(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023057697
(43)【公開日】2023-04-24
(54)【発明の名称】銅合金板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 9/04 20060101AFI20230417BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20230417BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20230417BHJP
【FI】
C22C9/04
C22F1/08 K
C22F1/00 604
C22F1/00 605
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 661A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 692Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021167316
(22)【出願日】2021-10-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221589
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 俊博
(72)【発明者】
【氏名】隅野 裕也
(72)【発明者】
【氏名】三浦 博己
(57)【要約】
【課題】Znを含み且つ十分な強度が得られる銅合金板を提供する。
【解決手段】成分組成が、Zn:15~33質量%、Ag:0.05~2.0質量%、および残部:Cuおよび不可避不純物からなり、圧延方向および板厚方向に平行な断面から、走査型電子顕微鏡を用いて得られる反射電子像において、圧延方向と30~60°の角度をなして存在するせん断帯に囲まれた変形双晶領域を含み、前記変形双晶領域の最大長さの平均値が6.0μm以下であり、前記変形双晶領域の数密度が、100個/10000μm
2以上である、銅合金板。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分組成が、
Zn:15~33質量%、
Ag:0.05~2.0質量%、および
残部:Cuおよび不可避不純物からなり、
圧延方向および板厚方向に平行な断面から、走査型電子顕微鏡を用いて得られる反射電子像において、圧延方向と30~60°の角度をなして存在するせん断帯に囲まれた変形双晶領域を含み、
前記変形双晶領域の最大長さの平均値が6.0μm以下であり、
前記変形双晶領域の数密度が、100個/10000μm2以上である、
銅合金板。
【請求項2】
Al、Mn、Cr、Ti、Zr、PおよびMgからなる群から選択される少なくとも1種以上を、合計で0質量%超0.50質量%以下さらに含有する、請求項1に記載の銅合金板。
【請求項3】
成分組成が、Zn:15~33質量%、Ag:0.05~2.0質量%、および残部:Cuおよび不可避不純物からなる銅合金鋳塊を用意する工程と、
前記銅合金鋳塊を800~1000℃に加熱する工程と、
加熱された前記銅合金鋳塊を熱間圧延して銅合金板を得る工程と、
熱間圧延された前記銅合金板に対し、第1の冷間圧延を行う工程と、
第1の冷間圧延がなされた前記銅合金板に対し、700℃超で再結晶焼鈍する工程と、
再結晶焼鈍された前記銅合金板に対し、80%以上の総圧下率で第2の冷間圧延を行う工程と、
を含む、請求項1に記載の銅合金板の製造方法。
【請求項4】
成分組成が、Zn:15~33質量%、Ag:0.05~2.0質量%、およびAl、Mn、Cr、Ti、Zr、PおよびMgの少なくとも1種以上を、合計で0質量%超0.50質量%以下含有し、且つ残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金鋳塊を用意する工程と、
前記銅合金鋳塊を800~1000℃に加熱する工程と、
加熱された前記銅合金鋳塊を熱間圧延して銅合金板を得る工程と、
熱間圧延された前記銅合金板に対し、第1の冷間圧延を行う工程と、
第1の冷間圧延がなされた前記銅合金板に対し、700℃超で再結晶焼鈍する工程と、
再結晶焼鈍された前記銅合金板に対し、80%以上の総圧下率で第2の冷間圧延を行う工程と、
を含む、請求項2に記載の銅合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は銅合金板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1および2に記載されるような、CuにZnを添加したCu-Zn合金からなる板材は、電子機器の端子用材料として広く使用されている。Cu-Zn合金は、Znを固溶させることによる固溶強化により、強度向上が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-208861
【特許文献2】特開2014-55347
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、端子材薄板化を背景として、さらなる高強度化が要求されるようになった。そのため、Cu-Zn合金において、Znによる固溶強化だけでは、十分な強度を得ることが困難になってきた。
【0005】
本開示はこのような状況に鑑みてなされたものであり、Znを含み且つ十分な強度が得られる銅合金板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様1は、
成分組成が、
Zn:15~33質量%、
Ag:0.05~2.0質量%、および
残部:Cuおよび不可避不純物からなり、
圧延方向および板厚方向に平行な断面から、走査型電子顕微鏡を用いて得られる反射電子像において、圧延方向と30~60°の角度をなして存在するせん断帯に囲まれた変形双晶領域を含み、
前記変形双晶領域の最大長さの平均値が6.0μm以下であり、
前記変形双晶領域の数密度が、100個/10000μm2以上である、
銅合金板である。
【0007】
本発明の態様2は、Al、Mn、Cr、Ti、Zr、PおよびMgからなる群から選択される少なくとも1種以上を、合計で0質量%超0.50質量%以下さらに含有する、態様1に記載の銅合金板である。
【0008】
本発明の態様3は、
成分組成が、Zn:15~33質量%、Ag:0.05~2.0質量%、および残部:Cuおよび不可避不純物からなる銅合金鋳塊を用意する工程と、
前記銅合金鋳塊を800~1000℃に加熱する工程と、
加熱された前記銅合金鋳塊を熱間圧延して銅合金板を得る工程と、
熱間圧延された前記銅合金板に対し、第1の冷間圧延を行う工程と、
第1の冷間圧延がなされた前記銅合金板に対し、700℃超で再結晶焼鈍する工程と、
再結晶焼鈍された前記銅合金板に対し、80%以上の総圧下率で第2の冷間圧延を行う工程と、
を含む、態様1に記載の銅合金板の製造方法である。
【0009】
本発明の態様4は、
成分組成が、Zn:15~33質量%、Ag:0.05~2.0質量%、およびAl、Mn、Cr、Ti、Zr、PおよびMgの少なくとも1種以上を、合計で0質量%超0.50質量%以下含有し、且つ残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金鋳塊を用意する工程と、
前記銅合金鋳塊を800~1000℃に加熱する工程と、
加熱された前記銅合金鋳塊を熱間圧延して銅合金板を得る工程と、
熱間圧延された前記銅合金板に対し、第1の冷間圧延を行う工程と、
第1の冷間圧延がなされた前記銅合金板に対し、700℃超で再結晶焼鈍する工程と、
再結晶焼鈍された前記銅合金板に対し、80%以上の総圧下率で第2の冷間圧延を行う工程と、
を含む、態様2に記載の銅合金板の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、Znを含み且つ十分な強度が得られる銅合金板およびその製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例の試験No.1のSEM像(反射電子像)の拡大図を示す。
【
図2】
図2は、
図1とは異なる箇所の、実施例の試験No.1のSEM像(反射電子像)から、画像処理ソフトウェア(Image J)を用いてせん断帯1~4に囲まれた変形双晶領域5を強調した画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、Znを含み且つ十分な強度が得られる銅合金板を実現するべく、様々な角度から検討した。その結果、圧延方向および板厚方向に平行な断面から、走査型電子顕微鏡を用いて得られる反射電子像において、圧延方向と30~60°の角度をなして存在するせん断帯に囲まれた変形双晶領域を、小さくし且つその数密度を増やすことが、強度向上に非常に有効であることを見出した。そして、所定の成分組成に調整するとともに、上記変形双晶領域の最大長さの平均値を6.0μm以下とし、且つ上記変形双晶領域の数密度を100個/10000μm2以上とすることにより、十分な強度が得られる銅合金板を実現できた。
【0013】
以下に、本発明の実施形態が規定する各要件の詳細を示す。
【0014】
<1.成分組成>
本発明の実施形態に係る銅合金板は、成分組成が、Zn:15~33質量%、Ag:0.05~2.0質量%を含み、残部はCuおよび不可避不純物からなることが好ましい。
以下、各元素について詳述する。
【0015】
(Zn:15~33質量%)
Znは、母相中に固溶することで、固溶強化による強度向上が可能となる。また、積層欠陥エネルギー(Stacking Fault Energy:SFE)を低下させ、冷間圧延加工による変形双晶領域の形成を促進させることができる。これらの効果を有効に発現させるために、Zn含有量は、15質量%以上とする。一方で、Zn含有量が過剰であると、第2相(β相)が出現し、加工性が低下するとともに熱間圧延性が低下する。そのため、Zn含有量は33質量%以下とする。
【0016】
(Ag:0.05~2.0質量%)
Agは、Znと同様に、母相中に固溶することで、固溶強化による強度向上が可能となる。また、SFEを低下させ、冷間圧延加工による変形双晶領域の形成を促進させることができる。これらの効果を有効に発現させるために、Ag含有量は0.05質量%以上とする。Ag含有量は好ましくは0.10質量%以上であり、より好ましくは0.20質量%以上であり、さらにより好ましくは0.50質量%以上である。一方で、Ag含有量が過剰であると、熱間圧延性が低下する。そのため、Ag含有量は2.0質量%以下とする。
【0017】
本発明の実施形態に係る銅合金板は、上記の成分組成を含み、本発明の1つの実施形態では、残部は銅および不可避不純物であることが好ましい。不可避不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素の混入が許容される。
【0018】
さらに、本発明の実施形態に係る銅合金板は、必要に応じて以下の任意元素を選択的に含有してよく、含有される成分に応じて銅合金板の特性が更に改善される。
【0019】
(Al、Mn、Cr、Ti、Zr、PおよびMgからなる群から選択される少なくとも1種以上を、合計で0質量%超0.50質量%以下)
Al、Mn、Cr、Ti、Zr、PおよびMgは、強度及び耐熱性をさらに向上させる。これらの効果を有効に発現させるために、Al、Mn、Cr、Ti、Zr、PおよびMgからなる群から選択される少なくとも1種以上を合計で0質量%超含有させることが好ましい。より好ましくは、0.01質量%以上であり、さらに好ましくは0.02質量%以上であり、さらにより好ましくは0.03質量%以上である。ただし、上記元素を過剰に添加すると、導電率が低下し得る。そのため、Al、Mn、Cr、Ti、Zr、PおよびMgからなる群から選択される少なくとも一種以上の合計含有量は、0.50質量%以下とすることが好ましい。
【0020】
<2.変形双晶領域>
本発明の実施形態に係る銅合金板は、圧延方向(以下、「RD」とも称する)および板厚方向(以下、「ND」とも称する)に平行な断面から、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて得られる反射電子像において、圧延方向と30~60°の角度をなして存在するせん断帯に囲まれた変形双晶領域を含む。上述したように、この変形双晶領域を小さくするとともに数密度を増やすことにより、強度を向上させることができる。
【0021】
変形双晶領域の有無は、以下のようにして確認する。
まず、圧延方向および板厚方向に平行な断面を露出させる。具体的には、銅合金板を適当なサイズに切断した後、樹脂埋めを行い、圧延方向および板厚方向に平行な端面から湿式研磨にて1mm以上研削する。その後、研削面が鏡面になるまでバフ研磨を行い、続いて電解研磨を施すことで、SEM観察用断面サンプルを作成する。その後、SEMを用いて、当該断面サンプルから、視野領域150μm(ND)×120μm(RD)の反射電子像を得る。なお、板厚方向の表面と中心付近では観察結果が変化し得るため、当該視野領域の板厚方向の位置については、銅合金板の板厚方向の中心±板厚×25%の範囲内とする。また、RDおよびNDに垂直な方向(以下、「TD」とも称する)の位置は、上述のように研削することにより、端面から1mm以上離れた位置とする。
【0022】
図1に本発明の実施形態に係る銅合金板のSEM像(反射電子像)の一例(後述する実施例の試験No.1の反射電子像)を示す。なお、
図1は、視野領域150μm(ND)×120μm(RD)の反射電子像を拡大したものであり、視野領域の板厚方向の位置については、銅合金板の板厚方向の中心±板厚×25%の範囲内としている。
図1に示すように、変形双晶領域5が確認され、変形双晶領域5を他の領域(低角ラメラ領域)と分断するせん断帯1~4が確認される。なお、せん断帯1~4は、圧延方向に平行な一点鎖線で示す線と、それぞれθ
1~θ
4(°)の角度(ただし、30°≦θ
1、θ
2、θ
3、θ
4≦60°)をなして存在している。また、変形双晶領域5の2本の対角線のうち長い方の長さを、変形双晶領域5の最大長さL
Maxとする。
【0023】
画像処理ソフトウェア(Gimp、Image J等)を用いてコントラスト調整を行うことにより、反射電子像においてせん断帯1~4に囲まれた変形双晶領域5を強調でき、せん断帯1~4に囲まれた変形双晶領域5の最大長さL
Maxおよび数密度の測定を容易にできるようになる。
図2は、一例として、本発明の実施形態に係る銅合金板のSEM像(反射電子像)(後述する実施例の試験No.1の反射電子像)からImage Jを用いてせん断帯1~4に囲まれた変形双晶領域5を強調した画像を示している。なお、
図2については、変形双晶領域5の周囲を赤で着色した原図を物件提出書として本願と同時に提出している。必要に応じてこの原図も参照されたい。
【0024】
本発明の実施形態に係る銅合金板は、変形双晶領域5の最大長さLMaxの平均値が6.0μm以下である。LMaxの平均値が6.0μm超であると、十分な強度が得られない。変形双晶領域5の最大長さLMaxの平均値の下限は特に制限されないが、例えば0.1μm以上であり得る。
【0025】
本発明の実施形態に係る銅合金板は、変形双晶領域5の数密度は100個/10000μm2以上である。変形双晶領域5の数密度は100個/10000μm2未満であると十分な強度が得られない。変形双晶領域5の数密度の上限は特に制限されないが、例えば1000個/10000μm2以下であり得る。
【0026】
本発明の実施形態に係る銅合金板の板厚は特に制限されないが、例えば100μm以上10mm以下であり得る。
【0027】
本発明の実施形態に係る銅合金板は、上記要件を満足することにより十分な強度が得られる。具体的には、TDの引張強度を845MPa以上にできる。好ましくは、TDの引張強度が865MPa以上である。また、本発明の実施形態に係る銅合金板は、上述の成分組成に調整することにより、導電率を高く(例えば30%IACS以上に)することができる。
【0028】
<3.製造方法>
本発明の実施形態に係る銅合金板の製造方法の一例は、
(A)上記成分組成の銅合金鋳塊を用意する工程と、
(B)前記銅合金鋳塊を800~1000℃に加熱する工程と、
(C)加熱された前記銅合金鋳塊を熱間圧延して銅合金板を得る工程と、
(D)熱間圧延された前記銅合金板に対し、第1の冷間圧延を行う工程と、
(E)第1の冷間圧延がされた前記銅合金板に対し、700℃超で再結晶焼鈍する工程と、
(F)再結晶焼鈍された前記銅合金板に対し、80%以上の総圧下率で第2の冷間圧延を行う工程と、を含む。上記製造方法により、十分な強度が得られる銅合金板を製造できる。
以下各工程について詳述する。
【0029】
(A)銅合金鋳塊を用意する工程
まず、上記成分組成に調整した銅合金を、周知の方法で溶解、鋳造して銅合金鋳塊を用意する。例えば上記成分組成に調整した銅合金をクリプトル炉にて木炭被覆下で大気溶解した後、鋳塊を鋳造することができる。
【0030】
(B)加熱する工程
工程(A)後、銅合金鋳塊を800~1000℃に加熱する。加熱温度を800℃~1000℃にすることで、均一固溶体合金が得られる。必要に応じて一定時間保持(例えば10分以上)してもよい。
【0031】
(C)熱間圧延する工程
工程(B)後、銅合金片に対し、熱間圧延する。熱間圧延をすることにより、均一な動的再結晶組織を得て、後述する冷間圧延後に所望の金属組織を得ることが可能となる。熱間圧延のパス回数および総圧下率は特に限定されず、目的とする板厚、ならびに均一な再結晶組織となるよう、後述の冷間圧延における総圧下率との関係で適宜決定すればよい。例えば、熱間圧延の総圧下率は30%以上、さらには50%以上としてもよい。
【0032】
圧延後の冷却は、添加元素の種類と添加量に応じて、適宜調整し得るが、例えば、放冷してもよいし、水冷等により急冷してもよい。均一固溶体合金を得やすいという観点では水冷が好ましい。水冷する場合、冷却開始温度は、例えば600℃以上とし得る。水冷する場合、例えば後述する第1の冷間圧延を行う温度までの平均冷却速度は、50~90℃/sが好ましく、55~75℃/sがより好ましい。冷却後、酸化スケールを除去するため、板厚方向の表面を切削してもよい。
【0033】
(D)第1の冷間圧延を行う工程
工程(C)後、第1の冷間圧延を行う。第1の冷間圧延をすることにより、最終製品において所望の金属組織を得ることが可能となる。第1の冷間圧延は、例えば10℃以上200℃以下で行うことができ、第1の冷間圧延の総圧下率は80%以上、95%以下とすることが好ましい。
【0034】
(E)再結晶焼鈍する工程
工程(D)後、再結晶焼鈍を行う。再結晶焼鈍により、溶解鋳造及び/又は熱間圧延で出現し得る析出物を再固溶させることができる。
本発明の実施形態において、再結晶焼鈍により、平均結晶粒径を40μm以上にする必要がある。他の製造条件を満足するとともに、再結晶焼鈍後の平均結晶粒径を40μm以上にすることにより、最終製品において変形双晶領域の最大長さの平均値を6.0μm以下とすることができ、且つ変形双晶領域の数密度を100個/10000μm2以上にすることができる。平均結晶粒径の上限は特に制限されないが、例えば100μm以下であり得る。平均結晶粒径を40μm以上にするために、再結晶焼鈍は、温度を700℃超とし、保持時間を適宜調整することで行う。再結晶焼鈍の温度上限は特に制限されないが、例えば950℃以下とし得る。保持時間は、保持温度と結晶粒径に応じて適宜調整され得るが、例えば20秒以上60分以下とし得る。また、再結晶焼鈍は、再結晶焼鈍後の導電率が28~37%となるように、再結晶焼鈍条件を設定するのが好ましい。
再結晶焼鈍後に平均結晶粒径が40μm以上であるかを確認する必要がある。確認方法としては、圧延方向および板厚方向に平行な端面から光学顕微鏡像(拡大倍率:100倍)を取得し、JIS H 0501:1986に準じて既知の長さの線分(線分の向きは板厚方向)によって完全に切られる結晶粒数を数え、その切断長さの平均値を平均結晶粒径とする切断法を用いる。
【0035】
(F)80%以上の総圧下率で第2の冷間圧延を行う工程
工程(E)後、80%以上の総圧下率で第2の冷間圧延を行う。他の製造条件を満足するとともに、第2の冷間圧延の総圧下率を80%以上とすることで、変形双晶領域の最大長さの平均値を6.0μm以下とすることができ、且つ変形双晶領域の数密度を100個/10000μm2以上にすることができる。第2の冷間圧延は、例えば10℃以上200℃以下で行うことができる。
【0036】
本発明の実施形態に係る銅合金板の製造方法の一例を説明したが、本発明の実施形態に係る銅合金板の所望の特性を理解した当業者が試行錯誤を行い、本発明の実施形態に係る所望の特性を有する銅合金板を製造する方法であって、上記の製造方法以外の方法を見出す可能性がある。
【実施例0037】
以下、実施例を挙げて本発明の実施形態をより具体的に説明する。本発明の実施形態は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前述および後述する趣旨に合致し得る範囲で、適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の実施形態の技術的範囲に包含される。
【0038】
表1に示す成分組成の銅合金をクリプトル炉にて木炭被覆下で大気溶解し、180mm(RD)×80mm(TD)×45mm(ND)の鋳塊を作製した。この鋳塊を850℃で30分以上加熱し、板厚約20mmまで熱間圧延を行った後、650℃以上から水冷し、厚さ20mmの銅合金板(熱延材)を得た。この熱延材の表面の酸化スケールを除去するため、表面を切削した。その後、第1の冷間圧延として、室温で板厚2.5mmまで圧延した後、再結晶焼鈍(750℃で30秒分保持、冷却条件:水冷)を施した。再結晶焼鈍後、総圧下率90%で第2の冷間圧延を室温で行い、試験No.1~6の銅合金板(板厚0.25mm)を得た。なお、試験No.1~6の再結晶焼鈍後において平均結晶粒径を切断法(JIS H 0501:1986)で確認したところ、いずれも40~64μmであった。
【0039】
【0040】
試料No.1~6に対して、変形双晶領域の最大長さの平均値、変形双晶領域の数密度、導電率、および十分な強度が得られているかの確認としてTDの引張強度を測定した。
【0041】
<変形双晶領域の最大長さの平均値および数密度の測定>
まず、試料No.1~6の圧延方向および板厚方向に平行な断面を露出させた。具体的には、試料No.1~6を適当なサイズに切断した後、手動埋込機(株式会社三啓製プレシドンML-MA)を用いて樹脂埋めを行い、卓上回転研磨盤(NANO FACTOR社製FACT-200)を用いて、圧延方向および板厚方向に平行な端面から湿式研磨にて約2mm程度削り、その後平均粒径1μmのダイヤモンド研磨液(丸本ストルアス社製DP-懸濁液)および潤滑剤(丸本ストルアス社製DP-ルブリカント)を使用し、鏡面になるまでバフ研磨を行い、続いてリン酸と蒸留水を体積比1:1で混合した電解研磨液にて電解研磨を施すことにより、SEM観察用断面サンプルを作成した。その後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、当該断面サンプルから、視野領域150μm(ND)×120μm(RD)の反射電子像を得た。なお当該視野領域の板厚方向の位置については、銅合金板の板厚方向の中心±板厚×25%の範囲内とした。画像処理ソフトウェアとしてImage Jを用いて、コントラスト調整および2値化の処理を行うことにより、反射電子像においてせん断帯を強調し、個々のせん断帯に囲まれた変形双晶領域の最大長さLMaxを測定し、その平均値を算出した。また変形双晶領域の数密度を測定した。
【0042】
<導電率の測定>
四端子電位差法を用いて電気伝導度測定を行った。試験片サイズは、30mm(RD)×8mm(TD)×0.25mm(ND)とした。この試験片に定電流源にて1.5Aを印加し、端子間の電位差をデジタルマルチメータ(IWATSU社製VOAC7522)で測定した。得られた電圧値から体積抵抗値ρを求め、国際焼鈍銅線標準抵抗値(International Annealed Copper Standard:IACS、1.7241×10-8Ω・m)をρ0とした場合の比を百分率で示した。
【0043】
<TDの引張強度の測定>
NCワイヤ放電加工機(Brother社製HS-300)を用いて、TDが長手方向になるように、ゲージ部幅3mm、つかみ具間距離8mm、平行部長さ6mmの試験片を作成した。引張試験は、Instron万能試験機(SHIMADZU社製AG-100kNX)を用いて、初期ひずみ速度1.4×10-3s-1、クロスヘッド速度を一定とし、試験片の長手方向と引張方向が一致するように引張試験を行うことで、TDの引張強度を求めた。
【0044】
上記測定結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
表2の結果より、次のように考察できる。表2の試験No.1~4は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件を満足しており、十分な強度(TDの引張強度845MPa以上)を有した。
一方、表2の試験No.5および6は、いずれも本発明の実施形態で規定する要件を満たしておらず、十分な強度が得られなかった。
【0047】
試験No.5は、Agを含まなかったため、変形双晶領域の最大長さの平均値が6.0μm超であり、TDの引張強度が845MPa未満となった。
【0048】
試験No.6は、Ag含有量が0.05質量%未満であったため、変形双晶領域の最大長さの平均値が6.0μm超であるとともに、変形双晶領域の数密度が100個/10000μm2未満であり、TDの引張強度が845MPa未満となった。