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特開2023-53773ポリマー材料基材の表面処理方法及びポリマー材料の製造方法
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  • 特開-ポリマー材料基材の表面処理方法及びポリマー材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023053773
(43)【公開日】2023-04-13
(54)【発明の名称】ポリマー材料基材の表面処理方法及びポリマー材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/18 20060101AFI20230406BHJP
   C08F 255/00 20060101ALI20230406BHJP
   C08F 259/00 20060101ALI20230406BHJP
   C08F 265/04 20060101ALI20230406BHJP
   C08F 285/00 20060101ALI20230406BHJP
   C08F 283/00 20060101ALI20230406BHJP
【FI】
C08J7/18 CER
C08J7/18 CEZ
C08F255/00
C08F259/00
C08F265/04
C08F285/00
C08F283/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021163010
(22)【出願日】2021-10-01
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】中村 挙子
(72)【発明者】
【氏名】土屋 哲男
【テーマコード(参考)】
4F073
4J026
【Fターム(参考)】
4F073AA02
4F073BA04
4F073BA07
4F073BA13
4F073BA18
4F073BA26
4F073BA29
4F073BA31
4F073BB01
4F073CA45
4F073FA02
4F073HA11
4F073HA12
4J026AA12
4J026AA13
4J026AA25
4J026AA45
4J026AA49
4J026AB17
4J026AB31
4J026AC11
4J026AC12
4J026AC16
4J026AC19
4J026BA01
4J026BB01
4J026DB09
4J026DB36
4J026EA02
4J026FA08
4J026GA02
(57)【要約】
【課題】バインダーに相当する化学構造を導入することなく、様々な表面化学構造のポリマー材料基材に対して、高い撥水性を発現させることができる、ポリマー材料基材の表面処理方法、及び、ポリマー材料の製造方法を提供する。
【解決手段】紫外線の照射下、ポリマー材料基材(ただし、布帛基材を除く。)の表面に、下記一般式(1)で表されるビニル化合物を反応させることにより、前記ポリマー材料基材の表面に撥水性を付与する、ポリマー材料基材の表面処理方法。R-CH=CH(1)(式中、Rは炭素数6以上のアルキル基を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー材料基材(ただし、布帛基材を除く。)の表面に、下記一般式(1)で表されるビニル化合物を接触させ、紫外線を照射することにより、前記ポリマー材料基材の表面に撥水性を付与する、ポリマー材料基材の表面処理方法。
R-CH=CH (1)
(式中、Rは炭素数6以上のアルキル基を示す。)
【請求項2】
前記Rが、炭素数6~20のアルキル基である、請求項1に記載のポリマー材料基材の表面処理方法。
【請求項3】
前記紫外線の波長が150~400nmである、請求項1又は2に記載のポリマー材料基材の表面処理方法。
【請求項4】
前記ポリマー材料基材の表面への到達照度が0.1~100mW/cmとなるよう紫外線を照射する、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマー材料基材の表面処理方法。
【請求項5】
ポリマー材料基材(ただし、布帛基材を除く。)の表面に、下記一般式(1)で表されるビニル化合物を接触させ、紫外線を照射する工程を含む、ポリマー材料の製造方法。
R-CH=CH (1)
(式中、Rは炭素数6以上のアルキル基を示す。)
【請求項6】
前記Rが、炭素数6~20のアルキル基である、請求項5に記載のポリマー材料の製造方法。
【請求項7】
前記紫外線の波長が150~400nmである、請求項5又は6に記載のポリマー材料の製造方法。
【請求項8】
前記ポリマー材料基材の表面への到達照度が0.1~100mW/cmとなるよう紫外線を照射する、請求項5~7のいずれか1項に記載のポリマー材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー材料基材の表面処理方法及びポリマー材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー材料基材の表面に撥水性を付与する方法として、ポリマー材料基材の表面上へフッ素含有化合物を各種方法でコーティングする方法が知られている。発明者らも、撥水性を発現する表面処理法として、フッ素含有化合物の存在下で、紫外線を照射する表面処理方法を見いだしている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、これらのフッ素含有化合物を使用する方法は、フッ素加工剤に関する国際規制のため、環境に配慮して非フッ素系加工剤などを使用したフッ素フリーの改質処理への転換が求められている。
【0004】
また、すでに開発されている非フッ素系加工剤などを使用したフッ素フリーの撥水処理方法としては、アルコキシドイオンの求核反応を利用した有機化学的方法(非特許文献1)、アルキルボランを使用した表面改質方法(特許文献2)、光表面改質を用いた方法(特許文献3及び4)、シランカップリング反応を利用した方法(特許文献5)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6011852号公報
【特許文献2】特表2019-518119号公報
【特許文献3】特表2019-532008号公報
【特許文献4】特開2019-099786号公報
【特許文献5】特開2020-029468号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. H. Lee,S. H. Park, S. H. Kim, Polymers, 12, 178 (2020)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらのフッ素フリーの撥水処理方法においては、アルコキシドイオン生成のために必要な薬剤処理により副反応が起きる可能性が高いこと(非特許文献1)、一般的に反応性が高く制御の難しいアルキルボランを使用すること(特許文献2)、処理薬剤との反応のために基材表面化学構造が水酸基などに限定されること(特許文献3及び5)、基材及び処理薬剤双方の化学構造を精密に制御する必要があること(特許文献4)など、バインダーに相当する化学構造を導入することなく撥水処理することや、ポリマー材料基材の表面化学構造を限定することなく撥水処理することは困難であった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、バインダーに相当する化学構造を導入することなく、様々な表面化学構造のポリマー材料基材に対して、高い撥水性を発現させることができる、ポリマー材料基材の表面処理方法、及び、ポリマー材料の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、様々な表面化学構造のポリマー材料基材の表面に対し、ビニル基を有する炭化水素系薬剤を、紫外線を照射することにより、アルキル基を化学結合させることができ、高い撥水性を発現させることができることを見いだし、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の技術を提供するものである。
【0010】
[1] ポリマー材料基材(ただし、布帛基材を除く。)の表面に、下記一般式(1)で表されるビニル化合物を接触させ、紫外線を照射することにより、前記ポリマー材料基材の表面に撥水性を付与する、ポリマー材料基材の表面処理方法。
R-CH=CH (1)
(式中、Rは炭素数6以上のアルキル基を示す。)
[2] 前記Rが、炭素数6~20のアルキル基である、[1]に記載のポリマー材料基材の表面処理方法。
[3] 前記紫外線の波長が150~400nmである、[1]又は[2]に記載のポリマー材料基材の表面処理方法。
[4] 前記ポリマー材料基材の表面への到達照度が0.1~100mW/cmとなるよう紫外線を照射する、[1]~[3]のいずれか1項に記載のポリマー材料基材の表面処理方法。
[5] ポリマー材料基材(ただし、布帛基材を除く。)の表面に、下記一般式(1)で表されるビニル化合物を接触させ、紫外線を照射する工程を含む、ポリマー材料の製造方法。
R-CH=CH (1)
(式中、Rは炭素数6以上のアルキル基を示す。)
[6] 前記Rが、炭素数6~20のアルキル基である、[5]に記載のポリマー材料の製造方法。
[7] 前記紫外線の波長が150~400nmである、[5]又は[6]に記載のポリマー材料の製造方法。
[8] 前記ポリマー材料基材の表面への到達照度が0.1~100mW/cmとなるよう紫外線を照射する、[5]~[7]のいずれか1項に記載のポリマー材料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、バインダーに相当する化学構造を導入することなく、様々な表面化学構造のポリマー材料基材に対して、高い撥水性を発現させることができる、ポリマー材料基材の表面処理方法、及び、ポリマー材料の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実験例1の表面処理前のポリマー材料基材、及び、1-オクタデセンを反応させた表面処理後のポリマー材料のXPSスペクトルである。
図2】実験例1の表面処理前のポリマー材料基材、及び、1-オクタデセンを反応させた表面処理後のポリマー材料のC1sスペクトルである。
図3】実験例2の表面処理前のポリマー材料基材、及び、1-オクタデセンを反応させた表面処理後のポリマー材料のXPSスペクトルである。
図4】実験例2の表面処理前のポリマー材料基材、及び、1-オクタデセンを反応させた表面処理後のポリマー材料のC1sスペクトルである。
図5】フィルム状のポリエチレンテレフタレートをポリマー材料基材としたときの、表面処理前のポリマー材料基材、及び、1-オクタデセンを反応させることによる表面アルキル化処理後のポリマー材料の紫外可視光の透過スペクトルである。
図6】フィルム状のポリエチレンテレフタレートをポリマー材料基材としたときの、表面処理前のポリマー材料基材、及び、1-テトラデセンを反応させることによる表面アルキル化処理後のポリマー材料の紫外可視光の透過スペクトルである。
図7】各種ポリマー材料に1-オクタデセン溶液を塗布した後、キセノンエキシマランプを照射して得られる、表面処理が施されたポリマー材料の処理前後のATR法によるFT-IR差スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ポリマー材料基材の表面処理方法>
本発明の一実施形態に係るポリマー材料基材の表面処理方法は、ポリマー材料基材(ただし、布帛基材を除く。)の表面に、下記一般式(1)で表されるビニル化合物を接触させ、紫外線を照射することにより、前記ポリマー材料基材の表面に撥水性を付与する、ポリマー材料基材の表面処理方法である。
R-CH=CH (1)
(式中、Rは炭素数6以上のアルキル基を示す。)
【0014】
本実施形態に係るポリマー材料基材の表面処理方法において、ポリマー材料基材としては、各種汎用性ポリマーおよび機能性ポリマーの基材を使用することができる。ポリマー材料基材の形状としては制限がなく、板状、フィルム状、粉末状、ペレット状等広く使用することができる。ただし、布帛基材を除く。本明細書においては、表面処理前のポリマー材料をポリマー材料基材と云い、表面処理後のものを、ポリマー材料と云うことがある。
【0015】
本実施形態に係るポリマー材料基材の表面処理方法において、前記Rが、炭素数6~20のアルキル基であることが好ましく、炭素数8~20のアルキル基であることがより好ましく、炭素数10~20のアルキル基であることがさらに好ましく、炭素数12~18のアルキル基であることが特に好ましい。前記アルキル基は直鎖状、分岐鎖状、又は環状のいずれでもよく、直鎖状であることが好ましい。前記Rが、炭素数12~18の直鎖状のアルキル基であることがさらに好ましい。
【0016】
本実施形態に係るポリマー材料基材の表面処理方法において、紫外線の光源としては公知のものが用いることができる。その例を挙げると、低圧水銀灯、高圧水銀灯、ArF又はXeClエキシマレーザー、エキシマランプ等である。このように、本発明は、広範囲の波長の光を利用できる。
【0017】
本実施形態に係るポリマー材料基材の表面処理方法において、前記ビニル化合物のビニル基からポリマー材料基材への電子移動によって、アルキル基をポリマー材料基材表面のポリマー材料基材由来の元素と化学結合させるために、紫外線照射を照射する。前記紫外線の波長は150nm~400nmとするのが好ましく、170nm~300nmとするのがより好ましい。
【0018】
反応の高効率化のためには、200nm以下の波長を有する紫外線を照射することが好ましい。
【0019】
本実施形態に係るポリマー材料基材の表面処理方法において、ポリマー材料基材への到達照度が0.1~100mW/cmとなるよう紫外線を照射することが好ましい。また、照射時間は、1分間~6時間程度であってもよく、1分間~30分間程度とするのが好ましい。これらの条件は好ましい範囲であり、必ずしもこれに特に制限されるものではない。
【0020】
本実施形態に係るポリマー材料基材の表面処理方法において、ポリマー材料基材(ただし、布帛基材を除く。)の表面に、一般式(1)で表されるビニル化合物を接触させる方法としては、前記ビニル化合物を液体としてポリマー材料基材に接触させる方法、前記ビニル化合物の溶液をポリマー材料基材へスプレー又は塗布する方法、ビニル化合物の溶液へポリマー材料基材を浸漬させた後に乾燥させる方法、ポリマー材料基材の存在下、前記ビニル化合物を気体として反応容器に導入する方法など、ドライプロセス、ウェットプロセスの双方の工程を利用することができる。
【0021】
本実施形態に係るポリマー材料基材の表面処理方法において、アルキル化反応は室温下で容易に進行する。これは、本発明の大きな特徴の一つでもある。しかし、加熱を否定するものではない。必要に応じて加熱することも可能である。
【0022】
本明細書において、室温とは、外部系から加熱も冷却もしていない温度を云う。室温は、1~30℃であってよく、15~25℃であってよい。
【0023】
本実施形態に係るポリマー材料基材の表面処理方法は、ビニル化合物を接触させたポリマー材料基材に紫外線を照射するだけの安全かつ簡便な反応操作により、基材劣化を起こすことなくポリマー材料表面上にアルキル基が導入され、高い撥水性を発現できるという優れた効果を奏する。
【0024】
本実施形態に係るポリマー材料基材の表面処理方法は、加工の際に加熱処理をする必要がないため、使用エネルギー削減に寄与できる。さらに、従来ポリマー材料基材に撥水性を付与する表面処理として利用されているフッ素やシリコーン含有表面処理剤を使用することなく、架橋剤に相当する化学構造を介することなく、高い撥水性を付与できる。
【0025】
<ポリマー材料の製造方法>
本実施形態に係るポリマー材料の製造方法は、下記一般式(1)で表されるビニル化合物を接触させ、紫外線を照射する工程を含む。
R-CH=CH (1)
(式中、Rは炭素数6以上のアルキル基を示す。)
【0026】
本実施形態に係るポリマー材料の製造方法により、表面に撥水性が付与されたポリマー材料を得ることができる。本実施形態に係るポリマー材料の製造方法の詳細は、上述のポリマー材料基材の表面処理方法と同じである。
【実施例0027】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0028】
(X線光電子分光(XPS)分析)
X線光電子分光(XPS)装置(アルバックファイ製、ESCA5800、データ解析ソフトウェア:PHI MultiPakTM)を用いて、次の測定条件により、表面処理前のポリマー材料基材、及び、表面処理後のポリマー材料の表面を分析した。これにより、表面から深さおよそ5nmまでの元素成分及びその結合状態を分析することができる。
X線源:単色化AlKα、ビーム径800μmφ、出力100W、測定エリア:800μmφ測定、試料傾斜角度:45°
【0029】
XPSスペクトルにおいて、結合エネルギー0~1000eVの範囲の、全元素成分のピーク面積の総和に対する、結合エネルギー280~300eVの範囲の炭素成分のピーク面積の割合を、炭素含有率として求めた。
【0030】
285.0eV付近の炭素-炭素結合のピーク面積(C-C)、286.0eV付近の炭素-窒素結合のピーク面積(C-N,C-O,C-Cl)、及び、288eV付近の炭素-酸素結合のピーク面積(C=O)の合計の面積に対する、285.0eV付近の炭素-炭素結合のピーク面積(C-C)の割合を、炭素-炭素結合含有率として求めた。
【0031】
(水接触角の測定方法)
表面処理前のポリマー材料基材、及び、表面処理後のポリマー材料について、それぞれ、協和界面科学社製接触角計DMo-501を用いて水に対する接触角を測定した。測定温度は、室温であり、水滴量は2μlとした。
【0032】
(透過度の測定方法)
フィルム状の試料について、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製UV-3150)を用いて、200~800nmの波長範囲の透過度を測定した。
【0033】
(ATR法によるFT-IRの測定方法)
表面処理前のポリマー材料基材、及び、表面処理後のポリマー材料について、それぞれ、日本分光株式会社製フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR-680へATRユニット(ATR500M,Geプリズム)を付属させて測定した。測定温度は室温、測定室環境は大気である。装置付属の解析ソフトウェアを用い、共通ピーク(C=Oピークなど)強度を打ち消すように係数を設定し、表面処理後スペクトルから表面処理前スペクトルを差し引いて、FT-IR差スペクトルを求めた。
【0034】
(実験例1)
厚さ1mmの板状の各種ポリマー材料基材(ポリエチレン、ポリプロピレン、PMMA、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリカーボネート、ナイロン6)の表面に、1-オクタデセンの2.3g/Lヘキサン溶液を塗布し、キセノンエキシマランプを室温で20分間照射した。紫外線照射の波長は172nmである。
【0035】
その後、表面処理後のポリマー材料をヘキサンで洗浄し、減圧下で乾燥させた。これらのうち、PMMA、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリカーボネート及びナイロン6をポリマー材料基材としたときの、表面処理前のポリマー材料基材及び表面処理後のポリマー材料のXPS測定を実施した。また、それぞれの表面の水に対する接触角を測定した。
XPS測定の結果を、図1に示す。また、C1sスペクトルを、図2に示す。
炭素含有率の測定結果を表1に示す。
水に対する接触角の測定結果を表2に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
ポリマー材料基材の表面に、1-オクタデセンを反応させることにより、炭素成分の増加が観測され(図1、表1)、導入されたアルキル基由来である炭素-炭素結合成分の増加を確認された(図2)。
また、水に対する接触角が100°以上を示し、撥水性が付与された(表2)。
【0039】
(実験例2)
厚さ50μmのフィルム状の各種ポリマー材料基材(ポリエチレンテレフタレート(東レ株式会社製ルミラー(登録商標) T60)、ポリイミド(東レ・デュポン株式会社製カプトン(登録商標) 200H))の表面に、1-オクタデセンの1.6g/Lヘキサン溶液を塗布し、キセノンエキシマランプを室温で20分間照射した。紫外線照射の波長は172nmである。
【0040】
その後、表面処理後のポリマー材料をヘキサンで洗浄し、減圧下で乾燥させた。これらの表面処理前のポリマー材料基材及び表面処理後のポリマー材料のXPS測定を実施した。また、それぞれの透過度を測定した。
XPS測定の結果を、図3に示す。また、C1sスペクトルを、図4に示す。
ポリエチレンテレフタレートをポリマー材料基材としたときの、表面処理前のポリマー材料基材及び表面アルキル化処理後のポリマー材料の透過度の測定結果を図5に示す。
炭素含有率の測定結果を表3に示す。
水に対する接触角の測定結果を表4に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
ポリマー材料基材の表面に、1-オクタデセンを反応させることにより、炭素成分の増加が観測され(図3、表3)、導入されたアルキル基由来である炭素-炭素結合成分の増加を確認された(図4)。
また、水に対する接触角が100°以上を示し、撥水性が付与された(表4)。
【0044】
さらに、透明性ポリマー材料(ポリエチレンテレフタレート)について、アルキル化表面処理後のポリマー材料の透過度は表面処理前と比較してほぼ変化がなく、1-オクタデセンを反応させても、ポリマー材料基材の透明性を保持することができ、アルキル基導入の基材への影響は少ないことが確認された(図5)。
【0045】
(実験例3)
厚さ50μmのフィルム状のポリマー材料基材(ポリエチレンテレフタレート(東レ株式会社製ルミラー(登録商標) T60)の表面、1-テトラデセンの60g/Lヘキサン溶液を塗布し、キセノンエキシマランプを室温で20分間照射した。紫外線照射の波長は172nmである。
【0046】
その後、表面処理後のポリマー材料をヘキサンで洗浄し、減圧下で乾燥させた。水に対する接触角が100°を示し、撥水性が付与された。
表面処理前のポリマー材料基材及び表面アルキル化処理後のポリマー材料の透過度の測定結果を図6に示す。
アルキル化表面処理後のポリマー材料の透過度は表面処理前と比較してほぼ変化がなく、1-テトラデセンを反応させても、ポリマー材料基材の透明性を保持することができ、アルキル基導入の基材への影響は少ないことが確認された(図6)。
【0047】
図7は、各種ポリマー材料に1-オクタデセン溶液を塗布した後、キセノンエキシマランプを照射して得られる、表面処理が施されたポリマー材料の処理前後のATR法によるFT-IR差スペクトルである。いずれのポリマー材料においても、当該表面処理により、ポリマー材料の表面にアルキル基が導入されたことが確認できた。
【0048】
ポリマー材料基材の表面に、ビニル化合物を接触させ、紫外線を照射することにより、バインダーに相当する化学構造を導入することなく、様々な表面化学構造のポリマー材料基材に対して、基材の劣化を起こすことなく、高い撥水性を発現可能であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のポリマー材料基材の表面処理方法は、末端部に炭素-炭素二重結合を有するビニル化合物に紫外線照射をするだけで、ポリマー材料基材表面上にアルキル基を化学結合させることができる。すなわち、本発明のポリマー材料基材の表面処理方法は、光反応を利用する安全かつ簡便な方法である。従来用いられてきたフッ素含有化合物を使用することなく、バインダーに相当する化学構造を導入することなく、様々な表面化学構造のポリマー材料基材に対して、フッ素系表面処理材料と同程度の高い撥水性を発現することができる。
ポリマー材料基材が、耐熱性、耐薬品性、耐光性に劣る場合であっても、室温下での反応が可能であることから、様々な表面化学構造のポリマー材料基材に対しての適用が可能であり、光照射による基材劣化を起こすことなく、ポリマー材料表面上にアルキル基を導入することができる。
したがって、本発明のポリマー材料基材の表面処理方法は、撥水性が付与された部材、回路基板、環境対応製品、工業製品全般の部材などの製造方法として、利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7