加する等して飲料を調製する。
【0042】
飲料中のイソブチルアルデヒドの含有量は、任意の適当な方法により調整すればよい。また、リナロールを添加する方法についても、常法に従って行うことができる。
【0043】
飲料の製造においては、例えば、準備されたそれぞれ所定量の成分を含有する抽出液等、及び特定量のリナロールを、順次又は同時に添加し、撹拌等により混合する方法が挙げられる。各成分の混合順序等については、特に限定されない。また、例えば穀物茶飲料等の茶飲料の場合では、複数の植物を予め混合して抽出処理を行って抽出液を得た後に、得られた抽出液にリナロールを所定濃度となるように添加する方法も挙げられる。
【0044】
リナロールを添加するにあたっては、香料(化学合成された化合物等)として添加する方法や、リナロールを含む食品素材の抽出液を添加する方法等が挙げられる。
【0045】
製造された飲料は、容器に充填して容器詰飲料とすることができ、容器に充填する前又は後に、適宜殺菌処理してもよい。殺菌処理の方法は特に限定されず、通常のプレート式殺菌、チューブラー式殺菌、レトルト殺菌、バッチ殺菌、オートクレーブ殺菌等が挙げられる。
【0046】
≪3.飲料の風味を改善する方法≫
上述したように、第1の発明に係る飲料によれば、イソブチルアルデヒドを含有する場合でも、リナロールを0.6~50ppbの含有量で配合されていることにより、イソブチルアルデヒドによる焦げ臭といった異臭を効果的に抑制でき、飲料を構成する素材由来の風味を改善することができ、嗜好性に優れた飲料となる。
【0047】
したがって、このことから、イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料において、リナロールを添加することで、飲料の風味を改善する方法として定義することができる。すなわち、イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料に、リナロールをその含有量が0.6~50ppbとなるように添加する飲料の風味改善方法を定義することができる。
【0048】
≪4.飲料の風味改善剤≫
また、リナロールを、イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料に添加することで、イソブチルアルデヒドによる焦げ臭といった異臭を抑制して飲料の風味を改善させるための風味改善剤として定義することもできる。
【0049】
具体的には、飲料の風味改善剤は、リナロールを含むものであって、イソブチルアルデヒドの含有量が15~120ppbである飲料に、リナロールの含有量が0.6~50ppbとなるように添加して用いられるものである。
【0050】
飲料の風味改善剤は、本分野において採用される任意の方法や適当な改良を加えた方法によって製造することができる。また、その風味改善剤に、リナロール以外の成分が含まれる場合、その種類及び含量は、得ようとする効果に応じて適宜設計できる。
【0051】
<第2の発明>
≪1.飲料≫
第2の発明に係る飲料は、例えば穀物素材等の天然素材由来の抽出物を含み、イソブチルアルデヒド(Isobutyraldehyde)を15~120ppbの含有量で含む飲料である。具体的に、この飲料は、リナロールオキサイド(Linalool oxide)を0.6~100ppbの割合で含有する。
【0052】
このように、飲料中に特定の割合でリナロールオキサイドを含有するように設計することで、穀物素材等の天然素材に含まれるイソブチルアルデヒドによる焦げ臭を抑制し、その素材の風味を改善して、嗜好性に優れる飲料とすることができる。
【0053】
ここで、リナロールオキサイドは、香気成分であり、本発明者らによる研究の結果、イソブチルアルデヒドを一定濃度で含む飲料に、リナロールオキサイドを特定の割合で含有させることで、そのリナロールオキサイドがイソブチルアルデヒドに由来する焦げ臭といった異臭をマスキングして、その異臭を効果的に抑制できることを見出した。また、リナロールオキサイドを含有させることで、その異臭を抑制して飲料のすっきりとした後味(すっきり感)を改善できるだけでなく、飲料のおいしさや香りの良さを向上させることができることもわかった。
【0054】
飲料の種類等、イソブチルアルデヒド、カフェイン、その他の成分、容器に関しては、第1の発明に係る飲料と同様である。
【0055】
[リナロールオキサイド]
第2の発明に係る飲料には、リナロールオキサイドが含まれる。リナロールオキサイドは、香気成分であり、素材に由来して飲料中に含まれることとなるイソブチルアルデヒドによる異臭をマスキングする作用を有する。
【0056】
リナロールオキサイドは、特に限定されないが、化合物の市販品を用いることができ、その市販品を飲料中に配合する。あるいは、リナロールオキサイドが含まれる天然素材やその抽出物等を配合することで飲料中に含有させることができる。
【0057】
飲料中のリナロールオキサイドの含有量は、0.6~100ppbの範囲である。飲料中のリナロールオキサイドの含有量をこのような範囲に設定することで、イソブチルアルデヒドに由来する焦げ臭といった異臭を効果的にマスキングして低減させることができる。また、このような範囲でリナロールオキサイドを含有させることで、飲料のすっきり感やおいしさ、香りの良さを向上させる効果も有し、飲料の嗜好性をより一層に高めることができる。
【0058】
リナロールオキサイドの含有量の下限値は0.6ppb以上であり、0.8ppb以上が好ましく、1ppb以上がより好ましく、3ppb以上が更に好ましい。好ましくはこのような範囲で含有することで、イソブチルアルデヒドに由来する異臭のマスキング効果をより一層に高めることができる。他方で、リナロールオキサイドの含有量が多すぎると、異臭のマスキング効果はさらに高まるものの、飲料のおいしさや香りの良さを損なわせる可能性がある。このような点から、飲料中のリナロールオキサイドの含有量の上限値は100ppb以下であり、50ppb以下が好ましく、20ppb以下がより好ましく、10ppb以下が特に好ましい。
【0059】
飲料中のリナロールオキサイドの含有量は、第1の発明に係る飲料中のリナロールの含有量と同様にして測定することができる。
【0060】
[リナロール]
第2の発明に係る飲料には、第1の発明において上述したリナロールが含まれていてもよい。飲料中のリナロールの含有量は、特に限定されないが、飲料のおいしさや香りの良さが損なわれにくい点から、50ppb以下が好ましく、20ppb以下がより好ましく、10ppb以下が特に好ましい。リナロールの含有量は0ppbであってもよい。飲料中のリナロールの含有量は、第1の発明に係る飲料中のリナロールの含有量と同様にして測定することができる。
【0061】
飲料中のリナロールオキサイドとリナロールの合計含有量は、0.6ppb以上が好ましく、0.8ppb以上がより好ましく、1ppb以上が更に好ましく、3ppb以上が特に好ましい。また、該合計含有量は、100ppb以下が好ましく、50ppb以下がより好ましく、20ppb以下が更に好ましく、10ppb以下が特に好ましい。
【0062】
≪2.飲料の製造方法≫
第2の発明に係る飲料は、飲料の製造において採用される任意の条件や方法を用いて製造することができる。例えば、イソブチルアルデヒドの含有量が15~120ppbである飲料に、含有量が0.6~100ppbとなるようにリナロールオキサイドを添加する。さらにその他必要に応じて加えられる成分を添加する等して飲料を調製する。
【0063】
飲料中のイソブチルアルデヒドの含有量は、任意の適当な方法により調整すればよい。また、リナロールオキサイドを添加する方法についても、常法に従って行うことができる。
【0064】
飲料の製造においては、例えば、準備されたそれぞれ所定量の成分を含有する抽出液等、及び特定量のリナロールオキサイドを、順次又は同時に添加し、撹拌等により混合する方法が挙げられる。各成分の混合順序等については、特に限定されない。また、例えば穀物茶飲料等の茶飲料の場合では、複数の植物を予め混合して抽出処理を行って抽出液を得た後に、得られた抽出液にリナロールオキサイドを所定濃度となるように添加する方法も挙げられる。
【0065】
リナロールオキサイドを添加するにあたっては、香料(化学合成された化合物等)として添加する方法や、リナロールオキサイドを含む食品素材の抽出液を添加する方法等が挙げられる。
【0066】
製造された飲料は、容器に充填して容器詰飲料とすることができ、容器に充填する前又は後に、適宜殺菌処理してもよい。殺菌処理の方法は特に限定されず、通常のプレート式殺菌、チューブラー式殺菌、レトルト殺菌、バッチ殺菌、オートクレーブ殺菌等が挙げられる。
【0067】
≪3.飲料の風味を改善する方法≫
上述したように、第2の発明に係る飲料によれば、イソブチルアルデヒドを含有する場合でも、リナロールオキサイドを0.6~100ppbの含有量で配合されていることにより、イソブチルアルデヒドによる焦げ臭といった異臭を効果的に抑制でき、飲料を構成する素材由来の風味を改善することができ、嗜好性に優れた飲料となる。
【0068】
したがって、このことから、イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料において、リナロールオキサイドを添加することで、飲料の風味を改善する方法として定義することができる。すなわち、イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料に、リナロールオキサイドをその含有量が0.6~100ppbとなるように添加する飲料の風味改善方法を定義することができる。
【0069】
≪4.飲料の風味改善剤≫
また、リナロールオキサイドを、イソブチルアルデヒドを15~120ppbの含有量で含む飲料に添加することで、イソブチルアルデヒドによる焦げ臭といった異臭を抑制して飲料の風味を改善させるための風味改善剤として定義することもできる。
【0070】
具体的には、飲料の風味改善剤は、リナロールオキサイドを含むものであって、イソブチルアルデヒドの含有量が15~120ppbである飲料に、リナロールオキサイドの含有量が0.6~100ppbとなるように添加して用いられるものである。
【0071】
飲料の風味改善剤は、本分野において採用される任意の方法や適当な改良を加えた方法によって製造することができる。また、その風味改善剤に、リナロールオキサイド以外の成分が含まれる場合、その種類及び含量は、得ようとする効果に応じて適宜設計できる。
【実施例0072】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0073】
≪試験1:イソブチルアルデヒド添加による検証≫
[基準品及び試験サンプルの作製]
焙煎した大麦(L*=41)10gを、90℃、30倍容の水で抽出して抽出液を得た。なお、上記L*値(焙煎度)は、室温にした試料を、ミルサー(IFM-300,岩谷産業社製)を用いて20秒間粉砕した後、粉砕後の試料を、分光色差計(SE7700,日本電色工業社製)を用いて反射法にて測定して得られた値である。
【0074】
得られた抽出液に、L-アスコルビン酸ナトリウム0.3g、L-アスコルビン酸0.1g、炭酸水素ナトリウム0.2gをそれぞれ添加し、純水で1000gに定容し、調合液を得た。得られた調合液をUHT殺菌し、無菌的にPETボトルに充填した後、10倍に希釈してサンプル(基準品1)を得た。なお、得られた基準品1(大麦抽出液)におけるイソブチルアルデヒド濃度は2.6ppbであった。
【0075】
そして、得られた基準品1に、イソブチルアルデヒドを5~50ppbの各濃度となるように添加し、評価に用いる試験サンプルを作製した。
【0076】
[イソブチルアルデヒド含有量の分析]
基準品1及び試験サンプル中におけるイソブチルアルデヒドの含有量は、ガスクロマトグラフタンデム質量分析(GC-MS/MS)を用いて下記の条件にて測定した。具体的には、分析対象である試験サンプル100μLをバイアル瓶(容量10mL)に入れ、ゲステル社製MPSを用いるMVM(Multi Volatile Method)によりGC-MS/MS(アジレント・テクノロジー社製)に導入した。検量線は標準添加法にて作成し、内標としてシクロヘキサノールを用いた。
(GC-MS/MSの分析条件)
・機器 GC:Agilent 7890B GC System(アジレント・テクノロジー社製)
MS:Agilent 7000D GC/MS Triple Quad(アジレント・テクノロジー社製)
全自動揮発性成分抽出導入装置:MPS Robotic Pro/DHS/TDU2/CIS4(ゲステル社製)
捕集管(吸着剤):Tenax TA、Carbopack-B & Carbopack-X
・カラム :DB-WAX UI(20m×0.18mm、膜厚0.30μm)(アジレント・テクノロジー社製)
・注入法 :スプリットレス
・キャリアガス :He(1.0mL/分)
・トランスファーライン :250℃
・昇温プログラム :40℃(3分間保持)→5℃/分→240℃(7分間保持)
・プリカーサーイオン>プロダクトイオン(CE(コリジョンエネルギー))
:Isobutyraldehyde 72>43(5V)
:cyclohexanol 82>67(5V)
・イオン化方法 :EI
・四重極温度 :150℃
・イオン源温度 :230℃
【0077】
[官能評価について]
作製した基準品1及び各試験サンプルについて、専門パネル5名にて官能評価を行った。官能評価は、具体的には、基準品1に対して、「おいしさ」、「香りの良さ」、「焦げ感」について比較評価することで行った。各評価点数は、下記の評価基準に従って各パネルがつけた評価点数の平均値として算出した。かかる評価においては、基準品1の点数を基準値(4点)として評価した。なお、「おいしさ」は「風味に基づく嗜好性の高さ」を、「香りの良さ」は「穀物茶全体の香りの印象」をそれぞれ評価した。また、「焦げ感」は「苦味、えぐみ、焦げっぽい香り」を評価した。
【0078】
「おいしさ」、「香りの良さ」については、下記評価基準に基づき7段階で評価した。
(評価基準)7点:かなり良い、6点:良い、5点:やや良い、4点:基準品と同等、3点:やや悪い、2点:悪い、1点:かなり悪い
【0079】
「焦げ感」については、下記評価基準に基づき7段階で評価した。
(評価基準)7点:かなり強い、6点:強い、5点:やや強い、4点:基準品と同等、3点:やや弱い、2点:弱い、1点:かなり弱い
【0080】
[結果]
下記表1に、基準品1及び試験サンプル中のイソブチルアルデヒド濃度及び官能評価結果を示す。評価における「おいしさ」、「香りの良さ」については、上記の評価基準にあるように、点数が大きくなるほど評価が高いことを意味する。また、「焦げ感」については、上記の評価基準にあるように、点数が小さくなるほど感じられにくくなっており、評価が高いことを意味する。
【0081】
【0082】
表1に示されるとおり、イソブチルアルデヒドの濃度が高くなると「焦げ感」が大きくなり、「おいしさ」及び「香りの良さ」が不良であった。したがって、飲料においてイソブチルアルデヒドが、特に15ppb以上の割合で含まれることで、焦げ臭といった異臭が感じられ、素材の風味を損なわせ、飲料の嗜好性を低下させることがわかる。
【0083】
≪試験2:リナロールの添加による検証≫
[基準品及び試験サンプルの作製]
焙煎した玄米(L*=58)10gを、90℃、30倍容の水で抽出して抽出液を得た。なお、上記L*値(焙煎度)は、試験1と同様にして得られた値である。
【0084】
得られた抽出液に、L-アスコルビン酸ナトリウム0.3g、L-アスコルビン酸0.1g、炭酸水素ナトリウム0.2gをそれぞれ添加し、純水で1000gに定容し、調合液を得た。得られた調合液をUHT殺菌、無菌的にPETボトルに充填した後、10倍に希釈して希釈抽出液を得た。なお、得られた希釈抽出液におけるイソブチルアルデヒド濃度は0.7ppbであった。
【0085】
上記で得られた希釈抽出液にイソブチルアルデヒドを濃度120ppbとなるように添加して、基準品2を作製した。なお、基準品2のリナロール濃度は、いずれも0ppbであった。また、得られた基準品2に、リナロールを、下記表2に示す濃度となるように添加し、各試験サンプル(比較例1及び比較例2、実施例1~実施例4)を作製した。
【0086】
基準品2及び各試験サンプル中におけるリナロールの含有量は、ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)を用いて下記の条件にて測定した。具体的には、分析対象である試験サンプル10mL、塩化ナトリウム3.5gをバイアル瓶(容量20mL)に入れてセプタム付きキャップにて密栓し、SPME(Solid Phase Micro Extraction)法によりGC-MS(アジレント・テクノロジー社製)に導入した。検量線は標準添加法にて作成し、内標としてシクロヘキサノールを用いた。
(GC-MSの分析条件)
・機器 GC:Agilent 7890A GC System(アジレント・テクノロジー社製)
MS:Agilent 5975C inert XL MSD(アジレント・テクノロジー社製)
全自動揮発性成分抽出導入装置:MultiPurpose Sampler MPS2(ゲステル社製)
・SPMEファイバー:DVB/CAR/PDMS(スペルコ社製)
・前処理条件:Incubation 50℃,10分
Extraction 50℃,30分
Desorption 5分
・カラム:HP-INNOWax(60m×0.25mm、膜厚0.25μm)(アジレント・テクノロジー社製)
・注入法:スプリットレス
・注入口温度:240℃
・キャリアガス:He(1.0mL/分)
・昇温プログラム:35℃(2分間保持)→6℃/分→240℃(10分間保持)
・MSトランスファーライン:240℃
・イオン化方法 :EI
・イオン源温度:230℃
・四重極温度:150℃
・定量イオン(Linalool):71
・定量イオン(Linalool oxide):59
・定量イオン(cyclohexanol):57
【0087】
[官能評価について]
作製した基準品2及び各試験サンプルについて、専門パネル5名にて官能評価を行った。官能評価は、具体的には、基準品2に対して、「おいしさ」、「香りの良さ」、「焦げ感」について比較評価することで行った。各評価点数は、試験1と同様の評価基準に従って各パネルがつけた評価点数の平均値として算出した。かかる評価においては、比較例1、2、及び実施例1~4については基準品2の点数を基準値(4点)として評価した。
【0088】
[結果]
下記表2に、基準品2及び各試験サンプル中のイソブチルアルデヒド濃度、リナロール濃度、及び官能評価結果を示す。評価における「おいしさ」、「香りの良さ」については、上記の評価基準にあるように、点数が大きくなるほど評価が高いことを意味する。また、「焦げ感」については、上記の評価基準にあるように、点数が小さくなるほど感じられにくくなっており、評価が高いことを意味する。
【0089】
【0090】
表2にあるように、実施例1~4では、基準品2及び比較例1と比べて、「焦げ感」の評価が高くなり、異臭が抑制されたことを示した。また、異臭の抑制効果に加えて、「おいしさ」や「香りの良さ」の向上効果も表れており、より嗜好性に優れるものであった。
【0091】
≪試験3:リナロールオキサイドの添加による検証≫
[試験サンプルの作製]
試験2で得られた基準品2に、リナロールオキサイドを、下記表3に示す濃度となるように添加し、各試験サンプル(比較例3及び比較例4、実施例5~実施例8)を作製した。なお、基準品2のリナロールオキサイド濃度は、いずれも0ppbであった。
【0092】
基準品2及び各試験サンプル中におけるリナロールオキサイドの含有量は、試験2におけるリナロールの含有量の測定と同様の方法・条件により測定した。
【0093】
[官能評価について]
作製した基準品2及び各試験サンプルについて、専門パネル5名にて官能評価を行った。官能評価は、具体的には、基準品2に対して、「おいしさ」、「香りの良さ」、「焦げ感」について比較評価することで行った。各評価点数は、試験1と同様の評価基準に従って各パネルがつけた評価点数の平均値として算出した。かかる評価においては、比較例3、4、及び実施例5~8については基準品2の点数を基準値(4点)として評価した。
【0094】
[結果]
下記表3に、基準品2及び各試験サンプル中のイソブチルアルデヒド濃度、リナロールオキサイド濃度、及び官能評価結果を示す。評価における「おいしさ」、「香りの良さ」については、上記の評価基準にあるように、点数が大きくなるほど評価が高いことを意味する。また、「焦げ感」については、上記の評価基準にあるように、点数が小さくなるほど感じられにくくなっており、評価が高いことを意味する。
【0095】
【0096】
表3にあるように、実施例5~8では、基準品2及び比較例3と比べて、「焦げ感」の評価が高くなり、異臭が抑制されたことを示した。また、異臭の抑制効果に加えて、「おいしさ」や「香りの良さ」の向上効果も表れており、より嗜好性に優れるものであった。