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特開2023-60050ポリ(アリーレン-エーテル-ケトン)(PAEK)から製造された組成物を安定化させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060050
(43)【公開日】2023-04-27
(54)【発明の名称】ポリ(アリーレン-エーテル-ケトン)(PAEK)から製造された組成物を安定化させる方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/335 20060101AFI20230420BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20230420BHJP
【FI】
C08G65/335
C08L71/12
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023030972
(22)【出願日】2023-03-01
(62)【分割の表示】P 2020200166の分割
【原出願日】2016-07-21
(31)【優先権主張番号】1556931
(32)【優先日】2015-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ル, ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】ビュッシ, フィリップ
(57)【要約】
【課題】PAEKをベースとする組成物を、溶融状態で、温度単独の影響下に限らず、熱酸化現象に対して安定化させる方法を提案すること。
【解決手段】本発明は、PAEKから製造された組成物を安定化するための方法であって、熱酸化現象に対する安定化剤を組み込む工程を含み、前記組み込まれた安定化剤がリン酸塩又はリン酸塩の混合物であることを特徴とする方法に関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱酸化の現象に対して安定化する剤を組み込む工程を含む、PAEKをベースとする組成物を安定化させるための方法であって、組み込まれる安定化剤がリン酸塩又はリン酸塩の混合物であることを特徴とする、方法。
【請求項2】
リン酸塩が、ドライブレンド、コンパウンディング、湿式含浸の技術のいずれか1つによって、又はPAEKポリマーを合成するためのプロセス中に、PAEKをベースとする組成物に組み込まれることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リン酸塩が、次の塩のうちの少なくとも1種、すなわちアンモニウム、ナトリウム、カルシウム、亜鉛、カリウム、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、バリウム、リチウム又は希土類のリン酸塩のうちの1種(又はそれ以上)のから選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
リン酸塩が、より具体的には、次の化合物、すなわち無水リン酸一ナトリウム、リン酸一ナトリウム一水和物又はリン酸一ナトリウムニ水和物、無水リン酸二ナトリウム、リン酸二ナトリウム二水和物、リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸二ナトリウム八水和物又はリン酸二ナトリウム十二水和物、六方晶系無水リン酸三ナトリウム、立方晶系無水リン酸三ナトリウム、リン酸三ナトリウム半水和物、リン酸三ナトリウム六水和物、リン酸三ナトリウム八水和物、リン酸三ナトリウム十二水和物又はリン酸二水素アンモニウムのうちの少なくとも1種から選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
リン酸塩が1種以上の有機金属リン酸塩であり、以下の式:
【化1】
{上式中、Rは、R’と異なっていてもいなくてもよく、R及びR’は、1~9個の炭素を有する1以上の基で置換されているか又は無置換の1以上の芳香族基で形成されており、R及びR’は場合により、互いに直接結合しているか、又は次の基:-CH-;-C(CH-;-C(CF-;-SO-;-S-;-CO-;-O-から選択される少なくとも1の基によって分離されており、Mは、周期律表のIA族又はIIA族の元素を表す}
を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
有機金属リン酸塩がリン酸2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ナトリウムであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
リン酸塩が10ppmから50000ppm、好ましくは100から5000ppmの割合で組成物に組み込まれることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
PAEKをベースとする組成物が、より具体的には次のポリマー:PEKK、PEEK、PEEKK、PEKEKK、PEEEK又はPEDEKのうちの1種をベースとする組成物であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
PAEKをベースとする組成物が、より具体的にはポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)組成物であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
PAEKをベースとする組成物が、より具体的にはPEKKをベースとする組成物であり、かつ、PEKKに加えて次のポリマー:PEK、PEEKEK、PEEK、PEEKK、PEKEKK、PEEEK、PEDEKのうちの少なくとも1を、組成物の50重量%未満、好ましくは組成物の30重量%以下の含有量で含む、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(アリーレンエーテルケトン)の分野に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、PAEKに基づく組成物の溶融状態での安定化方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリ(アリーレンエーテルケトン)(PAEK)の総称は、高い熱機械的特性を有する高性能ポリマーの族を指す。このようなポリマーは、酸素原子(エーテル)及び/又はカルボニル基(ケトン)によって連結された芳香環からなる。それらの特性は、主にエーテル/ケトン比によって決まる。PAEK族の物質を称するのに使用される略語で、文字Eはエーテル官能基を表し、文字Kはケトン官能基を表す。以後、本明細書において、これらの略語は、それらが指す化合物を称するのに慣習的な名称の代わりに使用される。
【0004】
PAEK族のグループは、より具体的には、次のように分類される:ポリ(エーテルケトン)(PEK)、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)、ポリ(エーテルケトンエーテルケトンケトン)(PEKEKK)、ポリ(エーテエーテルルケトンエーテルケトン)(PEEKEK)、ポリ(エーテルエーテルエーテルケトン)(PEEEK)、及びポリ(エーテルジフェニルエーテルケトン)(PEDEK)。
【0005】
これらのポリマーは、温度及び/又は機械的応力、さらには化学的応力の点で制限的な用途に使用される。これらのポリマーは、航空学、海洋掘削又は医療用インプラント等の様々な分野で見られる。これらは、性質及び用途に応じて、成形、押出、圧縮成形、コンパウンディング、射出成形、カレンダー加工、熱成形、回転成形、含浸、レーザー焼結又はその他、例えば一般的には320~430℃の温度で行われる熱溶解積層法(FDM)等の様々な既知の技術によって加工することができる。
【0006】
PAEKは、典型的には300℃を超える高い融点を有する。したがって、加工可能となるためには、PAEKは、典型的には320℃超、好ましくは350℃超、より一般的には350℃~390℃程度の高温で溶融されなければならない。当然、これらの温度は、当該のPARK構造及び粘度に依存する。先行技術では、当該PAEKの融点よりも少なくとも20℃高い温度でPAEKを溶融することが必要であると考えられる。
【0007】
しかし、そのような加工温度では、溶融PAEKは、その組成が最適化されていない場合、及び/又は構造を安定化させ得る添加物がない場合、熱酸化に関して安定ではない。やがて構造変化の現象が、鎖の末端又は欠損からの分枝及び/又はカップリングによって誘導される鎖切断及び/又は延長機構のいずれかによって証明される。このような欠損は、温度と大気からの二酸化炭素の影響下での酸化反応からのものであるか、又は既にポリマー中に存在するものである。このような構造変化は、ポリマーの架橋まで及ぶことがあり、また、二酸化炭素(CO)、一酸化炭素(CO)、フェノール、及び芳香族エーテルなどの化合物の放出にもつながる。このような構造変化の現象は、PAEKの物理化学的及び/又は機械的特性の低下と溶融粘度の変化をもたらす。これらの変化は、溶融状態での該ポリマーの加工をより困難にし、例えばポリマーを変形させるために用いられる機械の運転パラメーターのバリエーションのみならず、変形後に得られる製品の外観及び寸法のバリエーションにも影響を及ぼす。
【0008】
PAEK組成物を溶融状態で安定化させるための解決策は既に考えられているが、それでも完全に満足できるものではない。
【0009】
文献 米国特許第5208278号は、PAEKを安定化するための有機塩基の使用を記載している。この文献の著者によれば、そのような有機塩基は、ポリマー中の酸を掃去することを可能にする。実施例は溶融粘度のより良好な安定性を示すが、常に限られた、すなわち二酸素を含む環境が存在しない媒体中での場合を示す。さらに、そのような有機塩基はPAEKの変換温度で蒸発し、及び/又は揮発性有機化合物を生成することがあるため、該塩基の使用は問題である。
【0010】
文献 米国特許第3925307号に記載されているような金属酸化物タイプの安定化剤、又は米国特許第4593061号に記載されているようなアルミノケイ酸塩も、酸を掃去することを可能にするが、熱酸化に対する溶融ポリマーの安定性を十分に改善することはできず、それら自体が構造変化を起こす可能性がある。さらに、十分な安定性を達成するためには、それらの添加剤を非常に大量に添加する必要があり、それらの添加剤は、ポリマーの特性及びその加工に影響を与えるフィラー作用も有し得る。
【0011】
文献 米国特許第5063265号、同5145894号、及び国際公開第2013/164855号は、単独又は別の添加剤との相乗作用のいずれかで使用される、溶融PAEK組成物を安定化するための芳香族有機リン化合物の使用を記載している。文献 米国特許第5063265号は、PAEKを安定化するための、例えばホスホナイト、より具体的にはテトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビスホスホナイト(以後PEP-Qと称される)の使用、及び有機酸の使用を記載している。このような有機リン化合物は、比較的低い酸化度を有する。それらは、典型的には酸化数2又は3であり、したがって溶融ポリマー中の過酸化物基の還元剤の役割を担う。ホスホナイト又はホスファイトなどの芳香族有機リン化合物の主な欠点は、例えば、それらが加水分解に対して感受性があり、その結果、水性経路で又は合成プロセス中にそれらを組み込むことが非常に困難であるという点にある。加えて、それらは変換温度において十分に安定ではなく、結果としてそれらは、揮発性有機化合物を分解し、放出を生じる。
【0012】
例えば、含浸による構造複合体の製造の分野では、以下の3つの主要な経路が可能である。
- いずれの含浸も、ポリマーをその融点より高く、しばしば空気の存在下で溶融することによって行われる。したがって、ポリマーマトリックスは、熱酸化現象に対してあまり感受性であってはならないことが理解される。さらに、揮発性有機化合物が生成される場合、これは、最終複合材料の特性に有害であり得る多孔性の形成を伴う含浸における欠陥をもたらし得る。
- 又は溶媒経路が使用される。しかし、PAEKは、少数の、一般に高度に酸性の有機溶媒か又は高温条件下でジフェニルスルホンなどの重質溶媒にのみ溶解する。この種の溶媒を使用することの難しさに加えて、それを完全に除去することは非常に困難であり、これは揮発性有機化合物と同じ困難さを生じさせる可能性がある。
- 又は最後に、「Wet impregnation as route to unidirectional carbon fibre reinforced thermoplastic composites manufacturing(一方向炭素繊維強化熱可塑性複合体の製造経路としての湿式含浸)」というタイトルの文献(K.K.C.Ho et al., Plastics, Rubber and Composites, 2011, Vol. 40, No. 2, p. 100 -107)に記載されているように、PAEK粉末の水性懸濁液がより一般的に使用される。したがって、例えばPAEK粉末及び界面活性剤の懸濁液が使用され、これは、例えば炭素繊維又はガラス繊維上に堆積される。繊維をオーブンに通して水を蒸発させ、その後ポリマーが溶融して炭素繊維をコーティングするように、典型的には400℃を超える高温でダイに入れる。その後、得られた予備含浸したストリップを使用し、それらを再び高温で加熱することによって複合体を形成する。
【0013】
したがって、安定化剤が加水分解に対して感受性であり、熱劣化するという事実は、溶融ポリマーへの安定化剤の組み込み中及び/又はポリマーの高温加工中の問題を提起する。さらに、安定化剤の分解中に放出される揮発性有機化合物は、不快臭を有し、環境及び/又は健康に有害であり、製造中の複合材料の中に気孔を作り、完成した複合部品に機械的欠陥をもたらす。最後に、繊維の含浸中に放出された揮発性有機化合物はまた、繊維のコーティングを妨害し、そこから生じる材料に重大な機械的欠陥を生じる可能性がある。
【0014】
文献 国際公開第90/01510号は、リン酸塩の水溶液中のPAEK族のポリマーの粉末を高温及び加圧下で3時間処理して、不純物のレベルを低減することを記載している。その後、このようにして処理したポリマーを濾過し、水で3回洗浄し、その後16時間乾燥させる。この文献には、水溶性であるリン酸塩がポリマー粉末中に効果的に残留することが全く示されていない。さらに、記載されている処理は、実施するには煩雑で時間がかかり、付加的なもの(additivation)とは全く異なる。最後に、この文献では、密閉媒体でのみ安定性が評価されているため、熱酸化の現象に対して効果的であるとは全く述べられていない。実際に、リン酸塩は、ポリマーに含まれる酸及び塩化化合物を掃去するために、例えばポリスルホン又はポリ塩化ビニルなどの他のポリマーマトリックスに使用されていることが知られている。そのような使用は、例えば文献 米国特許第3794615号又はEP第0933395号、さもなければ米国特許出願公開第2013/0281587号に記載されているが、これらの事例でも、空気の存在下での安定化作用は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第5208278号
【特許文献2】米国特許第3925307号
【特許文献3】米国特許第4593061号
【特許文献4】米国特許第5063265号
【特許文献5】米国特許第5145894号
【特許文献6】国際公開第2013/164855号
【特許文献7】国際公開第90/01510号
【特許文献8】米国特許第3794615号
【特許文献9】EP第0933395号
【特許文献10】米国特許出願公開第2013/0281587号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】K.K.C.Ho et al., Plastics, Rubber and Composites, 2011, Vol. 40, No. 2, p. 100 -107
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
[技術的問題]
したがって本発明の目的は、PAEKをベースとする組成物を、溶融状態で、温度単独の影響下に限らず、熱酸化現象に対して安定化させる方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
驚くべきことに、熱酸化の現象に対して安定化する剤を組み込む工程を含むポリ(アリーレンエーテルケトン)(PAEK)をベースとする組成物の安定化のための方法が発見され、前記方法は、組み込まれる安定化剤がリン酸塩又はリン酸塩の混合物であること、該安定化剤が空気の存在下でさえ揮発性有機化合物を放出することなく、溶融状態で熱酸化に対して非常に高い安定性を有する、PAEKをベースとする組成物を得ることを可能することを特徴とし、この使用される安定化剤は、高温、典型的には350℃より高い温度で非常に安定であり、かつ、加水分解に対して感受性ではない。リン酸塩は主に水に可溶であるため、それをPAEKをベースとする組成物に組み込むのは容易である。
【0019】
有利には、リン酸塩は、ドライブレンド、コンパウンディング、湿式含浸の技術のいずれか1つによって、又はPAEKポリマーを合成するためのプロセス中に、PAEKをベースとする組成物に組み込まれる。
【0020】
本方法の他の任意の特徴によれば、
- リン酸塩は、次の塩うちの少なくとも1種、すなわちアンモニウム、ナトリウム、カルシウム、亜鉛、カリウム、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、バリウム、リチウム又は希土類のリン酸塩のうちの1種(又はそれ以上)から選択され;
- より具体的には、リン酸塩は、次の化合物:無水リン酸一ナトリウム、リン酸一ナトリウム一水和物又はリン酸一ナトリウムニ水和物、無水リン酸二ナトリウム、リン酸二ナトリウム二水和物、リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸二ナトリウム八水和物又はリン酸二ナトリウム十二水和物、六方晶系無水リン酸三ナトリウム(anhydrous hexagonal trisodium phosphate)、立方晶系無水リン酸三ナトリウム、リン酸三ナトリウム半水和物、リン酸三ナトリウム六水和物、リン酸三ナトリウム八水和物、リン酸三ナトリウム十二水和物又はリン酸二水素アンモニウムのうちの少なくとも1種から選択され;
- リン酸塩は、1種(又はそれ以上)の有機金属リン酸塩であり、次の式;
【化1】
{式中、Rは、R’と異なっていてもいなくてもよく、R及びR’は、1~9個の炭素を有する1以上の基で置換されているか又は無置換の1以上の芳香族基で形成されており、R及びR’は場合により、互いに直接結合しているか、又は以下の基:
-CH-;
-C(CH-;-C(CF-;-SO-;-S-;-CO-;-O-
から選択される少なくとも1の基によって分離されており、Mは、周期律表のIA族又はIIA族の元素を表す}を有し;
- 有機金属リン酸塩は、リン酸2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ナトリウムであり;
- リン酸塩は、10ppmから50000ppm、好ましくは100から5000ppmの割合で組成物に組み込まれ;
- より具体的には、PAEKをベースとする組成物は、以下のポリマー:PEKK、PEEK、PEEKK、PEKEKK、PEEEK又はPEDEKの1をベースとする組成物であり;
- より具体的には、PAEKをベースとする組成物は、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)組成物であり;
- より具体的には、PAEKをベースとする組成物は、PEKKをベースとする組成物であり、PEKKに加えて、以下のポリマー:PEK、PEEKEK、PEEK、PEEKK、PEKEKK、PEEEK、PEDEKの少なくとも1を組成物の50重量%未満、好ましくは組成物の30重量%以下の含有量で含む。
【0021】
本発明の他の利点及び特徴は、以下の添付の図面を参照して、例示的かつ非限定的な例として示している下記の説明を読むことで明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】振動レオメーターで測定した、窒素下の非安定化参照生成物の時間の関数としての複素粘度の曲線を表す。
図2】比較のために使用される参照安定化剤の温度の関数としての熱重量曲線を表す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明で使用されるポリ(アリーレンエーテルケトン)(PAEK)は、以下の式:
(-Ar-X-)及び(-Ar-Y-)
の単位を含み、上式中、
Ar及びArは各々、二価の芳香族ラジカルを表し;
Ar及びArは、好ましくは1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、4,4’-ビフェニレン、1,4-ナフチレン、1,5-ナフチレン、及び2,6-ナフチレンから選択され;
Xは、電子求引性基を表し、好ましくはカルボニル基及びスルホニル基から選択され;
Yは、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基(-CH-及びイソプロピリデンなど)から選択される基を表し;
これらの単位X及びYにおいて、基Xの少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より具体的には少なくとも80%がカルボニル基であり、基Yの少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より具体的には少なくとも80%が酸素原子である。
好ましい実施態様によれば、基Xの100%がカルボニル基を表し、基Yの100%が酸素原子である。
【0024】
より優先的には、ポリ(アリーレンエーテルケトン)(PAEK)は、以下から選択される。
- 以下の式IA、式IBの単位及びそれらの混合物を含むポリ(エーテルケトンケトン)(PEKKとも称される)
【化2】
- 以下の式IIAの単位を含むポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEKとも称される)
【化3】
同様に、以下の式IIBの通り、エーテル及びケトンにおいて、これらの構造にパラ配列(para sequence)を導入することも可能である。
【化4】
配列は完全にパラであってもよいが、以下のように部分的に又は完全にメタ配列を導入することも可能である。
【化5】
あるいは
【化6】
又は、以下の式Vのオルト配列
【化7】
- 以下の式VIの単位を含むポリ(エーテルケトン)(PEKとも称される)
【化8】
同様に、配列は完全にパラであってもよいが、部分的に又は完全にメタ配列(以下の式VII及びVIII)を導入することも可能である。
【化9】
又は
【化10】
- 以下の式IXの単位を含むポリ(エーテルエーテルケトンケトン)(PEEKKとも称される)
【化11】
同様に、以下の式IIBの通り、エーテル及びケトンにおいて、これらの構造にパラ配列を導入することも可能である。
- 以下の式Xの単位を含むポリ(エーテルエーテルエーテルケトン)(PEEEKとも称される)
【化12】
同様に、以下の式XIの通り、エーテル及びケトンにおいて、これらの構造にメタ配列だけでなくビフェノール配列も導入することが可能である。
【化13】
【0025】
カルボニル基及び酸素原子の他の配置も可能である。
【0026】
本発明の主題である組成物は、PAEKをベースとする。より具体的には、該組成物は、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)をベースとする組成物である。
【0027】
1つの変形実施態様によれば、PAEKをベースとする組成物はまた、以下のポリマーのいずれか1をベースとする組成物であってもよい。PEEK、PEEKK、PEKEKK、PEEEK又はPEDEK
【0028】
PAEKをベースとする組成物はまた、PAEK族のポリマーの混合物をベースとする組成物であってもよい。したがって、該組成物は、PAEKをベースとすることができ、かつ、PEKKに加えて次のポリマー:PEK、PEEKEK、PEEK、PEEKK、PEKEKK、PEEEK、PEDEKの少なくとも1を、組成物の50重量%未満、好ましくは組成物の30重量%以下の含有量で含む。
【0029】
有利には、本発明によるPARK組成物は、該組成物へのリン酸塩の組み込みによって、溶融状態で安定である。
【0030】
本明細書において、「溶融状態で安定なポリマー」とは、溶融時に構造がほとんど変化しないポリマーを意味し、その物理化学的特性、特に粘度は限られた範囲内でしか変化しない。より詳細には、ポリマーは、380℃で、又は融点が370℃より高い場合には融点よりも20℃高い温度で、振動数1Hzで振動レオメーターによって窒素下で測定し、溶融状態での粘度の変化が30分で100%未満、特に50%未満、特に20%未満、最も具体的には-20%から+20%の間である場合、窒素下、溶融状態で安定であると考えられる。同様に、ポリマーは、空気下であることと、振動数が0.1Hzであること以外は上記の通りに測定し、溶融状態での粘度の変化が30分で150%未満、特に100%未満、特に50%未満、最も具体的には-20%から+50%の間である場合、空気下、溶融状態で安定であると考えられる。
【0031】
一変形によれば、組成物に組み込まれる安定化剤は、リン酸塩の混合物であってもよい。
【0032】
実際に、そのようなリン酸塩は空気下でも窒素下でも溶融状態でのPAEK組成物の安定化を可能にすることができることが発見されている。空気下、溶融状態でPAEKを安定化させるこの効果は非常に驚くべきものであり、熱酸化現象に対して、溶融状態でPAEKを安定化させるためにリン酸塩を組み込むことを選択することは、当業者にとって直感的に理解できることではなかった。実際、リン酸塩は最大の酸化度を有し、その結果、酸化防止剤であることは知られていない。しかし、空気中の酸素の存在下では、溶融状態で熱酸化の現象に対してポリマーを安定化させることができる。実際、組成物は溶融状態で、リン酸塩を含まない同一の組成物と比較して、より安定した粘度が得られており、これは特に分枝現象による鎖延長の現象がより限定されていることを意味する。
【0033】
したがってリン酸塩は、空気の存在下でさえ、芳香族有機リン化合物と同等の高い効力で、PAEK組成物を溶融状態で安定化させる作用剤として存在する。そうでなくとも、リン酸塩は、加水分解せず、揮発性有機化合物の放出も全く生じないため、芳香族有機リン化合物と比較してかなりの利点を有する。リン酸塩が水和形態で存在するか、又はリン酸塩が二量体化するような特定の場合には、水のみが生成され得る。
【0034】
有利には、1種以上のリン酸塩をPAEKをベースとする組成物に組み込むことができる。リン酸塩は、有利には、アンモニウム、ナトリウム、カルシウム、亜鉛、アルミニウム、カリウム、マグネシウム、ジルコニウム、バリウム、リチウム又は希土類リン酸塩のうちの1種(又はそれ以上)から選択される。好ましくは、リン酸塩は、1種(又はそれ以上)の無機又は有機金属リン酸塩である。
【0035】
より具体的には、リン酸塩は、次の化合物:無水リン酸一ナトリウム、リン酸一ナトリウム一水和物又はリン酸一ナトリウムニ水和物、無水リン酸二ナトリウム、リン酸二ナトリウム二水和物、リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸二ナトリウム八水和物又はリン酸二ナトリウム十二水和物、六方晶系無水リン酸三ナトリウム、立方晶系無水リン酸三ナトリウム、リン酸三ナトリウム半水和物、リン酸三ナトリウム六水和物、リン酸三ナトリウム八水和物、リン酸三ナトリウム十二水和物及び/又はリン酸二水素アンモニウムのうちの少なくとも1から選択される。
【0036】
使用されるリン酸塩又はリン酸塩の混合物が1種(又はそれ以上)の有機金属リン酸塩である場合、それは以下の式を有する。
【化14】
{上式中、Rは、R’と異なっていてもいなくてもよく、R及びR’は、1~9個の炭素を有する1以上の基で置換されているか又は無置換の1以上の芳香族基で形成されており、R及びR’は場合により、互いに直接結合しているか、又は次の基:-CH-;-C(CH-;-C(CF-;-SO-;-S-;-CO-;-O-から選択される少なくとも1の基によって分離されており、Mは、周期律表のIA族又はIIA族の元素を表す。}
【0037】
さらに好ましくは、有機金属リン酸塩は、リン酸2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ナトリウムである。
【0038】
好ましくは、リン酸塩又はリン酸塩の混合物は、10ppmから50000ppm、さらにいっそう好ましくは100から5000ppmの割合でPAEKをベースとする組成物に組み込まれる。
【0039】
PAEKをベースとする組成物へのリン酸塩の組み込みに関連する別の驚くべき効果は、リン酸塩が核形成剤として作用することを可能にするという事実にある。標準的な変形条件下で、又は例えばレーザー焼結で結晶化可能な生成物を生成させ、それにより半晶質PEKKを有するように結晶化速度を上げることは、耐薬品性などの特定の特性にとって有利である。さらに、そのような核形成剤は、ポリマーの処理条件にかかわらずポリマーの機械的特性の一貫性を確保するために、ポリマーの結晶形態、特に結晶領域の大きさ(又は球晶)を制御することを可能にする。
【0040】
本発明はまた、PAEKをベースとする組成物を溶融状態で安定化させるための方法に関し、前記方法は、熱酸化の現象に対して安定化する剤を組み込む工程を含み、組み込まれる安定化剤がリン酸塩又はリン酸塩の混合物であることを特徴とする。
【0041】
リン酸塩は、ドライブレンド、コンパウンディング、湿式含浸の技術のいずれか1つによって、又はPAEKポリマーを合成するためのプロセス中に、PAEKをベースとする組成物に組み込むことができる。
【0042】
PAEKを合成するための方法は一般に、重縮合からなる。合成は、2つの経路、すなわち重合工程中にエーテル結合が形成される求核経路、又は重合工程中にカルボニル架橋が形成される求電子経路に従って行われ得る。例えばPEKKは、DPE(ジフェニルエーテル)と塩化テレフタロイル及び/又は塩化イソフタロイルとの間のフリーデルクラフツ重縮合反応の結果として生じる。
【0043】
PAEKをベースとする安定化組成物が、それを得るためのプロセス中にPAEKの含浸により得られる場合、このリン酸塩溶液によるPAEKの含浸は、PAEKの重合の後、その乾燥の前に行われる。溶媒は、PAEK粒子の少なくとも50%を構成する溶媒相に可溶である一方で、金属リン酸塩を溶解することができるように選択される。この含浸は、均質化を促進するために、有利には撹拌しながら実施される。有利には、水で湿ったPAEK及び金属リン酸塩水溶液が選択される。
【0044】
PAEKをベースとする安定化組成物は、有利には二軸押出機、共混練機又は内部ミキサー等の当業者にとって既知の装置で調合することにより、粒状で得ることができる。
【0045】
その後、このようにして調製された組成物は、射出成形機、押出機、レーザー焼結機等の装置を通って、当業者に知られている用途又は次の変形のために変形され得る。
【0046】
本発明による組成物を調製するための方法はまた、当業者に知られている処理装置に応じて、二軸押出機フィーディング(中間造粒なし)、射出成形機又は押出機を使用することができる。
【0047】
PAEKをベースとする安定化組成物はまた、例えばドライブレンドによって、粉末形態で得ることができる。したがって、PAEKをリン酸塩と混合し、その後この混合物を、例えば押出機などの適切な装置内で攪拌しながら、PAEKの融点を超えて加熱する。
【0048】
PAEKをベースとする安定化組成物は、湿式ブレンドによっても得ることができる。この目的のために、乾燥PAEKに金属リン酸塩溶液を含浸させる。この溶液は、リン酸塩が水溶性であれば、好ましくは水性である。混合は、均質化を促進するために、好ましくは撹拌しながら実施される。その後、混合物を乾燥させ、それにより溶媒を除去する。
【0049】
粒状であれ粉末状であれ、得られた組成物を使用することで、例えばレーザー焼結、射出成形又は押出、熱成形、回転成形、圧縮成形あるいは含浸等の技術によって種々の物体を製造することができる。
【0050】
例えば、予備含浸された複合ストリップ(テープとも呼ばれる)を製造するための湿式含浸は、例えばPAEK粉末及びリン酸塩の水性分散体を炭素又はガラス繊維上に堆積させることからなる。より具体的には、分散体は、水溶液中に例えばPEKK粉末及びリン酸塩、並びに界面活性剤を含んでもよい。その後、このようにして水性分散体で覆われた繊維をオーブンに入れて水を蒸発させる。その後、安定化PEKKポリマーを溶融させることができ、それにより繊維を正確にコーティングすることができるように、それらを高温、典型的には370℃より高い温度でダイに通す。冷却後、テープ又は予備含浸されたストリップが得られ、それはその後、組み立て及び/又は重ね合わせることによって、再溶融させ複合体を形成するために使用される。
【0051】
リン酸塩の主な利点の1つは、例えば350℃以上の非常に高い温度に加熱しても、揮発性有機化合物の放出を生じさせず、ただ、蒸気の形態で水を失うだけである。結果として、リン酸塩は、環境及び/又は健康に対するいかなるリスクももたらさず、また、繊維のコーティングを妨害し、及び/又は最終的に製造された物体に欠陥を生じさせるおそれがあり、ひいては機械的特性の低下をもたらすおそれのある気孔を作らない。
【0052】
上に記載のPAEK及びリン酸塩をベースとする組成物は、本発明による組成物及び任意選択的に他の添加剤、フィラー又はその他のポリマーを含む均質ブレンドを得ることを可能にする、任意の既知の方法によって調製することができる。このような方法は、ドライブレンド(例えばロールミルを使用する)、溶融押出、コンパウンディング又は湿式含浸の技術から選択されてもよく、又はポリマーの合成プロセス中であってもよい。
【0053】
より具体的には、本発明による組成物は、その全成分を、特に「直接」法で溶融ブレンド することにより調製され得る。
【0054】
例えば、コンパウンディングは、溶融によりプラスチック材料、並びに/又は添加剤及び/又はフィラーを混合することを可能にする方法である。本発明の組成物を製造するために、粒状で存在する出発材料を共回転二軸押出機に入れる。
【実施例0055】
以下の実施例は、本発明の範囲を非限定的に説明するものである。
実施例1:窒素下での粘度の測定
【0056】
PEKKをベースとするいくつかの組成物を調製した。安定化剤を含まない、PEKKの対照組成物Cを、重縮合反応による従来の合成方法によって調製した。
【0057】
PEKKをベースとする第2の組成物(参照番号C1)を、湿式含浸によって調製し、下記の式(1)のPEP-Q(テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビスホスホナイト)を1000ppmの量で組み込んだ。このホスホナイトは、PEKK組成物の安定化についての比較例として使用される。
【化15】
【0058】
PEKKをベースとする第3の組成物(参照番号C2)を、水性含浸によって調製し、下記の式(2)の無水リン酸一ナトリウム(NaHPO)(リン酸二水素ナトリウムとも呼ばれる)を1000ppmの量で組み込んだ。
【化16】
【0059】
PEKKをベースとする第4の組成物(参照番号C3)を、第2及び第3の組成物と同じ方法で、水性含浸によって調製し、下記の式(3)のトリメタン酸ナトリウム(Na)(無水リン酸三ナトリウムとも呼ばれる)を1000ppmの量で組み込んだ。
【化17】
【0060】
PEKKをベースとする第5の組成物(参照番号C4)を、上記組成物と同じ方法で、アセトン含浸によって調製し、下記の式(4)の有機リン酸塩、より具体的にはリン酸トリフェニルを1000ppmの量で組み込んだ。
【化18】
【0061】
その後、これらの組成物C~C4の溶融粘度を、380℃、窒素下、振動数(応力とも呼ばれる)1Hz、ひずみ振幅0.5%で、振動レオメーターを用いて時間の関数として測定した。
【0062】
図1の曲線は、このようにして測定されたPEKKの対照組成物Cの粘度を表す。初期粘度及び30分後の粘度から、経時的なポリマーの安定性を算出し、380℃での粘度の変化率(EV%)として表す。ポリマーの安定性は、以下の式によって算出される。
EV%=(30分時点の粘度-初期粘度)/初期粘度×100
【0063】
図1の曲線から、窒素下、1Hzの応力での、PEKKベースのポリマーに基づく対照組成物Cの粘度EVの変化率として表される安定性が160%に等しいことがわかる。
【0064】
以下の表Iは、安定化剤の有無にかかわらず、湿式含浸によって得られた異なる組成物C~C4の窒素下での安定性(EV%)に関するデータをまとめたものである。
【表1】
【0065】
表Iに示す結果から、PEKKをベースとする組成物中にリン酸塩が存在すると、対照組成物Cとは異なり、経時的により安定な粘度を有する溶融状態の組成物を得ることが可能であり、その粘度は時間と共に急速に増加し、鎖延長を示し、ゆえにポリマーの特徴の有意な変化を示していることがわかる。
【0066】
有機リン酸塩(組成物C4中)はリン酸塩に比べて効果が低いが、PEKKの対照組成物Cよりも安定な粘度を有する溶融状態の組成物を得ることも可能にする。
実施例2:窒素下及び空気下での粘度の測定
【0067】
PEKKをベースとするいくつかの化合物をコンパウンディング技術により調製した。押出機を用い、PEKKをベースとしたくいくつかの組成物から異なる化合物を製造する。380℃、窒素下及び空気下での、異なる組成物の挙動を比較した。
【0068】
粒状で、かつ、いかなる安定化剤も含まない、PEKKの第1の対照組成物Cを調製した。
【0069】
PEKKをベースとする第2の組成物(参照番号C5)を、コンパウンディング技術によって調製し、上記の式(1)のリン酸一ナトリウム(NaHPO)を1000ppmの量で組み込んだ。
【0070】
PEKKをベースとする第3の組成物(参照番号C6)を、コンパウンディング技術によって調製し、上記の式(3)の無水リン酸三ナトリウム(Na)を1000ppmの量で組み込んだ。
【0071】
PEKKをベースとする第4の組成物(参照番号C7)を、コンパウンディング技術によって調製し、下記の式(5)のADK STAB NA-11UH PEP-Q(リン酸2,2’-メチレン-ビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ナトリウム)を1000ppmの量で組み込んだ。
【化19】
【0072】
その後、これらの組成物C C5、C6及びC7の溶融粘度を、380℃、窒素下、その後空気下でそれぞれ1Hzと0.1Hzの振動数(応力とも呼ばれる)、ひずみ振幅0.5%で、振動レオメーターを用いて時間の関数として測定した。
【0073】
以下の表IIは、安定化剤の有無にかかわらず、コンパウンディングによって得られた異なる組成物の窒素下及び空気下での安定性(EV%)に関するデータをまとめたものである。
【表2】
【0074】
表IIの結果から、リン酸塩はPEKKの優れた安定化剤であり、窒素下でも空気下でも同等であることがわかる。安定化の最も驚くべき現象は、空気中でさえ、溶融状態で測定された粘度が比較的安定したままであるという事実にある。したがって、リン酸塩は、空気の存在下であっても、熱酸化の現象に対して非常に有効な安定化剤である。
実施例3:組み込まれたリン酸塩の比率の影響
【0075】
PEKKをベースとするいくつかの組成物を調製した。安定化剤を含まない、PEKKの対照組成物Cを、重縮合反応による従来の合成方法によって調製した。他の組成物はPEKKをベースとし、それぞれが異なる含有量で無水リン酸三ナトリウムを含む。
【0076】
比較組成物は、水性含浸によって調製される。
【0077】
以下の表III中の参照番号C8の組成物は500ppmの無水リン酸三ナトリウムを含むのに対し、参照番号C9の組成物は、それを1000ppm含み、参照番号C10の組成物は、それを3000ppm含む。
【0078】
その後、これらの組成物C、C8、C9及びC10の溶融粘度を、380℃、窒素下、応力1Hz、ひずみ振幅0.5%で、振動レオメーターを用いて時間の関数として測定した。
【0079】
以下の表IIIは、これらの異なる組成物の窒素下の安定性(EV%)に関するデータをまとめたものである。
【表3】
【0080】
この表3から、溶融状態での組成物の粘度の経時的な安定性は、リン酸塩の含有量と共に増加することがわかる。
実施例4:カチオンの影響
【0081】
PEKKをベースとするいくつかの組成物を調製した。安定化剤を含まない、PEKKの対照組成物Cを、重縮合反応による従来の合成方法によって調製した。他の組成物はPEKKをベースとし、それぞれが異なる対アニオンを有するリン酸二水素塩を含む。
【0082】
以下の表IV中の参照番号C11の組成物は、1000ppmの(上記式(1)の)無水リン酸二水素ナトリウムを含み、一方、参照番号C12の組成物は、1000ppmのリン酸二水素アンモニウムを含む。
【0083】
その後、これらの組成物C、C11、及びC12の溶融粘度を、380℃、窒素下、応力1Hz、ひずみ振幅0.5%で、振動レオメーターを用いて時間の関数として測定した。
【0084】
以下の表IVは、これらの異なる組成物の窒素下の安定性(EV%)に関するデータをまとめたものである。
【表4】
【0085】
この表IVから、PEKKをベースとする組成物中にン酸二水素アンモニウム又は無水リン酸二水素ナトリウムが存在すると、対照組成物Cとは異なり、経時的により安定な粘度を有する溶融状態の組成物を得ることが可能であり、その粘度は時間と共に急速に増加し、鎖延長を示し、ゆえにポリマーの特徴の有意な変化を示していることがわかる。
実施例4:熱安定性
【0086】
さらに、PAEKをベースとする組成物に組み込まれるリン酸塩は、熱的に非常に安定である。実際、リン酸塩については、測定された重量損失は、水の損失に相当する。例えばリン酸一ナトリウムを用いると、その後に起こる現象は、以下の式(A)の通り、脱水及び二量体化である。
【化20】
【0087】
一方、PEP-Qも、200℃程度の温度で分解して有機化合物を放出し始める。
【0088】
図2のグラフに示される温度T(℃)の関数としての熱重量(TG)曲線により、水の損失によるリン酸塩の重量損失が説明され得る一方、ホスホナイトPEP-Qは、200℃から急速に分解し、揮発性有機化合物を放出する。
【0089】
したがって、リン酸塩は、熱酸化現象に対する高い安定性も兼ね備えた高い熱安定性を有する。
【0090】
実施例5:リン酸塩の追加の核形成効果
【0091】
結晶化の試験を、以下の表Vに列挙した、異なる組成の異なる試料(参照番号E1~E4)で実施した。
【0092】
DSCと記される示差走査熱量測定により結晶化の試験を実施する。DSCは、分析する試料と参照試料との間の熱交換の差異を測定することを可能にする熱分析技術である。
【0093】
この結晶化試験を実施するために、TA Instrumentsの装置Q2000を使用した。この試験は、非等温及び等温結晶化で実施した。
【0094】
試験試料は、粒状である。参照番号E1のPEKKをベースとする対照試料を、PEKKとリン酸塩を同じ比率でベースとしている試料E2及びE3と比較する。異なる試料が、より詳細に以下の表Vに記載されている。
[非等温結晶化]
【0095】
異なる試料E1~E3による、非等温条件でのDSCに関するプロトコールは第一に、温度を20℃で安定させることにある。その後、温度を、毎分20℃の勾配で380℃まで徐々に上げ、その後毎分20℃の逆勾配によって徐々に下げて再び20℃にする。
【0096】
結晶化は、冷却工程中に試験する。熱流量を温度関数として測定し、各試験試料について、温度の関数としての熱流量の変化を表す曲線を得る。その後、Tcと記され、摂氏で表わされる結晶化温度は、対応する曲線の最大値を横軸に投影することにより、各試料について決定される。この決定は、使用するDSC装置で直接実施される。E1~E3の各試料について測定された結晶化温度Tcを、以下の表Vに示す。
[等温結晶化]
【0097】
半結晶化時間を測定するために、試料E1~E3について等温条件下でもDSC分析を実施した。この目的のために、等温DSCのプロトコールは、次の3つの工程を含む。すなわち第1の工程は、まず温度を20℃で安定させることにあり、続いて第2の工程は、その温度を毎分20℃の勾配で380℃まで徐々に上げることにある。最後に、その温度を毎分20℃の勾配により380℃から315℃まで下げ、その後温度を315℃で1時間安定させる。
【表5】
【0098】
表Vの得られた結果から、半結晶化時間は対照PEKK顆粒の試料E1の場合、約3.1分であることがわかる。ポリマーの半結晶化時間は、当該ポリマーの50%の結晶化に必要な時間である。
【0099】
結晶化温度が上昇する間、組成がリン酸塩を含む試料E2及びE3の半結晶化時間が短縮される。この現象は、リン酸塩の核形成効果に起因する。したがって、このような組成により得られる大きな棒について、核形成効果は、大きな結晶領域の出現を回避し、良好な機械的特性を得ることを可能にする。
【0100】
射出成形又は押出での使用を目的とした顆粒に関しては、加速された結晶化により、結晶形態、特に球晶の大きさを制御することが可能になり、それによって特定の機械的特性及び球晶の大きさの一貫性が保証される。
【0101】
水性含浸経路での使用を目的とした顆粒に関しては、水和リン酸塩(hydrated phosphate salt)を組成物中に使用することができる。しかし、組成物のその後の処理中に水が放出され、組成物の物理的特性に悪影響を及ぼす可能性があるため、無水リン酸塩が好ましい。
【0102】
したがってリン酸塩は、PAEKの、より具体的には、限定的ではないがPEKKの良好な安定化剤である。これらのリン酸塩はまた、いくつかの非常に有利な効果も併せ持つ。実際、リン酸塩は、空気の有無にかかわらず温度安定性を提供し、かつ、ホスファイト又はPEP-Qのようなホスホナイトなどの他のリン系安定化剤とは異なり、加水分解に対しても安定であり、揮発性有機化合物は生成せず、単に水蒸気を生じるのみである。リン酸塩はまた、変形に対する安定化剤の全ての優れた効果を併せ持つ。すなわち、変形中の色の変化を制限することを可能にし、溶融状態の構造の安定性を向上させ、ポリマー鎖の変化を有意に減少させ、それによって材料の結晶性及び機械的特性を保持することが可能になる。最後に、リン酸塩は、核形成剤及び残留酸の調節剤(緩衝剤効果)として作用し、その結果、装置を腐食から保護するのにも役立つ可能性がある。
【0103】
リン酸塩はまた、水溶液への含浸又はドライブレンドのいずれかによって、あるいはコンパウンディングによって、PAEKポリマーに容易に組み込むことができる。
【0104】
リン酸塩は、例えば他の安定化剤及び/又は核形成剤などの他の添加剤と、連続又は分散フィラー及びの存在下で、及び可塑剤の存在下で相乗的に使用することができる。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-03-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(アリーレンエーテルケトン)(PAEKをベースとする組成物であって、前記組成物がリン酸ナトリウム塩又はリン酸ナトリウム塩の混合物を含み、前記組成物中の前記リン酸ナトリウム塩又はリン酸塩の混合物の割合は100ppmから5000ppmである、組成物
【請求項2】
前記PAEKをベースとする組成物が、より具体的には次のポリマー:PEKK、PEEK、PEEKK、PEKEKK、PEEEK又はPEDEKのうちの1種をベースとする組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記PAEKをベースとする組成物が、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)組成物である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記PAEKをベースとする組成物が、PEKKをベースとする組成物であり、かつ、PEKKに加えて次のポリマー:PEK、PEEKEK、PEEK、PEEKK、PEKEKK、PEEEK、PEDEKのうちの少なくとも1種を、前記組成物の50重量%未満の含有量で含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも1種のフィラー及び/又は少なくとも1種の他の添加剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
溶融状態で安定である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記リン酸ナトリウム塩又はリン酸ナトリウム塩の混合物が前記組成物内中で核形成剤としても作用する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記リン酸ナトリウム塩は、次の化合物:無水リン酸一ナトリウム、リン酸一ナトリウム一水和物又はリン酸一ナトリウム二水和物、無水リン酸二ナトリウム、リン酸二ナトリウム二水和物、リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸二ナトリウム八水和物又はリン酸二ナトリウム十二水和物、六方晶系無水リン酸三ナトリウム、立方晶系無水リン酸三ナトリウム、リン酸三ナトリウム半水和物、リン酸三ナトリウム六水和物、リン酸三ナトリウム八水和物、リン酸三ナトリウム十二水和物のうちの少なくとも1種から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記リン酸ナトリウム塩は、次の化合物:無水リン酸一ナトリウム、リン酸一ナトリウム一水和物又はリン酸一ナトリウム二水和物、無水リン酸二ナトリウム、リン酸二ナトリウム二水和物、リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸二ナトリウム八水和物又はリン酸二ナトリウム十二水和物のうちの少なくとも1種から選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記リン酸ナトリウム塩又はリン酸塩の混合物は、無水リン酸一ナトリウムを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記リン酸ナトリウム塩は、1種以上の有機金属リン酸塩であり、以下の式:
【化1】
{上式中、Rは、R’と異なっていても異なっていなくてもよく、R及びR’は、1~9個の炭素を有する1以上の基で置換されているか又は無置換の1以上の芳香族基で形成されており、R及びR’は場合により、互いに直接結合しているか、又は次の基:-CH -;-C(CH -;-C(CF -;-SO -;-S-;-CO-;-O-から選択される少なくとも1の基によって分離されており、Mは、ナトリウムカチオンを表す}
を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記リン酸ナトリウム塩がリン酸2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ナトリウムである、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記リン酸ナトリウム塩がその水性溶液の湿式含浸によって前記組成物中に組み込まれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記リン酸ナトリウム塩が水溶性である、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
粉末状又は粒状の形態である、請求項1に記載の組成物。
【外国語明細書】