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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059478
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】生体適用デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/14 20060101AFI20230420BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20230420BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20230420BHJP
   A61L 27/38 20060101ALN20230420BHJP
【FI】
A61L27/14
A61L27/16
A61L27/18
A61L27/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169524
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】兒玉 賢洋
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真一
(72)【発明者】
【氏名】今井 慶一
(72)【発明者】
【氏名】武井 優芽
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB11
4C081BA13
4C081BB03
4C081CA011
4C081CA051
4C081CA101
4C081CD34
4C081DA16
(57)【要約】
【課題】生体内への対象物の配置に際して、生体からの対象物の脱離を抑え、対象物の配置の効率を高めることができる生体適用デバイスを提供する。
【解決手段】生体適用デバイス100は、生体を刺すことが可能な形状を有するとともに、対象物20を内部に保持可能に構成された針状部10を備える。針状部10の材料は、特定の温度以上で収縮し、かつ、当該特定の温度よりも低い温度で膨潤する材料を含む。上記特定の温度は、例えば、30℃以上45℃以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内への対象物の配置に用いられる生体適用デバイスであって、
前記生体を刺すことが可能な形状を有するとともに、前記対象物を内部に保持可能に構成された針状部を備え、
前記針状部の材料は、特定の温度以上で収縮し、かつ、前記特定の温度よりも低い温度で膨潤する材料を含む
生体適用デバイス。
【請求項2】
前記特定の温度は、30℃以上45℃以下である
請求項1に記載の生体適用デバイス。
【請求項3】
生体内への対象物の配置に用いられる生体適用デバイスであって、
前記生体を刺すことが可能な形状を有するとともに、前記対象物を内部に保持可能に構成された針状部を備え、
前記針状部の材料は、ポリ‐2‐アルキル‐2‐オキサゾリン、ポリ‐N‐アルキルアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルビニルメチルエーテル、ポリ‐N‐アクリロイルピロリジン、N‐アルキルアクリルアミド・ジメチルアクリルアミド共重合体、N‐アルキルアクリルアミド・ブチルメタクリレート共重合体、および、ポロキサマーからなる群から選択される少なくとも1種を含む
生体適用デバイス。
【請求項4】
前記針状部に内包された前記対象物を備える
請求項1~3のいずれか一項に記載の生体適用デバイス。
【請求項5】
前記対象物は水分を含む
請求項4に記載の生体適用デバイス。
【請求項6】
前記対象物は細胞の集合体を含む
請求項4または5に記載の生体適用デバイス。
【請求項7】
複数の前記針状部を備え、各針状部に1つずつ、前記対象物が保持されている
請求項1~6のいずれか一項に記載の生体適用デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内への対象物の配置に用いられる生体適用デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞群を生体内へ移植する技術の活用が進んでいる。例えば、毛を作り出す毛包器官の形成に寄与する細胞群を培養し、この細胞群を皮内へ移植することによって、毛髪を再生させることが試みられている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/073625号
【特許文献2】国際公開第2012/108069号
【特許文献3】特開2008-29331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細胞群を生体内に配置する際には、ピンセットや注射器等の器具で細胞群を保持し、生体の組織表面を切って器具を組織内に挿入する。そして、細胞群の配置後に、器具を組織から引き抜く。しかしながら、こうした細胞群の移植方法では、器具を組織から引き抜くときに、器具と共に細胞群が組織から抜け出てしまうことが起こる場合があり、このことが、移植効率の低下を招いている。
【0005】
なお、こうした問題は細胞群の移植に限らず、皮膚等の組織の表面から生体内に対象物を配置する場合に共通する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための生体適用デバイスは、生体内への対象物の配置に用いられる生体適用デバイスであって、前記生体を刺すことが可能な形状を有するとともに、前記対象物を内部に保持可能に構成された針状部を備え、前記針状部の材料は、特定の温度以上で収縮し、かつ、前記特定の温度よりも低い温度で膨潤する材料を含む。
【0007】
上記課題を解決するための生体適用デバイスは、生体内への対象物の配置に用いられる生体適用デバイスであって、前記生体を刺すことが可能な形状を有するとともに、前記対象物を内部に保持可能に構成された針状部を備え、前記針状部の材料は、ポリ‐2‐アルキル‐2‐オキサゾリン、ポリ‐N‐アルキルアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルビニルメチルエーテル、ポリ‐N‐アクリロイルピロリジン、N‐アルキルアクリルアミド・ジメチルアクリルアミド共重合体、N‐アルキルアクリルアミド・ブチルメタクリレート共重合体、および、ポロキサマーからなる群から選択される少なくとも1種を含む。
【0008】
上記構成によれば、生体に針状部を刺すことに伴う温度変化に起因して、針状部の膨潤が進行し、針状部内に保持されていた対象物が針状部から解放されて生体内に配置される。したがって、生体内への対象物の配置に際して生体内からの器具の引き抜きが発生しないため、対象物が器具と共に生体内から抜け出ることが抑えられる。それゆえ、対象物の配置の効率も高められる。さらに、温度の制御によって針状部と水分との反応を制御できるため、針状部が水分によって溶解する材料から形成されている場合と比較して、生体へ針状部を刺す前に、大気中の水分や対象物が含む水分によって針状部の形状や強度に変化が生じることが避けられる。そのため、水分との反応に起因して生体に対する針状部の刺さりやすさが低下することを抑えつつ、生体内で対象物を的確に解放することができる。
【0009】
上記構成において、前記特定の温度は、30℃以上45℃以下であってもよい。
上記構成によれば、針状部が例えばヒトの組織に進入したときに、針状部の膨潤が好適に進行する。したがって、ヒトに対する使用に適した生体適用デバイスが実現される。
【0010】
上記構成において、生体適用デバイスは、前記針状部に内包された前記対象物を備えてもよい。上記構成において、前記対象物は水分を含んでもよい。
対象物が水分を含む場合、針状部が水分によって溶解する材料から形成されていると、生体へ針状部を刺す前に、対象物が含む水分によって針状部の溶解が生じる場合がある。そのため、温度の制御によって針状部と水分との反応を制御できることによる上述の生体適用デバイスの効果の有益性が高められる。
【0011】
上記構成において、前記対象物は細胞の集合体を含んでもよい。
上記構成によれば、生体適用デバイスを細胞移植に用いることができる。また、対象物が細胞の集合体を含む場合、対象物には水分が含まれやすい。したがって、温度の制御によって針状部と水分との反応を制御できることによる上述の効果の有益性が高められる。
【0012】
上記構成において、複数の前記針状部を備え、各針状部に1つずつ、前記対象物が保持されていてもよい。
上記構成によれば、生体に対して複数の対象物をまとめて配置できるため、対象物の配置の効率が高められる。また、1つの針状部に1つの対象物が保持されているため、複数の針状部の配列によって生体の組織表面に沿った方向での複数の対象物の位置関係を容易に制御することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、生体内への対象物の配置に際して、生体からの対象物の脱離を抑え、対象物の配置の効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態の生体適用デバイスの断面構造を示す図。
図2】変形例の生体適用デバイスの断面構造を示す図。
図3】変形例の生体適用デバイスの断面構造を示す図。
図4】一実施形態の生体適用デバイスを用いた対象物の配置の手順を示す図。
図5】一実施形態の生体適用デバイスを用いた対象物の配置の手順を示す図。
図6】一実施形態の生体適用デバイスを用いた対象物の配置の手順を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、生体適用デバイスの一実施形態を説明する。本実施形態の生体適用デバイスは、細胞群等の対象物を生体内に配置するために用いられる。対象物が配置される領域は、生体の組織内であり、例えば、皮内および皮下の少なくとも一方、あるいは、粘膜や臓器等である。本実施形態において「生体」には、生物の身体や組織だけでなく、生物の身体や組織を模した人工的な製造物である生体モデルが含まれる。すなわち、本実施形態の生体適用デバイスは、生物に対する対象物の配置に限らず、生体モデルに対する対象物の配置にも用いられ得る。
【0016】
[生体適用デバイスの全体構成]
図1が示すように、生体適用デバイス100は、針状部10と、針状部10の基端部を支持する支持部11とを備えている。針状部10の内部には、対象物20が保持されている。
【0017】
針状部10の先端部が、対象物20の配置される組織を刺すことの可能な形状を有していれば、針状部10の形状は特に限定されない。生体に対する針状部10の刺さりやすさを高める観点では、針状部10は1つの方向に沿って延びる形状を有し、針状部10の先端部は尖っていることが好ましい。あるいは、針状部10は、先端部に刃状の構造を有していてもよい。
【0018】
例えば、針状部10は、円錐状や角錐状のように、基端から先端に向けて幅が小さくなる形状を有していてもよい。また例えば、針状部10は、円柱をその延びる方向に対して斜めに切断した形状や、円柱の上面から円錐が延びる形状のように、基端から一定の幅で延びた後、先端に向けて幅が小さくなる形状を有していてもよい。
【0019】
針状部10の長さは、生体内において対象物20を配置する目的の深さに応じて選択されればよい。針状部10の長さは、例えば、200μm以上15mm以下である。
針状部10の径は特に限定されない。針状部10の径が小さいほど、生体に針状部10を刺したときに形成される傷跡を小さくすることや、針状部10を刺したときの痛みや出血を軽減することができる。一方、針状部10の径が大きいほど、保持可能な対象物20の大きさや量の増大が可能であるため、生体内に配置する対象物20の条件や、生体内で対象物20に発揮させる機能についての調整の自由度が高められる。
【0020】
支持部11は、例えば板状であり、第1面11Fと、第1面11Fとは反対側の面である第2面11Rとを有する。支持部11における1つの面である第1面11Fから、針状部10が突き出ている。支持部11は、針状部10に接合されていてもよいし、針状部10と支持部11とが一体に形成されて、支持部11から連続して針状部10が延びていてもよい。言い換えれば、生体適用デバイス100は、支持部11と針状部10との境界面を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0021】
[生体適用デバイスの材料]
針状部10の材料の主成分は、温度応答性材料である。本実施形態において温度応答性材料とは、特定の温度以上において収縮し、かつ、当該特定の温度よりも低い温度において膨潤する材料を指す。この特定の温度を境界温度とする。詳細には、温度応答性材料は、境界温度を境として、分子構造の変化を示す材料であり、こうした分子構造の変化に起因して、境界温度以上では、温度応答性材料における疎水性と親水性のバランスが変化し、相分離が生じる。
【0022】
すなわち、針状部10の温度が境界温度以上に高く維持されている状態においては、針状部10からは水分が排除され、生体に刺さる程度の強度を有するように針状部10の形状が維持される。この状態においては、針状部10の内部に対象物20が包み込まれている。一方、針状部10の温度が境界温度よりも低くなると、針状部10に周囲の水分が取り込まれて針状部10が膨らみ、分子の絡まりがほぐれることから、対象物20が解放される。
【0023】
境界温度は、材料ごとに定まる。境界温度は、対象物20の配置される組織の温度付近の温度であればよい。例えば、ヒトに対して対象物20が配置される場合、境界温度は、ヒトの体温に近い温度であることが好ましく、具体的には、30℃以上45℃以下であることが好ましい。こうした温度応答性材料は、30℃以上45℃以下の範囲に下限臨界溶解温度を有する材料であるとも言える。
【0024】
温度応答性材料は、無機材料や高分子材料である。温度応答性材料は、生体および対象物20に対して高い適合性を有することが好ましい。例えば、温度応答性材料は生体適合性材料である。
【0025】
温度応答性材料の具体例は、ポリ‐2‐アルキル‐2‐オキサゾリン、ポリ‐N‐アルキルアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルビニルメチルエーテル、ポリ‐N‐アクリロイルピロリジン、N‐アルキルアクリルアミド・ジメチルアクリルアミド共重合体、N‐アルキルアクリルアミド・ブチルメタクリレート共重合体、および、ポロキサマー等である。
【0026】
例えば、ポリ‐2‐アルキル‐2‐オキサゾリンの一例であるポリ‐2‐イソプロピル‐2‐オキサゾリンは、約35℃~45℃を下限とする温度範囲にて相分離を生じる。また、ポリ‐N‐アルキルアクリルアミドの一例であるポリ‐N‐イソプロピルアクリルアミドは、約30℃~37℃を下限とする温度範囲にて相分離を生じる。
【0027】
また、温度応答性材料は、ブルネットワークゲル、ナノコンポジットゲル、無機ゲル、多孔質ゲル、イオンゲル、環動ゲル等の形態を有していてもよい。特に、30℃以上45℃以下の温度において、温度応答性材料のヤング率が10000Pa以下となるように、材料の特性が調整されていることが好ましい。
【0028】
なお、針状部10の材料は、単独の温度応答性材料から構成されてもよいし、複数の温度応答性材料を含んでもよい。また、針状部10の材料は、温度応答性材料とは異なる添加剤を含んでもよい。針状部10の材料の主成分は、針状部10において最も含有割合の高い材料である。
【0029】
境界温度、すなわち、温度応答性材料が相分離を生じる温度の計測は、示差走査熱量計を用いて行われればよい。具体的には、示差走査熱量計を用いた分析にて求められる吸熱開始点から、境界温度が決定される。
【0030】
相分離に要する反応時間は特に限定されないが、より短時間で相分離を生じる材料を用いる方が、対象物20の配置を短時間で完了することができる点で好ましい。一方、相分離に長時間を要する材料を用いれば、生体に針状部10を刺している途中においても、針状部10の強度が維持されやすい。したがって、生体に対する針状部10の刺さりやすさを高めることができる。特に、対象物20の配置される組織と針状部10との摩擦が大きい場合には、針状部10の強度が維持されることの効果が大きい。
【0031】
針状部10の材料は、対象物20に対する吸着性や接着性といった対象物20との相互作用や、相分離に要する反応時間に起因した上述の作用を考慮して選択されることが好ましい。
なお、支持部11の材料は、針状部10の材料と同一であってもよいし、異なっていてもよい。支持部11の材料には、温度応答性材料が含まれていなくてもよい。
【0032】
針状部10は、所望の針状部10の形状に対応する凹部を有する型である凹版に、針状部10の材料を含む溶液を充填し、充填物を固化することにより形成される。また、温度応答性材料をバインダーとして温度応答性のない材料を一時的に結着させて針状部10を形成してもよい。支持部11は、針状部10と同時に形成されてもよいし、針状部10の形成後に形成されてもよい。
【0033】
対象物20は、充填物の固化前に充填物に含められてもよいし、充填物の固化後に充填物に埋め込まれてもよい。少なくとも針状部10が生体を刺す直前において、対象物20が針状部10に保持されていればよい。言い換えれば、生体適用デバイス100は、針状部10が生体を刺す直前において、対象物20を備えていればよい。
具体的には、針状部10の材料を含む溶液中に対象物20を混合して、対象物20を針状部10の材料と一緒に凹版へ充填することにより、対象物20を包含する針状部10を形成してもよい。また、充填物の固化後に凹版に対象物20を充填する場合には、針状部10の材料を含む溶液を凹版へ充填する際に、追加の型部品を用いて対象物20を充填するための空間を充填物内に設けてもよい。そして、その空間に対して対象物20を配置し、その後に支持部11により当該空間を封止することで、対象物20を保持した針状部10を形成してもよい。
【0034】
[対象物の構成]
対象物20の一例は、細胞群である。細胞群は、複数の細胞を含む。細胞群は、凝集された複数の細胞の集合体であってもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体であってもよい。あるいは、細胞群は、分散した複数の細胞から構成されてもよい。また、細胞群を構成する細胞は、未分化の細胞であってもよいし、分化が完了した細胞であってもよいし、細胞群は、未分化の細胞と分化した細胞とを含んでいてもよい。細胞群は、例えば、細胞塊(スフェロイド)、原基、組織、器官、オルガノイド、ミニサイズの臓器等である。
【0035】
細胞群は、生体内に配置されることによって、生体における組織形成に作用する能力を有する。こうした細胞群の一例は、幹細胞性を有する細胞を含んだ細胞凝集体である。
細胞群は、例えば、皮内または皮下に配置されることにより、発毛または育毛に寄与する。具体的には、細胞群は、毛包器官として機能する能力、毛包器官へ分化する能力、毛包器官の形成を誘導もしくは促進する能力、あるいは、毛包器官における毛の形成を誘導もしくは促進する能力等を有する。また、細胞群は、色素細胞もしくは色素細胞に分化する幹細胞等のように、毛色の制御に寄与する細胞を含んでいてもよい。また、細胞群は、血管系細胞を含んでいてもよい。
あるいは、皮内や皮下を配置の対象領域とする細胞群は、皮膚における皺の解消や保湿状態の改善等、美容用途での効果を発揮する細胞群であってもよい。
【0036】
細胞群の具体例は、器官原基である。器官原基は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含む。器官原基の例は、毛包器官に分化する毛包原基、肝臓の原基、腎臓の原基、膵臓の原基、神経系の原基細胞や血管系の原基細胞等の細胞群である。また、対象物20は、器官原基である細胞群に加え、原基としての形状や性能を補助するための核材料やガイドワイヤー、夾雑物を含んでいてもよい。
【0037】
例えば、毛包原基は、毛乳頭等の間葉組織に由来する間葉系細胞と、バルジ領域や毛球基部等に位置する上皮組織に由来する上皮系細胞とを、所定の条件で培養することによって形成される。ただし、毛包原基の製造方法は上述の例に限定されない。また、毛包原基の製造に用いられる間葉系細胞と上皮系細胞との由来も限定されず、これらの細胞は、毛包器官由来の細胞であってもよいし、毛包器官とは異なる器官由来の細胞であってもよいし、多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。
【0038】
また、対象物20は、細胞群とともに、水分を含む流体を含んでいてもよい。流体は、細胞の生存を阻害し難い成分であればよく、また、生体に注入された場合に生体に与える影響の小さい成分であることが好ましい。例えば、流体は、生理食塩水、ワセリンや化粧水等の皮膚を保護する物質、あるいは、これらの混合物である。また、流体は、細胞群を保護する機能を有していてもよく、栄養成分等の添加成分を含んでいてもよい。また、流体は、細胞の培養のための培地であってもよい。流体は、低粘度の流体、あるいは、高粘度の流体であり得る。また、対象物20は、細胞群とともに、細胞群を保護するゲル状体を含んでいてもよい。
【0039】
なお、対象物20は、細胞群に限らず、薬剤や、ICチップ等の部材であってもよい。また、対象物は、液体、固体、ゲル状体のいずれであってもよいし、これらの混合物であってもよい。
【0040】
対象物20は、針状部10の内部において、1つの塊のように特定の領域に集中して配置されていてもよいし、分散していてもよい。また、針状部10の内部において対象物20が保持されている位置は特に限定されない。対象物20は、針状部10の先端部に含まれていてもよいし、中央部に含まれていてもよいし、基端部に含まれていてもよい。要は、針状部10の中で生体の組織内に進入する部分に対象物20が含まれていればよく、対象物20を配置する所望の深さに応じて針状部10内での対象物20の位置が調整されればよい。
【0041】
[生体適用デバイスの変形例]
図2が示すように、生体適用デバイス100は、複数の針状部10を備えていてもよい。複数の針状部10の各々に、対象物20が内包されている。複数の針状部10は、1つの支持部11に支持されることが好ましい。この場合、複数の針状部10は、支持部11の第1面11Fから、同一の方向に向けて突き出る。複数の針状部10の配置は特に限定されず、複数の針状部10は規則的に並んでいてもよいし、不規則に並んでいてもよい。
【0042】
生体適用デバイス100が複数の針状部10を備えていれば、生体適用デバイス100によって複数の対象物20をまとめて生体内に配置することができる。したがって、対象物20の配置の効率が高められる。それゆえ、生体内に配置された複数の対象物20の状態にばらつきが生じることも抑えられる。
【0043】
対象物20が細胞群である場合、複数の針状部10の配置に応じて、組織の表面に沿った方向での細胞群の配置が決まる。そして、細胞間の相互作用が生じ、細胞群の配置に応じて組織形成が進む。例えば、細胞群が毛包原基である場合、細胞群の配置に応じた配置で毛髪が再生される。
【0044】
対象物20が、毛包原基のように、発毛または育毛に寄与する細胞の集合体である場合、各針状部10に1つずつ、対象物20が保持されることが好ましい。これにより、再生される毛髪の配置や密度の制御が容易になる。この場合、支持部11の第1面11Fにおける単位面積当たりの針状部10の密度は、1個/cm以上400個/cm以下であることが好ましく、20個/cm以上100個/cm以下であることがより好ましい。針状部10の密度が上記下限値以上であれば、細胞群に基づき発毛した毛の密度が、頭髪として十分な密度になりやすい。針状部10の密度が上記上限値以下であれば、皮膚の内部に配置された細胞群に対して、栄養分が行きわたりやすく、毛包および毛の形成が好適に進む。
【0045】
図3が示すように、生体適用デバイス100は、針状部10の表面に、補強層12を備えていてもよい。補強層12は、針状部10を覆う膜状を有する。補強層12の硬度は、例えば、針状部10の硬度よりも大きい。補強層12が備えられていることにより、針状部10の強度が高められるため、針状部10が生体に刺さりやすくなる。または、補強層12により針状部10の放熱性を補正することが可能であり、これによって、気温の変化や個人の体温差による針状部10の温度変化の差異を補正することができる。
【0046】
補強層12は、温度応答性材料、もしくは、水分または体温によって分解する材料から形成される。補強層12は、補強層12の材料が針状部10の表面に塗布されることによって形成されてもよいし、型等を用いて補強層12が形成された後、補強層12の内側に針状部10の材料が充填されることによって、針状部10が形成されてもよい。
【0047】
[生体適用デバイスの使用方法]
図4図6を参照して、生体適用デバイス100の使用方法を説明する。生体適用デバイス100の使用方法は、すなわち、生体適用デバイス100を用いた対象物20の配置方法であり、対象物20が細胞群を含む場合、生体適用デバイス100を用いた細胞の移植方法である。
【0048】
生体適用デバイス100の使用前、針状部10は、境界温度以上に加温された状態に保たれる。加温は、インキュベーター、オーブン、ホットプレート等の機器が用いられること、もしくは、恒温室に生体適用デバイス100が入れられること等によって、生体適用デバイス100の全体に対して均一に行われてもよい。あるいは、ハロゲンヒーターや赤外線ランプが用いられることによって、生体適用デバイス100の針状部10付近のみが局所的に加温されてもよい。
【0049】
また、上述の機器が組み合わされて用いられ、針状部10の先端部とその他の部分とが異なる温度となるように、生体適用デバイス100が加温されてもよい。例えば、針状部10の先端部とは異なる部分に対象物20が内包されており、針状部10の先端部が、針状部10のなかで対象物20が内包されている部分よりも高い温度に保たれてもよい。これにより、生体に最初に刺さる先端部の強度がより高められる一方で、対象物20を相対的に低い温度に保つことができる。したがって、針状部10が生体に刺さりやすくなるとともに、対象物20の高温に対する耐性が低い場合であっても、対象物20の性質の変化を抑えることができる。
【0050】
図4が示すように、生体適用デバイス100の使用に際しては、まず、針状部10を生体の対象組織Skに刺す。対象組織Skは例えば皮膚である。生体適用デバイス100の加温は、針状部10が対象組織Skを刺す直前に停止されればよい。針状部10が対象組織Skを刺すときには、針状部10が境界温度以上であるため、針状部10の形状および強度が保たれており、対象組織Skに針状部10が円滑に進入する。そして、針状部10の進入に伴い、対象物20も針状部10に内包された状態で対象組織Skの内部に進入する。
【0051】
針状部10が対象組織Skに進入した後、時間の経過に伴い、針状部10の温度が周囲の対象組織Skの温度と同程度にまで下がる。これにより、針状部10の温度が境界温度よりも低くなり、図5が示すように、針状部10に周囲の水分が取り込まれて針状部10が膨潤する。その結果、針状部10の形状が崩れて針状部10が対象組織Sk内に広がり、針状部10による対象物20の保持力が弱くなる。そのため、対象物20が針状部10から解放される。
【0052】
温度変化に伴う針状部10の変化は、瞬間的に生じてもよいし、ある程度の時間をかけて生じてもよい。好ましくは、針状部10が対象組織Skを刺してから30分以内に対象物20が針状部10から解放されればよい。
【0053】
なお、対象物20の解放の促進のために、針状部10の刺さっている箇所が冷却されてもよい。これにより、針状部10が冷却されて、針状部10の膨潤がより短時間で進行するため、対象物20の配置の効率が高められる。また、境界温度が対象組織Skの温度よりも低い場合であっても、針状部10の刺さっている箇所を冷却することで、針状部10を膨潤させて、対象物20を解放させることができる。
【0054】
対象物20の解放後、膨潤した針状部10は、支持部11が対象組織Skの表面から取り除かれることに伴って、対象組織Sk内から取り除かれてもよい。あるいは、膨潤した針状部10は、対象組織Sk内に残されてもよい。針状部10の膨潤が進行すると、支持部11や針状部10のなかで対象組織Sk内に進入しなかった基端部は、針状部10のなかで対象組織Skに進入して膨潤した部分から分離できるようになる。それゆえ、支持部11や針状部10の基端部を対象組織Skの表面から取り除くことで、膨潤した針状部10を対象組織Sk内に残すことも可能である。
【0055】
針状部10の材料の調整により、針状部10の膨潤の速度や膨潤の程度が、針状部10が対象組織Skから取り除かれるか否かの使用方法に適するように調整されてもよい。例えば、針状部10が対象組織Sk内に残される場合、針状部10が対象組織Sk内に残された後に針状部10の膨潤がさらに進行するように、膨潤の進行に時間のかかる材料を針状部10の材料として選択することもできる。したがって、針状部10の材料の選択の自由度が高められることから、対象物20の形態や物性に応じた材料を選択することも容易となるため、結果として、針状部10に保持させる対象物20の選択の自由度も高められる。
以上により、図6が示すように、対象組織Sk内に対象物20が残され、対象組織Skへの対象物20の配置が完了する。
【0056】
本実施形態の生体適用デバイス100を用いることにより、生体内への対象物20の配置に際して生体内からの器具の引き抜きが発生しないため、対象物20が器具と共に生体内から抜け出ることが抑えられる。したがって、対象物20の配置の効率も高められる。針状部10が生体内から取り除かれる場合であっても、この針状部10は膨潤した状態であって対象物20を組織表面に誘導する機能が低いため、器具の引き抜きと比較して、対象物20が生体内から抜け出ることは抑えられる。
【0057】
また、対象物20は、針状部10に包まれた状態で生体内に挿入されるため、乾燥や挿入時の衝撃から対象物20を保護することもできる。したがって、対象物20の性能の維持が可能であり、配置の機会ごとに対象物20の性能等の状態にばらつきが生じることも抑えられる。
【0058】
本実施形態と比較される形態として、針状部が水溶性高分子等のように水分によって溶解する材料から形成されている形態が挙げられる。この場合、針状部が生体を刺した後、生体内で針状部が溶解することにより、対象物が生体内に配置される。しかしながら、針状部が溶解性の材料から形成されていると、針状部を生体に刺す前に、大気中の水分や、対象物に含まれる水分によって、針状部に溶解が生じることが起こり得る。その結果、針状部の形状が崩れたり針状部の強度が低くなったりして、針状部が生体に刺さりにくくなり、対象物の配置が円滑に進みにくくなる。そのため、針状部の使用条件や保持可能な対象物についての制約が大きくなる。
【0059】
これに対し、本実施形態の生体適用デバイス100における針状部10は、温度を条件として水分と反応するため、温度の制御によって針状部10の状態を制御できる。そのため、生体に対する針状部10の刺さりやすさを好適に維持することが可能であり、対象物20の配置を効率よく実施することができる。すなわち、水分と反応し得る材料を用いていつつも、その材料の特性が生体に対する針状部10の刺さりやすさに影響を及ぼすことを好適に抑えることが可能であり、一方で、生体内において対象物20を的確に解放することができる。
【0060】
なお、生体適用デバイス100の使用時には、対象組織Skへの針状部10への進入や、対象組織Skに針状部10が刺さった状態の維持を補助するアプリケーターが用いられてもよい。また、こうしたアプリケーターによる針状部10の支持が可能であれば、生体適用デバイス100は支持部11を有していなくてもよい。
【0061】
[実施例]
上述した生体適用デバイスについて、具体的な実施例を用いて説明する。
<凹版の形成>
精密機械加工によって、真鍮製の生体適用デバイスの原版を形成した。原版における針状部の形状は、正四角錐(高さ:1000μm、底面:1辺が350μmの正方形)である。原版においては、6列6行の格子状に36本の針状部が配列されている。針状部の配列間隔は1mmである。
【0062】
次に、樹脂転写法によって、上記原版から凹版を作製した。具体的には、上記原版にポリジメチルシロキサン樹脂を流し込み、90℃で10分間加熱して樹脂を硬化させた後、原版を剥離することにより、凹版を形成した。凹版の厚さは3mmである。
【0063】
<針状部および対象物の材料の調整>
針状部の材料の溶液として、37℃で膨潤するように分子設計されたポリ-N-アルキルアクリルアミドをベースとしたナノコンポジットゲルの10wt%水溶液を調製した。また、対象物として、Calcein AM(PromoCell GmbH社製)で蛍光標識されたマウスケラチノサイト細胞(Kera-308,Cell Lines Service GmbH社製)を用意した。
【0064】
<生体適用デバイスの作製>
上記凹版に上記針状部の材料の溶液を充填した後、凹版を105℃のオーブンで1時間加熱し、充填物から水分を除去した。さらに、水分の除去による充填物の体積の縮小に合わせて、再度、凹版に上記溶液を加え、同様に加熱する工程を2回行った。そして、窒素置換した環境下で凹版の充填物に対して紫外線照射(1500mJ/cm)を行うことにより、針状部を形成した。
【0065】
続いて、凹版および充填物を38℃に加温した状態で、凹版の全面に対して上記マウスケラチノサイト細胞の分散液を100ml供給することにより、凹版にマウスケラチノサイト細胞を播種した。分散液は、分散液の含む細胞数が1×10Cells/mlとなるように生理食塩水で希釈して調製した。供給した分散液が乾燥したのち、針状部の基端に支持部として機能する粘着シートを張り付けて、充填物を凹版から剥離した。これにより、対象物を含む針状部を備える生体適用デバイスが得られた。
【0066】
<配置試験>
生体適用デバイスの針状部をブタ皮膚に刺し、生体適用デバイスをブタ皮膚に粘着シートで固定して、25℃の環境で1昼夜経過させた。その後、生体適用デバイスをブタ皮膚から剥がし、ブタ皮膚を共焦点顕微鏡で観察した。その結果、ブタ皮膚の内部に緑色の蛍光色が確認された。このことから、ブタ皮膚に刺された針状部から細胞が遊離し、ブタ皮膚の内部に配置されたことが確認された。
【0067】
以上、実施形態および実施例で説明したように、生体適用デバイスによれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)針状部10の材料に温度応答性材料が含まれるため、生体に針状部10を刺すことに伴う温度変化に起因して、針状部10の膨潤が進行し、針状部10内に保持されていた対象物20が針状部10から解放されて生体内に配置される。したがって、生体内への対象物20の配置に際して生体内からの器具の引き抜きが発生しないため、対象物20が器具と共に生体内から抜け出ることが抑えられる。それゆえ、対象物20の配置の効率も高められる。
【0068】
さらに、温度の制御によって針状部10と水分との反応を制御できるため、針状部10が水分によって溶解する材料から形成されている場合と比較して、生体へ針状部10を刺す前に、大気中の水分や対象物20が含む水分によって針状部10の形状や強度に変化が生じることが避けられる。そのため、水分との反応に起因して生体に対する針状部10の刺さりやすさが低下することを抑えつつ、生体内で対象物20を的確に解放することができる。
【0069】
(2)温度応答性材料が相分離する境界温度が、30℃以上45℃以下であれば、針状部10がヒトの組織に進入したときに、針状部10の膨潤が好適に進行する。したがって、ヒトに対する使用に適した生体適用デバイス100が実現される。
【0070】
(3)対象物20が水分を含む場合、針状部10が水分によって溶解する材料から形成されていると、生体へ針状部10を刺す前に、対象物20が含む水分によって針状部10の溶解が生じる場合がある。そのため、温度の制御によって針状部10と水分との反応を制御できることによる上述した生体適用デバイス100の効果の有益性が高められる。また、対象物20が細胞群を含む場合には、水分によって細胞群の機能が保たれやすくなる。
【0071】
(4)対象物20が細胞の集合体を含む場合、対象物20には水分が含まれやすい。したがって、この場合にも、温度の制御によって針状部10と水分との反応を制御できることによる上述の効果の有益性が高められる。また、複数の細胞の相互作用が維持された状態で細胞を生体内に配置することができるため、組織形成の好適な進行が期待できる。
【0072】
(5)生体適用デバイス100が、複数の針状部10を備え、各針状部10に1つずつ、対象物20が保持されていれば、生体に対して複数の対象物20をまとめて配置できるため、対象物20の配置の効率が高められる。また、複数の針状部10の配列によって生体の組織表面に沿った方向での複数の対象物20の位置関係を容易に制御することができる。
【符号の説明】
【0073】
10…針状部
11…支持部
11F…第1面
11R…第2面
12…補強層
20…対象物
100…生体適用デバイス
図1
図2
図3
図4
図5
図6