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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063044
(43)【公開日】2023-05-09
(54)【発明の名称】乗物の窓構造及び乗物
(51)【国際特許分類】
   B60J 3/04 20060101AFI20230427BHJP
   G02B 5/28 20060101ALN20230427BHJP
【FI】
B60J3/04
G02B5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173298
(22)【出願日】2021-10-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 忠祐
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148GA01
(57)【要約】
【課題】新規な付加価値を有する乗物の窓構造を提供する。
【解決手段】自動車10の窓構造は、部屋から見て異なる方向に配置される複数の透明な窓部13を備えている。窓部13は、上窓部14、前窓部15、後窓部16、及び側窓部17を含む。各窓部13には、可視光の透過率を変更できる調光シート22が取り付けられている。調光シート22は、窓部13ごとに透過率を独立して変更可能に構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物の窓構造であって、
乗物に設けられる部屋を区画するとともに、前記部屋から見て異なる方向に配置される2以上の透明な窓部を備え、
前記窓部は、前記部屋の上部を区画する上窓部、前記部屋の前部を区画する前窓部、前記部屋の後部を区画する後窓部、前記部屋の側部を区画する側窓部、及び前記部屋の下部を区画する透明な下窓部から選ばれるいずれか二つ以上であり、
前記窓部には、可視光の透過率を変更できる調光シートが取り付けられており、
前記調光シートは、前記窓部ごとに前記透過率を独立して変更可能に構成されていることを特徴とする乗物の窓構造。
【請求項2】
前記窓部の一つは、前記前窓部であり、
前記前窓部は、前記調光シートの前記透過率を変更することにより、前記前窓部の全体が前記透過率の高い状態と、前記前窓部の上部が部分的に前記透過率の低い状態とを切り替え可能である請求項1に記載の乗物の窓構造。
【請求項3】
隣接して配置される2以上の前記窓部を備え、
前記調光シートは、隣接して配置される前記窓部の間に跨って取り付けられている請求項1又は請求項2に記載の乗物の窓構造。
【請求項4】
隣接して配置される2以上の前記窓部を備え、
隣接して配置される2以上の前記窓部は、共通の板材により構成されている請求項1~3のいずれか一項に記載の乗物の窓構造。
【請求項5】
前記窓部の少なくとも一つは、透明基材層と、前記透明基材層に積層された光学薄膜層とを備える請求項1~4のいずれか一項に記載の乗物の窓構造。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の乗物の窓構造により区画される前記部屋を備える乗物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物の窓構造、及びその窓構造を備える乗物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、乗物用ルーフには、通常、ボディと同様の鋼板が用いられているが、採光、開放感などの利点を活用すべく、ムーンルーフと称して、ガラスや透明樹脂で覆うグレードも存在する。特許文献1は、室内に入射する太陽光などの外光の強さを調節できる車両のルーフウインドウを開示する。
【0003】
特許文献1のルーフウインドウは、板ガラスと、板ガラスに積層された調光フィルムとから構成されている。調光フィルムは、二枚の直線偏光板により液晶セルを挟持する構造の部材であり、液晶に印加する電界に応じて液晶の配向が変化することにより透過率が変化する。車両の搭乗者は、操作パネルに対する操作を通じて調光フィルムの透過率を変化させることにより、ルーフウインドウを透過する外光の強さを調節できる。
【0004】
また、特許文献2は、自動車のリアガラスなどの曲率をもった窓ガラスに複数枚の曲率をもった液晶装置を貼りつけてなるサンシェード装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-144622号公報
【特許文献2】実開昭60-067225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新規な付加価値を有する乗物の窓構造及びその窓構造を備える乗物を提供することにある。すなわち、本発明は、乗物の窓構造に関し、太陽光の利活用を含め、新たな利用価値を付与する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する乗物の窓構造は、乗物に設けられる部屋を区画するとともに、前記部屋から見て異なる方向に配置される2以上の透明な窓部を備え、前記窓部は、前記部屋の上部を区画する上窓部、前記部屋の前部を区画する前窓部、前記部屋の後部を区画する後窓部、前記部屋の側部を区画する側窓部、及び前記部屋の下部を区画する透明な下窓部から選ばれるいずれか二つ以上であり、前記窓部には、可視光の透過率を変更できる調光シートが取り付けられており、前記調光シートは、前記窓部ごとに前記透過率を独立して変更可能に構成されている。
【0008】
上記構成によれば、窓部の調光シートの可視光の透過率を高めることにより、複数の方向から部屋内に外光を取り込むことができる。また、各窓部の調光シートの可視光の透過率を低くした遮蔽状態とすることにより、部屋内から見て、窓部は、窓部及び調光シートの各色に基づく色調の壁部になる。そのため、遮蔽状態では、窓部を任意の色調の壁部とすることができる。これにより、意匠性の自由度の高い室内空間を提供できる。特に、窓部を部屋の内装と調和した色調の壁部とした場合には、統一感のある品位の高い室内空間を提供できる。
【0009】
上記乗物の窓構造において、前記窓部の一つは、前記前窓部であり、前記前窓部は、前記調光シートの前記透過率を変更することにより、前記前窓部の全体が前記透過率の高い状態と、前記前窓部の上部が部分的に前記透過率の低い状態とを切り替え可能であることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、前窓部の上部の調光シートの可視光の透過率を低くした遮蔽状態とすることにより、前窓部自体を乗員の眩しさを軽減するサンシェード装置として機能させることができる。また、窓部としての前窓部及び上窓部を備える構成とすることが好ましい。この場合、前窓部の上部及び上窓部の各調光シートを同時に遮蔽状態とすることにより、部屋内から見て、遮蔽状態にある前窓部の上部が上窓部の一部のように見える。換言すると、上窓部と前窓部との境界が前方側に移動したように見える。そのため、部屋内から見て、遮蔽状態にある前窓部の上部が周囲と不調和であるような印象を与え難くなる。
【0011】
上記乗物の窓構造において、隣接して配置される2以上の前記窓部を備え、前記調光シートは、隣接して配置される前記窓部の間に跨って取り付けられていることが好ましい。
上記構成によれば、隣接して配置される窓部の間の境界の位置に拘わらず、透過率を制御できる調光領域を設定できる。調光領域の設計の自由度が高くなることにより、外光の入射場所に適宜対応できる調光領域を容易に設計できる。
【0012】
上記乗物の窓構造において、隣接して配置される2以上の前記窓部を備え、隣接して配置される2以上の前記窓部は、共通の板材により構成されていることが好ましい。
上記構成によれば、窓部の調光シートの可視光の透過率を高めた場合には、部屋内から見て、隣接して配置される窓部の間の境界部分なく外部を視認できる。また、窓部の調光シートの可視光の透過率を低くした場合には、窓部を投影装置のスクリーンとして利用できる。このとき、隣接して配置される窓部の各内面は、境界部分がなく、色調が一様な連続面となるため、隣接して配置される窓部の各内面を一つの大きなスクリーンとして利用できる。
【0013】
上記乗物の窓構造において、前記窓部の少なくとも一つは、透明基材層と、前記透明基材層に積層された光学薄膜層とを備えることが好ましい。
上記構成によれば、部屋内から窓部を見た場合に、光学薄膜層に基づく色又は模様を有する有色透明の窓部となる。これにより、窓部の意匠性が向上する。
【0014】
上記課題を解決する乗物は、上記乗物の窓構造により区画される前記部屋を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、新規な付加価値を有する乗物の窓構造及び乗物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】自動車の模式図である。
図2】自動車の部分上面図である。
図3】窓部の断面図である。
図4】各調光領域の配置を示す自動車の部分上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の乗物の窓構造を、自動車の上部を構成する上部構造に具体化した一実施形態について説明する。なお、以下に記載する透過率及び光透過性はそれぞれ、可視光の透過率及び可視光の光透過性を意味する。
【0018】
図1及び図2に示すように、自動車10の内部には、乗員が乗り込むための部屋11が区画されている。部屋11は、運転席等の各種座席が配置される車室である。自動車10の上部を構成する上部構造は、車体フレーム12と、車体フレーム12に取り付けられる透明な板状の窓部13とを備えている。部屋11の上側部分は、車体フレーム12、及び窓部13によって区画されている。
【0019】
車体フレーム12は、自動車10の前後方向に延びるとともに自動車10の左右方向に所定間隔をあけて配置される一対のサイドフレーム12aを備えている。また、車体フレーム12は、自動車10の左右方向に延びるとともに、自動車10の上部後方にて一対のサイドフレーム12aを接続するリアフレーム12bを備えている。
【0020】
[窓部]
窓部13は、上窓部14、前窓部15、後窓部16、及び側窓部17を含む。上窓部14、前窓部15、後窓部16、及び側窓部17はそれぞれ、部屋11から見て、上方、前方、後方、側方の異なる方向に配置される窓部13である。上窓部14と前窓部15、上窓部14と後窓部16、上窓部14と側窓部17、前窓部15と側窓部17、及び後窓部16と側窓部17はそれぞれ、直接、又は車体フレーム12を介して間接的に隣接して配置されている。
【0021】
上窓部14は、部屋11の上部である天井を構成する部位であり、部屋11の上部を区画する。上窓部14は、一対のサイドフレーム12aの間、かつリアフレーム12bの前方に位置するように車体フレーム12に一体に組付けられている。自動車に具体化した本実施形態においては、上窓部14は、ルーフパネルである。
【0022】
前窓部15は、部屋11の前方上部を構成する部位であり、部屋11の前部を区画する。前窓部15は、一対のサイドフレーム12aの間に位置するように車体フレーム12に一体に組付けられている。本実施形態において、前窓部15は、上窓部14と共通の板材により形成されている。すなわち、上窓部14及び前窓部15は、共通の板材により構成されている。自動車に具体化した本実施形態においては、前窓部15は、フロントウインドウである。
【0023】
後窓部16は、部屋11の後方上部を構成する部位であり、部屋11の後部を区画する。後窓部16は、一対のサイドフレーム12aの間、かつリアフレーム12bの後方に位置するように車体フレーム12に一体に組付けられている。自動車に具体化した本実施形態においては、後窓部16は、リアウインドウである。
【0024】
側窓部17は、部屋11の側方上部を構成する部位であり、部屋11の側部を区画する。側窓部17は、例えば、自動車10のサイドドアに設けられる窓部13である。この場合、側窓部17は、サイドドアのドアフレームに一体に組付けられるとともに、ドアフレームを介してサイドフレーム12aに取り付けられる。また、側窓部17は、サイドフレーム12aに組付けられたものであってもよい。自動車に具体化した本実施形態においては、側窓部17は、サイドウインドウである。
【0025】
なお、各窓部13は、開閉可能に設けられる窓部であってもよいし、開閉不能に固定された窓部であってもよい。各窓部13の組み合わせとしては、例えば、上窓部14、前窓部15、及び後窓部16が開閉不能に固定された窓部であり、側窓部17が開閉可能に設けられる窓部であるパターンが挙げられる。
【0026】
図3に示すように、各窓部13は、光透過性を有する透明のパネルであり、透明基材層20と、透明基材層20の内側の表面及び外側の表面の一方又は両方に積層された光学薄膜層21とを備えている。図3では、一例として、透明基材層20の外側の表面のみに光学薄膜層21が積層されている構成の窓部13を図示している。本実施形態において、窓部13に関する内側及び外側は、部屋11を基準に定義する。つまり、窓部13における部屋11を向く側が内側であり、部屋11の外を向く側が外側である。
【0027】
透明基材層20は、無色透明又は有色透明の層である。透明基材層20を構成する材料としては、例えば、ポリカーボネート樹脂やポリメチルメタクリレート樹脂等の透明樹脂、ガラスが挙げられる。軽量化の観点においては、透明樹脂を用いることが好ましい。強度向上の観点においては、ガラスを用いることが好ましい。
【0028】
透明基材層20の厚さは、特に限定されるものでなく、所望の強度及び所望の透明度が確保される厚さに適宜、設定される。透明基材層20の厚さの一例は、0.1mm以上30mm以下である。
【0029】
光学薄膜層21は、窓部13に対して、特定の色調や模様を付与するための構成である。光学薄膜層21としては、例えば、屈折率の異なる複数種類の層が積層された誘電体多層膜が挙げられる。誘電体多層膜の各層を構成する材料としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ケイ素が挙げられる。誘電体多層膜を構成する層の種類は、例えば、2層以上であり、誘電体多層膜の層数は、例えば、5層以上である。
【0030】
誘電体多層膜を構成する各層の膜厚及び材質、並びに誘電体層の層数は、誘電体多層膜の光学特性に応じて設計される。誘電体多層膜の光学特性としては、例えば、光の干渉により構造色を生じさせる特性、特定の波長の光の透過率又は反射率を相対的に高めることにより、特定の波長の光に基づく色を窓部13に付与する特性、窓部13をハーフミラーとして機能させる特性が挙げられる。
【0031】
透明基材層20の表面における光学薄膜層21を設ける範囲は特に限定されるものではない。各窓部13の全面となる範囲に光学薄膜層21を設けてもよいし、各窓部13における特定の範囲に部分的に光学薄膜層21を設けてもよい。
【0032】
窓部13における透明基材層20及び光学薄膜層21の構成は、全て同じであってもよいし、それぞれ異なっていてもよい。以下に一例を記載する。共通の板材により形成される上窓部14及び前窓部15は、共通の無色透明の透明基材層20を備えている。そして、共通の透明基材層20における上窓部14を構成する部分の内面にのみ光学薄膜層21が積層されており、前窓部15を構成する部分には光学薄膜層21は積層されていない。後窓部16及び側窓部17は、有色の透明基材層20を備え、透明基材層20の内面の全面に光学薄膜層21が積層されている。
【0033】
[調光シート]
図2及び図3に示すように、各窓部13の内側の表面には、調光シート22が取り付けられている。
【0034】
調光シート22は、透過率を変更可能に構成されている調光シートである。
調光シート22が有する透過率の変更は、調光シート22に印加される駆動電圧の変更によって行われる。調光シート22の種類は、液晶調光シートの他に、エレクトロクロミックシートを含む。液晶調光シートは、駆動電圧の印加による液晶分子の配向制御によって透過率が制御される。エレクトロクロミックシートは、駆動電圧の印加によるエレクトロクロミック材料の電荷制御によって透過率が制御される。高透過率を有した状態での調光シート22の色は、無色透明、又は有色透明である。低透過率を有した状態での調光シート22の色は、無彩色、又は有彩色である。
【0035】
調光シート22の型式は、ノーマル型又はリバース型である。ノーマル型の調光シート22は、調光シート22の通電時に、相対的に高い透過率を有する一方で、調光シート22の非通電時に、相対的に低い透過率を有する。リバース型の調光シート22は、調光シート22の通電時に、相対的に低い透過率を有する一方で、調光シート22の非通電時に、相対的に高い透過率を有する。
【0036】
調光シート22は、調光シート22の面方向に広がる第1透明電極、第2透明電極、及び調光層を備える。調光シート22は、第1透明電極、調光層、第2透明電極の順に積層されており、調光層は、第1透明電極と第2透明電極とに挟まれている。
【0037】
第1透明電極と第2透明電極とは、光透過性を有する。第1透明電極の光透過性は、調光シート22を通した物体の視覚認識を可能にする。第2透明電極の光透過性もまた、調光シートを通した物体の視覚認識を可能にする。各透明電極を構成する材料としては、例えば、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)からなる群から選択されるいずれか一種が挙げられる。
【0038】
液晶調光シートが備える調光層は、液晶組成物を含む。液晶組成物に含まれる液晶分子としては、例えば、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ジオキサン系からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。液晶組成物の保持型式は、高分子分散型やカプセル型などである。高分子分散型は、高分子層のなかに分散している多数の空隙のなかに液晶組成物を保持する。高分子分散型は、3次元の網目状を有した高分子ネットワークを備える高分子ネットワーク型を含む。高分子ネットワーク型は、網目状の空隙のなかに液晶組成物を保持する。カプセル型は、カプセル状を有した液晶組成物を高分子層のなかに保持する。
【0039】
リバース型の液晶調光シートは、調光層と第1透明電極との間、及び調光層と第2透明電極との間に配向膜をさらに備える。配向膜を構成する材料としては、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、シアン化化合物等の有機化合物、シリコーン、シリコン酸化物、酸化ジルコニウムなどの無機化合物、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0040】
配向膜は、例えば、垂直配向膜、水平配向膜である。垂直配向膜は、第1透明電極と接する面とは反対側の面、及び第2透明電極と接する面とは反対側の面に対して垂直になるように、液晶分子の長軸方向を配向させる。水平配向膜は、第1透明電極と接する面とは反対側の面、及び第2透明電極と接する面とは反対側の面に対してほぼ平行となるように、液晶分子の長軸方向を配向させる。
【0041】
エレクトロクロミックシートが備える調光層は、エレクトロクロミック材料と電解質とを含む。エレクトロクロミック材料としては、例えば、ポリアニリン誘導体、ビオロゲン、金属フタロシアニン、フェナントロリン錯体などの有機化合物、三酸化タングステンや二酸化インジウムなどの無機化合物から選択される一種が挙げられる。電解質としては、例えば、リチウム塩やカリウム塩などの液体電解質、高分子固体電解質が挙げられる。
【0042】
[調光シートの配置]
図4に示すように、調光シート22は、各窓部13の内側の表面における特定範囲である調光領域A1~A5に取り付けられている。
【0043】
調光領域A1は、上窓部14の全面となる範囲である。
調光領域A2は、前窓部15における右座席側の前方上部に位置する範囲である。調光領域A3は、前窓部15における左座席側の前方上部に位置する範囲である。
【0044】
調光領域A4は、後窓部16の全面となる範囲である。
調光領域A5は、各側窓部17の全面となる範囲である。
図1図2及び図4に示すように、本実施形態では、調光領域A1~A4に対して、1枚の第1調光シート22aが取り付けられている。つまり、第1調光シート22aは、前窓部15、上窓部14、及び後窓部16に跨って取り付けられている。また、第1調光シート22aは、上記の調光領域ごとに独立して透過率を変更可能である。調光領域A5については、各側窓部17に対して第2調光シート22bが1枚ずつ取り付けられている。
【0045】
[調光制御部]
図1に示すように、自動車10は、各窓部13に取り付けられている各調光シート22の透過率を制御する調光制御部30を備えている。調光制御部30は、各調光シート22の各第1透明電極及び各第2透明電極に電気的に接続されている。調光制御部30は、調光シート22の透過率を、上記の調光領域A1~A5の調光領域単位で独立して制御する。
【0046】
調光制御部30は、コンソールなどの自動車10が備える操作部に対する乗員の操作に基づいて、自動車10が取り得るモードの切り替えを行う。本実施形態の自動車10が取り得るモードは、例えば、基本モード、採光モード、サンシェードモード、遮光モード、自由選択モードである。これらの各モードは、調光領域A1~A5の調光領域単位における調光シート22の透過率の組み合わせがそれぞれ異なっている。
【0047】
基本モードは、不透明のルーフを備える自動車に似た状態を再現する形態である。基本モードを選択する操作がなされた場合、調光制御部30は、調光領域A1に位置する部分が不透明となり、かつ調光領域A2~A4に位置する部分が透明となるように第1調光シート22aに電圧を印加する。また、調光制御部30は、調光領域A5が透明となるように第2調光シート22bに電圧を印加する。
【0048】
基本モードにおいて、上窓部14は、部屋11内から見て、透明基材層20、光学薄膜層21、及び透過率が低い状態の第1調光シート22aの各色に基づく色調の天井に見える。基本モードにおける上窓部14の色調は特に限定されるものではないが、部屋11の意匠に調和した統一感のある色調とすることが好ましい。基本モードにおける上窓部14の色調は、例えば、グロス調、マット調が挙げられる。また、基本モードにおいて、前窓部15、後窓部16、及び側窓部17は、部屋11内から見て、透明基材層20及び光学薄膜層21の各色に基づく色調の無色透明又は有色透明の窓に見える。
【0049】
採光モードは、部屋11内に外光を取り込む形態である。採光モードを選択する操作がなされた場合、調光制御部30は、調光領域A1~A5が透明となるように第1調光シート22a及び第2調光シート22bに電圧を印加する。
【0050】
採光モードにおいては、調光領域A1~A5の全ての範囲、即ち、上窓部14、前窓部15、後窓部16、及び側窓部17の全てが透過率の高い採光状態になる。そのため、自動車10の上部において、車体フレーム12を除いた全ての範囲から部屋11内に外光を取り込むことができる。また、採光モードにおいては、上窓部14、前窓部15、後窓部16、及び側窓部17を通じて部屋11内から外部を視認できる。そのため、オープンカーに乗っているような開放感を乗員に与えることができる。
【0051】
サンシェードモードは、前側の座席に座っている乗員の眩しさを軽減する形態である。サンシェードモードを選択する操作がなされた場合、調光制御部30は、調光領域A1に位置する部分が不透明となり、かつ調光領域A4に位置する部分が透明となるように第1調光シート22aに電圧を印加する。そして、調光制御部30は、調光領域A2,A3の一方又は両方に位置する部分が透過率を低下させた状態となるように第1調光シート22aに電圧を印加する。また、調光制御部30は、調光領域A5が透明となるように第2調光シート22bに電圧を印加する。
【0052】
サンシェードモードにおいては、上記の基本モードの状態に加えて、調光領域A2,A3の一方又は両方の透過率が低下した状態になる。これにより、前窓部15の上部から入射する外光の一部が、調光領域A2,A3に位置する第1調光シート22aにてカットされるため、前座席に座っている乗員が感じる眩しさを低減できる。なお、サンシェードモードにおいて、調光領域A2,A3のうちの透過率を低下させる領域の選択、及び透過率を低下させる度合は、乗員の操作に基づいて任意に設定される。
【0053】
遮光モードは、部屋11内に取り込まれる外光を大きく低下させる形態である。遮光モードを選択する操作がなされた場合、調光制御部30は、調光領域A1~A5が不透明となるように第1調光シート22a及び第2調光シート22bに電圧を印加する。
【0054】
遮光モードにおいては、部屋11内は、上窓部14、前窓部15の上部、後窓部16、及び側窓部17を通じて外光が入射しない暗い状態になる。そそのため、遮光モードは、例えば、TFT画面やLCD画面等の表示装置の画面を見る場合、各窓部13を、投影装置のスクリーンとして利用する場合に選択される。また、遮光モードでは、車外から部屋11内が見え難くなるため、部屋11内の乗員のプライバシーを保護する場合にも遮光モードは有用である。
【0055】
自由選択モードは、調光領域A1~A5の調光領域単位で第1調光シート22a及び第2調光シート22bの透過率を乗員が任意に設定できるモードである。自由選択モードにおいては、乗員により、調光領域A1~A5から調光領域を選択する操作、及び選択した調光領域の透過率を設定する設定操作が行われる。そして、サンシェードモードを選択する操作及び上記設定操作がなされた場合、調光制御部30は、選択された調光領域の透過率が設定された状態となるように第1調光シート22a及び第2調光シート22bに電圧を印加する。
【0056】
次に、本実施形態の作用及び効果について記載する。
(1)乗物の窓構造は、部屋11から見て異なる方向に配置される複数の透明な窓部13を備えている。窓部13は、上窓部14、前窓部15、後窓部16、及び側窓部17を含む。各窓部13には、可視光の透過率を変更できる調光シート22が取り付けられている。調光シート22は、窓部13ごとに透過率を独立して変更可能に構成されている。
【0057】
上記構成によれば、各窓部13の調光シートの可視光の透過率を高めることにより、上方、前方、後方、及び側方の複数の方向から部屋11内に外光を取り込むことができる。また、各窓部13の調光シートの透過率を低くした遮蔽状態とすることにより、部屋11内から見て、各窓部13は、窓部13及び調光シート22の各色に基づく色調の壁部になる。そのため、遮蔽状態では、各窓部13を任意の色調の壁部とすることができる。これにより、意匠性の自由度の高い室内空間を提供できる。特に、各窓部13を部屋11の内装と調和した色調の壁部とした場合には、統一感のある品位の高い室内空間を提供できる。
【0058】
(2)窓部13の一つは、部屋11の前部を区画する前窓部15である。前窓部15は、調光シート22の透過率を変更することにより、前窓部15の全体が透過率の高い状態と、前窓部15の上部が部分的に透過率の低い状態とを切り替え可能である。
【0059】
上記構成によれば、前窓部15の上部の調光シート22の透過率を低くした遮蔽状態とすることにより、前窓部15自体を乗員の眩しさを軽減するサンシェード装置として機能させることができる。また、窓部13としての前窓部15及び上窓部14を備える構成とする。この場合、前窓部15の上部及び上窓部14を同時に遮蔽状態とすることにより、部屋11内から見て、遮蔽状態にある前窓部15の上部が上窓部14の一部のように見える。換言すると、上窓部14と前窓部15との境界が前方側に移動したように見える。そのため、部屋11内から見て、遮蔽状態にある前窓部15の上部が周囲と不調和であるような印象を与え難くなる。
【0060】
(3)第1調光シート22aは、隣接して配置される二つの窓部13の間、具体的には、上窓部14と前窓部15との間及び上窓部14と後窓部16との間に跨って取り付けられている。
【0061】
上記構成によれば、隣接して配置される二つの窓部13の境界の位置に拘わらず、透過率を制御できる調光領域を設定できる。調光領域の設計の自由度が高くなることにより、外光の入射場所に適宜対応できる調光領域を容易に設計できる。
【0062】
(4)隣接して配置される二つの窓部13である上窓部14と前窓部15は、共通の板材により構成されている。
上記構成によれば、上窓部14及び前窓部15の可視光の透過率を高めた場合には、部屋11内から見て、上窓部14と前窓部15との間の境界部分なく外部を視認できる。そのため、オープンカーに乗っているような開放感を乗員に与えることができる。また、上窓部14及び前窓部15の調光シート22の可視光の透過率を低くした場合には、上窓部14及び前窓部15を投影装置のスクリーンとして利用できる。このとき、上窓部14及び前窓部15の各内面は、境界部分がなく、色調が一様な連続面となるため、上窓部14及び前窓部15の各内面を一つの大きなスクリーンとして利用できる。
【0063】
(5)窓部13は、透明基材層20と、透明基材層20に積層された光学薄膜層21とを備える。
上記構成によれば、部屋11内から窓部13を見た場合に、光学薄膜層21に基づく色又は模様を有する有色透明の窓部13となる。これにより、窓部13の意匠性が向上する。
【0064】
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・各調光シート22は、相対的に透過率の高い状態と、相対的に透過率の低い状態の2段階のみで透過率を変更できるものであってもよいし、多段階又は無段階で透過率を変更できるものであってもよい。
【0065】
・調光シート22は、窓部13の外側の表面に取り付けられていてもよいし、窓部13の内側の表面及び外側の表面の両方に取り付けられていてもよい。
・窓部13における調光シート22が取り付けられる範囲を変更してもよい。例えば、上窓部14の内側の表面に部分的に調光シート22が取り付けられていない範囲を設けてもよい。また、前窓部15について、前方上部のみ調光シート22を取り付ける構成に代えて、前窓部15の全面に調光シート22を取り付ける構成としてもよい。この場合には、遮光モードとしたとき、自動車10の前方からも部屋11内が見えない状態になるため、部屋11内をより暗い状態できる。
【0066】
調光シート22は、部屋11から見て異なる方向に配置される2以上の窓部13に取り付けられていればよく、調光シート22が取り付けられていない窓部13があってもよい。例えば、窓部13のうち、上窓部14及び前窓部15のみに調光シート22が取り付けられている構成としてもよい。
【0067】
・上記実施形態では、上窓部14と前窓部15とを共通の板材により構成していたが、上窓部14と前窓部15とを別体の板材により構成してもよい。また、上窓部14と後窓部16とを共通の板材により構成してもよいし、上窓部14と側窓部17とを共通の板材により構成してもよい。さらに、隣接して配置される3以上の窓部13を共通の板材により構成してもよい。例えば、上窓部14と、前窓部15と、後窓部16とを共通の板材により構成してもよい。
【0068】
・上記実施形態では、調光シート22により独立して透過率を制御できる調光領域として、調光領域A1~A5を設けていたが、上記調光領域の設置数及び配置は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上窓部14に位置する調光領域A1、後窓部16に位置する調光領域A4、及び側窓部17に位置する調光領域A5を更に複数の調光領域に分割してもよい。また、前窓部15に位置する調光領域A2及び調光領域A3を一つの調光領域としてもよい。また、隣接して配置される2以上の窓部13に跨る調光領域を設けてもよい。
【0069】
上窓部14に複数の調光領域を設ける場合、座席の位置に応じて調光領域を設けることにより、座席ごとに採光状態及び遮光状態を変更することができる。座席ごとに採光状態及び遮光状態を変更できる構成は、より快適な室内空間を提供に寄与する。なお、部屋11全体の採光状態及び遮光状態をまとめて変更したい場合には、上窓部14に設けられた複数の調光領域の透過率に基づく状態が同じになるように各調光シート22を制御すればよい。
【0070】
・調光シート22は、設定された調光領域ごとに1枚ずつ配置してもよいし、隣り合う2以上の調光領域に対して1枚の調光シート22を配置してもよい。
・光学薄膜層21に代えて、有色透明の樹脂シートを積層してなる層、又は透明基材層20の表面にキャスト法により成形された有色透明の樹脂層を設けてもよい。また、透明基材層20のみからなる窓部13としてもよい。
【0071】
・自動車10が取り得るモードは、上記実施形態に記載したモードに限定されるものではなく、上記実施形態に記載したモードの一部又は全部を省略してもよいし、その他のモードを設けてもよい。その他のモードとしては、例えば、太陽光電池を充電するための充電モードが挙げられる。この場合、窓部13の内側に太陽光電池パネルを設置する。そして、窓部13における太陽光電池パネルに重なる配置を充電用の調光領域として設定する。充電モードを選択する操作がなされた場合、調光制御部30は、充電用の調光領域が透過率の高い採光状態となるように調光シート22に電圧を印加する。
【0072】
・上記実施形態の窓構造は、部屋11を備える様々な乗物に適用できる。自動車10以外の部屋11を備える乗物としては、例えば、列車、船舶、飛行機、ロープウェイなどに用いられるゴンドラが挙げられる。
【0073】
・窓部13は、部屋11の下部を区画する透明な下窓部を含んでいてもよい。
・本発明の窓構造は、部屋11を区画する窓部13であって、部屋11から見て異なる方向に配置される2以上の窓部13を備える構造であればよく、自動車などの乗物の上部構造に限定されない。
【符号の説明】
【0074】
A1~A5…調光領域
10…自動車
11…部屋
13…窓部
14…上窓部
15…前窓部
16…後窓部
17…側窓部
20…透明基材層
21…光学薄膜層
22…調光シート
図1
図2
図3
図4