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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059603
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】結晶化積層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10B 63/10 20230101AFI20230420BHJP
   H10N 70/00 20230101ALI20230420BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20230420BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20230420BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
H01L27/105 449
H01L45/00 A
H01L29/06 601S
H01L21/365
H01L21/363
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021169702
(22)【出願日】2021-10-15
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100125298
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 伸
(72)【発明者】
【氏名】富永 淳二
(72)【発明者】
【氏名】宮田 典幸
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 周太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮口 有典
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 一也
(72)【発明者】
【氏名】神保 武人
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和正
(72)【発明者】
【氏名】増田 健
【テーマコード(参考)】
5F045
5F083
5F103
【Fターム(参考)】
5F045AA03
5F045AA05
5F045AA15
5F045AA19
5F045AB40
5F045AD03
5F045AD04
5F045AF03
5F045AF09
5F045BB08
5F045CA00
5F045DA53
5F045DA54
5F045HA16
5F083FZ10
5F083GA27
5F083JA39
5F083JA40
5F083JA58
5F083JA60
5F083PR21
5F083PR22
5F083PR25
5F103AA08
5F103BB22
5F103DD30
5F103HH03
5F103HH04
5F103LL16
5F103NN01
5F103NN04
5F103NN05
5F103PP03
5F103RR01
(57)【要約】
【課題】製造効率に優れた結晶化積層構造体の製造方法の提供。
【解決手段】本発明は、室温を含む100℃未満の温度下で実施され、厚みが2nm~10nmであるSbTe層5と厚みが0nmを超え4nm以下であるGeTe層6とが積層されるとともにGeTe層6に微量添加元素(S,Se)が0.05at%~10.0at%の含有量で含まれる積層構造体7を、結晶化時のSbTe層5及びGeTe層6に対し共通した結晶軸を付与する配向制御層4上に形成する積層構造体形成工程と、積層構造体7を100℃以上170℃未満の第1結晶化温度で加熱保持し、SbTe層5を結晶化させるSbTe層結晶化工程と、SbTe層5が結晶化された積層構造体7を170℃以上400℃以下の第2結晶化温度で加熱保持し、GeTe層6を結晶化させるGeTe層結晶化工程と、を含むことを特徴とする。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温を含む100℃未満の温度下で実施され、SbTeを主成分とし厚みが2nm~10nmであるSbTe層と、GeTeを主成分とし厚みが0nmを超え4nm以下であるGeTe層とが積層されるとともに前記GeTe層にS及びSeの少なくともいずれかの微量添加元素が0.05at%~10.0at%の含有量で含まれる積層構造体を、結晶化時の前記SbTe層及び前記GeTe層に対し共通した結晶軸を付与する配向制御層上に形成する積層構造体形成工程と、
前記積層構造体を100℃以上170℃未満の第1結晶化温度で加熱保持し、前記SbTe層を結晶化させるSbTe層結晶化工程と、
前記SbTe層が結晶化された前記積層構造体を170℃以上400℃以下の第2結晶化温度で加熱保持し、前記GeTe層を結晶化させるGeTe層結晶化工程と、
を含むことを特徴とする結晶化積層構造体の製造方法。
【請求項2】
微量添加元素がSである請求項1に記載の結晶化積層構造体の製造方法。
【請求項3】
積層構造体形成工程が、GeTeを主成分とし厚みが3nm~10nmであるGeTe下地層及びSbTeを主成分とし厚みが3nm~10nmであるSbTe下地層のいずれかの下地層を配向制御層とし、前記下地層が前記GeTe下地層であるときに前記下地層上にSbTe層とGeTe層とをこの順で積層し、前記下地層が前記SbTe下地層であるときに前記下地層上に前記GeTe層と前記SbTe層とをこの順で積層して積層構造体を形成する工程である請求項1から2のいずれかに記載の結晶化積層構造体の製造方法。
【請求項4】
積層構造体形成工程が室温下で非加熱状態の配向制御層上に積層構造体を形成する工程である請求項1から3のいずれかに記載の結晶化積層構造体の製造方法。
【請求項5】
SbTe層結晶化工程及びGeTe層結晶化工程が複数の積層構造体を対象として実施される請求項1から4のいずれかに記載の結晶化積層構造体の製造方法。
【請求項6】
SbTe層結晶化工程及びGeTe層結晶化工程の少なくともいずれかの工程が大気雰囲気下で実施される請求項1から5のいずれかに記載の結晶化積層構造体の製造方法。
【請求項7】
SbTe層結晶化工程が積層構造体の部分を加熱する工程及び前記積層構造体の全体を加熱する工程のいずれかの工程として実施され、かつ、GeTe層結晶化工程が前記SbTe層結晶化工程で加熱された前記積層構造体の領域の部分又は全体を含んで前記積層構造体を加熱する工程である請求項1から6のいずれかに記載の結晶化積層構造体の製造方法。
【請求項8】
更に、GeTe層結晶化工程後の積層構造体上にエピタキシャル成長層を形成するエピタキシャル成長層形成工程を含む請求項1から7のいずれかに記載の結晶化積層構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SbTe化合物層とGeTe化合物層とを積層、結晶化させた結晶化積層構造体を効率的に製造する結晶化積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SbTe化合物層とGeTe化合物層との積層構造体を結晶化させた超格子によりメモリ動作が可能な超格子型相変化メモリが知られている(特許文献1,2参照)。
【0003】
前記積層構造体としては、一般に真空成膜装置を使用して形成される。典型的には、スパッタリング装置を使用して形成される。例えば、組成がSbTeの化合物板と組成がGeTeの化合物板をターゲットとして用い、前記ターゲットにアルゴンガスを用いてプラズマを発生させ、アルゴンイオンを前記ターゲットの表面に衝突させてターゲット原子を弾き飛ばし、前記ターゲットに対向に設置された対向電極に置かれた基板上に飛散した前記ターゲット原子の堆積層を形成する。
このとき、前記基板の温度が低いと、前記堆積層がアモルファス状態となるため、前記積層構造体を結晶化させるため、予め前記基板をGeTe化合物とSbTe化合物との固有の結晶化温度の高い方の温度まで加熱し、この温度を保持したうえでスパッタリングが行われる。典型的には、前記GeTe化合物の結晶化温度が230℃で、前記SbTe化合物の結晶化温度が70℃付近にあることから、より高い方の温度である230℃に加熱された状態の前記基板上にSbTe化合物層とGeTe化合物層とを積層し、これら化合物層が結晶化された超格子構造を得る。
そのため、前記基板の加熱条件としては、200℃~250℃の間で設定されるのが大半であり、これ以外の温度では良質な前記超格子構造が得られにくい。
【0004】
また、前記積層構造体について、前記SbTe化合物層と前記GeTe化合物層との界面で界面拡散(界面混合)が発生しやすく、良好な界面が得られにくいことが報告されている(非特許文献1,2参照)。
前記界面では、前記SbTe化合物層及び前記GeTe化合物層とは別種のGeSbTe化合物層が形成され、固有の結晶化温度で結晶化する。この結晶化温度は、予想されるように前記GeTe化合物の結晶化温度と前記SbTe化合物の結晶化温度との間に存在し、前記GeSbTe化合物層がGeSbTeの組成で形成される場合、160℃付近に結晶化温度が現れる。また、GeSbTe結晶層が形成されると、前記SbTe化合物層と前記GeTe化合物層とによる前記超格子構造では見られない[200]や[220]などのX線回析ピークが確認される。
前記GeSbTe結晶層は、メモリ動作に関与しないことから、前記超格子型相変化メモリが機能喪失する原因となる。
【0005】
こうした問題に対し、本発明者らは、前記GeTe化合物層の主成分である第一のカルコゲン元素であるTeの他に、前記ターゲットに僅かな第二のカルコゲン元素(硫黄やセレン)を添加して前記積層構造体を形成することで、界面拡散(界面混合)が抑制された良質な前記超格子構造が作製できることを発見し、前記超格子型相変化メモリに対する機能面での解決を得た(特許文献3,非特許文献3参照)。前記GeTe化合物層に前記カルコゲン原子を添加すると、前記GeSbTe結晶層の形成が抑制される。
しかしながら、現実の製造の場面では、前記基板を200℃~250℃に加熱したうえで前記積層構造体を形成する前述の製造条件が大きな負荷となっており、更なる改善が期待される状況である。
即ち、この製造条件では、個々の前記超格子型相変化メモリの製造毎に次の工程が必要となる。先ず、前記基板をスパッタリング装置に入れ、前記基板を200℃~250℃に加熱したうえで前記温度を維持したままでスパッタリングによる前記積層構造体の構成層を結晶状態として成膜する必要がある。次に、前記基板に対する加熱を停止し、安全に取り出せる温度まで冷えるのを待って、前記積層構造体が形成された前記基板を前記スパッタリング装置から取り出す必要がある。
よって、こうした個々の前記超格子型相変化メモリの製造毎に発生する、低温の前記基板を200℃~250℃の高温まで昇温させるための昇温時間、温度が目的の昇温温度に安定するまでの待機時間及び安全に取り出すための冷却時間が、前記積層構造体の形成時間より長くなるため製造律速となり、大量の前記超格子型相変化メモリを連続的に製造する場合の製造時間が長時間化し、前記超格子型相変化メモリの効率的な製造が妨げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4635236号公報
【特許文献2】特許第6238495号公報
【特許文献3】国際公開第2020/012916号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R. Wang, V. Bragaglia, J. E. Boschker and R. Calarco,”Intermixing during Epitaxial Growth of van der Waals bonded Normal GeTe/Sb2Te3 Superlattices”, Cryst. Growth Des. 16, 3596-3601 (2016)
【非特許文献2】A. Lotnyk, I. Hilmi, U. Ross and B. Rauschenbach, “Van Der Waals interfacial bonding and intermixing in GeTe- Sb2Te3- based superlattices”, Nano Res. 11, 1676-1686 (2018).
【非特許文献3】J. Tominaga and H. Awano, “Intermixing suppression through the interface in GeTe/ Sb2Te3 superlattice”, Appl. Phys. Express 13, 075503 (2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、製造効率に優れた結晶化積層構造体の製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討を行い、次の知見を得た。
従来法で製造時間が長時間化する理由は、前記SbTe化合物層及び前記GeTe化合物層の各化合物層を前記温度範囲まで加熱し、温度を安定に保持した状態で結晶状態として成膜して行う積層構造体の成膜工程と、前記積層構造体を取り出すために室温まで温度を冷却する冷却工程とが、1つの前記真空成膜装置内で行う連続した工程であり、1つの前記結晶化積層構造体の形成を行って初めて、次の前記結晶化積層構造体の形成に進む製造シーケンスにある。
【0010】
今、前記結晶化積層構造体の製造プロセスを、結晶化温度未満の低温下で成膜だけを行う成膜プロセスと結晶化温度以上の高温下で結晶化だけを行う結晶化プロセスとの2つに分離して実施し、これらのプロセスを別装置を用いて同時並行で行うこととすれば、製造時間が一気に短縮化される。
即ち、1回目の前記成膜プロセス後、1回目の前記結晶化プロセスが行われるが、1回目の前記結晶化プロセスを行う最中に、別装置で2回目の前記成膜プロセスが進められることから、単純に1回目の前記結晶化プロセスの完了を待たない分だけ製造時間を短縮化することができる。
加えて、前記成膜プロセスと前記結晶化プロセスとを分離したプロセスとすると、前記結晶化プロセスを、1度につき、複数個の前記積層構造体を対象としたプロセスとすることができる。つまり、前記結晶化プロセスが複数個の前記積層構造体を対象としたバッチ処理となり、対象とした前記積層構造体の数で除した1個当たりの製造時間は、前記成膜プロセスと前記結晶化プロセスとを連続したプロセスで製造した1個の製造時間と比べて著しく短縮化される。
【0011】
しかしながら、このような分離プロセスを採用したときに、果たして、従来法で製造された前記結晶化積層構造体と同等の構造が得られるかどうかが問題となる。得られない場合、最終的に製造される前記超格子型相変化メモリが必要な機能を持たず、製造自体の意味を失うためである。
この点について、本発明者らは、前記分離プロセスを採用しても、従来法で製造された前記結晶化積層構造体と同等の構造が得られることの実証結果を得るとともに、こうした構造を得るための条件の解明にも成功した。
【0012】
具体的には、(1)前記成膜プロセスを非加熱状態の室温環境下で実施したとき、前記結晶化プロセスにおいて、従来法に準じて前記GeTe化合物層固有の結晶化温度と前記SbTe化合物層固有の結晶化温度とのうち、高い方の結晶化温度のみで加熱保持しても、従来法で製造された前記結晶化積層構造体と同等の構造が得られないが、前記GeTe化合物層と前記SbTe化合物層とのそれぞれの結晶化温度で2段階に分けて加熱保持すると、従来法で製造された前記結晶化積層構造体と同等の構造が得られること、(2)界面拡散を抑制するために前記GeTe化合物層に加えられる前記第二のカルコゲン元素は、前記GeTe化合物層固有の結晶化温度に影響を与え、固有の結晶化温度とは別の温度範囲に、従来法で製造された前記結晶化積層構造体と同等の構造を得るために必要な温度範囲が存在すること、(3)前記GeTe化合物層は、単層状態と積層状態とで結晶化温度が異なり、前記GeTe化合物層固有の結晶化温度とは別の温度範囲に、従来法で製造された前記結晶化積層構造体と同等の構造を得るために必要な温度範囲が存在することの知見を得た。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 室温を含む100℃未満の温度下で実施され、SbTeを主成分とし厚みが2nm~10nmであるSbTe層とGeTeを主成分とし厚みが0nmを超え4nm以下であるGeTe層とが積層されるとともに前記GeTe層にS及びSeの少なくともいずれかの微量添加元素が0.05at%~10.0at%の含有量で含まれる積層構造体を、結晶化時の前記SbTe層及び前記GeTe層に対し共通した結晶軸を付与する配向制御層上に形成する積層構造体形成工程と、前記積層構造体を100℃以上170℃未満の第1結晶化温度で加熱保持し、前記SbTe層を結晶化させるSbTe層結晶化工程と、前記SbTe層が結晶化された前記積層構造体を170℃以上400℃以下の第2結晶化温度で加熱保持し、前記GeTe層を結晶化させるGeTe層結晶化工程と、を含むことを特徴とする結晶化積層構造体の製造方法。
<2> 微量添加元素がSである前記<1>に記載の結晶化積層構造体の製造方法。
<3> 積層構造体形成工程が、GeTeを主成分とし厚みが3nm~10nmであるGeTe下地層及びSbTeを主成分とし厚みが3nm~10nmであるSbTe下地層のいずれかの下地層を配向制御層とし、前記下地層が前記GeTe下地層であるときに前記下地層上にSbTe層とGeTe層とをこの順で積層し、前記下地層が前記SbTe下地層であるときに前記下地層上に前記GeTe層と前記SbTe層とをこの順で積層して積層構造体を形成する工程である前記<1>から<2>のいずれかに記載の結晶化積層構造体の製造方法。
<4> 積層構造体形成工程が室温下で非加熱状態の配向制御層上に積層構造体を形成する工程である前記<1>から<3>のいずれかに記載の結晶化積層構造体の製造方法。
<5> SbTe層結晶化工程及びGeTe層結晶化工程が複数の積層構造体を対象として実施される前記<1>から<4>のいずれかに記載の結晶化積層構造体の製造方法。
<6> SbTe層結晶化工程及びGeTe層結晶化工程の少なくともいずれかの工程が大気雰囲気下で実施される前記<1>から<5>のいずれかに記載の結晶化積層構造体の製造方法。
<7> SbTe層結晶化工程が積層構造体の部分を加熱する工程及び前記積層構造体の全体を加熱する工程のいずれかの工程として実施され、かつ、GeTe層結晶化工程が前記SbTe層結晶化工程で加熱された前記積層構造体の領域の部分又は全体を含んで前記積層構造体を加熱する工程である前記<1>から<6>のいずれかに記載の結晶化積層構造体の製造方法。
<8> 更に、GeTe層結晶化工程後の積層構造体上にエピタキシャル成長層を形成するエピタキシャル成長層形成工程を含む前記<1>から<7>のいずれかに記載の結晶化積層構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、製造効率に優れた結晶化積層構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本製造方法により製造される結晶化積層構造体の説明図である。
図2】結晶化積層構造体の変形例を示す説明図である。
図3】GeTe層(Ge(45)Te(55-x)(x))におけるTe原子をS原子で置換した置換濃度と結晶化温度との関係を示す図である。
図4】参考例1に係る結晶化積層構造体に対するX線回析の測定結果を示す図である。
図5】実施例1において、SbTe層を結晶化させた段階でのX線回析の測定結果を示す図である。
図6】実施例1に係る結晶化積層構造体に対するX線回析の測定結果を示す図である。
図7】実施例1に係る結晶化積層構造体の高解像透過電子顕微鏡による断面観察像を示す図である。
図8】実施例2に係る結晶化積層構造体の高解像透過電子顕微鏡による断面観察像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(結晶化積層構造体の製造方法)
本発明の結晶化積層構造体の製造方法は、積層構造体形成工程と、SbTe層結晶化工程と、GeTe層結晶化工程とを含み、必要に応じて、その他の工程を含み得る。
以下、前記結晶化積層構造体の製造方法の例を図面を参照しつつ説明する。図1は、本製造方法により製造される前記結晶化積層構造体の説明図である。
【0017】
<積層構造体形成工程>
前記積層構造体形成工程は、室温を含む100℃未満の温度下で実施され、SbTe層5とGeTe層6とが積層されるとともにGeTe層6に微量添加元素が含まれる積層構造体7を、結晶化時のSbTe層5及びGeTe層6に対し共通した結晶軸を付与する配向制御層4上に形成する工程である。
【0018】
SbTe層5は、SbTeを主成分とし厚みが2nm~10nmである層として形成される。厚みが2nm~10nmであると、結晶化時にc軸配向の結晶構造が得られ易く、GeTe層6と結晶軸を共有した結晶構造が得られ易い。
SbTe層5の形成方法としては、特に制限はなく、公知の真空成膜方法、例えば、スパッタリング法、分子線エピタキシー法、ALD法、CVD法等を挙げることができる。
また、SbTe層5の形成材としては、特に制限はなく、積層時にSbTeの組成が得られるように調整されたSbTe化合物材(例えば、Sb30Te70化合物材)を用いることができる。前記SbTe化合物材としては、市販のもの(三菱マテリアル社製)や公知の方法で作製されたものを用いることができる。
【0019】
GeTe層6は、GeTeを主成分とし厚みが0nmを超え4nm以下である層として形成される。厚みが4nmを超えると、独立した固有の特性を示すことがあり、超格子型相変化メモリを構成する場合にその特性に影響を及ぼすことがある。
なお、本明細書において「主成分」とは、層の基本単位格子を構成する原子の化合物であることを示し、また、前記層が前記微量添加元素(S、Se)を含む場合、前記微量添加元素の原子と前記基本単位格子を構成する原子の化合物であることを示す。
【0020】
GeTe層6には、S(硫黄)及びSe(セレン)の少なくともいずれかの前記微量添加元素が含まれる。これら元素は、GeTe層6中の元素Teと同じくカルコゲン元素に分類される性質の元素であり、これらの原子は、GeTe層6中のTe原子と置換わる形で前記基本単位格子を構成する。
前記微量添加元素は、SbTe層5とGeTe層6との界面において、界面拡散(界面混合)によるSb原子とGe原子との置換により前記界面にGeSbTe結晶層が形成されることを抑制する目的で加えられる。
前記微量添加元素としては、中でも前記GeSbTe結晶層の形成を効果的に抑制する観点からS(硫黄)が好ましい。
SbTe層5及びGeTe層6の各層中における前記微量添加元素の含有量は、前記GeSbTe結晶層の形成が抑制された超格子構造を得る観点から0.05at%~10.0at%であり、好適には1.0at%~5.0at%である。前記微量添加元素の含有量が多すぎると、前記超格子型相変化メモリの相変化特性が損なわれ、少なすぎると、前記GeSbTe結晶層の形成を抑制しにくい。
【0021】
GeTe層6の形成方法としては、特に制限はなく、公知の真空成膜方法、例えば、スパッタリング法、分子線エピタキシー法、ALD法、CVD法等を挙げることができる。
GeTe層6の形成方法としては、特に制限はなく、積層時にGeTeの組成が得られるように調整されたGeTe化合物材(Ge45Te55)に前記微量添加元素を添加した化合物材、例えば、Te(55-x)をS(x)の組成で置換したものを用いることができる。このような化合物材としては、市販のもの(三菱マテリアル社製)や公知の方法で作製されたものを用いることができる。
【0022】
前記積層構造体形成工程としては、これらSbTe層5とGeTe層6とを一層ずつ積層してもよいし、図1に示すようにSbTe層5とGeTe層6とを交互に繰り返し積層して積層構造体7を形成する工程であってよい。
SbTe層5とGeTe層6とを交互に繰り返し積層する場合の積層数としては、図示の例(8層ずつ合計16層)に限らない。
前記積層数としては、前記超格子型相変化メモリにおいて良好なメモリ動作を実現する観点から、SbTe層5及びGeTe層6の各層を1層と計数したときに、10層~50層程度とすることが好ましい。
【0023】
積層構造体7は、結晶化時のSbTe層5及びGeTe層6に対し共通した結晶軸を付与する配向制御層4上に形成される。
積層構造体7を配向制御層4上に形成すると、結晶化時のSbTe層5及びGeTe層6に対し、立方晶の結晶構造を持つGeTe結晶の(111)面方向軸と、六方晶の結晶構造を持つSbTe結晶の(0001)面方向軸とを共有して配向成長する結晶配向性が付与され、積層構造体7にSbTe層5及びGeTe層6の結晶層による超格子構造が与えられる。
【0024】
図1の例において、配向制御層4は、GeTeを主成分とし厚みが3nm~10nmであるGeTe下地層により構成される。
配向制御層4を前記GeTe下地層で構成する場合、前記GeTe下地層上にSbTe層5とGeTe層6とをこの順で積層して積層積層構造体7を形成する。
前記GeTe下地層としては、GeTe層6と同様の形成方法により形成することができ、また、前記GeTe下地層上のSbTe層5との間で界面拡散(界面混合)が起こることを抑制する観点から、GeTe層6と同様に前記微量添加元素を加えてもよい。前記GeTe下地層は、後に詳述する前記GeTe層結晶化工程における加熱時にGeTe層6とともに結晶化される。
また、前記GeTe下地層としては、任意の基礎下地層上に形成することができる。 なお、前記GeTe下地層を、前記微量添加元素を含まない層として形成する場合、形成材に前記GeTe化合物材(Ge45Te55)を用いればよい。
【0025】
また、配向制御層4は、SbTeを主成分とし厚みが3nm~10nmであるSbTe下地層により形成されてもよい。この場合、図2に示すように、前記SbTe下地層としての配向制御層4上にGeTe層6とSbTe層5とをこの順で積層して積層構造体7’を形成する。これ以外は、積層構造体7と変わりがない。なお、図2は、前記結晶化積層構造体の変形例を示す説明図である。
前記SbTe下地層としては、厚み以外は、SbTe層5と同様の形成方法により形成することができる。前記SbTe下地層は、後に詳述する前記SbTe下地層層結晶化工程における加熱時にSbTe層5とともに結晶化される。
また、前記SbTe下地層としては、公知のSi(シリコン)基板やSi膜等で形成されるSi層、W(タングステン)やTiNで形成される電極層を基礎下地層として、この基礎下地層上に形成すると、結晶化時のSbTe層5及びGeTe層6に対し共通した結晶軸を付与し易い。
なお、図1,2中の符号2は、基板を示し、符号3は、基礎下地層を示す。
【0026】
これら前記GeTe下地層及び前記SbTe下地層により配向制御層4を形成する場合、これら下地層は、前述の通り、SbTe層5及びGeTe層6と同様に形成することができることから、製造工程が簡素化される。
また、従来の加熱成膜による前記積層構造体の製造方法では、前記SbTe下地層を配向制御層に用いることが知られているが、2段階の結晶化温度で加熱を行う本発明では、前記SbTe下地層に加え、後掲の実施例の欄に示されるように、前記GeTe下地層をテンプレートとしたSbTe層5及びGeTe層6の各結晶層の配向成長も可能であり、材料選択の自由度が広がる。
また、前記GeTe下地層で配向制御層4を構成する場合、公知のSi(シリコン)基板やSi膜等で形成されるSi層、W(タングステン)やTiNで形成される電極層に加え、任意材料で形成される基礎下地層3を適用することができる。これは、前記GeTe下地層上に形成され、前記SbTe層結晶化工程(1段階目の結晶化工程)により結晶化される各SbTe層5が、前記GeTe層結晶化工程(2段階目の結晶化工程)時に、各SbTe層5の上方に隣接するGeTe層6のみならず、下方に隣接するGeTe層6に対しても配向膜としての作用を及ぼすためである。よって、前記GeTe下地層で配向制御層4を構成する場合の基礎下地層3としては、特に制限はなく、目的に応じて選択することができ、ポリイミド等で形成される耐熱性プラスチックフィルムなどであってもよい。加えて、前記GeTe下地層としては、基礎下地層3の形成を省き、基板2(公知の耐熱性基板)上に直接形成してもよい。
【0027】
なお、配向制御層4としては、前記GeTe下地層及び前記SbTe下地層以外の層として構成されてもよく、公知の構成から適宜選択することができる。
このような構成としては、例えば、国際公開第2015/174240号に開示されるゲルマニウム、シリコン、タングステン、ゲルマニウム-シリコン、ゲルマニウム-タングステン及びシリコン-タングステンのいずれかで形成される配向制御層の構成などが挙げられる。
【0028】
前記積層構造体形成工程は、室温を含む100℃未満の温度下で実施される。具体的には、再び図1を参照して、配向制御層4の温度条件(基礎下地層3及び配向制御層4を介して基板2の温度で積層構造体7の温度が設定される)を100℃未満とする条件で積層構造体7が形成される。
100℃未満の前記温度条件は、後に詳述する前記SbTe結晶工程における第1結晶化温度と区別される温度条件であり、実際には、1回目の成膜プロセス後に同じ前記真空成膜装置を用いて次回の成膜プロセスを実施する際の昇温時間及び冷却時間を減らすため、50℃以下が好ましい。とりわけ、室温下で非加熱状態の配向制御層4上に積層構造体7を形成する場合、配向制御層4の昇温及び冷却に必要な時間が存在せず、製造時間が著しく短縮化される。
なお、前記温度条件に関し、室温未満の温度に配向制御層4を冷却して前記積層構造体形成工程を実施することに意味はないが、前記積層構造体形成工程を実施する下限温度としては、-50℃程度である。
また、前記積層構造体形成工程における温度管理は、例えば、配向制御層4を含む積層構造体7を形成するための下地基板に対する基板加熱等により実施される。
【0029】
<SbTe層結晶化工程>
前記SbTe層結晶化工程は、積層構造体7を第1結晶化温度で加熱保持し、SbTe層5を結晶化させる工程である。
前記SbTe層結晶化工程としては、真空雰囲気下で実施してもよく、大気雰囲気下で実施してもよい。とりわけ、大気雰囲気下で実施する場合、製造プロセスが著しく簡素化される。
また、前記SbTe層結晶化工程としては、積層構造体7の部分を加熱する工程であっても、積層構造体7の全体を加熱する工程であってもよい。
積層構造体7の部分を加熱する例としては、大面積で積層構造体7の諸層を成膜した後、前記超格子型相変化メモリの構造を作製するのに必要な箇所のみ加熱する例が挙げられる。
加熱手段としては、特に制限はなく、前記SbTe層結晶化工程の実施態様に応じて、公知の加熱手段の中から適宜選択することができる。
例えば、真空雰囲気下で実施する場合には、例えば加熱部を備える真空容器が挙げられ、大気雰囲気下で実施する場合には、ホットプレート、加熱炉等が挙げられ、部分加熱を実施する場合には、ニクロム線ヒータ、ランプ加熱装置、レーザ加熱装置等の部分加熱手段が挙げられる。とりわけ、集光レーザビーム等を用いる場合には、目的とする位置に前記超格子型相変化メモリを作り込むことができる。
加熱保持における保持時間としては、10分間以上であればよい。なお、前記保持時間が長時間化すると製造効率が低下するため、上限としては、2時間程度である。
【0030】
前記第1結晶化温度は、100℃以上170℃未満の温度とされる。
SbTe層5が単層であるときの結晶化温度、つまり、SbTeの固有の結晶化温度は、78℃付近に確認されるが、この結晶化温度に非常に近い温度での加熱では、均一な結晶化に至るまでに長い時間を要し、実用的ではない。その理由は、この加熱エネルギーを受けて積層された原子が隣接原子と共有結合を生成し結晶核を生成できても、前記結晶核を中心に結晶成長するための追加エネルギーが更に必要であるからである。つまり、原子同士が共有結合を形成しても、結晶成長する段階で微結晶同士の界面で格子整合(原子の位置を双方の界面で再配置して結合する)できない限り、大きく均一な結晶が形成できず、前記格子整合に必要な追加エネルギーが更に求められる。
そのため、前記第1結晶化温度は、SbTe層5の固有の結晶化温度よりも数十℃高い100℃を下限とする。中でも、良好な均質膜を得る観点から120℃以上であることが好ましい。
一方、前記第1結晶化温度の上限は、GeTeとSbTeとが混合された前記GeSbTe化合物層の結晶化温度を超えない温度であることが必要である。この温度を超えるとSbTe層5とGeTe層6とが相互に独立して結晶化し、結晶軸を共有しないまま各層が結晶化してしまうことから、良好な超格子構造が得られない。更に、また、GeTe微結晶粒がSbTe微結晶粒を取り込んで、GeSbTe結晶層が生じ易い。
そのため、前記第1結晶化温度の上限は、170℃未満であり、中でも、良好な均質膜を得る観点から150℃以下であることが好ましい。
【0031】
<GeTe層結晶化工程>
前記GeTe層結晶化工程は、SbTe層5が結晶化された積層構造体7を170℃以上400℃以下の第2結晶化温度で加熱保持し、GeTe層6を結晶化させる工程である。
前記GeTe層結晶化工程としては、前記SbTe層結晶化工程と同様、真空雰囲気下で実施してもよく、大気雰囲気下で実施してもよい。とりわけ、大気雰囲気下で実施する場合、製造プロセスが著しく簡素化される。
また、前記GeTe層結晶化工程としては、前記SbTe層結晶化工程と同様、積層構造体7の部分を加熱する工程であっても、積層構造体7の全体を加熱する工程であってもよい。積層構造体7の部分を加熱する場合、前記SbTe層結晶化工程で加熱された積層構造体7の領域の部分又は全体を含んで積層構造体7を加熱する。
加熱手段としては、特に制限はなく、前記SbTe層結晶化工程について説明した事項を適用することができる。
加熱保持における保持時間としても、前記SbTe層結晶化工程と同様、10分間以上であればよい。なお、前記保持時間が長時間化すると製造効率が低下するため、上限としては、2時間程度である。
【0032】
前記第2結晶化温度は、170℃以上400℃以下の温度とされる。
本発明は、SbTe層5を結晶化させる前記第1結晶化温度と、GeTe層6を結晶化させる前記第2結晶化温度とが重ならない温度域に存在することの知見に基づく。これらの温度が共通した温度であると、SbTe層5とGeTe層6とが相互に独立して結晶化し、結晶軸を共有しないまま各層が結晶化して良好な超格子構造が得られない。
前記微量添加元素(S、Se)を含まずGeTe層6が単層であるときの結晶化温度、つまり、GeTe固有の結晶化温度は、230℃付近に存在するが、厚みが0nmを超え4nm以下の薄いGeTe層6として形成されると、それ自体で結晶核を形成できず、結晶化したSbTe層5の(0001)界面を使って結晶成長する。そのため、前記結晶核の形成に必要な熱エネルギーが不要で結晶化温度が固有の温度よりも低くなる。また、前工程の前記SbTe層結晶化工程実施時にSbTe層5の体積が結晶化に伴って収縮するが、この段階でアモルファス状態であるGeTe層6には、大きな圧縮応力が発生する。この圧縮応力によってもGeTe層6の結晶化温度が固有の結晶化温度よりも低くなる。更に、前記微量添加元素に添加によってもたらされる結晶格子の収縮は、格子不整合を発生させ、前記微量添加元素の添加は、微量であっても、結晶化温度に大きな影響を与える。SbTe層5とGeTe層6とがGeTe結晶の(111)面方向軸と、SbTe結晶の(0001)面方向軸とを共有して超格子構造を構成する場合、それぞれの格子定数は、4.172Å及び4.262Åであり、約2%の不整合がある。
その結果、SbTe層5及びGeTe層6の積層状態におけるGeTe6層では、前記微量添加元素を含まない状態で160℃付近に結晶化温度が確認される。
一方、図3に示すように、GeTe層6が前記微量添加元素(S原子、Se原子)を含むと、GeTe層6の結晶化温度は、前記微量添加元素の含有量の増加に伴って上昇する。とりわけ、単層状態のGeTe層6と比べて、SbTe層5及びGeTe層6の積層状態におけるGeTe6層では、GeTe層6に僅かな前記微量添加元素を添加するだけで著しく上昇する。なお、図3は、GeTe層6(Ge(45)Te(55-x)(x))におけるTe原子をS原子で置換した置換濃度と結晶化温度との関係を示す図であり、直線の「1」で示す系列が単層状態のGeTe層6を対象とし、破線の「2」で示す系列が積層状態のGeTe層6を対象としている。
そのため、前記微量添加元素による上昇分を考慮して、前記第2結晶化温度の下限を170℃とする。中でも、良好な均質膜を得る観点から200℃以上であることが好ましい。
前記第2結晶化温度の上限は、膜酸化が発生しない400℃程度である。400℃を大きく超えると、前記GeSbTe結晶層由来のX線回析ピークが確認され、良好な超格子構造が得られない。良好な均質膜を得つつ昇温時間を短縮を図る観点から、前記第2結晶化温度の上限としては、300℃程度であっても充分である。
以上により、積層構造体7が結晶化された結晶化積層構造体1が形成される。
なお、前記SbTe層結晶化工程及び前記GeTe層結晶化工程としては、複数の積層構造体7を対象として実施することが好ましい。このような実施方法を採用すると、複数の積層構造体7を対象としたバッチ処理となり、製造時間の短縮化を図ることができる。
【0033】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、例えば、保護層形成工程、エピタキシャル成長層形成工程が挙げられる。
【0034】
前記保護層形成工程は、積層構造体7上に保護層を形成する工程である。
前記保護層としては、特に制限はなく、例えば、デバイス作製時に形成される公知の保護層が挙げられる。
なお、図1,2中の符号8で示す層が前記保護層に該当する。
【0035】
前記エピタキシャル成長層形成工程は、前記GeTe層結晶化工程後の積層構造体7上にエピタキシャル成長層を形成する工程である。
本発明の前記結晶化積層構造体の製造方法では、大きな結晶粒によるSbTe層5及びGeTe層6の結晶層が生成される。
そのため、積層構造体7上に前記エピタキシャル成長層を形成すると、前記エピタキシャル成長層が大きな結晶粒で得られ易い。
前記エピタキシャル成長層の構成としては、特に制限はなく、SbTeやGeTeで構成される層であってもよいし、任意の形成材による層であってもよい。
前記エピタキシャル成長層を前記SbTeやGeTeで構成される層とする場合、従来法における加熱成膜により形成し、積層構造体7の積層欠陥を除去することとしてもよい。この場合、前記エピタキシャル成長層形成工程を前記GeTe層結晶化工程後に連続して行うことで、加熱成膜に必要な基板加熱における昇温時間を省くことができる。
【実施例0036】
(単層の結晶化温度)
前記GeTe層及び前記SbTe層の結晶化温度を確認するための事前測定を行った。
先ず、GeTe層形成用のターゲットとして、Ge45Te55材におけるTeの一部がSで置換されたGe45Te52(Sを3at%含む)ターゲットと、Ge45Te4510(Sを10at%含む)ターゲットとを用意した。また、SbTe層形成用のターゲットとして組成が調整されたSb30Te70ターゲットを用意した。
次いで、スパッタリング装置(アルバック社製、QAM)を用いて、これら3つのターゲットによるスパッタリングを室温下で行い、メトラー・トレンド社製の超高速示差走査熱量計測装置(Flash DSC)専用の試料作製ユニットに形成されたSiN薄膜上に、アモルファス状で単層からなるGe45Te52層、Ge45Te4510層及びSbTe層をそれぞれ50nmの厚みで成膜した。なお、成膜は、圧力0.5PaでRFパワー20Wを印加する成膜条件で行った。
次いで、これらGe45Te52層、Ge45Te4510層及びSbTe層に対し、前記示差熱分析装置を用いて、それぞれの結晶化温度を測定した。なお、前記測定は、前記示差熱測定装置の昇温レートを10℃/秒とする条件で行った。
単層状態における前記結晶化温度の測定結果を下記表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
上掲表1に示すように、前記GeTe層では、Sの含有率の増加に伴い、前記結晶化温度が上昇することが確認される。
【0039】
(積層構造体の結晶化温度:サンプルA~C)
前記GeTe層及び前記SbTe層の積層状態における前記結晶化温度を確認するための事前測定を行った。
先ず、前記Ge45Te52ターゲット及び前記Sb30Te70ターゲットを前記スパッタリング装置にセットし、室温下で、前記試料作製ユニットのSiN薄膜上に厚みが0.8nmの前記Ge45Te52層と厚みが4.0nmのSbTe層とをこの順で交互に8回成膜して、合計16層の化合物層が成膜されたサンプルAに係る積層構造体を得た。
なお、前記厚みの調整は、前記スパッタリングの時間及びパワーを調整することで行い、また、前記スパッタリングは、真空度を2x10-4Paとし、アルゴンガス圧を0.5Paとし、各ターゲットに20WのRFパワーを印加する条件で行った。前記スパッタリングの時間は、組成に依存するが、厚み1nm当たり15秒間から25秒間である。このスパッタリング時間は、予めSi基板を用いて所定時間での成膜後、段差計を用いて測定した時間当たりの厚みにより決定した。
【0040】
次に、前記Ge45Te52ターゲットに代えて前記Ge45Te4510ターゲットを用いたこと以外は、サンプルAに係る積層構造体の形成方法と同様にして、前記試料作製ユニットのSiN薄膜上に前記Ge45Te4510層と前記SbTe層とが合計16層成膜されたサンプルBに係る積層構造体を得た。
【0041】
次に、S添加されていないGe45Te55ターゲット(三菱マテリアル社製、2インチ)を用意し、前記Ge45Te52ターゲットに代えて前記Ge45Te55ターゲットを用いたこと以外は、サンプルAに係る積層構造体の形成方法と同様にして、前記試料作製ユニットのSiN薄膜上に前記GeTe層と前記SbTe層とが合計16層成膜されたサンプルCに係る積層構造体を得た。
【0042】
サンプルA~Cに係る各積層構造体に対し、前記単層の場合と同様にして前記示唆熱分析装置を用いた前記結晶化温度の測定を行った。
積層状態における前記結晶化温度の測定結果を下記表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
上掲表2に示すように、サンプルA,Bに係る各積層構造体では、第1結晶化温度が72℃で確認され、第2結晶化温度が218℃,232℃で確認された。
一方、サンプルCに係る積層構造体では、160℃付近にも結晶化温度が確認された。即ち、先ず72℃付近に1番目の結晶化温度が確認され、次に162℃以上の温度域に2番目の結晶化温度が確認された。
これは、界面拡散(界面混合)によるSb原子とGe原子との置換が起こり、前記GeTe層と前記SbTe層との界面に前記GeSbTe結晶層が形成されたことが原因と考えられる。
以上の結果から、前記微量添加元素を含むサンプルA,Bに係る各積層構造体では、前記GeTe層と前記SbTe層とに対応する2つの結晶化温度を有し、かつ、これらの層は、2つの結晶化温度の間に充分な温度差を有して結晶化されることが確認される。
【0045】
(参考例1)
次に、従来技術(前掲特許文献3(国際公開第2020/012916号)等参照)に準じて、参考例1に係る結晶化積層構造体を製造した。具体的には、次の製造方法により製造した。
【0046】
先ず、前記スパッタリング装置に200μmのサファイヤ基板(信光社製)を移し、真空背圧を1.0×10-4Pa、Arの成膜ガス圧0.5Pa、温度を25℃、RFパワーを100Wとする条件下でシリコン材(三菱マテリアル社製、BドープSi)をターゲットに用いたスパッタリングを行い、前記サファイヤ基板上に下地層としてのアモルファスシリコン層を50nmの厚みで形成した。
【0047】
次いで、真空背圧を維持し、アルゴンガス圧0.5Pa、温度を25℃、RFパワーを20Wとする条件で前記SbTeターゲットを用いたスパッタリングを行い、前記アモルファスシリコン層上に前記SbTe下地層を4.0nmの厚みで形成した。また、形成後、前記サファイヤ基板を210℃で加熱し、前記SbTe下地層を結晶化させた。
【0048】
次いで、真空背圧及びArの成膜ガス圧を維持し、基板加熱温度を210℃に保持しながら、RFパワーを20Wとする条件で、前記Ge45Te52ターゲットを用いてスパッタリングを行い、S原子を3at%の含有量で含む前記GeTe層を前記SbTe下地層上に0.8nmの厚みで形成するとともに結晶化させた。
次いで、前記SbTe下地層と同じ成膜条件で、前記GeTe層上に前記SbTe層を4.0nmの厚みで形成するとともに結晶化させた。
次いで、前記GeTe層と、前記SbTe層とを、それぞれ一層目と同じ条件で交互に繰り返し積層し、結晶化された前記SbTe層と前記GeTe層とが交互に8層ずつ合計16層積層された前記結晶化積層構造体を形成した。
【0049】
最後に、前記スパッタリング装置を用いて前記結晶化積層構造体の最上層をなす前記SbTe層上に保護層としてのタングステン(W)層を20nmの厚みで形成した。
【0050】
次に、以上により製造された参考例1に係る結晶化積層構造体に対し、X線回析装置(リガク社製、試料水平型多目的X線回折装置)を用いてX線回析測定を行った。測定結果を図4に示す。
図4に示すように、参考例1に係る結晶化積層構造体では、結晶化された前記GeTe層と前記SbTe層との積層構造による超格子構造の形成を裏付ける(006),(009),(0015),(0018)の各ピークを確認することができ、従来より報告される、前記GeTe層と前記SbTe層とを共通する結晶軸で結晶成長させた前記超格子構造を有することが確認される。
【0051】
(実施例1)
次に、前記サファイア基板を210℃で加熱することなく室温成膜により形成された前記積層構造体を、成膜後に2段階の結晶化温度で加熱保持して実施例1に係る結晶化積層構造体を製造した。具体的には、次の製造方法により製造した。
【0052】
先ず、前記スパッタリング装置を用いて、参考例1と同様に、前記サファイヤ基板上に前記アモルファスシリコン層を50nmの厚みで形成した。
次いで、室温下で行うサンプルA~Cに係る各積層構造体形成時のスパッタリング条件と同じ条件で、前記アモルファスシリコン層上に前記Ge45Te52ターゲットによる前記GeTe下地層(S原子を3at%含む)を3.2nmの厚みで形成した。
【0053】
次いで、室温下で行うサンプルA~Cに係る各積層構造体形成時のスパッタリング条件と同じ条件のまま、前記GeTe下地層上に前記Sb30Te70ターゲットによる前記SbTe層を4.0nmの厚みで形成した。
次いで、室温下で行うサンプルA~Cに係る各積層構造体形成時のスパッタリング条件と同じ条件のまま、前記SbTe層上に前記Ge45Te52ターゲットによる前記GeTe層(S原子を3at%含む)を0.8nmの厚みで形成した。
次いで、前記SbTe層と前記GeTe層とを、それぞれ一層目と同じ条件で交互に繰り返し積層し、前記SbTe層と前記GeTe層とが交互に8層ずつ合計16層積層された前記積層構造体を形成した(前記積層構造体形成工程)。
また、室温条件を維持したまま前記スパッタリング装置を用いて前記積層構造体の最上層をなす前記GeTe層上に前記保護層としてのタングステン(W)層を20nmの厚みで形成した。
【0054】
次いで、前記積層構造体が形成された前記サファイア基板を前記スパッタリング装置から取り出した後、真空容器内(アルバック社製、赤外線ランプアニール装置)にセットし、真空度1×10-4Pa、加熱温度140℃、保持時間0.5時間の条件で加熱保持を行い、前記SbTe層を結晶化させた(前記SbTe層結晶化工程)。
【0055】
前記SbTe層を結晶化させた前記サファイア基板を一旦前記真空容器から取り出し、前記X線回析装置によるX線回析測定を行った。測定結果を図5に示す。
図5に示すように、結晶化された前記SbTe層の形成を裏付ける、SbTeの(009)面及び(0018)面に相当する結晶ピークを確認することができる。
【0056】
再び、前記積層構造体が形成された前記サファイア基板を前記真空容器内にセットし、今度は、真空度1×10-4Pa、加熱温度230℃、保持時間0.5時間の条件で加熱保持を行い、前記GeTe層を結晶化させた(前記GeTe層結晶化工程)。
以上により、実施例1に係る結晶化積層構造体を製造した。
【0057】
引き続いて、冷却後の実施例1に係る結晶化積層構造体に対し、前記X線回析装置によるX線回析測定を行った。測定結果を図6に示す。
図6に示すように、SbTeの(009)面及び(0018)面に相当する結晶ピークに加え、結晶化された前記GeTe層の形成を裏付ける、GeTeの(006)面及び(0015)面に相当する結晶ピークを確認することができる。
また、図6に示す実施例1に係る結晶化積層構造体のX線回析測定の測定結果は、図4に示す参考例1に係る結晶化積層構造体のX線回析測定の測定結果と良く似ており、ともに(006),(009),(0015),(0018)の各ピークが確認される一方で、これら以外のピークが確認されないことから、実施例1に係る結晶化積層構造体では、従来法による参考例1に係る結晶化積層構造体と同様に、前記GeTe層と前記SbTe層とを共通する結晶軸で結晶成長させた前記超格子構造を形成することができている。
【0058】
また、実施例1に係る結晶化積層構造体の高解像透過電子顕微鏡(日本電子社製、走査透過電子顕微鏡)による断面観察像を図7に示す。
図7に示すように、実施例1に係る結晶化積層構造体では、前記GeTe層と前記SbTe層との原子配列が揃った均一な結晶配向性を持つ前記超格子構造が得られている。
【0059】
(実施例2)
前記真空容器を用いて真空度1×10-4Pa、加熱温度140℃、保持時間0.5時間の条件で加熱保持を行うことに代えて、ホットプレート(ヤマト科学社製、ホットプレート)を用いて大気雰囲気下、加熱温度140℃、保持時間0.5時間の条件で加熱保持を行うこと(前記SbTe層結晶化工程)、及び、前記真空容器を用いて真空度1×10-4Pa、加熱温度230℃、保持時間0.5時間の条件で加熱保持を行うことに代えて、前記ホットプレートを用いて大気雰囲気下、加熱温度230℃、保持時間0.5時間の条件で加熱保持を行うこと(前記GeTe層結晶化工程)以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る結晶化積層構造体を製造した。
【0060】
引き続いて、冷却後の実施例2に係る結晶化積層構造体に対し、前記X線回析装置によるX線回析測定を行った。
驚くべきことに、図6とほぼ同様の測定結果が得られ、大気雰囲気下で結晶化を行った実施例2に係る結晶化積層構造体においても、前記GeTe層と前記SbTe層とを共通する結晶軸で結晶成長させた前記超格子構造を形成することができている。
【0061】
また、実施例2に係る結晶化積層構造体の前記高解像透過電子顕微鏡による断面観察像を図8に示す。
図8に示すように、実施例2に係る結晶化積層構造体においても、実施例1に係る結晶化積層構造体(図7参照)と同様、前記GeTe層と前記SbTe層との原子配列が揃った均一な結晶配向性を持つ前記超格子構造が得られている。
このことから、前記SbTe層結晶化工程及び前記GeTe層結晶化工程は、真空雰囲気下で実施することに代えて、大気雰囲気下で実施することもできる。
【0062】
(比較例1)
前記SbTe層結晶化工程における加熱温度を140℃から80℃に変更したこと及び前記GeTe層結晶化工程における加熱温度を230℃から220℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る結晶化積層構造体の製造を行った。
【0063】
比較例1に係る結晶化積層構造体に対し、前記X線回析装置によるX線回析測定を行ったところ、前記超格子構造の形成を確認できる(006),(009),(0015),(0018)の各ピークが現れたが、各ピークの高さは、実施例1,2に係る各結晶化積層構造体の半分程度であった。
前記GeTe層結晶化工程における加熱温度は、実施例1とほぼ同様であるため、この結果からは、前記SbTe層結晶化工程の加熱温度が低いことが原因で前記SbTe層が結晶化が充分に進まず、この状態の前記SbTe層上で前記GeTe層の結晶化が行われたため、SbTeとGeTeとのどちらの結晶化も結晶粒が小さい状態で前記超格子構造の形成に至ったことが推察される。
【0064】
(比較例2)
前記SbTe層結晶化工程における加熱温度を140℃から180℃に変更したこと及び前記GeTe層結晶化工程における加熱温度を230℃から220℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る結晶化積層構造体の製造を行った。
【0065】
比較例2に係る結晶化積層構造体に対し、前記X線回析装置によるX線回析測定を行ったところ、(006),(009)の各ピークが現れたが、前記GeSbTe結晶層に見られる(220)のピークも確認され、一部に前記超格子型相変化メモリのメモリ動作に関与しない前記GeSbTe結晶層が形成されたことが確認される。
前記GeTe層結晶化工程における加熱温度は、実施例1とほぼ同様であるため、この結果からは、前記SbTe層結晶化工程の加熱温度が高いことが原因で前記SbTe層の結晶化と前記GeTe層の結晶化とが独立して進み、これらの層が結晶軸を共有しないまま結晶化されたことが推察される。また、高温下でSbTeの結晶粒とGeTeとの結晶化が進むと、GeTe微結晶粒がSbTe微結晶粒を取り込み、前記GeSbTe結晶層が形成されることが推察される。
【0066】
(比較例3)
前記GeTe層結晶化工程における加熱温度を230℃から450℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3に係る結晶化積層構造体の製造を行った。
【0067】
比較例3に係る結晶化積層構造体に対し、前記X線回析装置によるX線回析測定を行ったところ、(009)のピークが現れたが、前記GeSbTe結晶層に見られる(200)及び(220)の各ピークが大きくなり、前記超格子型相変化メモリのメモリ動作に関与しない前記GeSbTe結晶層が大きく形成されたことが確認される。
この結果からは、前記GeTeの結晶化が限界を超えた高温加熱を受けて前記SbTe層の配向テンプレートを利用可能な結晶成長速度を超える速度で急激に進行したため、前記GeTe層が一部にSbTeを取り込んで配向性を崩しながら結晶成長したことが推察される。
【符号の説明】
【0068】
1 結晶化積層構造体
2 基板
3 基礎下地層
4 配向制御層
5 SbTe
6 GeTe層
7 積層構造体
8 保護層

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8