(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023051284
(43)【公開日】2023-04-11
(54)【発明の名称】受圧構造体
(51)【国際特許分類】
E02D 17/20 20060101AFI20230404BHJP
E02D 5/80 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
E02D17/20 103H
E02D17/20 106
E02D5/80 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021161857
(22)【出願日】2021-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】松本 真輔
【テーマコード(参考)】
2D041
2D044
【Fターム(参考)】
2D041GA01
2D041GB01
2D041GC02
2D041GC12
2D041GD02
2D044DB51
2D044EA01
(57)【要約】
【課題】軽量で、優れた強度を有する受圧構造体を目的とする。
【解決手段】ヘッド部材10と、ヘッド部材10の上面に位置する上板と20、ヘッド部材10の下面に位置する下板30とを有する本体部2と、本体部2を上板20から下板30にかけて貫通するアンカー5と、を有し、ヘッド部材10は、上面から下面に向かうに従い広がる形状であり、ヘッド部材10は、ガラス繊維束を含むレジンコンクリート組成物の硬化物であり、上板20は、樹脂中にガラス繊維が混在した複合材であり、下板30は、硬質ウレタン樹脂中にガラス繊維が混在した複合材であることよりなる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド部材と、前記ヘッド部材の上面に位置する上板と、前記ヘッド部材の下面に位置する下板とを有する本体部と、
前記本体部を前記上板から前記下板にかけて貫通するアンカーと、を有し、
前記ヘッド部材は、上面から下面に向かうに従い広がる形状であり、
前記ヘッド部材は、ガラス繊維束を含むレジンコンクリート組成物の硬化物であり、
前記上板は、樹脂中にガラス繊維が混在した複合材であり、
前記下板は、硬質ウレタン樹脂中にガラス繊維が混在した複合材である、受圧構造体。
【請求項2】
前記下板に含まれるガラス繊維は、繊維長方向の長さが5mm超50mm以下である第一のガラス繊維と、繊維長方向の長さが5mm以下である第二のガラス繊維とを含む、請求項1に記載の受圧構造体。
【請求項3】
前記ヘッド部材に含まれるガラス繊維束は、繊維長方向の長さが7mm以上であり、
前記ヘッド部材における前記ガラス繊維束の含有量は、前記レジンコンクリート組成物の総質量に対して2質量%以上である、請求項1又は2に記載の受圧構造体。
【請求項4】
前記ヘッド部材と前記下板とは、エポキシ樹脂又は前記ヘッド部材を構成する樹脂で一体化されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の受圧構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受圧構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
砂防林務、道路法面の補強工事(地滑り防止工事)には、受圧構造体を用いる。受圧構造体は、例えば、平板状の複数の構成材を積層した受圧板と、この受圧板を貫通し地盤に挿入されたアンカーとを有する。受圧構造体は、アンカーのアンカー材の先端をグラウト材等で地盤に固定し、アンカー材の後端を受圧板の上端から突出させ、アンカー材の後端からナット等を締めこんで、受圧板を法面等に押し付ける。
例えば、特許文献1には、所定方向に向けて埋設した長繊維で補強したウレタン樹脂発泡体を構成材とし、これを積層した受圧板を有する受圧構造体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の発明は、受圧板の強度に優れるものの、必要な強度を得るためには、各々の構成材の厚みが増す、構成材の数が多くなる等により、受圧板が重くなるという問題があった。
そこで、本発明は、軽量で、優れた強度を有する受圧構造体を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
<1>
ヘッド部材と、前記ヘッド部材の上面に位置する上板と、前記ヘッド部材の下面に位置する下板とを有する本体部と、
前記本体部を前記上板から前記下板にかけて貫通するアンカーと、を有し、
前記ヘッド部材は、上面から下面に向かうに従い広がる形状であり、
前記ヘッド部材は、ガラス繊維束を含むレジンコンクリート組成物の硬化物であり、
前記上板は、樹脂中にガラス繊維が混在した複合材であり、
前記下板は、硬質ウレタン樹脂中にガラス繊維が混在した複合材である、受圧構造体。
<2>
前記下板に含まれるガラス繊維は、繊維長方向の長さが5mm超50mm以下である第一のガラス繊維と、繊維長方向の長さが5mm以下である第二のガラス繊維とを含む、<1>に記載の受圧構造体。
<3>
前記ヘッド部材に含まれるガラス繊維束は、繊維長方向の長さが7mm以上であり、
前記ヘッド部材における前記ガラス繊維束の含有量は、前記レジンコンクリート組成物の総質量に対して2質量%以上である、<1>又は<2>に記載の受圧構造体。
<4>
前記ヘッド部材と前記下板とは、エポキシ樹脂又は前記ヘッド部材を構成する樹脂で一体化されている、<1>~<3>のいずれかに記載の受圧構造体。
【発明の効果】
【0006】
本発明の受圧構造体によれば、優れた強度を有し、かつ軽量化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係る受圧構造体の本体部の斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る受圧構造体の本体部の一部の斜視図である。
【
図3】
図1のIII-III断面で見た場合の受圧構造体の断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る受圧構造体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(受圧構造体)
本発明の受圧構造体は、本体部と、本体部を上下方向に貫通するアンカーとを有する。以下、図面を参照して、受圧構造体を説明する。
【0009】
図3の受圧構造体1は、本体部2と、本体部2を貫通するアンカー5とを有する。本実施形態の本体部2は、従来の受圧構造体のいわゆる受圧板に相当する。
図1に示すように、本体部2は、ヘッド部材10と、上板20と、下板30とを有する。上板20は、ヘッド部材10の上面に位置し、下板30は、ヘッド部材10の下面に位置する。
【0010】
ヘッド部材10は上面から下面に向かうに従い広がっている。即ち、ヘッド部材10は、上板20から下板30にかけて、外縁が大きくなっている。
【0011】
図2は、
図1から上板20を取り除いた斜視図である。ヘッド部材10は、上面及び下面に開口した角筒状の芯部14と、平面視における芯部14の各辺及び各角部から外方に伸びる8つの脚部16とを有する。8つの脚部16は、平面視において放射状に伸びている。
芯部14は、内部に四角筒状の空間(内空部)15を有する。芯部14は、内空部15に位置する4つの傾斜壁13を有する。4つの傾斜壁13は、芯部14の内面から内空部15に突出している。それぞれの傾斜壁13は、平面視における内空部15の輪郭である四角形の各辺から内方に伸びている。傾斜壁13は、芯部14の上面から下面に向かうに従い、芯部14の内面に近づいている。即ち、傾斜壁13は、側面視において(
図3)、下方を頂点とする略三角形となっている。
【0012】
脚部16の上面16aは、芯部14から外方に向かうに従い、下板30に近づいている。即ち、脚部16は、芯部14から外方に向かうに従い、低くなっている。これにより、側面視において、ヘッド部材10は、台形となっている(
図3参照)。こうして、ヘッド部材10は、全体として、上面から下面に向かうに従い広がっている。
なお、本実施形態の脚部16は、その外方の先端部が下板30から上方に立ち上がる端面16bを有するが、脚部16の先端は、端面16bを有さなくてもよい。
【0013】
上板20は、芯部14の上面に位置している。即ち、上板20は、芯部14の上面の開口部を塞いでいる。
上板20は、平面視四角形の平板である。上板20は、その中心部を含む領域に平面視真円形の貫通孔(上板貫通孔)22を有する。上板貫通孔22は、内空部15の内外を連通している。真円形は、目視で真円と認識できる程度の真円度であればよい。なお、上板貫通孔22の形状は、楕円形でもよいし、三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形でもよい。
【0014】
下板30は、平面視四角形の平板である。下板30は、その中心部を含む領域に貫通孔(下板貫通孔)32を有する。受圧構造体1において、下板貫通孔32は、芯部14内の内空部15と重なっている。即ち、下板貫通孔32は、内空部15の内外を連通する。なお、下板貫通孔32は、真円形、楕円形等の円形でもよいし、一方を長手とする長方形でもよいし、四角形以外の多角形でもよい。
【0015】
図3に示すように、アンカー5は、アンカー材52と、ナット50と、カバー54と、アンカープレート56とを有する。
アンカープレート56は、上板20の上面に位置している。
アンカー材52は、棒状の部材である。アンカー材52は、上板貫通孔22、内空部15及び下板貫通孔32を貫通している。アンカー材52の先端(下端)は、地盤G内に位置している。アンカー材52の後端(上端)は、本体部2及びアンカープレート56の上方に突出している。アンカー材52は、後端に、ナット50と螺合するネジ山を有する。ナット50は、アンカー材52の後端に螺合している。ナット50はアンカープレート56に当接し、アンカープレート56を本体部2の上板20に押し付けている。カバー54は、アンカー材52及びナット50を覆っている。
【0016】
下板30の大きさは、受圧構造体1の用途等を勘案して適宜決定される。下板30の一辺の長さW30は、例えば、500~2500mmが好ましい。
下板30の厚さT30は、例えば、30~100mmが好ましい。厚さT30が上記下限値以上であれば、下板30の強度をより高められる。厚さT30が上記上限値以下であれば、下板30をより軽量化できる。
【0017】
ヘッド部材10の大きさは、下板30の大きさ等を勘案して適宜決定される。
下板30の長さW30に対応する、ヘッド部材10における下端の長さW10は、W30の70~100%が好ましい。W10が上記下限値以上であれば、アンカープレート56を介して、上板20をナット50が押し付ける力を、下板30へより均一に伝達できる。
ヘッド部材10の高さH10は、受圧構造体1の用途等を勘案して適宜決定できる。高さH10は、例えば、50~500mmが好ましい。
【0018】
芯部14内の内空部15の大きさは、特に限定されない。平面視における内空部15の一辺の長さW15は、例えば、100~600mmが好ましい。なお、長さW15は、内空部15の下端における一辺の長さである。
【0019】
上板20の大きさは、内空部15を覆い、芯部14の上端に当接する大きさであればよい。平面視における上板20の一辺の長さW20は、長さW15の100~150%が好ましい。長さW20が上記下限値以上であれば、上板20が芯部14の上面の全体に当接できる。長さW20が上記上限値以下であれば、上板20をより軽量化できる。
上板20の厚さT20は、例えば、10~50mmが好ましい。厚さT20が上記下限値以上であれば、上板20の強度をより高められる。厚さT20が上記上限値以下であれば、上板20をより軽量化できる。
【0020】
<下板>
下板30は、硬質ウレタン樹脂中にガラス繊維が混在した複合材(「ウレタン複合材」ということがある)である。下板30において、硬質ウレタン樹脂は、非発泡体でもよいし、発泡体でもよい。下板30のさらなる軽量化を図る観点からは、硬質ウレタン樹脂は発泡体が好ましい。
硬質ウレタン樹脂は、硬質ウレタン樹脂組成物の硬化物である。硬質ウレタン樹脂組成物は、ポリオール、触媒及びポリイソシアネートを含む。硬質ウレタン樹脂を発泡樹脂とする場合、硬質ウレタン樹脂組成物は、発泡剤を含む。硬質ウレタン樹脂組成物はその他の添加剤を含んでもよい。
硬質ウレタン樹脂組成物の比重は1.0~1.3が好ましく、1.15~1.2がより好ましい。硬質ウレタン樹脂組成物の比重は、JIS K7112:1999に準じて測定できる。
【0021】
発泡剤は、特に限定されず、繊維強化複合材料の分野で公知のものを使用できる。
発泡剤としては、例えば、水を例示できる。
発泡剤の含有量は、少なすぎるとガラス繊維への樹脂の含浸性が不充分となりやすく、多すぎると空隙率が高くなり下板30の強度が不充分となる。発泡剤の含有量は、かかる不都合が生じない範囲に設定するのが好ましい。発泡剤の含有量は、硬質ウレタン樹脂組成物の総質量に対して、例えば、0.1~0.5質量%が好ましく、0.1~0.3質量%がより好ましい。
【0022】
下板30に含まれるガラス繊維は、曲げ性能を発現するために繊維長を有するものを含むことが好ましい。
下板30に含まれるガラス繊維は、特に限定されず、繊維強化複合材料の分野で公知のガラス繊維を使用できる。ガラス繊維としては、例えば、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス、Tガラス、石英ガラス繊維、ホウケイ酸ガラス繊維等を例示できる。ガラス繊維としては、例えば、ガラスロービングが好ましい。
ガラス繊維の比重は2~3が好ましく、2.5~2.7がより好ましい。ガラス繊維の比重は、JIS R3420:2013に準じて測定できる。
【0023】
下板30に含まれるガラス繊維の繊維長方向の長さは、例えば、1~100mmとされる。
【0024】
下板30は、第一のガラス繊維と、第一のガラス繊維よりも短い第二のガラス繊維とを含むことが好ましい。下板30は、第一のガラス繊維と第二のガラス繊維とを含むことで、強度をより高められる。
【0025】
第一のガラス繊維は、繊維長方向の長さが5mm超50mm以下であり、10mm以上45mm以下が好ましく、20mm以上40mm以下がより好ましい。第一のガラス繊維の繊維長方向の長さが上記下限値超であると、下板30の強度をより高められる。第一のガラス繊維の繊維長方向の長さが上記上限値以下であると、製造時のプレス工程における混合物の反力(プレス容量)をより抑制できる。
第一のガラス繊維の繊維長方向の長さは、例えば、ノギス等を用いて測定できる。
【0026】
第二のガラス繊維は、繊維長方向の長さが5mm以下であり、4mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましい。第二のガラス繊維の繊維長方向の長さが上記上限値以下であると、第一のガラス繊維の間に第二のガラス繊維が入り込みやすくなり、下板30をより密実(高比重)にして、下板30の強度をより高められる。第二のガラス繊維の繊維長方向の長さの下限値は特に限定されないが、実質的には0.1mmである。
第二のガラス繊維の繊維長方向の長さは、例えば、ノギスやデジタルマイクロスコープ等を用いて測定できる。
【0027】
下板30は、第一のガラス繊維と、第二のガラス繊維以外のガラス繊維(以下、「他のガラス繊維」ともいう。)を含んでいてもよい。
他のガラス繊維としては、例えば、繊維長方向の長さが50mm超のガラス繊維を例示できる。
他のガラス繊維の含有量は、下板30に求める強度に応じて適宜設定できる。
【0028】
第一のガラス繊維と第二のガラス繊維の合計の含有量は、ガラス繊維の総質量に対して、80~100質量%が好ましく、90~100質量%がより好ましく、100質量%が特に好ましい。第一のガラス繊維と第二のガラス繊維の合計の含有量が上記下限値以上であると、下板30の曲げ強度をより高められる。第一のガラス繊維と第二のガラス繊維の合計の含有量が上記上限値以下であると、下板30のさらなる軽量化を図ることができる。
【0029】
第二のガラス繊維の含有量に対する第一のガラス繊維の含有量の質量比である「第一のガラス繊維/第二のガラス繊維」(以下「第一/第二質量比」ということがある)は、30/70~70/30が好ましく、35/65~65/35がより好ましく、40/60~60/40がさらに好ましい。第一/第二質量比が上記下限値以上であると、ボイド(2mm2以上の空隙)の発生を抑制し、下板30の外観をより良好にできる。加えて、第一/第二質量比が上記下限値以上であると、下板30の曲げ強度をより高められる。第一/第二質量比が上記上限値以下であると、後述の加熱プレス工程での混合物の反力をより抑制できる。
【0030】
硬質ウレタン樹脂が発泡体である場合、下板30の比重は、0.95~1.35が好ましく、1.00~1.30がより好ましく、1.05~1.20がさらに好ましい。下板30の比重が上記下限値以上であると、下板30の強度をより高められる。下板30の比重が上記上限値以下であると、下板30をより軽量化できる。
下板30の比重は、直方体状の下板30の試験片を用いて、下記式(1)により算出できる。
比重(g/cm3)=W/(h×b×L)・・・(1)
(1)式において、Wは試験片の質量(g)、hは試験片の厚さ(cm)、bは試験片の幅(cm)、Lは試験片の長さ(cm)を表す。
Wは、例えば、秤により測定できる。hは、例えば、キャリパーゲージを用いて、試験片の任意の3カ所の厚さを測定し、その算術平均値を採用できる。b及びLは、例えば、鋼製の巻尺を用いて測定できる。
【0031】
硬質ウレタン樹脂が発泡体である場合、下板30の発泡倍率は、2以下が好ましく、1.8以下がより好ましく、1.59以下がさらに好ましい。発泡倍率の下限値は1である。発泡倍率が上記上限値以下であると、下板30の比重として1以上のものを得ることができる。
発泡倍率は発泡剤の配合量や種類等の組み合わせにより調節できる。
発泡倍率は、下板30の比重をx、非発泡の下板30の比重をyとし、発泡倍率=y/xにより求められる。
ここで、非発泡の下板30は、発泡剤を含まない以外は、下板30と同じ条件で製造できるものである。非発泡の下板30の比重は、下板30を溶融したものからも測定できる。
【0032】
下板30中のガラス繊維の含有量は、下板30の総体積に対して、15~35体積%が好ましく、20~30体積%がより好ましい。ガラス繊維の含有量が上記下限値以上であれば、下板30の強度をより高められる。
下板30の繊維体積含有率は、下記式(2)により算出できる。
繊維体積含有率(体積%)=(単位体積あたりの繊維体積(cm3/cm3)/単位体積あたりの下板30の体積(cm3/cm3))×100・・・(2)
なお、下板30からのガラス繊維の抽出は、例えば、下板30に対し、500℃、1時間程度の加熱処理を施し、炉内にて硬質ウレタン樹脂を除去することによって行える。
【0033】
下板30の空隙率は0~40%が好ましく、0~30%がより好ましい。下板30の空隙率が上記上限値以下であると、下板30の強度をより高められる。
下板30の空隙率は、下記式(3)により算出できる。
空隙率(%)={(発泡後の下板の体積(cm3)-発泡前の下板の体積(cm3))/下板の体積(cm3)}×100・・・(3)
【0034】
下板30の圧縮強度は、15N/mm2以上が好ましく、20N/mm2以上がより好ましく、25N/mm2以上がさらに好ましい。圧縮強度が上記下限値以上であると、下板30の厚さ方向の載荷に対する破損をより抑制できる。圧縮強度の上限値は特に限定されないが、例えば、100N/mm2以下が好ましい。
下板30の圧縮強度は、JIS K7018:1999を参考にした手法にて測定できる。
【0035】
下板30の曲げ強度は、15N/mm2以上が好ましく、20N/mm2以上がより好ましく、25N/mm2以上がさらに好ましい。曲げ強度が上記下限値以上であると、下板30の破損をより抑制できる。曲げ強度の上限値は特に限定されないが、例えば、100N/mm2以下が好ましい。
下板30の曲げ強度は、JIS K7017:1999に準じて測定できる。
下板30の製造方法は、硬質ウレタン樹脂組成物とガラス繊維とを含む混合物を調製する工程と、混合物を加熱プレスして混合物中の硬質ウレタン樹脂組成物を硬化させる工程とを有する。
ガラス繊維は、第一のガラス繊維と硬質ウレタン樹脂とを含む第一の複合材料、及び、第二のガラス繊維と硬質ウレタン樹脂とを含む第二の複合材料の双方もしくは一方として配合されてもよい。第一の複合材料は、ガラス繊維長の長い繊維強化複合材料の廃棄物であり、いわゆる切削屑に相当する。第二の複合材料は、ガラス繊維長の短い繊維強化複合材料の廃棄物であり、いわゆる切粉に相当する。
【0036】
下板30は、例えば、以下の方法により製造できる。
(i)ガラス繊維強化ウレタン樹脂発泡体を使った加工品(例えば、長尺枕木)の加工工程で発生する廃棄物をガラス繊維長により分類する(分級工程)。
(ii)分級工程によって得られた第一の複合材料と第二の複合材料とを計量する(計量工程)。
(iii)第一の複合材料と第二の複合材料と硬質ウレタン樹脂組成物とを混合して混合物を得る(混合工程)。
(iv)金型等の型枠に混合工程で得られた混合物を展開する(展開工程)。
(v)展開した混合物を敷き均す(均し工程)。
(vi)敷き均した混合物を加熱プレスして混合物中の硬質ウレタン樹脂組成物を硬化させる(加熱プレス工程)。
(vii)加熱プレス工程で得られた成形体を金型から脱型する(脱型工程)。
(viii)脱型した成形体からバリ等を取り仕上げ、下板30を得る(仕上げ工程)。
【0037】
<ヘッド部材>
ヘッド部材10は、ガラス繊維束を含むレジンコンクリート組成物の硬化物である。
レジンコンクリート組成物としては、例えば、レジンモルタルとガラス繊維束と骨材との混合物を例示できる。
【0038】
レジンモルタルは、ヘッド部材10を構成する樹脂である。
レジンモルタルとしては、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂を例示できる。
【0039】
ガラス繊維束は、任意の長さの短繊維を束ねた繊維束でもよいし、短繊維を束ね、これを任意の長さに切断したチョップドストランドでもよい。成形性の観点から、ガラス繊維束としては、チョップドストランドが好ましい。
ガラス繊維束の長さは、例えば、7mm以上が好ましく、7~50mmがより好ましく、7~20mmがさらに好ましい。ガラス繊維束の長さが上記下限値以上であれば、ヘッド部材10の引張強度をより高められる。ガラス繊維束の長さが上記上限値以下であれば、レジンコンクリート組成物中にガラス繊維束をより均一に分散して、ヘッド部材10が脆くなるのをより抑制できる。
ガラス繊維束のフィラメント径は、例えば、10~30μmが好ましく、10~20μmがより好ましい。フィラメント径が上記下限値以上であれば、ヘッド部材10の引張強度をより高められる。フィラメント径が上記上限値以下であれば、含浸成形性に優れた軽量なヘッド部材が得られる。
【0040】
レジンコンクリート組成物中のガラス繊維束の含有量は、レジンコンクリート組成物の総質量(即ち、ヘッド部材10の総質量)に対して、2質量%以上が好ましく、2~20質量%がより好ましく、2~10質量%がさらに好ましい。ガラス繊維束の含有量が上記下限値以上であれば、ヘッド部材10の引張強度をより高められる。ガラス繊維束の含有量が上記上限値以下であれば、含浸成形性に優れた軽量なヘッド部材が得られる。
【0041】
骨材としては、珪砂、砂利、砕石、玉石、高炉スラグ骨材又は人工軽量骨材等の従来レジンコンクリート組成物に配合されてきた骨材を例示できる。骨材の平均粒子径は、例えば、0.1~10mmである。
レジンコンクリート組成物中の骨材の含有量は、レジンモルタル100質量部に対して、例えば、60~90質量部が好ましい。
【0042】
レジンコンクリート組成物は、炭酸カルシウム等の充填剤、硬化剤、硬化促進剤等の添加剤を含有してもよい。
【0043】
ヘッド部材10は、例えば、以下の方法により製造できる。
レジンモルタルと、ガラス繊維束と、骨材と、必要に応じて添加剤と、を混合して、レジンコンクリート組成物を調製する。
ヘッド部材10の形状に応じた型枠内に、レジンコンクリート組成物を充填する(充填工程)。充填工程においては、型枠に適宜振動を加えることで、レジンコンクリート組成物を型枠内に行き渡らせられる。充填工程において、下板30上に型枠を設置し、この型枠内にレジンコンクリート組成物を充填してもよい。充填工程において下板30を用いる場合、下板30におけるヘッド部材10との接触面に、レジンモルタルに使用する不飽和ポリエステル樹脂を塗布しておくことが好ましい。下板30に不飽和ポリエステル樹脂を塗布しておくことで、下板30とヘッド部材10とを強固に一体化できる。または、不飽和ポリエステル樹脂が硬化したヘッド部材10と前記下板30とをエポキシ接着剤等で一体化させることも可能である。
型枠内にレジンコンクリート組成物を充填した後、型枠の上面に平板等の蓋を被せる。
型枠内のレジンコンクリート組成物が硬化した後、型枠を外す(脱型工程)。脱型工程においては、型枠を下板30から離れる方向に引き離すことで、下板30とヘッド部材10とを、一体化物として得る。
適宜、ヘッド部材10に着色を施してもよい。
【0044】
ヘッド部材10を成形する型枠としては、例えば、木製の型枠、ウレタン複合体の型枠等を例示できる。
【0045】
レジンコンクリート組成物を硬化する温度は、特に限定されず、例えば、5~40℃である。
レジンコンクリート組成物を硬化する時間は、特に限定されず、硬化する温度等を勘案して適宜決定できる。
【0046】
<上板>
上板20は、樹脂中にガラス繊維が混在した複合繊維である。
樹脂としては、硬質ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を例示できる。
ガラス繊維としては、単繊維、繊維束のいずれでもよい。繊維束は、単繊維を束ねたものでもよい。ガラス繊維は、長繊維でもよいし、短繊維でもよいが、上板20は、ヘッド部材10の内空部15のW15をスパンとした曲げに対抗する必要があるため、曲げ強度を確保するため長繊維が好ましい。加えて、ガラス繊維は、各々の繊維長方向が揃っていてもよいし、揃っていなくてもよい。
【0047】
上板20は、例えば、以下の方法により製造できる。
上板20がウレタン複合体である場合、上板20は、下板30と同様の方法で製造できる。
上板20がレジンコンクリート組成物の硬化物である場合、上板20は、ヘッド部材10と同様に、レジンコンクリート組成物を型枠に充填し、硬化することで製造できる。
適宜、上板20に着色を施してもよい。
【0048】
ナット50は、従来公知のものである。ナット50としては、鋼、ステンレス等の金属製のナットを例示できる。
アンカー材52は、従来公知のものである。アンカー材52は、例えば、鋼、ステンレス等の金属製の棒状物を例示できる。
カバー54としては、例えば、樹脂製の成形物を例示できる。
アンカープレート56としては、例えば、ステンレス等の金属製の平板を例示できる。
【0049】
(施工方法)
受圧構造体1の施工方法について、以下に説明する。
図3に示すように、地盤Gに挿入孔60を形成する。挿入孔60は、地盤Gの表面G1に対して、垂直である。挿入孔60は、地盤Gの安定地盤に達している。
挿入孔60に、セメントミルク等のグラウト材を注入する。次いで、アンカー材52を挿入孔60に挿入する。この際、アンカー材52の後端を地盤Gから突出させる。グラウト材を硬化し、アンカー材52の先端を地盤Gに固定する。
【0050】
表面G1上に、表面G1から順に、下板30と、ヘッド部材10と、上板20とを積層し、本体部2とする。この際、地盤Gから突出したアンカー材52が、下板貫通孔32、内空部15及び上板貫通孔22を貫通するように、本体部2を形成する。
下板30とヘッド部材10と上板20とを積層する際には、下板30とヘッド部材10との境界、及び、ヘッド部材10と上板20との境界のいずれか一方もしくは双方に、接着樹脂を介在させてもよく、少なくともヘッド部材10と下板30との境界に接着樹脂を介在させることが好ましい。部材間に接着樹脂を介在させることで、本体部2の強度をより高められる。
【0051】
次いで、上板20の上面にアンカープレート56を位置させ、ナット50をアンカー材52の後端から締め付ける。ナット50を締め付け、ナット50をアンカープレート56に押し付けると、アンカー材52には、地盤Gから離れる方向の力が加わる。アンカー材52に地盤Gから離れる方向の力が加わると、本体部2は、地盤Gの表面G1を押圧するように作用する。これにより、表面G1を下板30で抑え、表面G1を補強できる。
【0052】
なお、上述においては、表面G1に対して、アンカー材52を垂直に挿入する例を説明したが、本発明はこれに限定されない。
図4に示すように、表面G1に対して角度θの挿入孔60aにアンカー材52を挿入してもよい。この場合、上板20とアンカープレート56との間に、調整部材58を介在させる。調整部材58は、上板20に対して、アンカープレート56を傾斜させる部材である。調整部材58は、例えば、ウレタン複合体、レジンコンクリート組成物の硬化物の楔等である。
角度θは、例えば、5~20°とされる。角度θは、内空部15の長さW15を変えることで調節できる。
【0053】
(作用効果)
本実施形態の受圧構造体によれば、本体部並びにこの上下に位置する上板及び下板が、ガラス繊維を含む複合体である。このため、受圧構造体は、優れた強度を発揮する。
加えて、本実施形態の受圧構造体においては、ヘッド部材をレジンコンクリート組成物の硬化物としている。このため、本実施形態の本体部は、従来の受圧板のように構成材を積層して、強度を調整する必要がない。加えて、本実施形態のヘッド部材は、レジンコンクリート組成物を型枠内で硬化するという簡便な操作で、所望する強度及び形状のヘッド部材を得られる。
さらに、本実施形態のヘッド部材は、上面から下面に向かうに従い広がる一体物である。このため、構成材を積層した従来の受圧板に比べて、減容しても優れた強度を有しつつ、下板に対して地盤の表面を押圧する力を均一に伝達できる。
【0054】
(その他の実施形態)
上述の実施形態の本体部は、平面視において芯部から放射状に脚部が外方に伸びているが、本発明はこれに限定されない。本体部は、上面から下面に向かうに従い広がる円錐台、角錘台でもよい。また、本体部は、中実でもよいし、内部に内空部を有してもよい。但し、本体部のさらなる軽量化を図る観点からは、芯部と芯部から放射状に伸びる脚部とを有するか、内空部を有する円錐台又は角錘台が好ましい。さらに、下板に対して、押圧力をより均一に与える観点からは、ヘッド部は芯部と芯部から放射状に伸びる脚部とを有することが好ましい。
【0055】
上述の実施形態では、本体部は8つの脚部を有するが、脚部の数は、これに限定されず、7つ以下でもよいし、9つ以上でもよい。ただし、下板に対して均等に押圧力を伝える観点から、脚部は4~12が好ましく、6~10がより好ましい。
【0056】
上述の実施形態では、芯部は角筒状である。しかしながら、本発明はこれに限定されず、芯部は円筒状でもよい。
【0057】
なお、本発明は、グラウンドアンカー工、ロックボルト工等のあらゆるアンカー工に適用可能である。
【実施例0058】
以下に、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】
(実験例1)
不飽和ポリエステル樹脂10~30量部と、チョップドストランド(長さ7mm、フィラメント径10~20μm)2~5質量部と、骨材と、を混合して、レジンコンクリート組成物が得られる。
得られたレジンコンクリートを型枠に充填し、硬化して、
図2と同様の、ヘッド部材10と下板30との一体成形物(W15=450mm、W10=1600mm、H10=300mm、W30=2000mm、T30=30mm)が得られる。なお、レジンコンクリート組成物の硬化物の弾性率は2500MPaであり、下板の弾性率6500MPaであった。
得られる一体成形物の形状について、レジンコンクリート組成物の硬化物の曲げ弾性率を2500MPa、下板の曲げ弾性率を6500MPaと仮定し、汎用のFEM解析ソフト(Abaqus)を用いて、各部の発生応力等を確認し、その結果を表1に示す。
【0060】
【0061】
表1に示すように、本発明を適用した実験例1は、ヘッド部材、下板及び境界において、発生応力が素材強度を下回っていた。即ち、実験例1は、受圧構造体の部材として十分な強度を有しているといえる。
【0062】
(実験例2-1)
第一のガラス繊維32.3質量部、第二のガラス繊維32.3質量部、ポリオール、ジフェニルメタンジイソシアネート、顔料及び触媒を混合し、硬質ウレタン樹脂組成物を得た。この混合物を金型に充填し、熱温度80℃、プレス圧力3MPaで加熱プレスして、幅610mm×長さ2100mm×厚さ31.6mmの平板を得た。
得られた平板は、体積38502cm3、質量42.6kg、比重1.11、圧縮強度25.0N/mm2、曲げ強度30.0N/mm2であった。
【0063】
(実験例2―2)
金型への混合物の充填量を変えた以外は、実験例2-1と同様にして、幅610mm×長さ2100mm×厚さ31.1mmの平板を得た。
得られた平板は、体積37978cm3、質量38.2kg、比重1.01、圧縮強度19.3N/mm2、曲げ強度23.7N/mm2であった。
【0064】
(実験例3-1~3-4)
表2に示す組成に従い、チョップドストランド(長さ7mm)、樹脂(不飽和ポリエステル樹脂)及び骨材とを混合して、レジンコンクリート組成物を調製した。なお、骨材の配合量は、チョップドストランドと、樹脂と、骨材との合計が100質量%となる量である。
レジンコンクリート組成物を型枠に充填し、幅30mm×長さ170mm×厚さ30mmの平板を得た。各例の平板について、外観を評価し、かつ曲げ強度を測定(各例につき2回)し、それらの結果を表中に示す。
【0065】
<外観>
各例の平板について、下記基準に従って評価した。
〇:断面内に巣穴がほとんどなく、ガラス未含浸部が確認されない。
△:断面内に巣穴があり、ガラス未含浸部が確認される。
×:成形が困難である。
【0066】
【0067】
表2に示すように、実験例3-1、3-2は、外観の評価が「〇」で、曲げ強度が29.1~38.7MPaであった。
実験例3-3、3-4は、外観の評価が「△」で、曲げ強度が10.5~20.8MPaであった。
【0068】
(実験例4-1)
実験例2-1の平板と、実験例3-1の平板とをエポキシ樹脂(接着樹脂)で接合して、一体化物とした。得られた一体化物について、両平板の境界(接合部)のせん断強度を測定した(2回)。その結果を表3に示す。
なお、せん断強度は、JIS K 6852 を参考にした手法で測定した。
【0069】
(実験例4-2)
エポキシ樹脂と実験例3-1の樹脂(不飽和ポリエステル樹脂)とした以外は、実験例4-1と同様にして、一体化物を得た。得られた一体化物について、両平板の境界(接合部)のせん断強度を測定した(2回)。その結果を表3に示す。
【0070】
【0071】
表3に示すように、平板同士を接着樹脂で一体化することで、せん断強度を13.0MPa以上にできた。