(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059380
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】コレクタリング及び回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 13/00 20060101AFI20230420BHJP
H01R 39/00 20060101ALI20230420BHJP
H01R 39/04 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
H02K13/00 K
H01R39/00 B
H01R39/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169357
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145816
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿股 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100195718
【弁理士】
【氏名又は名称】市橋 俊規
(74)【代理人】
【識別番号】100196003
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 太郎
(72)【発明者】
【氏名】松崎 栄仁
(72)【発明者】
【氏名】澤 史雄
(72)【発明者】
【氏名】石塚 博明
【テーマコード(参考)】
5H613
【Fターム(参考)】
5H613AA03
5H613BB05
5H613BB15
5H613GA04
5H613GB12
5H613GB14
5H613KK13
(57)【要約】
【課題】ブラシの摩耗量を低減できるコレクタリング及び回転電機を提供する。
【解決手段】回転電機の回転子部1に装着されたコレクタリング5の摺動面を、このコレクタリング本体より平滑で、かつ電気抵抗及び/又は体積抵抗率が低い金属からなる被覆体で被覆した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機の回転子部に装着されたコレクタリングの摺動面を、このコレクタリング本体より平滑で、かつ電気抵抗及び/又は体積抵抗率が低い金属からなる被覆体で被覆したことを特徴とするコレクタリング。
【請求項2】
前記被覆体をメッキによって形成したことを特徴とする請求項1記載のコレクタリング。
【請求項3】
前記被覆体は、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、又は白金(Pt)であることを特徴とする請求項2記載のコレクタリング。
【請求項4】
前記被覆体は、第1層がニッケル層で、第2層が当該第1層の上に形成された白金層であることを特徴とする請求項3記載のコレクタリング。
【請求項5】
前記被覆体を化学蒸着法によるコーティングによって形成したことを特徴とする請求項1記載のコレクタリング。
【請求項6】
前記被覆体は、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、炭化チタン(TiC)、窒化チタン(TiN)又は炭窒化チタン(TiCN)であることを特徴とする請求項5記載のコレクタリング。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載のコレクタリングを有する可変速揚水発電機、可変速発電機又は水車発電機であることを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水車発電機等の回転電機に用いられるコレクタリング及び回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、可変速水車発電機等の水車発電機では、回転子部に回転子コイルを励磁するためのコレクタリングが装着されており、このコレクタリングの外周にはブラシが摺動可能に取り付けられている。
【0003】
しかしながら、ブラシはコレクタリングとの摺動接触により摩耗粉が発生し、回転子コイルの回転性能や集電機能に悪影響を与えたり、部品の交換頻度が高くなる等のメンテナンス負担を増加させるため、ブラシの摩耗粉による影響を減少させる方策が提案されている。
【0004】
図5は従来の回転子部1の回転子軸2に装着されたコレクタリング4の概観図である。
図5において、コレクタリング4は、回転子軸2に対し平行に延在し、第2のコレクタリング4bを貫通する導体5を有する第1のコレクタリング4aと、回転子部1の回転に伴う遠心力に対抗して導体5を定位置に保持する保持機構11を備えた第2のコレクタリング4bと、から構成されている。
【0005】
図6は第2のコレクタリング4bに設けられた保持機構11の概観図で、
図5の領域Aの拡大図である。保持機構11は、内部空間に間装された弾性部材14により絶縁性受け板12を導体5に、また、導電性受け板13を第2のコレクタリング4bに、それぞれ押圧接触させる。これにより第2のコレクタリング4bと導体5との電気的な接触状態を常に良好に保つとともに、保持機構11での上下方向の空気の流れを確保し、保持機構11内に侵入するブラシの摩耗粉を容易に清掃除去可能にする。なお、
図5、
図6において、3は絶縁物、13は導電性受け板である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来のコレクタリングは、ブラシから発生した摩耗粉を容易に除去可能としたものであるが、ブラシの摩耗粉の量を直接的に抑制するものではない。近年、ブラシ材料の多様化にともない、ブラシとコレクタリングの摺動面を改良し、摩耗量を直接的に低減する要望が高まっている。
【0008】
本発明の実施形態はこのような課題を解決するためになされたもので、ブラシの摩耗量を低減できるコレクタリング及び回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本実施形態に係るコレクタリングは、回転電機の回転子部に装着されたコレクタリングの摺動面を、このコレクタリング本体より平滑で、かつ電気抵抗及び/又は体積抵抗率が低い金属からなる被覆体で被覆したことを特徴とする。
【0010】
また、本実施形態に係る回転電機は、本実施形態のコレクタリングを有する可変速揚水発電機、可変速発電機又は水車発電機であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の実施形態によれば、回転電機のコレクタリングに摺動接触するブラシの摩耗量を低減することができるため、回転子コイルの回転性能や集電機能を良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る摩耗試験装置(被覆体あり)の概略図。
【
図2】本実施形態に係る摩耗試験装置(被覆体なし)の概略図。
【
図3】第1及び第2の実施形態に係るコレクタリングの摩耗特性表。
【
図4】第1及び第2の実施形態に係るコレクタリングの摩耗特性図。
【
図6】従来のコレクタリングに設けられた保持機構の概観図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るコレクタリング及び回転電機の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0014】
[第1の実施形態]
第1の実施形態では、コレクタリング5の摺動面(表面)に筆メッキ手段によりニッケル等の、コレクタリング5本体より平滑で、かつ電気抵抗及び/又は体積抵抗率が低い金属からなる被覆体8を形成する。
【0015】
(構成)
第1の実施形態に係るコレクタリング5は、φ350mm、厚さ35mmの金属製(例えば、ステンレス鋼)の円盤が用いられる。このコレクタリング5の摺動面に、以下の工程の筆メッキ手段によりニッケルメッキを施した。
電解脱脂→水洗→活性化→水洗→ニッケルメッキ(酸性)→水洗→乾燥
【0016】
上記工程のうち、電解脱脂、活性化、ニッケルメッキ(酸性)の各工程では、それぞれ脱脂液、活性化液、酸性のニッケルメッキ液を用いた。
【0017】
筆メッキを行う際は、被メッキ物であるコレクタリング5の摺動面に溶液を滴下しながら、専用の筆具(先端に炭素の構造物を装着したもの)をプラス(+)、被メッキ物をマイナス(-)になるように回路を組み、各工程で約10V-1分間の電界処理を行うことで、ニッケルメッキを行った。
【0018】
なお、ニッケル以外の金属、例えばスズ、白金、銅、銀、金等のメッキを施す場合も、上記と同様の方法を用いることができる。また、特に白金については、第1層としてメッキによりニッケル層を設けた上で、その上に第2層としてメッキにより白金層を設けることで、下材との密着性を向上させることができる。
なお、本実施形態では、ブラシとして、銅-黒鉛ブラシが用いられる。
【0019】
[第2の実施形態]
第2の実施形態では、コレクタリング5に化学蒸着法(CVD法)等により、TiC(炭化チタン)コーティング等の、コレクタリング5本体より平滑で、かつ電気抵抗及び/又は体積抵抗率が低い金属からなる被覆体8を形成する。
【0020】
第2の実施形態に係るコレクタリング5は、第1の実施形態と同様にφ350mm、厚さ35mmの金属製(例えば、ステンレス鋼)の円盤が用いられるが、本実施形態では、コレクタリング5に化学蒸着法(CVD法)等によってTiCコーティング等を施している。
【0021】
具体的には、約1000℃に加熱された金属容器中に、Ti(チタン)のハロゲン化物の蒸気を、炭化水素などと共に流し、常圧下または減圧下で、コレクタリング5の摺動面に蒸着被覆した。
【0022】
なお、TiCコーティング以外にも、TiN(窒化チタン)コーティング又はTiCN(炭窒化チタン)コーティングを施してもよく、TiCコーティングと同様に化学蒸着法(CVD法)を用いる。具体的には、約1000℃に加熱された金属容器中に、Ti(チタン)のハロゲン化物の蒸気を、炭化水素、窒素ガス、及びこれらの混合物と共に流すことにより、コレクタリング5の摺動面に蒸着被覆する。
【0023】
なお、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)のコーティングを行う際は、高周波プラズマCVD法、直流プラズマCVD法、プラスDCプラズマCVD法、イオン化蒸着法、スパッタ法、アークイオンプレーティング法等を用いることが望ましい。
【0024】
[作用、効果]
上記第1及び第2の実施形態によってコレクタリング5の摺動面に形成されたメッキ又はコーティングからなる被覆体8は、コレクタリング5本体と比較して摺動面が平滑で、かつ、低電気抵抗(Ω)及び/又は低体積抵抗率(Ωcm)を有する。
これにより第1及び第2の実施形態に係るコレクタリングが優れた低摩擦特性を有することを以下に説明する。
【0025】
(摩耗試験装置)
図1及び
図2は、本実施形態に係るコレクタリングのブラシ摩耗試験に用いた摩耗試験装置7の概略図であり、そのうち、
図1のコレクタリング5は摺動面にメッキ又はコーティングによって被覆体8が形成されており、
図2のコレクタリング6では被覆体が形成されていない(処理無し)。
【0026】
摩耗試験装置7は、回転しているコレクタリング5、6の摺動面に機械的に接触する例えば銅-黒鉛ブラシからなるブラシ7aと、ブラシ7aを保持するブラシ保持部7bと、ブラシ7aをコレクタリング5、6の摺動面に押圧接触させる弾性部材7cとから構成される。
【0027】
なお、
図1及び
図2では、コレクタリング5、6及び摩耗試験装置7が3段構成となっている例を図示しているが、そのうち上方の2段は電気摩耗及び機械摩耗の評価用として使用し、下方の1段は機械摩耗のみの評価用として使用している。
この3段構成の摩耗試験装置7は単なる例示であって、段数は適宜増減してもよい。
【0028】
(摩耗試験結果)
上記
図1及び
図2に図示した摩耗試験装置7を用いてブラシ摩耗試験を行った試験結果を、
図3、
図4に示す。
【0029】
図3は、メッキやコーティングによる被覆体8が形成されていない(処理無し)コレクタリング6の摺動面に接触摺動したブラシの摩耗量(No.1)と、各種メッキによる被覆体8が形成されたコレクタリング5の摺動面に接触摺動したブラシの摩耗量(No.2~No.6)と、各種コーティングによる被覆体8が形成されたコレクタリング5の摺動面に接触摺動したブラシの摩耗量(No.7~No.10)を示す摩耗特性表で、
図4はそれらを棒グラフで表した摩耗特性図である。
なお、
図3及び
図4の摩耗量の単位は、処理無しの場合(No.1)の摩耗量を1.0とした場合のパーユニットである。
【0030】
図3及び
図4から、コレクタリング5にニッケルメッキ等又はTiCコーティング等による被覆体8を形成することにより、被覆体8が形成されていないもの(処理無し)に比較してブラシ摩耗量が低減していることがわかる。
【0031】
これにより、本実施形態に係るコレクタリング5本体より平滑で、かつ電気抵抗及び/又は体積抵抗率が低い金属によってメッキ又はコーティングにより被覆体8が形成されたコレクタリング5は優れた低摩擦特性を有し、ブラシの摩耗粉の発生を抑制することができるため、回転子コイルの回転特性や集電特性等を良好に維持できるとともに、部品交換や除染等のメンテナンス負担を低減することができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、可変速揚水発電機、可変速発電機又は水車発電機等の回転電機に適用可能である。
また、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0033】
1…回転子部、2…回転子軸、3…絶縁物、4…コレクタリング、4a…第1のコレクタリング、4b…第2のコレクタリング、5…コレクタリング(被覆体あり)、6…コレクタリング(被覆体なし)、7…摩耗試験装置、7a…ブラシ、7b…ブラシ保持部、7c…弾性部材、8…被覆体、11…保持機構、12…絶縁性受け板、13…導電性受け板、14…弾性部材