IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

特開2023-59825固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ及び固体酸化物形電気化学セルスタック
<>
  • 特開-固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ及び固体酸化物形電気化学セルスタック 図1
  • 特開-固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ及び固体酸化物形電気化学セルスタック 図2
  • 特開-固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ及び固体酸化物形電気化学セルスタック 図3
  • 特開-固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ及び固体酸化物形電気化学セルスタック 図4
  • 特開-固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ及び固体酸化物形電気化学セルスタック 図5
  • 特開-固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ及び固体酸化物形電気化学セルスタック 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023059825
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ及び固体酸化物形電気化学セルスタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0228 20160101AFI20230420BHJP
   H01M 8/021 20160101ALI20230420BHJP
   H01M 8/0215 20160101ALI20230420BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20230420BHJP
   C25B 1/042 20210101ALI20230420BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20230420BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20230420BHJP
   C25B 9/77 20210101ALI20230420BHJP
   C25B 9/65 20210101ALI20230420BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/021
H01M8/0215
H01M8/12 101
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B9/77
C25B9/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022140458
(22)【出願日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2021169833
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2018年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「水素利用等先導研究開発事業/水電解水素製造技術高度化のための基盤技術研究開発/高温水蒸気電解技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 昌平
(72)【発明者】
【氏名】亀田 常治
(72)【発明者】
【氏名】浅山 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】吉野 正人
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】犬塚 理子
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021CA07
4K021DB06
4K021DB49
4K021DB53
5H126AA14
5H126BB06
5H126GG08
5H126GG13
5H126JJ03
5H126JJ04
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】保護膜を緻密化して金属基材に対する密着性を高めると共に、複雑な形状に対する施工性を満足させることを可能にした固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタを提供する。
【解決手段】実施形態の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ1は、クロムを含有する鉄基合金を含む金属基材2と、金属基材2の表面に設けられた保護膜3とを具備する。保護膜3は、スピネル型酸化物及びペロブスカイト型酸化物から選ばれる少なくとも1つを含む保護膜本体と、保護膜本体内に点在され、希土類元素及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物を含む分散相とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロムを含有する鉄基合金を含む金属基材と、
前記金属基材の表面に設けられた保護膜とを具備する固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタであって、
前記保護膜は、スピネル型酸化物及びペロブスカイト型酸化物から選ばれる少なくとも1つを含む保護膜本体と、前記保護膜本体内に点在され、希土類元素及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属元素の酸化物を含む分散相とを備える、固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項2】
前記保護膜は、前記金属元素の換算量として、3質量%以上30質量%以下の前記金属元素の酸化物を含む、請求項1に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項3】
前記保護膜は100μm以下の膜厚を有する、請求項1又は請求項2に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項4】
前記保護膜における空隙率は30%以下である、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項5】
前記保護膜本体は、Co、Ni、Mn、Cu、Fe、Cr、Zn、Al、Ti、La、及びSrからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属元素を含む、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項6】
前記保護膜本体は、Coと、Ni、Mn、Cu、Fe、Cr、Zn、Al、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属元素とを含む、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項7】
前記保護膜本体は、Coを含む前記スピネル型酸化物、及びCoとLa及びSrからなる群より選ばれる少なくとも1つとを含む前記ペロブスカイト型酸化物から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ。
【請求項8】
水素原子を有する物質を含む雰囲気と接する第1電極と、酸素を含む雰囲気と接する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在された固体酸化物電解質層とを備える第1電気化学セルと、
水素原子を有する物質を含む雰囲気と接する第1電極と、酸素を含む雰囲気と接する第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に介在された固体酸化物電解質層とを備える第2電気化学セルと、
前記第1電気化学セルの前記第1電極及び前記第2電気化学セルの前記第2電極と電気的に接続されるように、前記第1電極と前記第2電極との間に配置されたインターコネクタとを具備する固体酸化物形電気化学セルスタックであって、
前記インターコネクタは、クロムを含有する鉄基合金を含む金属基材と、前記金属基材の表面に設けられた保護膜とを具備し、
前記保護膜は、スピネル型酸化物及びペロブスカイト型酸化物から選ばれる少なくとも1つを含む保護膜本体と、前記保護膜本体内に点在され、希土類元素及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属元素の酸化物を含む分散相とを備える、固体酸化物形電気化学セルスタック。
【請求項9】
前記保護膜は、前記金属元素の換算量として、3質量%以上30質量%以下の前記金属元素の酸化物を含む、請求項8に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック。
【請求項10】
前記保護膜は100μm以下の膜厚を有する、請求項8又は請求項9に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック。
【請求項11】
前記保護膜における空隙率は30%以下である、請求項8ないし請求項10のいずれか1項に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック。
【請求項12】
前記保護膜本体は、Co、Ni、Mn、Cu、Fe、Cr、Zn、Al、Ti、La、及びSrからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属元素を含む、請求項8ないし請求項11のいずれか1項に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック。
【請求項13】
前記保護膜本体は、Coと、Ni、Mn、Cu、Fe、Cr、Zn、Al、及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1つの金属元素とを含む、請求項8ないし請求項11のいずれか1項に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック。
【請求項14】
前記保護膜本体は、Coを含む前記スピネル型酸化物、及びCoとLa及びSrからなる群より選ばれる少なくとも1つとを含む前記ペロブスカイト型酸化物から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項8ないし請求項11のいずれか1項に記載の固体酸化物形電気化学セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ及び固体酸化物形電気化学セルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
脱炭素社会に向けた新エネルギーの1つとして、水素が挙げられる。水素の利用分野として、水素と酸素を電気化学的に反応させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池が注目されている。燃料電池は高いエネルギー利用効率を有し、大規模分散電源、家庭用電源、移動用電源として開発が進められている。燃料電池のうち、効率等の観点から、固体酸化物からなる電解質を使用して電気化学反応により電気エネルギーを得る固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)が注目されている。また、水素の製造においては、高温の水蒸気の状態で水を電気分解する高温水蒸気電解法を適用した固体酸化物形電解セル(Solid Oxide Electrolysis Cell:SOEC)の研究が進められている。SOECの動作原理はSOFCの逆反応であり、SOFCと同様に、固体酸化物からなる電解質が使用されている。また、SOECは二酸化炭素(CO)を電気分解して一酸化炭素(CO)を生成し、COと水素(H)を合成することで、最終的にメタン(CH)等の燃料を生成できることから、脱炭素社会を実現する技術として注目されている。
【0003】
SOFCやSOEC等に用いられる固体酸化物形電気化学セルは、空気極(酸素極)と固体酸化物電解質層と水素極(燃料極)の積層体を有している。このような積層体を有する電気化学セルを、インターコネクタを介して複数積層してスタック化することによって、大容量化した電気化学セルスタックとして用いられている。固体酸化物形電気化学セル用インターコネクタは高温耐性が要求されるため、一般的にインターコネクタの基体としてクロム含有率が高いステンレス合金が使用されている。しかし、クロム含有率が高いステンレス合金の表面には、高温でCrを主とする酸化被膜が形成される。Crは電気抵抗が高いため、表面の酸化被膜はインターコネクタの電気伝導性を低下させて、固体酸化物形電気化学セルスタックの抵抗を増大させる要因となる。さらに、Cr被膜中のCr成分がガス化して、固体酸化物形電気化学セルの電極部に付着すると、固体酸化物形電気化学セルの性能を低下させる。これらの問題を抑制するために、固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタへの適用材料が広く検討されている。
【0004】
一般的に、固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタを緻密な保護膜で被覆することで、Cr飛散を抑制している。保護膜に要求される機能としては、Crの飛散抑制、電気伝導性、密着性、施工性が挙げられる。Crの飛散抑制とは、固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタに含まれるCrが高温の運転環境下にて蒸気化し、固体酸化物形電気化学セルの性能を低下させるため、それを抑制する機能である。電気伝導性とは、固体酸化物形電気化学セルの反応には電気が必要であるため、通電時の電気抵抗を低減して、エネルギーロスを小さくする機能である。密着性とは、固体酸化物形電気化学セルの運転温度が600℃以上の高温であるため、そのような高温と常温との間で昇温と降温の繰り返しにより、保護膜が剥離する可能性があるため、それを防ぐ機能である。施工性とは、固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタは複雑な形状を有していることが多いため、ムラなく保護膜を形成させるための機能である。
【0005】
インターコネクタの保護膜には、例えば電気伝導性を示すスピネル型酸化物が用いられている。例えば、導電性基板の表面に、Mn、Co、Cu、Y、及びOを含有するスピネル構造の酸化物を含むセラミック保護膜を形成することが提案されている。このセラミック保護膜は、Mn、Co、及びOからなるスピネル構造に、Cu及びYがドーピングされた形態を有する。しかし、このようなセラミック保護膜は多くの気孔を有するため、固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタを構成する導電性基板と保護膜との接触面積が小さくなり、保護膜の密着性が低く、またそれに伴って電気抵抗が増大することが課題とされている。また、クロム鋼と保護膜との間に希土類元素を含む層を挿入することが提案されている。しかし、希土類元素を含む層の形成には真空蒸着等が用いられるため、複雑な形状において均一の膜厚で成膜することが難しく、施工性が低いことが課題とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/078674号
【特許文献2】特表2009-544850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、保護膜を緻密化して金属基材に対する密着性を高め、それに伴って電気抵抗を低減できると共に、複雑な形状に対する施工性を満足させることを可能にした固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ、及びそのようなインターコネクタを用いた固体酸化物形電気化学セルスタックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタは、クロムを含有する鉄基合金を含む金属基材と、前記金属基材の表面に設けられた保護膜とを具備し、前記保護膜は、スピネル型酸化物及びペロブスカイト型酸化物から選ばれる少なくとも1つを含む保護膜本体と、前記保護膜本体内に点在され、希土類元素及びジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物を含む分散相とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタを示す断面図である。
図2】実施形態の固体酸化物形電気化学セルスタックを示す断面図である。
図3】実施形態の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタの保護膜の断面模式図である。
図4】比較例1による固体酸化物形電気化学スタック用インターコネクタの断面の反射電子像である。
図5】実施例1による固体酸化物形電気化学スタック用インターコネクタの断面の反射電子像である。
図6】実施例2による固体酸化物形電気化学スタック用インターコネクタの電気抵抗を比較例1によるインターコネクタの電気抵抗と比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタ及び固体酸化物形電気化学セルスタックについて、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0011】
図1は第1の実施形態による固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタの断面を示している。図1に示すインターコネクタ1は、第1面2aと第2面2bとを有する金属基材2を具備する。インターコネクタ1を固体酸化物形電気化学セルスタックに用いるにあたって、金属基材2の第1面2aは水素極(燃料極)側に配置される面であり、水素を含む雰囲気に晒される面である。金属基材2の第2面2bは空気極(酸素極)側に配置される面であり、空気に晒される面である。なお、第1面2a側には水素を流すことに限らず、例えばSOFCではメタノール(CHOH)等を流す場合もあるため、第1面2aは水素原子を有する物質を含む雰囲気に晒される面であればよい。第2面2b側には空気を流すことに限らず、例えばSOECでは何も流さない、もしくは酸素を流す場合もあるため、第2面2bは酸素を含む雰囲気に晒される面であればよい。金属基材2の第1面2a及び第2面2bには、保護膜3が設けられている。図1は金属基材2の第1面2a及び第2面2bに保護膜3を設けたインターコネクタ1を示しているが、保護膜3は第1面2a及び第2面2bのいずれか一方の表面のみに設けられていてもよい。
【0012】
図1に示すインターコネクタ1は、例えば図2に示す固体酸化物形電気化学セルスタック10に用いられる。図2に示す固体酸化物形電気化学セルスタック10は、第1電気化学セル11と第2電気化学セル12とを、インターコネクタ1を介して積層した構造を有している。なお、図2は第1電気化学セル11と第2電気化学セル12とを積層した構造を示しているが、電気化学セル12の積層数は特に限定されるものではなく、3個以上の電気化学セルを積層した構造を有していてもよい。3個以上の電気化学セルを積層する場合、隣接する2個の電気化学セル間にはそれぞれインターコネクタが配置され、各電気化学セル間はインターコネクタにより電気的に接続される。
【0013】
第1電気化学セル11及び第2電気化学セル12は同一構成を有し、それぞれ水素極(燃料極)として機能する第1電極13と、酸素極(空気極)として機能する第2電極14と、これら電極13、14間に配置された固体酸化物電解質層15とを有している。第1及び第2電極13、14は、それぞれ多孔質な電気伝導体により形成されている。固体酸化物電解質層15は、緻密質な固体酸化物電解質からなり、電気を通さないイオン伝導体である。第1電極13とインターコネクタ1との間には、必要に応じて、多孔質な第1集電部材16を配置してもよい。同様に、第2電極14とインターコネクタ1との間には、必要に応じて、多孔質な第2集電部材17を配置してもよい。第1及び第2集電部材16、17は、反応ガスを通過させつつ、第1及び第2電気化学セル11、12とインターコネクタ1との電気的な接続を向上させる。
【0014】
図2では図示を省略したが、第1及び第2電気化学セル11、12の周囲には、ガス流路が設けられている。すなわち、第1及び第2電極13、14には、電気化学セルスタック10の使用用途に応じた供給ガスが、それぞれガス流路の一部を介して供給される。第1及び第2電極13、14で生成されて排出される排出ガスは、ガス流路の他の一部を介して第1及び第2電気化学セル11、12から排出される。第1及び第2電極13、14に供給されるガス及び電極13、14周囲の雰囲気は、緻密質な固体酸化物電解質15及びインターコネクタ1により分離されている。電気化学セルスタック10をSOFC等の燃料電池として使用する場合、水素極(燃料極)としての第1電極13には水素(H)やメタノール(CHOH)ガス等の還元性ガスが供給され、酸素極(空気極)としての第2電極14には空気や酸素(O)等の酸化性ガスが供給される。電気化学セルスタック10を高温水蒸気電解法を適用したSOEC等の電解セルとして使用する場合、水素極としての第1電極13には水蒸気(HO)が供給される。
【0015】
図1に示すインターコネクタ1は、図2に示す電気化学スタック10における第1及び第2電気化学セル11、12間に配置されるインターコネクタ1として用いられる。インターコネクタ1において、金属基材2の第1面2aは水素極としての第1電極13側に配置され、金属基材2の第2面2bは空気極としての第2電極14側に配置される。このため、金属基材2の第1面2aは、水素極としての第1電極13に供給される水素、水素と水蒸気との混合ガスのような水素を含む雰囲気、もしくは第1電極13から排出される同様な水素を含む雰囲気に晒される。金属基材2の第2面2bは空気極としての第2電極14に供給される空気のような酸素を含む雰囲気に晒される。
【0016】
図2に示す電気化学セルスタック10に用いられるインターコネクタ1において、金属基材2にはクロム(Cr)を含有する鉄基合金、すなわちステンレス鋼(SUS)が用いられる。電気化学セルスタック10においては、例えばSUS430のような電気化学セル11、12と熱膨張率が近いフェライト系ステンレスからなる金属基材2が適用される。金属基材2にステンレス鋼を用いた場合、金属基材2に含まれるCrが、SOFCやSOECの運転温度である600~1000℃程度の高温領域において、酸素や水蒸気と反応して蒸気化し、第2電極14に付着して性能を低下させるおそれがある。そこで、クロムの蒸気化及びそれに伴う拡散を抑制するために、インターコネクタ1は金属基材2の少なくとも表面2bを被覆する保護膜3を有している。
【0017】
保護膜3は、図3の断面模式図に示すように、保護膜本体31と、保護膜本体31内に点在された分散相32とを備えている。保護膜本体31は保護膜3全体を形成するものであって、その構成材料はSOFCやSOEC等の作動温度域で電気伝導性を示すスピネル型酸化物及びペロブスカイト型酸化物から選ばれる少なくとも1つを含んでいる。スピネル型酸化物は、AB(A及びBは同一又は相異なる金属元素等の陽イオン元素である。)で表される酸化物である。ペロブスカイト型酸化物はABO(A及びBは同一又は相異なる金属元素等の陽イオン元素である。)で表される酸化物である。スピネル型酸化物及びペロブスカイト型酸化物は、いずれもSOFCやSOEC等の作動温度域で電気伝導性を示すため、導電性が求められる保護膜本体31に好適である。
【0018】
スピネル型酸化物やペロブスカイト型酸化物に含まれる金属元素としては、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ランタン(La)、及びストロンチウム(Sr)からなる群より選ばれる少なくとも1つが挙げられる。Coを含むスピネル型酸化物は、保護膜本体31の構成材料として有効である。Coはスピネル型酸化物のAサイト元素及びBサイト元素のどちらとしても機能するため、Coで表されるスピネル型酸化物を形成し得るものである。さらに、このようなCo含有のスピネル型酸化物に、Ni、Mn、Cu、Fe、Cr、Zn、Al、及びTiから選ばれる少なくとも1つを添加した材料も有効であり、電気伝導性の向上や熱膨張率の不一致緩和等の効果を期待することができる。さらに、Coに代えてFe、Ni、Mn等を用いたスピネル型酸化物を保護膜本体31の構成材料として使用することができる。
【0019】
ペロブスカイト型酸化物としては、CoとLa及びSrから選ばれる少なくとも1つとを含む酸化物、例えばLaCoO、SrCoO、(La,Sr)CoO等が挙げられる。そのようなペロブスカイト酸化物にNi、Mn、Cu、Fe、Cr、Zn、Al、及びTiから選ばれる少なくとも1つを添加した材料、例えばLa(Co,Fe)O、Sr(Co,Fe)O、(La,Sr)(Co,Fe)O等であってもよい。Feに代えてMnやNi等を添加したペロブスカイト型酸化物であってよい。さらに、Coに代えてMn、Fe、Ni等含むペロブスカイト型酸化物、例えばSrMnO、SrFeO、SrNiO等や、それらに上記したような金属元素を添加したペロブスカイト型酸化物を保護膜本体31の構成材料として使用することができる。
【0020】
上述したCo含有のスピネル型酸化物等は、ペロブスカイト型酸化物に比べて密着性に優れるものの、電気伝導性がペロブスカイト型酸化物に比べて劣る。このような点に対して、Co含有のスピネル型酸化物に希土類元素やジルコニウム(Zr)を微量添加することによって、電気伝導性を高めることができ、かつ密着性をさらに向上させることができる。ペロブスカイト型酸化物を用いた場合も同様である。そこで、実施形態のインターコネクタ1では、保護膜3を構成する保護膜本体31内に希土類元素やZrの酸化物を含む分散相32を点在させている。ここで、分散相32を点在させるとは、保護膜3の膜厚方向(金属基材2の表面から垂直方向)に不規則に存在している状態を指すものである。
【0021】
分散相32が含む希土類元素としては、スカンジウム(Sc)及びイットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素、すなわちランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の合計17元素が挙げられる。分散相32は、これら希土類元素の酸化物やZrの酸化物を含んでいる。
【0022】
上述した希土類元素の酸化物やZrの酸化物を含む分散相32が点在された保護膜本体31を備える保護膜3によれば、希土類元素の酸化物やZrの酸化物を含む分散相32がスピネル型酸化物やペロブスカイト型酸化物を含む保護膜本体31の電気伝導性や密着性の向上に寄与する。さらに、希土類元素やZrを保護膜本体31の構成元素として添加する場合に比べて、希土類元素の酸化物やZrの酸化物を含む分散相32を保護膜本体31内に点在させることによって、金属基材2と保護膜3との界面や保護膜3内における気孔の形成を抑制することができる。これによって、金属基材2と保護膜3との接触面積を高めて、保護膜3の密着性を向上させることができる。さらに、保護膜3の密着性の向上により保護膜3の電気抵抗を低下させることができる。
【0023】
希土類元素の酸化物やZrの酸化物は電気伝導性が低いため、保護膜本体31に点在させる分散相32が多すぎると保護膜3の電気伝導性を低下させるおそれがある。このため、保護膜3は分散相32を構成する希土類元素の酸化物やZrの酸化物を、金属元素の換算量として3質量%以上30質量%以下の範囲で含むことが好ましい。保護膜3における希土類元素の酸化物やZrの酸化物の含有量が、金属元素の換算量として3質量%未満であると、保護膜本体31に点在させる分散相32の量が少なすぎて、保護膜本体31の電気伝導性や密着性の向上効果を十分に得ることができない。保護膜3における希土類元素の酸化物やZrの酸化物の含有量が、金属元素の換算量として30質量%を超えると分散相32の量が多すぎて、分散相32の電気伝導性の低さが保護膜3全体に影響し、保護膜3の電気伝導性が逆に低下してしまうおそれがある。
【0024】
保護膜3は、1μm以上100μm以下の膜厚を有することが好ましい。保護膜3の膜厚は2μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。保護膜3の膜厚が1μm未満であると、保護膜3による金属基材2の保護効果を十分に得られないおそれがある。保護膜3の膜厚が100μmを超えると、保護膜3の密着性等が低下して金属基材2から保護膜3が剥離しやすくなるおそれがある。特に、保護膜3の膜厚を20μm以下とすることによって、保護膜3による金属基材2の保護効果を得た上で、保護膜3の金属基材2に対する密着性を高めて剥離の抑制効果を向上させることができる。さらに、保護膜3の空隙率は30%以下であることが好ましい。保護膜3の空隙率が30%を超えると、保護膜3の金属基材2に対する密着性が低下する。ただし、保護膜3中の空隙は熱膨張を緩和する効果を示すため、保護膜3は例えば5%以上程度の若干の空隙を有していてもよい。
【0025】
保護膜3の形成方法は特に限定されるものではなく、例えば電解めっき法、無電解めっき法、電析法、スピンコーティング法、ディップコーテイング法、ゾル-ゲル法等を適用することができる。これらの保護膜3の形成方法は、真空蒸着法等に比べて施工性に優れる。このような形成方法を適用することが可能な保護膜付金属基材によれば、密着性と施工性に優れるからなるインターコネクタを提供することが可能になる。
【0026】
例えば、保護膜3の形成に電解めっき法を適用する場合、保護膜本体31の構成元素としての金属元素(例えばCo)と分散相32の構成材料としての希土類酸化物やZr酸化物を含むめっき浴に、金属基体2を浸漬して電解めっきを行う。次いで、例えば大気中や酸素雰囲気中等の酸化雰囲気中にて600℃以上の温度域で熱処理を行うる。保護膜本体31の構成元素としての金属元素は、易酸化性であるため、高温での酸化処理によりスピネル型酸化物やペロブスカイト型酸化物等の酸化物が生成される。生成される酸化物は、めっき浴中の金属元素比や酸雰囲気等により制御することができる。さらに、めっき浴中に希土類酸化物粒子やZr酸化物粒子を含有させているため、これら酸化物粒子は金属めっき膜中に分散させることができる。その上で、めっき膜を酸化することによって、金属基材2の表面に希土類元素の酸化物やZrの酸化物を含む分散相32が点在された保護膜本体31を備える保護膜3を形成することが可能になる。他の膜形成方法を用いる場合にも、同様な条件を適用することで、上記した金属基材2とその表面に設けられた保護膜3とを有するインターコネクタ1が得られる。
【0027】
なお、上記した実施形態では、固体酸化物形電気化学セル及びそれを積層したセルスタック10をSOFCやSOECに適用する場合について主として説明したが、実施形態の固体酸化物形電気化学セル及びそれを積層したセルスタック10はCOの電解反応装置等にも適用することができる。
【実施例0028】
次に、実施形態のインターコネクタの具体例及びその評価結果について述べる。
【0029】
(比較例1)
金属基材としてSUS430製基板を用意した。このようなSUS基板をCoめっき浴中に浸漬して電気めっきを行った。なお、Coめっき浴は希土類酸化物やZr酸化物を含んでいない。次いで、Coめっき膜を形成したSUS基板を700℃で大気暴露し、Coめっき膜を酸化した。酸化後のCo膜はCoで表されるCoスピネル型酸化物を主体とするCo酸化物膜であることが確認された。このようにして得たCo酸化物膜付SUS基板の断面の反射電子像を観察した。比較例1による電子反射像を図4に示す。
【0030】
(実施例1)
金属基材としてSUS430製基板を用意した。このようなSUS基板をCoめっき浴中に浸漬して電気めっきを行った。めっき浴としては、Coめっき浴にY粒子を分散させためっき浴を使用した。Y粒子は、めっき膜のY元素量が8~16質量%となるように、Coめっき浴に添加した。次いで、Y粒子を含むCoめっき膜を形成したSUS基板を700℃で大気暴露し、Coめっき膜を酸化した。酸化後のCo膜はCoで表されるCoスピネル型酸化物を主体とし、Y分散相が点在したCo酸化物膜であることが確認された。このようにして得たY分散相を含むCo酸化物膜付SUS基板の断面の反射電子像を観察した。実施例1による電子反射像を図5に示す。
【0031】
図4に示すように、比較例1の保護膜中には矢印で示すようにSUS基板表面と水平方向に連続した空隙が観察される。さらに、図4に点線の四角で囲ったように、SUS基板と保護膜との界面に空隙が観察される。比較例1の保護膜は、その内部やSUS基板との界面に多くの空隙が観察される。比較例1の保護膜中には、約20%の空隙が存在していることが確認された。このような空隙が多い部分は保護膜とSUS基板との密着性を低下させるため、保護膜が剥離する懸念が生じる。このような保護膜付金属基板を固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタとして用いた場合、保護膜が剥離すると電気伝導性を低下させる要因となると共に、電気化学セルスタックの構造破壊要因となる。
【0032】
このような比較例1の保護膜に対して、実施例1の保護膜は図5に示すように、Coスピネル型酸化物を主体とする膜中に、図中矢印で示すように、Yを主体とする分散相が点在していることが観察された。保護膜中の空隙やSUS基板と保護膜との界面の空隙が減少していることが観察された。実施例の保護膜における空隙率は約6%であった。このように、保護膜中にYを主体とする分散相を点在させることによって、保護膜中及び保護膜とSUS基板との界面の空隙を減少させることができ、保護膜とSUS基板との密着性を向上させることができる。保護膜の形成にめっき法を適用しているため、施工性を高めることができる。従って、実施例1によれば、密着性と施工性に優れる保護膜付金属基板、及びそれを用いた固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタを提供することが可能となる。
【0033】
(実施例2)
金属基材としてSUS430製基板を用意した。このようなSUS基板をCoめっき浴中に浸漬して電気めっきを行った。めっき浴としては、Coめっき浴にY粒子を分散させためっき浴を使用した。Y粒子は、Coめっき膜のY元素量が1~2質量%となるように、Coめっき浴に添加した。膜厚が5μmのCoめっき膜のY元素量を蛍光X線分析法(X-ray Fluoresence:XRF)により測定したところ、1.83質量%であった。次いで、Y粒子を含むCoめっき膜を形成したSUS基板を700℃で10時間大気暴露し、Coめっき膜を酸化した。酸化後のCo膜は、Coで表されるCoスピネル型酸化物を主体とし、Y分散相が点在したCo酸化物膜であることが確認された。
【0034】
このようにして得たY分散相を含むCo酸化物膜付SUS基板の電気抵抗を測定した。電気抵抗は、Co酸化物膜にPt蒸着によりPt電極を形成し、700℃で四端子法により測定した。同様にして、比較例1により形成したY分散相を含んでいないCo酸化物膜付SUS基板の電気抵抗を同様にして測定した。これらの測定結果を図6に示す。図6から明らかなように、SUS基板にY分散相を含むCo酸化物膜を形成することによって、SUS基板に単なるCo酸化物膜(Y分散相を含んでいない)を形成した場合と比べて、電気抵抗を低下させることができることが確認された。従って、優れた特性を有する固体酸化物形電気化学セルスタック用インターコネクタを提供することが可能になる。
【0035】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0036】
1…インターコネクタ、2…金属基材、3…保護膜、31…保護膜本体、32…分散相、10…電気化学セルスタック、11,12…電気化学セル、13…第1電極、14…第2電極、15…固体酸化物電解質層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6