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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023058487
(43)【公開日】2023-04-25
(54)【発明の名称】金属物体の付加製造
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/107 20220101AFI20230418BHJP
   B22F 10/12 20210101ALI20230418BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230418BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230418BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230418BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230418BHJP
【FI】
B22F1/107
B22F10/12
B22F1/00 K
B22F1/00 L
B22F1/00 M
B22F1/00 N
B22F1/00 R
B22F1/00 S
B22F1/00 P
B33Y10/00
B33Y80/00
B33Y70/00
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023001198
(22)【出願日】2023-01-06
(62)【分割の表示】P 2019561828の分割
【原出願日】2018-05-09
(31)【優先権主張番号】2018890
(32)【優先日】2017-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(71)【出願人】
【識別番号】518015365
【氏名又は名称】アドマテック ヨーロッパ ベー.フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】オプスクール, ジャン
(72)【発明者】
【氏名】サウルウォルト, ジェイコブ ジャン
(72)【発明者】
【氏名】バークベルド, ルイス デイビッド
(57)【要約】      (修正有)
【課題】間接的光造形法又は関連する方法に基づいた、硬化の増加した深さを有する三次元金属物体の付加製造のための方法およびエネルギー線硬化性スラリーを提供する。
【解決手段】スラリーは:a)2~45wt%の重合性樹脂;b)0.001~10wt%の光重合開始剤;c)55~98wt%の金属含有化合物の混合物;を含み、前記混合物は混合物の重量に対して5~95wt%の金属粒子及び5~95wt%の金属前駆体を含む。また、付加製造方法は、金属粒子及び金属前駆体のグリーン体を本発明によるスラリーを使用して構築するステップ、グリーン体から有機バインダーを除去してブラウン体を得るステップ及び任意選択で、任意の残りの金属前駆体を対応する金属に変換し三次元金属物体を得るステップを含む。別の態様では、本発明は本発明の方法によって得ることができる三次元金属物体、及び三次元金属物体の触媒又は触媒担体としての使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元金属物体の付加製造のためのエネルギー線硬化性スラリーであって、前記スラリーが、スラリーの重量に対して:
a)2~45wt%の重合性樹脂;
b)0.001~10wt%の1種又は複数種の光重合開始剤;
c)55~98wt%の金属含有化合物の混合物;
を含み、前記金属含有化合物の混合物が、前記混合物の重量に対して、5~95wt%の金属粒子及び5~95wt%の1種又は複数種の金属前駆体を含む、エネルギー線硬化性スラリー。
【請求項2】
前記金属含有化合物の混合物が、前記混合物の重量に対して、45~95wt%の金属粒子及び5~55wt%の1種又は複数種の金属前駆体、好ましくは65~95wt%の金属粒子及び5~35wt%の1種又は複数種の金属前駆体、より好ましくは80~95wt%の金属粒子及び5~20wt%の1種又は複数種の金属前駆体を含む、請求項1に記載のエネルギー線硬化性スラリー。
【請求項3】
前記金属粒子中の金属が、ベリリウムの酸化物、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、及びランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウムを含むランタノイド、及びアクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウムを含むアクチノイド、これらの組み合わせ又はこれらの金属合金からなる群から選択される、請求項1又は2に記載のエネルギー線硬化性スラリー。
【請求項4】
前記1種又は複数種の金属前駆体中の金属が、ベリリウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、及びランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウムを含むランタノイド、及びアクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウムを含むアクチノイド、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性スラリー。
【請求項5】
前記1種又は複数種の金属前駆体が、金属酸化物、金属水酸化物、金属硫化物、金属ハロゲン化物、有機金属化合物、金属塩、金属水素化物、金属含有ミネラル及びこれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくは、金属酸化物、有機金属化合物、金属水素化物及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性スラリー。
【請求項6】
前記1種又は複数種の金属前駆体が金属前駆体粒子である、請求項1~5のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性スラリー。
【請求項7】
前記1種又は複数種の金属前駆体が、金属カルボン酸塩、酢酸塩、蟻酸塩、これらの水和物及びこれらの組み合わせからなる群から選択される有機金属化合物であり、好ましくは、Mg(CHCOO)、Mg(CHCOO)・4HO、Fe(COOH)、Fe(COOH)・HO、Al(OH)(CHCOO)、Al(OH)(CHCOO)・HO、Cu(CHCOO)、Cu(CHCOO)・HO、Co(CHCOO)、Co(CHCOO)・HO、Co(CHCO)、Zn(CHCOO)、Zn(CHCOO)・2HO、Zn(COOH)、Zn(COOH)・2HO、Pb(CHCOO)、Pb(CHCOO)・2HO、Ti(C、Ti[OCH(CH及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性スラリー。
【請求項8】
前記1種又は複数種の金属前駆体が、水素化チタン、水素化ジルコニウム、水素化マグネシウム、水素化バナジウム、水素化タンタル、水素化ハフニウム及びこれらの組み合わせからなる群から選択される金属水素化物である、請求項1~6のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性スラリー。
【請求項9】
前記1種又は複数種の金属前駆体が、WO、NiO、MoO、ZnO及びMgOからなる群から選択される金属酸化物である、請求項1~6のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性スラリー。
【請求項10】
前記金属含有化合物の混合物が単一金属を含み、前記金属粒子及び金属前駆体が以下の組み合わせ:
a)Ti金属粒子及びTiH金属前駆体粒子;
b)Ti金属粒子及びチタン(IV)アセチルアセトネート金属前駆体;
c)Ti金属粒子及びチタンアルコキシド金属前駆体;
d)W金属粒子及びWO金属前駆体粒子;
e)Ta金属粒子及びTaH金属前駆体粒子;又は
f)Hf金属粒子及びHfH金属前駆体粒子
のうちの1つから選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性スラリー。
【請求項11】
20℃、10s-1~100s-1の間の剪断速度で、プレート-プレートレオメーターを使用して測定して、0.01~50Pa・sの間、好ましくは0.05~40Pa・sの間、より好ましくは0.1~35Pa・sの間の粘度を有し、前記粘度がASTM D2196-15に従って測定される、請求項1~10のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性スラリー。
【請求項12】
三次元金属物体を製作するための付加製造方法であって、前記方法が:
a)前記三次元金属物体のCADモデルを用意するステップであり、前記CADモデルが、物体を層に分割し、層をボクセルに分割する、ステップ;
b)加工される層としての請求項1~11のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性スラリーの第1の層を、ターゲット表面に塗布するステップ;
c)エネルギー線硬化性スラリーの前記第1の層のボクセルを、前記CADモデルに従ってエネルギー線で走査し、前記エネルギー線硬化性スラリーの前記重合性樹脂を有機バインダーへ重合させるステップ;
d)請求項1~11のいずれか一項に記載のエネルギー線硬化性スラリーの次の層を、前記第1の層の上の層として塗布するステップ;
e)エネルギー線硬化性スラリーの前記次の層のボクセルを、CADモデルに従ってエネルギー線で走査し、前記エネルギー線硬化性スラリーの前記重合性樹脂を有機バインダーへ重合させるステップ;
f)ステップ(d)及び(e)を繰り返して、毎回、次の層が前の層の上に塗布されて、グリーン体を製作するステップ;
g)ステップ(f)のグリーン体から有機バインダーを除去して、ブラウン体を得るステップ;
h)任意選択で、ステップ(g)のブラウン体の任意の残りの金属前駆体を、対応する金属に変換するステップ
を含む、付加製造方法。
【請求項13】
前記変換ステップ(h)が実施され、好ましくは、電気脱酸素、加熱、真空下での加熱、加熱とその後の電気脱酸素、水素ガスによる還元、又はこれらの組み合わせを使用して実施される、請求項12に記載の付加製造方法。
【請求項14】
ステップ(h)が実施されない場合のステップ(g)、又はステップ(h)に、ステップ(g)又は(h)のブラウン体を焼結させることを含むステップ(i)が続く、請求項12又は13に記載の付加製造方法。
【請求項15】
スラリーの第1の層及び次の層の厚みが、5~300μmの間、好ましくは6~200μmの間、より好ましくは7~100μmの間である、請求項12~14のいずれか一項に記載の付加製造方法。
【請求項16】
前記エネルギー線が、化学線タイプのエネルギー線からなる群から選択され、好ましくは紫外線である、請求項12~15のいずれか一項に記載の付加製造方法。
【請求項17】
請求項12~16のいずれか一項に記載の付加製造方法によって得ることができる、三次元金属物体。
【請求項18】
請求項17に記載の三次元金属物体の、触媒又は触媒担体としての使用。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、付加製造方法、より詳細には三次元金属物体製作のための間接的光造形法(SLA)又はデジタルライトプロセッシング(DLP)に関する。本発明はさらに、前記付加製造方法で使用するためのスラリー、前記付加製造方法によって得ることができる三次元金属物体、及び得られた三次元金属物体の触媒又は触媒担体としての使用に関する。
【0002】
[発明の背景]
付加製造(AM)は、三次元コンピュータ支援設計(CAD)データモデルから物体を製造するために、材料を結合するプロセスであり、通常層ごとの(layer-by-layer)プロセスである。付加製造プロセスの用途は、過去20年にわたって急速に拡大してきた。付加製造プロセスには、材料噴射、材料押し出し、直接的エネルギー堆積、シート積層、バインダー噴射、粉体層融合及び光重合がある。これらの技術はすべて、(サブ)マイクロメートルサイズのセラミック又は金属粒子から開始して、セラミック又は金属部品を形作るために適用することができる。
【0003】
2つの異なるカテゴリーのAMプロセスが基本的に存在する:(i)三次元物体が単一の操作で作られ、意図した製作物の幾何学的形状及び材料特性が同時に達成される、単一ステッププロセス(「直接的」プロセスとも呼ばれる)、及び(ii)2つ又はそれ以上のステップで三次元物体が作られ、第1のステップは典型的には基本的な幾何学的形状をもたらし、次のステップは製作物を意図した材料特性に統合する、マルチステッププロセス(「間接的」プロセスとも呼ばれる)。
【0004】
米国特許第6,117,612号は、セラミック及び金属物品製作のための層ごとの間接的AMプロセスの例を開示している。米国特許第6,117,612号は、セラミック粒子を含み、40vol%を超える固形物装填量及び3000mPa・s未満の粘度を有する光硬化性樹脂、並びに光造形法を使用するグリーンセラミック部品のマルチ層製作でのそれらの使用を開示している。光硬化性樹脂は、焼結性金属も含有し得る。
【0005】
国際公開第03/092933号は、チタン粉末及び0.01~10wt%の水素化チタンを含有する粉末混合物を所定の形態へプレスすること、及び次にプレスされた粉末混合物を焼結させることを含む、多孔質チタン3D-物品を製作する方法を開示している。粉末混合物は、有機バインダーを含むことができる。国際公開第03/092933号は、AM技法又は光重合を開示していない。
【0006】
米国特許出願公開第2015/337423号は、焼結助剤としての金属水素化物又は金属合金水素化物のナノ粒子で被覆された、金属又は金属合金の微粒子を開示している。微粒子は約1ミクロン~約1ミリメートルの間の平均粒径によって特徴づけられ、ナノ粒子は1ミクロン未満の平均粒径によって特徴づけられる。米国特許出願公開第2015/337423号は、レーザー溶融及び電子ビーム溶融から選択されるAM技法によって製作された、被覆微粒子を含有する固体物品について記載している。これらのAM技法は、光重合を用いていない。
【0007】
本発明は、犠牲バインダー材料を利用して金属含有粒子を三次元金属物体に形作る、層ごとの間接的AMプロセスに関する。前記バインダー材料は、金属含有粒子も含有しているスラリーに含有された重合性樹脂及び光重合開始剤の光重合を使用して得られる。バインダー材料は、次の「脱バインダー(debinding)」処理で除去される。本発明によるプロセスの例は、間接的光造形法(SL又はSLA)、デジタルライトプロセッシング(DLP)及び大面積マスクレス光重合(Large Area Maskless Photopolymerization)(LAMP)である。
【0008】
十分な機械的強度を有するバインダーを含有した三次元物体を提供するために、層間の界面が十分に硬化されるように、スラリーの硬化の深さが各層の厚みに等しい又はそれより大きいことは、層ごとの間接的AMプロセスにとって不可欠である。故に、光開始剤を介して重合反応を開始するのに使用されるエネルギー線の浸透深さは、層の厚みより大きくなければならない。
【0009】
セラミック物体製造のための光造形プロセスでの硬化の深さに関する技術的な背景は、従来技術に記載されている。この点で、J.Deckersら、Additive manufacturing of ceramics:A review、J.Ceramic Sci.Tech.、5(2014)、245~260ページ、M.L.Griffith及びJ.W.Halloran、Freedom fabrication of ceramics via stereolithography、J.Am.Ceram.Soc.、79(1996)、2601~2608ページ、J.W.Halloranら、Photopolymerization of powder suspensions for shaping ceramics、J.Eur.Ceram.Soc.、31(2011)、2613~2619ページ、並びにM.L.Griffith及びJ.W.Halloran、Ultraviolet curing of highly loaded ceramic suspensions for stereolithography of ceramics、manuscript for the Solid Freeform Fabrication Symposium 1994を参照されたい。これらの文献は、多く装填されたセラミック粒子スラリーでの、比較的浅い硬化深さを記載している。
【0010】
硬化の深さは、樹脂のタイプ、光開始剤のタイプ及び濃度、光開始剤を介して重合反応を開始するために使用されるエネルギー線照射量、並びに粒子のタイプ及び体積分率に、とりわけ依存する。硬化の深さは、粒子によるエネルギー線の散乱、粒子の体積分率及び粒子によるエネルギー線吸収に非常に依存する。粒子と粒子を運ぶ媒体、例えば光開始剤を有する光硬化性樹脂の間の屈折率の差は、散乱が屈折率の差の二乗に反比例するので、例えば硬化の深さを低減する可能性がある。この点で、M.L.Griffith及びJ.W.Halloran、Freedom fabrication of ceramics via stereolithography、J.Am.Ceram.Soc.、79(1996)、2601~2608ページを参照されたい。
【0011】
光硬化性樹脂の屈折率nは、典型的には1.3~1.7の間、例えば、1.5などにある。多くの金属は、1.5と非常に異なる屈折率を有する。このことは、金属粒子を含有するスラリーでの硬化の深さが、エネルギー線の散乱によって制限されることを意味する。
【0012】
粒子によるエネルギー線吸収は、粒子の吸光係数又は屈折率κの虚数部に関係する。100~800nmの間の波長のエネルギー線、すなわち、紫外、可視、赤外光をカバーするスペクトルでは、多くの(純)金属は高い吸光係数又は複素屈折率κを有する。
【0013】
故に、多く装填された金属粒子スラリーでの硬化深さは、多く装填されたセラミック粒子スラリーでのように、多くの場合浅く、これによって三次元金属物体製造のための光造形法又は関連する方法の適用可能性が制限される。
【0014】
本発明は、間接的光造形法又は関連する方法に基づいた、三次元金属物体の付加製造のための改善された方法を提供しようとしている。特に、本発明は、間接的光造形法又は関連する方法に基づいた、硬化の増加した深さを有する三次元金属物体の付加製造のための方法を提供しようとしている。
【0015】
[発明の概要]
本発明者らは、付加製造方法によって上記目的を達成することができることを見出し、ここで、重合性樹脂、1種又は複数種の光開始剤、並びに金属粒子及び1種又は複数種の金属前駆体を含む金属含有化合物の混合物を含むスラリーが使用され、三次元物体は層ごとに構築され、次に意図した三次元金属物体へ加工される。本発明者らは、多くの金属前駆体が、所与の波長のエネルギー線に対して、対応する金属の屈折率よりも重合性樹脂の屈折率に近い屈折率nを有することを立証した。そのうえ、多くの金属前駆体は、所与の波長のエネルギー線に対して、対応する金属より低い吸光係数又は複素屈折率κを有する。故に、こうした金属前駆体を含むスラリーは、対応する金属粒子だけを含むスラリーと比較して、前記波長のエネルギー線の増加した浸透及び硬化のより大きな深さを有する。
【0016】
スラリーのすべての金属粒子を金属前駆体によって置き換えることはできるが、こうした手法は、有機バインダーを除去し、次に1種又は複数種の金属前駆体を対応する金属に変換した後に、限定された機械的強度しか有さない非常に多孔質な金属物体をもたらすおそれがある。こうした非常に多孔質な金属物体の次の焼結は、相当な収縮につながり、これは最終の三次元金属物体での欠陥をもたらすおそれがある。本発明者らは、重合性樹脂、1種又は複数種の光開始剤及び金属含有化合物の混合物を含み、前記混合物が金属粒子及び1種又は複数種の金属前駆体を含むスラリーを使用することによって、硬化の改善された深さを実現させることができ、十分な機械的強度を有する三次元金属物体を得ることができることを見出した。
【0017】
その結果、本発明は三次元金属物体の付加製造のためのエネルギー線硬化性スラリーを提供し、前記スラリーは、スラリーの重量に対して:
a)2~45wt%の重合性樹脂;
b)0.001~10wt%の1種又は複数種の光重合開始剤;
c)55~98wt%の金属含有化合物の混合物;
を含み、ここで金属含有化合物の混合物は、前記混合物の重量に対して、5~95wt%の金属粒子及び5~95wt%1種又は複数種の金属前駆体を含む。
【0018】
第2の態様では、本発明は三次元金属物体を製作するための付加製造方法を提供し、前記方法は:
a)三次元金属物体のCADモデルを用意するステップであり、前記CADモデルが、物体を層に分割し、層をボクセルに分割する、ステップ;
b)加工される層としての、上で規定されたエネルギー線硬化性スラリーの第1の層を、ターゲット表面に塗布するステップ;
c)エネルギー線硬化性スラリーの前記第1の層のボクセルを、CADモデルに従ってエネルギー線で走査し、エネルギー線硬化性スラリーの重合性樹脂を有機バインダーへ重合させるステップ;
d)上で規定されたエネルギー線硬化性スラリーの次の層を、第1の層の上の層として塗布するステップ;
e)エネルギー線硬化性スラリーの前記次の層のボクセルを、CADモデルに従ってエネルギー線で走査し、エネルギー線硬化性スラリーの重合性樹脂を有機バインダーへ重合させるステップ;
f)ステップ(d)及び(e)を繰り返し、毎回、次の層が前の層の上に塗布されて、グリーン体を製作するステップ;
g)ステップ(f)のグリーン体から有機バインダーを除去して、ブラウン体を得るステップ;
h)任意選択で、ステップ(g)のブラウン体の任意の残りの金属前駆体を、対応する金属に任意選択で変換するステップ
を含む。
【0019】
本発明は、本発明による方法によって得ることができる三次元金属物体をさらに提供する。例えば選択的レーザー溶融又は電子ビーム溶融を使用して、金属粉末から三次元金属物体を製造することもできるが、本発明による三次元金属物体は、得られた無応力の非常に均一で微細なミクロ構造に起因した、物体のより良好な性能において、最先端の技法を使用して製造されたものと異なる。
【0020】
別の態様では、本発明は、得られた三次元金属物体の触媒又は触媒担体としての使用に関する。
【0021】
[定義]
本明細書に使用され、「SL」又は「SLA」と短縮される「間接的光造形法」という用語は、コンピュータからのコンピュータ支援設計(CAD)データによって制御された照射を使用する、重合性樹脂、金属粒子及び1種又は複数種の金属前駆体を含むエネルギー線硬化性スラリーの層ごとの硬化を通して、三次元金属物体を構築する方法を意味する。間接的光造形法は、重合性樹脂の硬化を開始するために通常紫外線を使用して実施されるが、本発明の文脈での「間接的光造形法」のプロセスは、他のタイプのエネルギー線を使用しても実施することができる。
【0022】
本明細書に使用される「グリーン体」という用語は、間接的光造形法を介して得られた、金属、金属前駆体及び硬化された有機バインダーを含む三次元物体を意味する。
【0023】
本明細書に使用される「ブラウン体」という用語は、間接的光造形法を介して得られ(「グリーン体」)、そこから有機バインダーが除去された三次元物体を意味する。ブラウン体は金属及び金属前駆体を含むことができるが、金属前駆体は金属に完全に変換することもできる。
【0024】
本明細書に使用される「ボクセル」という用語は、三次元ピクセルを意味する。
【0025】
本明細書に使用され、「DLP」と短縮される「デジタルライトプロセッシング」という用語は、三次元金属物体を構築する間接的光造形方法を意味し、空間光変調器によって規定されたビットマップのパターンでのエネルギー線への曝露によって、各層は全体としてパターン化される。DLPは、当該技術分野で「大面積マスクレス光重合」とも呼ばれ、「LAMP」と短縮される。両用語は、互換的であると考えられる。DLP及びLAMPは、重合性樹脂の硬化を開始するために、通常紫外線を使用して実施されるが、本発明の文脈での「DLP」及び「LAMP」のプロセスは、他のタイプのエネルギー線を使用して実施することもできる。
【0026】
本発明の文脈では、「重合」及び「硬化」という用語は同意語であると考えられ、互換的に使用される。同様に、「重合性」及び「硬化性」という用語は同意語であると考えられ、互換的に使用される。
【0027】
本発明の文脈での「焼結」という用語は、多孔質(高密度でない)金属物体からより高密度の金属物体を、熱及び/又は圧力によって全質量を溶融することなく形成する方法として解釈されるべきである。焼結中に、温度は物体の溶融温度未満である焼結温度に上げられる。このプロセス中に、多孔性金属物体の表面の原子は表面を横切って拡散し、金属の融合を引き起こしてより高密度の材料をもたらす。この拡散は、溶解温度より下の温度範囲内で行われ、温度が溶融温度に近い場合に最高となる。適切な焼結条件を選択することは、当業者の技術範囲内である。金属は、より多くのタイプの金属原子を含んでもよい。故に、焼結という用語は、少なくとも1種だがすべてではない金属が液体状態にある、液相焼結も含む。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明による方法を代表する方法を使用して得られた、タングステン物体のEDSスペクトルを示す図である。
図2】本発明による方法を代表する方法を使用して得られた、タングステン物体のSEM写真を示す図である。
【0029】
[詳細な説明]
本発明の第1の態様では、三次元金属物体の付加製造のためのエネルギー線硬化性スラリーが提供され、前記スラリーは、スラリーの重量に対して:
a)2~45wt%の重合性樹脂;
b)0.001~10wt%の1種又は複数種の光重合開始剤;
c)55~98wt%の金属含有化合物の混合物;
を含み、ここで金属含有化合物の混合物は、前記混合物の重量に対して、5~95wt%の金属粒子及び5~95wt%の1種又は複数種の金属前駆体を含む。
好ましい実施形態では、金属含有化合物の混合物は、前記混合物の重量に対して、15~95wt%の金属粒子及び5~85wt%の1種又は複数種の金属前駆体、より好ましくは、20~90wt%の金属粒子及び10~80wt%の1種又は複数種の金属前駆体を含む。
【0030】
別の好ましい実施形態では、金属含有化合物の混合物は、前記混合物の重量に対して、45~95wt%の金属粒子及び5~55wt%の1種又は複数種の金属前駆体、より好ましくは、65~95wt%の金属粒子及び5~35wt%の1種又は複数種の金属前駆体、さらにより好ましくは、80~95wt%の金属粒子及び5~20wt%の1種又は複数種の金属前駆体を含む。
【0031】
さらに別の好ましい実施形態では、金属含有化合物の混合物は、前記混合物の重量に対して、5~55wt%の金属粒子及び45~95wt%の1種又は複数種の金属前駆体、より好ましくは、5~35wt%の金属粒子及び65~95wt%の1種又は複数種の金属前駆体、さらにより好ましくは、5~20wt%の金属粒子及び80~95wt%の1種又は複数種の金属前駆体を含む。
【0032】
好ましい実施形態では、金属含有化合物の混合物は、前記混合物の重量に対して、5~95wt%の金属粒子及び5~95wt%の1種又は複数種の金属前駆体、より好ましくは、15~95wt%の金属粒子及び5~85wt%の1種又は複数種の金属前駆体、さらにより好ましくは、20~90wt%の金属粒子及び10~80wt%の1種又は複数種の金属前駆体からなる。
【0033】
別の好ましい実施形態では、金属含有化合物の混合物は、前記混合物の重量に対して、45~95wt%の金属粒子及び5~55wt%の1種又は複数種の金属前駆体、より好ましくは、65~95wt%の金属粒子及び5~35wt%の1種又は複数種の金属前駆体、さらにより好ましくは、80~95wt%の金属粒子及び5~20wt%の1種又は複数種の金属前駆体からなる。
【0034】
さらに別の好ましい実施形態では、金属含有化合物の混合物は、前記混合物の重量に対して、5~55wt%の金属粒子及び45~95wt%の1種又は複数種の金属前駆体、より好ましくは5~35wt%の金属粒子及び65~95wt%の1種又は複数種の金属前駆体、さらにより好ましくは、5~20wt%の金属粒子及び80~95wt%の1種又は複数種の金属前駆体からなる。
【0035】
好ましくは、上で規定されたエネルギー線硬化性スラリーは、2.5~25wt%の重合性樹脂、より好ましくは3~15wt%の重合性樹脂、さらにより好ましくは4~10wt%の重合性樹脂を含む。
【0036】
金属粒子中の金属は、単一のタイプであり得る。別の実施形態では、金属粒子は異なる金属粒子の混合物を含み、各粒子は単一のタイプの金属を含有するが、異なる粒子は異なるタイプの金属を含有してもよい。さらに別の実施形態では、金属粒子は金属合金粒子の混合物を含み、各粒子は2種又はそれ以上の異なる金属を含有する。さらに別の実施形態では、金属粒子は、(a)各粒子が2種又はそれ以上の異なる金属を含有する金属合金粒子、及び(b)各粒子が単一のタイプの金属を含有するが、異なる粒子は異なるタイプの金属を含有する可能性のある金属粒子、の混合物を含む。好ましくは、金属粒子は、実質的に金属からなる。しかしながら、金属粒子は、5wt%以下の非金属無機成分、例えば、ステンレス鋼での炭素なども含有してもよい。
【0037】
好ましい実施形態では、金属粒子中の金属は、ベリリウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、及びランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウムを含むランタノイド、及びアクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウムを含むアクチノイド、これらの組み合わせ又はこれらの金属合金からなる群から選択される。好ましい金属合金は、ステンレス鋼、青銅及び黄銅である。ステンレス鋼は、鉄、ニッケル、クロム及び1.2wt%以下の炭素を含む金属合金である。青銅は、任意選択で約12%のスズを有し、しばしばアルミニウム、マンガン、ニッケル又は亜鉛などの他の金属、時にはヒ素、リン又はシリコンなどの非金属又は半金属を添加した、銅を含む金属合金である。黄銅は、銅及び亜鉛で作られた金属合金である。
【0038】
より好ましい実施形態では、金属粒子中の金属は、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、ネオジム、サマリウム、アクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウラン、及びこれらの合金からなる群から選択される。
【0039】
さらにより好ましい実施形態では、金属粒子中の金属は、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン及びこれらの金属合金からなる群から選択される。非常に好ましい金属合金は、ステンレス鋼である。
【0040】
本発明の文脈での金属前駆体は、1種又は複数種の金属原子並びに1種又は複数種の非金属原子及び/又はは非金属基を含有し、対応する金属に変換することができる化学成分である。1種又は複数種の非金属基は、本質的に無機又は有機であり得る。
【0041】
本発明者らは、多くの金属前駆体粒子が、所与の波長のエネルギー線に対して、対応する金属の屈折率よりも光硬化性樹脂の屈折率に近い屈折率nを有することを立証した。そのうえ、多くの金属前駆体粒子は、所与の波長のエネルギー線に対して、対応する金属より低い吸光係数又は複素屈折率κを有する。本発明者らは、光硬化性樹脂に分子的に溶解又はコロイド的に分散することができる多くの金属前駆体が、硬化の深さにほとんど影響しないことをさらに立証した。故に、こうした金属前駆体を含むスラリーは、対応する金属の粒子だけを含むスラリーと比較して、前記波長のエネルギー線の増加した浸透及び硬化のより大きな深さを有する。波長λでの、いくつかの金属前駆体及び対応する金属の屈折率n及び複素屈折率κの例を、表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
一実施形態では、金属前駆体は金属前駆体粒子の形態をとる。別の実施形態では、金属前駆体は重合性樹脂に、分子的に溶解又はコロイド的に分散している。さらに別の実施形態では、金属前駆体は、金属前駆体粒子と、重合性樹脂に分子的に溶解又はコロイド的に分散している金属前駆体との混合物を含む。重合性樹脂に分子的に溶解又はコロイド的に分散され得る金属前駆体の好ましい例は、金属カルボン酸塩、酢酸塩及び蟻酸塩、並びに金属アルコキシドなどの有機金属化合物である。
【0044】
金属前駆体中の金属は、単一のタイプであり得る。他の実施形態では、異なる金属を含有する金属前駆体の混合物が用いられる。金属前駆体が金属前駆体粒子の形態をとる場合、単一金属の前駆体粒子は、異なる金属の金属前駆体を含有することができる。
【0045】
1種又は複数種の金属前駆体中の金属は、ベリリウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、及びランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウムを含むランタノイド、及びアクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウムを含むアクチノイド、並びにこれらの組み合わせからなる群から好ましくは選択される。
【0046】
より好ましい実施形態では、1種又は複数種の金属前駆体中の金属は、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、ネオジム、サマリウム、アクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウラン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0047】
さらにより好ましい実施形態では、1種又は複数種の金属前駆体中の金属は、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0048】
上で規定されたスラリーで使用することができる金属前駆体の例は、金属酸化物、金属水酸化物、金属硫化物、金属ハロゲン化物、有機金属化合物、金属塩、金属水素化物、金属含有ミネラル、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。上で規定されたスラリーで使用することができる金属前駆体の好ましい例は、金属酸化物、有機金属化合物、金属水素化物及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。最も好ましくは、金属前駆体は金属酸化物を含む。
【0049】
好ましい金属酸化物の例は、WO、NiO、MoO、ZnO及びMgOからなる群から選択される。非常に好ましい実施形態では、金属前駆体は金属酸化物WOである。
【0050】
好ましい金属水酸化物の例は、Mg(OH)、4MgCO・Mg(OH)、Al(OH)、Zn(OH)、CuCO・Cu(OH)、2CoCO・3Co(OH)、Al(OH)(CHCOO)、Al(OH)(CHCOO)・HO及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0051】
好ましい金属硫化物の例は、MoSである。好ましい金属ハロゲン化物の例は、WCl及びZrClである。
【0052】
好ましい有機金属化合物の例は、金属カルボン酸塩、酢酸塩、蟻酸塩、これらの水和物及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0053】
より好ましい実施形態では、金属前駆体は、Mg(CHCOO)、Mg(CHCOO)・4HO、Fe(COOH)、Fe(COOH)・HO、Al(OH)(CHCOO)、Al(OH)(CHCOO)・HO、Cu(CHCOO)、Cu(CHCOO)・HO、Co(CHCOO)、Co(CHCOO)・HO、Co(CHCO)、Zn(CHCOO)、Zn(CHCOO)・2HO、Zn(COOH)、Zn(COOH)・2HO、Pb(CHCOO)、Pb(CHCOO)・2HO、Ti(C、Ti[OCH(CH及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、有機金属化合物又はこれらの水和物である。
【0054】
好ましい金属塩の例は、金属炭酸塩、シュウ酸塩、硫酸塩、これらの水和物及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0055】
より好ましい実施形態では、金属塩は、MgCO、MgC、MgC・2HO、4MgCO・Mg(OH)、MgSO・2HO、MnCO、MnC、MnC・2HO、NiCO、NiC、NiC・2HO、FeC、FeC・2HO、CuC、CuCO・Cu(OH)、CoC、CoC・2HO、2CoCO・3Co(OH)、ZnC、ZnC・2HO、PbC、PbCO及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、金属炭酸塩、シュウ酸塩、硫酸塩又はこれらの水和物である。
【0056】
金属水素化物の好ましい例は、水素化チタン、水素化ジルコニウム、水素化マグネシウム、水素化バナジウム、水素化タンタル及び水素化ハフニウムである。より好ましい実施形態では、金属前駆体は、TiH、MgH及びTaHからなる群から選択される、金属水素化物である。
【0057】
金属含有ミネラルの好ましい例は、ルチル、イルメナイト、アナターゼ、及び白チタン石(チタン用)、灰重石(タングステン)、スズ石(スズ)、モナズ石(セリウム、ランタン、トリウム)、ジルコン(ジルコニウム、ハフニウム及びシリコン)、輝コバルト鉱(コバルト)、クロマイト(クロム)、ベルトランダイト及びベリル(ベリリウム、アルミニウム、シリコン)、ウラナイト及びピッチブレンド(ウラン)、石英(シリコン)、輝水鉛鉱(モリブデン及びレニウム)、輝安鉱(アンチモン)及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。鉱物に含有される金属は、括弧内に示される。
【0058】
非常に好ましい実施形態では、上で規定されたスラリーが提供され、金属前駆体及び金属粒子は単一金属を含有している。この非常に好ましい実施形態の例は、上で規定されたスラリーであり、以下:
a)Ti金属粒子及びTiH金属前駆体粒子;
b)Ti金属粒子及びチタン(IV)アセチルアセトネート(Ti(C)金属前駆体;
c)Ti金属粒子、及びチタン(IV)イソプロポキシド(Ti[OCH(CH)などのチタンアルコキシド金属前駆体;
d)W金属粒子及びWO金属前駆体粒子;
e)Ta金属粒子及びTaH金属前駆体粒子;
f)Hf金属粒子及びHfH金属前駆体粒子、
を含む。
【0059】
別の好ましい実施形態では、金属前駆体及び金属粒子は異なる金属を含有している。この非常に好ましい実施形態の例は、上で規定されたスラリーであり、以下:
a)ステンレス鋼金属粒子及びTiH金属前駆体粒子;
b)コバルト酸化物前駆体粒子を有するWC金属粒子、
を含む。
【0060】
重合性樹脂は、モノマー、オリゴマー又はこれらの組み合わせを含む。好ましい実施形態では、重合性樹脂は、アクリレート、(脂肪族)ウレタンアクリレート、ビニルエーテル、アリルエーテル、マレイミド、チオール及びこれらの混合物からなる群から選択される、ラジカル重合性のモノマー、オリゴマー又はこれらの組み合わせを含む。別の好ましい実施形態では、重合性樹脂は、エポキシド、ビニルエーテル、アリルエーテル、オキセタン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、カチオン重合性のモノマー、オリゴマー又はこれらの組み合わせを含む。当然、ラジカル重合性の樹脂は1種又は複数種のラジカル光重合開始剤と組み合わせるべきであり、カチオン重合性の樹脂は1種又は複数種のカチオン光重合開始剤と組み合わせるべきである。
【0061】
重合性樹脂の重合後に形成される犠牲有機バインダーの安定性及び強度は、架橋モノマー及び/又はオリゴマーを使用することによって増加させることができる。架橋モノマー及び/又はオリゴマーは、2つ又はそれ以上の反応性基を有する。
【0062】
ラジカル重合及びカチオン重合用の光開始剤は、当該技術分野で周知である。光開始剤の包括的な概要について、J.P.Fouassier、J.F.Rabek(ed.)、Radiation Curing in Polymer Science and Technology:Photoinitiating systems、Vol.2、Elsevier Applied Science、London and New York 1993、及びJ.V.Crivello、K.Dietliker、Photoinitiators for Free Radical、Cationic&Anionic Photopolymerization、2nd Ed.、In:Surface Coating Technology、Editor:G.Bradley、Vol.III、Wiley&Sons、Chichester、1999を参照されたい。重合性樹脂のタイプ、エネルギー線のタイプ及びスラリーで使用される1種又は複数種の光開始剤を調和させることは、当業者の技術範囲内である。好ましい実施形態では、上で規定されたエネルギー線硬化性スラリーは、0.1~4wt%の1種又は複数種の光重合開始剤を含む。
【0063】
スラリーの特定の一部がエネルギー線に曝露されるときにスラリーの重合が制御可能であることは重要である。そのうえ、スラリーはある特定の貯蔵安定性を有するべきである。この目的のために、スラリーは、スラリーの全重量に対して、0.001~1wt%、好ましくは0.002~0.5wt%の1種又は複数種の重合防止剤又は安定剤を、さらに含むことができる。重合防止剤又は安定剤は、スラリーが6か月の期間にわたって貯蔵安定性である量で、添加されることが好ましい。6か月の期間にわたって粘度増加が10%未満である場合、スラリーは貯蔵安定性と考えられる。ラジカル重合性樹脂用の好適な重合防止剤又は安定剤の例は、フェノール、ヒドロキノン、フェノチアジン及びTEMPOである。カチオン重合性樹脂用の好適な重合防止剤又は安定剤の例は、アミンなどのアルカリ不純物、及び/又は硫黄不純物を含有する化合物である。
【0064】
金属粒子、及び金属前駆体の少なくとも一部が粒子の形態をとる場合の金属前駆体粒子の、粒径及びの粒径分布は、それらがとりわけスラリーの粘度、スラリー中の最大の粒子装填量及びエネルギー線の散乱に影響を及ぼすので、重要なパラメータである。
【0065】
粒子試料での粒径分布を規定する1つの標準的な方法は、体積分布に基づいて、D10、D50及びD90値を参照することである。D10は、粒子の母集団の10%が、それ未満に存在する粒子の直径値である。D50は、母集団の50%がそれ未満、及び母集団の50%がそれより上に存在する粒子の直径値である。D50は、メジアン粒径値としても知られている。D90は、母集団の90%がそれ未満に存在する粒子の直径値である。広い粒径分布を有する粉末は、D10とD90の値の間の大きな差を有するであろう。同様に、狭い粒径分布を有する粉末は、D10とD90の値の間の小さな差を有するであろう。D10、D50及びD90値を含む粒径分布は、例えば、Malvern Mastersizer 3000レーザー回折粒径分析器を使用するレーザー回折によって、決定され得る。
【0066】
上で規定されたスラリーで使用することができる金属粒子は、それぞれ3μm、6μm及び9μmのD10、D50及びD90値によって特徴づけることができる、レーザー回折によって決定された粒径分布を有することが好ましい。
【0067】
好ましい実施形態では、金属粒子は、金属粒子のD90直径が金属粒子のD10直径より200%以下大きい、より好ましくはD10より150%以下大きい、さらにより好ましくはD10より100%以下大きいことを特徴とする、レーザー回折によって決定される粒径分布を有する。D90がD10より75%以下大きい、又はD10より50%以下大きい狭い大きさの分布を、金属粒子が有すると有益であり得る。
【0068】
好ましい実施形態では、金属前駆体の一部が少なくとも粒子の形態をとる場合、金属前駆体粒子は、金属粒子の文脈において上で規定された粒径及び粒径分布を有する。金属前駆体粒子の粒径及び粒径分布は、金属粒子の粒径及び粒径分布から独立して選択することができる。
【0069】
より好ましい実施形態では、金属前駆体粒子は金属粒子より小さい。非常に好ましい実施形態では、金属前駆体粒子は、それぞれ1μm、3μm及び5μmのD10、D50及びD90値によって特徴づけることができる、レーザー回折によって決定される粒径分布を有する。
【0070】
金属粒子、及び1種又は複数種の金属前駆体の少なくとも一部が粒子の形態をとる場合の金属前駆体粒子の高い体積分率は、高い粘度をもたらす。この点で、J.Deckersら、Additive manufacturing of ceramics:A review、J.Ceramic Sci.Tech.、5(2014)、245~260ページ、並びにM.L.Griffith及びJ.W.Halloran、Ultraviolet curing of highly loaded ceramic suspensions for stereolithography of ceramics、manuscript for the Solid Freeform Fabrication Symposium 1994を参照されたく、相互に作用する粒子で高度に装填された懸濁液の粘度が、粒子の体積分率と正の関係を有することを記載している。当然、基材上及び互いの上にスラリーの薄い層を塗布できるためには、スラリーの適切なレオロジーが必要である。本発明者らは、金属及び金属前駆体粒子の体積分率及びスラリーの粘度についての好適な値が以下の通りであることを、見出した。
【0071】
モノ分散粒子の可能な限り高い体積分率は、0.74である。金属粒子、及び1種又は複数種の金属前駆体の少なくとも一部が粒子の形態をとる場合の金属前駆体粒子の、本発明によるスラリーでの体積分率は、好ましくは0.10~0.70の間、より好ましくは0.15~0.65の間、さらにより好ましくは0.30~0.60の間である。
【0072】
ASTM D2196-15(2015)に従い、20℃、10s-1~100s-1の間の剪断速度で、プレート-プレートレオメーターを使用して測定した、上で規定されたエネルギー線硬化性スラリーの粘度は、好ましくは0.01~50Pa・sの間、より好ましくは0.05~40Pa・sの間、さらにより好ましくは0.1~35Pa・sの間である。
【0073】
本発明の第2の態様では、三次元金属物体を製作するための付加製造方法が提供され、前記方法は:
a)三次元金属物体のCADモデルを用意するステップであり、前記CADモデルが、物体を層に分割し、層をボクセルに分割する、ステップ;
b)加工される層としての、上で規定されたエネルギー線硬化性スラリーの第1の層を、ターゲット表面に塗布するステップ;
c)エネルギー線硬化性スラリーの前記第1の層のボクセルを、CADモデルに従ってエネルギー線で走査し、エネルギー線硬化性スラリーの重合性樹脂を有機バインダーへ重合させるステップ;
d)上で規定されたエネルギー線硬化性スラリーの次の層を、第1の層の上の層として塗布するステップ;
e)エネルギー線硬化性スラリーの前記次の層のボクセルを、CADモデルに従ってエネルギー線で走査し、エネルギー線硬化性スラリーの重合性樹脂を有機バインダーへ重合させるステップ;
f)ステップ(d)及び(e)を繰り返し、毎回、次の層が前の層の上に塗布されて、グリーン体を製作するステップ;
g)ステップ(f)のグリーン体から有機バインダーを除去して、ブラウン体を得るステップ;
h)任意選択で、ステップ(g)のブラウン体の任意の残りの金属前駆体を、対応する金属に変換するステップ
を含む。
【0074】
好ましい実施形態では、方法のステップ(c)及び(e)で使用されるエネルギー線は、化学線である。化学線の好ましいタイプは、紫外線、可視光線及び赤外線である。好ましい紫外線は、10~380nmの間、より好ましくは250~350nmの間の波長を有する。可視光線は、380~780nmの間の波長を有する。当業者によって認識されるように、スラリーでの1種又は複数種の光重合開始剤は、適用されるエネルギー線のタイプに反応性でなければならない。光開始剤をエネルギー線源のスペクトルの出力と調和させることは、当業者の技術の範囲内である。
【0075】
ステップ(c)及び(e)でのスラリー層のボクセルのCADモデルに従う走査は、ボクセルごとに(voxel-by-voxel)、1種又は複数種の走査レーザーを用いて実施することができる。故に一実施形態では、上で規定された付加製造方法は、三次元金属物体を製作するための間接的光造形(SLA)方法であり、ステップ(c)及び(e)でのスラリー層のボクセルのCADモデルに従う走査は、ボクセルごとに実施される。
【0076】
ステップ(c)及び(e)でのスラリー層のボクセルのCADモデルに従う走査は、層のすべてのボクセルをマスクを通してエネルギー線に同時に曝露することによって、実施することもできる。このマスクは、CADモデルに従って硬化すべき特定層のパターンを規定する。したがって、本発明の一実施形態では、ステップ(c)及び(e)でのスラリー層のボクセルのCADモデルに従う走査は、層のすべてのボクセルをマスクを通してエネルギー線に同時に曝露することによって、実施される。
【0077】
ステップ(c)及び(e)でのスラリー層のボクセルの走査は、光エンジン又はビーマーなどの空間光変調器を使用して、層のすべてのボクセルをエネルギー線に同時に曝露することによっても実施することができる。この空間光変調器は、ボクセルがCADモデルに従って硬化されるように、エネルギーパターンを層に投影する。故に、好ましい実施形態では、上で規定された付加製造方法は、三次元金属物体を製作するためのダイナミックライトプロセッシング(Dynamic Light Processing)(DLP)方法であり、ステップ(c)及び(e)でのスラリー層のボクセルの走査は、層のすべてのボクセルをエネルギー線に同時に曝露することによって実施される。
【0078】
犠牲有機バインダーを含む三次元物体、すなわちステップ(f)で得られたグリーン体は、有機バインダーを除去するため、ステップ(g)で脱バインダーに供される。バインダーは、グリーン体を典型的には90~600℃の間の温度、より好ましくは100~450℃の間の温度に加熱することによって、除去することができる。脱バインダーステップ(g)では、純粋に熱的プロセス及び熱化学的プロセスが起こる可能性がある。脱バインダーステップは、酸化又は酸素含有雰囲気での燃焼によって実施することができる。しかしながら、脱バインダーステップは、酸素の存在しない熱分解ステップとして実施されることが好ましい。脱バインダーステップは、保護的又は水素含有の環境でさらに実施することができる。
【0079】
ステップ(f)で得られたグリーン体を加熱する前に、任意選択で、グリーン体を溶媒で処理し、未硬化のスラリーからグリーン体を分離する及び/又は溶出可能な有機成分を抽出することができる。溶出可能な成分の溶解度に応じて、この溶媒は本質的に水性又は有機であり得る。使用することができる有機溶媒の例は、アセトン、トリクロロエタン、ヘプタン及びエタノールである。
【0080】
ステップ(g)での脱バインダーは、有機金属金属前駆体の有機部分の少なくとも一部又はすべてを除去することもできる。分解された有機金属金属前駆体は、金属粒子の表面に反応性金属成分をもたらし、好都合な焼結反応を誘発して、増加した機械的強度を有するブラウン体を製作する可能性がある。故に、脱バインダーステップ(g)は事実上焼結工程であり得、金属前駆体は対応する金属に変換され、任意のステップ(h)を不必要にする。
【0081】
低い分解温度を有する金属水素化物粒子、例えば、TiH又はZrHなどを金属前駆体粒子として使用する場合、ステップ(g)での脱バインダーは、金属水素化物の水素、遊離水素化物イオン及び金属への分解をもたらす可能性がある。分解した金属水素化物からのこの金属は、金属粒子の表面に堆積して、金属粒子同士を「結合する」。故に、低い分解温度を有する金属水素化物粒子は、ステップ(g)での脱バインダー中に、金属粒子のための焼結助剤として作用することができる。故に、脱バインダーステップ(g)中の金属水素化物の分解は、任意のステップ(h)を不必要にする可能性がある。
【0082】
例えば、チタン、クロム、鉄、タングステン及びモリブデンのようなほとんどの金属は、酸化を受ける。こうした金属は、酸素を含有する環境に特に高温で曝露された場合、金属酸化物層を生じ、これによって対応する金属粒子の焼結性が損なわれる結果となる。理論によって拘束されることを望むものではないが、金属水素化物粒子の分解中に形成された水素及び/又は遊離した水素化物イオンは、還元環境をもたらすことができ、酸化物置換反応は、金属酸化物層を有する金属粒子の改善された焼結をもたらすと考えられる。こうした場合、保護的又は水素含有の環境で脱バインダーステップ(g)を実施する必要性は少ない。
【0083】
上で説明したように、脱バインダーステップ(g)中に、金属前駆体がすでに完全に分解して新しい金属を形成した場合、ステップ(g)のブラウン体の任意の残りの金属前駆体を変換する任意のステップ(h)は、不必要である。他方では、脱バインダーステップ(g)中に金属前駆体は完全に分解しない場合、又は脱バインダーステップ(g)中に金属前駆体が完全に未変化のままである場合、任意の残りの金属前駆体が対応する金属に変換されるステップ(h)を実施することが好ましい。故に、いくつかの好ましい実施形態では、ステップ(g)で有機バインダーの除去の後、金属前駆体の対応する金属への変換によって、新しい金属がステップ(h)で形成される。この新しく形成された金属は、対応するグリーン体と比較して改善された機械的強度を有する多孔質ブラウン体が形成されるように、もとの金属粒子のために、金属バインダーとして作用する、及び/又はより多くの焼結活性を作り出す。
【0084】
1種又は複数種の金属前駆体が対応する金属に変換されるステップ(h)の変換方法は、金属前駆体のタイプに依存する。このステップは、当該技術分野で公知の方法を使用して実施され得る。2種以上のタイプの金属前駆体が存在する場合、以下の2種以上の方法が必要であり得ることが、当業者によって認識されるであろう。
【0085】
例えば、国際公開第99/64638号に記載されている電気分解又は電気脱酸素プロセスを参照されたい。当該技術分野で「FFCプロセス」と呼ばれるこのプロセスでは、例えば金属酸化物などの固体化合物は、溶融塩を含む電気分解セルでのカソードに接して配置される。化合物が還元されるように、セルのカソードとアノードの間に電位が印加される。このプロセスがステップ(g)で得られたブラウン体の金属前駆体を、対応する金属に変換することにも使用できることを、本発明者らは見出した。国際公開第01/62996号、国際公開第02/40748号、国際公開第03/048399号、国際公開第03/076690号、国際公開第2006/027612号、国際公開第2006/037999号、国際公開第2006/092615号、国際公開第2012/066299号及び国際公開第2014/102223号に記載されている、「FFCプロセス」の変更をさらに参照されたい。「FFCプロセス」の原理は、ベリリウム、ホウ素、マグネシウム、アルミニウム、シリコン、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン、及びランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウムを含むランタノイド、及びアクチニウム、トリウム、プロトアクチニウム、ウラン、ネプツニウム、プルトニウムを含むアクチノイドの酸化物などの金属前駆体を含むブラウン体を、対応する金属に還元することに使用することができる。
【0086】
「FFCプロセス」の原理は、ルチル、イルメナイト、アナターゼ、白チタン石、灰重石、スズ石、モナズ石、ジルコン、輝コバルト鉱、クロマイト、ベルトランダイト、ベリル、ウラナイト、ピッチブレンド、石英、輝水鉛鉱及び輝安鉱を含む、天然に存在する砂及び酸化物鉱石で見出され得るいくつかの金属含有ミネラルの酸化物の形態にある、金属前駆体を含むブラウン体を還元するために、さらに使用することができる。
【0087】
代わりに、金属酸化物の形態にある金属前駆体を含むブラウン体は、700~800℃の間の温度の水素ガスを用いた金属酸化物の還元によって、対応する多孔性金属ブラウン体に変換することができる。これは、800℃を超える温度で揮発する、例えばMoO及びWOなどの金属酸化物のための好ましい経路である。脱バインダーステップ及び水素ガスを使用する金属酸化物ブラウン体の変換ステップは、脱バインダーステップも水素含有雰囲気で実施される場合、温度を上げることによって組み合わせることができることに留意されたい。
【0088】
金属水素化物の形態にある金属前駆体を含むブラウン体の、対応する金属ブラウン体への変換は、熱的ステップを使用して好都合に行われることができる。この点で、例えば、米国特許第1,835,024号及び米国特許第6,475,428号に記載されている、周知の水素化-脱水素化(HDH)プロセスでの脱水素化ステップを参照されたい。この脱水素化ステップでは、水素は、高真空下で水素化物を加熱することによって、例えばチタン、ジルコニウム、バナジウム及びタンタル水素化物から除去される。上で説明したように、この変換ステップは、脱バインダーステップ(g)中に金属水素化物がまだ完全に分解していない場合のみ、適切である。
【0089】
金属水酸化物などの金属前駆体、金属炭酸塩及びシュウ酸塩のような金属塩、並びにカルボン酸塩、酢酸塩及び蟻酸塩などの有機金属化合物を含むブラウン体を、対応する金属ブラウン体に変換することは、2ステッププロセスを使用して好都合に行われることができる。第1のステップでは、ブラウン体の金属水酸化物、金属塩、及び/又は有機金属化合物は、金属酸化物に熱的に分解される。この点で、金属炭酸塩、カルボン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、蟻酸塩、及び水酸化物、並びに結果として得られる金属酸化物の分解温度を開示している、J.Mu及びD.D.Perlmutter、Thermal decomposition of carbonates,carboxylates,oxalates,acetates,formates,and hydroxides、Thermochimica Acta、49(1981)、207~218ページを参照されたい。第2のステップでは、上で記載した「FFCプロセス」の原理を使用して、又は700~800℃の間の温度で水素ガスを用いて金属酸化物を還元することよって、金属酸化物を含むブラウン体は対応する金属ブラウン体に変換される。上で説明したように、金属前駆体としての有機金属化合物の場合には、この変換ステップは、脱バインダーステップ(g)中に有機金属化合物が完全に分解して新しい金属をまだ形成していない場合のみ、適切である。
【0090】
金属硫化物及び/又は金属ハロゲン化物を含むブラウン体の対応する金属ブラウン体への変換も、2ステッププロセスを使用して好都合に行われることができる。第1のステップでは、ブラウン体の金属硫化物及び/又は金属ハロゲン化物は、例えば酸素リッチの状態下で加熱することによって、金属酸化物に変換される。第2のステップでは、金属酸化物を含むブラウン体は、上で記載した「FFCプロセス」の原理を使用して対応する金属ブラウン体に変換される、又は金属酸化物を含むブラウン体は、700~800℃の間の温度で水素ガスを用いる還元を介して、対応する金属ブラウン体に変換される。
【0091】
金属前駆体の対応する金属への変換によって新しい金属が形成されるステップ(h)は、対応するグリーン体と比較して改善された機械的強度を有する多孔質ブラウン体をもたらす。
【0092】
ステップ(g)又はステップ(h)で得られた多孔性金属ブラウン体の機械的強度は、多孔質ブラウン体を焼結させることによって、さらに増加させることができる。故に、好ましい実施形態では、ステップ(h)が実施されない場合にステップ(g)で得られた、又はステップ(h)で得られた多孔質ブラウン体は、次のステップ(i)で焼結される。
【0093】
焼結によって、ブラウン体の多孔質構造の圧縮及び凝固がもたらされ、体はより小さくなり強度が増す。焼結は、典型的には金属又は合金の溶融温度未満の温度で行われる。焼結温度又は焼結温度の範囲は、典型的には溶融温度の0.6~0.9の間で変動する。焼結ステップは、三次元金属物体の破損につながる恐れのある熱衝撃を回避するために、2つ以上の温度サイクルを包含してもよい。
【0094】
ステップ(g)又はステップ(h)で得られた多孔質ブラウン体が単一金属を含有している場合、焼結温度は純金属の溶融温度未満である。
【0095】
ステップ(g)又はステップ(h)で得られた多孔質ブラウン体が、異なる金属及び/又は金属合金を含有している場合、焼結温度は純金属の最低溶融温度未満及び金属合金の最大溶融温度未満であり、好ましくは純金属の最低溶融温度未満及び金属合金の最低溶融温度未満である。
【0096】
ステップ(g)又はステップ(h)で得られた多孔質ブラウン体が異なる金属及び/又は金属合金を含有していて、全体の金属組成物の状態図が共晶の溶融温度を示す別の実施形態では、焼結温度は共晶の溶融温度未満である。
【0097】
ステップ(g)又はステップ(h)で得られた多孔質ブラウン体が異なる金属及び/又は金属合金を含有していて、全体の金属組成物の状態図が包晶の分解温度を示すさらに別の実施形態では、焼結温度は包晶の分解温度未満である。
【0098】
ステップ(g)又はステップ(h)で得られた多孔質ブラウン体が異なる金属及び/又は金属合金を含有していて、全体の金属組成物の状態図が1つ若しくは複数の包晶の分解温度及び/又は1つ若しくは複数の共晶の溶融温度を示すさらに別の実施形態では、焼結温度はこれらすべての温度未満であることが好ましい。
【0099】
適切な焼結温度を選択することは、当業者の技術の範囲内である。純金属の溶融温度、金属混合物の共晶の溶融温度及び金属混合物の包晶の分解温度は、当該技術分野で公知である。この点で、材料特性のオンラインデータベースであるMatWeb(www.matweb.com)を参照されたい。
【0100】
多くの金属は高温に曝露された場合、酸化を受ける。こうして形成された金属酸化物層によって、焼結性が損なわれる結果となる。そのうえ、いくつかの金属の酸化物は、焼結温度よりはるかに低い温度で昇華を受ける。純粋なタングステンの焼結温度は>2000℃である。タングステンは、空気などの酸素含有ガスに接すると酸化する。600℃を超える温度で、酸化物WOが形成される。750℃を超える温度で、WOの昇華が行われる。同じことはモリブデンにも当てはまる。純粋なモリブデンの焼結温度は>2000℃である。モリブデンが600℃を超えて空気中で加熱された場合、揮発性酸化モリブデンが形成される。故に、酸素含有の環境でこれらの温度を超えて加熱すると、金属の消失につながる。したがって焼結は、アルゴン、ヘリウム若しくはCOガスなどの不活性若しくは真空の環境で、又は水素若しくはCOガス下などの還元環境で実行されることが好ましい。
【0101】
好ましい実施形態では、ステップ(b)及び(d)で塗布されるスラリーの第1及び次の層の厚みは、5~300μmの間、より好ましくは6~200μmの間、さらにより好ましくは7~100μmの間、さらにより好ましくは8~50μmの間、最も好ましくは9~20μmの間である。
【0102】
本発明の第3の態様は、上で規定された方法によって得ることができる三次元金属物体に関する。本発明による三次元金属物体は、無応力の非常に均一なミクロ構造に起因した、物体のより良好な性能において、最先端の技法を使用して製造されたものと異なる。
【0103】
本発明の一実施形態では、上で規定された金属粒子及び金属前駆体は単一のタイプの金属原子だけを含有し、その場合、上で規定された三次元金属物体を製作するための付加製造方法は、純金属物体、好ましくはチタン物体又はタングステン物体をもたらす。
【0104】
別の実施形態では、上で規定された金属粒子及び1種又は複数種の金属前駆体は2種又はそれ以上のタイプの金属原子を含有し、その場合、上で規定された三次元金属物体を製作するための付加製造方法は、金属合金物体をもたらす。
【0105】
さらなる実施形態では、異なるスラリーが異なる層に塗布され、各スラリー中の金属粒子及び金属前駆体は異なるタイプの金属原子を含み、その場合、上で規定された三次元金属物体を製作するための付加製造方法は、純金属の異なる層を含む複合金属物体をもたらす。
【0106】
さらに別の実施形態では、異なるスラリーが異なる層に塗布され、各スラリー中の金属粒子及び金属前駆体は2種又はそれ以上のタイプの金属原子を含み、異なるスラリー中の金属前駆体粒子の金属組成物は同一ではなく、その場合、上で規定された三次元金属物体を製作するための付加製造方法は、異なる層で異なる合金を含む複合金属物体をもたらす。純金属及び合金を含む複合三次元金属物体も、想定される。
【0107】
好ましい実施形態は、上で規定された、ステップ(a)~(g)の方法、任意選択でステップ(a)~ステップ(h)の方法によって得ることができる、三次元金属物体に関する。
【0108】
別の好ましい実施形態は、上で規定された、ステップ(a)~(g)の後にステップ(i)が続く方法、任意選択でステップ(a)~ステップ(i)の方法によって得ることができる、三次元金属物体に関する。
【0109】
上で規定された方法によって得ることができる多孔質三次元金属物体は、触媒作用の分野で用途を見出してもよく、又は、それら自身が触媒として適用されてもよい。したがって、本発明の第4の態様は、上で規定された方法を介して得られた三次元金属物体の、触媒又は触媒担体としての使用に関する。
【0110】
このように、上で議論したある特定の実施形態に言及することによって、本発明を説明してきた。これらの実施形態が、当業者に周知の様々な変更及び代替の形態の余地があることは、認識されるであろう。
【0111】
そのうえ、この文書及びその特許請求の範囲を適切に理解するために、動詞「含む」及びその語形変化は、その非限定的な意味で使用され、単語に続く項目は含まれるが、限定的に述べられていない項目は除外されないことを意味していることを理解すべきである。さらに、不定冠詞「a」又は「an」による要素への言及は、1つ及び1つだけの要素が存在すると文脈が明確に要求しない限り、2つ以上の要素が存在する可能性を除外しない。したがって不定冠詞「a」又は「an」は、通常「少なくとも1つ」を意味する。
【0112】
本明細書に引用されるすべての特許及び参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0113】
以下の実施例は例示の目的だけのために提供され、決して本発明の範囲を制限する意図ではない。
【実施例0114】
(比較例)
タングステン物体製造のための従来の付加製造技法は、選択的レーザー溶融(SLM)である。SLMで使用することができるタングステン粒子の粒径は、20~40μmの間(フィッシャー数(Fisher number))である。
【0115】
SLMを使用して得られたタングステン物体を分析した。物体は肉眼で見える表面粗さを有した。
【0116】
(実施例)
50wt%タングステン粒子(W)及び50wt%タングステン酸化物(WO)粒子の均一な粉末混合物を、調製した。
【0117】
タングステン粒子は、H.C.Stark、ドイツから得て、グレードHC400、99.95wt%純粋であり、4±0.2μmのフィッシャー数を有した。
【0118】
タングステン酸化物粒子もH.C.Stark、ドイツから得て、カーバイドグレードの粉砕された青色WOであり、99.6wt%純粋であり、1.2~1.8μmのフィッシャー数を有した。
【0119】
粉末混合物を圧縮体へプレスし、これを第1の炉で、7%H及び93%Nからなる還元雰囲気下、200℃/時の速度で20℃から750°まで加熱し、750℃で4時間の滞留時間を続けた。次に、体を200℃/時の速度で900℃まで加熱し、900℃で3時間の滞留時間を続けた。
【0120】
こうして得られた加熱体を、別の炉で、100%Hからなる還元雰囲気下、20℃/分の速度で1700°に加熱し、1700℃で1時間の滞留時間を続けることによって、焼結した。次に、タングステン物体を25℃/分の速度で周囲温度に冷却し、SEM及びEDS分析(JEOL JSM-6010LA)に供した。
【0121】
図1は、得られたタングステン物体のEDSスペクトルを示し、すべてのタングステン酸化物がタングステンに変換されたことを示している。
【0122】
図2は、得られたタングステン物体のSEM写真を示し、タングステン酸化物に由来するより小さなタングステン粒子、及びタングステンに由来するより大きな粒子の均一な構造を示している。
【0123】
得られたタングステン物体は、非常に均一な構造、及びSLMを使用して得られたタングステン物体の表面粗さよりはるかに低い、非常に低い表面粗さを有した。
【0124】
この実施例で得られたタングステン物体の有利な特徴は、金属と金属前駆体の化学が同一であるので、本発明による付加製造方法に従って得られたタングステン物体の特徴に固有のものである。

図1
図2
【外国語明細書】