(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059598
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】フレーム構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20230420BHJP
B23K 9/00 20060101ALN20230420BHJP
【FI】
B23K31/00 F
B23K31/00 A
B23K9/00 501C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169696
(22)【出願日】2021-10-15
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】山川 大貴
(72)【発明者】
【氏名】中原 拓巳
(72)【発明者】
【氏名】橋本 成一
(72)【発明者】
【氏名】今村 美速
【テーマコード(参考)】
4E081
【Fターム(参考)】
4E081YC01
(57)【要約】
【課題】曲げ部を有する中空部材に複数の接続用部材を溶接したフレーム構造体を、熱歪による精度低下を抑えて高精度に製造することが可能なフレーム構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】湾曲した長尺のフレーム部材13に複数のブラケット15が長手方向に沿って溶接されたフレーム構造体11の製造方法であって、フレーム部材13にブラケット15を溶接する溶接工程と、溶接工程後にフレーム部材13の端部13A,13Bから冷却媒体である空気CAを内部へ流入させる冷却工程と、を含み、溶接工程及び冷却工程を、ブラケット15の数だけ繰り返し行う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲した長尺の中空部材に複数の接続用部材が長手方向に沿って溶接されたフレーム構造体の製造方法であって、
前記中空部材に前記接続用部材を溶接する溶接工程と、
前記溶接工程後に前記中空部材の端部から冷却媒体を内部へ流入させる冷却工程と、
を含み、
前記溶接工程及び前記冷却工程を、前記接続用部材の数だけ繰り返し行う、
フレーム構造体の製造方法。
【請求項2】
前記冷却工程において、前記冷却媒体が前記接続用部材の溶接部における曲げ部に当たるように前記冷却媒体を流入させる、
請求項1に記載のフレーム構造体の製造方法。
【請求項3】
前記冷却工程において、前記中空部材の一方の端部または他方の端部から前記冷却媒体を流入させる、
請求項1または請求項2に記載のフレーム構造体の製造方法。
【請求項4】
前記冷却工程において、前記中空部材における前記接続用部材の溶接部に対して遠い端部から前記冷却媒体を流入させる、
請求項3に記載のフレーム構造体の製造方法。
【請求項5】
前記冷却工程において、前記接続用部材の溶接部及び少なくとも前記溶接部を含む領域における前記溶接部とその周囲を、70℃以下に冷却させる、
請求項1~4のいずれか一項に記載のフレーム構造体の製造方法。
【請求項6】
前記冷却工程において、前記中空部材の内部へ前記冷却媒体として空気を流入させる、
請求項1~5のいずれか一項に記載のフレーム構造体の製造方法。
【請求項7】
前記溶接工程において、
前記中空部材の長手方向の途中に前記接続用部材を仮止めし、
前記中空部材の長手方向の中間部に曲げ荷重を負荷して前記中空部材を弾性変形させた状態で、前記接続用部材を前記中空部材に本溶接する、
請求項1~6のいずれか一項に記載のフレーム構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレーム構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両又は各種の産業機械等に使用されるフレーム構造体は、フレーム部材の一部に、他の部材又は車両等の本体部に接続するブラケット等の接続用部材を設けることが多い。接続用部材は、フレーム部材の直線状の部位に設けられるだけでなく、フレーム部材に曲げ加工が施されている場合には、その曲げ部又は曲げ部の近傍に設けられる場合もある。接続用部材は、フレーム構造体の組み付け先との間で高精度に接合するため、接続相手側の部材と相対的に一定の幾何学的な位置精度を有するようにフレーム部材へ取り付ける必要がある。
このような接続用部材を取り付ける手段として、フレーム部材にボルト等の機械的締結手段により取り付ける方法がある(特許文献1)。この方法によれば、取り付け孔の形状を、例えば長孔等にすることで、接続用部材の取り付け位置を調整でき、接続用部材の取り付け部の精度の調整が容易となる。
しかし、この方法では孔加工等の工数が増える上にボルト等を使用するため、接続用部材の取り付け部分の部品点数が多くなり、フレーム構造体全体の重量が増加する欠点がある。
これに対して、接続用部材を溶接によってフレーム部材に取り付ける技術がある(特許文献2、3)。これらの技術によれば、部品点数を増加させずにブラケットをフレーム部材に接合できるため、フレーム構造体の重量の増加が抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第2588698号公報
【特許文献2】特開2005-066668号公報
【特許文献3】特開2001-239978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、溶接による取り付けは、溶接時の熱歪により接続用部材の接合面が変形するため、接合相手側の部材との幾何学的な位置精度の確保が困難となる。これに加えて、例えば曲げ部を有するフレーム部材においては、一般的にプレスやベンダー(押し曲げ、引き曲げ、マンドレル曲げ加工機)等により曲げ加工が行われるが、曲げ加工の寸法精度を得るための矯正が必要となる。この矯正による変形量は大きくなりがちで、部材のスプリングバックも生じるため、フレーム部材自体の精度を所定の範囲に収めることは難しい。
特に、曲げ部を有するフレーム部材に複数の接続用部材を溶接する場合では、溶接による熱歪が累積し、設計形状に近い高精度な構造体を製造することが困難であった。
【0005】
そこで本発明は、曲げ部を有する中空部材に複数の接続用部材を溶接したフレーム構造体を、熱歪による精度低下を抑えて高精度に製造することが可能なフレーム構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記の構成からなる。
湾曲した長尺の中空部材に複数の接続用部材が長手方向に沿って溶接されたフレーム構造体の製造方法であって、
前記中空部材に前記接続用部材を溶接する溶接工程と、
前記溶接工程後に前記中空部材の端部から冷却媒体を内部へ流入させる冷却工程と、
を含み、
前記溶接工程及び前記冷却工程を、前記接続用部材の数だけ繰り返し行う、
フレーム構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、曲げ部を有する中空部材に複数の接続用部材を溶接したフレーム構造体を、熱歪による精度低下を抑えて高精度に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、フレーム構造体を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すII-II線で切断したフレーム部材の断面図である。
【
図3】
図3は、フレーム構造体の製造装置の全体構成図である。
【
図4】
図4は、フレーム曲げ部の構成と、置き台にブラケットを配置する様子を示す説明図である。
【
図5A】
図5Aは、ベース上板の初期状態を示す製造装置の正面図である。
【
図5B】
図5Bは、ベース上板をベース下板側へ下げた状態を示す製造装置の正面図である。
【
図6A】
図6Aは、フレーム構造体の製造工程を示す製造装置の正面図である。
【
図6B】
図6Bは、フレーム構造体の製造工程を示す製造装置の正面図である。
【
図6C】
図6Cは、フレーム構造体の製造工程を示す製造装置の正面図である。
【
図6D】
図6Dは、フレーム構造体の製造工程を示す製造装置の正面図である。
【
図7A】
図7Aは、フレーム部材の端部から流入させた空気の流れを示す概略断面図である。
【
図7B】
図7Bは、フレーム部材の端部から流入させた空気の流れを示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
ここでは一例として車両のラダーフレーム、ルーフフレーム等に用いるフレーム構造体を説明するが、フレーム構造体の適用対象、形状はこれに限らない。
<フレーム構造体>
図1は、フレーム構造体11を示す斜視図である。
図2は、
図1に示すII-II線で切断したフレーム部材の断面図である。
フレーム構造体11は、長尺状のフレーム部材13と、接続用部材であるブラケット15とを有する。フレーム構造体11は、複数のブラケット15を有しており、これらのブラケット15は、フレーム部材13の長手方向に沿って間隔をあけて設けられている。
【0010】
フレーム部材13は、例えば軸方向に垂直な断面が四角形の中空押出部材であって、全体が弓状に湾曲している。フレーム部材13の断面視において、一方の対角線方向は、フレーム部材13の湾曲方向と略一致している。フレーム部材13は、上記以外にも、丸パイプ、多角形パイプであってもよい。外側にリブのような突起部を有する形状であってもよい。また、内側に突起部を有する形状であってもよい。このフレーム部材13は、プレス成形、又はベンダーなどの任意の成形機によって加工された曲げ部材である。
【0011】
フレーム部材13は、アルミニウム合金が軽量化の観点から好ましいが、より強度の高い軟鋼、高張力鋼等の鋼材であってもよい。アルミニウム合金としては、6000系、7000系等の熱処理合金、又は5000系等の非熱処理合金等、各種のアルミニウム合金を採用できる。熱処理型のアルミニウム合金は、T1,T5調質されたものが好ましく、また、曲げ部近傍を局部的に軟化させたものでもよい。
【0012】
ブラケット15は、フレーム部材13の長手方向の中間部にフレーム部材13と一体に接続される。ブラケット15は板材、又は板材を折り曲げ加工した形状であり、その一辺がフレーム部材13に溶接される。ブラケット15は、フレーム部材13と溶接可能な同種の材料であることが好ましく、例えば、フレーム部材13がアルミニウム合金であればブラケット15もアルミニウム合金とする。
【0013】
<フレーム構造体の製造装置>
図3は、フレーム構造体11の製造装置の全体構成図である。以下の説明では、同一の部材、同一の部位に対して同一の符号を付与することで、その説明を省略又は簡単化する。
フレーム構造体11の製造装置(以下、製造装置ともいう。)100は、フレーム部材13の一方の端部13Aを支持する支持部17と、他方の端部13Bを支持する支持部18と、フレーム部材13の長手方向の途中でブラケット15を対向させて配置する複数の置き台20A,20B,20C,20Dと、フレーム曲げ部21と、溶接部23とを備える。
【0014】
支持部17は、フレーム部材13を支持する把持部17aと、把持部17aが一端部に固定された脚部17bとを有する。支持部18も同様に、把持部18aと脚部18bとを有する。
置き台20Aは、ブラケット15を載置する固定部19aと、固定部19aを支持する脚部19bとを有し、ブラケット15をフレーム部材13に位置決めする。置き台20B,20C,20Dも置き台20Aと同様に、固定部19aを支持する脚部19bとを有し、ブラケット15をフレーム部材13に位置決めする。
フレーム曲げ部21は、フレーム部材13の長手方向の中間部に配置され、フレーム部材13に
図3の上下方向に曲げ荷重を負荷する。これにより、フレーム部材13の端部13A,13Bと中間部との3点曲げによって、フレーム部材13の中間部に上下方向の弾性変形が付与される。
【0015】
溶接部23は、ブラケット15をフレーム部材13に溶接する。溶接部23は、MIG、TIG等の溶融溶接を溶接トーチ24の先端で行い、溶接時における溶接速度、溶接電流、溶接電圧等の各種溶接条件が調整可能となっている。
【0016】
製造装置100は、冷却ノズル31,33と、エア供給部35とを備える。冷却ノズル31は、フレーム部材13の一方の端部13Aの対向位置に配置される。冷却ノズル33は、フレーム部材13の他方の端部13Bの対向位置に配置される。エア供給部35は、冷却ノズル31,33へ冷却媒体である空気を供給し、各冷却ノズル31,33から空気を噴出させる。冷却ノズル31から噴出される空気は、フレーム部材13の一方の端部13Aからフレーム部材13の内部へ流入される。同様に、冷却ノズル33から噴出される空気は、フレーム部材13の他方の端部13Bからフレーム部材13の内部へ流入される。なお、冷却ノズル31,33からフレーム部材13の内部へ送り込む空気には、必要に応じて二酸化窒素(NO2)、二酸化炭素(CO2)あるいはヘリウム(He)等の不活性ガスを適量含ませてもよい。また、冷却媒体として、水等の液体を用いてもよいが、空気を用いれば乾燥等の後処理を不要にできる。
【0017】
また、製造装置100は、ベース下板25と、ベース上板27と、昇降駆動部29とを備える。ベース上板27は、ベース下板25の上側に略平行に配置される。昇降駆動部29は、ベース上板27を、ベース下板25の板面と平行にしたまま昇降移動させる。ベース下板25には、支持部17,18の脚部17b,18bとフレーム曲げ部21の脚部21aとが固定される。ベース上板27には、置き台20A,20B,20C,20Dを支持する脚部19bが固定され、脚部17b,18bをそれぞれ貫通する開口部(図示略)が形成されている。
【0018】
製造装置100は、制御部37を有している。制御部37は、溶接部23、エア供給部35及び昇降駆動部29に接続されており、溶接部23、エア供給部35及び昇降駆動部29は、制御部37によって制御される。
【0019】
図4は、フレーム曲げ部21の構成と、置き台20Aにブラケット15を配置する様子を示す説明図である。
フレーム曲げ部21は、フレーム部材13を把持する把持部43と、把持部43を昇降自在に支持する支持機構45と、把持部43を昇降駆動する駆動部47とを備える。
把持部43は、下側支持部43aと上側支持部43bとを有し、下側支持部43aと上側支持部43bとの間にフレーム部材13を挟み込む。このとき、把持部43は、フレーム部材13の一方の対角線方向に挟み込む。そして、ボルト等の締結部材によって下側支持部43aと上側支持部43bとを締結することで、フレーム部材13が把持部43に固定される。把持部43がフレーム部材13の対角方向を挟み込むことで、フレーム部材13の曲げ荷重負荷時に、フレーム部材13の一部に面押しが生じるのを回避し、局所的な断面変形を防止できる。
【0020】
支持機構45は、脚部21aに固定された固定部45aとスライド部45bとを有し、スライド部45bに把持部43が固定される。駆動部47は、スライド部45bを昇降駆動して、把持部43を介してフレーム部材13に下側への引張り力又は上側への押し上げ力を付与する。なお、フレーム部材13の両端部を支持する支持部17,18は、把持部43と同様の把持機構を有する把持部17a,18aを備える。把持部17a,18aは、フレーム部材13をその一方の対角線方向に挟み込んで固定している。
【0021】
置き台20Aは、その脚部19bがベース上板27に立設され、脚部19bの上端に設けた固定部19aの上面にブラケット15が載置される。置き台20Aには、一対のピン49が固定部19aの上面から突出して設けられ、ブラケット15には、ピン49に対応した開口孔15aが形成されている。一対のピン49は、支持部17,18との位置関係が所定の基準位置となるように、置き台20Aに設けられている。
【0022】
ブラケット15は、それぞれの開口孔15aにピン49を挿入して固定部19aの上面に載置される。開口孔15aから突出したピン49にはクランプ51が装着される。クランプ51の装着によって、ブラケット15は、固定部19aに位置決めされて固定される。
【0023】
なお、置き台20B,20C,20Dは、置き台20Aと同様の構成であるので、説明を省略する。
【0024】
図5Aは、ベース上板27の初期状態を示す製造装置100の正面図である。
図5Bは、ベース上板27をベース下板25側へ下げた状態を示す製造装置100の正面図である。
図5Aに示すように、昇降駆動部29は、ベース上板27を昇降駆動して、ベース上板27をベース下板25から離反させる。上記したブラケット15の基準位置は、昇降駆動部29によりベース上板27を上昇駆動させることで調整される。ブラケット15は、この状態で置き台20A,20B,20C,20Dに固定されてフレーム部材13に対して位置決めされる。そして、溶接部23は、フレーム部材13に対して位置決めされたブラケット15をフレーム部材13に溶接するように駆動される。
【0025】
図5Bに示すように、昇降駆動部29がベース上板27をベース下板25に向けて下降させると、ブラケット15の固定が解除される。つまり、置き台20A,20B,20C,20Dがベース上板27と一体に下降すると、フレーム部材13が支持部17,18に固定されているため、ブラケット15がフレーム部材13側に残り、ブラケット15と置き台20A,20B,20C,20Dとが離別する。
【0026】
<ブラケットの溶接>
上記構成の製造装置100によってブラケット15をフレーム部材13に溶接させるには、昇降駆動部29によってベース上板27を上昇駆動させることで、置き台20A,20B,20C,20Dに固定されたブラケット15を基準位置に配置させる。この状態において、溶接部23を駆動させ、溶接トーチ24によってブラケット15をフレーム部材13に溶接する。このとき、フレーム部材13とブラケット15とのギャップ量を調整することにより、溶接熱量を効率よく制御できる。また、フレーム部材13とブラケット15とのギャップによって熱歪みによる変位が吸収されて、高精度な形状精度が得られる。
【0027】
ブラケット15は、全長にわたって連続的にフレーム部材13へ溶接してもよいが、ブラケット15の全長を連続溶接せずに断続的に溶接してもよい。断続的に溶接することにより、一度の溶接における溶接長を短くして入熱量を抑えることができ、十分な溶接強度を確保しつつ熱歪を効率的に抑えることができる。なお、短い溶接を断続的に行い、最終的にブラケット15を全長にわたってフレーム部材13に溶接してもよい。
【0028】
また、製造装置100によってブラケット15をフレーム部材13に溶接させる際に、フレーム曲げ部21でフレーム部材13に曲げ荷重を付与してもよい。具体的には、置き台20A,20B,20C,20Dに固定されて基準位置に配置されたブラケット15を、例えば、部分的にフレーム部材13に溶接して仮止めする。その後、昇降駆動部29によってベース上板27をベース下板25に向けて下降させ、仮止め後のブラケット15の固定を解除させる。さらに、フレーム曲げ部21によってフレーム部材13の長手方向の中間部に曲げ荷重を負荷してフレーム部材13を弾性変形させた状態で、ブラケット15をフレーム部材13に本溶接する。このように、ブラケット15を仮止めしたフレーム部材13を弾性変形させた状態で本溶接することで、本溶接時の熱歪みがフレーム部材13に残存することを抑制でき、フレーム構造体11を設計形状に近づけることができる。
【0029】
<製造手順>
上記構成の製造装置100により、フレーム構造体11を製造する手順を説明する。
図6A~
図6Dは、フレーム構造体11の製造工程を示す製造装置100の正面図であり、
図7A及び
図7Bは、フレーム部材13の端部から流入させた空気CAの流れを示す概略断面図である。なお、本例では、置き台20A,20B,20C,20Dに支持したブラケット15を順にフレーム部材13へ溶接する場合を例示して説明する。
【0030】
(置き台20Aのブラケット15の接合)
図6Aに示すように、溶接部23を駆動させ、置き台20Aに支持させたブラケット15を溶接トーチ24によってフレーム部材13に溶接する(溶接工程)。
【0031】
置き台20Aのブラケット15のフレーム部材13への溶接直後、エア供給部35を駆動させてフレーム部材13の内部に冷却媒体である空気を流入させる(冷却工程)。
【0032】
このとき、ブラケット15の溶接部WAにおけるフレーム部材13の曲げ部BAに空気が当たるように、フレーム部材13の内部に空気を流入させる。具体的には、ブラケット15の溶接部WAから遠いフレーム部材13の一方の端部13A側に配置させた冷却ノズル31から空気を噴出させ、フレーム部材13の内部へ向かって(
図6Aにおける矢印A方向)空気を流入させる。すると、
図7Aに示すように、フレーム部材13の一方の端部13Aから流入させた空気CAは、フレーム部材13の内部をフレーム部材13に沿って流れ、フレーム部材13の他方の端部13Bから流出する。このとき、空気CAは、溶接部WAにおけるフレーム部材13の曲げ部BAに当たりながら他方の端部13Bへ流れる。これにより、ブラケット15の溶接部WA及び溶接部WAを含む近傍の領域が空気CAによって効果的に冷却される。そして、溶接によって加熱されたフレーム部材13の溶接部とその周囲を検温し、ブラケット15の溶接部WA及び溶接部WAを含む領域におけるフレーム部材13の溶接部とその周囲を、70℃以下になるまで冷却させる。検温の手段としては、例えば接触式温度計による局部的な検温、非接触温度計による検温、温度センサーやサーモグラフィでの全体的な検温等があげられる。
【0033】
(置き台20Bのブラケット15の接合)
置き台20Aに支持させたブラケット15をフレーム部材13に溶接して冷却したら、
図6Bに示すように、溶接部23を駆動させ、置き台20Bに支持させたブラケット15を溶接トーチ24によってフレーム部材13に溶接する(溶接工程)。
【0034】
置き台20Bのブラケット15のフレーム部材13への溶接直後、エア供給部35を駆動させ、フレーム部材13の内部に冷却媒体である空気を流入させる(冷却工程)。
【0035】
このとき、ブラケット15の溶接部WBにおけるフレーム部材13の曲げ部BBに空気が当たるように、フレーム部材13の内部に空気を流入させる。具体的には、ブラケット15の溶接部WBから遠いフレーム部材13の一方の端部13A側に配置させた冷却ノズル31から空気を噴出させ、フレーム部材13の内部へ向かって(
図6Bにおける矢印A方向)空気を流入させる。この場合も、
図7Aに示すように、フレーム部材13の一方の端部13Aから流入させた空気CAは、フレーム部材13の内部をフレーム部材13に沿って流れ、溶接部WBにおけるフレーム部材13の曲げ部BBに当たりながら他方の端部13Bへ流れる。これにより、ブラケット15の溶接部WB及び溶接部WBを含む近傍の領域が空気CAによって効果的に冷却される。そして、溶接によって加熱されたフレーム部材13の溶接部とその周囲を検温し、ブラケット15の溶接部WB及び溶接部WBを含む領域におけるフレーム部材13の溶接部とその周囲を、70℃以下になるまで冷却させる。
【0036】
(置き台20Cのブラケット15の接合)
置き台20Bに支持させたブラケット15をフレーム部材13に溶接して冷却したら、
図6Cに示すように、溶接部23を駆動させ、置き台20Cに支持させたブラケット15を溶接トーチ24によってフレーム部材13に溶接する(溶接工程)。
【0037】
置き台20Cのブラケット15のフレーム部材13への溶接直後、エア供給部35を駆動させ、フレーム部材13の内部に冷却媒体である空気を流入させる(冷却工程)。
【0038】
このとき、ブラケット15の溶接部WCにおけるフレーム部材13の曲げ部BCに空気が当たるように、フレーム部材13の内部に空気を流入させる。具体的には、ブラケット15の溶接部WCから遠いフレーム部材13の他方の端部13B側に配置させた冷却ノズル33から空気を噴出させ、フレーム部材13の内部へ向かって(
図6Cにおける矢印B方向)空気を流入させる。すると、
図7Bに示すように、フレーム部材13の他方の端部13Bから流入させた空気CAは、フレーム部材13の内部をフレーム部材13に沿って流れ、フレーム部材13の一方の端部13Aから流出する。このとき、空気CAは、溶接部WCにおけるフレーム部材13の曲げ部BCに当たりながら一方の端部13Aへ流れる。これにより、ブラケット15の溶接部WC及び溶接部WCを含む近傍の領域が空気CAによって効果的に冷却される。そして、溶接によって加熱されたフレーム部材13の溶接部とその周囲を検温し、ブラケット15の溶接部WC及び溶接部WCを含む領域におけるフレーム部材13の溶接部とその周囲を、70℃以下になるまで冷却させる。
【0039】
(置き台20Dのブラケット15の接合)
置き台20Cに支持させたブラケット15をフレーム部材13に溶接して冷却したら、
図6Dに示すように、溶接部23を駆動させ、置き台20Dに支持させたブラケット15を溶接トーチ24によってフレーム部材13に溶接する(溶接工程)。
【0040】
置き台20Dのブラケット15のフレーム部材13への溶接直後、エア供給部35を駆動させ、フレーム部材13の内部に冷却媒体である空気を流入させる(冷却工程)。
【0041】
このとき、ブラケット15の溶接部WDにおけるフレーム部材13の曲げ部BDに空気が当たるように、フレーム部材13の内部に空気を流入させる。具体的には、ブラケット15の溶接部WDから遠いフレーム部材13の他方の端部13B側に配置させた冷却ノズル33から空気を噴出させ、フレーム部材13の内部へ向かって(
図6Dにおける矢印B方向)空気を流入させる。この場合も、
図7Bに示すように、フレーム部材13の他方の端部13Bから流入させた空気CAは、フレーム部材13の内部をフレーム部材13に沿って流れ、溶接部WDにおけるフレーム部材13の曲げ部BDに当たりながら一方の端部13Aへ流れる。これにより、ブラケット15の溶接部WD及び溶接部WDを含む近傍の領域が空気CAによって効果的に冷却される。そして、溶接によって加熱されたフレーム部材13の溶接部とその周囲を検温し、ブラケット15の溶接部WD及び溶接部WDを含む領域におけるフレーム部材13の溶接部とその周囲を、70℃以下になるまで冷却させる。
【0042】
上記のように、フレーム部材13へのブラケット15の溶接及びフレーム部材13の内部への空気CAの流入による冷却を繰り返すことにより、フレーム部材13の長手方向に沿って複数のブラケット15が溶接されたフレーム構造体11が製造される。
【0043】
ところで、溶接時における冷却は、一般的に、溶接ビードなどの溶接部に空気などの冷却媒体を当てたり、溶接部に銅や真鍮などの冷却部材を当接させたりして直接冷却することが行われる。しかし、この場合、溶接部への冷却媒体の当て方や冷却部材の当接の仕方等により温度制御が難しくなる場合がある。
【0044】
これに対して、本製造方法では、フレーム部材13へのブラケット15の溶接及びフレーム部材13の内部への空気CAの流入による冷却を繰り返し、フレーム部材13の長手方向に沿って複数のブラケット15が溶接されたフレーム構造体11を製造する。このように、ブラケット15を溶接するたびにフレーム部材13の内部に空気CAを流して溶接部WA,WB,WC,WDを冷却して熱歪を制御するので、溶接部WA,WB,WC,WDの抜熱を安定的に行うことができる。これにより、熱歪の累積が抑えられ、熱歪による変形を矯正するための矯正量を抑制することができ、設計形状に近い形状のフレーム構造体11を製造することができる。また、ブラケット15を溶接するたびに冷却することにより、次のブラケット15の溶接工程に迅速に移行できる。これにより、溶接のパス間の時間を短縮でき、生産性を向上できる。
【0045】
また、冷却工程において、空気CAがブラケット15の溶接部WA,WB,WC,WDにおける曲げ部BA,BB,BC,BDに当たるように空気CAを流入させるので、ブラケット15の溶接部WA,WB,WC,WD及びその近傍の領域を空気CAによって効果的に冷却させることができる。
【0046】
しかも、フレーム部材13の一方の端部13Aまたは他方の端部13Bから空気CAを流入させることにより、フレーム部材13の内部における空気CAの流れを一方向にして円滑にでき、冷却効率を高めて熱歪をより精度よく制御することができる。
【0047】
また、フレーム部材13におけるブラケット15の溶接部WA,WB,WC,WDから遠いいずれかの端部13A,13Bから空気CAを流入させる。これにより、流入させた空気CAが溶接部WA,WB,WC,WDに到達するまでに空気CAの乱流が促進される。したがって、溶接部WA,WB,WC,WD及びその近傍の領域における空気CAによる熱伝達率が高められ、冷却効率が向上される。
【0048】
また、冷却工程において、フレーム部材13の溶接部とその周囲を70℃以下とすることにより、熱歪の大きい材料を溶接する際の熱歪をより効率的に抑制することができる。特に、入熱量の大きいMIG溶接等の熱歪を効果的に抑制できる。
【0049】
なお、置き台20A,20B,20C,20Dに支持したブラケット15をフレーム部材13へ溶接する順番は上記の例に限らない。
【0050】
ここで、本製造方法によって、フレーム部材13に複数のブラケット15を溶接してフレーム構造体11を作製し、溶接による熱影響を検証した。
【0051】
フレーム部材13としては、ビッカース硬さ60HV、引張強さ155N/mm2のT1調質した熱処理型アルミニウム合金からなる押出材を用いた。このフレーム部材13に複数のブラケット15を溶接し、その後、190℃で3時間のテンパー処理(低温焼き鈍し)を行ってT5調質とした。
【0052】
その結果、ブラケット15の溶接後におけるビッカース硬さは60HV程度(溶接部から6mm~7mmの位置)であり、溶接前とほとんど変わらなかった。さらに、テンパー処理によってT5調質とした後は、ビッカース硬さが85HV程度(溶接部から6mm~7mmの位置)となり、熱影響軟化部が存在しない状態となった。しかも、本製造方法によって作製したフレーム構造体11は、テンパー処理時の温度レベルでは寸法精度崩れが発生しないことも確認された。
【0053】
このように、本製造方法によれば、フレーム部材13へのブラケット15の溶接直後に、フレーム部材13の内部に空気CAを流入させ、フレーム部材13の内部から強制冷却することにより、溶接による熱影響部が軟化することなく若干硬くなったと考えられる。
【0054】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0055】
例えば、接続用部材としてブラケットを例示して説明したが、ブラケットに限らず、他のフレーム等の構造用部材、フレーム部材に接合する部品、機能部材等であってもよい。
【0056】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 湾曲した長尺の中空部材に複数の接続用部材が長手方向に沿って溶接されたフレーム構造体の製造方法であって、
前記中空部材に前記接続用部材を溶接する溶接工程と、
前記溶接工程後に前記中空部材の端部から冷却媒体を内部へ流入させる冷却工程と、
を含み、
前記溶接工程及び前記冷却工程を、前記接続用部材の数だけ繰り返し行う、フレーム構造体の製造方法。
このフレーム構造体の製造方法によれば、中空部材への接続用部材の溶接及び中空部材の内部への冷却媒体の流入による冷却を繰り返し、中空部材の長手方向に沿って複数の接続用部材が溶接されたフレーム構造体を製造する。このように、接続用部材を溶接するたびに中空部材の内部に冷却媒体を流して溶接部を冷却して熱歪を制御するので、溶接部の抜熱を安定的に行うことができる。これにより、熱歪の累積が抑えられ、熱歪による変形を矯正するための矯正量を抑制することができ、設計形状に近い形状のフレーム構造体を製造することができる。また、接続用部材を溶接するたびに冷却することにより、次の接続用部材の溶接工程に迅速に移行できる。これにより、溶接のパス間の時間を短縮でき、生産性を向上できる。
【0057】
(2) 前記冷却工程において、前記冷却媒体が前記接続用部材の溶接部における曲げ部に当たるように前記冷却媒体を流入させる、(1)に記載のフレーム構造体の製造方法。
このフレーム構造体の製造方法によれば、冷却媒体が接続用部材の溶接部における曲げ部に当たるように冷却媒体を流入させることにより、接続用部材の溶接部及び少なくとも溶接部を含む領域を冷却媒体によって効果的に冷却させることができる。
【0058】
(3) 前記冷却工程において、前記中空部材の一方の端部または他方の端部から前記冷却媒体を流入させる、(1)または(2)に記載のフレーム構造体の製造方法。
このフレーム構造体の製造方法によれば、中空部材の一方の端部または他方の端部から冷却媒体を流入させることにより、中空部材の内部における冷却媒体の流れを一方向にして円滑にでき、冷却効率を高めて熱歪をより精度よく制御することができる。
【0059】
(4) 前記冷却工程において、前記中空部材における前記接続用部材の溶接部に対して遠い端部から前記冷却媒体を流入させる、(3)に記載のフレーム構造体の製造方法。
このフレーム構造体の製造方法によれば、中空部材における接続用部材の溶接部から遠い端部から冷却媒体を流入させることにより、流入させた冷却媒体が溶接部に到達するまでに層流から乱流に遷移する。これにより、溶接部及び少なくとも溶接部を含む領域における冷却媒体による熱伝達率が高められ、冷却効率が向上される。
【0060】
(5) 前記冷却工程において、前記接続用部材の溶接部及び少なくとも前記溶接部を含む領域における前記溶接部とその周囲を、70℃以下に冷却させる、(1)~(4)のいずれか一つに記載のフレーム構造体の製造方法。
このフレーム構造体の製造方法によれば、接続用部材の溶接部及び少なくとも溶接部を含む領域における溶接部とその周囲を70℃以下とすることにより、熱歪の大きい材料を溶接する際の熱歪をより効率的に抑制することができる。特に、入熱量の大きいMIG溶接等の熱歪を効果的に抑制できる。
【0061】
(6) 前記冷却工程において、前記中空部材の内部へ前記冷却媒体として空気を流入させる、(1)~(5)のいずれか一つに記載のフレーム構造体の製造方法。
このフレーム構造体の製造方法によれば、冷却媒体として空気を用いるので、安価に冷却を行うことができ、しかも、液体等の冷却媒体を用いる場合と比べ、乾燥等の後処理が不要で生産効率が高くなる。
【0062】
(7) 前記溶接工程において、
前記中空部材の長手方向の途中に前記接続用部材を仮止めし、
前記中空部材の長手方向の中間部に曲げ荷重を負荷して前記中空部材を弾性変形させた状態で、前記接続用部材を前記中空部材に本溶接する、(1)~(6)のいずれか一つに記載のフレーム構造体の製造方法。
このフレーム構造体の製造方法によれば、接続用部材を仮止めした中空部材を弾性変形させた状態で本溶接することで、本溶接時の熱歪みが中空部材に残存することを抑制でき、フレーム構造体をより設計形状に近づけることができる。
【符号の説明】
【0063】
11 フレーム構造体
13 フレーム部材(中空部材)
13A,13B 端部
15 ブラケット(接続用部材)
BA,BB,BC,BD 曲げ部
CA 空気(冷却媒体)
WA,WB,WC,WD 溶接部