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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057342
(43)【公開日】2023-04-21
(54)【発明の名称】ワイヤーロープ締結金具
(51)【国際特許分類】
   F16G 11/06 20060101AFI20230414BHJP
   H02G 7/00 20060101ALI20230414BHJP
   H02G 1/02 20060101ALI20230414BHJP
   F16B 2/12 20060101ALI20230414BHJP
【FI】
F16G11/06 D
H02G7/00
H02G1/02
F16B2/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021166822
(22)【出願日】2021-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】390014649
【氏名又は名称】日本地工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 曜
(74)【代理人】
【識別番号】100107951
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勉
(72)【発明者】
【氏名】柳田 学
(72)【発明者】
【氏名】吉田 義史
【テーマコード(参考)】
3J022
5G352
5G367
【Fターム(参考)】
3J022EA42
3J022EB14
3J022EC13
3J022EC22
3J022FB03
3J022FB07
3J022FB12
3J022GA04
3J022GA12
3J022GA14
3J022GB31
5G352AC01
5G367AD06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ワイヤーロープの端末処理において高い保持効率を発揮すると共に施工の効率化と確実性ならびに施工管理の簡易・明確性をもたらすことが可能なワイヤーロープ締結金具を提供すること。
【解決手段】ワイヤーロープ50の重なり部分を受ける受け金具10を、ワイヤーロープを突き上げる凸部11aに直交した底部11bを有するL型板を背合わせで連結した逆T型形とする。一方、ワイヤーロープ50の重なり部分を圧着する被せ金具20については、側壁部21aに直交した底部21bを有するL型板を固定ピン22を介して背合わせで連結した、側壁部隙間Sを有する逆T型形とする。受け金具10の底部11bと被せ金具20の底部21bが密着して締結される場合、2つの固定ピン22,22と凸部11aの下平坦部との間の隙間距離が一定値B0となるようにする。なお、2つの固定ピン22,22は凸部11aを挟む形態で配置する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーロープ(50)の重なり部分を受ける受け具(10)と、
前記受け具(10)に被せられ締結されることにより前記受け具(10)との間に少なくとも2箇所において前記ワイヤーロープ(50)の外径の2倍より小さい隙間距離(B0)を形成する被せ具(20)と、
前記受け具(10)と被せ具(20)を締結する締結具(30、40)とを備えたワイヤーロープ締結金具であって、
前記受け具(10)は、2つの前記隙間距離(B0)で挟まれた前記ワイヤーロープ(50)の重なり部分を凸状に突き上げる凸部(11a)を有する
ことを特徴とするワイヤーロープ締結金具。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤーロープ締結金具において、
前記被せ具(20)は、前記ワイヤーロープ(50)の横方向の変形を抑制する2つの側壁部(21a)を有する
ことを特徴とするワイヤーロープ締結金具。
【請求項3】
請求項2に記載のワイヤーロープ締結金具において、
前記受け具(10)は前記凸部(11a)に直交した第1平坦部(11b)を有すると共に前記被せ具(20)は前記側壁部(21a)に直交した第2平坦部(21b)を有し、
前記第1平坦部(11b)と前記第2平坦部(21b)が密着して積層されることにより、前記隙間距離(B0)が形成されるように構成されている
ことを特徴とするワイヤーロープ締結金具。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載のワイヤーロープ締結金具において、
前記凸部(11a)の表面のうち前記ワイヤーロープ(50)の重なり部分に接触する表面に対し面粗さを悪くする処理が施されている
ことを特徴とするワイヤーロープ締結金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーロープの端末処理において使用されるワイヤーロープ締結金具に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に差し込まれた電柱、街路樹等の傾斜、倒壊を防ぐ手段として、被支持物の回りにアンカー装置を複数個設置して、支線としてのワイヤーロープの一端を被支持物に係留すると共に、他端をアンカー装置に係留してワイヤーロープの張力によって被支持物を安定に支持する支線アンカーが広く利用されている。
【0003】
また、ワイヤーロープの端末部(被支持物に巻き掛けられた上側ワイヤーロープと下側ワイヤーロープの重なり部分)の把持手段として、ワイヤーグリップが広く利用されている。ワイヤーグリップの保持性能、構造・形状・寸法、製造方法、及び引張試験等についてはJIS B 2809:2018によって規定されている。
【0004】
図6は、従来のワイヤーグリップによるワイヤーロープの端末部の把持を示す説明図である。図6に示されるように、従来のワイヤーグリップはワイヤーロープを受ける本体部と、ワイヤーロープを本体部に押し付けるUボルトと、Uボルトとねじ締結しながらワイヤーロープを把持するナットとから構成されている。ワイヤーロープの重なり部分を所定の保持効率で把持するためには、複数個、例えば4個のワイヤーグリップが必要になる。1個のUボルトは2個のナットとねじ締結しているから、ワイヤーロープの端末部におけるUボルトとナットのねじ締結箇所は全部で8箇所となる。
【0005】
なお、取り付け方法については、ワイヤーロープの短い方(端部が自由端であるワイヤーロープ)がUボルトの円弧側に位置し、且つワイヤーロープの長い方(アンカー装置に直結しているワイヤーロープ)がナット側に位置するようにしてナットを締める必要がある。従って、4個のワイヤーグリップの各々について、取り付け間隔、取り付け方法、締付トルク等の施工管理を行う必要がある
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭56-162339号公報
【特許文献2】特開2014-98435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のワイヤーグリップの場合、アンカー装置側においてもワイヤーロープの端末部を4個のワイヤーグリップで把持する必要がある。そのため、1つのワイヤーロープについて8個(=4個×2)のワイヤーグリップが必要となり、Uボルトとナットのねじ締結箇所は合計16個(=8個×2)に及ぶことになる。
【0008】
このように、従来のワイヤーグリップによるワイヤーロープの端末処理の場合、ワイヤーグリップの使用個数が多いことから、管理項目(取り付け間隔、取り付け方法、ナットの緩み等)が多くなる。その結果、施工作業、施工管理が複雑になる。その結果、施工者および施工状況によっては、人為的ミスを誘発し確実にワイヤーグリップの把持性能を発揮させることは難しい場合があった。
【0009】
また、昨今、高速道路の遮音壁や防護柵の落下防止、移植樹の倒壊防止等に使用されるワイヤーロープについて、耐候性の問題から被覆(PVC等)ワイヤーロープが採用されるケースが増加している。
【0010】

そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであり、その目的は、ワイヤーロープの端末処理において高い保持効率を発揮しながら施工の効率化と確実性ならびに施工管理の簡易・明確性をもたらし、被覆ワイヤーロープに対しても適用可能なワイヤーロープ締結金具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係るワイヤーロープ締結金具は、ワイヤーロープ(50)の重なり部分を受ける受け具(10)と、前記受け具(10)に被せられ締結されることにより前記受け具(10)との間に少なくとも2箇所において前記ワイヤーロープ(50)の外径の2倍より小さい隙間距離(B0)を形成する被せ具(20)と、前記受け具(10)と被せ具(20)を締結する締結具(30、40)とを備えたワイヤーロープ締結金具100であって、前記受け具(10)は、2つの前記隙間距離(B0)で挟まれた前記ワイヤーロープ(50)の重なり部分を凸状に突き上げる凸部(11a)を有することを特徴とする。
【0012】
上記構成では、隙間距離(B0)と隙間距離(B0)で挟まれたワイヤーロープ(50)の重なり部分は、凸部(11a)によって凸状に突き上げられる。凸状に突き上げられたワイヤーロープ(50)の重なり部分では、引張荷重が作用する場合、ワイヤーロープ(50U)が凸状から直線状に戻ろうとする復元力が発生する。この復元力は、凸部(11a)による突き上げ方向とは逆向きにワイヤーロープ(50)の重なり部分に対し作用する。これにより、この復元力が締結力としてワイヤーロープ(50)の重なり部分に対し作用すること(第2把持)になる。なお、この締結力は、ワイヤーロープ(50U)に作用する引張荷重が大きくなる程大きくなる特性を有している。
【0013】
このように、ワイヤーロープ(50)の重なり部分は、隙間距離(B0)による一定の締結力で把持される(第1把持)と共に、2つの第1把持で挟まれた締結力が引張荷重に比例して大きくなる第2把持とによって把持されることになるため、従来複数個必要であったワイヤーグリップを1個のワイヤーロープ締結金具に集約することが可能となる。使用されるワイヤーロープ締結金具が1個に集約されることにより、施工作業を効率良く、確実に行うことが可能となると共に、施工管理についても簡易かつ明確に行うことが可能となる。
【0014】
本発明に係るワイヤーロープ締結金具の第2の特徴は、前記被せ具(20)は、前記ワイヤーロープ(50)の横方向の変形を抑制する2つの側壁部(21a)を有することである。
【0015】
上記構成では、2つの側壁部(21a)によって第1把持の締結力と第2把持の締結力は効率良くワイヤロープ(50)の重なり部分に印加されることになる。これにより、ワイヤーロープ(50)の重なり部分において強い摩擦が生じ、ワイヤーロープ締結金具100の保持効率がより向上することになる。
【0016】
本発明に係るワイヤーロープ締結金具の第3の特徴は、前記受け具(10)は前記凸部(11a)に直交した第1平坦部(11b)を有すると共に前記被せ具(20)は前記側壁部(21a)に直交した第2平坦部(21b)を有し、前記第1平坦部(11b)と前記第2平坦部(21b)が密着して積層されることにより、前記隙間距離(B0)が形成されるように構成されていることである。
【0017】
上記構成では、第1平坦部(11b)と第2平坦部(21b)との間の隙間の有無による目視確認によって、第1把持の状態を管理することが可能となる。つまり、ねじ締結に対する締付トルクの管理が不要となる。これによりワイヤーロープ締結金具100についての施工管理を簡易かつ明確にすることが可能となる。
【0018】
本発明に係るワイヤーロープ締結金具の第4の特徴は、前記凸部(11a)の表面のうち前記ワイヤーロープ(50)の重なり部分に接触する表面に対し面粗さを悪くする処理が施されていることである。
【0019】
上記構成では、ワイヤーロープ(50)と凸部(11a)との接触面(S3、S4、S6)において強い摩擦が発生し、これによりワイヤーロープ締結金具の保持効率が向上することになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のワイヤーロープ締結金具(100)によれば、ワイヤーロープの重なり部分(端末部)は、受け具(10)と被せ具(20)との間の隙間距離(B0)に起因して締結力を発生する第1把持と、第1把持に挟まれた凸状に突き上げられたワイヤーロープ(50)に引張荷重が作用することにより締結力を発生する第2把持とによって把持されることになる。その結果、ワイヤーロープ(50)との重なり部分、並びにワイヤーロープ(50)と受け具(10)との接触部分において強い摩擦が発生し、これにより本ワイヤーロープ締結金具は高い保持効率を発揮することになる。その結果、ワイヤーロープの端末処理において使用される本ワイヤーロープ締結金具の個数を1つに集約することが可能となり、これにより施工作業の効率化を図ることができる。
【0021】
また、受け具(10)の第1平坦部(11b)と、被せ具(20)の第2平坦部(21b)が密着して締結具(30、40)によって締結されることにより、受け具(10)と被せ具(20)との間の隙間距離が一定(B0)に保持され、これにより第1把持が発揮されることになる。その結果、第1把持が発揮されているか否かの確認作業は、第1平坦部(11b)と第2平坦部(21b)が密着していること(隙間が生じていないこと)の目視確認のみによって行うことができるようになる。これにより、第1把持において締結具(30、40)の締付トルクの管理が不要となり、第1把持における確認作業が簡易化することになる。これにより、人為的ミス(ヒューマンエラー)を少なくすることが可能となる。
【0022】
また、第2把持は、ワイヤーロープ(50)に引張荷重が作用し、凸状のワイヤーロープ(50)が直線状に戻ろうとする復元力によって締結力を発生する機構である。そのため、本ワイヤーロープ締結金具をワイヤーロープ(50)に組み付けた後は、第2把持についての施工管理は特に不要となる。その結果、第1把持における確認作業の簡易化と相俟って、ワイヤーロープ(50)の端末処理についての施工管理の簡易化・明確化を図ることができる。
【0023】
また、本発明のワイヤーロープ締結金具が第1把持と第2把持による高い保持効率を有することにより、被覆ワイヤーロープにおいても確実に把持することが可能となる。
【0024】
更に、第2把持が発揮される機構を最適化することで、締結金具の小型・軽量化を図ることが可能となる。
【0025】
また、締結金具の小型・軽量化により、作業性・運搬性の向上とコスト低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係るワイヤーロープ締結金具を示す説明図である。
図2】本発明に係る受け金具を示す説明図である。
図3】本発明に係る被せ金具を示す説明図である。
図4】本発明に係る第1把持および第2把持についてのワイヤーロープの重なり部分に対する各締結力を発生する機構を示す説明図である。
図5】2つの固定ピンと凸部との相対位置関係ならびに凸部の形状を示す説明図である。
図6】従来のワイヤーグリップによるワイヤーロープの端末部の把持を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係るワイヤーロープ締結金具100を示す説明図である。図1(a)はワイヤーロープ締結金具100の正面図であり、図1(b)はワイヤーロープ締結金具100の平面図である。なお、説明の都合上、図1(b)ではワイヤーロープ50及び被支持物60についての図示を省略してある。
【0029】
このワイヤーロープ締結金具100は、被支持物60(例えば、電柱または街路樹)の傾斜、倒壊を防止するワイヤーロープ50(支線)の端末部(被支持物60に巻き掛けられた上側ワイヤーロープ50Uと下側ワイヤーロープ50Lの重なり部分で、以下「ワイヤーロープ50の重なり部分」とも言う。)を締結するための締結金具(把持具)であり、高い保持効率を有している。なお、ここで言う「保持効率」とは、定量的には、本発明のワイヤーロープ締結金具100によって端末部を締結されたワイヤーロープについての引張試験を行い、その引張試験で得られた破断荷重BL*を、製造メーカーが保証するワイヤーロープ単体についての指定破断荷重BL0で除した値の百分率(=BL*/BL0×100)を意味している。なお、引張試験での破断荷重BL*は、複数の試験体についての実際の破断荷重の平均値(BLm)からその標準偏差(σ)の4倍を減算した値(BLm-4σ)を採用している。因みに、本発明のワイヤーロープ締結金具100は、規格9-11及び規格10-12のワイヤーロープ50に対し、1個のみで80%以上の高い保持効率を発揮している。
【0030】
そのため、従来のワイヤーグリップでは、所定の保持効率(例えば80%以上)を発揮するためには複数個のワイヤーグリップが必要であったが、本発明のワイヤーロープ締結金具100では1個のみで所定の保持効率(例えば80%以上)を発揮することができるように構成されている。以下、本発明のワイヤーロープ締結金具100の構成について説明する。
【0031】
図1(a)に示されるように、本発明のワイヤーロープ締結金具100の構成としては、ワイヤーロープ50を凸状に突き上げる(隆起させる)凸部11aを有する受け金具10と、ワイヤーロープ50を受け金具10に圧着する2つの固定ピン22,22を有する被せ金具20と、受け金具10と被せ金具20を締結するボルト30及びナット40とを具備して構成されている。
【0032】
図1(b)に示されるように、受け金具10は、側面矢視で2つのL型板が背合わせで直に連結した逆T型形を成している。一方、被せ金具20は、側面矢視で2つのL型板が背合わせで固定ピン22を介して連結した隙間を有する逆T型形を成している。受け金具10の凸部11aは、被せ具20の側壁部隙間(側壁部21aと側壁部21aとの間の隙間)Sに嵌まると共に、受け金具10の底部11bは被せ金具20の底部21bに密着して積層することができるように構成されている。
【0033】
従って、受け金具10の底部11bが被せ金具20の底部21bに密着して積層した状態では、固定ピン22と凸部11aの下平坦部との間の隙間距離Bが一定値(B0)となる。これにより、ワイヤーロープ50の重なり部分は、固定ピン22と凸部11aの下平坦部との間で圧着され所定の締結力で把持されること(第1把持)になる。なお、第1把持は固定ピン22を中心として2箇所で発生する。他方、第1把持と第1把持で挟まれたワイヤーロープ50の重なり部分は、受け金具10の凸部11aの台形部によって凸状に突き上げられることになる。
【0034】
この凸状に突き上げられたワイヤーロープ50の重なり部分に、引張荷重が作用する場合、凸状から直線状に戻ろうとする復元力が発生する。その結果、第1把持と第1把持で挟まれたワイヤーロープ50の重なり部分は、この復元力に起因する締結力で把持されること(第2把持)になる。なお、この第2把持の締結力は上側ワイヤーロープ50Uに作用する引張荷重が大きくなる程大きくなる特性を有している。これら第1把持および第2把持の詳細については図4を参照しながら後述する。また、ここで言う「上側ワイヤーロープ50U」とは、他端がアンカー装置に接続されたワイヤーロープ50を意味しており、同様に「下側ワイヤーロープ50L」とは、他端が自由端であるワイヤーロープ50を意味しており、上下位置関係を意味しているのではない。
【0035】
また、ボルト30と受け金具10の底部11bとの間にはワッシャを入れることが望ましいが、無くても良い。
【0036】
ナット40は、緩みを防止するため、例えばセルフロックナットを使用することが望ましい。或いは、2つのナット40をボルト30に螺合させて、内側のナット40を少しだけ緩む方向に戻すことにより内外のナット40,40が相互に軸方向に押し合い、ナット40,40が容易に緩まないようにする、いわゆるダブルナットを使用することも可能である。以下、各構成について更に説明する。
【0037】
図2は、本発明に係る受け金具10を示す説明図である。図2(a)は受け金具10の平面図であり、図2(b)は受け金具10の正面図であり、図2(c)は受け金具10の右側面図である。
【0038】
図2(c)に示されるように、受け金具10は、凸形状に形成された凸部11aと、凸部11aに直交して平坦状に形成された底部11bと、凸部11aと底部11bを滑らかに連結するR部11cとから成るL型板11同士が、背合わせの状態で一体化され、全体として逆T型形を成している。2つのL型板11,11の結合手段としては、例えば溶接または締結具が挙げられる。なお、受け金具10はL型板11の2ピース構造ではなく、一体構造とすることも可能である。
【0039】
図2(a)に示されるように、底部11bは例えば半円形状に形成されている。なお、底部11bは凸部11aに直交して平坦状に形成されていれば良く、その平面形状は問わない。また、底部11bにはボルト30を通すための貫通穴11b1が形成されている。
【0040】
図2(b)に示されるように、凸部11aは、左下平坦部11a1、左斜辺部11a2、上平坦部11a3、右斜辺部11a4、及び右下平坦部11a5とから構成されている。なお、左斜辺部11a2、上平坦部11a3、および右斜辺部11a4については「台形部」とも言う場合がある。また、左下平坦部11a1および右下平坦部11a5については「下平坦部」とも言う場合がある。
【0041】
左斜辺部11a2、上平坦部11a3、および右斜辺部11a4の各寸法については、受け金具10の底部11bと被せ金具20の底部21bが密着して積層した状態において、ワイヤーロープ50と凸部11aの台形部との間に隙間が生じることがないように決定されている。これについては図5を参照しながら後述する。
【0042】
また、左下平坦部11a1及び右下平坦部11a5の各角部については、第1把持又は第2把持が発揮されている状態において、ワイヤーロープ50を損傷することがないようにR処理または面取り処理が施されている。
【0043】
また、図2(a)に示されるように、凸部11aのうちワイヤーロープ50に接する面、例えば上平坦部11a3及び左・右斜辺部11a2,11a4については、ワイヤーロープ50の滑りを抑制する機構、例えば粗面構造を成していることが望ましい。なお、左下平坦部11a1および右下平坦部11a5についても粗面構造を形成するようにしても良い。
【0044】
図3は、本発明に係る被せ金具20を示す説明図である。図3(a)は被せ金具20の平面図であり、図3(b)は被せ金具20の正面図であり、図3(c)は被せ金具20の右側面図である。
【0045】
図3(c)に示されるように、被せ金具20は、矩形状に形成された側壁部21aと、側壁部21aに直交して平坦状に成形された底部21bと、側壁部21aと底部21bを滑らかに連結するR部21cとから成るL型板21同士が隙間を空けて、背合わせの状態で2つの固定ピン22,22によって一体化され隙間を有する逆T型形を成している。固定ピン22と側壁部21aとの結合手段としては、例えば溶接が挙げられる。
【0046】
また、側壁部21aには固定ピン22の縮径部を差し込むための貫通穴21a1が形成されている。
【0047】
図3(a)に示されるように、底部21bは例えば半円形状に形成されている。なお、底部21bは側壁部21aに直交して平坦状に形成されていれば良く、その平面形状は問わない。また、底部21bにはボルト30を通すための貫通穴21b1が形成されている。
【0048】
2つの側壁部21a,21aは互いに平行となるように配置されている。2つの側壁部21a,21aは、ワイヤーロープ50の横方向への変形を抑制し、これにより第1把持の締結力と第2把持の締結力は効力良くワイヤーロープ50に印加されることになる。
【0049】
側壁部21aと側壁部21aとの間の側壁部隙間Sには、受け金具10の凸部11aが嵌まる。底部21bには受け金具10の底部11bが密着して積層するように構成されている。
【0050】
図3(b)に示されるように、側壁部21aは例えば矩形状を成している。なお、側壁部21aは底部21bに直交し、更には固定ピン22を固定することができれば良く、その正面形状は問わない。
【0051】
図4は、本発明に係る第1把持および第2把持についてのワイヤーロープ50の重なり部分に対する各締結力を発生する機構を示す説明図である。図4(a)はワイヤーロープ50の重なり部分が被せ金具20の側壁部21a間を通された状態を表している。図4(b)はワイヤーロープ50の重なり部分に対し第1把持が発揮された状態を表している。図4(c)はワイヤーロープ50の重なり部分に対し第2把持が発揮された状態を表している。
【0052】
図4(a)に示されるように、先ず被支持物60に係留したワイヤーロープ50の重なり部分は、例えば被せ金具20の側壁部21a間(側壁部隙間S)を通される。次に、受け金具10の凸部11aの台形部が、被せ金具20の側壁部21a間(側壁部隙間S)と、固定ピン22間に通される。受け金具10と被せ金具20の位置決めについては、ボルト30が受け金具10の貫通穴11b1(図2)と被せ金具20の貫通穴21b1(図3)を通るように行うことができる。
【0053】
ナット40をボルト30に螺合させた後、ナット40を固定しながらボルト30を回転させることにより、被せ金具20の底部21bと受け金具10の底部11bをねじ締結する。ボルト30を回転させることにより、被せ金具20の底部21bと受け金具10の底部11bとの間の隙間距離Gが小さくなる。同時に、凸部11aの台形部がワイヤーロープ50の重なり部分を上方に凸状に突き上げる。
【0054】
図4(b)に示されるように、被せ金具20の底部21bが受け金具10の底部11bに密着して積層し、被せ金具20の底部21bと受け金具10の底部11bとの間の隙間距離Gがゼロになる場合、固定ピン22と凸部11aの下平坦部11a1,11a5との間の隙間距離Bが最小値B0となる。この場合、被支持物60に係留したワイヤーロープ50の重なり部分については、被せ金具20の2つの側壁部21a,21aに挟まれながら、2つの固定ピン22,22と凸部11aの下平坦部11a1,11a5とによって2箇所で圧着されている。
【0055】
これにより、ワイヤーロープ50の重なり部分は、固定ピン22と凸部11aの下平坦部11a1,11a5との間の隙間距離B0に対応した締結力F1で把持されること(第1把持)になる。その結果、上側ワイヤーロープ50Uと下側ワイヤーロープ50Lとの重なり部分S1,S2において強い摩擦が発生し、これにより上側ワイヤーロープ50Uと下側ワイヤーロープ50Lとの間の相対変位が抑制されることなる。
【0056】
同様に、下側ワイヤーロープ50Lと凸部11aの下平坦部11a1,11a5との重なり部分S3,S4においても強い摩擦が発生し、これにより下側ワイヤーロープ50Lの凸部11a(受け金具10)に対する相対変位が抑制されることになる。結果的に、2つの第1把持による締結力F1,F1によってワイヤーロープ50の重なり部分は受け金具10及び被せ金具20に対し静止することになる。
【0057】
図4(c)に示されるように、2つの第1把持(固定ピン22,22)に挟まれたワイヤーロープ50の重なり部分、特に上側ワイヤーロープ50Uについて見ると、アンカー装置方向へ引張荷重F2が作用する場合、反力として被支持物60の方向に引張荷重F2が作用し、これにより上側ワイヤーロープ50Uに図の左右方向に引張荷重F2が作用する形となる。その結果、上側ワイヤーロープ50Uは凸状から直線状に戻ろうとする復元力F3が発生する。この復元力F3は、2つの第1把持(固定ピン22,22)に挟まれたワイヤーロープ50の重なり部分を、受け金具10の凸部11a側に圧着させるように作用する。これにより、2つの第1把持(固定ピン22,22)に挟まれたワイヤーロープ50の重なり部分は、上側ワイヤーロープ50Uに作用する引張荷重F2に対応した締結力F3で把持されること(第2把持)になる。その結果、上側ワイヤーロープ50Uと下側ワイヤーロープ50Lとの重なり部分S5において強い摩擦が発生し、これにより上側ワイヤーロープ50Uと下側ワイヤーロープ50Lとの間の相対変位が抑制されることなる。
【0058】
同様に、下側ワイヤーロープ50Lと凸部11aの台形部との重なり部分S6においても強い摩擦が発生し、これにより下側ワイヤーロープ50Lの凸部11a(受け金具10)に対する相対変位が抑制されることになる。
【0059】
このように、第2把持に係る締結力F3が発揮されるためには、第1把持に係る締結力F1が発揮された状態であって、2つの第1把持(固定ピン22,22)に挟まれたワイヤーロープ50の重なり部分が凸状に突き上げられていること、更には上側ワイヤーロープ50Uに引張荷重F2が作用していることが必要となる。なお、第2把持に係る締結力F3は、上側ワイヤーロープ50Uに作用する引張荷重F2が大きければ大きい程大きくなる特性を有している。
【0060】
まとめると、第1把持に係る締結力F1が発揮されるためには、2つの固定ピン22,22と凸部11a(下平坦部11a1,11a5)との間の隙間距離B0が適切に確保されていることが必要となる。それに加えて、強い摩擦を示すワイヤーロープ50の重なり部分S1,S2,S3,S4が適切に確保されていることが必要となる。
【0061】
他方、第2把持に係る締結力F3が発揮されるためには、2つの固定ピン22,22(2つの第1把持)に挟まれた上側ワイヤーロープ50Uと下側ワイヤーロープ50Lとの重なり部分S5と、下側ワイヤーロープ50Lと凸部11aの台形部との重なり部分S6が適切に確保されていることが必要となる。以下では、これらのワイヤーロープ50の重なり部分S1,S2,S3,S4,S5,S6を確保するための、2つの固定ピン22,22と凸部11aとの相対位置関係ならびに凸部11aの形状について説明する。
【0062】
図5は、2つの固定ピン22,22と凸部11aとの相対位置関係ならびに凸部11aの形状を示す説明図である。
A寸法は、2つの固定ピン22,22の中心間距離を表している。被せ金具20の側壁部21aの幅Wは一定であるため、A寸法が長くなると、第2把持に係る凸部11aの台形部(左斜辺部11a2,上平坦部11a3,右斜辺部11a4)の幅は大きく確保することが可能となる。一方、A寸法が短くなると、第2把持に係る凸部11aの台形部の幅は小さくなる。
【0063】
B0寸法は、2つの固定ピン22,22と左・右下平坦部11a1,11a5との間の隙間距離を表している。B0寸法が短くなると、ワイヤーロープ50の潰し率(=ワイヤーロープ50の直径×2/BO)が高くなるため第1把持に係る締結力F1は大きくなる。一方、B0寸法が長くなると、ワイヤーロープ50の潰し率が低くなるため第1把持に係る締結力F1は小さくなる。
【0064】
C寸法は、左斜辺部11a2の左端と右斜辺部11a4の右端との間の水平距離を表している。D寸法は、上平坦部11a3の水平距離を表している。E寸法は、左・右斜辺部11a2,11a4の垂直距離を表している。つまり、C,D,E寸法は、第2把持に係る凸部11aの台形部に関する寸法を規定している。すなわち、C寸法は、凸部11aの台形部の上底の長さを規定していると見ることができる。また、D寸法は台形部の上底の長さを規定していると見ることができる。更に、E寸法は台形部の高さを規定していると見ることができる。因みに、斜辺部の傾斜角度θは下記の通り算出される。
[数1]:θ=tan-1(2E/(C-D))
また、図5(b)に示されるように、2つの固定ピン22,22と凸部11aの斜辺部11a2,11a4との間の隙間距離hは、”X軸”を左下平坦部11a1に、”Y軸”を固定ピン22の中心を通るように設定することにより、点(0,b)から直線(Y=tanθ×(X-a))に下ろした垂線の長さに帰着され、下記の通り算出される。
[数2]:h=a×sinθ+b×cosθ-r
但し、a≡(A-C)/2、b≡B0+r、r≡固定ピン22の胴部の半径
【0065】
一般に、C寸法が大きくなる場合、第2把持が発揮される台形部(左斜辺部11a2,上平坦部11a3,右斜辺部11a4)を大きく確保することができるため、保持効率が高くなる傾向にある。
【0066】
また、A寸法とC寸法に着目すると、C寸法がA寸法に近くなる場合([数2]のaが小さくなる場合)、2つの固定ピン22,22と凸部11aの斜辺部11a2,11a4との間の隙間距離hが狭くなり、これによりワイヤーロープ50の潰し率(ワイヤーロープ50の直径×2/隙間距離h)が大きくなり、保持効率が高くなる傾向にある。
【0067】
しかし、隙間距離hにおける潰し率が一定以上になると、ワイヤーロープ50は芯を潰される形態になるため、ボルト締付が固くなる。すなわち、隙間距離hにおける潰し率が一定以上になると、ワイヤーロープ50の端末処理に係る施工性が悪くなる。
【0068】
また、E寸法が大きくなる場合、第2把持が発揮される台形部(左斜辺部11a2,上平坦部11a3,右斜辺部11a4)が大きくなるため保持効率が高くなる。しかし、上記[数1]よりE寸法が大きくなる場合、斜辺部の傾斜角度θも大きくなる。その結果、隙間距離hにおける潰し率も大きくなるため、ボルト締付が固くなる。
【0069】
同様に、D寸法が大きくなる場合、強い摩擦を示すワイヤーロープ50の重なり部分S5,S6(図4(c))が大きくなるため保持効率が高くなる傾向にある。しかし、D寸法が大きく場合、強い摩擦によりワイヤーロープ50の重なり部分S5,S6(図4(c))においてワイヤーロープ50が損傷する場合がある。
【0070】
また、上記[数1]よりD寸法が大きくなる場合、斜辺部の傾斜角度θも大きくなる。その結果、隙間距離hにおける潰し率も大きくなるためボルト締付が固くなり、ワイヤーロープ50の端末処理に係る施工性が悪くなる。
【0071】
以上の通り、本発明のワイヤーロープ締結金具100によれば、ワイヤーロープの端末処理において高い保持効率を発揮すると共に施工の効率化と確実性ならびに施工管理の簡易・明確性をもたらし、被覆ワイヤーロープに対しても好適に適用可能となる。
【0072】
特に、ワイヤーロープ50の重なり部分については、2つの固定ピン22,22と左・右下平坦部11a1,11a5との間の隙間距離B0による第1把持と、両端を第1把持によって締結された上側ワイヤーロープ50Uに引張荷重が作用し凸形状から直線状に戻ろうする復元力が締結力として作用することによる第2把持とによって把持されることになる。なお、第2把持の締結力は、上側ワイヤーロープ50Uに作用する引張荷重が大きくなる程大きくなる特性を有している。これにより、ワイヤーロープ50の重なり部分を高い保持効率で把持することが可能となる。
【0073】
本発明のワイヤーロープ締結金具100は高い保持効率を有しているため、従来のワイヤーグリップでは所定の保持効率を発揮するためには複数個が必要となったが、本発明のワイヤーロープ締結金具100では1個で所定の保持効率を発揮することが可能となる。その結果、ワイヤーロープ50の重なり部分を把持する締結具(ボルト・ナット)の個数についても必要最小限の2個で足りることになる。これにより、施工を容易にすると共に施工に係る時間を大幅に短縮することが可能となる(施工の効率化)。
【0074】
また、第1把持の締結力は、2つの固定ピン22,22と左・右下平坦部11a1,11a5との間の隙間距離Bが所定の隙間距離B0を確保することにより発生する。この隙間距離B0は被せ金具20の底部21bと受け金具10の底部11bとの間の隙間距離G(図4(a))がゼロになること対応している。そのため、本発明のワイヤーロープ締結金具100によって把持されたワイヤーロープ50の端末部についての施工管理については、被せ金具20の底部21bと受け金具10の底部11bとの間の隙間距離Gがゼロであることによって行うことが可能となる。その結果、ボルト30についての締付トルクの管理は不要となり、施工管理を簡易かつ明確にし、人的ミスを抑制することが可能となる(施工の確実性)。
【0075】
更に、本発明のワイヤーロープ締結金具100は、第1把持と上側ワイヤーロープ50Uに作用する引張荷重が大きい程締結力が大きくなる第2把持とによってワイヤーロープ50の端末部を把持するため、被覆されたワイヤーロープ50の端末部に対しても好適に把持することが可能となる。
【0076】
以上、図面を参照しながら本発明の一実施形態であるワイヤーロープ締結金具100について説明したが、本発明の実施形態は上記に限定されることはない。すなわち、本発明の技術的範囲内において種々の修正・変更をすることが可能である。例えば、受け金具10及び被せ金具20については同等以上の強度・剛性を有するプラスチック材で作られていても良い。また、固定ピン22は2個ではなく3個以上設けても良い。
【符合の説明】
【0077】
10 受け金具(受け具)
11 L型板
11a 凸部
11b 底部(第1平坦部)
11c R部(円弧部)
11a1 左下平坦部
11a2 左斜辺部
11a3 上平坦部
11a4 右斜辺部
11a5 右下平坦部
11b1 貫通穴
20 被せ金具(被せ具)
21 L型板
21a 側壁部
21b 底部(第2平坦部)
21c R部(円弧部)
21a1 貫通穴
21b1 貫通穴
22 固定ピン(ピン)
30 ボルト
40 ナット
50 ワイヤーロープ
50U 上側ワイヤーロープ
50L 下側ワイヤーロープ
60 被支持物
100 ワイヤーロープ締結金具
S 側壁部隙間
G 被せ金具の底部と受け金具の底部との間の隙間距離
A 2つの固定ピンの中心間距離
B,B0 2つの固定ピンと左・右下平坦部との間の隙間距離
C 左斜辺部の左端と右斜辺部の右端との間の水平距離
D 上平坦部の水平距離
E 左・右斜辺部の垂直距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6