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特開2023-63850聴覚障害を予防及び/又は治療するための医薬組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023063850
(43)【公開日】2023-05-10
(54)【発明の名称】聴覚障害を予防及び/又は治療するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230428BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20230428BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230428BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20230428BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61P27/16
A61P43/00 111
A61K31/4439
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021173896
(22)【出願日】2021-10-25
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池村 健治
(72)【発明者】
【氏名】奥田 真弘
(72)【発明者】
【氏名】西村 有平
(72)【発明者】
【氏名】若井 恵里
(72)【発明者】
【氏名】竹内 万彦
(72)【発明者】
【氏名】田丸 智巳
(72)【発明者】
【氏名】水野 聡朗
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA06
4C084NA14
4C084ZA341
4C084ZC411
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC39
4C086GA07
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA06
4C086NA14
4C086ZA34
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】OCT2を介する薬剤の輸送に起因する聴覚障害の予防及び/又は治療に有用な医薬組成物の提供。
【解決手段】OCT2を介する薬剤の輸送に起因する聴覚障害を予防及び/又は治療するための医薬組成物であって、OCT2阻害剤を含有する医薬組成物が開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
OCT2を介する薬剤の輸送に起因する聴覚障害を予防及び/又は治療するための医薬組成物であって、OCT2阻害剤を含有する医薬組成物。
【請求項2】
前記薬剤の投与の前、同時、又は後に投与される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
OCT2を介して輸送される薬剤を含有する医薬組成物であって、前記医薬組成物の投与によって発症し得る聴覚障害を予防及び/又は治療するためのOCT2阻害剤の投与の前、同時、又は後に投与される、前記医薬組成物。
【請求項4】
前記薬剤がプラチナ薬剤である、請求項1~3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記プラチナ薬剤が、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、及びオキサリプラチンからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記OCT2阻害剤がプロトンポンプ阻害剤である、請求項1~5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記プロトンポンプ阻害剤が、ランソプラゾール、デクスランソプラゾール、オメプラゾール、エソメプラゾール、ラベプラゾール、及びパントプラゾールからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記聴覚障害が難聴又は耳鳴りである、請求項1~7のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に聴覚障害を予防及び/又は治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラチナ薬剤であるシスプラチン(CDDP)は、様々ながん化学療法で広く使用されている薬剤である。CDDPの有害事象には、聴覚障害、腎障害、神経障害、悪心・嘔吐、血液毒性がよく知られている。CDDP誘発性聴覚障害は、CDDPを含むがん化学療法を受けている患者のうち40%~80%で観察され(非特許文献1)、安全性への懸念だけでなく、コミュニケーション能力の低下及び鬱病の増加等の患者の生活の質にも悪影響を及ぼす。さらに、聴覚障害はがん化学療法の治療中止を余儀なくされるため、CDDPによるがん化学療法中の聴覚障害に対する保護戦略は化学療法の成功にとって非常に重要である。
【0003】
CDDP誘発性聴覚障害は、内耳蝸牛におけるCDDP蓄積によって引き起こされると考えられており、これは有機カチオントランスポーター2(OCT2/SLC22A2)を介した内耳蝸牛中へのCDDPの輸送が関与すると報告されている(非特許文献2)。以前の研究では、OCT2における808G>Tの一塩基多型(SNP)が、CDDP誘発性聴覚障害の発生と逆相関することが報告されている(非特許文献3)。さらに、OCT2ノックアウトマウスではCDDP誘発性聴覚障害は観察されなかったことが報告されている(非特許文献4)。CDDPによるがん化学療法を受ける小児患者に対してチオ硫酸ナトリウムを投与すると、CDDP誘発性聴覚障害の発症率が低下するが、CDDP誘発性聴覚障害を予防するには不十分であることも報告されている(非特許文献5)。
【0004】
プロトンポンプ阻害剤(PPI)は、逆流性食道炎や消化性潰瘍の治療及び/又は予防に臨床的に使用されている。最近の報告では、PPIはOCT2によるメトホルミンの取り込みを有意に阻害することや(非特許文献6)、ラットでOCT2を阻害することによりCDDP誘発性腎障害を抑制することが報告されている(非特許文献7)。さらに、電子カルテ情報を用いた後ろ向き研究により、CDDPによる化学療法を受けている患者において、PPI、特にランソプラゾール(LPZ)を服用している場合は、非服用患者に比べて腎障害が軽微であることも報告されている(非特許文献8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Park HJ et al. GSTA4 mediates reduction of cisplatin ototoxicity in female mice. Nature communications. 2019;10(1):4150
【非特許文献2】Lanvers-Kaminsky C et al. Drug-induced ototoxicity: Mechanisms, Pharmacogenetics, and protective strategies. Clin Pharmacol Ther. 2017;101(4):491-500.
【非特許文献3】Lanvers-Kaminsky C et al. Human OCT2 variant c.808G>T confers protection effect against cisplatin-induced ototoxicity. Pharmacogenomics. 2015;16(4):323-32.
【非特許文献4】Ciarimboli G et al. Organic cation transporter 2 mediates cisplatin-induced oto- and nephrotoxicity and is a target for protective interventions. Am J Pathol. 2010;176(3):1169-80.
【非特許文献5】Brock PR et al. Sodium Thiosulfate for Protection from Cisplatin-Induced Hearing Loss. N Engl J Med. 2018;378(25):2376-85.
【非特許文献6】Nies AT et al. Proton pump inhibitors inhibit metformin uptake by organic cation transporters (OCTs). PLoS One. 2011;6(7):e22163
【非特許文献7】Hiramatsu S et al. Concomitant lansoprazole ameliorates cisplatin-induced nephrotoxicity by inhibiting renal organic cation transporter 2 in rats. Biopharm Drug Dispos. 2020;41(6):239-47
【非特許文献8】Ikemura K et al. Co-administration of proton pump inhibitors ameliorates nephrotoxicity in patients receiving chemotherapy with cisplatin and fluorouracil: a retrospective cohort study. Cancer Chemother Pharmacol. 2017;79(5):943-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
チオ硫酸ナトリウム等の薬物は、OCT2を介して輸送される薬剤(CDDP等)によって誘発される聴覚障害を予防又は治療するには不十分である。したがって、本発明は、OCT2を介する薬剤の輸送に起因する聴覚障害を予防及び/又は治療するのに有用な医薬組成物を提供することを一つの課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、OCT2を介して輸送される薬剤とOCT2阻害剤とを組み合わせることにより、OCT2を介する薬剤の輸送に起因する聴覚障害に対して極めて優れた予防効果及び/又は治療効果を発揮することを見出した。本発明は、当該知見を基に更に検討を重ねて完成したものである。
【0008】
本発明は、代表的には下記の態様を包含する。
[項1]
OCT2を介する薬剤の輸送に起因する聴覚障害を予防及び/又は治療するための医薬組成物であって、OCT2阻害剤を含有する医薬組成物。
[項2]
前記薬剤の投与の前、同時、又は後に投与される、項1に記載の医薬組成物。
[項3]
OCT2を介して輸送される薬剤を含有する医薬組成物であって、前記医薬組成物の投与によって発症し得る聴覚障害を予防及び/又は治療するためのOCT2阻害剤の投与の前、同時、又は後に投与される、前記医薬組成物。
[項4]
前記薬剤がプラチナ薬剤である、項1~3のいずれかに記載の医薬組成物。
[項5]
前記プラチナ薬剤が、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、及びオキサリプラチンからなる群より選択される少なくとも一種である、項4に記載の医薬組成物。
[項6]
前記OCT2阻害剤がプロトンポンプ阻害剤である、項1~5のいずれかに記載の医薬組成物。
[項7]
前記プロトンポンプ阻害剤が、ランソプラゾール、デクスランソプラゾール、オメプラゾール、エソメプラゾール、ラベプラゾール、及びパントプラゾールからなる群より選択される少なくとも一種である、項6に記載の医薬組成物。
[項8]
前記聴覚障害が難聴又は耳鳴りである、項1~7のいずれかに記載の医薬組成物。
[項9]
OCT2を介して輸送される薬剤を必要とする対象、或いは、OCT2を介して輸送される薬剤の投与によって聴覚障害を発症している又は発症する恐れのある対象において聴覚障害を予防及び/又は治療するための医薬組成物であって、OCT2阻害剤を含有する医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、例えば、OCT2を介する薬剤の輸送に起因する聴覚障害を予防及び/又は治療するのに有用な医薬組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、ゼブラフィッシュにおいてCDDP(0、100、250、500、及び1000μM)に2時間曝露した後の有毛細胞の明視野像及び傾向視野像である。感丘の有毛細胞を丸で囲み拡大している。
図1B図1Bは、有毛細胞の蛍光強度を定量化したグラフである。統計分析はダネット検定による。**はp<0.01(0μM CDDP(n=5)に対する)を表す。
図2A図2Aは、CDDP(250μM)及びシメチジン(CMD)(1mM)を2時間共処理したゼブラフィッシュ有毛細胞の明視野像及び蛍光視野像を示す。
図2B図2Bは、有毛細胞の蛍光強度を定量化したグラフである。統計分析はテューキーの多重比較検定による。**はp<0.01(コントロールに対する)を表す。#はp<0.05(CDDP(n=5)に対する)を表す。
図2C図2Cは、ゼブラフィッシュにおいてCDDP(250μM)及びLPZ(0.5μM)を曝露した後の有毛細胞の明視野像及び蛍光視野像である。
図2D図2Dは、有毛細胞の蛍光強度を定量化したグラフである。統計分析はテューキーの多重比較検定による。**はp<0.01(コントロールに対する)を表す。##はp<0.01(CDDP(n=5)に対する)を表す。
図3A図3Aは、oct2(zgc:64076)のガイドRNA標的化ゲノム領域を増幅した後のPCR産物のヘテロ二本鎖移動度分析の結果である。ゲノムDNAを野生型ゼブラフィッシュ(WT)又はoct2(zgc:64076)クリスパントゼブラフィッシュ(#1及び#2)から抽出し、PCRに供してガイドRNA標的部位を含むoct2(zgc:64076)の短いフラグメントを増幅した。PCR産物を10%アクリルアミドゲルで電気泳動した。予測されるホモ二本鎖の位置を矢印で示している。
図3B図3Bは、5dpfのWT及びoct2(zgc:64076)クリスパントゼブラフィッシュの明視野像である。
図3C図3Cは、CDDP 250μMで2時間処理した、WT及びoct2(zgc:64076)クリスパントゼブラフィッシュの有毛細胞の明視野像及び蛍光視野像である。感丘の有毛細胞を丸で囲み拡大している。
図3D図3Dは、有毛細胞の蛍光強度を定量化したグラフである。統計分析はテューキーの多重比較検定による。**はp<0.01(WTに対する)を表す。##はp<0.01(WT CDDP(n=5)に対する)を表す。
図4A図4Aは、oct2(zgc:175176)のガイドRNA標的化ゲノム領域を増幅した後のPCR産物のヘテロ二本鎖移動度分析の結果である。ゲノムDNAを野生型ゼブラフィッシュ(WT)又はoct2(zgc:175176)クリスパントゼブラフィッシュ(#1及び#2)から抽出し、PCRに供してガイドRNA標的部位を含むoct2(zgc:175176)の短いフラグメントを増幅した。PCR産物を10%アクリルアミドゲルで電気泳動した。予測されるホモ二本鎖の位置を矢印で示している。
図4B図4Bは、5dpfのWT及びoct2(zgc:175176)クリスパントゼブラフィッシュの明視野像である。
図4C図4Cは、CDDP 250μMで2時間処理した、WT及びoct2(zgc:175176)クリスパントゼブラフィッシュの有毛細胞の明視野像及び蛍光視野像である。感丘の有毛細胞を丸で囲み拡大している。
図4D図4Dは、有毛細胞の蛍光強度を定量化したグラフである。統計分析はテューキーの多重比較検定による。**はp<0.01(WTに対する)を表す。
図5図5は、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)を用いたゼブラフィッシュの白金蓄積の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1. OCT2阻害剤を含有する医薬組成物
一実施形態において、OCT2阻害剤を含有する医薬組成物は、OCT2を介する薬剤の輸送に起因する聴覚障害を予防及び/又は治療するための医薬組成物である。
【0012】
別の実施形態において、OCT2阻害剤を含有する医薬組成物は、OCT2を介して輸送される薬剤を必要とする対象、或いは、OCT2を介して輸送される薬剤の投与によって聴覚障害を発症している又は発症する可能性のある対象において聴覚障害を予防及び/又は治療するための医薬組成物である。
【0013】
OCT2とは、有機カチオントランスポーター2であり、溶質キャリアファミリー22のメンバー2(SLC22A2)とも称される。OCT2を介して輸送される薬剤は、当該輸送に起因して聴覚障害を発生し得るものである限り、特に制限されない。前記薬剤は、OCT2を介して、内耳細胞、特に内耳蝸牛細胞に輸送されるものであることが好ましい。代表的な例としては、プラチナ薬剤が挙げられる。
【0014】
プラチナ薬剤としては、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、リポプラチン、アロプラチン、ピコプラチン、サトラプラチン、イプロプラチン、ロバプラチン、トリプラチン、テトラプラチン、ヘプタプラチン(これらの各薬剤は、同じ薬理作用を有する限り、フリー体、その薬学的に許容可能な塩、及びそれらの溶媒和物等を包含する意味で用いる)等が挙げられる。プラチナ薬剤は1種類を単独で用いてもよく2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
OCT2を介して輸送される薬剤は、プラチナ薬剤を含む又はそれからなることが好ましく、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、リポプラチンからなる群より選択される少なくとも一種を含む又はそれからなることがより好ましく、シスプラチン及びオキサリプラチンからなる群より選択される少なくとも一種を含む又はそれからなることが更に好ましく、シスプラチンを含む又はそれからなることが特に好ましい。
【0016】
OCT2阻害剤は、上記の薬剤のOCT2を介する輸送を阻害し得るものである限り、特に制限されない。OCT2阻害剤の代表的な例としては、プロトンポンプ阻害剤(PPI)、H2受容体拮抗剤等が挙げられる。
【0017】
プロトンポンプ阻害剤としては、例えば、ランソプラゾール(ラセミ体)、デクスランソプラゾール(R-ランソプラゾール)、S-ランソプラゾール、ヒドロキシランソプラゾール、オメプラゾール(ラセミ体)、R-オメプラゾール、エソメプラゾール(S-オメプラゾール)、ヒドロキシオメプラゾール、ラベプラゾール、パントプラゾール、チモプラゾール、パリプラゾール、レミノプラゾール、ネパプラゾール、テナトプラゾール、プマプラゾール(これらの各薬剤は、同じ薬理作用を有する限り、フリー体、その薬学的に許容可能な塩、及びそれらの溶媒和物等を包含する意味で用いる)等が挙げられる。
【0018】
H2受容体拮抗剤としては、例えば、シメチジン、ラニチジン、ファモチジン、ニザチジン、ロキサチジン、ラフチジン(これらの各薬剤は、同じ薬理作用を有する限り、フリー体、その薬学的に許容可能な塩、及びそれらの溶媒和物等を包含する意味で用いる)等が挙げられる。
【0019】
OCT2阻害剤は1種類を単独で用いてもよく2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
OCT2阻害剤は、プロトンポンプ阻害剤を含む又はそれからなることが好ましく、ランソプラゾール、デクスランソプラゾール、S-ランソプラゾール、オメプラゾール、エソメプラゾール、ラベプラゾール、及びパントプラゾールからなる群より選択される少なくとも一種を含む又はそれからなることがより好ましく、ランソプラゾール、デクスランソプラゾール、及びS-ランソプラゾールからなる群より選択される少なくとも一種を含む又はそれからなることが更に好ましく、ランソプラゾール及びデクスランソプラゾールからなる群より選択される少なくとも一種を含む又はそれからなることが更により好ましく、ランソプラゾールを含む又はそれからなることが特に好ましい。
【0021】
当該医薬組成物に含まれるOCT2阻害剤の量(有効成分換算量)は、有効量であることが好ましく、例えば、0.1~100質量%の範囲内から適宜選択することができる。
【0022】
当該医薬組成物は、OCT2阻害剤に加えて、通常、薬学的に許容可能な担体又は添加剤を含有する。前記担体又は添加剤の一例として、固形製剤等の場合には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等が挙げられ、液状製剤等の場合には、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤等が挙げられる。前記担体又は添加剤の更なる例として、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、酸味剤、香料等が挙げられる。
【0023】
前記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。
【0024】
前記結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム末、ゼラチン、プルラン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0025】
前記崩壊剤としては、例えば、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、コーンスターチ等が挙げられる。
【0026】
前記滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク等が挙げられる。
【0027】
前記溶剤としては、例えば、水(精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等)、生理食塩水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、植物油(ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油等)等が挙げられる。
【0028】
前記溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0029】
前記懸濁化剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等が挙げられる。
【0030】
前記等張化剤としては、例えば、ブドウ糖、D-ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール等が挙げられる。
【0031】
前記緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等が挙げられる。
【0032】
前記防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられる。
【0033】
前記抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸、α-トコフェロール等が挙げられる。
【0034】
前記着色剤としては、例えば、食用黄色5号、食用赤色2号、食用青色2号等の食用色素;食用レーキ色素、ベンガラ等が挙げられる。
【0035】
前記甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチン等が挙げられる。
【0036】
前記酸味剤としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。
【0037】
前記香料としては、合成物及び天然物のいずれでもよく、例えば、レモン、ライム、オレンジ、メントール、ストロベリー等が挙げられる。
【0038】
当該医薬組成物は、固形製剤、半固形製剤、及び液状製剤のいずれであってもよい。固形製剤としては、例えば、顆粒、散剤、丸剤、錠剤(単層錠、多層錠、コーティング錠等)、カプセル剤、カプレット等が挙げられる。半固形製剤としては、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤等が挙げられる。液状製剤としては、例えば、液剤、懸濁剤、シロップ剤等が挙げられる。
【0039】
当該医薬組成物の投与対象としては、例えば、ヒト、ヒト以外の哺乳類(例えば、ネコ、イヌ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウマ等のペット又は家畜動物)等が挙げられる。
【0040】
当該医薬組成物の投与対象は、OCT2を介して輸送される薬剤の対象とする疾患を発症している又は発症する可能性のある対象であることが好ましく、前記薬剤の対象とする疾患、及び、前記薬剤のOCT2を介する輸送に起因する聴覚障害の両方を発症している又は発症する可能性のある対象であることも好ましい。
【0041】
前記OCT2を介して輸送される薬剤の対象とする疾患としては、例えば、OCT2を介して輸送される薬剤がプラチナ薬剤等の場合、がん等が挙げられる。がんは、固形がんであっても血液がんであってもよい。固形がんとしては、例えば、頭頚部がん、甲状腺がん、乳がん、肺がん、膵がん、大腸がん、肝細胞がん、胆道がん、胃がん、食道がん、小腸がん、直腸がん、結腸がん、腎がん、精巣がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、皮膚がん、悪性黒色腫、骨肉腫等が挙げられる。血液がんとしては、例えば、白血病(急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病を含む)、リンパ腫(例えば、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫)、多発性骨髄腫等が挙げられる。
【0042】
前記薬剤のOCT2を介する輸送に起因する聴覚障害としては、例えば、聴力障害(難聴)、聴覚過敏、錯聴、耳鳴り、耳閉塞感等が挙げられる。これらの中でも、難聴又は耳鳴りが代表的である。前記難聴には、伝音性難聴、感音性難聴、及び混合性難聴が含まれる。
【0043】
当該医薬組成物の投与経路は、経口及び非経口のいずれであってもよい。また、非経口投与の具体例としては、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与等が挙げられる。さらに、当該医薬組成物は局所投与により投与されてもよい。
【0044】
当該医薬組成物の投与量は、投与対象、投与経路等に応じて適宜選択することができ、例えば、有効成分として0.5mg/日以上、1mg/日以上、3mg/日以上、又は5mg/日以上であってもよく、1500mg/日以下、1000mg/日以下、500mg/日以下、300mg/日以下、又は150mg/日であってもよい。
【0045】
当該医薬組成物は、例えば、1日1回、2回、又は3回、2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、6日に1回、又は1週間に1回の頻度で投与してもよい。当該医薬組成物の投薬期間は、例えば、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、又はそれ以上であってもよい。また、当該医薬組成物の投薬期間の後に休薬期間、例えば、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、又はそれ以上を設けてもよい。さらに、当該医薬組成物は、前記投薬期間及び前記休薬期間からなるサイクルを2回以上繰り返して投与してもよい。
【0046】
当該医薬組成物は、OCT2を介して輸送される薬剤と組み合わせて、すなわち、前記薬剤の投与の前、同時、又は後に投与することが好ましい。
【0047】
当該医薬組成物は、例えば、OCT2を介して輸送される薬剤の投与前、具体的には、5分前、10分前、15分前、30分前、1時間前、3時間前、6時間前、9時間前、12時間前、1日前、2日前、3日前、4日前、5日前、6日前、又は1週間前に投与してもよい。
【0048】
当該医薬組成物は、例えば、OCT2を介して輸送される薬剤の投与後、具体的には、5分後、10分後、15分後、30分後、1時間後、3時間後、6時間後、9時間後、12時間後、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、又は1週間後に投与してもよい。
【0049】
当該医薬組成物は、難聴、耳鳴り等の上記に例示した聴覚障害を予防及び/又は治療する用途に好適に利用することができる。
【0050】
2. OCT2を介して輸送される薬剤を含有する医薬組成物
一実施形態において、OCT2を介して輸送される薬剤を含有する医薬組成物は、前記医薬組成物の投与によって発症し得る聴覚障害を予防及び/又は治療するためのOCT2阻害剤と組み合わせて、すなわち、前記OCT2阻害剤の投与の前、同時、又は後に投与される。前記OCT2阻害剤としては、上記1に記載のOCT2阻害剤と同じもの、例えば、ランソプラゾール、デクスランソプラゾール等のプロトンポンプ阻害剤を含む又はそれからなるものが挙げられる。
【0051】
当該医薬組成物に含まれる、OCT2を介して輸送される薬剤としては、上記1に記載の薬剤と同じもの、例えば、シスプラチン、オキサリプラチン等のプラチナ薬剤を含む又はそれからなるものが挙げられる。当該医薬組成物に含まれる前記薬剤の量(有効成分換算量)は、有効量であることが好ましく、例えば、0.1~100質量%の範囲内から適宜選択することができる。
【0052】
当該医薬組成物は、OCT2を介して輸送される薬剤に加えて、通常、薬学的に許容可能な担体又は添加剤を含有する。前記担体又は添加剤としては、上記1に記載の担体又は添加剤と同じものが挙げられる。
【0053】
当該医薬組成物は、固形製剤、半固形製剤、及び液状製剤のいずれであってもよく、それぞれの具体例としては、上記1に記載の固形製剤、半固形製剤、及び液状製剤と同じものが挙げられる。
【0054】
当該医薬組成物の投与対象、投与経路、及び投与頻度としては、上記1に記載の投与対象、投与経路、及び投与頻度と同じものが挙げられる。
【0055】
当該医薬組成物の投与量は、投与対象、投与経路等に応じて適宜選択することができ、例えば、有効成分として0.5mg/m(体表面積)/日以上、1mg/m(体表面積)/日以上、3mg/m(体表面積)/日以上、又は5mg/m(体表面積)/日以上であってもよく、200mg/m(体表面積)/日以下、150mg/m(体表面積)/日以下、又は100mg/m(体表面積)/日以下であってもよい。
【0056】
当該医薬組成物は、例えば、OCT2阻害剤の投与前、具体的には、5分前、10分前、15分前、30分前、1時間前、3時間前、6時間前、9時間前、12時間前、1日前、2日前、3日前、4日前、5日前、6日前、又は1週間前に投与してもよい。
【0057】
当該医薬組成物は、例えば、OCT2阻害剤の投与後、具体的には、5分後、10分後、15分後、30分後、1時間後、3時間後、6時間後、9時間後、12時間後、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、又は1週間後に投与してもよい。
【0058】
当該医薬組成物は、OCT2を介して輸送される薬剤が対象とする疾患を予防及び/又は治療する用途に好適に利用することができる。前記疾患としては、上記1に記載の疾患と同じもの、例えば、がん等が挙げられる。がんを予防及び/又は治療する用途では、他の抗がん剤(例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、トポイソメラーゼ阻害剤、抗がん抗生物質、微小管作用抗がん剤)の投与、放射線照射等と組み合わせて、当該医薬組成物を使用してもよい。
【0059】
当該医薬組成物の投与によって発症し得る聴覚障害(副作用に相当し得る)としては、上記1に記載の聴覚障害と同じもの、例えば、難聴、耳鳴り等が挙げられる。
【0060】
3. 組合せ医薬又はキット
一実施形態において、OCT2を介して輸送される薬剤が対象とする疾患、及び、聴覚障害を予防及び/又は治療するための組合せ医薬又はキットは、OCT2を介して輸送される薬剤及びOCT2阻害剤を含有する。
【0061】
OCT2を介して輸送される薬剤としては、上記1に記載の薬剤と同じもの、例えば、シスプラチン、オキサリプラチン等のプラチナ薬剤を含む又はそれからなるものが挙げられる。OCT2阻害剤としては、上記1に記載の薬剤と同じもの、例えば、ランソプラゾール、デクスランソプラゾール等のプロトンポンプ阻害剤を含む又はそれからなるものが挙げられる。OCT2を介して輸送される薬剤及びOCT2阻害剤は、医薬組成物の形態で、同一の又は別々の容器に含まれていてもよい。
【0062】
前記OCTを介して輸送される薬剤が対象とする疾患としては、上記1に記載の疾患と同じもの、例えば、がん等が挙げられる。前記聴覚障害としては、上記1に記載の聴覚障害と同じもの、例えば、難聴、耳鳴り等が挙げられる。
【0063】
当該キットは、OCT2を介して輸送される薬剤及びOCT2阻害剤の投与に関する器具や説明書等を含んでいてもよい。
【実施例0064】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0065】
1. 材料及び方法
1-1. 倫理声明
本研究に記載されている全ての動物実験は、三重大学動物実験審査委員会によって承認され、国立衛生研究所の動物実験のガイドラインに従って実施された。この研究はヘルシンキ宣言に従って実施され、三重大学大学院医学系研究科及び医学部の倫理委員会によって承認された(no.2021-170)。患者データの収集にあたり、オプトアウトにより研究内容の情報を公開し、研究協力者に対して、研究参加を拒否する機会を設け、研究を実施した。
【0066】
1-2. 材料
YoPro1をInvitrogen社から購入した。シスプラチン(CDDP)、シメチジン(CMD)、及びランソプラゾール(LPZ)は東京化成工業株式会社から購入した。LPZの原液は、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解して調製した。他の化学物質を溶解し、0.3×Danieau溶液で希釈して、指定の濃度を得た。[エチル-1-14C]臭化テトラエチルアンモニウム([14C]TEA、55mCi/mmol)をAmerican Radiolabeled Chemicals, Inc.から購入した。未標識TEA及びシメチジンをナカライテスク株式会社から購入した。使用した他の全ての化学物質は、入手可能な最高純度のものであった。
【0067】
1-3. ゼブラフィッシュの飼育
ゼブラフィッシュは、参考文献1(Nishimura Y et al. Using zebrafish in systems toxicology for developmental toxicity testing. Congenit Anom (Kyoto). 2016;56(1):18-27)に従い飼育した。簡単に説明すると、ゼブラフィッシュを28.5±0.5℃で14時間/10時間の明/暗サイクルで飼育した。胚を自然交配によって得て、0.3×Danieau溶液(19.3mM NaCl、0.23mM KCl、0.13mM MgSO、0.2mM Ca(NO)、及び1.7mM HEPES、pH7.2)中で飼育した。
【0068】
1-4. ゼブラフィッシュにおける薬物曝露
受精後日数(dpf)5日目のゼブラフィッシュ稚魚を、CDDP(100μM、250μM、500μM、及び1000μM)を含む0.3×Danieau溶液中で、1mM CMD(ポジティブコントロール:OCT2阻害剤)又は0.5μMのLPZの存在下又は非存在下で2時間インキュベートした。
【0069】
1-5. oct2クリスパント(crispant)ゼブラフィッシュの作製
ゼブラフィッシュのoct2遺伝子は二種類存在する(zgc:64076とzgc:175176)。これら二種類のoct2遺伝子のノックアウトゼブラフィッシュ(oct2クリスパントゼブラフィッシュ)を、参考文献2(Kotani H et al. Efficient Multiple Genome Modifications Induced by the crRNAs, tracrRNA and Cas9 Protein Complex in Zebrafish. PLoS One. 2015;10(5):e0128319)に従って作製した。zgc:64076またはzgc:175176遺伝子を標的とするCRISPR RNA(crRNA)及びtrans-activating crRNA(tracrRNA)、並びに組換えCas9タンパク質を株式会社ファスマックから入手した。各配列は次の通りである。
oct2 (zgc:64076)_crRNA
cugcucgcguuugugcuaauguuuuagagcuaugcuguuuug (配列番号1)
oct2 (zgc:175176)_crRNA
aucuuggcccucgacaugggguuuuagagcuaugcuguuuug (配列番号2)
tracrRNA
aaacagcauagcaaguuaaaauaaggcuaguccguuaucaacuugaaaaaguggcaccgagucggugcu
(配列番号3)
簡単に説明すると、crRNA、tracrRNA、及びCas9タンパク質を1000ng/μlの濃度で滅菌水に溶解し、使用時まで-80℃で保存した。マイクロインジェクションでは、crRNA、tracrRNA、Cas9タンパク質、及び既知の標的遺伝子を持たないlissamine(商標)標識モルフォリノ(Gene Tools社)をヤマモトリンゲル溶液(Yamamoto's Ringer's solution)(0.75%NaCl、0.02%KCl、0.02%CaCl、及び0.002%NaHCO)で混合し、それぞれ100ng/μl、100ng/μl、400ng/μl、及び50nMの最終濃度にした。この溶液を、1細胞期~4細胞期の受精卵にマイクロインジェクションした。1dpfで、lissamine(商標)蛍光を示すゼブラフィッシュ胚を選択し、参考文献3(Sasagawa S et al. Downregulation of GSTK1 Is a Common Mechanism Underlying Hypertrophic Cardiomyopathy. Front Pharmacol. 2016;7:162)及び参考文献4(Sasagawa S et al. Comparative Transcriptome Analysis Identifies CCDC80 as a Novel Gene Associated with Pulmonary Arterial Hypertension. Front Pharmacol. 2016;7:142)に従い、次のように変更を加えたCRISPR/Cas9法によってゲノム編集の効果を調べた。50μlの溶解バッファー(10mM Tris-HCl、pH8.0、0.1mM EDTA、0.2%Triton X-100、及び200g/mlプロテイナーゼK)中で、55℃で一晩インキュベートし、続いて、94℃で10分間インキュベートすることにより、ゼブラフィッシュ胚からゲノムDNAを抽出した。次いで、溶液を4℃下で、PCRのテンプレートとして使用した。下記に示すプライマー:
oct2 (zgc:64076)_gprimerF
gctgtcagtccgcatgataa (配列番号4)
oct2 (zgc:64076)_gprimerR
tacaggccgacagatgagtg (配列番号5)
oct2 (zgc:175176)_gprimerF
gacctcaaacctcattagcacc (配列番号6)
oct2 (zgc:175176)_gprimerR
gtaaacctgggtccaaacacat (配列番号7)
及びQuickTaq(商標)(東洋紡株式会社)を使用して、crRNAの標的部位を包含するzgc:64076及びzgc:175176の短い断片をゲノムDNAから増幅した。
【0070】
3ステップPCRを、94℃で30秒間、60℃で30秒間、及び68℃で30秒間の40サイクルを使用して行った。PCR産物を10%ポリアクリルアミドゲル(富士フイルム和光純薬株式会社)で電気泳動し、臭化エチジウム染色で可視化した
【0071】
1-6. YoPro1で染色されたゼブラフィッシュ有毛細胞のin vivoイメージング
化学薬品で処理したゼブラフィッシュ、並びに野生型及びoct1またはoct2クリスパントゼブラフィッシュの稚魚を5dpfに、2μM YoPro1を含む0.3×Danieau溶液に30分間曝露した。染色後、ゼブラフィッシュを2-フェノキシエタノール(500ppm)を含む0.3×Danieau溶液に移して麻酔をかけ、次いでスライドガラスに移した。3%の低融点アガロース溶液を数滴ゼブラフィッシュの上に置き、ゼブラフィッシュをすぐに横向きにし、背側を上に向けた。次いで、ゼブラフィッシュを、GFPフィルター(Ex/Em 488/500~530nm)を備えた落射蛍光顕微鏡(SMZ25、株式会社ニコン)を使用して観察した。蛍光強度は、Image Jソフトウェアを使用して定量した。
【0072】
1-7. レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析(LA-ICP-MS)を使用したゼブラフィッシュのプラチナ蓄積の測定
5dpfのゼブラフィッシュを、0.5μM LPZの存在下又は非存在下で、250μM CDDPを含む0.3×Danieau溶液中で2時間インキュベートした。ゼブラフィッシュを4%リン酸緩衝パラホルムアルデヒド中で一晩固定し、使用するまで-30℃でメタノール(100%)中で保存した。ゼブラフィッシュのプラチナ蓄積量は、株式会社東レリサーチセンターの機器分析委託部門でLA-ICP-MSを使用して測定した。
【0073】
1-8. FAERSデータベースを使用したCDDP誘発性聴覚障害に対するPPIの効果の分析
2014年7月から2020年12月までの患者情報(DEMO)、医薬品情報(DRUG)、並びに有害事象名(REAC)に関する報告を、FDAが公開しているFAERSデータベース(http://www.fda.gov/)から得た。重複する報告は、FDAの推奨に従って除外した。データ解析は、ACCESS(商標)2019ソフトウェア(Microsoft社)を使用して実施した。CDDP投与に関連する報告を抽出し、有害事象名は、医薬規制用語集(Medical Dictionary for Regulatory Activities)(MedDRA/J)バージョン24.0を使用して定義した。MedDRA標準化検索式(SMQ)を、聴覚障害の検索に使用した(SMQコード:20000171)。CDDP投与に関連した聴覚障害報告に対するPPIの影響を、報告オッズ比(ROR)により評価した。RORは、2×2分割表から算出し、95%信頼区間(CI)の上限値が1を下回った場合に、負のシグナルありと判定した。
【0074】
1-9. 細胞培養
ヒトOCT2発現HEK293細胞(HEK-hOCT2)は、G418を含む10%ウシ胎児血清(和光純薬工業株式会社)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(和光純薬工業株式会社)からなる完全培地で培養した。HEK-hOCT2細胞を、それぞれ継代数80~90の間で使用した。これらの細胞を、加湿した5%COインキュベーターにより37℃で培養した。
【0075】
1-10. HEK-hOCT2細胞を使用した取り込み実験
HEK-hOCT2細胞(1.0×10細胞/dish)を、G418を含まない培養培地が入った3.5cm dishに播種した。培養48時間後に形成された細胞単層を取り込み実験に使用した。OCT2の典型的基質である[14C]TEAの細胞内取り込み実験を37℃の条件下で実施した。使用したインキュベーションディウムの組成は以下の通りであった:145mM NaCl、3mM KCl、1mM CaCl、0.5mM MgCl、5mM D-グルコース、及び5mM HEPES(pH7.4)。HEK-hOCT2細胞を、各PPI(100μM)又はシメチジン(100μM)の非存在下(対照)又は存在下で、5μM [14C]TEAと共に2分間インキュベートした。細胞内の[14C]TEAの放射活性を測定するために、細胞懸濁液(600μL)を1N NaOH中に溶解した。細胞溶解液(400μL)を400μLの1N HClを含む4mLのClearsol II(ナカライテスク株式会社)に添加し、液体シンチレーションカウンターLSC-5100(Aloka社)により放射活性を測定した。1N NaOHで溶解した細胞溶解液(200μL)のタンパク質含有量を、ブラッドフォード法を使用して測定した。最後に、細胞溶解液中(600μL)における放射活性及びタンパク質濃度を算出した。
【0076】
1-11. 電子カルテを使用した後ろ向き研究
2010年1月から2021年4月の間に三重大学医学部附属病院の耳鼻咽喉・頭頸部外科及び血液・腫瘍内科でCDDPの投与を受けた入院患者の臨床データを電子カルテから収集した。CDDPの投与を受けた20歳以上の患者463人の中から、CDDPの総投与量が300mg以上の340人の患者を選択した。CDDP治療前の難聴(n=5)、耳疾患(n=6)、及びアミノグリコシド系抗生物質が投与された患者(n=1)、LPZ以外のPPIが投与された患者(n=39)を除外した。CDDP治療後に難聴と登録された患者を、聴覚障害ありと判定した。
【0077】
1-12.統計解析
データの結果を平均±S.E.として表す。多群間の統計解析には、ダネット検定又はテューキーの多重比較検定を使用して実施した。臨床データの二群間の統計解析には、連続変数にはマン・ホイットニーU検定、カテゴリ変数はフィッシャーの正確確率検定を使用して実施し、仮説検定の有意水準をp<0.05とした。
【0078】
2. 結果
2-1. ゼブラフィッシュ有毛細胞におけるCDDPによる毒性評価
ゼブラフィッシュ有毛細胞におけるCDDPの毒性を調べるため、5dpfのゼブラフィッシュの幼魚を種々の濃度のCDDP(100μM、250μM、500μM、1000μM)に2時間曝露した。CDDPは、用量依存的に有毛細胞の生存率を低下させた(図1A-1B)。250μMのCDDPの曝露により、有毛細胞のおよそ50%~60%の生存率の低下が認められたため、以降の検討においては、250μMのCDDPを最適な実験濃度として実験を行った。
【0079】
2-2. CDDP曝露ゼブラフィッシュの有毛細胞生存率に及ぼすOCT2阻害剤の効果
CDDPとCMDあるいはLPZと同時曝露した後の、有毛細胞の蛍光強度を比較することにより、有毛細胞の生存率の変化を調べた。図2AはCDDP曝露ゼブラフィッシュの有毛細胞生存率に及ぼすCMDの作用解析における、YoPro1で染色されたゼブラフィッシュ有毛細胞のin vivoイメージングを示す。有毛細胞の生存率は、コントロールと比較して、250μMのCDDP曝露によりおよそ60%まで減少した。しかしながら、有毛細胞の生存率は1mM CMDの同時曝露によって改善した(有毛細胞の生存率はおよそ70%)(図2B)。図2Cは、CDDP曝露ゼブラフィッシュの有毛細胞生存率に及ぼすLPZの作用解析における、YoPro1で染色されたゼブラフィッシュ有毛細胞のin vivoイメージング示す。有毛細胞の生存率は、コントロールと比較して、250μMのCDDPへの曝露後におよそ50%減少した。しかしながら、有毛細胞の生存率は、0.5μM LPZによる同時処理によって改善した(図2D)。
【0080】
2-3. oct2クリスパントゼブラフィッシュの作製
zgc:64076とzgc:175176の翻訳開始部位は、第1エクソンにある。第1エクソンにおける開始コドンの後に位置するプロトスペーサー隣接モチーフを含む配列を標的とするcrRNAを設計した。これらのガイドRNA及びCas9タンパク質を、ゼブラフィッシュの胚にマイクロインジェクションした。1dpfにおいて、crRNAが標的とする配列周辺のゲノム領域を増幅するプライマーを使用してゲノムPCR分析を実施した。図3A及び図4Aに示すように、ガイドRNA及びCas9(クリスパント#1、#2)を注入したゼブラフィッシュでは、主要なPCR産物(図3A及び図4Aの黒い矢印で示されている)の下に多くの追加のバンド(図3A及び図4Aの記号 ] で示されている)が認められたが、野生型ゼブラフィッシュでは認められなかった。これらの結果は、zgc:64076及びzgc:175176がこれらのクリスパントゼブラフィッシュにおいてノックアウトされたことを示唆する。野生型とクリスパントゼブラフィッシュとの間で形態に違いはなかった(図3B及び図4B)。
【0081】
2-4. oct2クリスパントゼブラフィッシュにおけるCDDP曝露後のゼブラフィッシュの有毛細胞の生存率
野生型及びoct2クリスパントゼブラフィッシュによる有毛細胞の生存率を有毛細胞の蛍光強度を比較して調査した。図3Cは、CDDPで処理された野生型及びoct2(zgc:64076)クリスパントゼブラフィッシュのYoPro1で染色された有毛細胞のin vivoイメージングを示す。野生型ゼブラフィッシュの有毛細胞生存率は、コントロール(CDDPで未処理の野生型ゼブラフィッシュ)と比較して、250μMのCDDPで曝露によりおよそ50%まで減少した。しかしながら、CDDP曝露後のoct2(zgc:64076)クリスパントゼブラフィッシュの有毛細胞生存率は、CDDP曝露後の野生型ゼブラフィッシュと比較して有意に増加した(図3D)。一方、CDDPで処理されたoct2(zgc:175176)クリスパントゼブラフィッシュの有毛細胞生存率は、CDDP曝露後の野生型ゼブラフィッシュと比較し改善は認められなかった(図4C及び4D)。
【0082】
2-5. CDDP及びLPZ曝露後のゼブラフィッシュのプラチナ蓄積量の比較
CDDP及びLPZ曝露後のゼブラフィッシュのプラチナ蓄積量をLA-ICP-MSにより測定した。コントロールではプラチナは検出されなかったが、250μMのCDDP曝露後のゼブラフィッシュのプラチナ蓄積量は、0.5μMのLPZを同時曝露することにより顕著に低下した(図5)。
【0083】
2-6. FAERSデータベース解析によるCDDP誘発性聴覚障害に対するPPI併用の影響
FAERSデータベースを使用して、29976人のCDDP投与に関連した聴覚障害の報告を抽出した。CDDP誘発性聴覚障害の報告率、並びにLPZ及び他のPPIが投与された患者の報告オッズ比(ROR)を解析した(表1)。
【0084】
【表1】
【0085】
LPZを投与された患者の聴器障害の報告率(1.0%)は、LPZを投与されなかった患者(2.7%、p=0.039)よりも有意に低かった。さらに、LPZ以外のオメプラゾール(0.2% vs 2.7%、p<0.001)及びエソメプラゾール(0.8% vs 2.7%、p=0.030)でも同様の結果が得られた。
【0086】
2-7. HEK-hOCT2細胞における[ 14 C]TEAの輸送に対する各PPIの阻害効果の比較
LPZ及び他のPPIがhOCT2を介した[14C]TEAの輸送を阻害するかどうかを確認するために、HEK-hOCT2細胞において、PPI(100μM)又はCMD(100μM)の非存在下又は存在下で2分間の[14C]TEAの取り込み実験を行った(表2)。
【0087】
【表2】
【0088】
LPZは、hOCT2を介した[14C]TEAの取り込みをコントロールの56.1±1.4%まで有意に阻害した。CMD及び他のPPIも、hOCT2を介した[14C]TEA取り込みを有意に阻害した(表2)。
【0089】
2-8. CDDP誘発性聴覚障害に対するLPZの保護効果に関する後方視的研究
組み入れ基準及び除外基準に従い、289人の患者が本研究に登録された。表3に、聴覚障害のあった患者と聴覚障害のなかった患者背景の比較を示す。
【0090】
【表3】
【0091】
聴覚障害が発症しなかった患者では、聴覚障害が発症した患者よりも、LPZの投与割合が有意に高かったが(34% vs 7%、p=0.002)、他の患者背景に2群間で有意差はなかった。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
【配列表】
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