(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023000574
(43)【公開日】2023-01-04
(54)【発明の名称】鎖間架橋化二重鎖DNAによる核酸分子の標識
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6876 20180101AFI20221222BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20221222BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20221222BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z
C12Q1/6869 Z
C12N15/09 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021101485
(22)【出願日】2021-06-18
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横井 崇秀
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR42
4B063QR58
4B063QR62
4B063QS28
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】キャピラリー電気泳動における1塩基伸長反応法を改善するための方法及び手段を提供すること。
【解決手段】試料中の標的核酸の存在を検出する及び/又は標的核酸の塩基を決定する方法であって、標的核酸を含む又は含むことが疑われる試料を準備し、鎖間架橋203を有する二重鎖核酸タグ204と、標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸205とを含むプライマー200を準備し、前記標的核酸を鋳型として前記プライマーを用いた1塩基伸長反応を行い、得られた反応物をキャピラリー電気泳動に供して解析することを含む方法。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグと、標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含むことを特徴とするプライマー。
【請求項2】
前記二重鎖核酸タグが、電気泳動における移動距離を規定する、請求項1に記載のプライマー。
【請求項3】
前記二重鎖核酸タグが、少なくとも1つの鎖間架橋を有する、請求項1に記載のプライマー。
【請求項4】
前記鎖間架橋が光架橋によるものである、請求項1に記載のプライマー。
【請求項5】
前記二重鎖核酸が二重鎖DNAである、請求項1に記載のプライマー。
【請求項6】
請求項1に記載のプライマーを含む、遺伝子解析用キット。
【請求項7】
前記プライマーが、長さが異なる二重鎖核酸タグと、異なる標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含む複数のプライマーを含む、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
前記遺伝子解析が、キャピラリー電気泳動(CE)による遺伝子解析である、請求項6に記載のキット。
【請求項9】
鎖間架橋二重鎖核酸分子を含むことを特徴とするプライマー標識用キットであって、
前記鎖間架橋二重鎖核酸分子が、鎖間架橋二重鎖核酸単位を少なくとも1つ含み、
前記鎖間架橋二重鎖核酸単位が、
少なくとも1つの鎖間架橋形成塩基を含む第1の塩基配列、及び少なくとも1つの鎖間架橋形成塩基を含む第2の塩基配列を含む第1のオリゴヌクレオチドと、
第2の塩基配列に対して相補的でありかつ第2の塩基配列中の前記鎖間架橋形成塩基と鎖間架橋を形成する塩基を含む配列、及び第1の塩基配列に対して相補的でありかつ第1の塩基配列中の前記鎖間架橋形成塩基と架橋を形成する塩基を含む配列を含む第2のオリゴヌクレオチドと
を含み、第1のオリゴヌクレオチド中の第1の塩基配列と第2のオリゴヌクレオチド中の第1の塩基配列に対して相補的な配列とが二重鎖核酸を形成している、プライマー標識用キット。
【請求項10】
前記鎖間架橋形成塩基が、光応答性の鎖間架橋形成塩基である、請求項9に記載のキット。
【請求項11】
前記鎖間架橋二重鎖核酸分子が、前記鎖間架橋二重鎖核酸単位を2以上含み、2以上の前記鎖間架橋二重鎖核酸単位が、第1のオリゴヌクレオチド中の第2の塩基配列と第2のオリゴヌクレオチド中の第2の塩基配列に対して相補的な配列とが二重鎖核酸を形成することにより連結している、請求項9に記載のキット。
【請求項12】
異なる数の前記鎖間架橋二重鎖核酸単位を含む複数の鎖間架橋二重鎖核酸分子を含む、請求項9に記載のキット。
【請求項13】
試料中の標的核酸の存在を検出する及び/又は標的核酸の塩基を決定する方法であって、
標的核酸を含む又は含むことが疑われる試料を準備し、
鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグと、前記標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含むプライマーを準備し、
前記標的核酸を鋳型として前記プライマーを用いた1塩基伸長反応を行い、
得られた反応物をキャピラリー電気泳動に供して解析する
ことを含む方法。
【請求項14】
前記プライマーが、長さが異なる二重鎖核酸タグと、異なる標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含む複数のプライマーを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記1塩基伸長反応が、修飾塩基を基質として使用して行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記修飾塩基が、蛍光標識されたジデオキシヌクレオチド(ddNTP)を含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子、特に核酸分子の計測において、電気泳動の移動度に基づいて遺伝子解析するための方法及び手段に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノムには多様な個体差が存在しており、それらゲノム配列の違いは疾患や薬剤応答の指標として有用なバイオマーカである。ゲノム変異の検出方法は主として、PCRによる検出、シーケンサを用いた塩基配列解析、1塩基伸長反応解析法(特許文献1)が用いられている。
【0003】
近年のゲノム科学の進展により、大規模な解析が可能な超並列シーケンサを利用したゲノム変異のパネル検査が利用可能となった。多数の遺伝子変異を同時に解析することにより、多くの疾患や治療法選択の判断を同時に可能となり、なかでも液体生検によるがん検診は今後大きな進展が期待されている。液体生検は血液を利用した検査であることから、侵襲性が低いこと、全身のがんを検査対象にできること、から新しいがん検診として研究が進められている(非特許文献1)。一方、これらの液体生検を用いたがん検診技術の社会実装を想定するとその解析コストが課題である。高額な超並列シーケンサに代替する低コストな多変異検査技術の開発が液体生検によるがん検診の社会実装に必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cohen, J.D. et al., Science 第359巻第926-930頁 (2018)
【非特許文献2】Coutinho, A. et, al., PLOS ONE 第9巻第3号 e93292 (2014)
【非特許文献3】Dias-Santagata, D. et al., EMBO Molecular Medicine 第2巻第146-158頁 (2010)
【非特許文献4】Meagher, R.J. et al., Anal. Chem. 第79巻第1848-1854頁 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低コストで多種類の遺伝子変異を検出可能な技術の一例として、キャピラリー電気泳動法(CE)を用いたフラグメント解析手法が挙げられる(
図1)。この手法では各標的変異ごとに区別可能なように電気泳動距離が変わるように設計され、かつ検出したい変異を含む遺伝子配列101に相補的となるように設計された選択的プライマー100を用いる。このようなプライマーを用いて、標的となる遺伝子変異が存在する場合に、ポリメラーゼ合成反応によって、ちょうど遺伝子変異(典型的には一塩基多型、SNP)に対応するプライマーの3'末端位置に、4種の蛍光色素102で修飾されたジデオキシヌクレオチド(ddNTP)が付与される。このような手法は1塩基伸長反応と呼ばれている。1塩基伸長反応によって、末端に修飾分子を有する遺伝子変異ごとに伸長されたプライマーを、一本鎖DNA化した後に、キャピラリー電気泳動法を用いて泳動分離し、3'末端の蛍光色素を蛍光検出することで、最終的に遺伝子変異が検出される。
【0007】
蛍光標識1塩基伸長反応法は電気泳動の移動度を遺伝子識別の指標とするため、使用するプライマー長の長さの調整や、それらプライマーに移動度を変更するタグ標識を行うことによって信号が検出される位置を変えて多項目同時検出が可能である。Coutinhoらの文献(非特許文献2)では26 plexの同時検出がなされ、Dias-Santagataらの文献(非特許文献3)では、5~8種類の変異を同時に検出し、この分析を8回行うことにより合計58種類の遺伝子検出が行われている。しかし、非特許文献2及び3に記載の方法では、分析に利用されている範囲はCEシーケンサの分析域のうちの~120bpの領域である(
図1)。CEシーケンサは50~600 bpの範囲で1塩基の鎖長差を分離する精度をもっているが、既存の蛍光標識1塩基伸長反応法はCEシーケンサの検出鎖長域の一部の利用に留まっている。
【0008】
CEシーケンサの検出鎖長域が制限されている原因の1つは、プライマーであるオリゴDNAについて>100bp以上の化学合成が困難であることにある。もう1つの原因として、プライマー鎖長が長くなると、1塩基伸長反応時に長い一本鎖配列部分が非特異結合の要因となることがある。これらの課題の解決には、Meagherら(非特許文献4)のように核酸以外の標識による移動度補正も有効であるが、これらの高分子を純度の高い重合度で多種類合成することは容易ではない。
【0009】
つまり1塩基伸長反応法の多項目同時検出能を拡張するには、電気泳動移動度を改変する多様な標識物質が合成可能であり、かつこの標識物質はプライマーと非特異的結合を起こさないこと、が要求される。したがって、本発明の課題は、キャピラリー電気泳動における1塩基伸長反応法を改善するための方法及び手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、多様な電気泳動移動度を有する鎖間架橋化二重鎖DNA分子のプライマー標識としての有用性を見出し、かかる鎖間架橋化二重鎖DNA分子を結合した選択的プライマーを遺伝子解析に使用することにより、非特異的結合を生じることなく、従来より幅広い移動度の差に基づいて遺伝子解析できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
一態様において、本発明は、鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグと、標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含むことを特徴とするプライマーを提供する。
【0012】
別の態様において、本発明は、前記プライマーを含む、遺伝子解析用キットを提供する。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、鎖間架橋二重鎖核酸分子を含むことを特徴とするプライマー標識用キットであって、
前記鎖間架橋二重鎖核酸分子が、鎖間架橋二重鎖核酸単位を少なくとも1つ含み、
前記鎖間架橋二重鎖核酸単位が、
少なくとも1つの鎖間架橋形成塩基を含む第1の塩基配列、及び少なくとも1つの鎖間架橋形成塩基を含む第2の塩基配列を含む第1のオリゴヌクレオチドと、
第2の塩基配列に対して相補的でありかつ第2の塩基配列中の前記鎖間架橋形成塩基と鎖間架橋を形成する塩基を含む配列、及び第1の塩基配列に対して相補的でありかつ第1の塩基配列中の前記鎖間架橋形成塩基と架橋を形成する塩基を含む配列を含む第2のオリゴヌクレオチドと
を含み、第1のオリゴヌクレオチド中の第1の塩基配列と第2のオリゴヌクレオチド中の第1の塩基配列に対して相補的な配列とが二重鎖核酸を形成している、プライマー標識用キットを提供する。
【0014】
また別の態様において、本発明は、試料中の標的核酸の存在を検出する及び/又は標的核酸の塩基を決定する方法であって、
標的核酸を含む又は含むことが疑われる試料を準備し、
鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグと、前記標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含むプライマーを準備し、
前記標的核酸を鋳型として前記プライマーを用いた1塩基伸長反応を行い、
得られた反応物をキャピラリー電気泳動に供して解析する
ことを含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、>100bp長の鎖長合成が容易な二重鎖核酸を選択的プライマーの標識タグとすることによって、電気泳動における検出鎖長域をより広範囲に活用可能となる。また、鎖間架橋によって乖離不可とした二重鎖核酸分子を選択的プライマーの標識タグとすることによって、1塩基伸長反応時に混在するプライマーと標識タグとの非特異的な結合が防止される。したがって、本発明により、より多くの標的核酸を同時に高感度に検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】キャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の概略図である。
【
図2】鎖間架橋された二重鎖核酸タグを結合した選択的プライマーを使用した、キャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の概略図である。
【
図3】鎖間架橋試験に用いた鎖間架橋二重鎖DNAの塩基配列を示す。
【
図4】鎖間架橋処理を行った二重鎖DNAの電気泳動像を示す写真である。
【
図5】蛍光1塩基伸長反応試験に用いた鎖間架橋二重鎖DNAタグ及びプライマー部分の塩基配列を示す。
【
図6】未標識プライマー(A)又は鎖間架橋二重鎖DNAタグで標識したプライマー(B)を用いて蛍光1塩基伸長反応を行った後、キャピラリー電気泳動(CE)により解析した結果を示すグラフである。
【
図7】鎖間架橋二重鎖DNAタグのタンデム構造を構成する1ユニットの塩基配列の例(A)と、形成されるタンデム構造のイメージ図(B)を示す。
【
図8】異なる数のユニットを含むタンデム構造を有する鎖間架橋二重鎖DNAタグの電気泳動像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、キャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の1塩基伸長反応において、鎖間架橋された二重鎖核酸タグを選択的プライマーの標識に使用することに基づく。
【0018】
本発明を適用したキャピラリー電気泳動法を用いたフラグメント解析手法の概略図を
図2に示す。鎖間架橋203を有する二重鎖核酸タグ204と、標的核酸に対して特異的に結合するプライマー部分205とを含むプライマー200を使用する。標的核酸201を鋳型として1塩基伸長反応を行い、末端に修飾分子202が付加された産物をキャピラリー電気泳動(CE)に供することにより、標的核酸について遺伝子解析を行う。鎖間架橋二重鎖核酸タグ204の長さを変更することにより、CEで移動度の差として識別可能にプライマーを標識することができる。また、タグ204は、鎖間架橋された二重鎖核酸であるため、1塩基伸長反応時の非特異結合を防止することができ、一本鎖核酸を使用した場合の化学合成の困難性や非標的結合の問題、及び非架橋の二重鎖核酸を使用した場合の解離後の非標的結合の問題がない。
【0019】
したがって、一態様において、本発明は、鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグと、標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含むことを特徴とするプライマーに関する。
【0020】
鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグは、二本鎖核酸構造を有する核酸であれば、DNA、RNA又はハイブリッド核酸のいずれであってもよい。好ましくは、二重鎖核酸は二重鎖DNAである。
【0021】
二重鎖核酸タグは、少なくとも1つの鎖間架橋を有する。本発明において「鎖間架橋」とは、二重鎖核酸における一方の鎖と他方の鎖とが少なくとも1箇所において架橋されていることを意味する。そのような2つの鎖間を分子内架橋させる方法は、当技術分野で公知の方法であれば特に限定されるものではない。好ましくは、鎖間架橋は光架橋によるものである。
【0022】
鎖間架橋には、例えば、古典的に知られているナイトロジェンマスタード、シスプラチン、カルムスチン、マイトマイシンC、ソラレン、トリオキサン(トリメチルソラレン)、マロンジアルデヒドなどの架橋分子を使用することができる(例えば、Guainazziら、Cellular and Molecular Life Sciences, 67:3683-3697, 2010)。これらの架橋分子は、塩基-塩基間に架橋分子が1分子入り込むタイプであり、A-T間又はG-C間に入り込むので、核酸分子全体でみると架橋位置はランダムであり、架橋効率は30~40%程度である。例えば、ソラレンは、350nmの光連結波長における光反応によって5'-TA-3'配列での光架橋を生じる光架橋剤であり、250nmの光開裂波長において架橋を開裂する。
【0023】
また、鎖間架橋には、オリゴ骨格に導入できる架橋分子として知られるCNV-K(分子名:5'-O-(4,4'-Dimethoxytrityl)-1'-(3-cyanovinylcarbazol-9-yl)-2'-deoxy-β-D-ribofuranosyl-3'-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)、CNV-D(分子名:3-O-(4,4'-Dimethoxytrityl)-2-N-(N-carboxy-3-cyanovinylcarbazol)-D-threonin-1-yl-O-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)などを使用することができる(例えば、特許第4940311号、Yoshimuraら、ChemBioChem, 10:1473-1476, 2009、Sakamotoら、Org. Lett., 17:936-939, 2015)。これらの分子は、反応トリガーが紫外光(366nm)による光照射を起点として、1塩基ずれた位置にある相補鎖のピリミジン塩基(チミン、シトシン若しくはウラシル)へと[2+2]環状化反応することで架橋点を形成することができる。また、核酸分子骨格に導入することができるため、架橋点を任意に設計可能である点が実用上好ましい。これらの光架橋分子は、別波長の紫外光(312nm)で励起することにより、鎖間架橋を可逆的に解離することが可能である点も実用上、重要である。光架橋分子のCNV-KやCNV-Dが、入手性、コスト等の観点から特に好適である。
【0024】
他の架橋分子としては、アジド基(-N3)とアルキン基の組み合わせによるClick反応を用いた架橋分子であってもよい。このような架橋点は、例えばKocaltaら、ChemBioChem, 9:1280-1285, 2008で報告されている。特定の塩基配列に対応した架橋分子としては、例えば配列5'-CAATTA-3'/3'-GTTAAT-5'に特異的で5塩基離れたA-G間を架橋するUTA-6026が知られる(Zhouら、J. Am. Chem. Soc., 123:4865-4866, 2001)。他には、配列5'-Py(T/C)GGC(T/A)GCCPu(A/G)-3'に特異的で9塩基離れた塩基間を架橋するImImPy(Bandoら、J. Am. Chem. Soc., 123:5158-5159, 2001)や配列5'-GCTTATAATGG-3'に特異的で11塩基離れた塩基間を架橋するC8/C8′-tripyrrole-linked sequence-selective pyrrolo[2,1-c][1,4]benzodiazepine (PBD) dimer(Tiberghienら、Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 18:2073-2077, 2008)等が知られる。これらの配列特異的な架橋分子は架橋点設計が可能である点がメリットである。
【0025】
鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグは、電気泳動における移動距離(移動度:mobility)を規定する。すなわち、異なる長さの二重鎖核酸タグをプライマーに連結することによって、電気泳動において移動距離を変更することができる。キャピラリー電気泳動では、約600塩基長までの鎖長の核酸を検出することができるため、標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸の鎖長(10~30塩基)を除いて、二重鎖核酸タグは、1~約590塩基長までの範囲の長さとすることができる。また、識別可能な移動距離をもたらす二重鎖核酸タグの塩基長は1塩基である。例えば5塩基以上、好ましくは10塩基以上長さが異なる二重鎖核酸タグを組み合わせて使用する。
【0026】
二重鎖核酸タグは、鎖間架橋を有する核酸であれば、その塩基配列は特に限定されるものではない。また、二重鎖核酸タグは、公知のオリゴヌクレオチド合成手法により化学合成することができるが、通常は、市販の化学合成装置を使用して合成される。
【0027】
標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸(本明細書中、選択的プライマーともいう)は、DNA又はRNAのいずれでもよく、標的核酸の種類、1塩基伸長反応に使用されるポリメラーゼの種類に応じて決定される。好ましくは、プライマー核酸はDNAであり、標的核酸としてDNA又はmRNAを鋳型とした1塩基伸長反応が行われる。
【0028】
プライマー核酸は、標的核酸(又は標的領域)に特異的に結合する配列を有する、すなわち標的核酸(又は標的領域)に対して相補的な配列を有するように設計される。プライマーの設計手法は当技術分野で周知であり、本発明において使用可能なプライマーは、特異的なアニーリングが可能な条件を満たす、例えば特異的なアニーリングが可能な長さ及び塩基組成(融解温度)を有するように設計される。例えば、プライマーとしての機能を有する長さとしては、10塩基以上が好ましく、さらに好ましくは15~50塩基であり、さらに好ましくは15~30塩基、例えば約20塩基である。また設計の際には、プライマーのGC含量とプライマーの融解温度(Tm)を確認することが好ましい。Tmとは、任意の核酸鎖の50%がその相補鎖とハイブリッドを形成する温度を意味し、鋳型となる標的核酸とプライマーとが二本鎖を形成してアニーリングするためには、アニーリングの温度を最適化する必要がある。一方、この温度を下げすぎると非特異的な反応が起こるため、温度は可能な限り高いことが望ましい。Tmの確認には、公知のプライマー設計用ソフトウエアを利用することができる。設計されたプライマーは、公知のオリゴヌクレオチド合成手法により化学合成することができるが、通常は、市販の化学合成装置を使用して合成される。
【0029】
本発明に係るプライマーは、鎖間架橋二重鎖核酸タグと選択的プライマーとを含むものであるが、これらは任意の方法により結合させることができる。例えば、二重鎖核酸タグの一方の鎖と選択的プライマーを直接又はスペーサを介して結合した配列を調製した後、二重鎖核酸タグのもう一方の鎖をアニーリングさせ、二重鎖核酸部分の少なくとも1箇所において鎖間架橋を形成することによって、本発明に係るプライマーを調製することができる(例えば、
図3)。あるいは、鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグを調製した後、直接又はスペーサーを介して選択的プライマーに結合させてもよい(例えば、
図5)。結合方法は、塩基配列の相補性に基づく水素結合であってもよいし、あるいは公知のリガーゼを使用して連結されてもよい。
【0030】
異なる長さの二重鎖核酸タグを簡便に調製するため、例えば、
図7のAに示すような突出末端を有する二重鎖核酸タグのユニットを、
図7のBに示すようにタンデムに連結することができる。タンデムに連結するユニットの個数を変更することにより、長さの異なるタグを簡便に調製することができる。また、このような二重鎖核酸タグのユニットを利用することにより、選択的プライマーに対して二重鎖核酸タグを結合(標識)するのみで簡便にプライマーをタグ標識することができる。特に、異なる選択的プライマーに対して異なる長さの二重鎖核酸タグを結合(標識)することにより、長さの差(すなわち移動距離の差)により識別可能な複数のプライマーセットを調製することが可能となる。
【0031】
したがって、本発明は、別の態様において、鎖間架橋二重鎖核酸分子を含むことを特徴とするプライマー標識用キットを提供し、
前記鎖間架橋二重鎖核酸分子が、鎖間架橋二重鎖核酸単位を少なくとも1つ含み、
前記鎖間架橋二重鎖核酸単位が、
少なくとも1つの鎖間架橋形成塩基を含む第1の塩基配列、及び少なくとも1つの鎖間架橋形成塩基を含む第2の塩基配列を含む第1のオリゴヌクレオチドと、
第2の塩基配列に対して相補的でありかつ第2の塩基配列中の前記鎖間架橋形成塩基と鎖間架橋を形成する塩基を含む配列、及び第1の塩基配列に対して相補的でありかつ第1の塩基配列中の前記鎖間架橋形成塩基と架橋を形成する塩基を含む配列を含む第2のオリゴヌクレオチドと
を含み、第1のオリゴヌクレオチド中の第1の塩基配列と第2のオリゴヌクレオチド中の第1の塩基配列に対して相補的な配列とが二重鎖核酸を形成している。
【0032】
上記鎖間架橋二重鎖核酸分子は、
少なくとも1つの鎖間架橋形成塩基を含む第1の塩基配列、及び少なくとも1つの鎖間架橋形成塩基を含む第2の塩基配列を含む第1のオリゴヌクレオチドと、
第2の塩基配列に対して相補的でありかつ第2の塩基配列中の前記鎖間架橋形成塩基と鎖間架橋を形成する塩基を含む配列、及び第1の塩基配列に対して相補的でありかつ第1の塩基配列中の前記鎖間架橋形成塩基と架橋を形成する塩基を含む配列を含む第2のオリゴヌクレオチドと
を含む鎖間架橋二重鎖核酸単位を少なくとも1つ含む。
【0033】
第1のオリゴヌクレオチドは、第1の塩基配列及び第2の塩基配列を含む限り、他の配列(例えばスペーサー配列)を含んでもよい。同様に、第2のオリゴヌクレオチドは、第2の塩基配列に対して相補的な配列及び第1の塩基配列に対して相補的な配列を含む限り、他の配列(例えばスペーサー配列)を含んでもよい。
【0034】
鎖間架橋形成塩基は、上述したような光応答性の鎖間架橋形成塩基であることが好ましい。例えば、鎖間架橋形成塩基及び鎖間架橋形成塩基と鎖間架橋を形成する塩基の対として、相補鎖における1塩基ずれた位置にあるピリミジン塩基(チミン、シトシン若しくはウラシル)へと[2+2]環状化反応することで架橋点を形成するCNV-K又はCNV-Dとピリミジン塩基(チミン、シトシン若しくはウラシル)との対を使用することができる。なお、本明細書中、鎖間架橋形成塩基がCNV-K又はCNV-Dである場合には、鎖間架橋形成塩基と鎖間架橋を形成する塩基はピリミジン塩基であり、鎖間架橋形成塩基がピリミジン塩基である場合には、鎖間架橋形成塩基と鎖間架橋を形成する塩基はCNV-K又はCNV-Dである。
【0035】
鎖間架橋二重鎖核酸単位は、第1のオリゴヌクレオチド中の第1の塩基配列と第2のオリゴヌクレオチド中の第1の塩基配列に対して相補的な配列とが二重鎖核酸を形成することにより構成される。例えば、
図7のAにおいて、上に示す配列(Core01-Lower01)を第1のオリゴヌクレオチドとし、5'側の10塩基を第1の塩基配列とした場合、下に示す配列(Upper01-Core01-2)の5'側の10塩基が第2のオリゴヌクレオチド中の第1の塩基配列に相補的な配列として、2つの配列が二重鎖核酸を形成する。このような二重鎖核酸を一単位として、鎖間架橋二重鎖核酸分子は少なくとも1つの鎖間架橋二重鎖核酸単位を含む。
【0036】
一実施形態において、鎖間架橋二重鎖核酸分子は、鎖間架橋二重鎖核酸単位を2以上含む。この場合、2以上の鎖間架橋二重鎖核酸単位は、第1のオリゴヌクレオチド中の第2の塩基配列と第2のオリゴヌクレオチド中の第2の塩基配列に対して相補的な配列とが二重鎖核酸を形成することにより連結している。例えば、
図7のBにおいて、
図7のAに示すような単位をタンデムに連結することによって、複数の単位を含む鎖間架橋二重鎖核酸分子を調製することができる。
【0037】
また一実施形態において、プライマー標識用キットは、異なる数の鎖間架橋二重鎖核酸単位を含む複数の鎖間架橋二重鎖核酸分子を含む。これにより、異なる長さの鎖間架橋二重鎖核酸分子(異なる数の単位を含む)で異なる選択的プライマーを識別可能に簡便に標識することができる。
【0038】
プライマー標識用キットは、鎖間架橋二重鎖核酸分子に加えて、プライマーの標識に使用される他の構成要素(バッファー、必要に応じてリガーゼなど)、説明書などを含んでもよい。
【0039】
本発明に係るプライマー(鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグと選択的プライマーとを含むプライマー)は、例えば遺伝子解析、具体的には標的核酸の検出、標的核酸の塩基の決定などに使用することができる。遺伝子解析は、長さの違いに基づいて試験対象を識別することが可能な方法であれば任意の方法により行うことができる。例えば、キャピラリー電気泳動(CE)、電気泳動による遺伝子解析を利用することができる。
【0040】
したがって、さらなる態様において、本発明は、鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグと、標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含むプライマーを含む、遺伝子解析用キットを提供する。本遺伝子解析用キットは、少なくとも1つのプライマーを含む。好ましい実施形態において、本遺伝子解析用キットは、長さが異なる二重鎖核酸タグと、異なる標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含む複数のプライマーを含む。
【0041】
本遺伝子解析用キットは、プライマーに加えて、反応液を構成するバッファー、dNTP若しくはddNTP混合物(標識されていてもよい)、酵素類(ポリメラーゼ、逆転写酵素など)、校正用の標準試料などを含んでもよい。本発明に係るプライマーをキットとして提供することにより、遺伝子解析をより迅速かつ簡便に行うことが可能となる。
【0042】
別の態様において、本発明は、試料中の標的核酸を検出する及び/又は標的核酸の塩基を決定する方法を提供する。かかる方法は、
標的核酸を含む又は含むことが疑われる試料を準備し、
鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグと、前記標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含むプライマーを準備し、
前記標的核酸を鋳型として前記プライマーを用いた1塩基伸長反応を行い、
得られた反応物をキャピラリー電気泳動に供して解析する
ことを含む。
【0043】
まず、標的核酸を含む又は含むことが疑われる試料を準備する。試料は、核酸を含む試料であれば特に限定されるものではなく、生体由来試料(例えば細胞試料、組織試料、液体試料など)、及び合成試料(例えばcDNAライブラリなどの核酸ライブラリなど)の任意の試料を用いることができる。生体由来試料の場合、試料の由来となる生体も特に限定されるものではなく、脊椎動物(例えば哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類、両生類など)、無脊椎動物(例えば昆虫、線虫、甲殻類など)、原生生物、植物、真菌、細菌、ウイルスなどの任意の生体に由来する試料を用いることができる。例えば、ヒトにおけるがん検査を想定する場合には、検査対象のヒトから得られる核酸含有試料、例えば全血、血清、血漿、唾液、尿、糞便、皮膚組織、がん組織などを準備する。
【0044】
標的核酸は、検出しようとする配列又は決定しようとする塩基を含む核酸であれば特に限定されるものではなく、デオキシリボ核酸(DNA)、例えばゲノムDNA、cDNA、及びリボ核酸(RNA)、例えばメッセンジャーRNA(mRNA)、並びにそれらの断片が含まれる。本発明においては、標的核酸として、例えばセルフリーDNA(cfDNA、血中を遊離しているDNA)、循環腫瘍DNA(ctDNA)を使用することが好ましい。試料からの核酸の調製は、当技術分野で公知の方法により行うことができる。例えば、血液や細胞から標的核酸を調製する場合には、Proteinase Kのようなタンパク質分解酵素、チオシアン酸グアニジン・グアニジン塩酸といったカオトロピック塩、Tween及びSDSといった界面活性剤、あるいは市販の細胞溶解用試薬を用いて、細胞を溶解し、それに含まれる核酸、すなわちDNA及びRNAを溶出することができる。RNAを調製する場合には、上記の細胞溶解により溶出された核酸のうち、DNAをDNA分解酵素(DNase)により分解し、核酸としてRNAのみを含む試料が得られる。mRNAを調製する場合には、mRNAはポリA配列を含むことから、上記のように調製したRNA試料から、ポリT配列を含むDNAプローブを用いてmRNAのみを捕捉することができる。このような核酸の調製を行うために、多数のメーカーからキットが販売されており、目的とする核酸を簡便に精製することが可能である。
【0045】
また、鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグと、標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含むプライマーを準備する。上述した通り、二重鎖核酸タグは、移動度で区別可能な長さを有し、プライマー核酸は、標的核酸に特異的に結合して1塩基伸長反応を生じるように設計する。
【0046】
一実施形態において、本方法では、長さが異なる二重鎖核酸タグと、異なる標的核酸に対して特異的に結合するプライマー核酸とを含む複数のプライマーを使用する。上述したように、識別可能な移動距離をもたらす二重鎖核酸タグの塩基長は約15~20塩基であるため、例えば15塩基以上、好ましくは20塩基以上長さが異なる二重鎖核酸タグを、それぞれ異なるプライマーに結合する。本方法では、例えば1種類~約100種類の異なる標的核酸を同時に検出することが可能である。
【0047】
続いて、標的核酸を鋳型としてプライマーを用いた1塩基伸長反応を行う。1塩基伸長反応は当技術分野で公知であり、典型的にはポリメラーゼを用いた1塩基伸長反応である。使用するポリメラーゼは、鋳型(標的核酸)の種類及び使用するプライマーの種類によって選択される。例えば、DNA又はRNAを鋳型としたDNAプライマーを用いた1塩基伸長反応には、それぞれDNA依存性又はRNA依存性DNAポリメラーゼが使用される。
【0048】
1塩基伸長反応は当該技術分野において広く知られており、例えば非特許文献3等に、サイクル反応により効率的に1塩基を伸長させる方法などが説明されている。
【0049】
標的核酸が存在する場合には、この標的核酸に特異的に結合する選択的プライマーがハイブリダイゼーションし、選択的プライマーの3'末端部分からポリメラーゼの合成反応によって塩基が基質として取り込まれる。この時、取り込まれる塩基(基質)として、例えばジデオキシヌクレオチド(ddNTP)を用いることにより、合成反応は1塩基伸長のみで終了する。一実施形態では、修飾塩基、例えば標識されたddNTPを基質として使用して1塩基伸長反応を行う。標識は、取り込まれたか否かを簡便に検出するため、又は取り込まれた塩基の種類を判定するために有用であり、当技術分野で公知の標識を使用することができる。そのような標識としては、放射性同位体(32P、125I、35Sなど)、蛍光物質、発光物質(ルシフェリンなど)などが挙げられる。蛍光物質を好ましく使用することができ、例えば限定されるものではないが、フルオレセン(FITC)、スルホローダミン(TR)、テトラメチルローダミン(TRITC)、カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA)、NED、5-カルボキシフルオレセイン(5-FAM)、6-カルボキシフルオレセイン(6-FAM)、5'-ヘキサクロロフルオレセインCE-ホスホロアミダイト(HEX)、6-カルボキシ-4',5'-ジクロロ-2',7'-ジメトキシフルオレセイン(JOE)、5'-テトラクロロフルオレセインCE-ホスホロアミダイト(TET)、ローダミン110(R110)、ローダミン6G(R6G)、VIC(登録商標)、ATTO系、Alexa Fluor(登録商標)系、Cy系など、また泳動サイズにずれを生じない蛍光色素として、dR110(carboxy-dichloro rhodamine 110)、dR6G(dihydro rhodamine 6G)、dTAMRA(Tetramethyl rhodamine)、dROX(carboxy-X-rhodamine)などが挙げられる。例えば塩基の種類を判定しようとする場合には、4種類の塩基と参照用(参照ラダーDNAから塩基長を検出補正するため)の5種類を識別するために、異なる波長で励起かつ検出される5種類の蛍光物質を組み合わせて使用することができる。このような標識の種類や標識の導入方法等に関しては、特に限定されることはなく、従来公知の各種手段を用いることができる。好ましい実施形態において、修飾塩基として、蛍光標識されたジデオキシヌクレオチド(ddNTP)を使用する。
【0050】
標的核酸の有無は、この1塩基伸長が生じるか否かで判定することができ、標的核酸における特定の塩基は、1塩基伸長した部分に取り込まれた塩基の種類に基づいて判定することが可能となる。例えば、一塩基多型(SNP)の検出を目的とする場合には、そのSNPの上流部分に特異的に結合する選択的プライマーを設計し、標的核酸に選択的プライマーをハイブリダイズさせ、異なる標識を有する塩基を基質として使用して1塩基伸長反応を行う。取り込まれた塩基の種類を標識に基づいて判定することにより、標的核酸のSNPを検出することができる。
【0051】
1塩基伸長反応後、得られた反応物をキャピラリー電気泳動(CE)に供して解析する。CEは、導入された成分を荷電、大きさ及び形状などに基づく移動度の差異で分離する手法である。本方法では、移動度の差異をもたらす二重鎖核酸タグを利用するため、移動度から標的核酸の種類(選択的プライマーに結合した二重鎖核酸タグに基づく)と、標的核酸の有無又は標的核酸における特定の塩基の種類(1塩基伸長反応に基づく)とから、目的の標的核酸を検出し、及び/又は標的核酸の塩基を決定することができる。
【0052】
本発明は以下に示す実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0053】
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0054】
本明細書で引用した刊行物、特許公報は、そのまま本明細書の説明の一部を構成する。
本明細書において単数形で表される構成要素は、特段文脈で明らかに示されない限り、複数形を含むものとする。
【0055】
[実施例1]
本実施例では、鎖間架橋二重鎖DNAタグを標識として含む選択的プライマーを設計し、アクリルアミドゲル電気泳動における移動度について調べた。
設計した鎖間架橋試験用の塩基配列を
図3に示した。本実施例では、特許第4940311号に開示されたUV照射による鎖間架橋形成オリゴ特殊塩基(CNV-D:3-O-(4,4'-Dimethoxytrityl)-2-N-(N-carboxy-3-cyanovinylcarbazol)-D-threonin-1-yl-O-[(2-cyanoethyl)-(N,N-diisopropyl)]-phosphoramidite)を用いた。
【0056】
図3に示すように、相補的な2種のオリゴDNA分子、すなわちCNV02(19 mer:配列番号1)とRC_CNV02(47 mer:配列番号2)を設計した。一方のオリゴDNA分子(配列番号1)内に配置したN塩基(
図3における四角)が光架橋を形成する特殊塩基であり、短いDNA分子(19 mer:配列番号1)内に3か所の光架橋オリゴを挿入した。このCNV02内のN塩基(CNV-D)は、366 nmのUV照射によって相補鎖となるRC_CNV02(配列番号2)の1塩基上流側のピリミジン塩基(C塩基又はT塩基:
図3における太字及び下線)と架橋される。
【0057】
架橋形成反応は365 nmのUV照射装置(ULEDN-102CT, エヌエスライティング株式会社)を用い、照射条件を62 mW、1秒に設定した。また、架橋形成反応時の溶液組成はPCR用の酵素であるKOD Polymerase(TOYOBO)に付属しているKODバッファーを標準の1x濃度で使用した。
【0058】
図4は、架橋反応産物のアクリルアミドゲル電気泳動像である。
図4中の矢印で示すように、架橋を行っていないRC_CNV02(47 mer:配列番号2)を泳動したレーン1では50 bpより短い位置にDNA断片像が観察されるのに対し、UV照射を行った架橋産物を泳動したレーン2では50 bpよりも長鎖の位置にDNA断片像が観察された。本実験結果から、UV照射によって鎖間架橋が形成されること、鎖間架橋形成によって電気泳動の移動度が変化すること、光架橋形成後のDNAは鎖長よりも長い塩基の位置に検出されること、が示された。
【0059】
[実施例2]
本実施例では、鎖間架橋化二重鎖DNAタグを標識として連結したプライマーを用いた蛍光標識1塩基伸長反応の検証を行った。標的遺伝子として大腸がん、肺がんで頻出する遺伝子変異であるEGFR遺伝子を標的分子とし、788位置に出現する遺伝子変異に特異的なプライマー領域を連結したプライマーDNAを作製した(
図5)。
【0060】
プライマーは、3本のオリゴヌクレオチド配列で構成されており、Lower01オリゴ(20 mer:配列番号3)が上流側のCore01-Lower01オリゴ(20 mer:配列番号4)、下流側のEGFR L858-Lower-FW1オリゴ(38 mer:配列番号5)とそれぞれ光架橋を形成する構造とした。EGFR L858-Lower-FW1オリゴの3’側から20塩基の一本鎖DNA部分が検出対象であるEGFR遺伝子を特異的に認識する塩基配列となっている(
図5における二重下線部分)。本実験では標的遺伝子の例としてEGFR遺伝子を選択したが、Lower01と相補的な塩基配列を利用することによって任意の標的特異的プライマーをLower01に連結可能な構造とした。
図5に示すように、標識プライマーは、鎖間架橋化二重鎖DNAタグ部分と選択的プライマーDNA部分を含む限り、任意の一本鎖DNA配列やスペーサー領域を含んでもよい。
【0061】
EGFR遺伝子配列を標的鋳型とした蛍光1塩基伸長反応は、1μLの10×Therminator buffer(NEB)、0.5μLのTherminator(NEB)、1μLのddNTP(10μM)、1μLの鋳型DNA(100 pmol/uL)、1μLの上記プライマー、5.5μLのD.W.を混合組成とし、サーマルライクラーを用いた(96℃,10秒)→(50℃,5秒)→(60℃,30秒)の熱サイクルを40回繰り返すことによって行った。反応後の試料溶液をアルカリフォスファターゼ(TAKARA)にて精製処理を行った後、CEシーケンサであるSeqStudio(Thermo Fisher Scientific)を用いて分析した。
【0062】
CEシーケンサによってフラグメント解析を行った結果を
図6に示した。未標識のEGFR L858-Lower-FW1プライマー(配列番号5)を用いた場合にはプライマー鎖長の38 merに相当する40 bp付近のみに蛍光信号が検出された(
図6のA)。標識プライマーでは40 bp付近に加えて70~80 bpの範囲に複数の蛍光信号が観察された(
図6のB)。本実験では架橋形成処理反応後の産物を蛍光標識1塩基伸長反応のプライマーとして使用しているため、
図6のBで観察された40 bp位置の信号は未標識で残存したEGFR L858-Lower-FW1に由来する信号である。
図6のBで観察された70~80 bpの範囲の信号が鎖間架橋化二重鎖DNAタグの標識によって泳動位置が変化した蛍光信号である。
【0063】
また、本結果から鎖間架橋構造は蛍光標識1塩基伸長反応に用いた40回の熱乖離処理に耐えて二重鎖を保持していることが確認された。熱処理サイクル工程において二重鎖を保持していることから、本発明の鎖間架橋化二重鎖DNAは他のプライマーと結合しない構造であり、蛍光1塩基伸長反応において非特異的な結合を起こさないことが示されている。
【0064】
[実施例3]
本実施例では、多様な移動度を有する核酸タグの作製を目的として、タンデム構造を形成する鎖間架橋化二重鎖核酸タグの作製の検証を行った。設計した二重鎖核酸タグ(1ユニット)の構造を
図7のAに示す。
【0065】
図7のAに示す鎖間架橋化二重鎖DNAタグのユニットは、二重鎖形成時の突出末端の塩基配列がタンデム構造を形成可能な配列を有し、
図7のBに示すように、UV架橋時の連結数に応じて多様な鎖長の鎖間架橋化二重鎖DNA分子を合成可能である。これにより、長さの異なる標識タグのセットを簡便に調製することが可能となる。
【0066】
実施例1に記載した架橋形成と同様の条件にて架橋化を行い、アクリルアミド電気泳動によって評価した結果を
図8に示した。電気泳動像では約20 bp塩基を単位としたラダー状のDNA断片の存在が同時に確認された。本実験結果から、タンデム構造を形成するユニット構造の設計により多様な鎖長の二重鎖核酸標識タグが合成可能であること、同じ構造単位の連結によって等間隔の移動度シフトタグの作製が可能であること、が示された。
【符号の説明】
【0067】
100…選択的プライマー
101、201…鋳型分子
102、202…修飾分子
200…プライマー
203…鎖間架橋
204…鎖間架橋を有する二重鎖核酸タグ
205…選択的プライマー核酸
【配列表フリーテキスト】
【0068】
配列番号1~7:人工(合成オリゴヌクレオチド)
【配列表】