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特開2023-58191水素処理材、水素処理材の製造方法、および、水素処理方法
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  • 特開-水素処理材、水素処理材の製造方法、および、水素処理方法 図1
  • 特開-水素処理材、水素処理材の製造方法、および、水素処理方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058191
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】水素処理材、水素処理材の製造方法、および、水素処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 9/06 20060101AFI20230418BHJP
   C01B 5/00 20060101ALI20230418BHJP
【FI】
G21C9/06
C01B5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021168030
(22)【出願日】2021-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡部 寛史
(72)【発明者】
【氏名】田邊 雅士
(72)【発明者】
【氏名】山田 昂
(72)【発明者】
【氏名】三澤 玲菜
(72)【発明者】
【氏名】柳生 基茂
(72)【発明者】
【氏名】土屋 直実
(72)【発明者】
【氏名】山田 和矢
(57)【要約】
【課題】水素処理を効率的に実施することを容易に実現可能な水素処理材を提供する。
【解決手段】実施形態の水素処理材は、水素を水に酸化させる水素処理で用いられる水素処理材であって、疎水性領域を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を水に酸化させる水素処理で用いられる水素処理材であって、
疎水性領域を含む、
水素処理材。
【請求項2】
請求項1に記載の水素処理材を製造する製造方法であって、
前記水素処理材について疎水化処理を施すことによって前記疎水性領域を形成する疎水化工程
を有する、
水素処理材の製造方法。
【請求項3】
前記疎水化工程では、前記水素処理材の表面に疎水性膜をコーティングすることによって前記疎水化処理を行う、
請求項2に記載の水素処理材の製造方法。
【請求項4】
前記疎水化工程では、前記水素処理材の表面に凹凸構造を形成することで前記疎水化処理を行う、
請求項2に記載の水素処理材の製造方法。
【請求項5】
前記疎水化工程では、前記水素処理材についてプラズマ処理を施すことによって前記疎水化処理を行う、
請求項2に記載の水素処理材の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の水素処理材を製造する製造方法であって、
金属酸化物の粉末と、疎水性材料とを混合することによって、前記水素処理材を作製する、
水素処理材の製造方法。
【請求項7】
全ての孔の容積に対して、直径が50nm以上である孔の容積が1/2以上占めるように、前記水素処理材を作製する、
請求項1から5のいずれかに記載の水素処理材の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の水素処理材を用いて水素処理を行う水素処理方法であって、
280℃以上の温度条件で前記水素処理を行う、
水素処理方法。
【請求項9】
減圧下において前記水素処理を行う、
請求項8に記載の水素処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水素処理材、水素処理材の製造方法、および、水素処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素処理材は、水素を水に酸化させる水素処理で用いられる。水素処理材は、例えば、金属酸化物を用いて形成されている。
【0003】
上記の水素処理材を用いて水素処理を行う場合、金属酸化物の組成に含まれる酸素原子(O)と、処理対象である水素ガス(H)との間で反応が生じ、水素ガス(H)が酸化されることで水が生成される。このため、水素処理の際に酸素ガス(O)の導入ができない場合であっても、上記の水素処理材が酸化剤として作用することで水素処理を行うことができる。
【0004】
具体的には、過酷事故が生じた原子炉格納容器の内部のように、水素爆発のおそれがあるために、酸素ガスの導入ができない場合であっても、上記の水素処理材を用いることで水素処理を実行可能である。その他、沸騰水型軽水炉の内部のように雰囲気中に酸素(O)がほとんどなく、燃焼等による水素処理が実行できない場合、および、グローブボックスなどのように酸素ガスの導入ができない場合であっても、上記の水素処理材を用いることで水素処理を実行可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2002-541462号公報
【特許文献2】特表2002-540920号公報
【特許文献3】特開2021-9099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水素処理材は、金属酸化物の粉体や成形体であって、孔(細孔)を含む。金属酸化物の孔には処理対象である水素ガスが流入して水素処理が行われると共に、水素処理で生成された水が金属酸化物の孔から流出する。これにより、水素ガスの酸化反応が速やかに進行するため、水素処理が効率的に実行される。
【0007】
しかしながら、水素処理を行う雰囲気において水蒸気の濃度が高い場合には、毛管凝集の作用によって、金属酸化物の孔の多くが、水によって閉塞される場合がある。特に、金属酸化物の孔のうち、直径が50nm以下の孔において、毛管凝集が発生しやすい。その結果、水素処理において水素ガス(H)を酸化する反応の反応速度が低下し、水素処理に要する処理時間が長くなる場合がある。
【0008】
水素処理を行う雰囲気において水蒸気の濃度が低い場合であっても、水素ガスの濃度が高い場合には、水素処理の進行に伴って生成された水に起因して水蒸気の濃度が高くなるため、同様に、水素処理に要する処理時間が長くなる場合がある。
【0009】
このため、除湿処理を行うことが考えられる。しかし、過酷事故時に大量に生成される水蒸気を除湿処理で除去することは、電源確保の観点、装置規模の観点、および、経済性の観点等を考慮すると、容易でない。
【0010】
上記のような事情により、従来の水素処理材では、水素処理を効率的に実施することが困難な場合がある。
【0011】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、水素処理を効率的に実施することを容易に実現可能な、水素処理材、水素処理材の製造方法、および、水素処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態の水素処理材は、水素を水に酸化させる水素処理で用いられる水素処理材であって、疎水性領域を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水素処理を効率的に実施することを容易に実現可能な、水素処理材、水素処理材の製造方法、および、水素処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施形態の水素処理材10の一部を模式的に示す断面図である。
図2図2は、変形例の水素処理材10の一部を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[A]水素処理材
【0016】
実施形態の水素処理材10について図1を用いて説明する。図1では、水素処理材10の一部断面を模式的に示している。
【0017】
水素処理材10は、図1に示すように、疎水性膜20が表面にコーティングされた疎水性領域HPを含み、水素を水に酸化させる水素処理で用いられる。ここでは、水素処理材10は、例えば、表面全体が疎水性膜20で被覆された疎水性領域HPである。この他に、水素処理材10は、表面の一部が疎水性膜20で被覆された疎水性領域HPであって、他の部分が疎水性膜20で被覆されていなくてもよい。
【0018】
水素処理材10は、金属酸化物で形成されている。ここでは、金属酸化物は、二酸化マンガン、酸化銅、酸化ニッケル、四酸化三コバルトなどであって、水素処理材10では、金属酸化物の組成に含まれる酸素原子(O)と、処理対象である水素ガス(H)との間で反応が生じることで、水素処理が行われる。
【0019】
本実施形態において、水素処理材10は、例えば、粉体を球状に成形した成形体である。水素処理材10は、粉体であってもよい。
【0020】
水素処理材10は、孔Hを含む。既に述べたように、水素処理材10の孔Hには、処理対象である水素ガスが流入して水素処理が行われると共に、水素処理で生成された水が金属酸化物の孔Hから流出する。水素処理材10において、孔Hは、例えば、直径が0.1~10μm(水銀圧力法による測定結果)の範囲である。
【0021】
水素処理材10において疎水性領域HPを構成する疎水性膜20は、疎水性材料を用いて形成されている。疎水性材料は、例えば、メチル基、エチル基、アルキル基、アラルキル基、アルコキシ基、フェニル基、エステル基等の疎水性官能基を含む疎水性シリコーン樹脂である。
【0022】
疎水性膜20の厚みはできるだけ薄い方が好ましく、例えば、数原子層の0.1nm~10μm程度であることが好ましい。
【0023】
水素処理材10の疎水性領域HPは、例えば、成形体である水素処理材10について疎水化処理を施す疎水化工程を実行することで形成される。本実施形態の疎水化処理では、水素処理材10の表面に疎水性膜20をコーティングする。具体的には、シランカップリング処理を疎水化処理として実施することで、疎水性シリコーン樹脂の疎水性膜20を水素処理材10の表面に形成する。
【0024】
疎水性膜20の形成で用いる疎水性材料としては、疎水性シリコーン樹脂の他に、ポリイミド、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA))等の樹脂を用いてもよい。
【0025】
上記の疎水化処理は、成形体である水素処理材10に対して施す他に、粉末である水素処理材10に対して施してもよい。また、成形体である水素処理材10を作成する際には、疎水化処理を施した粉末と、疎水化処理を施していない粉末とを混合した混合粉末から成形体を成形してもよい。更に、成形体について焼成などの処理を施してもよい。
【0026】
[B]まとめ
以上のように、本実施形態の水素処理材10は、孔Hを含む金属酸化物であって、疎水性領域HPが設けられている。ここでは、水素処理材10の疎水性領域HPには、疎水性膜20が形成されている。このため、本実施形態の水素処理材10の表面では、疎水性領域HPに形成された疎水性膜20の作用によって、水(液相水)が親和せずに弾かれる。その結果、本実施形態の水素処理材10の表面では、水が無い状態を保持することができるので、孔Hにおいて水の毛管凝集が生じにくく、孔Hが水で閉塞されにくい。これにより、水素処理材10の孔Hには処理対象である水素ガスが流入して水素処理が行われると共に、水素処理で生成された水が孔Hから流出する。したがって、本実施形態の水素処理材10を用いることで、水素ガスの酸化反応が速やかに進行するため、水素処理を効率的に実行することができる。
【0027】
[C]変形例
上記の実施形態では、水素処理材10の表面に疎水性膜20をコーティングすることで疎水化処理を実行し、疎水性領域HPを形成する場合について説明したが、これに限らない。
【0028】
図2は、変形例の水素処理材10の一部を模式的に示す断面図である。
【0029】
図2に示すように、疎水性膜20のコーティングによる疎水化処理を実行せずに、水素処理材10の表面に凹凸構造を形成する疎水化処理を実行することで、疎水性領域HPを形成してもよい。例えば、凹凸構造は、凹部の幅および深さ、凸部の先端部分の幅が、50μm以下であることが好ましく、1μm以下であることが更に好ましい。
【0030】
凹凸構造は、水素処理材10について、例えば、アルゴンガスを用いたプラズマ処理を施すことで形成される。プラズマ処理以外の方法で、凹凸構造を形成してもよい。この他に、例えば、フッ素を含むガスで生成したプラズマを用いたプラズマ処理を実行することで、水素処理材10を構成する金属酸化物に疎水性基を付加する疎水化処理を行い、疎水性領域HPを形成してもよい。
【0031】
水素処理材10の作製は、金属酸化物の粉末と、疎水性材料の粉末とを混合した混合物を成形することによって実施してもよい。ここでは、疎水性材料として、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA))、ポリイミド等の疎水性樹脂を用いることができる。疎水性材料の粉末の粒子径は、特に制限はないが、造粒性の観点から、100μm以下であることが好ましい。この場合には、水素処理材10において疎水性材料の粉末が露出した部分が疎水性領域HPとして機能する。
【0032】
水素処理材10は、全ての孔Hの容積に対して、直径が50nm以上である孔Hの容積が1/2以上占めることが好ましい。直径が50nm以下の孔H(つまり、直径が2nm以下であるミクロ孔、および、直径が2nmを超え50nm以下であるメソ孔等)においては、毛管凝集が発生しやすいため、水によって孔Hが閉塞されやすい。しかし、上記のように、全ての孔Hの容積に対して、直径が50nm以上である孔Hの容積が1/2以上占めることで、毛管凝集の発生が抑制され、水による孔Hの閉塞を防止することできる。その結果、水素処理において水素ガス(H)を酸化する反応の反応速度が低下せず、水素処理に要する処理時間を短縮化することができる。孔Hの直径については、成形体の焼成条件(温度、時間)を調整することで、制御することができる。なお、全ての孔Hの容積の測定、および、直径が50nm以上である孔Hの容積の測定は、水銀圧力法によって実行される。
【0033】
上記の水素処理材10を用いて水素処理を行う際には、温度条件が280℃以上であることが好ましい。具体的には、水素処理材10が充填される反応器(図示省略)の運転温度を280℃以上にすることが好ましい。これにより、水素処理材10において水の毛管凝集が発生することを抑制することができるため、水素処理に要する処理時間を更に短縮化することができる。
【0034】
更に、減圧下において水素処理を行うことが好ましい。具体的には、水素処理材10が充填される反応器(図示省略)に導入される処理対象ガスの圧力を大気圧未満(1気圧未満)にすることが好ましい。これにより、水素処理で生ずる水が気化しやすくなり、水素処理材10において水の毛管凝集が発生することを抑制することができるため、水素処理に要する処理時間を更に短縮化することができる。
【0035】
<その他>
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
10:水素処理材、20:疎水性膜、HP:疎水性領域、H:孔
図1
図2