(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023061661
(43)【公開日】2023-05-02
(54)【発明の名称】船外機
(51)【国際特許分類】
B63H 20/14 20060101AFI20230425BHJP
F16H 1/14 20060101ALI20230425BHJP
【FI】
B63H20/14 100
F16H1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021171733
(22)【出願日】2021-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】石橋 伸悟
(72)【発明者】
【氏名】吉行 真人
(72)【発明者】
【氏名】泰圓澄 法文
(72)【発明者】
【氏名】國定 勁人
【テーマコード(参考)】
3J009
【Fターム(参考)】
3J009DA13
3J009EA06
3J009EA17
3J009EA23
3J009EA36
3J009EA43
3J009EB17
3J009EB23
3J009FA01
(57)【要約】
【課題】駆動ギヤをロアケースの蓋部材にベアリングを介して取り付ける作業、またはシムを交換する作業の容易化を図る。
【解決手段】船外機1は、リバース駆動ギヤ13と、内輪26がリバース駆動ギヤ13のボス14に装着されたベアリング25と、ベアリング25の内輪26をボス14に留めるワッシャ28およびサークリップ29と、リバース駆動ギヤ13とベアリング25の外輪27との間に設けられた取付部材20とを有するリバース駆動ギヤユニット12を備え、ロアケース74の蓋部材81の下面においてドライブシャフト挿入穴82の外周側にはユニット取付穴83が形成され、リバース駆動ギヤユニット12は、リバース駆動ギヤ13のボス14およびベアリング25がシム31を介してユニット取付穴83内に挿入され、取付部材20の各固定部23が蓋部材81の下面に固定されることにより、蓋部材81の下面に取り付けられている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船外機の下部に設けられ、上部が開口したロアケースと、
前記ロアケースの上部の少なくとも一部を覆うように前記ロアケースに取り付けられ、ドライブシャフト挿入穴を有する蓋部材と、
前記船外機の上部に設けられた動力源から前記ロアケースに向かって上下方向に伸長し、下端側が前記ドライブシャフト挿入穴に挿入され、前記動力源の動力を受けて回転するドライブシャフトと、
前後方向に伸長し、前端側が前記ロアケース内に回転可能に支持され、後端側にプロペラが取り付けられたプロペラシャフトと、
前記ロアケース内に設けられ、駆動ギヤユニット、被動ギヤおよびシムを有し、前記ドライブシャフトの回転を前記プロペラシャフトに伝達する回転伝達機構とを備え、
前記駆動ギヤユニットは、
ボスを有するベベルギヤであって前記ドライブシャフトの下端側に結合された駆動ギヤと、
内輪が前記ボスに装着されたベアリングと、
前記ベアリングの内輪を前記ボスに留める留め部材と、
環状の板状に形成され、前記駆動ギヤと前記ベアリングの外輪との間に設けられた取付部材とを有し、
前記被動ギヤは、前記駆動ギヤと噛合するギヤであり、
前記シムは前記被動ギヤに対する前記駆動ギヤの上下方向における位置を定めることにより前記駆動ギヤと前記被動ギヤとの噛み合いを設定するための環状の部材であり、
前記蓋部材の下面において前記ドライブシャフト挿入穴の外周側には取付穴が設けられ、
前記駆動ギヤユニットは、前記ボスおよび前記ベアリングが前記シムを介して前記取付穴内に挿入され、前記取付部材の外周側部分が前記蓋部材の下面に固定されることにより、前記蓋部材の下面に取り付けられていることを特徴とする船外機。
【請求項2】
前記取付部材の外周側部分は、前記蓋部材の下面において前記取付穴の外周側部分に、前記蓋部材の下方からねじ止めされていることを特徴とする請求項1に記載の船外機。
【請求項3】
前記取付部材は、弾性変形することにより当該取付部材の内周側部分が当該取付部材の外周側部分に対して上下方向に変位可能となるように形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の船外機。
【請求項4】
前記取付部材は、前記ベアリングの外輪の外径よりも大きい内径を有する環状部と、前記環状部から内向きに突出した複数の突出部とを有し、前記各突出部の突出端側部分の上面が前記ベアリングの外輪の下面に接触することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の船外機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力源の動力を受けて回転するドライブシャフト、およびドライブシャフトの回転をプロペラシャフトに伝達する回転伝達機構を備えた船外機に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの船外機は、動力源、プロペラ、プロペラシャフト、ドライブシャフト、および回転伝達機構を備えている。動力源は、水面よりも上方に位置する船外機の上部に配置されている。プロペラはプロペラシャフトの後端部に取り付けられ、プロペラおよびプロペラシャフトは、水面下に位置する船外機の下部に配置されている。ドライブシャフトは、このように上下方向に互いに離れた動力源とプロペラシャフトとの間において動力の伝達を行うべく、動力源からプロペラシャフトに向かって上下方向に伸長している。ドライブシャフトは動力源の動力を受けて回転し、その回転が回転伝達機構によりプロペラシャフトに伝達されることによって、プロペラシャフトが回転する。回転伝達機構は、複数のギヤおよびクラッチを有し、クラッチの制御に基づいてプロペラシャフトの回転方向を切り替えることができるように構成されている。また、動力源はカウルにより覆われ、ドライブシャフトはアッパケース内に収容され、プロペラシャフトの前端側部分および回転伝達機構はロアケース内に収容されている。
【0003】
このような構成を有する船外機において、ドライブシャフトの下端部には駆動ギヤが例えばスプライン結合されている。駆動ギヤは、回転伝達機構を構成するギヤの一つであり、ドライブシャフトの回転を回転伝達機構に入力する機能を有する。
【0004】
上記構成を有する船外機の中には、駆動ギヤとしてベベルギヤが用いられ、この駆動ギヤが、ロアケースの上部に設けられたロアケースの蓋部材にベアリングを介して取り付けられているものがある。
【0005】
下記の特許文献1には、ベベルギヤである駆動ギヤがロアケースの蓋部材にベアリングを介して取り付けられた構成を有する従来の船外機が記載されている。すなわち、同文献の段落0038には、船外機(1)において、上側歯車(41)が、軸受(412)によって、ロアユニットハウジング(103)の蓋部材(71)に回転可能に支持された構成が記載されている。また、同段落には、上側歯車(41)が上側ドライブ軸(171)の下端部に、上側ドライブ軸(171)と一体に回転するように係合している構成が記載されている。また、同段落には、上側歯車(41)にベベルギヤが適用される旨が記載されている。なお、上記丸括弧付きの符号は特許文献1に記載された符号である。特許文献1の段落0038の記載において、上側歯車(41)は上記駆動ギヤに対応し、ロアユニットハウジング(103)は上記ロアケースに対応する。
【0006】
図10は、従来の船外機において、ベベルギヤである駆動ギヤがロアケースの蓋部材にベアリングを介して取り付けられた構成の一例を示している。なお、
図10に示す例は、ベベルギヤである駆動ギヤがロアケースの蓋部材にベアリングを介して取り付けられた構成を有する既存かつ周知の船外機を参考にして作成したものであり、図中の構成の詳細および符号は特許文献1に記載されたものと一致していない。
【0007】
図10において、ロアケースの蓋部材121には、駆動ギヤ131がベアリング141を介して取り付けられている。詳しくは、蓋部材121にはドライブシャフト101を挿入するドライブシャフト挿入穴122が形成され、ドライブシャフト挿入穴122の外周側にはベアリング取付穴123が形成されている。ベアリング取付穴123は上方に開口しており、ベアリング取付穴123内にはベアリング141が蓋部材121の上方から挿入されている。また、ベアリング141の外輪はベアリング固定部材151によりベアリング取付穴123内に固定されている。すなわち、ベアリング固定部材151は、筒状に形成され、その下端部の外周面にはねじが切られている。また、ベアリング取付穴123の上部の内周面にもねじが切られている。ベアリング141の外輪は、ベアリング固定部材151を蓋部材121の上方からベアリング取付穴123に装着して締め付けることにより、ベアリング取付穴123内に固定されている。
【0008】
また、駆動ギヤ131は、ボス132を有するベベルギヤであり、ボス132の上端部の外周面にはねじが切られている。駆動ギヤ131は、ボス132をベアリング141の内輪の内側に蓋部材121の下方から挿入し、ボス132の上端部に蓋部材121の上方からナット152を装着して締め付けることにより、ベアリング141の内輪に固定されている。また、駆動ギヤ131とベアリング141の内輪との間にはシム154が設けられている。シム154は、駆動ギヤ131と、当該駆動ギヤ131と噛合する被動ギヤ161との噛み合い(歯当たり、またはバックラッシュ等)を調整するための環状の部材である。シム154は、駆動ギヤ131のボス132をベアリング141の内輪の内側に挿入する際に、駆動ギヤ131とベアリング141の内輪との間に装着される。また、駆動ギヤ131の軸穴133にはドライブシャフト101の下端部が挿入され、駆動ギヤ131はドライブシャフト101の下端部にスプライン結合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図10に示す従来の船外機の構成において、ベアリング141の外輪は、ベアリング固定部材151を蓋部材121の上方からベアリング取付穴123に装着することにより蓋部材121のベアリング取付穴123内に固定されている。また、駆動ギヤ131は、ボス132をベアリング141の内輪の内側に蓋部材121の下方から挿入し、ナット152を蓋部材121の上方からボス132の上端部に装着することによりベアリング141の内輪に固定されている。したがって、駆動ギヤ131を蓋部材121にベアリング141を介して取り付けるに当たり、ベアリング141の外輪を蓋部材121のベアリング取付穴123内に固定する作業を蓋部材121の上方から行う必要があり、また、駆動ギヤ131のボス132をベアリング141の内輪の内側に挿入する作業を蓋部材121の下方から行う必要があり、また、ベアリング141の内輪に挿入された駆動ギヤ131のボス132をベアリング141の内輪に固定する作業を蓋部材121の上方から行う必要がある。このように、従来の船外機の構成においては、駆動ギヤ131を蓋部材121にベアリング141を介して取り付けるために、蓋部材121の上方から行う作業と、蓋部材121の下方から行う作業とが必要になる。その結果、駆動ギヤ131を蓋部材121にベアリング141を介して取り付ける作業が煩雑化または困難化するおそれがある。
【0011】
また、駆動ギヤ131と被動ギヤ161との噛み合いを調整するために、シム154を、厚さの異なる他のシムと交換することがある。従来の船外機の構成においては、このシムの交換を行うに当たり、駆動ギヤ131をベアリング141の内輪から取り外すために、蓋部材121の上方から行う作業と、蓋部材121の下方から行う作業とが必要になり、さらに、シムを交換してから駆動ギヤ131をベアリング141の内輪に装着するために、蓋部材121の下方から行う作業と、蓋部材121の上方から行う作業とが必要になる。その結果、シムの交換作業が煩雑化または困難化するおそれがある。
【0012】
本発明は例えば上述したような問題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、駆動ギヤをロアケースの蓋部材にベアリングを介して取り付ける作業、または駆動ギヤと被動ギヤとの噛み合い調整のためのシムを交換する作業の容易化を図ることができる船外機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の船外機は、船外機の下部に設けられ、上部が開口したロアケースと、前記ロアケースの上部の少なくとも一部を覆うように前記ロアケースに取り付けられ、ドライブシャフト挿入穴を有する蓋部材と、前記船外機の上部に設けられた動力源から前記ロアケースに向かって上下方向に伸長し、下端側が前記ドライブシャフト挿入穴に挿入され、前記動力源の動力を受けて回転するドライブシャフトと、前後方向に伸長し、前端側が前記ロアケース内に回転可能に支持され、後端側にプロペラが取り付けられたプロペラシャフトと、前記ロアケース内に設けられ、駆動ギヤユニット、被動ギヤおよびシムを有し、前記ドライブシャフトの回転を前記プロペラシャフトに伝達する回転伝達機構とを備え、前記駆動ギヤユニットは、ボスを有するベベルギヤであって前記ドライブシャフトの下端側に結合された駆動ギヤと、内輪が前記ボスに装着されたベアリングと、前記ベアリングの内輪を前記ボスに留める留め部材と、環状の板状に形成され、前記駆動ギヤと前記ベアリングの外輪との間に設けられた取付部材とを有し、前記被動ギヤは、前記駆動ギヤと噛合するギヤであり、前記シムは前記被動ギヤに対する前記駆動ギヤの上下方向における位置を定めることにより前記駆動ギヤと前記被動ギヤとの噛み合いを設定するための環状の部材であり、前記蓋部材の下面において前記ドライブシャフト挿入穴の外周側には取付穴が設けられ、前記駆動ギヤユニットは、前記ボスおよび前記ベアリングが前記シムを介して前記取付穴内に挿入され、前記取付部材の外周側部分が前記蓋部材の下面に固定されることにより、前記蓋部材の下面に取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、駆動ギヤをロアケースの蓋部材にベアリングを介して取り付ける作業、または駆動ギヤと被動ギヤとの噛み合い調整のためのシムを交換する作業の容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例の船外機を示す説明図である。
【
図2】本発明の実施例の船外機の下部の断面図である。
【
図3】
図2中のリバースギヤ機構およびクラッチを示す断面図である。
【
図4】本発明の実施例の船外機における蓋部材、リバース駆動ギヤユニットおよびシム等を示す分解斜視図である。
【
図5】本発明の実施例の船外機においてリバース駆動ギヤユニットが取り付けられた蓋部材を示す説明図である。
【
図6】本発明の実施例の船外機におけるリバース駆動ギヤユニットの分解斜視図である。
【
図7】本発明の実施例の船外機における蓋部材およびリバース駆動ギヤユニット等を示す断面図であり、(A)はリバース駆動ギヤユニット等が蓋部材に取り付けられた状態を示し、(B)はリバース駆動ギヤユニット等が蓋部材から分離した状態を示す。
【
図8】本発明の実施例の船外機において、厚いシムが用いられた場合に、取付部材の各突出部が弾性変形した状態を示す説明図である。
【
図9】本発明における取付部材の変形例を示す説明図である。
【
図10】従来の船外機において駆動ギヤが蓋部材にベアリングを介して取り付けられた状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態の船外機は、ロアケース、蓋部材、ドライブシャフト、プロペラシャフトおよび回転伝達機構を備えている。ロアケースは、船外機の下部に設けられ、上部が開口している。蓋部材は、ロアケースの上部の少なくとも一部を覆うようにロアケースに取り付けられている。また、蓋部材はドライブシャフト挿入穴を有している。ドライブシャフトは、船外機の上部に設けられた動力源からロアケースに向かって上下方向に伸長し、下端側がドライブシャフト挿入穴に挿入されている。また、ドライブシャフトは動力源の動力を受けて回転する。プロペラシャフトは、前後方向に伸長し、前端側がロアケース内に回転可能に支持され、後端側にはプロペラが取り付けられている。回転伝達機構は、ロアケース内に設けられ、ドライブシャフトの回転をプロペラシャフトに伝達する機構である。また、回転伝達機構は、駆動ギヤユニット、被動ギヤおよびシムを有している。
【0017】
駆動ギヤユニットは、駆動ギヤ、ベアリング、留め部材および取付部材を有している。駆動ギヤは、ボスを有するベベルギヤであってドライブシャフトの下端側に結合されている。ベアリングは駆動ギヤを蓋部材に回転可能にする支持するための部材である。ベアリングの内輪は駆動ギヤのボスに装着されている。留め部材は、ベアリングの内輪を駆動ギヤのボスに留める部材である。取付部材は、環状の板状に形成され、駆動ギヤとベアリングの外輪との間に設けられている。
【0018】
また、被動ギヤは、駆動ギヤと噛合するギヤである。また、シムは被動ギヤに対する駆動ギヤの上下方向における位置を定めることにより駆動ギヤと被動ギヤとの噛み合いを設定するための環状の部材である。
【0019】
また、蓋部材の下面においてドライブシャフト挿入穴の外周側には取付穴が設けられている。また、駆動ギヤユニットは、ボスおよびベアリングがシムを介して取付穴内に挿入され、取付部材の外周側部分が蓋部材の下面に固定されることにより、蓋部材の下面に取り付けられている。
【0020】
本実施形態によれば、シム、および駆動ギヤユニット(駆動ギヤのボスおよびベアリング)を蓋部材の取付穴に蓋部材の下方から挿入し、取付部材の外周側部分を蓋部材の下面に蓋部材の下方から固定することにより、駆動ギヤユニットをシムと共に蓋部材に取り付けることができる。このため、作業者は、蓋部材の下方から行う作業のみによって、駆動ギヤを蓋部材にベアリングを介して取り付けることができる。したがって、駆動ギヤを蓋部材にベアリングを介して取り付ける作業の容易化を図ることができる。また、作業者は、蓋部材の下方から行う作業のみによって、駆動ギヤユニットおよびシムを蓋部材から取り外し、シムを交換し、交換したシムおよび駆動ギヤユニットを蓋部材に取り付けることができる。したがって、シムを交換する作業の容易化を図ることができる。
【実施例0021】
本発明の船外機の実施例について説明する。実施例において、上(Ud)、下(Dd)、前(Fd)、後(Bd)、左(Ld)、右(Rd)の方向を述べる際には、
図1~
図8の右下に描いた矢印に従う。
【0022】
(船外機)
図1は本発明の実施例の船外機1を示している。
図1に示すように、船外機1は、二重反転プロペラ方式の船外機である。船外機1は、動力源としてのエンジン2と、エンジン2から出力された動力を受けて回転するドライブシャフト3と、前側プロペラ4と、前側プロペラ4が取り付けられた外側プロペラシャフト5と、後側プロペラ6と、後側プロペラ6が取り付けられた内側プロペラシャフト7と、ドライブシャフト3の回転を外側プロペラシャフト5および内側プロペラシャフト7に伝達する回転伝達機構8とを備えている。
【0023】
エンジン2は船外機1の上部に配置されている。外側プロペラシャフト5および内側プロペラシャフト7は船外機1の下部に配置されている。ドライブシャフト3は、エンジン2とプロペラシャフト5、7との間を上下方向に伸長している。
【0024】
回転伝達機構8は、リバースギヤ機構11、クラッチ51、伝達シャフト57、およびメインギヤ機構61を有している。リバースギヤ機構11は、ドライブシャフト3の回転を用いて、ドライブシャフト3の正方向の回転に対して逆方向の回転を生成する機構である。クラッチ51は、ドライブシャフト3の正方向の回転を伝達シャフト57に伝達するか、リバースギヤ機構11により生成された逆方向の回転を伝達シャフト57に伝達するかを切り替える機構である。伝達シャフト57は、ドライブシャフト3の正方向の回転、またはリバースギヤ機構11により生成された逆方向の回転をメインギヤ機構61に伝達するシャフトである。メインギヤ機構61は、伝達シャフト57の回転を各プロペラシャフト5、7に伝達する機構である。
【0025】
また、船外機1は、船外機1の上部に設けられ、エンジン2の下部を覆うボトムカウル71と、ボトムカウル71の上方に設けられ、エンジン2の上部を覆うトップカウル72と、船外機1の上下方向中間部に設けられ、ドライブシャフト3を収容するアッパケース73と、船外機1の下部に設けられ、各プロペラシャフト5、7の前端側部分および回転伝達機構8を収容するロアケース74と、ロアケース74の上部に取り付けられた蓋部材81とを備えている。
【0026】
(ロアケース、蓋部材)
図2は、ドライブシャフト3および各プロペラシャフト5、7のそれぞれの軸心を含む前後方向および上下方向に拡がる平面で、船外機1の下部に設けられた部品を切断した断面を示している。
【0027】
図2において、ロアケース74は、上部が開口した箱状に形成されている。ロアケース74内の前部の上部には、リバースギヤ機構11およびクラッチ51を収容する上側ギヤ室75が設けられている。また、ロアケース74内の前部の下部には、メインギヤ機構61を収容する下側ギヤ室78が設けられている。また、ロアケース74内において、上側ギヤ室75と下側ギヤ室78との間には、伝達シャフト57を配置するための伝達シャフト挿通穴79が形成されている。また、ロアケース74内の下部の後部には、各プロペラシャフト5、7の前端側部分を配置するためのプロペラシャフト挿入穴80が形成されている。
【0028】
蓋部材81は、略板状に形成され(
図4参照)、ロアケース74の上部の少なくとも一部を覆うように、ロアケース74の上部に、例えばボルト等の固定部材を介して取り付けられている。蓋部材81には、ドライブシャフト3を挿入するためのドライブシャフト挿入穴82、および後述のリバース駆動ギヤユニット12を取り付けるためのユニット取付穴83(
図7参照)が形成されている。ドライブシャフト挿入穴82は、蓋部材81を上下方向に貫通しており、上側ギヤ室75内と連通している。ユニット取付穴83は、蓋部材81の下面においてドライブシャフト挿入穴82の外周側に配置され、上側ギヤ室75内に開口している。
【0029】
(リバースギヤ機構、クラッチ)
図3は、
図2中のリバースギヤ機構11およびクラッチ51等を拡大して示している。リバースギヤ機構11は、リバース駆動ギヤ13、リバース駆動ギヤ用のベアリング25、リバース被動ギヤ41、中間シャフト43、リバース被動ギヤ用の2個のベアリング44、リバース出力ギヤ45、およびリバース出力ギヤ用のベアリング49を有している。
【0030】
リバース駆動ギヤ13は、ボス14を有するベベルギヤである。リバース駆動ギヤ13は、ドライブシャフト3の回転をリバースギヤ機構11に入力する機能、およびドライブシャフト3の回転をクラッチ51を介して伝達シャフト57に伝達する機能を有している。リバース駆動ギヤ13は、歯が下を向き、かつボス14が上方に突出するように、上側ギヤ室75内の上部に配置されている。また、リバース駆動ギヤ13は、蓋部材81のユニット取付穴83内に、ベアリング25を介して、蓋部材81に対して回転可能に取り付けられている。ベアリング25はリバース駆動ギヤ13を蓋部材81に回転可能に支持する部材であり、本実施例においてはベアリング25としてボールベアリングが採用されている。また、リバース駆動ギヤ13の軸穴15内にはドライブシャフト3の下端部が挿入されている。リバース駆動ギヤ13は、ドライブシャフト3の下端部にスプライン結合され、ドライブシャフト3と一体に回転する。なお、リバース駆動ギヤ13は「駆動ギヤ」の具体例である。
【0031】
リバース被動ギヤ41は、ベベルギヤであり、リバース駆動ギヤ13と噛合している。リバース被動ギヤ41は、歯が前を向くように、上側ギヤ室75内の後部に配置されている。また、リバース被動ギヤ41の軸穴42には、前後方向に伸長した中間シャフト43の前端部が挿入されている。リバース被動ギヤ41は、中間シャフト43の前端部にスプライン結合され、中間シャフト43と一体に回転する。また、中間シャフト43の後端側部分は、上側ギヤ室75の後壁に形成された中間シャフト取付穴76内に、2個のベアリング44を介して回転可能に取り付けられている。なお、リバース被動ギヤ41は「被動ギヤ」の具体例である。
【0032】
リバース出力ギヤ45は、ボス46を有するベベルギヤであり、リバース被動ギヤ41と噛合している。リバース出力ギヤ45は、歯が上を向き、かつボス46が下方に突出するように、上側ギヤ室75内の下部に配置されている。また、リバース出力ギヤ45は、リバース駆動ギヤ13と同軸に配置され、リバース駆動ギヤ13と上下方向において対向している。また、リバース出力ギヤ45は、上側ギヤ室75の下壁に形成されたギヤ取付穴77内に、ベアリング49を介して回転可能に取り付けられている。また、リバース出力ギヤ45の中央には、伝達シャフト57を貫通させる貫通穴47が形成されている。伝達シャフト57は、貫通穴47内を貫通しているが、貫通穴47には接触していない。
【0033】
このような構成を有するリバースギヤ機構11において、ドライブシャフト3が正方向に回転し、これに伴ってリバース駆動ギヤ13が正方向に回転すると、この回転がリバース被動ギヤ41を介してリバース出力ギヤ45に伝達され、リバース出力ギヤ45が、ドライブシャフト3の正方向の回転に対して逆方向に回転する。
【0034】
クラッチ51はドッグクラッチであり、円筒状に形成され、上端面および下端面にそれぞれクラッチ爪52が形成されている。また、クラッチ51の外周面には溝53が全周に亘って形成されている。クラッチ51は、上側ギヤ室75内において、リバース駆動ギヤ13とリバース出力ギヤ45との間に配置されている。上側ギヤ室75内においては、伝達シャフト57の上端側部分が、リバース出力ギヤ45の貫通穴47を貫通して、リバース駆動ギヤ13とリバース出力ギヤ45との間に進入している。クラッチ51は、伝達シャフト57の上端側部分に、伝達シャフト57に対して周方向には移動不能であるが、軸方向には移動可能となるように結合されている。これにより、クラッチ51と伝達シャフト57とは一体に回転するが、クラッチ51は伝達シャフト57に対して上下方向に移動することができる。
【0035】
また、リバース駆動ギヤ13の下面には、クラッチ51の上端面に形成されたクラッチ爪52と係合可能なクラッチ爪19が形成されている。また、リバース出力ギヤ45の上面には、クラッチ51の下端面に形成されたクラッチ爪52と係合可能なクラッチ爪48が形成されている。
【0036】
また、ロアケース74内において、上側ギヤ室75の前方には、クラッチ51を制御するためのクラッチ制御部54が設けられている。クラッチ制御部54内にはアクチュエータが設けられている。また、クラッチ51とクラッチ制御部54との間にはシフト部材55が設けられている。シフト部材55の前端側はクラッチ制御部54のアクチュエータに接続され、シフト部材55の後端部は、クラッチ51の溝53内に、シフト部材55に対してクラッチ51が回転自在となるように一定の遊びを持って挿入されている。
【0037】
クラッチ制御部54のアクチュエータはシフト部材55を上方向または下方向に移動させることができる。シフト部材55の移動に伴い、クラッチ51が上方向または下方向に移動する。クラッチ51が上方向に移動することにより、クラッチ51の上端面に形成されたクラッチ爪52が、リバース駆動ギヤ13の下面に形成されたクラッチ爪19と係合する。これにより、ドライブシャフト3の正方向の回転が伝達シャフト57に伝達され、伝達シャフト57が正方向に回転する。一方、クラッチ51が下方向に移動することにより、クラッチ51の下端面に形成されたクラッチ爪52が、リバース出力ギヤ45の上面に形成されたクラッチ爪48と係合する。これにより、リバースギヤ機構11により生成された逆方向の回転が伝達シャフト57に伝達され、伝達シャフト57が逆方向に回転する。
【0038】
伝達シャフト57は、
図2に示すように、ロアケース74内において上側ギヤ室75と下側ギヤ室78との間を上下方向に伸長し、伝達シャフト挿通穴79内にベアリング58、59を介して回転可能に支持されている。
【0039】
(メインギヤ機構、プロペラシャフト)
メインギヤ機構61は、
図2に示すように、メイン駆動ギヤ62、第1のメイン被動ギヤ63、および第2のメイン被動ギヤ65を有している。メイン駆動ギヤ62は、下側ギヤ室78内の上部に配置されたベベルギヤであり、伝達シャフト57の下端部にスプライン結合され、伝達シャフト57と一体に回転する。第1のメイン被動ギヤ63は、下側ギヤ室78内の後部に配置されたベベルギヤであり、ベアリング64を介してロアケース74に回転可能に取り付けられている。また、第1のメイン被動ギヤ63は、外側プロペラシャフト5の前端部にスプライン結合され、外側プロペラシャフト5と一体に回転する。第2のメイン被動ギヤ65は、下側ギヤ室78内の前部に配置されたベベルギヤであり、ベアリング66を介してロアケース74に回転可能に取り付けられている。また、第2のメイン被動ギヤ65は、内側プロペラシャフト7の前端部にスプライン結合され、内側プロペラシャフト7と一体に回転する。メイン駆動ギヤ62は、第1のメイン被動ギヤ63および第2のメイン被動ギヤ65にそれぞれ噛合している。これにより、伝達シャフト57の回転は、メイン駆動ギヤ62および第1のメイン被動ギヤ63を介して外側プロペラシャフト5に伝達され、同時に、メイン駆動ギヤ62および第2のメイン被動ギヤ65を介して内側プロペラシャフト7に伝達される。
【0040】
外側プロペラシャフト5および内側プロペラシャフト7はそれぞれ前後方向に伸長し、互いに同軸に配置されている。外側プロペラシャフト5は筒状に形成され、内側プロペラシャフト7の前端側部分は外側プロペラシャフト5内に配置されている。外側プロペラシャフト5の前端側部分は、ロアケース74のプロペラシャフト挿入穴80内にロアケース74に対して回転可能に支持され、外側プロペラシャフト5の後端部には前側プロペラ4が取り付けられている。内側プロペラシャフト7の前端側部分は、外側プロペラシャフト5内に外側プロペラシャフト5に対して回転可能に支持され、内側プロペラシャフト7の後端部には後側プロペラ6が取り付けられている。伝達シャフト57の回転がメインギヤ機構61を介して外側プロペラシャフト5および内側プロペラシャフト7に伝達されることにより、外側プロペラシャフト5および内側プロペラシャフト7はそれぞれ互いに逆方向に回転する。
【0041】
ドライブシャフト3の正方向の回転がクラッチ51、伝達シャフト57およびメインギヤ機構61等を介して外側プロペラシャフト5および内側プロペラシャフト7に伝達されることにより、船外機1が取り付けられた船舶を前進させる推進力が生成される。一方、リバースギヤ機構11により生成された逆方向の回転がクラッチ51、伝達シャフト57およびメインギヤ機構61等を介して外側プロペラシャフト5および内側プロペラシャフト7に伝達されることにより、船外機1が取り付けられた船舶を後進させる推進力が生成される。
【0042】
(リバース駆動ギヤユニット)
図4は、蓋部材81、並びに蓋部材81から分離したリバース駆動ギヤユニット12およびシム31等を示している。
図5は、蓋部材81、および蓋部材81に取り付けられたリバース駆動ギヤユニット12を下方から見た状態を示している。
図6は、分解した状態のリバース駆動ギヤユニット12を示している。
図7(A)は、
図5中の切断線VII-VIIに沿って切断した蓋部材81およびリバース駆動ギヤユニット12の断面を左前側から見た状態を示している。
図7(B)は、
図7(A)中のリバース駆動ギヤユニット12等が蓋部材81から分離した状態を示している。
【0043】
船外機1において、リバースギヤ機構11の一部を構成するリバース駆動ギヤ13、およびリバース駆動ギヤ用のベアリング25は、
図4に示すように、リバース駆動ギヤユニット12としてユニット化(一体化)されている。リバース駆動ギヤユニット12は、
図6に示すように、リバース駆動ギヤ13、取付部材20、ベアリング25、ワッシャ28、およびサークリップ29を有している。なお、リバース駆動ギヤユニット12は「駆動ギヤユニット」の具体例である。また、ワッシャ28およびサークリップ29は「留め部材」の具体例である。
【0044】
リバース駆動ギヤ13において、ボス14の下部には第1の段部16が全周に亘って形成され、ボス14の上部には第2の段部17が全周に亘って形成されている。また、ボス14の上部において第2の段部17の上方には凹部18が全周に亘って形成されている。
【0045】
取付部材20は、リバース駆動ギヤユニット12を蓋部材81のユニット取付穴83に取り付けるための部材であり、例えば金属材料により環状の板状に形成されている。取付部材20は環状部21および複数の突出部22を備えている。環状部21は、環状に形成され、ベアリング25の外輪27の外径よりも大きい内径を有している。各突出部22は、環状部21から径方向内向きに突出している。また、複数の突出部22は周方向に等間隔に配置されている。また、
図6に示すように、各突出部22の突出端を通る円Cの直径は、ベアリング25の内輪26の外径よりも大きく、かつベアリング25の外輪27の外径よりも小さい。また、取付部材20の外周側には複数(例えば2個)の固定部23が設けられている。各固定部23は環状部21から径方向外向きに突出している。また、各固定部23の突出端側部分にはボルト挿通穴24が形成されている。
【0046】
図7(B)に示すように、リバース駆動ギヤ13のボス14の外周側には、取付部材20が配置されている。また、ボス14の外周側において取付部材20の上方には、ベアリング25の内輪26が装着されている。また、ボス14の外周側において、ベアリング25の内輪26の上方にはワッシャ28が配置され、ワッシャ28の上方にはサークリップ29が装着されている。
【0047】
ベアリング25の内輪26はサークリップ29およびワッシャ28によりボス14に留められ、ボス14に支持されている。すなわち、サークリップ29は、ボス14の上部に形成された凹部18内に入り込み、凹部18内に固定されている。また、サークリップ29とボス14の第2の段部17との間にワッシャ28が支持されている。また、ワッシャ28とボス14の第1の段部16との間にベアリング25の内輪26が支持されている。
【0048】
また、取付部材20は、リバース駆動ギヤ13とベアリング25の外輪27との間に位置している。各突出部22の突出端を通る円C(
図6参照)の直径は、ベアリング25の外輪27の外径よりも小さく、かつリバース駆動ギヤ13の外径よりも小さいので、ベアリング25の内輪26がボス14に留められた状態では、取付部材20はリバース駆動ギヤ13とベアリング25の外輪27との間から抜け落ちない。
【0049】
図7(A)に示すように、リバース駆動ギヤユニット12は、リバース駆動ギヤ13のボス14およびベアリング25が、シム31を介して、蓋部材81のユニット取付穴83内に挿入され、取付部材20の各固定部23が蓋部材81の下面に固定されることにより、蓋部材81の下面に取り付けられる。すなわち、上述したように、蓋部材81の下面においてドライブシャフト挿入穴82の外周側にはユニット取付穴83が形成されている。ユニット取付穴83は、
図7(B)に示すように、ドライブシャフト挿入穴82と同軸に配置されている。また、ユニット取付穴83は、下方に開口しており、上側ギヤ室75内に臨んでいる。ユニット取付穴83は、ベアリング25がぴったりと嵌まるように、ベアリング25の外輪27の外径と略等しい外径を有している。リバース駆動ギヤ13のボス14およびベアリング25はシム31を介して、このユニット取付穴83に挿入される。
【0050】
また、シム31は、リバース被動ギヤ41に対するリバース駆動ギヤ13の上下方向における位置を定めることによりリバース駆動ギヤ13とリバース被動ギヤ41との噛み合い(歯当たり、バックラッシュ等)を設定するための環状かつ板状の部材である。厚さの異なるいくつかのシム31が用意されており、それらの中から1つのシムを適宜選択して用いることにより、リバース駆動ギヤ13とリバース被動ギヤ41との噛み合い調整を行うことができる。シム31の内径は例えばベアリング25の外輪27の内径と略等しく設定され、シム31の外径はベアリング25の外輪27の外径以下に設定されている。シム31は、ベアリング25の外輪27とユニット取付穴83の上面(底面)との間に配置される。
【0051】
また、
図7(B)に示すように、蓋部材81の下面において、ユニット取付穴83の外周側には、複数のボルト穴84が形成されている。複数のボルト穴84は、取付部材20の複数の固定部23にそれぞれ形成されたボルト挿通穴24と対応するように配置されている。リバース駆動ギヤユニット12は、取付部材20の各固定部23のボルト挿通穴24に下方からボルト32を通し、そのボルト32をボルト穴84に下方から挿入して締め付けることにより、蓋部材81の下面に固定(ねじ止め)される。
【0052】
また、
図7(A)に示すように、取付部材20の各固定部23がボルト32によりボルト穴84に固定された状態では、取付部材20の各突出部22の突出端側部分の上面がベアリング25の外輪27の下面に接触する。これにより、ベアリング25の外輪27が各突出部22によってユニット取付穴83内に押さえ付けられ、リバース駆動ギヤユニット12が蓋部材81の下面に保持される。
【0053】
また、取付部材20は、弾性変形することにより、当該取付部材20の内周側部分、すなわち各突出部22が、当該取付部材20の外周側部分、すなわち環状部21に対して上下方向に変位可能となるように形成されている。具体的には、取付部材20の各突出部22は、環状部21から内向きに突出する細長い板状の形状を有しているので、環状部21に対して上下方向に曲がるように弾性変形することができる。したがって、各突出部22の突出端側部分は、環状部21に対して上下方向に変位することができる。これにより、
図8に示すように、厚いシム31を用いた場合でも、リバース駆動ギヤユニット12をユニット取付穴83に固定して保持することができる。すなわち、リバース駆動ギヤ13とリバース被動ギヤ41とのバックラッシュを小さくすべく、ベアリング25の外輪27とユニット取付穴83の上面との間に、厚いシム31を配置した場合には、ベアリング25の外輪27の下部がユニット取付穴83から下方に出ることがある。このようにベアリング25の外輪27の下部がユニット取付穴83から下方に出たときには、取付部材20の各突出部22が弾性変形して下方に曲がった状態で、ベアリング25の外輪27をユニット取付穴83内に押し付ける。このように、取付部材20によれば、厚いシム31を用いることによってベアリング25の外輪27の下部がユニット取付穴83から下方に出た場合でも、リバース駆動ギヤユニット12をユニット取付穴83に固定して保持することができる。
【0054】
船外機1の製造時またはメンテナンス時等において、リバース駆動ギヤユニット12を蓋部材81に取り付ける場合、作業者は、まず、シム31およびリバース駆動ギヤユニット12を蓋部材81の下方からユニット取付穴83に挿入する。次に、作業者は、蓋部材81の下方から、取付部材20の各固定部23を蓋部材81の下面にボルト32を用いて固定する。また、リバース駆動ギヤ13とリバース被動ギヤ41との噛み合い調整を行う場合には、作業者は、まず、蓋部材81の下方から、各ボルト32を外し、リバース駆動ギヤユニット12およびシム31をユニット取付穴83から取り外す。次に、作業者は、取り出したシム31と厚さの異なる別のシムと、リバース駆動ギヤユニット12を、蓋部材81の下方から、ユニット取付穴83に挿入する。次に、作業者は、蓋部材81の下方から、取付部材20の各固定部23を蓋部材81の下面にボルト32で固定する。
【0055】
以上説明した通り、本発明の実施例の船外機1は、リバース駆動ギヤ13と、内輪26がリバース駆動ギヤ13のボス14に装着されたベアリング25と、ベアリング25の内輪26をボス14に留めるワッシャ28およびサークリップ29と、リバース駆動ギヤ13とベアリング25の外輪27との間に設けられた取付部材20とを有するリバース駆動ギヤユニット12を備え、ロアケース74の蓋部材81の下面においてドライブシャフト挿入穴82の外周側にはユニット取付穴83が形成され、リバース駆動ギヤユニット12は、リバース駆動ギヤ13のボス14およびベアリング25がシム31を介してユニット取付穴83内に挿入され、取付部材20の各固定部23が蓋部材81の下面に固定されることにより、蓋部材81の下面に取り付けられている。この構成により、作業者は、蓋部材81の下方から行う作業のみによって、リバース駆動ギヤ13を蓋部材81にベアリング25を介して取り付けることができる。したがって、リバース駆動ギヤ13を蓋部材81にベアリング25を介して取り付ける作業の容易化を図ることができる。また、上記構成により、作業者は、蓋部材81の下方から行う作業のみによって、シム31を交換することができる。したがって、シム31を交換する作業の容易化を図ることができる。
【0056】
また、本実施例の船外機1において、取付部材20の各固定部23は、蓋部材81の下面においてユニット取付穴83の外周側に形成された各ボルト穴84に、蓋部材81の下方からボルト32で固定されている。この構成により、作業者は、蓋部材81の下方からボルト32の脱着を行うだけで、リバース駆動ギヤユニット12を蓋部材81に容易に取り付けることができ、かつリバース駆動ギヤユニット12を蓋部材81から容易に取り外すことができる。
【0057】
また、本実施例の船外機1において、取付部材20は、弾性変形することにより、当該取付部材20の内周側部分が当該取付部材20の外周側部分に対して上下方向に変位可能となるように形成されている。具体的には、取付部材20は、ベアリング25の外輪27の外径よりも大きい内径を有する環状部21と、環状部21から内向きに突出した複数の突出部22とを有しており、各突出部22が環状部21に対して上下方向に変位可能に形成されている。そして、取付部材20の内周側部分、具体的には各突出部22の突出端側部分の上面がベアリング25の外輪27の下面に接触することにより、リバース駆動ギヤユニット12をユニット取付穴83に保持している。この構成により、
図8に示すように、厚いシム31を用いることによってベアリング25の外輪27の下部がユニット取付穴83から下方に出た場合でも、リバース駆動ギヤユニット12をユニット取付穴83に保持することができる。したがって、噛み合い調整に用いるシム31の厚さの範囲を大きくすることができ、ギヤの噛み合い調整の幅を広くすることができる。
【0058】
また、本実施例の船外機1によれば、リバース駆動ギヤ13、ベアリング25および取付部材20をリバース駆動ギヤユニット12として一体化したことにより、船外機1の組立の際の部品点数を削減することができ、また、船外機1の部品の管理を容易にすることができる。
【0059】
なお、本発明の取付部材の形状は、
図6に示すものに限定されない。本発明の取付部材として、例えば、
図9(A)に示す形状の取付部材91、または
図9(B)に示す形状の取付部材95を用いてもよい。
図9(A)および
図9(B)において、二点鎖線で描いた円は、リバース駆動ギヤユニットがユニット取付穴83に取り付けられたときのユニット取付穴83の位置を示している。
図9(A)に示す取付部材91は、環状かつ板状に形成され、取付部材91の内周側縁部から外周側縁部の手前にかけて径方向外向きに伸長した複数の切込み92が形成されている。複数の切込み92が形成されていることにより、取付部材91の内周側部分は上下方向に曲がるように弾性変形することができる。したがって、取付部材91の内周側部分は取付部材91の外周側部分に対して上下方向に変位することができる。ベアリング25の外輪27の下面は取付部材91の内周側部分の上面に接触する。また、取付部材91には、取付部材20と同様に複数の固定部93が設けられている。また、
図9(B)に示す取付部材95は、環状かつ板状に形成され、取付部材95の内周側の環状の部分96から複数の腕部97が径方向外向きに伸長しており、各腕部97の先端部が蓋部材81の下面に固定される固定部98となっている。各腕部97の弾性変形により、取付部材95の内周側の環状の部分96は各固定部98に対して上下方向に変位することができる。ベアリング25の外輪27の下面は、取付部材95の内周側の環状の部分96の上面に接触する。
【0060】
また、上記実施例では、リバース駆動ギヤユニット12において、ベアリング25の内輪26をリバース駆動ギヤ13のボス14にワッシャ28およびサークリップ29を用いて留める場合を例にあげたが、本発明はこれに限らない。例えば、リバース駆動ギヤ13のボス14の上端部の外周面にねじを形成し、ボス14の上端部にナットを螺着することにより、ベアリング25の内輪26をボス14に留めてもよい。
【0061】
また、本発明において、船外機の動力源はエンジン(内燃機関)に限らず、電動モータでもよい。また、本発明の船外機は二重反転プロペラ方式の船外機に限定されない。また、本発明において、駆動ギヤはリバース駆動ギヤに限定されず、被動ギヤもリバース被動ギヤに限定されない。
【0062】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取ることのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う船外機もまた本発明の技術思想に含まれる。