(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023055942
(43)【公開日】2023-04-18
(54)【発明の名称】多層フィルム、包装材及び包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20230411BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018216
(22)【出願日】2023-02-09
(62)【分割の表示】P 2022570199の分割
【原出願日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2021142123
(32)【優先日】2021-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大木 智子
(72)【発明者】
【氏名】嶺岸 隆行
(57)【要約】
【課題】優れた耐熱性、耐寒衝撃性及び低温シール性を高いレベルでバランスよく達成することが可能な、ポリプロピレン系の多層フィルムを提供すること。
【解決手段】プロピレン単独重合体(A)70~10質量%、及び融点が132~150℃であるプロピレン系樹脂(B)30~90質量%を含有する、ヒートシール層である第一の層と、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)を含有する第二の層と、をこの順に備える多層フィルム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン単独重合体(A)70~10質量%、及び融点が132~150℃であるプロピレン系樹脂(B)30~90質量%を含有する、ヒートシール層である第一の層と、
プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)を含有する第二の層と、をこの順に備える多層フィルム。
【請求項2】
前記第二の層が、前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)90~50質量%及び前記エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)10~50質量%を含有する、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記第一の層の厚さが、前記多層フィルムの厚さを基準として8~30%である、請求項1又は2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記第一の層と、
前記第二の層と、
プロピレン単独重合体(A)及び融点が132~150℃であるプロピレン系樹脂(B)を含有する第三の層と、をこの順に備える、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項5】
前記第一の層及び前記第三の層の総厚が、前記多層フィルムの厚さを基準として16~42%である、請求項4に記載の多層フィルム。
【請求項6】
前記第二の層の厚さが20μm以上である、請求項1又は2に記載の多層フィルム。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の多層フィルムと、基材と、を備える包装材。
【請求項8】
前記基材が、二軸延伸ポリプロピレンフィルムである、請求項7に記載の包装材。
【請求項9】
請求項7に記載の包装材から製袋された包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層フィルム、包装材及び包装体に関する。詳しくは、本発明は、耐熱性、耐寒衝撃性及び低温シール性に優れ、包装袋用シーラントフィルムとして、沸水処理やレトルト処理等の過酷な処理にも好適に使用でき、また、ポリプロピレン系の同一素材で構成する包装材にも好適に使用できる、ポリプロピレン系多層シーラントフィルム、並びに当該ポリプロピレン系多層シーラントフィルムを用いて得られる包装材及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系フィルムは、剛性及び耐熱性に優れ、かつ安価であることから、食品包装等の種々の包装用材料における、シーラントフィルムとして使用されることがある。
【0003】
特許文献1では、3層から構成されるポリプロピレン系複合フィルムであって、中間層がプロピレン・エチレンブロック共重合体からなり、両表面層がプロピレン系ランダム共重合体からなることを特徴とするポリプロピレン系複合フィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリプロピレン系多層フィルムには、従来、例えば120~135℃の高温で加圧処理を行って殺菌及び滅菌を行うレトルト処理等に耐えられる耐熱性と、低温保管時でも破袋しない耐寒衝撃性が求められている。それに加えて近年では、包装材の多様化により、基材フィルムに様々な材質のものが使用されるようになり、ポリプロピレン系多層シーラントフィルムに低温シール性が求められるようになってきた。しかしながら、従来のポリプロピレン系多層シーラントフィルムでは、優れた耐熱性と耐寒衝撃性、低温シール性とをバランスよく両立することは困難であるのが現状である。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた耐熱性、耐寒衝撃性及び低温シール性を高いレベルでバランスよく達成することが可能な、ポリプロピレン系の多層フィルムを提供することを目的とする。本発明はまた、当該多層フィルムを用いて得られる包装材及び包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、ヒートシール層にプロピレン単独重合体(A)と融点が132~150℃であるプロピレン系樹脂(B)を所定量で混合して含ませ、これをプロピレン・エチレンブロック共重合体(C)及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)を含む層と積層させることが重要であることを発明者らが見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の一側面に係る多層フィルムは、プロピレン単独重合体(A)70~10質量%、及び融点が132~150℃であるプロピレン系樹脂(B)30~90質量%を含有する、ヒートシール層である第一の層と、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)を含有する第二の層と、をこの順に備える。
【0009】
上記多層フィルムでは、第一の層がプロピレン単独重合体(A)と、融点が132~150℃であるプロピレン系樹脂(B)とを特定の量比で含有し、第二の層は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)と、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)とを含有する。これにより、耐熱性を維持しつつ、優れた耐寒衝撃性と低温シール性を発現させることができる。このような複合的な効果は、中間層にプロピレン・エチレンブロック共重合体を用い、外層にプロピレン系ランダム共重合体を用いた場合(例えば、上記特許文献1)では得ることができないものであり、特にレトルト処理用途において好適な効果である。
【0010】
一態様において、第二の層は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)90~50質量%及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)10~50質量%を含有してよい。これにより、低温保管時でも更に優れた耐衝撃性が得易い。
【0011】
一態様において、第一の層の厚さが、多層フィルムの厚さを基準として8~30%であってよい。これにより、耐寒衝撃性を維持しつつ、低温シール性を得易い。
【0012】
一態様において、多層フィルムは、上記第一の層と、第二の層と、プロピレン単独重合体(A)及び、融点が132~150℃であるプロピレン系樹脂(B)を含有する第三の層と、をこの順に備える多層フィルムであってよい。これにより、多層フィルムの歪みや反りを抑制し易い。
【0013】
一態様において、第一の層及び第三の層の総厚が、多層フィルムの厚さを基準として16~42%であってよい。これにより、耐寒衝撃性を維持しつつ、低温シール性を得易い。
【0014】
一態様において、第二の層の厚さは20μm以上であってよい。これにより、フィルムの耐寒衝撃性を維持し易い。
【0015】
本発明の一側面に係る包装材は、上記の多層フィルムと、基材と、を備える。
【0016】
一態様において、基材は二軸延伸ポリプロピレンフィルムであってよい。
【0017】
本発明の一側面に係る包装体は、上記の包装材から製袋される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、優れた耐熱性、耐寒衝撃性及び低温シール性を高いレベルでバランスよく達成することが可能なポリプロピレン系の多層フィルムを提供することができる。すなわち本発明によれば、120~135℃の高温で加圧処理を行って殺菌及び滅菌を行うレトルト処理等に耐えられる耐熱性と、低温保管時でも破袋しない耐寒衝撃性と、低温シール性と、に優れる、ポリプロピレン系の多層フィルムを提供することができる。また、本発明によれば、当該多層フィルムを用いて得られる包装材及び包装体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る多層フィルムの断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の他の実施形態に係る多層フィルムの断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る包装材の断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の他の実施形態に係る包装材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<多層フィルム>
図1は、本発明の一実施形態に係る多層フィルムの断面図である。多層フィルム10は、第一の層1と、第二の層2と、をこの順に備える。
図2は、本発明の他の実施形態に係る多層フィルムの断面図である。多層フィルム11は、第一の層1と、第二の層2と、第三の層3と、をこの順に備える。多層フィルムは、ポリプロピレン系無延伸シーラントフィルムとして用いることができる。
【0021】
[第一の層]
第一の層は、プロピレン単独重合体(A)、及び融点が132~150℃であるプロピレン系樹脂(B)を含有する。融点の高いプロピレン単独重合体(A)と、それよりも適度に融点の低いプロピレン系樹脂(B)とを併用することで、優れた耐熱性及びヒートシール性を両立することができる。第一の層はヒートシール層(シール層)であり、多層フィルムが第三の層を更に備える場合、第一の層は外層(第一の外層)と言うことができる。
【0022】
(プロピレン単独重合体(A))
プロピレン単独重合体(A)は、例えばチーグラー・ナッタ型触媒、メタロセン触媒、又はハーフメタロセン触媒を用いて、プロピレンを単独重合する方法により得ることができる。第一の層がプロピレン単独重合体(A)を含有することにより、第一の層に優れた耐熱性を付与することができる。プロピレン単独重合体(A)の融点は、プロピレン系樹脂(B)の融点超である。
【0023】
プロピレン単独重合体(A)としては、示差走査熱量測定(JIS K 7121)をした際の、融解開始温度が150℃以上、融点が155℃以上であるものを用いることができる。融解開始温度及び融点が共にこの範囲内であるものは、優れた耐熱性を有し、例えば高温でのレトルト処理を行った後に、包装袋の内面で融着が発生し難い。
【0024】
プロピレン単独重合体(A)としては、メルトフローレート(MFR:ISO 1133)(温度230℃、荷重2.16kg)が2.0~7.0g/10分の範囲であるものを用いることができる。メルトフローレートが下限値以上であることで、成形加工時の押出機負荷が小さくなり、加工速度が低下し難く優れた生産性を維持し易い。また、メルトフローレートが上限値以下であることで、第一の層が優れた耐衝撃性を有し易い。
【0025】
(プロピレン系樹脂(B))
プロピレン系樹脂(B)としては、示差走査熱量測定(JIS K 7121)をした際の、融点が132~150℃の範囲であるものを用いることができる。融点がこの範囲内であるものを用いることで、優れた耐熱性と優れた低温シール性をバランスよく両立することができる。この観点から、当該融点は135~145℃であってもよい。なお、第一の層形成後の、プロピレン系樹脂(B)の融点は、例えばグラファイト炭素を吸着材として用いる高温LC法により、第一の層を分離し、それぞれの融点を測定することにより測定することができる。
【0026】
プロピレン系樹脂(B)のエチレン含有量は6質量%以下であってよい。エチレン含有量が上限値以下であることで、低温シール性を維持しつつも耐熱性が過度に低下せず、レトルト処理後に包装袋の内面における融着を抑制することができる。この観点から、当該エチレン含有量は5.5質量%以下であってよく、4.5質量%以下であってよい。エチレン含有量の下限は特に限定されないが、低温シール性の観点から、3質量%とすることができる。
【0027】
プロピレン系樹脂(B)のエチレン含有量は、社団法人日本分析学会 高分子分析懇談会編集 高分子分析ハンドブック(2013年5月10日,第3刷)の412~413ページに記載の、エチレン含有量の定量方法(IR法)に従い測定することができる。
【0028】
プロピレン系樹脂(B)としては、例えばプロピレン・エチレンランダム共重合体が挙げられる。プロピレン・エチレンランダム共重合体は、その製造方法が特に制限されるものではないが、例えばチーグラー・ナッタ型触媒、メタロセン触媒、又はハーフメタロセン触媒を用いて、プロピレンからなる主モノマー中にコモノマーとしてエチレンを共重合することにより得ることができる。プロピレン・エチレンランダム共重合体を用いることにより、より優れた透明性を有する多層フィルムを得ることができる。
【0029】
第一の層は、プロピレン単独重合体(A)70~10質量%、及び融点が132~150℃であるプロピレン系樹脂(B)30~90質量%を含有する。プロピレン単独重合体(A)の含有量が10質量%以上であることで、優れた耐熱性を維持することができる。この観点から、当該含有量は15質量%以上であってよく、20質量%以上であってよい。プロピレン単独重合体(A)の含有量が70質量%以下であることで、すなわち、融点が132~150℃であるプロピレン系樹脂(B)の含有量が少なくとも30質量%以上であることで、優れた低温シール性を発現することができる。この観点から、プロピレン単独重合体(A)の含有量は65質量%以下であってよく、60質量%以下であってよい。以上の観点から、融点が132~150℃であるプロピレン系樹脂(B)の含有量は、35~85質量%であってよく、40~80質量%であってよい。
【0030】
[第二の層]
第二の層は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)を含有する。多層フィルムが第三の層を更に備える場合、第二の層は中間層と言うことができる。
【0031】
(プロピレン・エチレンブロック共重合体(C))
プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)は、第一工程でプロピレン重合体(C1)を製造し、次いで、第二工程で気相重合によりエチレン-プロピレン共重合体(C2)を製造することで得ることができる共重合体である。プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)は、プロピレン重合体末端とエチレン-プロピレン共重合体末端が結合されたブロック共重合体ではなく、一種のブレンド系の共重合体である。第二の層がプロピレン・エチレンブロック共重合体(C)を含有することにより、優れた耐寒衝撃性を得易い。
【0032】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)としては、メルトフローレート(MFR:ISO 1133)(温度230℃、荷重2.16kg)が0.5~2.5g/10分の範囲であるものを用いることができる。メルトフローレートが下限値以上であることで、成形加工時の押出機負荷が小さくなり、加工速度が低下し難く優れた生産性を維持し易い。メルトフローレートが上限値以下であることで、第二の層が優れた耐寒衝撃性を得易い。
【0033】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)は、上記プロピレン重合体(C1)90~60質量%及びエチレン-プロピレン共重合体(C2)10~40質量%を含有してよい。各成分がこの範囲であることにより、優れた耐寒衝撃性が得易い。この観点から、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)は、プロピレン重合体(C1)87.5~65質量%及びエチレン-プロピレン共重合体(C2)12.5~35質量%を含有してよく、プロピレン重合体(C1)85~70質量%及びエチレン-プロピレン共重合体(C2)15~30質量%を含有してよい。
【0034】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)に含まれている、エチレン-プロピレン共重合体(C2)のエチレン含有量は、特に制限はないが、20~40質量%の範囲とすることができる。エチレン含有量が上限値以下であることで、生成物のタック性を抑制することができ、製造時に生成物のタックによる汚染がし難く優れた生産性を維持し易い。エチレン含有量が下限値以上であることで、優れた耐寒衝撃性を得易い。
【0035】
(エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D))
エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)は、例えばヘキサン、ヘプタン、灯油等の不活性炭化水素、又はプロピレン等の液化α-オレフィン溶媒の存在下で行うスラリー重合法、無溶媒下の気相重合法などにより得ることができる。具体的には、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)は、公知の多段重合法を用いて得られる。すなわち、第1段の反応器でプロピレン及び/又はプロピレン-α-オレフィン重合体を重合した後、第2段の反応器でプロピレンとα-オレフィンとの共重合により得ることができる、重合型高ゴム含有ポリプロピレン系樹脂である。第二の層がエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)を含有することにより、更に優れた耐寒衝撃性を得易い。
【0036】
エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)としては、メルトフローレート(MFR:ISO 1133)(温度230℃、荷重2.16kg)が0.5~3.5g/10分の範囲であるものを用いることができる。メルトフローレートが下限値以上であることで、成形加工時の押出機負荷が小さくなり、加工速度が低下し難く優れた生産性を維持し易い。メルトフローレートが上限値以下であることで、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)とエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)との相容性が良好となり、透明性や耐衝撃性が低下し難い。
【0037】
エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)としては、プロピレン含有量とエチレン含有量の質量比(プロピレン含有量/エチレン含有量)が1.5~4の範囲であるものを用いることができる。上記範囲であることで、優れた耐寒衝撃性が得易い。
【0038】
第二の層は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)90~50質量%及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)10~50質量%を含有してよい。プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)の含有量が50質量%以上であることで、優れた耐熱性を維持し易い。この観点から、当該含有量は60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよい。プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)の含有量が90質量%以下であることで、すなわち、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)の含有量が少なくとも10質量%以上であることで、優れた耐寒衝撃性を発現することができる。この観点から、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)の含有量は87.5質量%以下であってよく、85質量%以下であってよい。以上の観点から、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)の含有量は、12.5~40質量%であってよく、15~30質量%であってよい。
【0039】
[第三の層]
第三の層は、第一の層にて述べた、プロピレン単独重合体(A)、及び融点が132~150℃であるプロピレン系樹脂(B)を含有する。第三の層を設けることで多層フィルムの歪みやカールを抑制し易くなる。第三の層は外層(第二の外層)ということができる。
【0040】
第三の層におけるプロピレン単独重合体(A)と融点が132~150℃であるプロピレン系樹脂(B)の配合比率に特に制限はないが、フィルム成形後のフィルムカール抑制の観点から第一の層と同様の配合比率であることが好ましい。
【0041】
[層の厚さ]
多層フィルムの厚さは、例えば包装材料用のフィルムとして使用可能な範囲であれば特に制限されることはないが、フィルムが厚すぎる場合にはコストデメリットとなる。このため、多層フィルムの厚さは100μm以下とすることができ、50~70μmであってよい。
【0042】
第一の層の厚さは、多層フィルムの厚さを基準として8~30%であってよい。第一の層の厚さの割合が下限値以上であることで、優れた低温シール性を得易く、また上限値以下であることで、フィルムのヒートシール強度の低下を抑制することができ、実用性が得られ易い。この観点から、第一の層の厚さの割合は10~25%であってよく、10~15%であってよい。
【0043】
第二の層の厚さは20μm以上であってよい。これにより、フィルムの耐寒衝撃性が維持され、低温保管時でも破袋し難い。この観点から、第二の層の厚さは25μm以上であってよく、30μm以上であってよい。第二の層の厚さの上限値は特に限定されないが、コストデメリットとなるため、50μmとすることができる。
【0044】
第三の層を設ける際の第一の層と第三の層の総厚は、多層フィルムの厚さを基準として16~42%であってよい。総厚の割合が下限値以上であることで、優れた低温シール性を得易く、また上限値以下であることで、フィルムのヒートシール強度の低下を抑制することができ、実用性が得られ易い。この観点から、第一の層と第三の層の総厚の割合は20~35%であってよく、20~30%であってよい。
【0045】
<多層フィルムの製造方法>
多層フィルムを製造する方法は特に制限されるものではなく、公知の方法を使用することが可能である。例えば、熱成形加工の方法としては、単軸スクリュー押出機、2軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機等の一般的な混和機を用いた溶融混練方法、各成分を溶解又は分散混合後、溶剤を加熱除去する方法等が挙げられる。作業性を考慮した場合、単軸スクリュー押出機又は2軸スクリュー押出機を使用することができる。単軸押出機を用いる場合、スクリューとしては、フルフライトスクリュー、ミキシングエレメントを持つスクリュー、バリアフライトスクリュー、フルーテッドスクリュー等が挙げられ、これらを特に制限なく使用することができる。2軸混練装置としては、同方向回転2軸スクリュー押出機、異方向回転2軸スクリュー押出機等を用いることができ、またスクリュー形状としてはフルフライトスクリュー、ニーディングディスクタイプ等特に限定なく用いることができる。
【0046】
上記方法において、多層フィルムを単軸押出機又は2軸押出機等により溶融したのち、フィードブロック又はマルチマニホールドを介しTダイで製膜する方法を用いることが可能である。
【0047】
得られた多層フィルムは、必要に応じて適宜後工程適性を向上する表面改質処理を施されてよい。例えば、単体フィルム使用時の印刷適性向上や、積層使用時のラミネート適性向上のために、印刷面や基材と接触する面に対して表面改質処理を行ってよい。表面改質処理としては、コロナ放電処理、プラズマ処理、フレーム処理等のフィルム表面を酸化させることにより官能基を生じさせる処理や、コーティングにより易接着層を形成するウェットプロセスによる改質処理が挙げられる。
【0048】
<包装材>
多層フィルムは、単体フィルムとして用いてもよく、基材と積層して用いてもよく、その包装材としての使用方法は特に制限されるものではない。
【0049】
多層フィルムを基材と積層して用いる場合、包装材は、上記の多層フィルムと基材とを備えることができる。そのような包装材は、具体的には上記の多層フィルムに、二軸延伸ポリアミドフィルム(ONy)、二軸延伸ポリエステルフィルム(PET)、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、印刷紙、金属箔(AL箔)、透明蒸着フィルム等の基材を少なくとも1層積層し、積層体を形成することで得ることができる。基材として二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)を用いて得られる包装材を、同一素材包装材ということができる。
図3は、本発明の一実施形態に係る包装材の断面図である。同図に示す包装材100は、多層フィルム10、接着層4、透明蒸着フィルム5、接着層6、及び基材フィルム7をこの順に備える。
図4は、本発明の他の実施形態に係る包装材の断面図である。同図に示す包装材101は、多層フィルム11、接着層4、透明蒸着フィルム5、接着層6、及び基材フィルム7をこの順に備える。この場合、包装材100及び101は、多層フィルム10及び11側が内容物側となるように用いられる。積層体の製造方法は、積層体を構成するフィルムに接着剤を用いて貼合せる通常のドライラミネート法が好適に採用できるが、必要に応じて多層フィルムを基材上に直接押出ラミネートする方法も採用することができる。
【0050】
積層体の積層構造は、包装体の要求特性、例えば包装する食品の品質保持期間を満たすバリア性、内容物の重量に対応できるサイズ・耐衝撃性、内容物の視認性等に応じて適宜調整することができる。
【0051】
<包装体>
包装体は上記の包装材から製袋されてよく、その製袋様式に関してはとくに制限されない。例えば上記の包装材(積層体)は、多層フィルムをシール材とする、平袋、三方袋、合掌袋、ガゼット袋、スタンディングパウチ、スパウト付きパウチ、ビーク付きパウチ等に用いることが可能である。
【0052】
<本実施形態の概要>
[発明1]
プロピレン単独重合体(A)70~10質量%、及び融点が132~150℃であるプロピレン系樹脂(B)30~90質量%を含有する、ヒートシール層である第一の層と、
プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)を含有する第二の層と、をこの順に備える多層フィルム。
[発明2]
前記第二の層が、前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)90~50質量%及び前記エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)10~50質量%を含有する、発明1に記載の多層フィルム。
[発明3]
前記第一の層の厚さが、前記多層フィルムの厚さを基準として8~30%である、発明1又は2に記載の多層フィルム。
[発明4]
前記第一の層と、
前記第二の層と、
プロピレン単独重合体(A)及び融点が132~150℃であるプロピレン系樹脂(B)を含有する第三の層と、をこの順に備える、発明1に記載の多層フィルム。
[発明5]
前記第一の層及び前記第三の層の総厚が、前記多層フィルムの厚さを基準として16~42%である、発明4に記載の多層フィルム。
[発明6]
前記第二の層の厚さが20μm以上である、発明1~5のいずれか一に記載の多層フィルム。
[発明7]
発明1~6のいずれか一に記載の多層フィルムと、基材と、を備える包装材。
[発明8]
前記基材が、二軸延伸ポリプロピレンフィルムである、発明7に記載の包装材。
[発明9]
発明7又は8に記載の包装材から製袋された包装体。
【実施例0053】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0054】
<積層フィルムの作製>
(実施例1)
以下に示すプロピレン単独重合体(A)、プロピレン系樹脂(B)、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)を準備した。
【0055】
(プロピレン単独重合体(A))
示差走査熱量測定(JIS K 7121)をした際の、融解開始温度が153℃、融点(融解ピーク温度)が159℃であり、かつメルトフローレート(MFR:ISO 1133)(温度230℃、荷重2.16kg)が3.0g/10分であるプロピレン単独重合体。
【0056】
(プロピレン系樹脂(B))
示差走査熱量測定(JIS K 7121)をした際の、融点が147℃、エチレン含有量が3.4質量%であるプロピレン・エチレンランダム共重合体。
【0057】
エチレン含有量の測定は、社団法人日本分析学会 高分子分析懇談会編集 高分子分析ハンドブック(2013年5月10日,第3刷)の412~413ページに記載の、エチレン含有量の定量方法(IR法)に従い行った。
【0058】
(プロピレン・エチレンブロック共重合体(C))
メルトフローレート(MFR:ISO 1133)(温度230℃、荷重2.16kg)が1.8g/10分であり、プロピレン重合体81.5質量%及びエチレン-プロピレン共重合体18.5質量%を含有し、エチレン-プロピレン共重合体に含まれるエチレン含有量が36.2重量%であるプロピレン・エチレンブロック共重合体。
【0059】
(エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D))
メルトフローレート(MFR:ISO 1133)(温度230℃、荷重2.16kg)が0.6g/10分であり、かつプロピレン含有量とエチレン含有量の質量比(プロピレン含有量/エチレン含有量)が2.7であるエチレン・プロピレン共重合体エラストマー。
【0060】
第一の層形成用に、プロピレン単独重合体(A)50質量%及びプロピレン系樹脂(B)50質量%をペレット状態で混合した樹脂混合体を準備した。
第二の層形成用に、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)83質量%及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)17質量%をペレット状態で混合した樹脂混合体を準備した。
各樹脂混合体を250℃に温調した押出機に供給し、溶融状態にて混錬して、フィードブロックを持つTダイ押出機にて第一の層の厚さが15μm、第二の層の厚さが45μmとなるように積層し、実施例1のフィルムを作製した。
【0061】
(実施例2)
プロピレン単独重合体(A)とプロピレン系樹脂(B)の混合割合を、表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2のフィルムを作製した。
【0062】
(実施例3)
プロピレン単独重合体(A)とプロピレン系樹脂(B)の混合割合を、表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例3のフィルムを作製した。
【0063】
(実施例4)
プロピレン系樹脂(B)に代えて、以下のプロピレン系樹脂(B´)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例4のフィルムを作製した。
(プロピレン系樹脂(B´))
示差走査熱量測定(JIS K 7121)をした際の、融点が133℃、エチレン含有量が5.8質量%であるプロピレン・エチレンランダム共重合体。
【0064】
(実施例5)
プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)とエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)の混合割合を、表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例5のフィルムを作製した。
【0065】
(実施例6)
第一の層及び第三の層形成用に、プロピレン単独重合体(A)50質量%及びプロピレン系樹脂(B)50質量%をペレット状態で混合した樹脂混合体を準備した。
第二の層形成用に、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)83質量%及びエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)17質量%をペレット状態で混合した樹脂混合体を準備した。
各樹脂混合体を250℃に温調した押出機に供給し、溶融状態にて混錬して、フィードブロックを持つTダイ押出機にて第一の層と第三の層の厚さがそれぞれ10μm、第二の層の厚さが40μmとなるように積層し、実施例6のフィルムを作製した。
【0066】
(実施例7)
プロピレン単独重合体(A)とプロピレン系樹脂(B)の混合割合を、表1に示すように変更したこと以外は、実施例6と同様にして実施例7のフィルムを作製した。
【0067】
(実施例8)
プロピレン単独重合体(A)とプロピレン系樹脂(B)の混合割合を、表1に示すように変更したこと以外は、実施例6と同様にして実施例8のフィルムを作製した。
【0068】
(実施例9)
プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)とエチレン・プロピレン共重合体エラストマー(D)の混合割合を、表1に示すように変更したこと以外は、実施例6と同様にして実施例9のフィルムを作製した。
【0069】
(比較例1)
プロピレン単独重合体(A)のみを用いて第一の層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして比較例1のフィルムを作製した。
【0070】
(比較例2)
プロピレン単独重合体(A)とプロピレン系樹脂(B)の混合割合を、表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例2のフィルムを作製した。
【0071】
(比較例3)
プロピレン系樹脂(B)のみを用いて第一の層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして比較例3のフィルムを作製した。
【0072】
(比較例4)
プロピレン系樹脂(B)に代えて、以下のプロピレン系樹脂(B´´)を用いたこと、またプロピレン単独重合体(A)とプロピレン系樹脂(B´´)の混合割合を、表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例4のフィルムを作製した。
(プロピレン系樹脂(B´´))
示差走査熱量測定(JIS K 7121)をした際の、融点が131℃、エチレン含有量が23.7質量%であるプロピレン・エチレンランダム共重合体。
【0073】
(比較例5)
プロピレン系樹脂(B)に代えて、以下のエラストマー樹脂を用いたこと、またプロピレン単独重合体(A)とエラストマー樹脂の混合割合を、表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例5のフィルムを作製した。
(エラストマー樹脂)
メタロセン触媒を用いて、エチレンを主モノマーとしてコモノマーにブテン-1を用いたオレフィン系エラストマーであり、かつメルトフローレート(MFR:ISO 1133)(温度190℃、荷重2.16kg)が3.6g/10分であるエラストマー樹脂。
【0074】
(比較例6)
プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)のみを用いて第二の層を形成したこと以外は、実施例1と同様にして比較例6のフィルムを作製した。
【0075】
<各種評価>
各例で得られたフィルムに対し以下の評価を行った。結果を表1及び表2に示す。
【0076】
[耐寒衝撃性評価]
株式会社東洋精機製のフィルムインパクトテスターを用いて、温度-5℃、秤量1.5J、弾頭サイズ1/2インチの条件で、各例で得られたフィルムの低温保管時の衝撃強さを測定した。
【0077】
[低温シール性評価]
厚さ12μmの二軸延伸ポリエステルフィルム(PET)、厚さ9μmのAL箔、厚さ15μmの二軸延伸ポリアミドフィルム(ONy)、及び各例で得られたフィルム(ポリプロピレン系フィルム)を、ウレタン系接着剤を用いて通常のドライラミネート法で貼り合せ、次の構成の積層体を作製した。フィルムが第一の層を有する場合は、第一の層が外層側になるようにしてONyと接着した。
積層体構成:PET/接着剤/AL箔/接着剤/ONy/接着剤/ポリプロピレン系フィルム
この積層体のポリプロピレン系フィルム同士を、テスター産業株式会社製ヒートシーラーを用いて、シール圧0.2MPa、シール時間1秒間、シール幅5mmの条件にて、シール温度140℃~160℃の間で5℃刻みにヒートシールした。各温度でのヒートシール後、シール部分を15mm幅×80mmに切出し、島津製作所株式会社製の引張試験機を用いて、引張速度300mm/minの条件にてヒートシール強度を測定した。ヒートシール強度が40N/15mm以上に達する温度が低いほど、低温シール性が良好であると判断した。
【0078】
[耐熱性評価]
各例で得られたフィルムを用いて130mm×180mmの袋を作製し、内容物を入れずに袋の内面同士を密着させ、135℃で40分間レトルト処理を行った。その後、3辺のシール部をカットし、手でフィルムの剥離を行い、レトルト後融着評価を実施した。フィルム剥離が容易であるものをA、タック感を感じるものをB、剥離時にフィルムが変形するものをCと評価した。
【0079】
【0080】
本発明のポリプロピレン系の多層フィルムは、耐熱性及び耐寒衝撃性、低温シール性を高いレベルで達成しており、レトルト包材用のシーラントフィルムに好適に使用できる。
10…多層フィルム、11…多層フィルム、100…包装材、101…包装材、1…第一の層、2…第二の層、3…第三の層、4…接着層、5…透明蒸着フィルム、6…接着層、7…基材フィルム。