IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

<>
  • 特開-高性能多接合太陽電池の製造方法 図1
  • 特開-高性能多接合太陽電池の製造方法 図2
  • 特開-高性能多接合太陽電池の製造方法 図3
  • 特開-高性能多接合太陽電池の製造方法 図4
  • 特開-高性能多接合太陽電池の製造方法 図5
  • 特開-高性能多接合太陽電池の製造方法 図6
  • 特開-高性能多接合太陽電池の製造方法 図7
  • 特開-高性能多接合太陽電池の製造方法 図8
  • 特開-高性能多接合太陽電池の製造方法 図9
  • 特開-高性能多接合太陽電池の製造方法 図10
  • 特開-高性能多接合太陽電池の製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057589
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】高性能多接合太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20230417BHJP
   H01L 31/0735 20120101ALI20230417BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L31/06 430
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167135
(22)【出願日】2021-10-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽光発電主力電源化推進技術開発/太陽光発電の新市場創造技術開発/移動体用太陽電池の研究開発(超高効率モジュール技術開発)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110973
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 洋
(72)【発明者】
【氏名】庄司 靖
【テーマコード(参考)】
5F045
5F151
5F251
【Fターム(参考)】
5F045AA03
5F045AB10
5F045AB17
5F045AB18
5F045AC00
5F045AC13
5F045AC19
5F045AD10
5F045AF04
5F045BB04
5F045CA13
5F045DA52
5F045DP04
5F045DP09
5F045DQ08
5F045EB03
5F045EK06
5F045EK27
5F045HA03
5F151AA08
5F151CB08
5F151CB24
5F151CB29
5F151DA15
5F251AA08
5F251CB08
5F251CB24
5F251CB29
5F251DA15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】HVPE法によりAl含有III-V族化合物半導体を結晶成長する際の結晶成長速度及びAl含有率の低下を抑制する高性能多接合太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】高性能多接合太陽電池の製造方法は、III-V族化合物半導体層を形成する半導体層形成工程(S100)と、500℃以下の第1反応ゾーンにて固体Alとハロゲン化水素とからAlハロゲン化物を生成する第1工程(S110)と、500℃より高温の第2反応ゾーンにてAl以外のIII族金属とハロゲン化水素とからIII族金属ハロゲン化物を生成する第2工程(S120)と、第3反応ゾーンにてAlハロゲン化物、III族金属ハロゲン化物及びV族ガスからAl含有III-V族化合物半導体を気相成長する第3工程(S130)と、を含む。ハロゲン化水素のキャリアガスの流速は、0.018~0.062m/secである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドライド気相成長法による気相成長を繰り返して高機能多接合太陽電池を製造する方法であって、
基板上にIII-V族化合物半導体を主材料とする複数の半導体層を形成する半導体層形成工程と、
前記半導体層の一面に、Alを含むIII-V族化合物半導体を前記ハイドライド気相成長法により結晶成長させるAl含有半導体層形成工程と、
を含み、
前記Al含有半導体層形成工程は、
固体Alとハロゲン化水素とを、前記基板から離れた第1反応ゾーンにて500℃以下の温度で反応させてAlのハロゲン化物を生成する第1工程と、
前記Al以外のIII族金属と前記ハロゲン化水素とを、前記基板に向かって前記第1反応ゾーンより下流側の第2反応ゾーンにて、500℃より高温で反応させてAl以外のIII族金属のハロゲン化物を生成する第2工程と、
前記Alのハロゲン化物、前記Al以外のIII族金属のハロゲン化物、およびV族を含有するガスを、前記基板に向かって前記第2反応ゾーンより下流側の第3反応ゾーンにて、前記第2反応ゾーンより低温で前記半導体層の一面にて反応させることにより、前記Alを含むIII-V族化合物半導体を前記半導体層の一面に気相成長する第3工程と、
を含み、
前記Alのハロゲン化物は、前記第1反応ゾーンに導入される前記ハロゲン化水素のキャリアガスのガス流により前記第2反応ゾーンおよび前記第3反応ゾーンに導入され、
前記キャリアガスの流速は、0.018m/sec以上0.062m/sec以下であることを特徴とする高性能多接合太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化水素は、塩化水素であり、
前記キャリアガスは、水素ガスであることを特徴とする請求項1に記載の高性能多接合太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記第2工程は、前記Al以外のIII族金属と前記ハロゲン化水素とを、前記第2反応ゾーンにて、700℃以上850℃以下の温度で反応させて前記Al以外のIII族金属のハロゲン化物を生成することを特徴とする請求項1または2に記載の高性能多接合太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記Alを含むIII-V族化合物半導体は、AlInGaPを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の高性能多接合太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記半導体層または前記Alを含むIII-V族化合物半導体からなるAl含有半導体層の一面に、第1トンネル接合層を前記ハイドライド気相成長法により成膜する第1トンネル接合工程と、
前記第1トンネル接合工程により前記第1トンネル接合層が成膜された後に、塩化水素ガスを前記第3反応ゾーンに導入することにより、反応炉内の前記第3反応ゾーンおよび/または前記基板に向かって前記第3反応ゾーンより下流に位置する前記反応炉内の反応管の端面をクリーニングするクリーニング工程と、
前記クリーニング工程によるクリーニング後に、前記第1トンネル接合工程により成膜された前記第1トンネル接合層の一面に、第2トンネル接合層を前記ハイドライド気相成長法により成膜する第2トンネル接合工程と、
をさらに含み、
前記第1トンネル接合層および前記第2トンネル接合層は、InGaP、AlInGaP、AlInP、AlGaAs、およびGaAsからなる群から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の高性能多接合太陽電池の製造方法。
【請求項6】
前記第1トンネル接合工程により前記第1トンネル接合層が成膜された後に、前記反応炉を昇温する昇温工程と、
前記クリーニング工程によるクリーニング後に、前記反応炉を降温する降温工程と、
をさらに含み、
前記クリーニング工程は、前記反応炉が昇温された状態で前記反応炉内の前記第3反応ゾーンおよび/または前記反応管の端面をクリーニングすることを特徴とする請求項5に記載の高性能多接合太陽電池の製造方法。
【請求項7】
前記第1トンネル接合工程により前記第1トンネル接合層が成膜された基板を前記第3反応ゾーンから退避させる退避工程と、
前記クリーニング工程によるクリーニング後に、前記基板を前記第3反応ゾーンに搬送する搬送工程と、
をさらに含み、
前記クリーニング工程は、前記基板が前記第3反応ゾーンから退避した状態で前記反応炉内の前記第3反応ゾーンおよび/または前記反応管の端面をクリーニングすることを特徴とする請求項5または6に記載の高性能多接合太陽電池の製造方法。
【請求項8】
前記クリーニング工程は、前記塩化水素ガスのキャリアガスである水素ガスのガス流により前記塩化水素ガスを前記第3反応ゾーンに導入し、
前記水素ガスの流速は、0.05m/sec以上0.2m/sec以下であることを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の高性能多接合太陽電池の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能多接合太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池の普及が進められる中、太陽電池セルの光電変換効率を向上させるための種々の手段が提案されている。例えば、エネルギーバンドギャップの異なるIII-V族化合物半導体から構成された太陽電池セルを基板に積層させることによって、より多くのエネルギーを吸収できるようにする技術が開発されている。複数の太陽電池セルを積層させた構造の太陽電池は、「多接合太陽電池」または「多接合型太陽電池」と呼ばれている。
【0003】
このような多接合太陽電池は、ハイドライド気相成長(Hydride Vapor Phase Epitaxy;HVPE)法等を用いて半導体薄膜を結晶成長させることが知られている。HVPE法は、Ga、In等をハロゲン化物として気流輸送し、V族水素化物と反応させて化合物半導体を製造する方法である。HVPE法は、ハイドライド気相エピタキシー法とも称する。HVPE法は、石英反応管(石英反応炉)を用い、結晶成長部分のみならず周りの石英反応管を高温とするホットウォール(Hot wall)方式である。このようなHVPE法は、成長速度が大きいため、例えば、GaAsを用いた電源系デバイス等の厚膜で高品質な結晶が要求されるパワーデバイスの製造に用いられている。
【0004】
ところで、多接合太陽電池は、その変換効率を高めるために、AlGaAsやAlInGaP等のアルミニウムを含有するIII-V族化合物半導体からなるAl含有半導体層を備えることが好ましい。
【0005】
図10は、Al含有半導体層の一例であるAlInGaPパッシベーション層の有無と変換効率との関係を説明するための図を示す。パッシベーション層は、半導体表面に存在するダングリングボンドに伴う表面再結合の影響を軽減する役割を担う層である。
【0006】
図10に示すように、AlInGaPパッシベーション層を備える多接合太陽電池の変換効率(図10の下図を参照)は、AlInGaPパッシベーション層を備えない多接合太陽電池の変換効率(図10の上図を参照)に比べて高くなる。これは、AlInGaPパッシベーション層の導入により表面再結合損失が減少するためである。
【0007】
多接合太陽電池にAl含有半導体層を備えるために、塩化金属を前駆体とするHVPE法を用いて、太陽電池セル上にAl含有材料を成長させることが考えられる。しかしながら、HVPE法を用いる場合、塩化水素とアルミニウムが反応することによりAlClが生成され、AlClが反応炉である石英を激しく還元し、石英反応炉自体の破損を引き起こす虞があった。そこで、HVPE法を用いてAl含有半導体層を製造する方法として、InやGaの成長部の温度より低い所定温度でアルミニウムと塩化水素を反応させてアルミニウムの塩化物を生成させる工程を有する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0008】
図11は、Al原料の温度に対するAlClとHClの平衡分圧の変化を説明するための図を示す。
【0009】
図11に示すように、500℃以下の温度でアルミニウムとHClとを反応させることにより、反応生成するAlの塩化物の分子種は、石英を激しく還元する一ハロゲン化物である塩化アルミニウム(AlCl)から、石英との反応性が低い三ハロゲン化物である三塩化アルミニウム(AlCl)となる。これにより、Alの塩化物によって反応炉である石英を激しく還元する事態を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003-303774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述のようにInやGaの成長部の温度より低い所定温度でアルミニウムと塩化水素を反応させてアルミニウムの塩化物を生成させる場合、InやGaの成長部がアルミニウムの反応部よりも高温となるため、熱対流により前駆体である塩化金属の移動が妨げられ、結晶成長速度およびアルミニウム含有率が低下する虞がある。
【0012】
本発明は、ハイドライド気相成長法を用いてAlを含有するIII-V族化合物半導体を結晶成長する際における結晶成長速度およびアルミニウム含有率の低下を抑制可能な高性能多接合太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上記目的を達成するための一実施形態に係る高性能多接合太陽電池の製造方法は、ハイドライド気相成長法による気相成長を繰り返して高機能多接合太陽電池を製造する方法であって、基板上にIII-V族化合物半導体を主材料とする複数の半導体層を形成する半導体層形成工程と、前記半導体層の一面に、Alを含むIII-V族化合物半導体を前記ハイドライド気相成長法により結晶成長させるAl含有半導体層形成工程と、を含み、前記Al含有半導体層形成工程は、固体Alとハロゲン化水素とを、前記基板から離れた第1反応ゾーンにて500℃以下の温度で反応させてAlのハロゲン化物を生成する第1工程と、前記Al以外のIII族金属と前記ハロゲン化水素とを、前記基板に向かって前記第1反応ゾーンより下流側の第2反応ゾーンにて、500℃より高温で反応させてAl以外のIII族金属のハロゲン化物を生成する第2工程と、前記Alのハロゲン化物、前記Al以外のIII族金属のハロゲン化物、およびV族を含有するガスを、前記基板に向かって前記第2反応ゾーンより下流側の第3反応ゾーンにて、前記第2反応ゾーンより低温で前記半導体層の一面にて反応させることにより、前記Alを含むIII-V族化合物半導体を前記半導体層の一面に気相成長する第3工程と、を含み、前記Alのハロゲン化物は、前記第1反応ゾーンに導入される前記ハロゲン化水素のキャリアガスのガス流により前記第2反応ゾーンおよび前記第3反応ゾーンに導入され、前記キャリアガスの流速は、0.018m/sec以上0.062m/sec以下である。
(2)別の実施形態に係る高性能多接合太陽電池の製造方法において、好ましくは、前記ハロゲン化水素は、塩化水素であり、前記キャリアガスは、水素ガスであっても良い。
(3)別の実施形態に係る高性能多接合太陽電池の製造方法において、好ましくは、前記第2工程は、前記Al以外のIII族金属と前記ハロゲン化水素とを、前記第2反応ゾーンにて、700℃以上850℃以下の温度で反応させて前記Al以外のIII族金属のハロゲン化物を生成しても良い。
(4)別の実施形態に係る高性能多接合太陽電池の製造方法において、好ましくは、前記Alを含むIII-V族化合物半導体は、AlInGaPを含んでも良い。
(5)別の実施形態に係る高性能多接合太陽電池の製造方法は、好ましくは、前記半導体層または前記Alを含むIII-V族化合物半導体からなるAl含有半導体層の一面に、第1トンネル接合層を前記ハイドライド気相成長法により成膜する第1トンネル接合工程と、前記第1トンネル接合工程により前記第1トンネル接合層が成膜された後に、塩化水素ガスを前記第3反応ゾーンに導入することにより、反応炉内の前記第3反応ゾーンおよび/または前記基板に向かって前記第3反応ゾーンより下流に位置する前記反応炉内の反応管の端面をクリーニングするクリーニング工程と、前記クリーニング工程によるクリーニング後に、前記第1トンネル接合工程により成膜された前記第1トンネル接合層の一面に、第2トンネル接合層を前記ハイドライド気相成長法により成膜する第2トンネル接合工程と、をさらに含み、前記第1トンネル接合層および前記第2トンネル接合層は、InGaP、AlInGaP、AlInP、AlGaAs、およびGaAsからなる群から選択される少なくとも1種を含んでも良い。
(6)別の実施形態に係る高性能多接合太陽電池の製造方法は、好ましくは、前記第1トンネル接合工程により前記第1トンネル接合層が成膜された後に、前記反応炉を昇温する昇温工程と、前記クリーニング工程によるクリーニング後に、前記反応炉を降温する降温工程と、をさらに含み、前記クリーニング工程は、前記反応炉が昇温された状態で前記反応炉内の前記第3反応ゾーンおよび/または前記反応管の端面をクリーニングしても良い。
(7)別の実施形態に係る高性能多接合太陽電池の製造方法は、好ましくは、前記第1トンネル接合工程により前記第1トンネル接合層が成膜された基板を前記第3反応ゾーンから退避させる退避工程と、前記クリーニング工程によるクリーニング後に、前記基板を前記第3反応ゾーンに搬送する搬送工程と、をさらに含み、前記クリーニング工程は、前記基板が前記第3反応ゾーンから退避した状態で前記反応炉内の前記第3反応ゾーンおよび/または前記反応管の端面をクリーニングしても良い。
(8)別の実施形態に係る高性能多接合太陽電池の製造方法において、好ましくは、前記クリーニング工程は、前記塩化水素ガスのキャリアガスである水素ガスのガス流により前記塩化水素ガスを前記第3反応ゾーンに導入し、前記水素ガスの流速は、0.05m/sec以上0.2m/sec以下であっても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ハイドライド気相成長法を用いてAlを含有するIII-V族化合物半導体を結晶成長する際における結晶成長速度およびアルミニウム含有率の低下を抑制可能な高性能多接合太陽電池の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施形態に係る製造方法により製造される高性能多接合太陽電池の構成を説明するための概略断面図を示す。
図2図2は、本発明の実施形態に係る製造方法において使用されるハイドライド気相成長反応炉の概略断面図を示す。
図3図3は、本発明の実施形態に係る高性能多接合太陽電池の製造方法の主な工程のフローの一例を示す。
図4図4は、金属塩化物用水素ガスライン上段の流速とAl組成との関係のグラフを示す。
図5図5は、ハイドライド気相成長反応炉で作製したInGaP太陽電池においてパッシベーション層の組成による変換効率の変化を表したグラフを示す。
図6図6は、本発明の実施形態に係る高性能多接合太陽電池の製造方法の一部であるクリーニングプロセスの主な工程のフローの一例を示す。
図7図7は、クリーニングプロセス前およびクリーニングプロセス後のハイドライド気相成長反応炉内の写真をそれぞれ示す。
図8図8は、クリーニングプロセスを行った場合およびクリーニングプロセスを行わなかった場合における太陽電池性能の比較結果を示す。
図9図9は、クリーニングプロセスを行った場合およびクリーニングプロセスを行わなかった場合における電圧と電流密度との関係のグラフを示す。
図10図10は、Al含有半導体層の一例であるAlInGaPパッシベーション層の有無と変換効率との関係を説明するための図を示す。
図11図11は、Al原料の温度に対するAlClとHClの平衡分圧の変化を説明するための図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている諸要素およびその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0017】
1.高性能多接合太陽電池
まず、本発明の実施形態に係る製造方法により製造される高性能多接合太陽電池について説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る製造方法により製造される高性能多接合太陽電池の構成を説明するための概略断面図を示す。
【0019】
この実施形態に係る製造方法により製造される高性能多接合太陽電池1は、ハイドライド気相成長法(HVPE法)による気相成長を繰り返して製造される太陽電池である。高性能多接合太陽電池1は、好ましくは、基板上に、III-V族化合物半導体を主材料とする複数の半導体層と、当該半導体層の一面に、Alを含むIII-V族化合物半導体を主材料とするAl含有半導体層と、を有するIII-V族化合物半導体太陽電池である。この実施形態において、高性能多接合太陽電池1は、p型電極10上に、基板12、GaAsセル13、トンネル接合層19、InGaPセル22、n型GaAs層28、およびn型電極30が順に積層して構成されている(図1を参照)。p型電極10は、好ましくは、Ti/Auからなる電極である。基板12は、好ましくは、p型GaAs基板である。GaAsセル13は、好ましくは、基板12上に、p型GaAs層14、p型InGaP層15、p型GaAs層16、n型GaAs層17、n型AlInGaP層18が順に積層して構成されている。
【0020】
トンネル接合層19は、好ましくは、GaAsセル13上に、第1トンネル接合層20、第2トンネル接合層21が順に積層して構成されている。第1トンネル接合層20は、好ましくは、n型GaAs層である。第2トンネル接合層21は、好ましくは、p型InGaP層である。InGaPセル22は、好ましくは、トンネル接合層19上に、p型InGaP層23、p型AlInGaP層24、p型InGaP層25、n型InGaP層26、n型AlInGaP層27が順に積層して構成されている。n型電極30は、好ましくは、AuGeNi/Auからなる電極である。なお、n型AlInGaP層18,27およびp型AlInGaP層24は、Alを含むIII-V族化合物半導体を主材料とするAl含有半導体層の一例である。
【0021】
このように構成された高性能多接合太陽電池1は、Al含有半導体層としてのAlInGaP層18,24,27を備えることにより、高い変換効率を有する太陽電池となる(図10を参照)。なお、GaAsセル13およびInGaPセル22を構成する複数の層のうちAl含有半導体層18,24,27以外の層14~17,23,25,26は、半導体層の一例である。また、高性能多接合太陽電池1の構成は、少なくとも基板12上にIII-V族化合物半導体を主材料とする複数の半導体層とAl含有半導体層とが積層されて構成されていれば特に制約されず、例えば、複数の半導体層14~17,23,25,26のうち一部が省略若しくは他のIII-V族化合物半導体を主材料とする層に置換されていても良いし、Al含有半導体層18,24,27のうち一部が省略または他のAlを含むIII-V族化合物半導体を主材料とする層に置換されていても良い。
【0022】
2.ハイドライド気相成長反応炉
次に、本発明の実施形態に係る製造方法において使用されるハイドライド気相成長反応炉について説明する。
【0023】
図2は、本発明の実施形態に係る製造方法において使用されるハイドライド気相成長反応炉の概略断面図を示す。なお、図2は、ハイドライド気相成長反応炉をキャリアガスのガス流の方向に沿って切断された概略断面図(図2の左図)と、当該ガス流の方向に垂直な面で切断された概略断面図(図2の右図)とを示す。また、図2の右図は、電気炉を省略して図示した断面図である。
【0024】
この実施形態に係る製造方法において使用されるハイドライド気相成長反応炉(以下、適宜、「反応炉」とも称する。)40は、III-V族化合物半導体の気相成長および当該気相成長を繰り返して高性能多接合太陽電池1を製造可能な装置である。反応炉40は、好ましくは、石英製の横型反応管(以下、適宜、「反応管」とも称する。)49と、反応管49を取り巻くように配置された電気炉58と、基板57を支持するサセプタ56と、を備える。ここで、基板57は、基板12単体であっても良いし、GaAs層14,16,17,28、InGaP層15,23,25,26、AlInGaP層18,24,27、およびトンネル接合層19のうち1以上の半導体層が基板12上に積層されたものであっても良い(図1を参照)。この実施形態において、反応管49は、基板57から離間して配置されている。また、反応炉40は、好ましくは、V族ガス、ドーパントガスおよび水素ガス供給ライン41と、塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン42と、金属塩化物用水素ガスライン上段43と、ガリウム用塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン44と、アルミニウム用塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン45と、金属塩化物用水素ガスライン下段46と、インジウム用塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン47と、塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン48と、を備える。この実施形態において、上述のガス供給ライン41~48は、基板57に向かう方向(図2の左図では右方向)へガスが供給される。また、この実施形態において、反応炉40は、キャリアガスとして水素ガスを用いている。これは、水素ガスを用いることにより、結晶への不純物取り込みが少なくなる等の利点を有するためである。ただし、キャリアガスは、水素ガスに制約されず、例えば、窒素或いはヘリウム等の不活性ガスであっても良いし、水素と不活性ガスの混合ガスであっても良い。
【0025】
反応炉40において、反応管49内部には、好ましくは、高純度アルミニウム53を収容するアルミニウム原料用ボート50と、高純度ガリウム54を収容するガリウム原料用ボート51と、高純度インジウム55を収容するインジウム原料用ボート52と、を備える。この実施形態において、反応管49内部は、上下2段に分割されており、上段49aにアルミニウム原料用ボート50およびガリウム原料用ボート51を備え、下段49bにインジウム原料用ボート52を備える(図2の左図を参照)。ガリウム原料用ボート51およびインジウム原料用ボート52は、基板57に向かってアルミニウム原料用ボート50より下流側に配置されている。アルミニウム用塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン45は、好ましくは、アルミニウム原料用ボート50に連結されており、塩化水素ガスをキャリアガスである水素ガスによってアルミニウム原料用ボート50へ導入する。ガリウム用塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン44は、好ましくは、ガリウム原料用ボート51に連結されており、塩化水素ガスをキャリアガスである水素ガスによってガリウム原料用ボート51へ導入する。インジウム用塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン47は、好ましくは、インジウム原料用ボート52に連結されており、塩化水素ガスをキャリアガスである水素ガスによってインジウム原料用ボート52導入する。金属塩化物用水素ガスライン上段43は、反応管49の上段49aの内部にキャリアガスである水素ガスを導入するラインである。金属塩化物用水素ガスライン上段43に供給された水素ガスは、ガリウム用塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン44とアルミニウム用塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン45とに供給され、当該水素ガスのガス流により、反応管49の上段49aに備えられているガリウム原料用ボート51およびアルミニウム原料用ボート50へそれぞれ塩化水素ガスを導入することができる。金属塩化物用水素ガスライン下段46は、反応管49の下段49bの内部にキャリアガスである水素ガスを導入するラインである。金属塩化物用水素ガスライン下段46に供給された水素ガスは、インジウム用塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン47に供給され、当該水素ガスのガス流により、反応管49の下段49bに備えられているインジウム原料用ボート52へ塩化水素ガスを導入することができる。
【0026】
反応炉40は、第1反応ゾーン60と、基板57に向かって第1反応ゾーン60より下流側の第2反応ゾーン61と、基板57に向かって第2反応ゾーン61より下流側の第3反応ゾーン62と、を備える。第1反応ゾーン60は、アルミニウム原料用ボート50近傍の領域であり、好ましくは、300℃以上500℃以下の温度に保持された温度制御領域である。第2反応ゾーン61は、ガリウム原料用ボート51およびインジウム原料用ボート52近傍の領域であり、好ましくは、700℃以上850℃以下の温度に保持された温度制御領域である。第3反応ゾーン62は、基板57近傍の領域であり、好ましくは、660℃の温度に保持された温度制御領域である。V族ガス、ドーパントガスおよび水素ガス供給ライン41は、好ましくは、第3反応ゾーン62近傍に、V族ガスの一例であるリン化水素(PH)ガス、ドーパントガスの一例であるジメチル亜鉛ガスおよび硫化水素ガス、および水素ガスを導入する。また、塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン42,48は、好ましくは、第3反応ゾーン62近傍に水素ガスおよび塩化水素ガスを導入する。塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン42,48は、後述のクリーニングプロセスに使用されるラインである。なお、第1反応ゾーン60は、上述の温度範囲に制約されず、少なくとも500℃以下の温度に保持されていれば良い。また、第2反応ゾーン61は、上述の温度範囲に制約されず、少なくとも500℃より高温に保持されていれば良い。また、第3反応ゾーン62は、上述の温度に制約されず、第2反応ゾーン61より低温であり成膜可能な温度に保持されていればよい。
【0027】
3.高性能多接合太陽電池の製造方法
次に、本発明の実施形態に係る高性能多接合太陽電池の製造方法について説明する。
【0028】
高性能多接合太陽電池1は、ハイドライド気相成長反応炉40を用いて、HVPE法による気相成長を繰り返して製造される多接合太陽電池である。高性能多接合太陽電池の製造方法は、基板57上にIII-V族化合物半導体を主材料とする複数の半導体層を形成する半導体層形成工程と、半導体層の一面に、Alを含むIII-V族化合物半導体をHVPE法により結晶成長させるAl含有半導体層形成工程と、を少なくとも含む。また、Al含有半導体層形成工程は、固体Alとハロゲン化水素とを、第1反応ゾーン60にて500℃以下の温度で反応させてAlのハロゲン化物を生成する第1工程と、Al以外のIII族金属とハロゲン化水素とを、第2反応ゾーン61にて、500℃より高温で反応させてAl以外のIII族金属のハロゲン化物を生成する第2工程と、Alのハロゲン化物、Al以外のIII族金属のハロゲン化物、およびV族を含有するガスを、第3反応ゾーン62にて、第2反応ゾーン62より低温で半導体層の一面にて反応させることにより、Alを含むIII-V族化合物半導体を半導体層の一面に気相成長する第3工程と、を含む。
【0029】
図3は、本発明の実施形態に係る高性能多接合太陽電池の製造方法の主な工程のフローの一例を示す。
【0030】
高性能多接合太陽電池1は、少なくとも、半導体層形成工程(S100)と、第1工程(S110)と、第2工程(S120)と、第3工程(S130)と、を経て製造可能である。以下、S100~S130について、図3を参照して詳述する。
【0031】
(1)半導体層形成工程(S100)
この工程は、反応炉40を用いて基板57上にIII-V族化合物半導体を主材料とする複数の半導体層を形成する工程である。具体的には、反応炉40を用いてHVPE法による気相成長を繰り返し、基板12単体若しくはGaAs層14,16,17,28、InGaP層15,23,25,26、AlInGaP層18,24,27、およびトンネル接合層19のうち1以上の半導体層が基板12に積層された状態である基板57上に、複数のGaAs層またはInGaP層を形成する工程である。GaAs層14,16,17,28およびInGaP層15,23,25,26は、本発明の半導体層の一例である。半導体層形成工程(S100)は、好ましくは、反応炉40を用いてHVPE法による気相成長を繰り返し、Al含有半導体層の直下に積層される複数の半導体層を形成する工程である。より具体的には、例えば、図1に示す高性能多接合太陽電池1を製造する場合、半導体層形成工程(S100)は、基板12上に、p型GaAs層14、p型InGaP層15、p型GaAs層16、およびn型GaAs層17を順に積層する。また、半導体層形成工程(S100)は、基板12にGaAsセル13が積層された状態の基板57上に、トンネル接合層19およびp型InGaP層23を順に積層しても良い。また、半導体層形成工程(S100)は、基板12にGaAsセル13、トンネル接合層19、p型InGaP層23、およびp型AlInGaP層24が積層された状態の基板57に、p型InGaP層25およびn型InGaP層26を順に積層しても良い。半導体層形成工程(S100)における半導体層の成膜は、公知のHVPE法による気相成長を用いて行うことが好ましい。
【0032】
(2)第1工程(S110)
この工程は、固体Alとハロゲン化水素とを、第1反応ゾーン60にて500℃以下の温度で反応させてAlのハロゲン化物を生成する工程である。具体的には、金属塩化物用水素ガスライン上段43に供給された水素ガスがアルミニウム用塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン45に供給され、当該水素ガスのガス流によりハロゲン化水素の一例である塩化水素ガスをアルミニウム原料用ボート50へ導入する。これにより、300℃以上500℃以下に温度制御された第1反応ゾーン60に配置されているアルミニウム原料用ボート50において、高純度アルミニウム53と塩化水素とからハロゲン化物の生成反応が生じる。図11に示すように、500℃以下の温度でアルミニウムとHClとを反応させることにより、反応生成するAlの塩化物の分子種は、石英との反応性が低いAlClとなる。よって、第1工程(S110)においては、高純度アルミニウム53と塩化水素とから、主としてAlClが生成される。
【0033】
(3)第2工程(S120)
この工程は、Al以外のIII族金属とハロゲン化水素とを、第2反応ゾーン61にて、500℃より高温で反応させてAl以外のIII族金属のハロゲン化物を生成する工程である。具体的には、金属塩化物用水素ガスライン上段43に供給された水素ガスがガリウム用塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン44に供給され、当該水素ガスのガス流によりハロゲン化水素の一例である塩化水素ガスをガリウム原料用ボート51へ導入する。これにより、700℃以上850℃以下に温度制御された第2反応ゾーン61に配置されているガリウム原料用ボート51において、高純度ガリウム54と塩化水素とからハロゲン化物の生成反応が生じ、GaClが生成される。また、第2工程(S120)では、金属塩化物用水素ガスライン下段46に供給された水素ガスがインジウム用塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン47に供給され、当該水素ガスのガス流によりハロゲン化水素の一例である塩化水素ガスをインジウム原料用ボート52へ導入する。これにより、第2反応ゾーン61に配置されているインジウム原料用ボート52において、高純度インジウム55と塩化水素とからハロゲン化物の生成反応が生じ、InClが生成される。
【0034】
(4)第3工程(S130)
この工程は、Alのハロゲン化物、Al以外のIII族金属のハロゲン化物、およびV族を含有するガスを、第3反応ゾーン62にて、第2反応ゾーン61より低温で半導体層の一面にて反応させることにより、Alを含むIII-V族化合物半導体を半導体層の一面に気相成長する工程である。具体的には、まず、金属塩化物用水素ガスライン上段43に供給された水素ガスのガス流によりAlClおよびGaClが第3反応ゾーン62へ供給され、かつ金属塩化物用水素ガスライン下段46に供給された水素ガスのガス流によりInClが第3反応ゾーン62へ供給される。そして、660℃に温度制御された第3反応ゾーン62にて、AlCl、GaClおよびInClは、V族ガス、ドーパントガスおよび水素ガス供給ライン41から導入されるPHガス、ジメチル亜鉛ガスおよび硫化水素ガスと反応し、AlInGaPを基板57の半導体層の一面に気相成長することにより、AlInGaP層を成膜することができる。なお、V族ガス、ドーパントガスおよび水素ガス供給ライン41は、キャリアガスである水素ガスを供給しており、当該水素ガスのガス流によりPHガス、ジメチル亜鉛ガスおよび硫化水素ガスを第3反応ゾーン62へ導入する。
【0035】
この実施形態において、少なくとも金属塩化物用水素ガスライン上段43に供給されるキャリアガスである水素ガスの流速は、0.018m/sec以上0.062m/sec以下とする。
【0036】
図4は、金属塩化物用水素ガスライン上段の流速とAl組成との関係のグラフを示す。図5は、ハイドライド気相成長反応炉で作製したInGaP太陽電池においてパッシベーション層の組成による変換効率の変化を表したグラフを示す。
【0037】
図4に示すように、金属塩化物用水素ガスライン上段43の流速が0.018m/sec未満の場合、第3工程(S130)において成膜されるAlInGaP層のAl組成が非常に小さい。これは、第2反応ゾーン61が第1反応ゾーン60より高温であるため、熱対流によりAlClの第2反応ゾーン61および第3反応ゾーン62への移動が妨げられることに起因する。また、金属塩化物用水素ガスライン上段43の流速は、0.062m/secより大きい場合、Al組成(%)も大きくなる傾向がある。図5に示すように、Al組成(%)が大きくなると、バンドギャップエネルギーが大きくなり、高い変換効率が得られると予想される。しかし、実際には、Al組成(%)が26%のパッシベーション層において最も高い変換効率が得られたことから、水素ガスの流速を0.062m/sec以下とするのが好ましい。以上より、この実施形態においては、少なくとも金属塩化物用水素ガスライン上段43に供給されるキャリアガスである水素ガスの流速を、0.018m/sec以上0.062m/sec以下とすることにより、熱対流により移動が妨げられているAlClを、水素ガスのガス流によって第2反応ゾーン61および第3反応ゾーン62へ移動させることができる。このように、少なくとも金属塩化物用水素ガスライン上段43に供給される水素ガスの流速を制御することにより、HVPE法を用いてAlを含有するIII-V族化合物半導体を結晶成長する際における結晶成長速度およびアルミニウム含有率の低下を抑制することができる。
【0038】
4.クリーニングプロセス
次に、本発明の実施形態に係る高性能多接合太陽電池の製造方法の一部であるクリーニングプロセスについて説明する。
【0039】
クリーニングプロセス(以下、適宜、「塩化水素クリーニング」とも称する。)は、本発明の実施形態に係る高性能多接合太陽電池の製造方法の一部であって、好ましくは、トンネル接合層19(図1を参照)の成膜において実行される工程である。一般に、p型AlInGaP層24は、石英製の反応管49に付着した残渣物によって結晶品質が悪くなる虞がある。このような結晶品質が悪いp型AlInGaP層24を有する場合、高性能多接合太陽電池1としての性能も低下する虞がある。このような事態を抑制するため、高性能多接合太陽電池1は、p型AlInGaP層24の成膜前に、第3反応ゾーン62および反応管49の端面をクリーニングするクリーニングプロセスを経て製造されることが好ましい。
【0040】
図6は、本発明の実施形態に係る高性能多接合太陽電池の製造方法の一部であるクリーニングプロセスの主な工程のフローの一例を示す。
【0041】
クリーニングプロセスは、半導体層またはAl含有半導体層の一面に、第1トンネル接合層20をHVPE法により成膜する第1トンネル接合工程(S200)と、第1トンネル接合工程(S200)により第1トンネル接合層20が成膜された後に、塩化水素ガスを第3反応ゾーン62に導入することにより、反応炉40内の第3反応ゾーン62および反応炉40内の反応管49の端面をクリーニングするクリーニング工程(S230)と、クリーニング工程(S230)によるクリーニング後に、第1トンネル接合工程(S200)により成膜された第1トンネル接合層20の一面に、第2トンネル接合層21をHVPE法により成膜する第2トンネル接合工程(S260)と、を含む。また、クリーニングプロセスは、好ましくは、第1トンネル接合工程(S200)により第1トンネル接合層20が成膜された後に、反応炉40を昇温する昇温工程(S220)と、クリーニング工程(S230)によるクリーニング後に、反応炉40を降温する降温工程(S240)と、をさらに含む。また、クリーニングプロセスは、好ましくは、第1トンネル接合工程(S200)により第1トンネル接合層20が成膜された基板57を第3反応ゾーン62から退避させる退避工程(S210)と、クリーニング工程(S230)によるクリーニング後に、基板57を第3反応ゾーン62に搬送する搬送工程(S250)と、をさらに含む。以下、S200~S260について、図6を参照して詳述する。
【0042】
(5)第1トンネル接合工程(S200)
この工程は、半導体層またはAl含有半導体層の一面に、InGaP、AlInGaP、AlInP、AlGaAs、およびGaAsからなる群から選択される少なくとも1種を含む第1トンネル接合層20をHVPE法により成膜する工程である。具体的には、例えば、図1に示す高性能多接合太陽電池1を製造する場合、第1トンネル接合工程(S200)は、n型AlInGaP層18上に、GaAsを含む第1トンネル接合層20をHVPE法により成膜する工程である。第1トンネル接合工程(S200)における第1トンネル接合層20の成膜は、公知のHVPE法による気相成長を用いて行うことが好ましい。
【0043】
(6)退避工程(S210)
この工程は、第1トンネル接合層20が成膜された基板57を第3反応ゾーン62から退避させる工程である。この工程において、基板57の退避位置は、少なくとも第3反応ゾーン62以外の位置であれば特に制約されないが、反応炉40の外部へ退避させることが好ましい。
【0044】
(7)昇温工程(S220)
この工程は、第1トンネル接合層20が成膜された基板57を退避させた状態において、反応炉40を昇温する工程である。この工程は、好ましくは、第1反応ゾーン60を550℃以上600℃以下、第2反応ゾーン61を850℃以上900℃以下、かつ第3反応ゾーン62を700℃以上750℃以下となるように昇温する。ただし、この工程において、第1反応ゾーン60、第2反応ゾーン61および第3反応ゾーン62の昇温後の温度は、少なくとも昇温前の温度より高温であれば、上述の温度範囲に制約されない。
【0045】
(8)クリーニング工程(S230)
この工程は、第1トンネル接合層20が成膜された基板57を退避させ、反応炉40が昇温された状態において、塩化水素ガスを第3反応ゾーン62に導入することにより、反応炉40内の第3反応ゾーン62および反応管49の端面をクリーニングする工程である。具体的には、まず、塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン48から塩化水素ガスを分圧2.0×10-3~5.0×10-3Paに設定して5~30分導入する。このとき、塩化水素ガスは、塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン48から供給される水素ガスのガス流により導入される。この水素ガスの流速は、好ましくは、0.05m/sec以上0.2m/sec以下である。これにより、反応炉40内の塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン48の出口近傍をクリーニングすることができる。次に、塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン42から塩化水素ガスを分圧5.0×10-3~10.0×10-3Paに設定して10~30分導入する。このとき、塩化水素ガスは、塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン42から供給される水素ガスのガス流により導入される。この水素ガスの流速は、好ましくは、0.05m/sec以上0.2m/sec以下である。これにより、反応炉40内の塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン42の出口近傍をクリーニングすることができる。このようにして、塩化水素ガスおよび水素ガス供給ライン42,48によるクリーニングにより、反応炉40内の第3反応ゾーン62および反応管49の端面をクリーニングすることができる。なお、水素ガスの流速は、0.05m/sec未満または0.2m/secより速い値であっても良い。
【0046】
(9)降温工程(S240)
この工程は、クリーニング工程(S230)によるクリーニング後に反応炉40を降温する工程である。この工程は、好ましくは、第1反応ゾーン60を300℃以上400℃以下、第2反応ゾーン61を600℃以上700℃以下、かつ第3反応ゾーン62を630℃以上680℃以下となるように降温する。ただし、この工程において、第1反応ゾーン60、第2反応ゾーン61および第3反応ゾーン62の降温後の温度は、少なくとも昇温工程(S220)による昇温後の温度より低温であれば、上述の温度範囲に制約されない。
【0047】
(10)搬送工程(S25)
この工程は、クリーニング工程(S230)によるクリーニング後に反応炉40を降温した状態で、基板57を第3反応ゾーン62に搬送する工程である。より具体的には、退避工程(S210)により退避されていた基板57を、第3反応ゾーン62における退避前の位置まで搬送する工程である。
【0048】
(11)第2トンネル接合工程(S260)
この工程は、クリーニング工程(S230)によるクリーニング後に反応炉40を降温し、かつ退避されていた基板57を第3反応ゾーン62に搬送した状態で、第1トンネル接合層20の一面に、InGaP、AlInGaP、AlInP、AlGaAs、およびGaAsからなる群から選択される少なくとも1種を含む第2トンネル接合層21をHVPE法により成膜する工程である。具体的には、例えば、図1に示す高性能多接合太陽電池1を製造する場合、第2トンネル接合工程(S260)は、第1トンネル接合層20上に、InGaPを含む第2トンネル接合層21をHVPE法により成膜する工程である。第2トンネル接合工程(S260)における第2トンネル接合層21の成膜は、公知のHVPE法による気相成長を用いて行うことが好ましい。
【0049】
図7は、クリーニングプロセス前およびクリーニングプロセス後のハイドライド気相成長反応炉内の写真をそれぞれ示す。図8は、クリーニングプロセスを行った場合およびクリーニングプロセスを行わなかった場合における太陽電池性能の比較結果を示す。図9は、クリーニングプロセスを行った場合およびクリーニングプロセスを行わなかった場合における電圧と電流密度との関係のグラフを示す。
【0050】
図7のaに示すように、クリーニングプロセスが実行される前の反応炉40は、少なくとも反応管49の基板57側の端面に残渣物が付着している。このような状態の反応炉40に対して上述のクリーニングプロセスを実行することにより、第3反応ゾーン62および反応管49の端面をクリーニングして残渣物の付着を低減することができる(図7のbを参照)。このクリーニングプロセスは、p型AlInGaP層24の成膜前であるトンネル接合層19の成膜において実行される。このため、p型AlInGaP層24の成膜時において、反応炉40は、反応管49の端面の残渣物の付着が低減した状態となっている。よって、上述のクリーニングプロセスを経て製造された高性能多接合太陽電池1は、反応管49に付着した残渣物によりp型AlInGaP層24の結晶品質が悪くなる事態を抑制することができるため、太陽電池性能の低下も抑制することができる。図8および図9に示すように、クリーニングプロセスを経て製造された高性能多接合太陽電池1は、クリーニングプロセスを行わずに製造された高性能多接合太陽電池1と比べて、電流密度が大きく、変換効率も高くなる。よって、クリーニングプロセスを経て高性能多接合太陽電池1を製造することにより、太陽電池性能を向上させることができる。
【0051】
5.その他の実施形態
上述のように、本発明の好適な各実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されることなく、種々変形して実施可能である。
【0052】
先述の実施形態において、第1工程(S110)および第2工程(S120)は、高純度アルミニウム53、高純度ガリウム54および高純度インジウム55と反応させるハロゲン化水素の一例として塩化水素ガスを用いていたが、ハロゲン化水素は塩化水素に限定されず、例えば、臭化水素、ヨウ化水素等であっても良い。
【0053】
また、クリーニングプロセス(図6を参照)において、昇温工程(S220)および降温工程(S240)は省略されても良い。クリーニングプロセス(図6を参照)において、退避工程(S210)および搬送工程(S250)もまた、省略されても良い。
【0054】
また、高性能多接合太陽電池の製造方法において、クリーニングプロセス(図6を参照)は省略されても良い。この場合、トンネル接合層19を成膜する際に、第1トンネル接合工程(S200)の実行後に、退避工程(S210)、昇温工程(S220)、クリーニング工程(S230)、降温工程(S240)および搬送工程(S250)を省略し、第2トンネル接合工程(S260)を実行すれば良い。
【0055】
また、ハイドライド気相成長反応炉40は、少なくとも上述の高性能多接合太陽電池の製造方法(図3を参照)に基づき高性能多接合太陽電池1を製造可能な装置であれば、その構成は制約されない。例えば、反応管49は上下2段に分割されていなくとも良い。また、例えば、反応管49は、その基板57側の端面が基板57にさらに近接するように、第3反応ゾーン62のさらに下流側に位置していても良い。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る高性能多接合太陽電池の製造方法は、ハイドライド気相成長法による気相成長を繰り返して高機能多接合太陽電池を製造する方法として利用できる。特に、本発明に係る高性能多接合太陽電池の製造方法は、ハイドライド気相成長法による気相成長を繰り返して、Alを含有するIII-V族化合物半導体を含む高性能多接合太陽電池を製造する方法として好適である。
【符号の説明】
【0057】
1・・・高性能多接合太陽電池、12,57・・・基板、14,16・・・p型GaAs層(半導体層の一例)、15,23,25・・・p型InGaP層(半導体層の一例)、17,28・・・n型GaAs層(半導体層の一例)、18,27・・・n型AlInGaP層(Al含有半導体層の一例)、19・・・トンネル接合層、20・・・第1トンネル接合層、21・・・第2トンネル接合層、24・・・p型AlInGaP層(Al含有半導体層の一例)、26・・・n型InGaP層(半導体層の一例)、40・・・ハイドライド気相成長反応炉(反応炉の一例)、49・・・反応管、53・・・高純度アルミニウム(固体Alの一例)、54・・・高純度ガリウム(Al以外のIII族金属の一例)、55・・・高純度インジウム(Al以外のIII族金属の一例)、60・・・第1反応ゾーン、61・・・第2反応ゾーン、62・・・第3反応ゾーン。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11