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特開2023-6414光学デバイス、及び、酵素反応検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006414
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】光学デバイス、及び、酵素反応検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20230111BHJP
   C12Q 1/25 20060101ALI20230111BHJP
   G01N 33/536 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
G01N21/41 101
C12Q1/25
G01N33/536 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109001
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】児島 征司
(72)【発明者】
【氏名】岡本 慎也
【テーマコード(参考)】
2G059
4B063
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB04
2G059EE04
2G059HH01
2G059HH02
2G059KK10
4B063QA01
4B063QA18
4B063QR01
4B063QX04
(57)【要約】
【課題】高感度な検出を簡易な構成で実現することが可能な光学デバイス等を提供する。
【解決手段】光学デバイス60は、光が照射されたときに電流を発生する光電変換基板62と、無機-有機混合薄膜61であって、検出対象である疎水性の対象物を前記無機-有機混合薄膜61の表面に吸着する、又は、前記対象物を前記表面の近傍に濃縮する無機-有機混合薄膜61と、前記無機-有機混合薄膜61を介して照射された光に応じて前記光電変換基板62によって発生した電流を測定する測定部(電流計71)と、を備える。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光が照射されたときに電流を発生する光電変換基板と、
無機-有機混合薄膜であって、検出対象である疎水性の対象物を前記無機-有機混合薄膜の表面に吸着する、又は、前記対象物を前記表面の近傍に濃縮する無機-有機混合薄膜と、
前記無機-有機混合薄膜を介して照射された光に応じて前記光電変換基板によって発生した電流を測定する測定部と、を備える
光学デバイス。
【請求項2】
前記無機-有機混合薄膜は、金属酸化物及び環式有機官能基を含む
請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項3】
前記無機-有機混合薄膜は、前記金属酸化物としての酸化チタン及び、前記環式有機官能基としてのフェニル基を含む
請求項2に記載の光学デバイス。
【請求項4】
前記無機-有機混合薄膜は、金属酸化物と直鎖炭化水素部分を有する官能基とを含む
請求項1に記載の光学デバイス。
【請求項5】
前記無機-有機混合薄膜は、前記金属酸化物としての酸化チタン及び、前記直鎖炭化水素部分を有する官能基としてのアミノプロピル基を含む
請求項4に記載の光学デバイス。
【請求項6】
前記光電変換基板は、pn接合型、pin接合型、又は、ショットキー接続型のSiフォトダイオードである
請求項1~5のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項7】
前記対象物は、酵素反応によって基質から生成された生成物である
請求項1~6のいずれか1項に記載の光学デバイス。
【請求項8】
前記対象物は、オクタノール-水分配係数を指標として評価される疎水性度が前記基質とは異なっている
請求項7に記載の光学デバイス。
【請求項9】
前記対象物は、オクタノール-水分配係数を指標として評価される疎水性度が前記基質よりも大きい
請求項8に記載の光学デバイス。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか1項に記載の光学デバイスを用いて、前記測定手段において電流値を測定し、
測定された電流値に基づき、前記酵素反応を検出する
酵素反応検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学デバイス、及び、当該光学デバイスを用いた酵素反応検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や生化学の分野では、抗体等の生理活性物質(以下、特異的結合物質)を利用したバイオセンサが使用されている。
【0003】
例えば特許文献1では、被検出物質(以下、検出対象の対象物)を捕捉するための特異的結合物質を基質に吸収、又は結合させ、補足された被検出物質の有無を検出するための特異的結合物質を基質上に配置して凍結乾燥により都度使用可能に構成された検定キットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】平04-503404号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Rissin, D.M., et al. (2010) Single-molecule enzyme-linked immunosorbent assay detects serum proteins at subfemtomolar concentrations. Nat Biotechnol 28: 595-599.
【非特許文献2】Minagawa, Y., et al. (2019) Mobile imaging platform for digital influenza virus counting. Lab Chip 19: 2678-2687.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、対象物の高感度な検出は、大型の施設、専用の検出装置、手間及びコストがかかるため、例えば、検出キットを個人で購入して検出を行うなどの一般的な検出用途では実現できない。言い換えると、一般的な検出用途で対象物の検出を行うことができたとしても、その感度は低く、検出結果の信頼性に欠けることが知られている。
【0007】
そこで本開示は、高感度な検出を簡易な構成で実現することが可能な光学デバイス等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る光学デバイスは、光が照射されたときに電流を発生する光電変換基板と、無機-有機混合薄膜であって、検出対象である疎水性の対象物を前記無機-有機混合薄膜の表面に吸着する、又は、前記対象物を前記表面の近傍に濃縮する無機-有機混合薄膜と、前記無機-有機混合薄膜を介して照射された光に応じて前記光電変換基板によって発生した電流を測定する測定部と、を備える。
【0009】
また、本開示の一態様に係る酵素反応検出方法は、上記に記載の光学デバイスを用いて、前記測定手段において電流値を測定し、測定された電流値に基づき、前記酵素反応を検出する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、高感度な検出を簡易な構成で実現することが可能な光学デバイス等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施の形態に係る光学デバイスの一例を示す概略図である。
図2A図2Aは、実施の形態に係る光学デバイスを用いた検出装置の一例を示す概略図である。
図2B図2Bは、実施の形態に係る光学デバイスを用いた検出装置の別の一例を示す概略図である。
図3図3は、実施の形態に係る光学デバイスによる対象物の検出原理について説明する第1図である。
図4図4は、実施の形態に係る光学デバイスによる対象物の検出原理について説明する第2図である。
図5図5は、実施の形態に係る光学デバイスによる標的物質の検出について説明するフローチャートである。
図6図6は、実施の形態に係る光学デバイスによる対象物の検出結果の一例を示す第1図である。
図7図7は、実施の形態に係る光学デバイスによる対象物の検出結果の一例を示す第2図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(開示の基礎となった知見)
近年、生体や食品等の、自然環境中の物質等から任意の微量な成分を高感度かつ特異的に検出する技術が臨床検査や予防診断、食品衛生管理、環境科学などの幅広い分野において役立てられている。特に、検出対象となる対象物に特異的に結合する抗体を酵素標識することで、検出対象物質の量を酵素反応の検出値(反応生成物の生成量又は反応基質の減少量)から算出する酵素免疫測定法が幅広い分野において利用されている。酵素免疫測定法は、一般にpM(ピコモラー)からnM(ナノモラー)オーダーの濃度域の対象物を検出可能で、かつ迅速性や同時検体処理能力に優れるため、1980年代より様々な疾病マーカーの検出や病原性微生物の検出、食品中有害成分の検出等に広く利用されてきた。
【0013】
酵素免疫測定法における酵素反応の検出方法には、比色法、蛍光法、及び、化学発光法がある。比色法は、安価な検出装置が使用可能であり汎用性に優れるが、蛍光法や化学発光法と比較すると、その感度が劣る。一方で、蛍光法や化学発光法は、高感度な検出が可能であるが、比色法と比較すると、大がかりで高額な検出装置が必要となる。このため、従来では、検出対象、求められる感度に応じてこれらの検出方法が使い分けられている。
【0014】
2010年には、酵素免疫測定法をfL(フェムトリットル)レベルの微量溶液中で行うことにより1分子レベルの酵素反応が蛍光法によって検出可能なデジタル検出法(非特許文献1)が開発され、fM(フェムトモラー)以下の検出対象物質を超高感度に検出することが可能になった。これにより、従来では不可能であった超微量の疾病マーカーの検出による超早期の疾病の診断や、非侵襲かつ迅速に採取可能な唾液や尿などの生体試料を用いた、簡易性と高い検出感度を両立した臨床検査などが可能になり、医療分野における様々な応用展開が期待されている。また、ただし、上記のような超高感度な酵素免疫測定法も大がかりな検出装置を用いることが必要である。疾患患者の身辺での即時の臨床検査(POCT;point of care testing)を実現し、その検査結果に応じて迅速かつ適切な診断、看護、及び、治療を行うことでさらなる医療の質向上に寄与するためには、超高感度な酵素免疫測定法を小型の(簡易な構成の)検出装置で実施できるようにする必要がある。
【0015】
しかしながら、上記の超高感度な酵素免疫測定法において、検出感度を維持したまま装置を小型化することは、検出原理の観点で困難であり、POCT用途の機器としての開発に大きな障害となっている。
【0016】
比色法を使用する場合は装置の小型化にともない測定試料を少量化せざるを得ず、その場合、発色の程度を精度よく光学的に測定するための十分な光路長を確保することができない。蛍光法や化学発光法を用いる場合は、微量試料から発せられる微弱な蛍光や化学発光を捉えるために、蛍光顕微鏡や冷却CCDなどの細密かつ比較的大がかりで高価な光学検出装置が必須になる。
【0017】
このため、現在では、上記の高感度な酵素免疫測定法は、大規模病院の中央検査室や専門検査機関で使用されるに留まっている。また、2019年にスマートフォンのカメラを使用し、高感度な酵素免疫測定法を小型の検出装置で実現する試みが進められたが、蛍光顕微鏡を用いる場合の検出値と比較するとシグナルノイズ比の低下及び検出感度の低下は顕著であり、実用段階にあるとはいえない(非特許文献2)。
【0018】
そこで、本開示は、高い検出感度を維持したまま小型化が可能な簡易な構成で、従来とは異なる原理に基づく酵素免疫測定法を実現可能な光学デバイス等を提供する。
【0019】
本願発明者らは、以下2つの知見に基づいて、上記課題の解決手段について鋭意検討したところ、脱リン酸化反応などの、基質の疎水性度を上昇させる酵素反応により生成された生成物は、金属酸化物等の親水性物質とフェニル基等の疎水性の有機官能基とで形成される無機-有機混合薄膜の表面近傍に局在化して濃縮され得ること、及び、この濃縮現象により当該薄膜における光の透過率特性が変化することを見出した。この結果、当該薄膜を光電変換素子と組み合わせることにより、酵素反応による生成物の生成を、透過光の変化量によって検出できることを見出した。
【0020】
[知見1.酵素免疫測定法に用いられる標識酵素、及び、反応の検出方法]
酵素免疫測定法に使用される標識酵素の反応検出には、比色法、蛍光法、化学発光法が用いられる。比色法に用いられる標識酵素としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ(ALP)、及び、β-ガラクトシダーゼ(β-GAL)が多用される。HRPの基質としては1,2-フェニレンジアミンや3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンなどが用いられ、それぞれ、波長491nm及び450nmの吸光度を測定することで発色反応を計測して酵素反応を検出できる。また、β-GALの基質としては2-ニトロフェニルβ-D-ガラクトシドなどが用いられ、波長420nmの吸光度を測定することで発色反応を計測できる。また、ALPの基質としてはp-ニトロフェニルリン酸などが用いられ、波長405nmの吸光度を測定することで発色反応を計測できる。
【0021】
蛍光法においても上記と同様にHRP、ALP、及び、β-GALが多用される。HRPの基質としては4-ヒドロキシフェニル酢酸などが用いられ、励起波長320nm、測定波長405nmの蛍光強度を測定することにより酵素反応を検出できる。また、β-GALの基質としては4-メチルウンベリフェリルβ-D-ガラクトシドなどが用いられ、励起波長360nm、測定波長450nmの蛍光強度を測定することにより酵素反応を検出できる。また、ALPの基質としては4-メチルウムベリフェリルリン酸などが用いられ、励起波長360nm、測定波長450nmの蛍光強度を測定することにより酵素反応を検出できる。
【0022】
化学発光法においても上記と同様にHRP、ALP、β-GALが多用される。HRPの基質としては、アクリジニウムエステルなどが用いられる。また、ALP及びβ-GALの基質としては、アダマンチル1,2-ジオキセタン誘導体などが用いられる。
【0023】
[知見2.水溶液中の生体分子の局在化および相互作用]
様々なタンパク質や代謝物等の生体分子は、溶液中で均質に混ざり合っている状態と、静電相互作用やπ-π相互作用等の弱い分子間相互作用を通じて溶液中で集合し濃縮された状態との両方の状態をとり得ることが知られている。この濃縮体はドロプレットや凝集顆粒などと呼ばれる。濃縮体の形成は、溶液中で均質に混ざり合っているよりも2相に分離したほうが安定な場合におこり、生物学的相分離という概念で理解されている。
【0024】
均質な状態から濃縮体への移行、あるいは濃縮体から均質な状態への移行は、様々な生体反応により引き起こされる。特に、リン酸化あるいは脱リン酸化などの、対象となる生体分子の溶解度を変化させる反応が関与する場合が多い。例えば、加熱や低酸素などの環境ストレスにより細胞内で生成する濃縮体であるストレス顆粒の形成に関与するG3BP1タンパク質は、リン酸化やメチル化などの様々な翻訳後修飾を受け、その溶解性が変動することが知られている。
【0025】
(開示の概要)
本開示の概要は、以下のとおりである。
【0026】
本開示の一態様に係る光学デバイスは、光が照射されたときに電流を発生する光電変換基板と、無機-有機混合薄膜であって、検出対象である疎水性の対象物を無機-有機混合薄膜の表面に吸着する、又は、対象物を表面の近傍に濃縮する無機-有機混合薄膜と、無機-有機混合薄膜を介して照射された光に応じて光電変換基板によって発生した電流を測定する測定部と、を備える。
【0027】
このような光学デバイスは、系内に微量の対象物しか存在しない場合にも、この微量な対象物が疎水性であることを利用して無機-有機混合薄膜の表面に吸着する、又は、表面の近傍に濃縮することができる。この結果、微量の対象物であっても局所的に高濃度化することができるので、検出感度を向上することができる。また、分光学的な検出においては検出感度を高く維持するために光路長などの空間的なかさ高さが要求されるが、本開示の光学デバイスによれば、光電変換基板を用いることで対象物を含む試料が保持できる空間があれば、その他を簡易な構成で実現することができる。そして、このような簡易な構成により、光学デバイスを小型化することが可能となるので、高感度かつ小型な対象物の検出装置等を実現することも期待される。このように、本開示の光学デバイスによれば、高感度な検出を簡易な構成で実現することができる。
【0028】
また、例えば、無機-有機混合薄膜は、金属酸化物及び環式有機官能基を含んでもよい。
【0029】
このような光学デバイスは、金属酸化物及び環式有機官能基を含む無機-有機混合薄膜を用いて、高感度な検出を簡易な構成で実現することができる。
【0030】
また、例えば、無機-有機混合薄膜は、金属酸化物としての酸化チタン及び、環式有機官能基としてのフェニル基を含んでもよい。
【0031】
このような光学デバイスは、金属酸化物としての酸化チタン及び、環式有機官能基としてのフェニル基を含む無機-有機混合薄膜を用いて、高感度な検出を簡易な構成で実現することができる。
【0032】
また、例えば、無機-有機混合薄膜は、金属酸化物と直鎖炭化水素部分を有する官能基とを含んでもよい。
【0033】
このような光学デバイスは、金属酸化物と直鎖炭化水素部分を有する官能基とを含む無機-有機混合薄膜を用いて、高感度な検出を簡易な構成で実現することができる。
【0034】
また、例えば、無機-有機混合薄膜は、金属酸化物としての酸化チタン及び、直鎖炭化水素部分を有する官能基としてのアミノプロピル基を含んでもよい。
【0035】
このような光学デバイスは、金属酸化物としての酸化チタン及び、直鎖炭化水素部分を有する官能基としてのアミノプロピル基を含む無機-有機混合薄膜を用いて、高感度な検出を簡易な構成で実現することができる。
【0036】
また、例えば、光電変換基板は、pn接合型、pin接合型、又は、ショットキー接続型のSiフォトダイオードであってもよい。
【0037】
このような光学デバイスは、pn接合型、pin接合型、又は、ショットキー接続型のSiフォトダイオードで構成される光電変換基板を用いて、高感度な検出を簡易な構成で実現することができる。
【0038】
また、例えば、対象物は、酵素反応によって基質から生成された生成物であってもよい。
【0039】
このような光学デバイスは、基質から生成された生成物を対象物として検出することができる。そして、基質から生成物がどの程度生成されているかを検出することができるので、光学デバイスを用いた酵素反応の検出をすることができる。
【0040】
また、例えば、対象物は、オクタノール-水分配係数を指標として評価される疎水性度が基質とは異なっていてもよい。
【0041】
このような光学デバイスでは、オクタノール-水分配係数を指標として評価される疎水性度が基質と対象物とで異なっていることで、基質と対象物との間において、無機-有機混合薄膜の表面に吸着する程度、又は、表面の近傍に濃縮される程度に差を形成させて、生成物を高感度に検出することができる。
【0042】
また、例えば、対象物は、オクタノール-水分配係数を指標として評価される疎水性度が基質よりも大きくてもよい。
【0043】
このような光学デバイスでは、オクタノール-水分配係数を指標として評価される疎水性度が、基質よりも対象物の方が大きいことで、基質と対象物との間において、無機-有機混合薄膜の表面に吸着する程度、又は、表面の近傍に濃縮される程度に差を形成させて、生成物を高感度に検出することができる。
【0044】
また、本開示の一態様に係る酵素反応検出方法は、上記に記載の光学デバイスであって、対象物が、酵素反応によって基質から生成された生成物である光学デバイスを用いて、測定手段において電流値を測定し、測定された電流値に基づき、酵素反応を検出する。
【0045】
このような酵素反応検出方法では、上記の光学デバイスと同様の効果に基づき、酵素反応の検出を行うことができる。
【0046】
このように、本開示の一態様に係る光学デバイスには、その表面に、例えば脱リン酸化反応などの、基質の疎水性を上昇させる酵素反応によって生成される化合物が、水溶液中で吸着あるいは表面近傍に濃縮されるような性質をもつ無機-有機混合薄膜が形成されている。ここでの吸着は、抗原抗体反応のように強力な結合によるものではなく、上記したように、吸着状態と拡散状態との間を揺らぐ程度の結合による。当該無機-有機混合薄膜は、金属酸化物等の親水性物質と、フェニル基等の疎水性の有機官能基から成る。当該薄膜と酵素反応生成物とが上記のように相互作用することにより、当該薄膜の表面近傍の屈折率あるいは透過率特性が変化する。従って、当該光学デバイスの薄膜の表面に接触させた液滴中で酵素反応を行い、そこに光を照射すれば、酵素反応の進行に伴い薄膜の表面近傍で屈折率あるいは透過率特性が変化し、その結果として光電流値が変化するため、電流値の変化に基づいて酵素反応を検出することができる。
【0047】
本開示の光学デバイスを用いれば、上述の従来技術では必須であった比色法、蛍光法、又は、化学発光法を利用することなく酵素反応を検出し、ひいては、標的物質を検出することができる。この光学デバイスの表面に酵素反応溶液(反応後の試料)を接触させ、光を照射し、光電変換基板に生じる電流を計測すれば、酵素反応を検出できるため、原理的に小型化が容易であり、POCT用途に応用可能、かつ、高感度な検出装置の開発が可能となる。
【0048】
なお、これらの包括的、又は具体的な態様は、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム、又はコンピュータにより読み取り可能なCD-ROMなどの記録媒体で実現されてもよく、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【0049】
以下、本開示の実施の形態に関して図面を参照しながら説明する。
【0050】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置、および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0051】
なお、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0052】
また、本明細書において、平行などの要素間の関係性を示す用語、及び、矩形などの要素の形状を示す用語、ならびに、数値、及び、数値範囲は、厳格な意味のみを表す表現ではなく、実質的に同等な範囲、例えば数%程度の誤差等の差異も含むことを意味する表現である。
【0053】
また、以下で説明する対象物の検出とは、所定の容量の溶液状の試料中に存在する検出された対象物の量を濃度として計算することにより、対象物の濃度を計測する概念が含まれる。さらに、ここでの濃度の計測には、所定の容量の試料中の個数濃度が0個か否かに基づく、対象物の有無を検出する概念も含まれる。
【0054】
(実施の形態)
[1.光電変換素子]
図1は、実施の形態に係る光学デバイスの一例を示す概略図である。また、図2Aは、実施の形態に係る光学デバイスを用いた検出装置の一例を示す概略図である。また、図2Bは、実施の形態に係る光学デバイスを用いた検出装置の別の一例を示す概略図である。本開示の一態様に係る光学デバイス60は、例えば、底面部(紙面下方)と壁部(紙面左右)とを有する容器状の構造物である。図1に示す光学デバイス60の容器形状は、例えば96個のウェル(容器)からなる96穴プレートのうちの1つの容器を切断した断面である。つまり、本実施の形態における光学デバイス60は、同時計測可能に構成された複数の容器を構成していてもよい。
【0055】
光学デバイス60によって形成された容器の内部には、反応液(又は試料90ともいう)が収容される。試料90内では、例えば、図1の吹き出し部分に示すように、酵素分子30によって酵素反応が触媒されて基質20から生成物10が生成されている。ここでは、p-ニトロフェニルリン酸が基質20として用いられており、酵素分子30である脱リン酸化酵素によって、p-ニトロフェノールが生成物10として生成されている。
【0056】
この時、標的物質50に特異的に結合する性質を有する特異的結合物質40を酵素分子30と結合させた複合体を用いて、標的物質50に結合した複合体を、その他の複合体から分離して上記の酵素反応を行わせることで、標的物質50の量に応じた生成物10を得ることができる。したがって、生成物10の検出を行うことで、酵素反応の検出を行うこともできるし、標的物質50の検出を行うこともできる。
【0057】
ここで、図1の1点鎖線で区切られた領域Aを拡大したとき、図2Aに示すように、光学デバイス60の底面部は2つの層を結合する結合層を含めた3層の構造を有する。より具体的には、光学デバイス60の底面部は、無機-有機混合薄膜61と、光電変換基板62と、光電変換基板62に無機-有機混合薄膜61を定着させる金薄膜63とを備える。
【0058】
無機-有機混合薄膜61は、金属酸化物等の親水性物質と、フェニル基等の疎水性の環式有機官能基とから成る板状(又はシート状)の物質であり、光電変換基板62の表面に、金薄膜63を介して形成される。無機-有機混合薄膜61を形成する親水性物質は、金属酸化物が好ましいが、金属硫化物や金属窒化物等でもよい。また、無機-有機混合薄膜61を形成する疎水性の有機官能基は、フェニル基が好ましいが、メチル基やエチル基等の直鎖炭化水素基でもよい。また、置換基の一部に上記のような炭化水素基を含んでいても疎水性の性質を有する場合がある。したがって、無機-有機混合薄膜61を形成する疎水性の有機官能基は、直鎖炭化水素部分を有する官能基で実現されてもよい。例えば、直鎖炭化水素部分としてプロピル基を有し、端部(試料90側に延びた端部)がアミノ基で置換されたアミノプロピル基等を、疎水性の有機官能基として用いてもよい。その他、疎水性の有機官能基は、直鎖炭化水素部分の代わりに主鎖と側鎖とを有する分岐炭化水素部分を有していてもよい。また、直鎖炭化水素の鎖の途中に2重結合などが存在する不飽和炭化水素が用いられてもよい。
【0059】
親水性物質と疎水性官能基の比率は、形成する無機-有機混合薄膜61が酵素反応の基質20と相互作用し難く(親和性が低く)、酵素反応の生成物10と相互作用しやすい(親和性が高い)ように、酵素反応系の設計に応じて設定される。例えば、p-ニトロフェニルリン酸の脱リン酸化反応を触媒する酵素反応を検出する場合は、親水性物質である酸化チタンと、疎水性官能基を含有するシランカップリング剤(trimethoxyphenylsilane)とのモル比は1.75:1であるとよい。
【0060】
無機-有機混合薄膜61の形成方法としては、金薄膜63が形成された光電変換基板62の表面上に均一に薄膜形成できる方法であればよく、例えば、ゾルゲル法が利用される。その他、無機-有機混合薄膜61の形成方法としてスピンコート法やインクジェット法等の既存のあらゆる方法が利用されてもよい。
【0061】
無機-有機混合薄膜61の膜厚は、無機-有機混合薄膜61と酵素反応の生成物10との相互作用によって、無機-有機混合薄膜61の表面近傍における屈折率又は透過率特性の変化によって、上記の光電変換基板62の光電流生成効率が変動する程度に設定される。このような膜厚は、例えば、100~1000nmの範囲内である。また、上記の効果が得られれば、100nmよりも薄い膜厚であってもよいし、1000nmよりも厚い膜厚であってもよい。
【0062】
光電変換基板62は、pn接合型、pin接合型、又は、ショットキー接続型のSiフォトダイオードである。光電変換基板62としては、光照射により電荷分離を誘起する構造であればよく、例えば、n型Si基盤表面に金薄膜63が蒸着形成されるショットキー接続型の光電変換基板62が用いられる。その他、光電変換基板62として、pn接合型Siフォトダイオード等の既存のあらゆる光電変換基板が利用されてもよい。また、上記無機-有機混合薄膜61の光学的特性の変化をより高感度に捉えるために、n型Si基板の表面に微細加工を施してプラズモン共鳴による吸収を発生させてもよく、またプラズモニックナノアンテナを配置していてもよい。このようなプラズモン共鳴型の光の吸収が生じる光学デバイス60について、図2Bを用いて説明する。図2Bに示すように、プラズモン共鳴による光の吸収、すなわちプラズモン共鳴型の光の吸収の差を利用して、生成物10と無機-有機混合薄膜61との相互作用の有無を検出することもできる。このため、図2Bに示すように、本実施の形態の別の一例に係る光学デバイス60aは、光電変換基板62の、無機-有機混合薄膜61側の表面に凹凸などの繰り返し構造が形成されている。そして、光学デバイス60aでは、この凹凸などの繰り返し構造上に金薄膜63が積層されて、凹凸などの繰り返し構造に沿って延びる金薄膜63によるナノアンテナ構造が形成されている。この結果、金薄膜63の表面に形成された無機-有機混合薄膜61上で生成物10との相互作用が生じると、屈折率などの変化によって、照射される光のうちナノアンテナ構造上の金薄膜63で誘起されるプラズモン共鳴によって吸収される吸収光が変化する。そして、プラズモン共鳴(吸収)によって励起された電子(ホットエレクトロン)が金とSiとの界面で形成されるショットキー障壁を超え電荷分離されることで発生する電流の値が変化する。
【0063】
[2.検出装置]
引き続き図2A及び図2Bを参照して、本実施の形態における検出装置100について説明する。図2Aに示すように、検出装置100は、光学デバイス60と、電流計71と、光源80とを備える。電流計71は、接続子70を介して光学デバイス60に接続されており、光電変換基板62において発生した光電流を測定することができる。電流計71及び接続子70は、無機-有機混合薄膜61を介して照射された光に応じて光電変換基板62によって発生した電流を測定するための測定部の一例である。なお、測定部とは、光学デバイス60上で電流の測定に関与する部分を意味し、電流の測定に、光学デバイスの外部の電流計を用いる場合は、接続子70がこれに相当する。光電変換基板62と電流計71とを電気的に接続した回路を形成する際、接続子70として光電変換素基板62の裏面にアルミニウム薄膜などを貼り付けた裏面電極を利用してもよいし、光電変換基板62の表面の光が照射されない部分にはんだで形成した表面電極(つまり接続子70)及び電流計71を接続してもよい。
【0064】
光源80は、光電変換基板62に対して照射光81を照射する装置である。光源80は、光学デバイス60の底面部に対して、光電変換基板62に、無機-有機混合薄膜61を介して照射光81を照射する。したがって、光源80は、光電変換基板62に対して、無機-有機混合薄膜61が形成された側に向けて照射光81を照射する姿勢で構成されている。
【0065】
光源80は、光電変換基板62において光電流を生じさせる波長の照射光81を照射できればよく、例えば、ハロゲンランプで実現される。なお、光源80として半導体レーザー又はLEDが用いられてもよい。電流計71において測定される電流は、光源80からの照射光81に基づいて発生した光電流に依存する。本実施の形態では、酵素反応によって生成された生成物10と無機-有機混合薄膜61との相互作用の有無(又は相互作用の程度)による電流値の変化を計測するため、照射光81が相互作用の有無を比較する間一定であるように光源80が設定されているとよい。ただし、条件によっては、光源80に代えて太陽光などの外光を利用してもよい。つまり、光源80は検出装置100において必須の構成ではない。 図3は、実施の形態に係る光学デバイスによる対象物の検出原理について説明する第1図である。また、図4は、実施の形態に係る光学デバイスによる対象物の検出原理について説明する第2図である。
【0066】
図3では、図2Bのようにして、ある条件で形成された、プラズモン共鳴型の照射光81の吸収が生じる光学デバイス60に対して、照射光81を照射したときの照射光81の強度に対する各種の光の相対強度のスペクトルのシミュレーション結果を示している。図3では、(a)に無機-有機混合薄膜61側に反射される反射光の相対強度を示し、(b)に無機-有機混合薄膜61及び金薄膜63を透過して光電変換基板62側に到達する透過光の相対強度を示し、(c)にナノアンテナ構造上の金薄膜63で誘起されるプラズモン共鳴によって吸収される吸収光の相対強度を示している。図3に示すように、無機-有機混合薄膜61の設計により、各種の光の波長依存性を生じさせることができる。そして、屈折率あるいは透過率特性を変化させたときに透過光の波長依存性(つまり、反射光及び吸収光の波長依存性)を変化させることができる場合、最も変化の大きい波長を選択して、照射光81を決定すればよい。
【0067】
また、図4では、別のある条件で形成された無機-有機混合薄膜61を有する光学デバイス60に対して、照射光81を照射したときの、照射光81に対する反射光の相対強度のスペクトルの実測結果を示している。図4では、(a)に試料90を接触させる前の無機-有機混合薄膜61側に反射される反射光の相対強度を示し、(b)に試料90を接触させた後の無機-有機混合薄膜61側に反射される反射光の相対強度を示している。図4に示すように、試料90を接触させた前後で反射光の相対強度のスペクトルが大きく変化している。すなわち、酵素反応が進むにつれて、無機-有機混合薄膜61と生成物10との相互作用によって、(a)に示すスペクトルから(b)に示すスペクトルへと反射光の態様が変化する。このとき、(a)のスペクトルと(b)のスペクトルとの差分が、およそ、光電変換基板62に到達する光であると推定される。例えば、(b)のスペクトルにおける波長400nm付近のピーク波長の光を含む照射光81を照射すれば、酵素反応が進むにつれて反射光が増加するので光電変換基板62に到達する光が減少して電流値が減少すると推定される。同様に、例えば、(a)のスペクトルにおける波長500nm付近のピーク波長の光を含む照射光81を照射すれば、酵素反応が進むにつれて反射光が減少するので光電変換基板62に到達する光が増加して電流値が増加すると推定される。
【0068】
[3.酵素反応の検出方法]
以下、検出装置100を用いた、標的物質50の検出方法について、図1及び図2Aと併せて、図5を参照して説明する。図5は、実施の形態に係る光学デバイスによる標的物質の検出について説明するフローチャートである。まず、標的物質50に特異的に結合する性質を有する特異的結合物質40と、酵素反応における触媒酵素としての酵素分子30とが結合した複合体を、標的物質50を含み得る試料と混合して、混合液を得る。混合液から、未反応の複合体を除去して、試料90とする。この試料90を光学デバイス60に保持する(S101)。より具体的には、光学デバイス60のうち、底面部の無機-有機混合薄膜61が形成された側の表面に試料90を滴下する。滴下後、光源80から照射光81を照射しながら電流計71によって電流の測定を行う(S102)。
【0069】
無機-有機混合薄膜61に接触する試料90内で酵素反応が生じているので、照射光81を照射すれば、酵素反応の進行に伴い無機-有機混合薄膜61の表面近傍の屈折率あるいは透過率特性が変化する。その結果として電流計71において測定される光電流値が変化する。この電流値の変化を計測することにより、酵素反応を検出する(S103)。電流値の変化は、時間領域において2以上の時点で計測した電流値の差分をとるなどすればよい。そして、あらかじめ作成された所定量の標準生成物10と、標本濃度の生成物10を使用して計測された電流値の変化量との関係を示す検量線から、生成された生成物10の量を特定して酵素反応を検出することができる。その後、この検出された酵素反応の効率(時間当たりの反応量など)から、試料90中の標的物質50の検出を行う(S104)。
【0070】
ここで利用される酵素反応の種類は、酵素反応前の基質20と比較して、反応後の生成物10の疎水性度が異なっていればよい。さらに好ましくは、酵素反応前の基質20と比較して、反応後の生成物10の疎水性度が上昇していればよく、酵素反応の種類としては、脱リン酸化反応が好ましい。なお、酵素反応の種類としては、脱メチル化反応や加水分解反応などのその他の酵素反応であってもよい。また、疎水性の評価指標としては、基質20及び生成物10のオクタノール-水分配係数等の汎用的な指標を用いてなされる。
【0071】
(実施例)
以下では、実施例にて本開示の光学デバイス60の作製手順及び当該光学デバイス60を用いた酵素反応検出方法およびその結果を説明する。ただし、本開示は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0072】
[1.金薄膜付き光電変換基板の作製]
1-1.金薄膜付き光学変換基板A(プラズモニックショットキーデバイス)の作製
電子線リソグラフィーによりn型Si基板(~1Ωcm)表面にレジストパターンを形成した後、露出したSi表面をドライエッチングし、レジストを除去することでn型Si基板表面に微細な周期構造(凹凸構造)を形成した。さらに、n型Si基板表面の自然酸化膜をフッ酸で除去した後、電子ビーム蒸着機を用いて金薄膜を成膜し、プラズモンナノアンテナ構造を形成した。n型Si基板の裏面にはアルミニウム薄膜を成膜し、裏面電極とした。
【0073】
上記の金薄膜付き光学変換基板Aは、Siのバンドギャップ以下のエネルギーをもつ近赤外領域の光においてプラズモン共鳴が誘起されるように設計されており、プラズモン吸収により生成したホットエレクトロンが金とSiとの界面で形成されるショットキー障壁を超えることで電荷分離される。よって、プラズモン共鳴波長に対応する近赤外光を本デバイスに照射したとき、金薄膜と裏面電極とを電気的に接続した回路に光電流が流れる。また、プラズモン共鳴波長は金薄膜表面近傍の屈折率に依存するため、屈折率変化に対応して光電流値が変化すると推定される。
【0074】
1-2.金薄膜付き光学変換基板B(バンド間遷移型ショットキーデバイス)の作製
n型Si基板(~1Ωcm)表面の自然酸化膜をフッ酸で除去した後、電子ビーム蒸着機を用いて金薄膜を成膜し、裏面にはアルミニウム薄膜を成膜し、裏面電極とした。
【0075】
上記の金薄膜付き光学変換基板Bは、Siのバンドギャップ以上のエネルギーをもつ光を吸収し、励起された電子が金とSiとの界面で形成されるショットキー障壁を超えることで電荷分離される。よって、Siのバンドギャップ以上のエネルギーをもつ光を本デバイスに照射したとき、金薄膜と裏面電極とを電気的に接続した回路に光電流が流れる。また、金薄膜上に無機-有機混合薄膜61のような(疎水性)薄膜を形成したとき、(疎水性)薄膜は干渉により薄膜の屈折率および膜厚に依存したピーク波長を有する透過率特性を示す。よって、疎水性薄膜の屈折率および膜厚変化に対応して光電流値が変化する。
【0076】
1-3.疎水性膜材料の合成
2mLのisopropanolに、0.441mmolのTetrabutoxy titanium、0.304mmolのcis-jasmone、50μLのtrimethoxyphenylsilane、及び、0.132mmolのTiCl4を撹拌しながら加え、60℃で1時間加熱した後、室温で8時間撹拌を続けることでゾルゲル溶液を調製した。
【0077】
1-4.光学デバイスの作製
1-3において調製したゾルゲル溶液を、上記の金薄膜付き光学変換基板(A及びB)のそれぞれの表面にスピンコートし、130℃で1時間加熱することで上記の金薄膜付き光学変換基板(A及びB)のそれぞれの表面に疎水性薄膜が形成された光学デバイス(A及びB)を作製した。疎水性薄膜の膜厚はスピンコートの回転数により制御した。
【0078】
[2.酵素反応検出方法]
本実施例では、上記の光学デバイス(A及びB)を用いた大腸菌由来アルカリフォスファターゼ反応の検出方法を説明する。
【0079】
2-1.光電流検出システム
上記1.の手順で作製した光学デバイス(A及びB)の金薄膜と裏面電極を電気的に接続し、電流計を用いて光電流値をモニターできるシステムを構築した。の光学デバイスAの表面へ波長1310nmの近赤外光を、の光学デバイスBの表面へ波長410nmの照射光を照射し、その際に生じる光電流値をモニターした。
【0080】
2-2.酵素反応系
アルカリフォスファターゼの基質としてp-ニトロフェニルリン酸を使用した。反応溶液としては、50mMのTris-HCl(pH 9.5)、5mMのMgCl2、100mMのNaClを含む水溶液を使用した。
【0081】
2-3.酵素反応の実施
1mMのp-ニトロフェニルリン酸を含む上記反応溶液を調整し、うち、10μLを上記2-1.の疎水性薄膜側の表面に滴下した。この液滴に、終濃度1μM、1nM、又は、1pMとなるように調整したアルカリフォスファターゼ溶液1μLを添加し、酵素反応を開始した。添加後ただちに波長1410nmあるいは410nmを液滴に対して照射し、その際の光電流を測定した。比較対象として、アルカリフォスファターゼを添加していない液滴に対しても同様に光を照射し、その際の光電流を測定した。
【0082】
[3.結果]
図6は、実施の形態に係る光学デバイスによる対象物の検出結果の一例を示す第1図である。また、図7は、実施の形態に係る光学デバイスによる対象物の検出結果の一例を示す第2図である。
【0083】
図6及び図7のそれぞれに、光学デバイスAおよび光学デバイスBのそれぞれを用いた光電流の測定の結果を示す。なお、図6では、(a)に終濃度1nMとなるように調整したアルカリフォスファターゼ溶液1μLを添加した結果を示し、(b)に終濃度1μMとなるように調整したアルカリフォスファターゼ溶液1μLを添加した結果を示し、(c)にアルカリフォスファターゼを添加していない結果を示している。また、図7では、(a)に終濃度1pMとなるように調整したアルカリフォスファターゼ溶液1μLを添加した結果を示し、(b)に終濃度1nMとなるように調整したアルカリフォスファターゼ溶液1μLを添加した結果を示し、(c)にアルカリフォスファターゼを添加していない結果を示している。
【0084】
図6及び図7に示すように、いずれの場合においても、アルカリフォスファターゼの添加により、約10分間の反応において光電流が明確に変化することが明らかとなった。したがって、光学デバイスA又は光学デバイスBを用いた検出が、少なくとも1pM以上の濃度のアルカリフォスファターゼ活性の検出に用いることが可能であることが示された。
【0085】
以上、本開示に係る光学デバイス、及び、酵素反応検出方法について、実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本開示は、これらの実施の形態及び実施例に限定されるものではない。本開示の主旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を実施の形態および実施例に施したものや、実施の形態および実施例における一部の構成要素を組み合わせて構築される別の形態も、本開示の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本開示は、研究用、医療用および環境測定用の検出装置として高感度と簡便性とを両立できる点で有用である。
【符号の説明】
【0087】
10 生成物
20 基質
30 酵素分子
40 特異的結合物質
50 標的物質
60 光学デバイス
61 無機-有機混合薄膜
62 光電変換基板
63 金薄膜
70 接続子
71 電流計
80 光源
81 照射光
90 試料
100 検出装置
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7