(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000571
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】末端修飾された標的核酸の精製方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20221222BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20221222BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALN20221222BHJP
C12N 9/16 20060101ALN20221222BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20221222BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALN20221222BHJP
【FI】
C12N15/10 100Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6806 Z ZNA
C12N9/16 Z
C12N9/12
C12Q1/6876 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101476
(22)【出願日】2021-06-18
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 佑介
(72)【発明者】
【氏名】横井 崇秀
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050LL05
4B063QA13
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR14
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR62
4B063QS16
4B063QS24
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】末端に修飾分子を有するプライマーを選択的に精製することで、遺伝子解析の感度を向上させ、又は遺伝子変異に対する検出効率を向上させること。
【解決手段】電気泳動における核酸の移動度に基づいて標的核酸を検出又は標的核酸の塩基を決定する方法において、末端に修飾分子を有する目的核酸を精製する方法であって、一方の核酸鎖の末端に修飾分子を有する二重鎖核酸を熱変性処理により一本鎖核酸とし、得られた一本鎖核酸を熱変性温度下においてエクソヌクレアーゼで処理して、末端に修飾分子を有する核酸鎖以外の核酸を除去することを含む方法。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気泳動における核酸の移動度に基づいて標的核酸を検出又は標的核酸の塩基を決定する方法において、末端に修飾分子を有する目的核酸を精製する方法であって、
一方の核酸鎖の末端に修飾分子を有する二重鎖核酸を熱変性処理により一本鎖核酸とし、
得られた一本鎖核酸を熱変性温度下においてエクソヌクレアーゼで処理して、末端に修飾分子を有する核酸鎖以外の核酸を除去する
ことを含む方法。
【請求項2】
前記二重鎖核酸が、鎖間架橋された二重鎖核酸タグを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二重鎖核酸タグにおける鎖間架橋を解離することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
試料中の標的核酸の存在を検出する及び/又は標的核酸の塩基を決定する方法であって、
標的核酸を含む又は含むことが疑われる試料を準備し、
鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグと、前記標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含むプライマーを準備し、
前記標的核酸を鋳型として前記プライマーを用いた1塩基伸長反応を行い、
前記二重鎖核酸タグにおける鎖間架橋を解離し、
前記二重鎖核酸タグ、及び前記標的核酸と前記プライマーとの二重鎖核酸を熱変性処理により一本鎖核酸とし、
得られた一本鎖核酸を熱変性温度下においてエクソヌクレアーゼで処理して、末端に修飾分子を有する核酸鎖以外の核酸を除去し、
得られた反応物をキャピラリー電気泳動に供して解析する
ことを含む方法。
【請求項5】
前記1塩基伸長反応が、前記修飾分子を基質として使用して行われる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記修飾分子が、蛍光標識されたジデオキシヌクレオチド(ddNTP)を含む、請求項1又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記末端が3'末端である、請求項1又は4に記載の方法。
【請求項8】
前記エクソヌクレアーゼが、3’→5’の一本鎖核酸特異的なエクソヌクレアーゼである、請求項1又は4に記載の方法。
【請求項9】
前記エクソヌクレアーゼが耐熱性エクソヌクレアーゼである、請求項1又は4に記載の方法。
【請求項10】
前記耐熱性エクソヌクレアーゼが、TK1646、PhuExo I、及びPhoExo Iからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
電気泳動における核酸の移動度に基づいて標的核酸を検出又は標的核酸の塩基を決定する方法において、末端に修飾分子を有する目的核酸を精製するためのキットであって、エクソヌクレアーゼを含むことを特徴とするキット。
【請求項12】
前記エクソヌクレアーゼが、3’→5’の一本鎖核酸特異的なエクソヌクレアーゼである、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記エクソヌクレアーゼが耐熱性エクソヌクレアーゼである、請求項11に記載のキット。
【請求項14】
前記耐熱性エクソヌクレアーゼが、TK1646、PhuExo I、及びPhoExo Iからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグ、ポリメラーゼ、及び修飾分子からなる群より選択される少なくとも1つの成分をさらに含む、請求項11に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端に修飾分子を有する目的核酸を精製するための方法及びキットに関する。また本発明は、かかる精製方法を利用した標的核酸を検出又は標的核酸の塩基を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
がん研究の進展に伴い、がん検査の分野においては遺伝子解析技術により腫瘍由来の遺伝子変異を検出することの重要性が増している。特に血液中の腫瘍由来の遺伝子変異を検出して医療診断を行う検査はリキッドバイオプシーと呼ばれ、がんの早期診断や、術後の治療選択最適化、残存腫瘍のモニタリングといった用途への応答が期待されている。
【0003】
血液中に遊離する腫瘍由来の遺伝子変異はその濃度と変異比率が低いことが知られており、低濃度かつ低頻度変異の遺伝子変異を検出するために、検出手法は高感度であることが求められている。そのため、各検出装置で遺伝子変異を検出する前に、アンプリコン法やキャプチャー法と呼ばれる前処理方法により、標的となる遺伝子変異あるいは領域を選択的に濃縮することが行われる。選択的に濃縮されたサンプルは、次の工程として様々な検出手段にて検出される。
【0004】
例えば、遺伝子変異の検出手段として、現在最も広く用いられている次世代シーケンサ法では、高感度で多種類の遺伝子変異を検出することが代表的な手法となっている。一方で、次世代シーケンサ法は他手法と比較して検査コストが高く、コストの制約がリキッドバイオプシー普及における課題となっている。そこで、検出すべき遺伝子変異が少数に絞られた診断用途においては、検査コストが安価なPCR法によって低コストに検査する手法が開発されてきた。このような診断用途としては、例えば肺がんや大腸がん治療における医薬品の適応判定を行うコンパニオン診断が挙げられ、代表例としてEGFR遺伝子変異、KRAS/NRAS遺伝子変異、BRAF遺伝子変異等を検査する診断薬が既に各国の規制当局に承認されている。
【0005】
近年、臨床腫瘍研究の進展に伴って、バイオマーカーとなり得る腫瘍関連の遺伝子変異の新たな活用法の発見に伴い、検査すべきバイオマーカーの項目数は数十~数千種へと拡大しつつある。特にがん早期診断においては、多種類の遺伝子変異を計測することによって早期診断を目指す潮流下にある。例えば、非特許文献1では次世代シーケンサ法を用いて、16遺伝子の内、1933か所の変異サイトを検出し、従来の腫瘍マーカー法と組合わせることで、がん早期診断へと繋げている。このように、標的とすべき遺伝子変異の数はPCR法でカバー可能な変異数である数種類を大幅に超えており、低コストで多種類の遺伝子変異を検出することが可能な検出法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. D. Cohen, et al., Science, 359, 926-930 (2018).
【非特許文献2】D. Dias-Santagata, et al., EMBO Molecular Medicine, 2, 146-158 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
低コストで多種類の遺伝子変異を検出可能な技術の一例として、キャピラリー電気泳動法(CE)を用いたフラグメント解析手法が挙げられる(
図1)。この手法では各標的変異ごとに区別可能なように電気泳動距離が変わるように設計され、かつ検出したい変異を含む遺伝子配列101に相補的となるように設計された選択的プライマー100を用いる。このようなプライマーを用いて、標的となる遺伝子変異が存在する場合に、ポリメラーゼ合成反応によって、ちょうど遺伝子変異(典型的には一塩基多型、SNP)に対応するプライマーの3'末端位置に、4種の蛍光色素102で修飾されたジデオキシヌクレオチド(ddNTP)が付与される。このような手法は1塩基伸長反応と呼ばれている(特許文献1)。1塩基伸長反応によって、末端に修飾分子を有する遺伝子変異ごとに伸長されたプライマーを、一本鎖DNA化した後に、キャピラリー電気泳動法を用いて泳動分離し、3'末端の蛍光色素を蛍光検出することで、最終的に遺伝子変異が検出される。
【0009】
例えば、この手法によって腫瘍由来の遺伝子変異を合計58種類検出する方法が報告されている(非特許文献2)。しかし、本文献内で1つの反応アッセイおよび電気泳動で同時に検出できる変異数は5~8種類であり、この分析を8回行うことで合計58種類の遺伝子検出を実施している。そのため、実質的には遺伝子変異を同時検出できるのは数種類程度である。これは、従来法では、選択的プライマーを電気泳動で分離できる泳動長の上限が120塩基程度に制限されており、利用できる泳動領域が少ないことが原因である。したがって、従来のキャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法では一度に検出可能な遺伝子変異が限定されてしまう、という課題があった。
【0010】
最近、本発明者らはキャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法を発展させ、同時に検出可能な遺伝子変異数を数十~数百種類へと拡張可能な解析手法を開発した(
図2)。本手法では、遺伝子変異に特異的なプライマー部分205に鎖間架橋203された二重鎖DNAタグ204を連結したプライマー205を使用することにより、二重鎖DNAタグ204の長さの変更により電気泳動距離を120bp以上に安定的に伸ばすことができる。これまで有効活用できなかった電気泳動領域を利用することが可能となり、同時に検出可能な遺伝子変異数を増やすことが可能となる。キャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析では600塩基程度までは良好に核酸を分離可能であり、利用可能な遺伝子変異数を増やすことができる。従来法と同じく、4種の蛍光色素で修飾されたddNTPを1塩基伸長反応により鎖間架橋された二重鎖DNAタグが連結されたプライマーの3'末端に付与することでSNP等の遺伝子変異を検出する。
【0011】
この開発過程において、本発明者らは上記方法のさらなる改良を試みた。1塩基伸長反応による3'末端への蛍光色素の付与反応後には、目標産物である1塩基伸長反応によって3'末端に蛍光色素が付与されたプライマー以外に、未反応の蛍光色素が付与されていないプライマーが残存している。この残存プライマーの存在が、キャピラリー電気泳動によるフラグメント解析法における遺伝子変異の検出感度の低下をもたらす可能性がある。キャピラリー電気泳動によるフラグメント解析法では、電気泳動を用いたエレクトロキネティックインジェクション法により核酸サンプルを注入している(
図3)。この注入法ではマイナスに帯電した核酸サンプルは同様にキャピラリー内へと注入されてしまうため、残存プライマーが存在すると、キャピラリーへと誘導されるべき、目標産物である末端修飾されたプライマーだけでなく、残存プライマーも同様にキャピラリー内へと注入されることになる。その結果、キャピラリー内へと注入された目標産物である末端修飾されたプライマーの濃度が相対的に低下してしまい、検出感度の低下に繋がる可能性がある。
【0012】
この残存プライマーの存在は、検出すべき遺伝子変異の変異率が低いほど影響が大きい。変異率が低い遺伝子変異に対しては検出効率を向上させるために、1塩基伸長反応の反応効率を高める目的でプライマー濃度を高くする必要があるが、高いプライマー濃度は残存プライマー濃度の増加につながり、サンプル注入時における、目標産物である末端修飾されたプライマーの注入比率の低下につながる。
【0013】
したがって、キャピラリー電気泳動によるフラグメント解析法において、目的遺伝子(例えば腫瘍由来の遺伝子)をより高感度に検出するためには、1塩基伸長反応後における未反応の残存プライマーを除去して、目標産物である末端修飾されたプライマーを選択精製することが望ましい。しかし、目標産物である末端修飾されたプライマーと未反応の残存プライマーには、3'末端に付与された蛍光色素を有するddNTPのみの違いしかなく、この修飾の有無を利用して選択精製する必要がある。しかし、これまで知られる従来法では、選択的に未反応の残存プライマーのみを除去することは困難であった。
【0014】
キャピラリー電気泳動によるフラグメント解析を用いて遺伝子変異を検出する手法において、末端が修飾された選択的プライマーと未反応の残存プライマーが共存する溶液下で、両者の違いは末端修飾された分子の有無のみである。したがって、本発明の課題は、末端に修飾分子を有するプライマーを選択的に精製することで、遺伝子解析の感度を向上させ、又は遺伝子変異に対する検出効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために検討を行った結果、上述の電気泳動によるフラグメント解析法において、熱変性条件下においても活性を有するエクソヌクレアーゼによって、熱変性温度下で核酸の立体構造を解離しつつ、未反応の残存プライマーのみを選択的に除去することにより、末端に修飾分子を有する核酸を精製できるという知見を得た。また、プライマーに鎖間架橋された二重鎖DNAタグを結合させて1塩基伸長反応を行った場合には、鎖間架橋を解離した後にエクソヌクレアーゼ処理を行うことで、同様に末端に修飾分子を有する核酸を精製することができるという知見も得た。本発明は、上記知見に基づいて完成された。
【0016】
したがって、一態様において、本発明は、電気泳動における核酸の移動度に基づいて標的核酸を検出又は標的核酸の塩基を決定する方法において、末端に修飾分子を有する目的核酸を精製する方法であって、
一方の核酸鎖の末端に修飾分子を有する二重鎖核酸を熱変性処理により一本鎖核酸とし、
得られた一本鎖核酸を熱変性温度下においてエクソヌクレアーゼで処理して、末端に修飾分子を有する核酸鎖以外の核酸を除去する
ことを含む方法を提供する。
【0017】
別の態様において、本発明は、試料中の標的核酸の存在を検出する及び/又は標的核酸の塩基を決定する方法であって、
標的核酸を含む又は含むことが疑われる試料を準備し、
鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグと、前記標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含むプライマーを準備し、
前記標的核酸を鋳型として前記プライマーを用いた1塩基伸長反応を行い、
前記二重鎖核酸タグにおける鎖間架橋を解離し、
前記二重鎖核酸タグ、及び前記標的核酸と前記プライマーとの二重鎖核酸を熱変性処理により一本鎖核酸とし、
得られた一本鎖核酸を熱変性温度下においてエクソヌクレアーゼで処理して、末端に修飾分子を有する核酸鎖以外の核酸を除去し、
得られた反応物をキャピラリー電気泳動に供して解析する
ことを含む方法を提供する。
【0018】
さらなる態様において、本発明は、電気泳動における核酸の移動度に基づいて標的核酸を検出又は標的核酸の塩基を決定する方法において、末端に修飾分子を有する目的核酸を精製するためのキットであって、エクソヌクレアーゼを含むことを特徴とするキットを提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、電気泳動によるフラグメント解析法において、未反応の残存プライマーのみを選択的に除去することによって、末端に修飾分子を有するプライマー(核酸)を選択的に精製することが可能となる。3末端における修飾分子の存在により、3’→5’方向の一本鎖DNA特異的エクソヌクレアーゼによる核酸分解は阻害され、末端修飾された選択的プライマーは分解されない。一方で、未反応の残存プライマーは3末端方向から核酸分解され、熱変性条件下でも活性を有するエクソヌクレアーゼを用いることにより、立体構造によって分解阻害されることを抑制する。鎖間架橋された二重鎖DNAタグが連結されている場合には、予め架橋を解離することにより、エクソヌクレアーゼによる分解阻害を抑制することができる。したがって、本発明により、遺伝子解析の感度を向上させ、又は遺伝子変異に対する検出効率を向上させることが可能となる。
【0020】
前述した以外の課題、構成及び効果は,以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】キャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の概略図である。
【
図2】鎖間架橋された二重鎖核酸タグを連結した選択的プライマーを使用した、キャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の概略図である。
【
図3】エレクトロキネティックインジェクション法を説明する概略図である。
【
図4】未反応の残存プライマーと末端に修飾分子を有するプライマーの概念図である。
【
図5】末端に修飾分子を有するプライマーの選択的精製フローの一例の概略図である。
【
図6】実施例において使用した鎖間架橋二重鎖DNAタグを連結した選択的プライマーの構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。なお、添付の図面は、本発明の原理に則った具体的な実施形態を示しているが、それらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0023】
本発明は、電気泳動における核酸の移動度に基づいて標的核酸を検出又は標的核酸の塩基を決定する方法において、末端に修飾分子を有する目的核酸を精製するための方法及びキット、並びにかかる精製方法を利用した標的核酸を検出又は標的核酸の塩基を決定する方法に関する。
【0024】
以下、鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグを結合した選択的プライマーを使用して1塩基伸長反応を行い、末端に修飾分子を有するプライマーのみを選択的に精製する方法について、
図4及び5を使用して説明する。しかしながら、選択的プライマーのタグ標識は、
図4及び5に示されるような鎖間架橋二重鎖核酸タグに限定されるものではなく、電気泳動により区別可能な標識であれば任意のタグ標識を使用することができる。
【0025】
図4は、
図2に示したキャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法において末端に修飾分子を付与する反応工程によって生じる、末端に修飾分子を有するプライマー400と、未反応の残存するプライマー406を示す。ここで、選択的プライマー部分405は特定の遺伝子変異を有する核酸配列へとハイブリダイゼーションする相補的配列を有している。また、プライマー400、406には電気泳動の移動度を調整するための核酸タグ404が連結されている。
図4において、この電気泳動の移動度を調整するための核酸タグ404は、鎖間架橋を有する二重鎖核酸構造を有している。
【0026】
図5は、末端に修飾分子を有するプライマーの選択的精製の一例のフローを示す。まず、選択的プライマーを準備する。
図5では、鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグが連結された、選択的プライマーとして機能する一本鎖核酸領域が連結されたプライマーを使用している。このプライマーを用いた1塩基伸長反応により、特定の塩基に対応した修飾分子(例えば蛍光)を有するddNTPがプライマーの一本鎖領域部分の3'末端へと付与される。この時、全てのプライマーに対して、修飾分子を有するddNTPは付与されず、未反応のプライマーも溶液内に残存する(
図5の(1))。この末端に修飾分子を有するプライマーと未反応の残存プライマーが共存する溶液に次の処理を行う。
【0027】
まず、
図5に示すように選択的プライマーに鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグを連結した場合には、二重鎖間の架橋構造を解離させるため、架橋構造を解離させる工程を行う(
図5の(2))。典型的には、鎖間架橋は光架橋で実施されているため、架橋解離させる波長の紫外光を照射することで、鎖間の架橋が解離される。なお、鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグを使用しない場合には、この工程は不要である。
【0028】
続いて、熱アニール処理を行いながら、同時に耐熱性のエクソヌクレアーゼを用いて、核酸分子の分解処理を行う(
図5の(3))。ここで、エクソヌクレアーゼは3’→5’方向の一本鎖DNA特異的なエクソヌクレアーゼである。後述するように、3’末端のddNTPの存在により、末端に修飾分子を有するプライマーは分解が抑制されるが、それ以外の熱アニール処理によって、一本鎖状態となった核酸分子は全て3’末端から分解される。この際に、熱アニール処理には、二重鎖構造を解離させるだけでなく、一本鎖核酸の立体構造形成を抑制する効果がある。したがって、本発明において使用するエクソヌクレアーゼは、熱アニール温度でも活性を有するエクソヌクレアーゼであることが好ましい。このような工程を経ることにより、末端に修飾分子を有するプライマーを選択的に精製することが可能となる(
図5の(4))。
【0029】
したがって、一態様において、本発明は、電気泳動における核酸の移動度に基づいて標的核酸を検出又は標的核酸の塩基を決定する方法において、末端に修飾分子を有する目的核酸を精製する方法であって、
一方の核酸鎖の末端に修飾分子を有する二重鎖核酸を熱変性処理により一本鎖核酸とし、
得られた一本鎖核酸を熱変性温度下においてエクソヌクレアーゼで処理して、末端に修飾分子を有する核酸鎖以外の核酸を除去する
ことを含む方法を提供する。
【0030】
本明細書において、「末端に修飾分子を有する目的核酸」とは、1塩基伸長反応によって末端に修飾分子が取り込まれたプライマーである。ここで、末端は、3'末端であることが好ましい。また、修飾分子として、標識されたジデオキシヌクレオチド(ddNTP)、例えば蛍光標識されたddNTPを用いることができる。
【0031】
上記1塩基伸長反応により、一方の核酸鎖の末端に修飾分子を有する二重鎖核酸(すなわち、1塩基伸長反応によって末端に修飾分子が取り込まれた選択的プライマーと鋳型となった標的核酸との二重鎖核酸)が生じる。この二重鎖核酸を熱変性処理により一本鎖核酸とする。熱変性処理の条件は、設計した選択的プライマーのGC含量などに基づいて、当業者であれば適当な温度条件、バッファー条件などを設定することができる。例えば、熱変性処理の条件は、60~100℃、例えば約85℃における熱変性温度下とすることができる。
【0032】
続いて、得られた一本鎖核酸を熱変性温度下においてエクソヌクレアーゼで処理する。熱変性温度は、一本鎖核酸がアニーリングして二本鎖を形成することを抑制することができる温度であればよく、上述した熱変性処理の条件と同一であってもよいし、又は別の条件であってもよい。好ましくは、熱変性温度は、使用するエクソヌクレアーゼの至適温度である。エクソヌクレアーゼは、3’→5’の一本鎖核酸特異的なエクソヌクレアーゼ活性を有し、耐熱性エクソヌクレアーゼであることが好ましい。
【0033】
そのようなエクソヌクレアーゼは、特に限定されるものではないが、例えば以下のものが挙げられる:
・超好熱始原菌Thermococcus kodakarensis KOD1由来のTK1646(Saeed, M.S.及びRashid, N., International Journal of Biological Macromolecules, 140:1194-1201, 2019)
・超好熱古細菌Pyrococcus furiosus由来のPhuExo I(Tori et al., PLOS One, 8:e58497, 2013)
・超好熱古細菌Pyrococcus horikoshii由来のPhoExo I(Miyazono et al., Acta Crystallogr. F. Struct. Bio. Commun., 70:1076-1079, 2014)
TK1646は、80~100℃でのみ活性を示す3’→5’方向の一本鎖DNA特異的なエクソヌクレアーゼであり、またPhuExo I及びPhoExo Iは、65℃でも活性を示すことが知られており、本方法におけるエクソヌクレアーゼとして好適である。したがって、一実施形態において、エクソヌクレアーゼとして、TK1646、PhuExo I、及びPhoExo Iからなる群より選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0034】
なお、末端における修飾分子として典型的な分子であるddNTPは、ヌクレアーゼ類やエクソヌクレアーゼの活性を阻害することが報告されている(カタログNEB Expressions Issue II 2019、文献J.W. Hanes及びK.A. Johnson, Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 52:253-258, 2008)。このようにddNTPを3末端に有する核酸に関しては、3’→5’方向のエクソヌクレアーゼによる分解を抑制することが可能となる。
【0035】
エクソヌクレアーゼ処理により、末端に修飾分子を有する核酸鎖以外の核酸が除去される。したがって、本方法により、末端に修飾分子を有する目的核酸を選択的に回収し、精製することが可能となる。
【0036】
一実施形態において、1塩基伸長反応により得られる一方の核酸鎖の末端に修飾分子を有する二重鎖核酸は、鎖間架橋された二重鎖核酸タグを含むものであってもよい。この鎖間架橋された二重鎖核酸タグの詳細は後述する。この場合、本方法は、二重鎖核酸タグにおける鎖間架橋を解離することをさらに含む。好ましくは、二重鎖核酸を熱変性処理する前に、鎖間架橋を解離する。例えば、鎖間架橋が光架橋によるものである場合には、光架橋を解離する手段、例えば特定の波長の光照射により、鎖間架橋を解離することができる。鎖間架橋の解離は、使用した架橋の種類に応じて、適宜行うことができる。
【0037】
別の態様において、本発明は、試料中の標的核酸の存在を検出する及び/又は標的核酸の塩基を決定する方法であって、
標的核酸を含む又は含むことが疑われる試料を準備し、
鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグと、前記標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含むプライマーを準備し、
前記標的核酸を鋳型として前記プライマーを用いた1塩基伸長反応を行い、
前記二重鎖核酸タグにおける鎖間架橋を解離し、
前記二重鎖核酸タグ、及び前記標的核酸と前記プライマーとの二重鎖核酸を熱変性処理により一本鎖核酸とし、
得られた一本鎖核酸を熱変性温度下においてエクソヌクレアーゼで処理して、末端に修飾分子を有する核酸鎖以外の核酸を除去し、
得られた反応物をキャピラリー電気泳動に供して解析する
ことを含む方法を提供する。
【0038】
上述した本発明に係る精製方法を遺伝子解析方法に適用した場合を説明する。
まず、標的核酸を含む又は含むことが疑われる試料を準備する。試料は、核酸を含む試料であれば特に限定されるものではなく、生体由来試料(例えば細胞試料、組織試料、液体試料など)、及び合成試料(例えばcDNAライブラリなどの核酸ライブラリなど)の任意の試料を用いることができる。生体由来試料の場合、試料の由来となる生体も特に限定されるものではなく、脊椎動物(例えば哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類、両生類など)、無脊椎動物(例えば昆虫、線虫、甲殻類など)、原生生物、植物、真菌、細菌、ウイルスなどの任意の生体に由来する試料を用いることができる。例えば、ヒトにおけるがん検査を想定する場合には、検査対象のヒトから得られる核酸含有試料、例えば全血、血清、血漿、唾液、尿、糞便、皮膚組織、がん組織などを準備する。
【0039】
標的核酸は、検出しようとする配列又は決定しようとする塩基を含む核酸であれば特に限定されるものではなく、デオキシリボ核酸(DNA)、例えばゲノムDNA、cDNA、及びリボ核酸(RNA)、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)、並びにそれらの断片が含まれる。本発明においては、標的核酸として、例えばセルフリーDNA(cfDNA、血中を遊離しているDNA)、循環腫瘍DNA(ctDNA)を使用することが好ましい。試料からの核酸の調製は、当技術分野で公知の方法により行うことができる。例えば、血液や細胞から標的核酸を調製する場合には、Proteinase Kのようなタンパク質分解酵素、チオシアン酸グアニジン・グアニジン塩酸といったカオトロピック塩、Tween及びSDSといった界面活性剤、あるいは市販の細胞溶解用試薬を用いて、細胞を溶解し、それに含まれる核酸、すなわちDNA及びRNAを溶出することができる。RNAを調製する場合には、上記の細胞溶解により溶出された核酸のうち、DNAをDNA分解酵素(DNase)により分解し、核酸としてRNAのみを含む試料が得られる。mRNAを調製する場合には、mRNAはポリA配列を含むことから、上記のように調製したRNA試料から、ポリT配列を含むDNAプローブを用いてmRNAのみを捕捉することができる。このような核酸の調製を行うために、多数のメーカーからキットが販売されており、目的とする核酸を簡便に精製することが可能である。
【0040】
また、鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグと、標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含むプライマーを準備する。二重鎖核酸タグは、移動度で区別可能な長さを有し、プライマー核酸は、標的核酸に特異的に結合して1塩基伸長反応を生じるように設計する。
【0041】
鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグは、二本鎖核酸構造を有する核酸であれば、DNA、RNA又はハイブリッド核酸のいずれであってもよい。好ましくは、二重鎖核酸は二重鎖DNAである。
【0042】
二重鎖核酸タグは、少なくとも1つの鎖間架橋を有する。本発明において「鎖間架橋」とは、二重鎖核酸における一方の鎖と他方の鎖とが少なくとも1箇所において架橋されていることを意味する。そのような2つの鎖間を分子内架橋させる方法は、当技術分野で公知の方法であれば特に限定されるものではない。好ましくは、鎖間架橋は光架橋によるものである。
【0043】
鎖間架橋には、例えば、古典的に知られているナイトロジェンマスタード、シスプラチン、カルムスチン、マイトマイシンC、ソラレン、トリオキサン(トリメチルソラレン)、マロンジアルデヒドなどの架橋分子を使用することができる(例えば、Guainazziら、Cellular and Molecular Life Sciences, 67:3683-3697, 2010)。これらの架橋分子は、塩基-塩基間に架橋分子が1分子入り込むタイプであり、A-T間又はG-C間に入り込むので、核酸分子全体でみると架橋位置はランダムであり、架橋効率は30~40%程度である。例えば、ソラレンは、350nmの光連結波長における光反応によって5'-TA-3'配列での光架橋を生じる光架橋剤であり、250nmの光開裂波長において架橋を開裂する。
【0044】
また、鎖間架橋には、オリゴ骨格に導入できる架橋分子として知られるCNV-K(分子名:5'-O-(4,4'-Dimethoxytrityl)-1'-(3-cyanovinylcarbazol-9-yl)-2'-deoxy-β-D-ribofuranosyl-3'-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)、CNV-D(分子名:3-O-(4,4'-Dimethoxytrityl)-2-N-(N-carboxy-3-cyanovinylcarbazol)-D-threonin-1-yl-O-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)などを使用することができる(例えば、特許第4940311号、Yoshimuraら、ChemBioChem, 10:1473-1476, 2009、Sakamotoら、Org. Lett., 17:936-939, 2015)。これらの分子は、反応トリガーが紫外光(366nm)による光照射を起点として、1塩基ずれた位置にある相補鎖のピリミジン塩基(チミン、シトシン若しくはウラシル)へと[2+2]環状化反応することで架橋点を形成することができる。また、核酸分子骨格に導入することができるため、架橋点を任意に設計可能である点が実用上好ましい。これらの光架橋分子は、別波長の紫外光(312nm)で励起することにより、鎖間架橋を可逆的に解離することが可能である点も実用上、重要である。光架橋分子CNV-KやCNV-Dが、入手性、コスト等の観点から特に好適である。
【0045】
他の架橋分子としては、アジド基(-N3)とアルキン基の組み合わせによるClick反応を用いた架橋分子であってもよい。このような架橋点は、例えばKocaltaら、ChemBioChem, 9:1280-1285, 2008で報告されている。特定の塩基配列に対応した架橋分子としては、例えば配列5'-CAATTA-3'/3'-GTTAAT-5'に特異的で5塩基離れたA-G間を架橋するUTA-6026が知られる(Zhouら、J. Am. Chem. Soc., 123:4865-4866, 2001)。他には、配列5'-Py(T/C)GGC(T/A)GCCPu(A/G)-3'に特異的で9塩基離れた塩基間を架橋するImImPy(Bandoら、J. Am. Chem. Soc., 123:5158-5159, 2001)や配列5'-GCTTATAATGG-3'に特異的で11塩基離れた塩基間を架橋するC8/C8′-tripyrrole-linked sequence-selective pyrrolo[2,1-c][1,4]benzodiazepine (PBD) dimer(Tiberghienら、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 18:2073-2077, 2008)等が知られる。これらの配列特異的な架橋分子は架橋点設計が可能である点がメリットである。
【0046】
鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグは、電気泳動における移動距離(移動度:mobility)を規定する。すなわち、異なる長さの二重鎖核酸タグをプライマーに連結することによって、電気泳動において移動距離を変更することができる。キャピラリー電気泳動では、約600塩基長までの鎖長の核酸を検出することができるため、標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸の鎖長(10~30塩基)を除いて、二重鎖核酸タグは、1~約590塩基長までの範囲の長さとすることができる。
【0047】
二重鎖核酸タグは、鎖間架橋を有する核酸であれば、その塩基配列は特に限定されるものではない。また、二重鎖核酸タグは、公知のオリゴヌクレオチド合成手法により化学合成することができるが、通常は、市販の化学合成装置を使用して合成される。
【0048】
標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸(本明細書中、選択的プライマーともいう)は、DNA又はRNAのいずれでもよく、標的核酸の種類、1塩基伸長反応に使用されるポリメラーゼの種類に応じて決定される。好ましくは、プライマー核酸はDNAであり、標的核酸としてDNA又はmRNAを鋳型とした1塩基伸長反応が行われる。
【0049】
プライマー核酸は、標的核酸(又は標的領域)に特異的に結合する配列を有する、すなわち標的核酸(又は標的領域)に対して相補的な配列を有するように設計される。プライマーの設計手法は当技術分野で周知であり、本発明において使用可能なプライマーは、特異的なアニーリングが可能な条件を満たす、例えば特異的なアニーリングが可能な長さ及び塩基組成(融解温度)を有するように設計される。例えば、プライマーとしての機能を有する長さとしては、10塩基以上が好ましく、さらに好ましくは15~50塩基であり、さらに好ましくは15~30塩基、例えば約20塩基である。また設計の際には、プライマーのGC含量とプライマーの融解温度(Tm)を確認することが好ましい。Tmとは、任意の核酸鎖の50%がその相補鎖とハイブリッドを形成する温度を意味し、鋳型となる標的核酸とプライマーとが二本鎖を形成してアニーリングするためには、アニーリングの温度を最適化する必要がある。一方、この温度を下げすぎると非特異的な反応が起こるため、温度は可能な限り高いことが望ましい。Tmの確認には、公知のプライマー設計用ソフトウエアを利用することができる。設計されたプライマーは、公知のオリゴヌクレオチド合成手法により化学合成することができるが、通常は、市販の化学合成装置を使用して合成される。
【0050】
本方法に使用するプライマーは、鎖間架橋二重鎖核酸タグと選択的プライマーとを含むものであるが、これらは任意の方法により結合させることができる。例えば、二重鎖核酸タグの一方の鎖と選択的プライマーを直接又はスペーサを介して結合した配列を調製した後、二重鎖核酸タグのもう一方の鎖をアニーリングさせ、二重鎖核酸部分の少なくとも1箇所において鎖間架橋を形成することによって、プライマーを調製することができる。あるいは、鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグを調製した後、直接又はスペーサーを介して選択的プライマーに結合させてもよい。結合方法は、塩基配列の相補性に基づく水素結合であってもよいし、あるいは公知のリガーゼを使用して連結されてもよい。
【0051】
一実施形態において、本方法では、長さが異なる二重鎖核酸タグと、異なる標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含む複数のプライマーを使用する。上述したように、識別可能な移動距離をもたらす二重鎖核酸タグの塩基長は1塩基である。例えば5塩基以上、好ましくは10塩基以上長さが異なる二重鎖核酸タグを、それぞれ異なるプライマーに結合する。本方法では、例えば1種類~約100種類の異なる標的核酸を同時に検出することが可能である。
【0052】
続いて、標的核酸を鋳型としてプライマーを用いた1塩基伸長反応を行う。1塩基伸長反応は当技術分野で公知であり、典型的にはポリメラーゼを用いた1塩基伸長反応である。使用するポリメラーゼは、鋳型(標的核酸)の種類及び使用するプライマーの種類によって選択される。例えば、DNA又はRNAを鋳型としたDNAプライマーを用いた1塩基伸長反応には、それぞれDNA依存性又はRNA依存性DNAポリメラーゼが使用される。
【0053】
1塩基伸長反応は当該技術分野において広く知られており、例えば非特許文献3等に、サイクル反応により効率的に1塩基を伸長させる方法などが説明されている。
【0054】
標的核酸が存在する場合には、この標的核酸に特異的に結合する選択的プライマーがハイブリダイゼーションし、選択的プライマーの3'末端部分からポリメラーゼの合成反応によって塩基が基質として取り込まれる。この時、取り込まれる塩基(基質)として、例えばジデオキシヌクレオチド(ddNTP)を用いることにより、合成反応は1塩基伸長のみで終了する。一実施形態では、修飾分子、例えば標識されたddNTPを基質として使用して1塩基伸長反応を行う。標識は、取り込まれたか否かを簡便に検出するため、又は取り込まれた塩基の種類を判定するために有用であり、当技術分野で公知の標識を使用することができる。そのような標識としては、放射性同位体(32P、125I、35Sなど)、蛍光物質、発光物質(ルシフェリンなど)などが挙げられる。蛍光物質を好ましく使用することができ、例えば限定されるものではないが、フルオレセン(FITC)、スルホローダミン(TR)、テトラメチルローダミン(TRITC)、カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)、NED、5-カルボキシフルオレセイン(5-FAM)、6-カルボキシフルオレセイン(6-FAM)、5'-ヘキサクロロフルオレセインCE-ホスホロアミダイト(HEX)、6-カルボキシ-4',5'-ジクロロ-2',7'-ジメトキシフルオレセイン(JOE)、5'-テトラクロロフルオレセインCE-ホスホロアミダイト(TET)、ローダミン110(R110)、ローダミン6G(R6G)、VIC(登録商標)、ATTO系、Alexa Fluor(登録商標)系、Cy系など、また泳動サイズにずれを生じない蛍光色素として、dR110(carboxy-dichloro rhodamine 110)、dR6G(dihydro rhodamine 6G)、dTAMRA(Tetramethyl rhodamine)、dROX(carboxy-X-rhodamine)などが挙げられる。例えば塩基の種類を判定しようとする場合には、4種類の塩基と参照用(参照ラダーDNAから塩基長を検出補正するため)の5種類を識別するために、異なる波長で励起かつ検出される5種類の蛍光物質を組み合わせて使用することができる。このような標識の種類や標識の導入方法等に関しては、特に限定されることはなく、従来公知の各種手段を用いることができる。好ましい実施形態において、修飾分子として、蛍光標識されたジデオキシヌクレオチド(ddNTP)を使用する。
【0055】
標的核酸の有無は、この1塩基伸長が生じるか否かで判定することができ、標的核酸における特定の塩基は、1塩基伸長した部分に取り込まれた塩基の種類に基づいて判定することが可能となる。例えば、一塩基多型(SNP)の検出を目的とする場合には、そのSNPの上流部分に特異的に結合する選択的プライマーを設計し、標的核酸に選択的プライマーをハイブリダイズさせ、異なる標識を有する塩基(修飾分子)を基質として使用して1塩基伸長反応を行う。取り込まれた塩基の種類を標識に基づいて判定することにより、標的核酸のSNPを検出することができる。
【0056】
1塩基伸長反応後、上述した本発明に係る目的核酸の精製方法を行う。具体的には、二重鎖核酸における鎖間架橋を解離し、二重鎖核酸、及び標的核酸とプライマーとの二重鎖核酸を熱変性処理により一本鎖核酸とし、得られた一本鎖核酸を熱変性温度下においてエクソヌクレアーゼで処理して、末端に修飾分子を有する核酸鎖以外の核酸を除去する。これらの工程は、上述したように行うことができる。
【0057】
続いて、得られた反応物をキャピラリー電気泳動(CE)に供して解析する。CEは、導入された成分を荷電、大きさ及び形状などに基づく移動度の差異で分離する手法である。本方法では、移動度に基づく標的核酸の種類と、1塩基伸長反応において取り込まれた修飾分子に基づく標的核酸の有無又は標的核酸における特定の塩基の種類とから、目的の標的核酸を検出し、及び/又は標的核酸の塩基を決定することができる。
【0058】
上述したように、本発明では、エクソヌクレアーゼを使用することにより、末端に修飾分子を有する目的核酸を精製し、そして高感度かつ高効率に遺伝子解析を行うことができる。本発明に係る方法は、例えばエクソヌクレアーゼを含むキットにより、簡便かつ迅速に実施することができる。
【0059】
したがって、さらなる態様において、本発明は、電気泳動における核酸の移動度に基づいて標的核酸を検出又は標的核酸の塩基を決定する方法において、末端に修飾分子を有する目的核酸を精製するためのキットを提供し、かかるキットは、エクソヌクレアーゼを含む。一実施形態において、エクソヌクレアーゼは、3’→5’の一本鎖核酸特異的なエクソヌクレアーゼである。また好ましい実施形態において、エクソヌクレアーゼは、耐熱性エクソヌクレアーゼ、例えば、TK1646、PhuExo I、及びPhoExo Iからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0060】
本キットは、エクソヌクレアーゼに加えて、反応液を構成するバッファー、鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグ、修飾分子(標識されたdNTP若しくはddNTP混合物)、酵素類(ポリメラーゼ、逆転写酵素など)、校正用の標準試料、使用手順や使用量などを記載した説明書などを含んでもよい。本キットは、即時使用可能な状態で提供されてもよいし、即時使用可能でない状態で提供されてもよい。そのような形態及び調製は、当業者であれば理解することができる。
【0061】
[実施例]
以下では、具体的な実施例について説明する。
【0062】
(1)鎖間架橋された二重鎖DNAタグが連結された選択的プライマーの調製
キャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法に向けた、鎖間架橋された二重鎖DNAタグが連結された選択的プライマーにおいて、架橋分子としてCNV-Dを採用した。
【0063】
モデル試料としてのオリゴヌクレオチド配列(北海道システムサイエンス社製)を表1に示した。
図6に示されるように、オリゴ1とオリゴ2間、オリゴ2とオリゴ3間で光架橋(図中、白い菱形で示す)が形成され、オリゴ1とオリゴ3間のnick(図中、点線で示す)はライゲーション処理により連結される。ここで、オリゴ1とオリゴ2は電気泳動度を調整する鎖間架橋された二重鎖DNAタグであり、オリゴ3は特定の遺伝子変異への選択的プライマーの役割を有する。特にオリゴ3は、KRAS G12類の遺伝子変異(G12D、G12V、G12A)を検出可能なように設計され、オリゴ3の3'末端側28塩基が、遺伝子に特異的に結合するように設計されている。
【0064】
【0065】
まず、各オリゴを終濃度25μMとなるように1:1:1の等比率でそれぞれバッファ溶液(1x PCR buffer for KOD-Plus Neo、2.5 mM MgSO4、東洋紡製)へ混合し、95℃ 2分→室温 20分、4℃ 20分の温度工程にて3種のオリゴをハイブリダイゼーションした。その後、T4 Ligase(New England Biolab製)を用いて室温で30分反応を行い、オリゴ1とオリゴ3間をライゲーションした。
【0066】
次に、予めオリゴ1とオリゴ2のDNA骨格中に導入したCNV-Dと1塩基ずれた位置にある相補鎖であるチミン塩基との間に、予め紫外光(波長:366nm、照射時間:1秒間)の照射により二重鎖DNA間の光架橋を形成した。得られた
図6に示した鎖間架橋された二重鎖DNAが連結された選択的プライマーは、アガロースゲル電気泳動(5%PrimeGel Agarose LMT PCR-Sieve GAT、1x TAEバッファ、タカラバイオ製)にて分離し、分離バンドをゲル切り出し後、β-Agarase(Thermostable β-Agarase、ニッポンジーン社製)を用いてゲル溶解した後、エタノール沈殿を用いて精製を行った。
【0067】
(2)選択的プライマーを使用した1塩基伸長反応
得られた鎖間架橋された二重鎖DNAタグが連結された選択的プライマー(投入量は0.1 pmol)を用いて、鋳型DNA(投入量は100 pmol/μL)と混合し、蛍光色素を有するddNTPを取り込み可能なDNAポリメラーゼ(Therminator DNA Polymerase、New England Biolab製)、蛍光色素を有するddNTP4種(終濃度1μM、R6G-ddATP、ROX-ddUTP、TAMRA-ddCTP、R110-ddGTP、Perkin Elmer製)により、96℃ 10秒→50℃ 5秒→60℃ 30秒を1サイクルとして、サイクル数40で1塩基伸長反応を行った。
【0068】
(3)耐熱性3’→5’分解エクソヌクレアーゼによる処理
その後、紫外光(312nm、2分間)の照射により二重鎖DNA間の光架橋を解離した。次に、耐熱性3’→5’分解エクソヌクレアーゼであるTK1646、補因子としてMn2+を添加し、10μg BSA 1mM MnCl2 25 mM Tris-HCl(pH9.0)溶液下で、85℃の熱変性温度下で30分間エクソヌクレアーゼ反応を行った。得られた処理溶液を0.5μL、サイズスタンダードGeneScan-120LIZを0.5μL、Hi-Di formamideを9μL混合し、95℃ 5分で変性処理を行った。
【0069】
最終的に得られたサンプルを、キャピラリー電気泳動装置(SeqStudio Genetic Analyzer、Thermo Fisher Scientific社製)にて計測を行った。得られたフラグメント解析の結果より、エクソヌクレアーゼ処理を行った後で、ピーク強度が増加し、エレクトロキネティックインジェクション時の導入効率向上に寄与することが確認された。
【0070】
本発明は、上述した実施形態及び実施例に限定されるものでなく、様々な変形例を含んでいる。例えば、上述した実施形態及び実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備える必要はない。また、ある実施形態又は実施例の一部を他の実施形態又は実施例の構成に置き換えることができる。また、ある実施形態又は実施例の構成に他の実施形態又は実施例の構成を加えることもできる。また、各実施形態又は各実施例の構成の一部について、他の実施形態又は実施例の構成の一部を追加、削除又は置換することもできる。
【符号の説明】
【0071】
100…選択的プライマー
101、201、401…鋳型分子
102、202、402…修飾分子
200…プライマー
203…鎖間架橋
204、404…鎖間架橋を有する二本鎖核酸タグ
205、405…選択的プライマー
400…末端に修飾分子を有するプライマー
406…未反応の残存プライマー
507…耐熱性の一本鎖DNA特異的3'→5'分解エクソヌクレアーゼ
【配列表フリーテキスト】
【0072】
配列番号1~3:人工(合成オリゴヌクレオチド)
【配列表】