(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055565
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】水素処理装置及び原子力プラント
(51)【国際特許分類】
G21C 9/06 20060101AFI20230411BHJP
G21D 3/08 20060101ALI20230411BHJP
G21D 1/00 20060101ALI20230411BHJP
G21C 15/14 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
G21C9/06
G21D3/08 F
G21D1/00 J
G21C15/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021165055
(22)【出願日】2021-10-06
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹山 大基
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正幸
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 峻史
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰
(72)【発明者】
【氏名】後藤 功一
(72)【発明者】
【氏名】塚田 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】鴻上 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】武田 知弥
(57)【要約】
【課題】反応材の予熱及び放熱を効果的に行って、被処理ガスに含まれる水素を効率的に処理して除去することができること。
【解決手段】水素と接触することで還元反応を示す反応材15が充填されて収容された反応管12内に被処理ガスAを通過させて、この被処理ガスに含まれる水素を処理して除去する水素処理装置であって、反応管を内包する反応容器と、この反応容器に被処理ガスを供給する供給配管と、反応容器に供給されて反応管を通過した処理済みガスBを反応容器外へ排出する排出配管と、を有し、反応管12には、反応材15が充填された充填層30の内外で熱の移動を促進させる熱移動促進体としての伝熱棒31が設けられている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素と接触することで還元反応を示す反応材が充填されて収容された反応管内に被処理ガスを通過させて、この被処理ガスに含まれる水素を処理して除去する水素処理装置であって、
前記反応管を内包する反応容器と、この反応容器に前記被処理ガスを供給する供給配管と、前記反応容器に供給されて前記反応管を通過した処理済みガスを前記反応容器外へ排出する排出配管と、を有し、
前記反応管には、前記反応材が充填された充填層の内外で熱の移動を促進させる熱移動促進体が設けられたことを特徴とする水素処理装置。
【請求項2】
前記熱移動促進体は、反応管内であって、この反応管内を流れる被処理ガスの流れ方向に直交する断面の中央位置に配置されると共に、前記流れ方向に延在する伝熱棒であることを特徴とする請求項1に記載の水素処理装置。
【請求項3】
前記熱移動促進体は、反応管の半径方向へ延びる複数のフィンを備え、前記反応管内を流れる被処理ガスの流れ方向に延在して配置されたフィン構造体であることを特徴とする請求項1に記載の水素処理装置。
【請求項4】
前記熱移動促進体は、反応管の内面間に延び且つ前記反応管内を流れる被処理ガスの流れ方向に延在する複数の仕切板を備え、前記反応管内に配置された仕切板構造体であることを特徴とする請求項1に記載の水素処理装置。
【請求項5】
前記熱移動促進体は、反応管内であって、この反応管内を流れる被処理ガスの流れ方向に直交する断面の中央位置に配置されると共に、前記流れ方向に延在され、内部に熱を移動可能な作動流体が流れる作動流体供給配管であることを特徴とする請求項1に記載の水素処理装置。
【請求項6】
前記熱移動促進体は、反応管内であって、この反応管内を流れる被処理ガスの流れ方向に直交する断面の中央位置に配置されると共に、前記流れ方向に延在され、内部に熱を移動可能な作動媒体が封入されたヒートパイプであることを特徴とする請求項1に記載の水素処理装置。
【請求項7】
前記反応管内に充填された充填層の反応材は、前記反応管内を流れる被処理ガスの流れ方向に対し直交する断面の中央領域の前記反応材が、他の領域の前記反応材よりも直径が大きく設定され、
この直径が大きな前記反応材は、その周囲の空隙を流れる前記被処理ガスの流速を上昇させて熱の移動を促進させる熱移動促進体として構成されたことを特徴とする請求項1に記載の水素処理装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水素処理装置における反応容器が、原子炉格納容器を備えた原子炉建屋内に事前に設置されて構成されたこと特徴とする原子力プラント。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の水素処理装置における反応容器が運搬可能に設けられて、原子炉格納容器を備えた原子炉建屋外から前記原子炉格納容器に接続可能に構成されたこと特徴とする原子力プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、被処理ガスに含まれる水素を除去する水素処理装置、及びこの水素処理装置を備えた原子力プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力プラントでは、炉心を内蔵する原子炉圧力容器を原子炉格納容器に格納している。原子炉格納容器には、原子炉圧力容器を包囲する上部ドライウェル及び下部ドライウェルと、上部ドライウェルとベント管を介して接続され内部に水を貯蔵したサプレッションプールを備えたウェットウェルとが形成されている。
【0003】
上述のような構成の原子炉格納容器において、原子炉事故が発生すると、原子炉格納容器内に水素が発生する場合がある。例えば、原子炉圧力容器に接続された主蒸気管等が万一破断した場合、原子炉格納容器内の上部ドライウェルに高温高圧の原子炉一次冷却材(水)が放出され、上部ドライウェル内の圧力及び温度が急激に上昇する。
【0004】
上部ドライウェルに放出された高温高圧の冷却材は、上部ドライウェル内の気体と混合し、ベント管を通してサプレッションプールにおいて吸収される。原子炉圧力容器内には、非常用炉心冷却系によりサプレッションプールの水が注入されて炉心が冷却される。この冷却水は炉心から崩壊熱を吸収し、破断した配管の破断口から上部ドライウェルへ流出し、この上部ドライウェル内の圧力及び温度は上昇して、ウェットウェルよりも高い圧力及び温度状態となる。
【0005】
軽水炉型原子力発電所の原子炉圧力容器内では、冷却材である水が放射分解され、水素ガスと酸素ガスが発生する。更に、燃料被覆管の温度が上昇する場合には、水蒸気と燃料被覆管材料のジルコニウムとの間で反応(Metal-Water反応)が生じ、短時間で水素ガスが大量に発生する。
【0006】
上述のようにして発生する水素ガスは、破断した配管の破断口から原子炉格納容器内に放出され、原子炉格納容器内の水素ガス濃度が次第に上昇する。また、水素ガスは非凝縮性であるから、原子炉格納容器内の圧力も上昇する。
【0007】
このようにして水素ガスが発生し、原子炉格納容器内の水素濃度が上昇する事態に対して何等有効な対策を採ることができず、水素ガス濃度が4vol%且つ酸素濃度が5vol%以上に上昇した場合、すなわち可燃性ガスとしての水素ガスの濃度が可燃限界を超えた場合に水素は可燃状態となる。更に水素ガス濃度が上昇すると水素爆発が発生する可能性が生じる。
【0008】
可燃性ガスである水素ガスが可燃状態となる等の事態を防止する有効な対策として、例えば、従来の沸騰水型原子力発電設備の場合には、圧力抑制式の原子炉格納容器内を窒素ガスで置換して酸素濃度を低く維持する対策がある。このような対策を実践可能な装置等を導入することによって、Metal-Water反応により短時間で大量に発生する水素ガスに対しても原子炉格納容器内が可燃性雰囲気になることを防止でき、安全性が達成される。
【0009】
また、他の対策例としては、再結合器およびブロアを有する可燃性ガス濃度抑制装置を原子炉格納容器外に設置する対策がある。この可燃性ガス濃度抑制装置は、原子炉格納容器内の気体を原子炉格納容器外に吸引して昇温させ、気体中の水素ガスと酸素ガスを再結合させて水に戻し、残りの気体を冷却してから原子炉格納容器内へ戻すように動作する装置である。このように動作する可燃性ガス濃度抑制装置を設置することで、原子炉格納容器内の可燃性ガスの濃度上昇が抑制される。
【0010】
更に、上述の対策(装置)とは異なる別の対策例としては、例えば、水素の酸化触媒を用いて再結合反応を促進させる触媒式再結合装置を原子炉格納容器内に複数設置する技術や、活性金属を用いて水素を処理する技術等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2019-203789号公報
【特許文献2】特開2018-112480号公報
【特許文献3】特開2016-8839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
Metal-Water反応によって大量の水素が発生する事象下において、上述の水素と酸素の再結合による従来の水素処理技術では、低酸素状態で水素の除去を行うことが困難である。水素の除去ができない場合には原子炉格納容器内の圧力を低減することができず、事故を収束に導くことが困難になる。この場合、現行システムでは、原子炉格納容器内の雰囲気を環境に放出して原子炉格納容器内の圧力を低減させ、事故を収束させることが計画されているが、同時に放射性廃棄物を環境に放出するリスクを少なからず負うことになる。
【0013】
そこで、酸素濃度が低く再結合を行うのが困難な低酸素状態下においても、水素を含有するガス(以下、「被処理ガス」と称する)から水素を除去する方法として、水素吸蔵合金を利用する技術が提案されている。しかしながら、水素吸蔵合金が吸蔵する水素の重量は、例えば、水素吸蔵合金がTi-Feの場合には合金重量の約1.8%と低く、吸蔵量はその合金重量の数%程度にすぎない。そのため 、水素吸蔵合金を利用する水素除去技術を用いて、原子炉過酷事故発生時のような大量に水素が発生する事態に対処するためには、膨大な量の水素吸蔵合金が必要になり、現実的に適用が困難になるという点で課題がある。
【0014】
また、被処理ガスから水素を除去する別な方法として、水素/酸素反応を促進させる触媒を下段に、水素/窒素反応を促進させる触媒を上段にそれぞれ設置して、水素を除去する方法が提案されている。しかしながら、原子炉過酷事故の発生から数時間の間、原子炉格納容器内は酸素が少ないため、触媒を処理材(水素との反応材)とする水素除去技術は必ずしも十分な効果を発揮し得ない点で課題がある。
【0015】
一方、水素を除去処理する反応材として、例えば、酸化銅(CuO)、過酸化マンガン(MnmOn)、酸化コバルト(ComOn)等のような金属酸化物、または過酸化物イオン(O2
2-)と金属とで構成される金属過酸化物を用い、水素を酸化させて除去する技術が提案されている。この技術では、反応材として金属過酸化物を用いる場合はもちろんのこと、金属酸化物を用いる場合においても、金属酸化物または金属過酸化物に含まれる酸素と水素ガスとが結合して水(H2O)を生成することができるため、外部からの酸素を必要とすることなく水素を除去することができる利点がある。
【0016】
ただし、反応材は、金属酸化物または金属過酸化物の種類によってその性質が異なる。水素との反応熱が大きいため水素と反応すると反応材の温度が高くなる性質や、水素との反応速度が低いため水素処理に時間を要する性質、低温では水素と良好に反応しない性質など様々である。
【0017】
例えば、水素と金属過酸化物の化学反応では、金属過酸化物の種類や被処理ガスの組成(水素濃度や水蒸気濃度)によって、良好に化学反応が発生する温度が異なる。従って、良好に化学反応を起こすためには反応材を適切な温度に昇温する必要がある。つまり、反応材温度が十分に温まっていない場合には水素との化学反応が起こらない、もしくは水素との化学反応が不十分で水素を十分に処理できない恐れがある。一方、反応材が十分に温められれば、水素との化学反応が良好に発生し、効率よく水素を処理することができる。このため、被処理ガスの供給により反応材を温めたり、被処理ガスの供給前に反応材を温めたりしておく等の対策が必要になる。
【0018】
また、水素との化学反応が良好に発生したとしても、この反応は発熱反応であるため、反応材自身や反応材を封入した反応管の温度が上昇してしまう。この反応管の温度上昇は、反応管の構造安全性を低下させる恐れがあるため好ましくない。そのため、供給する被処理ガスの流量を抑制したり、被処理ガスの水素濃度を低減したりする等の反応抑制策が求められる。
【0019】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、反応材の予熱及び放熱を効果的に行って、被処理ガスに含まれる水素を効率的に処理して除去することができる水素処理装置及び原子力プラントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の実施形態における水素処理装置は、水素と接触することで還元反応を示す反応材が充填されて収容された反応管内に被処理ガスを通過させて、この被処理ガスに含まれる水素を処理して除去する水素処理装置であって、前記反応管を内包する反応容器と、この反応容器に前記被処理ガスを供給する供給配管と、前記反応容器に供給されて前記反応管を通過した処理済みガスを前記反応容器外へ排出する排出配管と、を有し、前記反応管には、前記反応材が充填された充填層の内外で熱の移動を促進させる熱移動促進体が設けられたことを特徴とするものである。
【0021】
本発明の実施形態における原子力プラントは、前記発明の実施形態に記載の水素処理装置における反応容器が、原子炉格納容器を備えた原子炉建屋内に事前に設置されて構成されたこと特徴とするものである。
【0022】
また、本発明の実施形態における原子力プラントは、前記発明の実施形態に記載の水素処理装置における反応容器が運搬可能に設けられて、原子炉格納容器を備えた原子炉建屋外から前記原子炉格納容器に接続可能に構成されたこと特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の実施形態によれば、反応材の予熱及び放熱を効果的に行って、被処理ガスに含まれる水素を効率的に処理して除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態に係る水素処理装置(据置き型)が適用された原子力プラントの原子炉建屋等を示す縦断面図。
【
図2】第1実施形態に係る水素処理装置(可搬型)が適用された原子力プラントの原子炉建屋等を示す縦断面図。
【
図4】
図3における反応容器を、一部を切り欠いて示す斜視図。
【
図5】
図4における反応管を示し、(A)が縦断面図、(B)が
図5(A)のV-V線に沿う断面図。
【
図6】第2実施形態に係る水素処理装置における反応管の一例を示し、(A)が縦断面図、(B)が
図6(A)のVI-VI線に沿う断面図。
【
図7】
図6の反応管の他の例を示し、(A)が縦断面図、(B)が
図7(A)のVII-VII線に沿う断面図。
【
図8】第3実施形態に係る水素処理装置における反応管を示し、(A)が縦断面図、(B)が
図8(A)のVIII-VIII線に沿う断面図。
【
図9】第4実施形態に係る水素処理装置における反応管を示し、(A)が縦断面図、(B)が
図9(A)のIX-IX線に沿う断面図。
【
図10】第5実施形態に係る水素処理装置における反応管を示し、(A)が縦断面図、(B)が
図10(A)のX-X線に沿う断面図。
【
図11】第6実施形態に係る水素処理装置における反応管を示し、(A)が縦断面図、(B)が
図11(A)のXI-XI線に沿う断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(
図1~
図5)
図1は、第1実施形態に係る水素処理装置(据置き型)が適用された原子力プラントの原子炉建屋等を示す縦断面図である。また、
図2は、第1実施形態に係る水素処理装置(可搬型)が適用された原子力プラントの原子炉建屋等を示す縦断面図である。更に、
図3は、
図1及び
図2に示す水素処理装置を示す系統図である。このうちの
図3に示す水素処理装置10は、
図1の原子力プラントにおける原子炉建屋100に備えられた原子炉格納容器101、
図2の原子力プラントにおける原子炉建屋200に備えられた原子炉格納容器201のそれぞれの雰囲気から水素を除去するものである。
【0026】
水素処理装置10は、
図1では、反応容器11(後述)が原子炉建屋100に事前に設置されて原子炉格納容器101に常時接続された据置き型であり、
図2では、反応容器11がトラック等により運搬可能に設けられて、原子炉建屋200の外側から原子炉格納容器201に接続可能に構成された可搬型である。
【0027】
ここで、
図1に示す原子炉格納容器101は、炉心103を内蔵する原子炉圧力容器102を収納する。更に、原子炉格納容器101は、原子炉圧力容器102を包囲する上部ドライウェル104、下部ドライウェル105及びウェットウェル106を備える。ウェットウェル106には、サプレッションプール水を蓄えるサプレッションプール107が形成され、このサプレッションプール107が、ベント管108を介して上部ドライウェル104に連通している。また、原子炉圧力容器102の外側面は、生体遮蔽壁109により包囲されている。更に、原子炉圧力容器102には、図示しない主蒸気管が接続されている。なお、
図1中の符号110は、原子炉建屋に設けられた燃料プールを示す。
【0028】
図2に示す原子炉格納容器201は、炉心203を内蔵する原子炉圧力容器202を格納する。この原子炉圧力容器202は、ペデスタル204により支持されて設置される。原子炉格納容器201には、原子炉圧力容器202を包囲するドライウェル205が形成されている。このドライウェル205は、ベント管206を介して、サプレッションプール水を蓄えたサプレッションプール207に連通している。更に、原子炉圧力容器202には、図示しない主蒸気管が接続されている。なお、符号208は、原子炉建屋200に設けられた燃料プールを示す。
【0029】
上述の原子力プラントにおいて原子炉過酷事故が発生し、原子炉格納容器101、201内に大量の水素が発生した際に、この原子炉格納容器101、201内の水素を水素処理装置10が除去する。この水素処理装置10は、
図3及び
図4に示すように、複数本の反応管12を内包する反応容器11と、この反応容器11に被処理ガスAを供給する供給配管13と、反応容器11に供給されて反応管12を通過した処理済みガスBを反応容器11外へ排出する排出配管14と、を有して構成されている。
【0030】
反応容器11内の反応管12内には、水素と接触することで還元反応を示す反応材15(
図5)が充填されて収容される。被処理ガスAが反応管12内を通過して反応材15に接触することで、被処理ガスAに含まれる水素が除去される。また、
図3に示す反応容器11は、供給配管13及び排出配管14を介して原子炉格納容器101、201に接続される。このうちの供給配管13には、原子炉格納容器101、201内の被処理ガスAを反応容器11に導くと共に処理済みガスBを反応容器11から原子炉格納容器101、201へ送出するブロア16と、被処理ガスAを反応容器11内へ導く際にその温度を調整する加熱ヒータ17とが設けられている。
【0031】
更に、供給配管13には、ブロア16の上流側に供給側接続バルブ18が、ブロア16と加熱ヒータ17との間に流量調整バルブ19がそれぞれ配設されている。また、排出配管14には、処理済みガスBの流れ方向に沿って冷却器20、排出側接続バルブ21がそれぞれ配設されている。このうちの冷却器20は、反応容器11内の反応材15の反応熱により温度上昇した処理済みガスBを原子炉格納容器101、201へ戻すために冷却する。
【0032】
上述の排出配管14と供給配管13は、循環ラインバルブ23を備えた循環ライン22により接続されている。この循環ライン22は、一端が、冷却器20と排出側接続バルブ21間の排出配管14に接続され、他端が、供給側接続バルブ18とブロア16間の供給配管13に接続される。排出配管14における冷却器20の下流側に配設された水素濃度センサ24により検出された水素濃度検出値が所定値を超えている場合に、供給側接続バルブ18及び排出側接続バルブ21が閉弁し、循環ラインバルブ23が開弁する。これにより、循環ライン22は、排出配管14内の処理済みガスBを供給配管13に流して循環させ、反応容器11に再び供給することで、処理済みガスB中の水素を再度処理して除去する。
【0033】
あるいは、供給配管13におけるブロア16の上流側に配設された温度センサ25により検出された供給配管13内の被処理ガスAの温度が所定温度よりも低い場合にも、供給側接続バルブ18及び排出側接続バルブ21が閉弁し、循環ラインバルブ23が開弁する。これにより、被処理ガスA及び処理済みガスBが循環ライン22により循環することで、被処理ガスAは、加熱ヒータ17及び反応容器11内の反応材15の反応熱により加熱されて、反応材15による水素処理が適切になされる。
【0034】
図4に示すように、反応容器11では、容器本体26内に支持板27を用いて複数本の反応管12が支持される。それぞれの反応管12は、独立した1本の流路を構成し、反応材15を通気可能に収容する。また、
図5に示すように、反応管12は、管状の反応管本体28の両端部(供給配管13側及び排出配管14側)に、金網またはパンチングメタル等からなる蓋体29が取り付けられ、内部に反応材15が充填されて収容される。この反応管12のそれぞれは、例えば下面を流入口とし、上面を流出口として、前述の如く1本の流路を構成する。
【0035】
反応材15としては、例えば酸化マグネシウム、過酸化マンガン(MnmOn)、酸化コバルト(ComOn)、酸化銅(CuO)等の金属酸化物または金属過酸化物の粉体が固められたものが用いられる。金属酸化物としては、複数の酸化数を取り得る金属酸化物のうち高次の酸化数をもつものが好ましい。
【0036】
また、金属過酸化物としては、一般的には、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、モリブテン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、カドミウム(Cd)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、ニオブ(Nb)等から選択される金属の過酸化物が好ましい。
【0037】
金属酸化物または金属過酸化物が反応材15として用いられることで、この反応材15の還元反応により、被処理ガスAに含まれる水素を酸化させて水素を除去する。この水素除去技術は、金属酸化物または金属過酸化物自体に含まれる酸素を利用するため、外部からの酸素を必要とすることなく被処理ガスAから水素を除去することができる利点がある。反応材15として金属酸化物または金属過酸化物を用いると、金属酸化物または金属過酸化物に含まれる酸素と水素とが結合して水(H2O)が生成される。
【0038】
上述のような反応管12内での反応材15による水素との反応は、制御因子によって活性化されたり抑制化されたりする。特に、反応材15が水素との化学反応を発生するためには、反応材15が一定以上の温度に温められている必要がある。また、反応材15と被処理ガスA中の水素との化学反応が発熱反応であるため、反応材15の少なくとも一部が水素との化学反応を開始すれば、その際の反応熱によって周囲の反応材15が温められて、反応管12全体の反応材15に水素との化学反応が波及することになる。
【0039】
更に、上述の反応管12には、反応材15が充填された充填層30の内外で熱の移動を促進させる熱移動促進体としての伝熱棒31が配置されている。この伝熱棒31は、反応管12内であって、この反応管12内を流れる被処理ガスAの流れ方向に直交する断面の中央位置に配置されると共に、被処理ガスAの流れ方向に沿って延在して設けられる。この伝熱棒31は、反応材15よりも優れた熱伝導率を有する金属棒であり、反応管12内の充填層30の反応材15に直接接触する。
【0040】
反応管12内の上記断面中央位置では、被処理ガスAの流速が他の領域の流速よりも速く、また反応材15の反応熱によって温度が他の領域よりも上昇する。従って、この反応管12の上記断面中央位置に伝熱棒31が配置されることで、予熱のための反応材15の昇温時と反応材15の水素との化学反応による発熱時に、反応管12の半径方向及び反応管12内の被処理ガスAの流れ方向に伝熱棒31を介して熱が移動して、反応管12内での温度分布の不均一が抑制される。
【0041】
以上のように構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の効果(1)を奏する。
(1)反応管12には、反応材15が充填された充填層30の内外で熱の移動を促進させる熱移動促進体としての伝熱棒31が設けられている。従って、反応材15の予熱のための昇温時と反応材15の水素との化学反応による発熱時に、伝熱棒31を介して熱が、反応管12の反応材充填層30の半径方向及び被処理ガスAの流れ方向へ移動して、反応管12内での温度分布の不均一を抑制できる。このように、予熱時には反応材15を適切に予熱でき、且つ反応材15の水素との化学反応による発熱時には反応材15の反応熱を外部へ良好に逃すことができるので、反応材15の予熱及び放熱を効果的に行って、被処理ガスAに含まれる水素を効果的に処理して除去することができる。
【0042】
[B]第2実施形態(
図6、
図7)
図6は、第2実施形態に係る水素処理装置40における反応管の一例を示し、(A)が縦断面図、(B)が
図6(A)のVI-VI線に沿う断面図であり、
図7は、
図6の反応管の他の例を示し、(A)が縦断面図、(B)が
図7(A)のVII-VII線に沿う断面図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0043】
本第2実施形態の水素処理装置40が第1実施形態と異なる点は、熱移動促進体が、反応管12内に被処理ガスAの流れ方向に延在して配設されたフィン構造体43、44であり、このフィン構造体43、44が、反応管12の内面12Aへ向かって反応管12の半径方向に延びる複数のフィン41、42を備えた点である。
【0044】
図6に示すフィン41を備えたフィン構造体43は、反応管12内を流れる被処理ガスAの流れ方向に直交する断面の中央位置に配置された金属棒(例えば第1実施形態の伝熱棒31)における長手方向の各位置から、複数本のフィン41が反応管12の半径方向に放射状に延びて構成されている。また、
図7に示すフィン42を備えたフィン構造体44は、複数枚のフィン42が、反応管12の内面12Aの周方向複数位置から、反応管12の上記断面中央位置へ向かって延び、且つ反応管12内の被処理ガスAの流れ方向に延在して構成されている。
【0045】
上述のフィン構造体43及び44は、反応材15よりも優れた熱伝導率を有すると共に、反応管12内を流れる被処理ガスAの流れを阻害しないようにしながら、反応管12内の充填層30の反応材15に直接接触する。これにより、予熱のための反応材15の昇温時と、反応材15の水素との化学反応による発熱時に、反応管12の半径方向及び反応管12内の被処理ガスAの流れ方向に、フィン構造体43、44を介して熱が移動することで、反応管12内での温度分布の不均一が抑制される。
【0046】
この結果、本第2実施形態においても、第1実施形態の効果(1)と同様に、予熱時には反応材15を適切に予熱でき、且つ反応材15の水素との化学反応による発熱時には反応材15の反応熱を外部へ良好に逃すことができるので、反応材15の予熱及び放熱を効果的に行って、被処理ガスAに含まれる水素を効果的に処理して除去することができる。
【0047】
[C]第3実施形態(
図8)
図8は、第3実施形態に係る水素処理装置50における反応管を示し、(A)が縦断面図、(B)が
図8(A)のVIII-VIII線に沿う断面図である。この第3実施形態において第1及び第2実施形態と同様な部分については、第1及び第2実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0048】
本第3実施形態の水素処理装置50が第1実施形態と異なる点は、熱移動促進体が、反応管12内に配置された仕切板構造体52であり、この仕切板構造体52が、反応管12の内面12A間に延び且つ反応管12内を流れる被処理ガスAの流れ方向に延在する複数枚の仕切板51を備えた点である。
【0049】
仕切板51を備えた仕切板構造体52は、反応材15よりも優れた熱伝導率を有すると共に、反応管12内を流れる被処理ガスAの流れを阻害しないようにしながら、反応管12内の充填層30の反応材15に直接接触する。これにより、予熱のための反応材15の昇温時と、反応材15の水素との化学反応による発熱時に、反応管12の半径方向及び反応管12内の被処理ガスAの流れ方向に、仕切板構造体52を介して熱が移動することで、反応管12内での温度分布の不均一が抑制される。
【0050】
この結果、本第3実施形態においても、第1実施形態の効果(1)と同様に、予熱時には反応材15を適切に予熱でき、且つ反応材15の水素との化学反応による発熱時には反応材15の反応熱を外部へ良好に逃すことができるので、反応材15の予熱及び放熱を効果的に行って、被処理ガスAに含まれる水素を効果的に処理して除去することができる。
【0051】
[D]第4実施形態(
図9)
図9は、第4実施形態に係る水素処理装置における反応管を示し、(A)が縦断面図、(B)が
図9(A)のIX-IX線に沿う断面図である。この第4実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0052】
本第4実施形態の水素処理装置60が第1実施形態と異なる点は、熱移動促進体が、熱を移動可能な作動流体61が内部に流れる作動流体供給配管62であり、この作動流体供給配管62が、反応管12内であって、この反応管12内を流れる被処理ガスAの流れ方向に直交する断面の中央位置に配置されると共に、被処理ガスAの流れ方向に延在された点である。
【0053】
作動流体供給配管62は、反応管12内の充填層30の反応材15に直接接触する。また、作動流体供給配管62が反応材15よりも優れた熱伝導率を有する場合には、予熱のための反応材15の昇温時と反応材15の水素との化学反応による発熱時に、反応管12の半径方向及び反応管12内の被処理ガスAの流れ方向に、作動流体供給配管62自体を介して熱が移動する。更に、反応材15よりも高温または低温の作動流体61が作動流体供給配管62内を流れることで、反応管12の半径方向及び反応管12内の被処理ガスAの流れ方向に熱をより効果的に移動させることが可能になる。
【0054】
これらの結果、反応管12内での温度分布の不均一が抑制される。従って、本第4実施形態においても、第1実施形態と同様に、予熱時には反応材15を適切に予熱でき、且つ反応材15の水素との化学反応による発熱時には反応材15の反応熱を外部へ良好に逃すことができるので、反応材15の予熱及び放熱を効果的に行って、被処理ガスAに含まれる水素を効果的に処理して除去することができる。
【0055】
[E]第5実施形態(
図10)
図10は、第5実施形態に係る水素処理装置70における反応管を示し、(A)が縦断面図、(B)が
図10(A)のX-X線に沿う断面図である。この第5実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0056】
本第5実施形態の水素処理装置70が第1実施形態と異なる点は、熱移動促進体が、熱を移動可能な作動媒体71が内部に封入されたヒートポンプ72であり、このヒートポンプ72が、反応管12内であって、この反応管12内を流れる被処理ガスAの流れ方向に直交する断面の中央位置に配置されると共に、被処理ガスAの流れ方向に延在された点である。
【0057】
ヒートポンプ72は、反応管12内の充填層30の反応材15に直接接触する。また、ヒートポンプ72の管体が反応材15よりも優れた熱伝導率を有する場合には、予熱のための反応材15の昇温時と反応材15の水素との化学反応による発熱時に、反応管12の半径方向及び反応管12内の被処理ガスAの流れ方向に、ヒートポンプ72の管体自体を介して熱が移動する。更に、作動媒体71がヒートポンプ72内を液相と気相間で相変化して移動することで、反応管12の半径方向及び反応管12内の被処理ガスAの流れ方向に熱を、より効果的に移動させることが可能になる。
【0058】
これらの結果、反応管12内での温度分布の不均一が抑制される。従って、本第5実施形態においても、第1実施形態の効果(1)と同様に、予熱時には反応材15を適切に予熱でき、且つ反応材15の水素との化学反応による発熱時には反応材15の反応熱を外部へ良好に逃すことができるので、反応材15の予熱及び放熱を効果的に行って、被処理ガスAに含まれる水素を効果的に処理して除去することができる。
【0059】
[F]第6実施形態(
図11)
図11は、第6実施形態に係る水素処理装置80における反応管12を示し、(A)が縦断面図、(B)が
図11(A)のXI-XI線に沿う断面図である。この第6実施形態において第1及び第2実施形態と同様な部分については、第1及び第2実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0060】
本第6実施形態の水素処理装置80が第1実施形態と異なる点は、反応管12に充填された充填層30内の反応材15のうち、反応管12内を流れる被処理ガスAの流れ方向に直交する断面の中央領域に配置された反応材15Aの直径が、他の領域(反応管12の内面12A近傍)に配置された反応材15Bの直径よりも大きく設定され、この直径の大きな反応材15Aが熱移動促進体として構成された点である。
【0061】
上述の直径の大きな反応材15Aは、反応管12の上記断面中央領域に配置された例えば円筒形状の金網(図示せず)内に収容される。この金網の外側に、直径が反応材15Aよりも小さな反応材15Bが収容される。
【0062】
直径の大きな反応材15Aは、反応材15Bに比べてその周囲の空隙率が高い。従って、直径の大きな反応材15Aの周囲の空隙81内を流れる被処理ガスAの流速が、反応材15Bの周囲の空隙内を流れる被処理ガスAの流速よりも上昇して、熱の移動を促進させることが可能になる。更に、直径の大きな反応材15Aは、反応管12内での充填密度が小さくなって水素との化学反応量が減少するので、発熱量が低下する。
【0063】
これらの結果、反応管12内での温度分布の不均一が抑制される。従って、本第6実施形態においても第1実施形態の効果(1)と同様に、予熱時には反応材15を適切に予熱でき、且つ反応材15の水素との化学反応による発熱時には反応材15の反応熱を外部へ良好に逃すことができるので、反応材15の予熱及び放熱を効果的に行って、被処理ガスAに含まれる水素を効果的に処理して除去することができる。
【0064】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
10…水素処理装置、11…反応容器、12…反応管、13…供給配管、14…排出配管、15…反応材、15A…反応材(熱移動促進体)、15B…反応材、30…充填層、31…伝熱棒(熱移動促進体)、40…水素処理装置、41、42…フィン、43、44…フィン構造体(熱移動促進体)、50…水素処理装置、51…仕切板、52…仕切板構造体(熱移動促進体)、60…水素処理装置、61…作動流体、62…作動流体供給配管(熱移動促進体)、70…水素処理装置、71…作動媒体、72…ヒートポンプ(熱移動促進体)、80…水素処理装置、81…空隙、101、201…原子炉格納容器、A…被処理ガス、B…処理済みガス