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特開2023-60477微生物・ウィルス殺菌空調装置及び微生物・ウィルス殺菌空調方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023060477
(43)【公開日】2023-04-28
(54)【発明の名称】微生物・ウィルス殺菌空調装置及び微生物・ウィルス殺菌空調方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/16 20060101AFI20230421BHJP
   A61L 2/12 20060101ALI20230421BHJP
   A61L 9/18 20060101ALI20230421BHJP
【FI】
A61L9/16 F
A61L2/12
A61L9/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021170109
(22)【出願日】2021-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 直樹
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 幸基
【テーマコード(参考)】
4C058
4C180
【Fターム(参考)】
4C058AA30
4C058BB06
4C058KK04
4C058KK26
4C180AA07
4C180DD05
4C180DD09
4C180HH05
4C180LL04
(57)【要約】
【課題】微生物またはウィルスを捕捉したフィルタに高周波を均一に照射して、微生物またはウィルスの殺菌等の処理を安定化させることができる。
【解決手段】室内空気1中に浮遊する微生物またはウィルスを室内空気と共に吸引する吸引機構11と、微生物またはウィルスを捕捉する非多孔質体から構成されたHEPAフィルタ20を備え吸引機構11に接続されたフィルタユニット12と、微生物またはウィルスを捕捉したHEPAフィルタに高周波2を照射する高周波照射機構13と、HEPAフィルタに対する高周波の照射方向を変更させる照射方向変更機構14と、を有して構成されたものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中に浮遊する微生物またはウィルスを前記空気と共に吸引する吸引機構と、
前記微生物または前記ウィルスを捕捉する非多孔質体から構成されたフィルタを備え前記吸引機構に接続されたフィルタユニットと、
前記微生物または前記ウィルスを捕捉した前記フィルタに高周波を照射する高周波照射機構と、
前記フィルタに対する前記高周波の照射方向を変更させる照射方向変更機構と、を有して構成されたことを特徴とする微生物・ウィルス殺菌空調装置。
【請求項2】
前記照射方向変更機構は、高周波の波長の1/10よりも小さな曲率半径の湾曲部を備え且つフィルタユニット内に配置された可動板と、この可動板に運動を行わせる可動板駆動機構と、を有して構成されたことを特徴とする請求項1に記載の微生物・ウィルス殺菌空調装置。
【請求項3】
前記可動板が金属製であり、この可動板の周囲が放電防止部材で覆われて構成されたことを特徴とする請求項2に記載の微生物・ウィルス殺菌空調装置。
【請求項4】
前記放電防止部材が、樹脂またはガラスにて構成されたことを特徴とする請求項3に記載の微生物・ウィルス殺菌空調装置。
【請求項5】
前記照射方向変更機構は、高周波照射機構の導波管とフィルタユニットとの接続箇所に配置されると共に開口を備えた変更板と、この変更板に運動を行わせて前記開口を通過する高周波の向きを変更させる変更板駆動機構と、を有して構成され、前記開口の開口寸法の最大値が、前記高周波の波長の1/20よりも大きく設定されたことを特徴とする請求項1に記載の微生物・ウィルス殺菌空調装置。
【請求項6】
前記フィルタユニットの排出側に金属メッシュが設置され、この金属メッシュの開口径の最大値が、高周波の波長の1/12500以上で且つ1/50以下に設定されたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の微生物・ウィルス殺菌空調装置。
【請求項7】
前記フィルタユニットは、吸引機構からの空気の流れ方向に対し垂直な面の断面積が、前記吸引機構における吸引配管の前記空気の流れ方向に対し垂直な断面積よりも大きく、且つ高周波照射機構における導波管の高周波の進行方向に対し垂直な断面積よりも大きく設定されたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の微生物・ウィルス殺菌空調装置。
【請求項8】
空気中に浮遊する微生物またはウィルスを前記空気と共に吸引し、この吸引した前記空気中の前記微生物または前記ウィルスを、非多孔質体から構成されたフィルタにて捕捉し、この捕捉した前記微生物または前記ウィルスに高周波を照射すると共に、前記フィルタに対する前記高周波の照射方向を変更させることを特徴とする微生物・ウィルス殺菌空調方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、空気中に浮遊する微生物またはウィルスを殺菌もしくは不活化する微生物・ウィルス殺菌空調装置及び微生物・ウィルス殺菌空調方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コロナウィルスの蔓延による状況から、微生物災害への危機管理が世界的に要請されている。また、以前より要請されていた炭疽菌などを用いた発電所へのテロ対応も改めて要請されるようになっている。
【0003】
微生物またはウィルスは多種多様である。コロナウィルスの被害が広がっている要因の1つは、従来のワクチンでは効果がないことである。遺伝子パターンに応じたワクチンが開発されるまでは、効果が期待される既存薬での代用治療になる。殺菌分野も同様であり、薬剤耐性は微生物の種類によって異なり、例えば、硬殻を有する原虫類はオゾンや紫外線、薬剤などの従来の殺菌手法に対し耐性が特に強い。これらの微生物対策は、新規の微生物の影響が出るたびに対処療法的に実施されている。
【0004】
微生物の殺菌が多く取り上げられる分野としては、まず食品関係が挙げられる。例えば、低温殺菌(100℃以下の殺菌)、高温殺菌(100℃以上のレトルト等における殺菌)、高周波殺菌、マイクロ波殺菌、赤外線殺菌、遠赤外線殺菌などがある。これらの殺菌法は、製造過程で想定される微生物や菌類が対象となるために、空気中に浮遊している微生物や菌類には適用できない。
【0005】
一方、空調分野において、微生物またはウィルスの影響を低減させる有効な手法は、フィルタを用いて微生物またはウィルスを分離(除菌)することである。しかし、フィルタなどでの除菌は菌の濃縮を意味し、濃縮された菌による二次汚染の懸念がある。空調システム内の微生物またはウィルスに対するこれまでの殺菌方法としては、紫外線殺菌装置により表面付着菌の滅菌手法、オゾンによる殺菌法、温水による殺菌法、過酸化水素ガスによる殺菌法などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58-13372号公報
【特許文献2】特開2005-110799号公報
【特許文献3】国際公開第2008/1471号
【特許文献4】特開2012-78071号公報
【特許文献5】特開2011-4832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、空調分野における上述の殺菌手法では、紫外線殺菌の効果はフィルタの表面近傍のみであり、内部の微生物またはウィルスへの殺菌効果が期待できない。また、オゾンによる殺菌については、一般にオゾンが高濃度で用いられるので人の呼吸器や目などへの影響が懸念され、この対策としてオゾンキラーなどの装置を併用するが、人体へのリスクは依然として残る。更に、温水による殺菌は、ボイラや温水配管などの付属設備が必要になるなどの課題がある。
【0008】
また、加熱を併用した薬剤(過酸化水素)ガス殺菌では、薬剤ガスの回収機構に不具合が生じると、人の健康上への影響が懸念される。従って、オゾン処理同様に、外部に薬剤が残留しないような機構を用意する必要があり、このため、オゾンや過酸化水素のような殺菌性のガスを使用しない方式が求められる。
【0009】
気化式加湿器に関する殺菌技術も提案されている。つまり、加湿部分は「フィン」と呼ばれる多孔質体が担っているが、水分を多く含むため雑菌が繁殖しやすい。従来は紫外線を用いて多孔質体の表面の殺菌を行っていたが、内部の雑菌に対しては有効に機能しなかった。そこで、上記気化式加湿器では、マイクロ波が照射されると発熱するマイクロ波吸収体が塗布、含浸、蒸着または混練された多孔質体を、加湿エレメントのフィンに用いている。マイクロ波を多孔質体に照射すると水が発熱する。更に、マイクロ波吸収体を用いて多孔質体の全体を発熱させることで菌類を殺菌させるため、温水洗浄の一種とみなすこともできる。
【0010】
しかしながら、上記気化式加湿器では、多孔質体を湿潤させることが前提になるため、菌の発生リスクが高まってしまう。この菌の発生リスクを抑制するために上述のようなマイクロ波による殺菌機能が付与されているが、それでも菌が増殖して下流側へ漏洩するリスクが高まる。これらのリスクを低減させるためには、湿潤した多孔質体を使用しない空気清浄方式が要請される。
【0011】
コロナウィルスは、呼吸やくしゃみなどで放出されるミストに付着し、サイズ的には0.1μm程度でごく小さい。ウィルスはHEPAフィルタで除去可能であるが、フィルタ交換時の感染リスク(二次汚染)の低減が求められる。また、コロナウィルス以外にも、炭疽菌などフィルタ内で長期間生存する有害な菌類も存在する。
【0012】
本出願人は、マイクロ波を用いてフィルタ内部を殺菌する手法を適用した微生物・ウィルス殺菌空調装置を提案している。ところが、本装置を大型化する場合には、殺菌処理等の処理性能を安定化させるために、マイクロ波をフィルタに均一に照射することが課題になる。
【0013】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、微生物またはウィルスを捕捉したフィルタに高周波を均一に照射して、微生物またはウィルスの殺菌等の処理を安定化させることができる微生物・ウィルス殺菌空調装置及び微生物・ウィルス殺菌空調方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の実施形態における微生物・ウィルス殺菌空調装置は、空気中に浮遊する微生物またはウィルスを前記空気と共に吸引する吸引機構と、前記微生物または前記ウィルスを捕捉する非多孔質体から構成されたフィルタを備え前記吸引機構に接続されたフィルタユニットと、前記微生物または前記ウィルスを捕捉した前記フィルタに高周波を照射する高周波照射機構と、前記フィルタに対する前記高周波の照射方向を変更させる照射方向変更機構と、を有して構成されたことを特徴とするものである。
【0015】
本発明の実施形態における微生物・ウィルス殺菌空調方法は、空気中に浮遊する微生物またはウィルスを前記空気と共に吸引し、この吸引した前記空気中の前記微生物または前記ウィルスを、非多孔質体から構成されたフィルタにて捕捉し、この捕捉した前記微生物または前記ウィルスに高周波を照射すると共に、前記フィルタに対する前記高周波の照射方向を変更させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施形態によれば、微生物またはウィルスを捕捉したフィルタに高周波を均一に照射して、微生物またはウィルスの殺菌等の処理を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係る微生物・ウィルス殺菌空調装置の構成を概略して示す概略構成図。
図2図1の可動板周辺を拡大して示す断面図。
図3】第2実施形態に係る微生物・ウィルス殺菌空調装置の構成を概略して示す概略構成図。
図4図3のIV-IV線に沿う断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(図1図2
図1は、第1実施形態に係る微生物・ウィルス殺菌空調装置の構成を概略して示す概略構成図である。この図1に示す微生物・ウィルス殺菌空調装置10は、室内空気1中に浮遊する微生物またはウィルスを吸引してHEPAフィルタ20(後述)で捕捉し、この捕捉した微生物またはウィルスを高周波2の照射により殺菌処理もしくは不活化処理するものであり、吸引機構11、フィルタユニット12、高周波照射機構13及び照射方向変更機構14を有して構成される。
【0019】
ここで、微生物またはウィルスは、例えば、真核生物である真菌や原虫類と、原核生物であるスピロヘータや細菌、マイコプラズマ、リケッチア、クラミジアと、核酸を有するウィルス類と、異常型タンパク質をもつプリオンとの少なくとも1種類以上を想定している。但し、これらに分類されない微生物またはウィルスであってもよい。
【0020】
吸引機構11は、室内空気1中に浮遊する微生物またはウィルスを室内空気1と共に吸引するものであり、空調用ポンプ15を備えた吸引配管16と金属メッシュ17とを有して構成される。吸引配管16は金属メッシュ17を介して、フィルタユニット12のユニットケーシング19の例えば底面19Aに接続される。
【0021】
金属メッシュ17は、吸引配管16におけるフィルタユニット12との境界に介在される。この金属メッシュ17は、フィルタユニット12内の高周波2を吸引配管16内に通過させずに、吸引配管16内の室内空気1(微生物またはウィルスを含む)をフィルタユニット12内へ通過させるものである。例えば、高周波2が後述の如く周波数2.45GHzのマイクロ波(波長12cm)である場合、金属メッシュ17の開口径の最大値は、マイクロ波の波長12cmの1/12500以上で且つ1/50(好ましくは1/100)以下に設定される。金属メッシュ17の開口径の最大値は、マイクロ波の波長の1/50以下に設定されることでマイクロ波の通過を抑制し、マイクロ波の波長の1/12500以上に設定されることで室内空気1の通過を低圧力損失状態で許容する。
【0022】
フィルタユニット12は、ユニットケーシング19内に、室内空気1中の微生物またはウィルスを捕捉するHEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter)20が収容されて構成される。ユニットケーシング19は、金属メッシュ17を介して吸引機構11の吸引配管16に接続される。HEPAフィルタ20は、非金属体で且つ非多孔質体からなるフィルタであり、ガラス繊維及び樹脂にて構成される。従って、このHEPAフィルタ20は、水等で湿潤されることがなく、乾燥状態にある。HEPAフィルタ20は、このHEPAフィルタ20に導かれた室内空気1中の微生物またはウィルスを捕捉して、室内空気1を濾過し清浄空気3とする。
【0023】
ユニットケーシング19には、清浄空気3を室外へ排出する排出口21に金属メッシュ22が設けられている。この金属メッシュ22は、HEPAフィルタ20に照射される高周波2の通過を阻止し、清浄空気3の通過を許容するものである。つまり、金属メッシュ22は、吸引機構11の金属メッシュ17と同様に、高周波2が周波数2.45GHzのマイクロ波(波長12cm)の場合、このマイクロ波の波長12cmの1/12500以上で且つ1/50(好ましくは1/100)以下に設定される。金属メッシュ17の開口径の最大値は、マイクロ波の波長の1/50以下に設定されることでマイクロ波の通過(漏洩)を抑制し、マイクロ波の波長の1/12500以上に設定されることで清浄空気3の通過を低圧力損失状態で許容する。
【0024】
また、フィルタユニット12のユニットケーシング19は、吸引機構11からの室内空気1の流れ方向に対し垂直な面が底面19Aであり、この底面19Aに吸引機構11の吸引配管16が接続される。また、ユニットケーシング19の側面19Bに、高周波照射機構13の後述の導波管24が接続される。そして、ユニットケーシング19の底面19Aは、その断面積が、吸引機構11における吸引配管16の室内空気1の流れ方向に対して垂直な断面積よりも大きく、且つ高周波照射機構13における導波管24の高周波2の進行方向に対して垂直な断面積よりも大きく設定される。これにより、ユニットケーシング19内に収容されるHEPAフィルタ20の面積及び体積を拡大させることが可能になる。
【0025】
高周波照射機構13は、フィルタユニット12のHEPAフィルタ20に捕捉された微生物またはウィルスに高周波2を照射するものであり、導波管24、高周波発振器25及びガス閉止板26を有して構成される。
【0026】
導波管24は、一端に高周波発振器25が、他端にフィルタユニット12がそれぞれ接続されて、高周波発振器25にて発振された高周波2をフィルタユニット12へ伝搬する。この導波管24におけるフィルタユニット12との境界にガス閉止板26が設置される。このガス閉止板26は、高周波2の通過を許容すると共に、フィルタユニット12内に供給された室内空気1が導波管24内に流入することを阻止する。
【0027】
高周波発振器25は、周波数の範囲が0.13GHz以上17GHz以下の高周波2(すなわちマイクロ波)、例えば2.45GHzの高周波(マイクロ波)2を発振する。この高周波発振器25にて発振された高周波2(マイクロ波)は、導波管24を経てHEPAフィルタ20に照射され、このHEPAフィルタ20に捕捉された微生物またはウィルスにも照射されて、微生物またはウィルスの体内の水分を例えば80℃程度に加熱し、これにより、この微生物またはウィルスを殺菌または不活化させる。この場合、HEPAフィルタ20は、水による湿潤状態にないため、ほとんど加熱されることがない。
【0028】
また、高周波発振器25が発振して照射する高周波(マイクロ波)2は連続波またはパルス波であり、更に連続照射モードで照射されてもよいし、例えば8時間毎に1時間照射するなどの間欠照射モードであってもよい。HEPAフィルタ20は微生物またはウィルスの捕捉性能が高く、捕捉後直ちに二次汚染を生ずる可能性が低いため、HEPAフィルタ20に微生物またはウィルスが一定量捕捉された状態でまとめて高周波(マイクロ波)2を照射する間欠照射モードの方がエネルギ効率的に好ましい。
【0029】
高周波発振器25から発振された高周波(マイクロ波)2は、導波管24内を通ってフィルタユニット12のHEPAフィルタ20に照射された後、フィルタユニット12のユニットケーシング19に設けられた金属メッシュ22にて反射する。これにより、フィルタユニット12内には高周波(マイクロ波)2の定常波が存在する状態になって、HEPAフィルタ20に捕捉された微生物またはウィルスの体内の水分を効率的に加熱することが可能になる。
【0030】
照射方向変更機構14は、図1及び図2に示すように、HEPAフィルタ20に対する高周波2の照射方向を変更するものであり、フィルタユニット12内に配置された可動板31と、この可動板31に連結された可動板駆動機構32と、を有して構成される。
【0031】
可動板31は、フィルタユニット12のユニットケーシング19内における例えばHEPAフィルタ20の上方に配置される。この可動板31は金属製であって、高周波照射機構13からの高周波2の波長の1/10よりも小さな曲率半径Rの湾曲部33が、連続して構成される。また、可動板31は、ユニットケーシング19における側面19Bの内壁面近くまで延在して設けられ、その内壁面に対し隙間Tが設定される。この隙間Tは、高周波照射機構13からの高周波2の波長の1/50以下に設定される。これにより、ユニットケーシング19内における可動板31の下方領域34Mに導入された高周波2が、隙間Tを通過してユニットケーシング19内の可動板31の上方領域34Nへ侵入することが抑制される。
【0032】
更に、可動板31は、樹脂またはガラスなどにより構成された放電防止部材35により周囲が覆われている。この放電防止部材35によって、フィルタユニット12内に金属製の可動板31が配置されていても、フィルタユニット12内で放電の発生が防止される。
【0033】
可動板駆動機構32は、可動板31に回転運動または振動を含む往復運動を行わせるものである。図1及び図2では、可動板駆動機構32は、可動板31に取り付けられた回転軸36を用い、例えばべベルギア列37により可動板31を、回転軸36の軸回り(矢印O方向)に回転させる。可動板駆動機構32は、可動板31を例えばHEPAフィルタ20に対し接近または離反する方向(矢印J方向)に往復運動(振動)させてもよい。このように可動板31を運動させることで、フィルタユニット12のユニットケーシング19内の下方領域34Mに存在する高周波2の定在波の分布を乱して、HEPAフィルタ20に対する高周波2の照射方向を変更させることが可能になる。
【0034】
以上のように構成されたことから、本第1実施形態によれば、次の効果(1)~(4)を奏する。
(1)吸引機構11により吸引された室内空気1中の微生物またはウィルスを、フィルタユニット12における非金属体で且つ非多孔質体からなるHEPAフィルタ20にて捕捉し、この捕捉した微生物またはウィルスに高周波照射機構13の高周波発振器25から高周波(マイクロ波)2が照射される。このため、微生物またはウィルスを、その体内の水分を加熱することで殺菌処理もしくは不活化処理できる。これにより、HEPAフィルタ20に捕捉された微生物またはウィルスによる二次汚染を、殺菌性薬剤ガス(過酸化水素ガス等)または高温水蒸気等を用いることなく確実に抑制することができる。
【0035】
(2)微生物またはウィルスを捕捉したHEPAフィルタ20に高周波照射機構13から照射される高周波2は、照射方向変更機構14によりHEPAフィルタ20に対する照射方向が変更される。つまり、フィルタユニット12内に存在する高周波2の定在波は、照射方向変更機構14(可動板駆動機構32により運動する可動板31)によりその分布が乱されて、高周波2のHEPAフィルタ20に対する照射方向が変更される。この結果、微生物・ウィルス殺菌空調装置10が大型化した場合であっても、微生物またはウィルスを捕捉したHEPAフィルタ20に高周波2を均一に照射することができ、微生物またはウィルスの殺菌処理もしくは不活化処理を安定化させることができる。
【0036】
(3)フィルタユニット12の排出口21に金属メッシュ22が設置され、この金属メッシュ22の開口径の最大値が、高周波照射機構13からの高周波2の波長の1/12500以上で且つ1/50以下に設定されている。金属メッシュ22の開口径の最大値が高周波2の波長の1/50以下に設定されることで、フィルタユニット12の排出口21からの高周波2の漏洩を抑制することができる。更に、金属メッシュ22の開口径の最大値が高周波2の波長の1/12500以上に設定されたことで、フィルタユニット12の排出口21から清浄空気3を低圧力損失状態で排出することができる。
【0037】
(4)フィルタユニット12のユニットケーシング19では、吸引機構11からの室内空気1の流れ方向に対し垂直な面である底面19Aの断面積は、吸引機構11における吸引配管16の室内空気1の流れ方向に対し垂直な断面積よりも大きく、且つ高周波照射機構13における導波管24の高周波2の進行方向に対する断面積よりも大きく設定されている。このため、ユニットケーシング19内に収容されるHEPAフィルタ20の面積及び体質を増大させることが可能になるので、フィルタユニット12に供給される室内空気1の流量増大に応じてHEPAフィルタ20の寸法を大型化させることができる。
【0038】
[B]第2実施形態(図3図4
図3は、第2実施形態に係る微生物・ウィルス殺菌空調装置の構成を概略して示す概略構成図である。この第2実施形態において第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0039】
本第2実施形態の微生物・ウィルス殺菌空調装置40が第1実施形態と異なる点は、HEPAフィルタ20に対する高周波2の照射方向を変更する照射方向変更機構41が、高周波照射機構13の導波管24におけるフィルタユニット12との接続箇所に配置された変更板42と、この変更板42に連結された変更板駆動機構43と、を有して構成された点である。
【0040】
変更板42は、図4にも示すように例えば金属製であり、1または複数の開口44を備える。この開口44は、その開口寸法Dの最大値が、高周波照射機構13からの高周波2の波長の1/20よりも大きく設定されている。これにより、高周波照射機構13の導波管24を伝搬する高周波2が、変更板42の開口44内を通過可能に構成される。
【0041】
変更板駆動機構43は、変更板42に回転運動または振動を含む往復運動を行わせるものである。図3及び図4では、変更板駆動機構43は、導波管24内を伝搬する高周波2の進行方向に対し直交する回転軸45の軸回り(矢印P方向)に変更板42を回転させる。変更板駆動機構43は、変更板42を上記回転軸45に対し垂直な方向(矢印K方向)に往復運動(振動)させてもよい。このように変更板42を運動させることで、導波管24から変更板42の開口44内を通過してフィルタユニット12内へ進行する高周波2の向きを、周期的に変化(移動)させることが可能になる。
【0042】
以上のように構成されたことから、本第2実施形態によれば、第1実施形態の効果(1)、(3)及び(4)を奏するほか、次の効果(5)を奏する。
【0043】
(5)微生物またはウィルスを捕捉したHEPAフィルタ20に高周波照射機構13から照射される高周波2は、照射方向変更機構41によってHEPAフィルタ20に対する高周波2の照射方向が変更される。つまり、照射方向変更機構41の変更板駆動機構43が変更板42を運動(例えば回転運動)させて、変更板42の開口44内を通過してフィルタユニット12内へ進行する高周波2の向きを周期的に変化させ、これにより、高周波2のHEPAフィルタ20に対する照射方向が変更される。この結果、微生物・ウィルス殺菌空調装置40が大型化した場合であっても、微生物またはウィルスを捕捉したHEPAフィルタ20に高周波2を均一に照射することができ、微生物またはウィルスの殺菌処理もしくは不活化処理を安定化させることができる。
【0044】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
10…微生物・ウィルス殺菌空調装置、11…吸引機構、12…フィルタユニット、13…高周波照射機構、14…照射方向変更機構、16…吸引配管、19…ユニットケーシング、19A…底面、20…HEPAフィルタ、21…排出口、22…金属メッシュ、24…導波管、25…高周波発振器、31…可動板、32…可動板駆動機構、33…湾曲部、35…放電防止部材、40…微生物・ウィルス殺菌空調装置、41…照射方向変更機構、42…変更板、43…変更板駆動機構、44…開口、D…開口寸法、R…曲率半径
図1
図2
図3
図4