(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023064461
(43)【公開日】2023-05-11
(54)【発明の名称】材料劣化評価装置及び材料劣化評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20230501BHJP
【FI】
G01N17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021174758
(22)【出願日】2021-10-26
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度~2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/次世代火力発電基盤技術開発/石炭火力の負荷変動対応技術開発/タービン発電設備次世代保守技術開発」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志鷹 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠介
(72)【発明者】
【氏名】高木 圭介
(72)【発明者】
【氏名】二宮 義和
(72)【発明者】
【氏名】竹内 司
(72)【発明者】
【氏名】河合 泰輝
【テーマコード(参考)】
2G050
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA06
2G050BA10
2G050BA11
2G050DA03
2G050EA01
2G050EA04
2G050EB02
2G050EC01
(57)【要約】
【課題】機器運用の多様化に対応し、かつ信頼性の高い評価を実現することのできる材料劣化評価装置及び材料劣化評価方法を提供する。
【解決手段】機器の脆化を評価する材料劣化評価装置であって、機器の状態を検出し運転データとして取得する運転データ取得部20と、運転データを保存する運転データ記憶部40と、運転データに基づいて、機器の所定の評価部位温度を算出する温度評価部50と、機器をなす材料の材料データ及び脆化推定式を記憶する評価部品材料記憶部30と、評価部位温度、材料データ及び脆化推定式に基づいて、機器をなす材料の脆化量を算出する脆化評価部60と、脆化量に基づいて機器をなす材料の損傷リスクを算出するリスク評価部70と、損傷リスクに基づいて、機器の保守推奨時期を提示する保守推奨時期提示部80と、を具備する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の脆化を評価する材料劣化評価装置であって、
前記機器の状態を検出し運転データとして取得する運転データ取得部と、
前記運転データを保存する運転データ記憶部と、
前記運転データに基づいて、前記機器の所定の評価部位温度を算出する温度評価部と、
前記機器をなす材料の材料データ及び脆化推定式を記憶する評価部品材料記憶部と、
前記評価部位温度、前記材料データ及び前記脆化推定式に基づいて、前記機器をなす材料の脆化量を算出する脆化評価部と、
前記脆化量に基づいて前記機器をなす材料の損傷リスクを算出するリスク評価部と、
前記損傷リスクに基づいて、前記機器の保守推奨時期を提示する保守推奨時期提示部と、
を具備することを特徴とする材料劣化評価装置。
【請求項2】
請求項1記載の材料劣化評価装置であって、
前記運転データ取得部、前記運転データ記憶部、前記温度評価部、前記評価部品材料記憶部、前記脆化評価部、前記リスク評価部、前記保守推奨時期提示部のうちのいずれか、ないしは複数を含む複数のモジュールから構成され、
複数の前記モジュールは、モジュール間においてデータ通信可能とされている
ことを特徴とする材料劣化評価装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の材料劣化評価装置であって、
前記リスク評価部は、前記評価部品材料記憶部に記憶された、前記脆化推定式の誤差に関する統計量を用いて前記損傷リスクを算出する
ことを特徴とする材料劣化評価装置。
【請求項4】
請求項3に記載の材料劣化評価装置であって、
前記評価部品材料記憶部に記憶された、前記脆化推定式の誤差に関する統計量が、書き換え可能とされている
ことを特徴とする材料劣化評価装置。
【請求項5】
機器の脆化量を評価する材料劣化評価方法であって、
前記脆化量を、飽和脆化量と時間の関数で求め、
前記脆化量の評価に用いる評価部位の前記飽和脆化量を、
あらかじめ実験的に定めた定数(A1)と、
前記機器をなす材料に含有される元素量から算出した定数(B)と、
温度の1次関数の逆数とあらかじめ実験的に定めた定数(A2)の積を指数とする指数関数と、
を掛け合わせて算出する
ことを特徴とする機器の脆化評価方法。
【請求項6】
請求項5記載の材料劣化評価方法であって、
前記指数関数は、自然対数の底の指数関数であることを特徴とする材料劣化評価方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の材料劣化評価方法であって、
前記脆化量の評価に用いる評価部位の前記飽和脆化量を、以下の式、
飽和脆化量=A1×B×exp{A2/(K)}
但し、A1およびA2はあらかじめ実験的に求めた定数、Bは前記機器をなす材料に含有される元素量から算出した定数、Kは絶対温度、
によって求めることを特徴とする材料劣化評価方法。
【請求項8】
請求項5乃至7の何れか1項に記載の材料劣化評価方法であって、
前記機器をなす材料に含有される元素量から算出した定数(B)は、
P、Si、Mn、Cu、Ni、Sn、Sb、Asの8元素の内のいずれか1つ又は複数の元素量より算出することを特徴とする材料劣化評価方法。
【請求項9】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の材料劣化評価装置であって、
前記脆化評価部は、請求項5乃至8の何れか1項に記載の材料劣化評価方法を用いて脆化評価することを特徴とする材料劣化評価装置。
【請求項10】
請求項9に記載の材料劣化評価装置であって、
あらかじめ単位時間当たりの脆化量を算出し、
前記評価部位温度が一定とみなせる時間に基づいて、前記単位時間当たりの脆化量を積算することで脆化量を算出することを特徴とする材料劣化評価装置。
【請求項11】
請求項10に記載の材料劣化評価装置であって、
前記あらかじめ実験的に定めた定数、及び、前記単位時間当たりの脆化量を、前記評価部品材料記憶部に記憶し、かつこれらを書き換え可能としたことを特徴とする材料劣化評価装置。
【請求項12】
請求項9乃至11の何れか1項に記載の材料劣化評価装置であって、
ある時刻における機器をなす材料の脆化量と、前記運転データ記憶部に記憶された運転データと、を用いて、前記機器をなす材料に含有される元素量から算出した定数(B)を逆算し、この逆算した定数を用いて前記脆化量の評価を行う
ことを特徴とする材料劣化評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、材料劣化評価装置及び材料劣化評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温環境下で使用される材料は経年的に材料劣化が進行することが知られている。例えば火力発電プラントの主要な構成機器であるタービンやケーシング、制御弁、配管などは、流入する蒸気により高温環境に曝され、経年的に軟化や脆化等の材料劣化が生じる。これらの材料劣化は部材の引張強度や耐力等の強度特性とも関連することから、機器運用に伴う損傷や寿命を適切に評価するためにも、材料劣化量を定量的に把握し、適切なタイミングで劣化評価や部品交換などの保守管理を行う必要がある。
【0003】
材料劣化の1つである脆化は機器の脆性破壊の要因となる。脆性破壊とは、ほとんど塑性変形を伴わない破壊であり、急速にき裂が伝播し破壊に至る現象である。例えば高温環境下で高速回転するタービン軸(以降、単にロータと称す)では、運用時にはロータ内に遠心応力が生じる。このロータ材料が脆化することで靭性が低下し、遠心応力によって脆性破壊に至った事例もある。
【0004】
脆化はこのような脆性破壊を引き起こすだけでなく、き裂進展特性にも影響する。き裂進展はクリープや金属疲労によって生じることが知られている。クリープとは、金属材料が融点の半分程度の温度環境下で使用される際に、金属材料の耐力以下の低い応力においても時間経過に伴い徐々に永久変形が生じ、き裂が発生・進展し、破断する現象である。また、疲労とは静的負荷では破断しないような応力であっても、繰り返し生じることによってき裂が発生・進展し、破損に至る現象である。
【0005】
これらの損傷評価手法として、き裂進展量を予測・評価し、許容可能なき裂長さから部材の損傷量を評価する手法がある。き裂進展速度は材料強度試験よりあらかじめ評価することが可能であるが、このき裂進展速度は材料の脆化の影響を受け、材料の脆化に伴いき裂進展速度は速くなる。また、許容可能なき裂長さも材料の脆化に伴って短くなる。これらのことから、クリープや疲労によるき裂進展損傷評価においては材料の脆化量評価と組み合わせた評価が必要となる。
【0006】
材料の脆化には、使用温度、運用時間、材料中に含まれる不純物元素量が影響することが知られている。脆化評価が重要とされる機器の一例としてロータやタービンケーシングがある。ロータとは、動翼が蒸気流から受けた回転力を発電機に伝える回転軸であり、タービンケーシングとはこのロータを囲む覆いである。蒸気流はこのタービンケーシングとロータの間を流れ、ロータ外周に設けられた動翼によって蒸気流から回転力を得ている。ロータ外周には動翼が複数段配置されており、これらの動翼が蒸気流を受けることで、ロータに回転力が生じる。一方、高温で流入した蒸気は、動翼の各段落を通過することでエネルギーを消費するため、下流に行くに従い蒸気温度が低下する。そのため、この蒸気に接するロータやタービンケーシングは高温環境で使用されることに加え、同一部材内で温度分布も生じる。この温度分布により同一部材内でも各部位の脆化度合いが異なる。
【0007】
従来の火力発電はベースロード運転主体であり、プラント効率が最大となる定格出力近辺で運転されることが多かった。このような運転ケースではロータやタービンケーシングの各部位における温度や圧力は、タービン設計時に精緻な評価および最適化を行っているため非常に明確であり、また運転中の変動も少ない。そのため、プラント停止時にタービンを開放し、定期的に脆化評価を実施することで脆化量の推移を比較的容易に把握することができた。
【0008】
しかしながら、近年では再生可能エネルギーの普及により、火力発電所で部分負荷運転を行う機会が増えている。部分負荷運転が増えることで設計点を外れた運転が増え、設計時に想定していない温度にタービン機器が長時間晒されることになる。前述のように脆化は使用温度の影響を受けることから、使用温度の変動によって脆化速度も変化し、従来のプラント停止時における定期的な脆化計測だけでは脆化量の推移を適切に把握することが困難となる。
【0009】
また、発電プラントの停止及び蒸気タービンの開放は、手間と時間から発電コストの増加につながる。そのため、コストの制約から十分な脆化評価回数を確保することは困難である。
【0010】
これらのことから、機器の停止・開放を伴わず、機器運用中の温度変化も考慮した脆化評価手法および評価装置が必要とされている。これまでに運転温度・時間及び材料データからタービンロータ材の脆化予測を検討した例はあるが、おおむね300~450℃の範囲での脆化を検証したケースが多く、より広い温度域での評価を必要とする実機においての適用性は未知である。材料にもよるが、ある温度で恒温保持した場合、300~400℃程度で脆化量のピークが生じた例もある。しかしながら、き裂進展と組み合わせることを想定した場合、例えばクリープき裂進展では温度が高いほどき裂進展速度は速くなり、500℃を超える温度範囲でのき裂進展評価も想定される。つまり、損傷評価部位が必ずしも最大脆化部位になるとは限らず、500℃以上のより広い温度域まで適用可能な脆化予測方法が必要となる。
【0011】
既に運転データ等を収集、使用し、脆化等の材料劣化評価を組み合わせた損傷評価装置も提案されている。この装置では、あらかじめ実験データより求めた予測式を用いて脆化量を推定している。しかしながら、材料諸特性にばらつきがあることは広く知られており、脆化においても例外ではない。つまり脆化推定でもばらつきを考慮した統計的な評価が必要となる。統計的な評価の精度向上には、多くの実験データが必要となるが、経年的に進行する脆化の実験データをあらかじめ十分量得るには時間がかかる。しかしながら、これまでの損傷評価装置や脆化評価手法において、新たに取得した脆化データを活用し、推定精度向上させる方法及び装置構成がなされていなかった。
【0012】
前述ではタービンロータやケーシング等の火力発電機器を一例としたが、脆化評価はこれらの製品、分野に限るものではない。例えば高温蒸気配管や燃料電池、エンジン部品など、その他機器における高温部材への適用も見込まれる。
【0013】
前述の材料劣化評価を組み合わせた損傷評価装置では、運転データを取得するセンサから各種演算処理部、データ記憶部およびデータ入力や提示に使用するデバイスまで含めた装置構成であった。同様に運転データを基に材料劣化や材料変形等を予測する装置を構成した場合、運転データを取得するセンサや一部の演算処理部で同様の処理が必要となる。そのため損傷評価装置や材料劣化評価装置等の複数の評価装置を適用した場合、機能が重複した装置構成となる。これはコストや省スペース化の観点から望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】斎藤潔他,「CrMoV鋳鋼の破壊力学特性に及ぼす経年脆化の影響」日本機械学会講演論文集No.830-2、p.203-205
【非特許文献2】植村啓美他、「Cr-Mo-V鋼タービンロータの使用中焼戻し脆化特性」、鉄と鋼、一般社団法人日本鉄鋼協会、2007年4月1日、第93巻、第4号、p.324-329
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このように脆化は経年的に進行する材料劣化の一種であり、使用温度、運用時間、材料中の不純物元素量が影響する。近年の部分負荷運転を行う機会が増えた発電機器等では、これに伴い使用温度も変動し、従来の定期的な脆化計測では適切に脆化を予測・推定することが難しくなる。また、製品分解を伴う直接計測を十分な回数実施することは、コストの観点から望ましくない。これまでに使用温度、運用時間、材料中の不純物元素量から脆化量を推定する方法および装置も提案されているが、幅広い温度範囲での適用性は未知であった。更に既存の脆化予測式およびこれを用いた脆化推定装置では、新たに取得した脆化計測データの活用が難しく、装置運用期間中における脆化推定精度向上が期待できなかった。また、評価装置を構成する各種機器及び演算処理部を一体とした装置では適用性にも課題が残る。
【0017】
本発明は、このような従来の事情を考慮してなされたもので、機器運用の多様化に対応し、かつ信頼性の高い評価を実現することのできる材料劣化評価装置及び材料劣化評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
実施形態の材料劣化評価装置は、機器の脆化を評価する材料劣化評価装置であって、前記機器の状態を検出し運転データとして取得する運転データ取得部と、前記運転データを記憶する運転データ記憶部と、前記運転データに基づいて、前記機器の所定の評価部位温度を算出する温度評価部と、前記機器をなす材料の材料データ及び脆化推定式を記憶する評価部品材料記憶部と、前記評価部位温度、前記材料データ及び前記脆化推定式に基づいて、前記機器をなす材料の脆化量を算出する脆化評価部と、前記脆化量に基づいて前記機器をなす材料の損傷リスクを算出するリスク評価部と、前記損傷リスクに基づいて、前記機器の保守推奨時期を提示する保守推奨時期提示部と、を具備する。
【発明の効果】
【0019】
実施形態によれば、機器運用の多様化に対応し、かつ信頼性の高い評価を実現することのできる材料劣化評価装置及び材料劣化評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態に係る材料劣化評価装置の構成を示すブロック図。
【
図2】第1実施形態に係るセンサの取付け位置の一例を示す模式図。
【
図3】第1実施形態に係る運転データ取得部の動作を示すフローチャート。
【
図4】第1実施形態に係る材料脆化量評価部の動作を示すフローチャート。
【
図5】第1実施形態に係る脆化推定手法と公知例による推定手法の比較を示す図。
【
図6】第1実施形態に係る脆化推定手法の推定結果の一例を示す図。
【
図7】第1実施形態に係る脆化推定精度の検証結果の一例を示す図。
【
図8】第1実施形態に係るリスク評価部の動作を示すフローチャート。
【
図9】第2実施形態に係る材料劣化評価装置の構成を示す模式図。
【
図10】第2実施形態に係る材料劣化評価装置を構成する評価部等の共有例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施形態に係る材料劣化評価装置及び材料劣化評価方法、図面を参照して説明する。
【0022】
(第1実施形態の構成)
以下、
図1を参照して第1実施形態について説明する。
図1に示すように、第1実施形態の材料劣化評価装置1は、センサ10、運転データ取得部20、評価部品材料記憶部30、入力部35、運転データ記憶部40、温度評価部50、脆化評価部60、リスク評価部70および保守推奨時期提示部80を有する。
【0023】
運転データ取得部20は、センサ10を介して運転データを取得する演算ブロックである。評価部品材料記憶部30は、脆化評価部材の材料データを記憶する。入力部35は、例えばキーボードなどの入力インタフェースであり、材料データなどを評価部品材料記憶部30などに予め格納するために用いられる。また、LANポート等の情報通信用端子も有しており、装置外の機器より得たデータを評価部品材料記憶部30などに格納することができる。運転データ記憶部40は、脆化評価部材を含む評価対象機器をなす構成部品の各部位の状態を示す運転データを記憶する。温度評価部50は、運転データ取得部20が取得した運転データ等に基づいて評価部位の温度を評価する演算ブロックである。脆化評価部60は、温度評価部50の評価結果および評価部品の化学成分等の材料データを用いて材料脆化量評価する演算ブロックである。リスク評価部70は、材料脆化量の評価結果に基づいて、破損リスクを評価する演算ブロックである。保守推奨時期提示部80は、破損リスクの評価結果および今後のプラント運用計画に基づいて保守推奨時期をユーザに提示するインタフェースである。
【0024】
評価部品材料記憶部30は、評価部材の化学成分や強度特性などの材料データを記憶する。また、評価部品材料記憶部30は、時々刻々と得られる脆化評価結果を記憶してもよい。評価部品材料記憶部30は、不揮発性メモリやハードディスクドライブなどにより実現することができる。
【0025】
運転データ記憶部40は、脆化評価部材を含む評価対象機器をなす構成部品の各部位の状態を示す運転データを記憶する。運転データ記憶部40は、不揮発性メモリやハードディスクドライブなどにより実現することができる。運転データ記憶部40は、取得した運転データを記憶するだけでなく、本劣化評価装置運用開始以前の過去の運転データを履歴データとして記憶してもよい。履歴データは、時々刻々と得られる運転データ、総運転時間などの積算履歴、起動・停止ないしは出力変動時における各部位の温度・圧力等の変化量、単位時間当たりの変化量などを含んでいる。なお、運転データ記憶部40は、運転データおよびその履歴データに加えて、評価部位の運転データに対応する状態量およびその履歴データを記憶してもよい。
【0026】
(センサ10)
センサ10は、脆化評価部材を含む評価対象機器の運転データを取得する。センサ10が取得する運転データは、例えば温度や圧力、ひずみなどが例示される。この他にも、センサ10は、機器の出力や負荷割合などを検出してもよい。センサ10は、機器の設計、製造時に予め取り付けられるか、評価のために新たに追設される。
【0027】
センサ10の適用一例としてタービンケーシングにおける運用例を示す。
図2は、タービン機器2のタービンケーシング3におけるセンサの取り付け位置の例を示す。
図2に示すタービン機器2は、タービンケーシング3と、ロータ4と、段落群Iおよび段落群IIをなす複数の動翼5とを有している。このタービンケーシング3には、センサ10aないし10fが配設されている。
図2に示す例では、センサ10aないし10fは、温度を検出する温度センサである。
【0028】
センサ10aは、タービンケーシング3における蒸気入口11から1段目の動翼5の後流近傍に配設されている。センサ10bは、タービンケーシング3における段落群Iの蒸気出口12の近傍に配設されている。センサ10cは、タービンケーシング3における蒸気出口12以降の蒸気通路近傍に配設されている。センサ10dは、タービンケーシング3における段落群IIの蒸気入口13の近傍に配設されている。センサ10eは、タービンケーシング3における段落群II近傍に配設されている。センサ10fは、タービンケーシング3における段落群IIの蒸気出口14近傍に配設されている。
【0029】
図2に示すタービンケーシング3において、段落群Iの各段落の温度を推定する場合、蒸気入口11近傍のセンサ10aおよび蒸気出口12近傍のセンサ10bの検出結果を用いることができる。センサ10bの代わりに、蒸気出口12以降の蒸気通路近傍のセンサ10cを用いることもできる。しかしながら、蒸気入口温度および出口温度を推定する場合、蒸気出入口に近い位置での温度計測データから蒸気温度を推定することで、蒸気出入口温度の推定誤差を小さくすることができる。前記例では、センサ10cよりセンサ10bを用いる方が、蒸気出口温度を推定しやすい。蒸気出入口温度より各段落温度を推定する場合、各段落温度の推定精度は、蒸気出入口側温度推定誤差の影響を受けることから、適切なセンサ選定により推定精度向上が期待できる。
【0030】
センサ10aは、タービンケーシング3における蒸気入口11から1段目の動翼5の後流近傍に配設されているが、これには限定されない。各センサの取り付け位置は、設計条件によって異なるものであり、1段目の動翼5の後流に限定されず、他の位置であってもよい。例えばタービンケーシング3の設計上、センサ10bの位置における温度計測が困難な場合は、センサ10cで検出できる蒸気出口12以降の蒸気通路部の温度を用いて推定しても良い。センサ10aと同様に段落間にセンサを設置してもよい。
【0031】
運転データを抽出するセンサ10の数は、状態量を評価する部位数や位置、推定式に応じて決まることから、蒸気入口や蒸気出口近傍の2カ所に限定されない。例えば、段落群Iの蒸気入口11から1段目の動翼5後流近傍の温度推定を行うような場合であれば、評価部位に近いセンサ10aのデータのみで良い場合もある。また、段落群IIの各段落状態量を推定するために抽出するデータは、センサ10dおよびセンサ10eまたはセンサ10fのうち二か所、あるいはセンサ10d、センサ10eおよびセンサ10fの三か所のセンサを用いて各部位の温度を検出してもよい。また、複数個所のセンサ10をデータ抽出対象として準備し、蒸気圧力や運転出力等の収集データないしは任意の時刻における状態推定量等の推定データに応じてデータ収集するセンサを選定してもよい。圧力やひずみセンサにおいても同様であり、検出したい運転データの場所と内容に応じてセンサの配置を決定することができる。
【0032】
各段落の温度推定のため、推定したい段落の近傍ないしはその前後の温度センサの計測値を用いる手法を説明したが、温度センサの計測値と併せて圧力センサの計測値を用いてもよい。例えば、伝熱の計算の際には動粘性係数やレイノルズ数、ヌセルト数、プラントル数等を使用し計算する方法がある。これらの値の算出には、蒸気圧力もパラメータとして必要になる。その場合、センサ10として圧力センサを設け、その計測値を基にこれらのパラメータの値を算出して、温度センサの計測値と組み合わせる。これにより、推定したい段落の温度を算出することができる。
【0033】
(運転データ取得部20)
運転データ取得部20は、タービン機器2に設けられたセンサ10が運転中に計測した運転データを適切なサンプリング周波数で取得し、平均化およびノイズ除去を施し、後工程に出力する機能を有する。また、運転データ取得部20は、取得する運転データの内容に応じて、タービン機器2の各所に配設されたセンサ10を選定して当該センサ10から所望の運転データを取得することができる。すなわち、ある運転データを取得する場合に、どのセンサからどういうデータ(温度・圧力他)を取得するのかを設定することができる。
【0034】
図3は、運転データ取得部20による運転データの取得動作を示している。運転データ取得部20は、タービン機器2に設けられたセンサ10から、温度や圧力などの検出データ、プラント出力、負荷割合などの運転データを読み込む(S21)。
【0035】
運転データを読み込むと、運転データ取得部20は、ノイズ除去処理(S22)や平均化処理(S23)などのデータ処理を実行してデータ整理を行う。
【0036】
運転データが整理されると、運転データ取得部20は、運転データ記憶部40から履歴データを読み出す(S24)。履歴データは、時々刻々と得られる運転データ、総運転時間などの積算履歴、起動・停止ないしは出力変動時における各部位の温度・圧力等の変化量、単位時間当たりの変化量などが例示される。すなわち、運転データ取得部20は、センサ10を通じて取得した運転データに加えて、運転データの過去の履歴も取得する。履歴データは、さらに、評価時刻におけるプラントの状態を示す過渡的なデータ、これら過渡的なデータを積算したデータ、タービン機器2の各部位の温度・圧力変化量等、複数の任意の時間におけるデータを加算・減算して得られたデータを含んでもよい。運転データ取得部20は、運転データ記憶部40から履歴データを取得する。
【0037】
また、運転データ取得部20は、運転データ記憶部40から過渡的なデータ(運転データ)を積算・演算処理して履歴データを生成する(S25)。生成した履歴データは、運転データ記憶部40に保存される(S26)。なお、運転データ取得部20が生成する履歴データは、センサ10を通じて取得した運転データに基づくものに限定されない。一定期間継続して運用している既設プラントである場合、運転データ取得部20は、運転開始時から装置設置時までの運転履歴を取得・積算し、運転データ記憶部40に保存させてもよい。また、運転データは、入力部35を通じて入力され、運転データ記憶部40に保存させてもよい。
【0038】
(温度評価部50)
温度評価部50は、運転データ取得部20が取得し生成した運転データおよび履歴データを用いて、所定の評価部位の温度を計算する。温度評価部50による計算方法としては、例えば、(1)任意の評価部位における温度について、
図2に例示したタービンケーシング3のように蒸気等の作動流体入口、出口等における温度データや、機器の出力等の運転条件に基づいて作動流体温度を推定し、ヒートバランスを収支計算にて求める方法、(2)あらかじめ評価対象機器の所定の位置に取り付けた各種センサの計測データと評価部位温度の関係式を作成し、これにより求める方法などが例示される。ここで機器出力等の運転条件及び各部位温度との関係式などはあらかじめ運転データ記憶部40に保存させておくことができる。
【0039】
なお、材料劣化評価装置1を設置するプラント構成や評価対象の機器、評価部位数によっては、逐次送付される運転データを全て計算処理するのは困難な場合がある。そのような場合、例えば予め想定される運転データに対して、評価部位の温度、圧力等の状態量を予め運転データ記憶部40に記憶しておき、センサ10により取得する運転データに替えて運転データ記憶部40に記憶された状態量を用いて所定の評価部位での温度を出力してもよい。
【0040】
(脆化評価部60)
脆化評価部60は、温度評価部50が算出した所定の評価部位における温度と、あらかじめ評価部品材料記憶部30に記憶された評価部品の材料データとに基づいて、評価対象機器の任意の評価部位における脆化量を推定する。材料データは、評価対象部材をなす材料の化学成分や結晶粒径、硬度、耐力、衝撃値などの強度データが例示される。また、脆化評価部60において逐次算出される脆化量も評価部品材料記憶部30に記憶され、この脆化量も材料データに含む。
【0041】
脆化量は、例えば、破面遷移温度(FATT:Fracture Appearance Transition Temperature)で表わす。
【0042】
破面遷移温度は、衝撃試験によって得られた破面において、延性破面と脆性破面の割合を示す延性破面率が50%に対応するときの温度を示す。金属材料は温度低下によって延性が低下し、脆くなる傾向がある。材料が脆化した場合、より高い温度でなければ延性破面率50%を示さなくなる。つまり脆化に伴って破面遷移温度FATTは上昇する。脆化量は、評価部位材料の製造時のFATT(FATT0)と現時刻におけるFATT(FATTt)の増加量ΔFATTtを用いて示してもよい。
【0043】
図4は、脆化評価部60による評価動作の例を示している。脆化評価部60では、単位時間経過後の脆化量を算出する。ここで、単位時間とは、入力された評価部位温度が一定とみなせる時間内における任意の時間区分のことを指す。単位時間は予め設定しても良いし、運転状態量の変化や、その計算のインプットである評価部位温度の変化量をモニタリングし、逐次決定しても良い。脆化評価部60は、評価部品材料記憶部30に記憶された評価部品の材料データを取得し(S61)、次いで温度評価部50が算出した評価部位温度を取得する(S62)。
【0044】
取得した材料データ、温度評価部50が算出した評価部位温度及び後述する脆化推定式を用いて、現状態量における等価時間teを算出する(S63)。等価時間teとは、現時刻における温度に恒温保持した場合に、現脆化量に達するまでの時間を示す。
【0045】
温度が一定とみなせる単位時間Δt経過後に、以下の(1)式より見かけの恒温保持時間tを算出し、脆化推定式、材料データ、評価部位温度及び前記見かけの保持時間tに基づき、単位時間経過後の脆化量を算出する(S64)。
t=te+Δt ・・・(1)
【0046】
次いで、脆化評価部60は、算出した脆化量を評価部品材料記憶部30に保存する(S65)。
【0047】
脆化評価部60は、例えば脆化量が不純物元素の粒界偏析量に比例すると仮定した以下の脆化推定式を用いて、脆化量を算出することができる。
(脆化量ΔFATTt)/(飽和脆化量ΔFATT∞)
=(1-exp(X2)×erfc(X))・・・(2)
ここでXは、恒温保持温度T[℃]、保持時間t[Hr]および材料中の所定の元素量より算出される定数Yの関数である。
X=f(t,T,Y)・・・(3)
上記(2)式及び(3)式を用いることで、同状態量における飽和脆化量ΔFATT∞が定まれば、ある時間における脆化量ΔFATTtを求めることができる。
【0048】
本実施形態にて示す脆化推定方法の一つの特徴は、飽和脆化量を表す式の形式にあり、以下(4)式に示すように温度の1次関数の逆数を指数とする指数関数を用いる。
(飽和脆化量ΔFATT∞)
=A1×B×exp{A2/(T+273)} ・・・(4)
ここで、A1およびA2は実験的に求めた定数、Bは材料データより算出される定数である。指数の分母は、(T+273)で示しているが、温度の1次関数であればT+273.15でも、絶対温度(K)としてもよい。
【0049】
以下に、本実施形態の特徴の詳細を公知例と比較して説明する。公知例ではCrMoV鋼の飽和脆化量を以下の(5)式にて推定し、上記(2)式及び(3)式と組み合わせて脆化量を推定する。
(飽和脆化量ΔFATT∞)=425.0+1.778×K-0.9643×T
-0.001990×K×T・・・(5)
ここで、Kは材料中の所定の元素量より算出される定数、Tは保持温度である。
【0050】
(5)式は、300~450℃の温度範囲における脆化計測データを基に、飽和脆化量を温度の1次関数で近似し、導出している。上記(5)式を用いた脆化量推定において、上記温度範囲における推定精度は検証されているが、それ以上の温度域での推定精度は未知であった。そこで、470~520℃において9~14万時間保持後におけるCrMoV鋼の脆化計測データを用いて、(5)式の推定精度を検証した。
【0051】
図5のグラフに本実施形態における脆化推定手法と公知例の比較を示す。同図は横軸を保持温度(℃)、縦軸を飽和脆化量(℃)としてこれらの関係を示している。図中プロットは、前記470~520℃における脆化計測データ及び(4)式より算出した飽和脆化量、破線は公知例(5)式による飽和脆化量推定結果を示している。
【0052】
公知例による飽和脆化量推定値は保持温度460℃程度で0となり、それ以上の温度域では脆化しない結果となる。しかしながら、470~520℃で保持後のCrMoV鋼において脆化が確認されており、推定結果と整合しない。この結果より、公知例による推定では、材料中の所定の元素量より算出される定数Kの影響はあるものの、保持温度460℃程度までが適用限界と思われ、450℃以上の温度域も含めた脆化推定への適用は難しいと考えられる。
【0053】
一方、同図中の実線は(4)式にて推定した飽和脆化量を示す。450℃以上の温度範囲においても式の形式上、飽和脆化量推定値は0とならず、明瞭な適用上限温度はない。また、保持温度500℃近傍の飽和脆化量を誤差10℃程度で推定できている。
【0054】
図6に、(4)式及び(2)式を用いた280~450℃における脆化量推定結果を示す。図中プロットは脆化計測値、実線及び破線は推定結果を示す。計測値A及びBはそれぞれ同一のCrMoV鋼より採取した試験片による脆化計測結果である。推定値と計測値がおおむね一致しており、(4)式を用いた脆化推定は280~450℃においても適用可能である。
【0055】
図7に、(4)式及び(2)式を用いた脆化推定精度を検証した結果を示す。また比較のため、公知例による精度検証結果も併せて示す。精度検証に使用した脆化計測データは280~536℃の温度範囲において3~28万時間保持後のCrMoV鋼脆化計測データである。データ数は約200点で、その内約7割が450℃以上で保持された脆化計測データである。
【0056】
同図上は既知の推定手法による予測精度を示しており、一部のデータでは推定値に対して計測値が2倍程度大きくなる推定誤差が認められる。一方、(4)式を用いた脆化推定の結果が同図下である。推定値と計測値がおおむね一致していることが確認できる。
【0057】
これらの結果より、(4)式に示す通り、飽和脆化量を温度の逆数の指数関数で推定することで、公知例に比べ、より広い温度範囲において適切に脆化量の予測が可能であり、本式の利用により500℃を超える温度範囲まで適用可能な脆化推定方法確立の課題が解決された。
【0058】
(4)式のBは評価部材の材料データより算出した値であり、この決定方法の一例として、評価部材の化学成分より任意の不純物元素の質量重量を重み付けし、足し合わせる方法がある。
B=α・D+β・E+γ・F+δ・G ・・・(6)
ここで、D、E、F、Gは任意の不純物元素量wt%、α、β、γ、δは重み付けの係数である。
【0059】
(6)式は4種類の不純物元素量より算出した例であるが、定数Bの算出に用いる元素を4種類に限るものではない。使用する元素の種類は対象とする素材によって決定するため、上記式の項数はこれに応じて増減する。耐熱鋼であれば不純物元素としてP、Si、Mn、Cu、Ni、Sn、Sb、Asの8元素の内、素材に応じて係数算出に使用する元素を選定し、計算する。また、任意の不純物元素量を掛け合わせて算出しても良い。
【0060】
なお、材料劣化評価装置1の評価対象機器、評価部位数によっては、逐次送付される温度データをすべて処理することが困難な場合がある。そのような場合、あらかじめ材料データ、使用温度及び現時刻における脆化量に対して、前記脆化推定式より脆化速度をあらかじめ算出しておき、これを用いて単位時間当たりの脆化量を算出し、積算することで所定の評価部位での脆化量を出力しても良い。もしくは、計算過程の一部、例えば(2)式右辺と変数Xの関係等をあらかじめ算出しておき、これを用いて脆化量を計測しても良い。いずれにしても、(4)式で示される、温度の1次関数の逆数を指数とする指数関数を含む飽和脆化量推定式を用いることが、本実施形態における脆化予測手法の1つの特徴である。
【0061】
また、評価対象部材によっては定数B算出に用いる不純物元素量の一部計測記録が無く、定数算出に必要な元素量がそろわない場合もある。その際は不純物元素量を仮定しても良い。例えば、複数の同種金属部材の不純物元素量の平均値を使用する方法がある。これに加え標準偏差等も用いて推定値を算出しても良い。このような統計量は、製造場所、製造メーカ及び製造年代等を条件にデータを選定し、算出した値を使用しても良い。
【0062】
上記脆化推定式、同脆化推定式における標準誤差、各状態量における脆化速度及び不純物元素量の統計量などは、あらかじめ評価部品材料記憶部30に記憶させておくことができる。(4)式の定数A1、A2、脆化標準誤差、及び各種不純物元素量の統計量はいずれも実験データより算出される値である。算出に用いた実験データ数が少ない場合、上記係数及び統計量の信頼性も低く、これらを用いた脆化量推定値は信頼性が低い。材料劣化評価装置1の運用中においても、評価対象部位や他部位、他製品での直接計測を伴う脆化評価が実施され、これらの計測結果や実験データが材料劣化評価装置1外のデータベース等に蓄積される。このデータベースに記憶された計測データを使用することで、日々得られる脆化計測データと従来の脆化計測データを合わせて、上記係数及び標準誤差等の統計量を再計算することができる。
【0063】
また、各種不純物元素量の統計量においても、他部材での元素量計測結果を収集することで、同様に統計量を再計算することができる。評価部品材料記憶部30に記憶された各種係数及び統計量を、これらの計算結果を基に更新可能とすることで、材料劣化評価装置1による脆化評価の信頼性を向上させることができる。これを実現するため、入力部35にはデータ通信用の端子を設け、評価部品材料記憶部30のデータを更新可能とする。材料劣化評価装置1はLAN等によってオンライン化し、定期的ないしは任意の時期に自動で評価部品材料記憶部30のデータを更新しても良いし、各種メディア等を用いて更新しても良い。
【0064】
また、上記の係数及び統計量が更新された場合、運転データ記憶部に保存された履歴データを基に評価対象部位の現時刻における脆化量を再評価しても良い。
【0065】
脆化評価部60は(4)式中のB(材料データより算出される定数)を、直接計測による脆化計測結果及び運転データから逆算する機能も有する。実施の具体例として一定期間運用後の製品に対し、材料劣化評価装置1を適用する場合を考える。(6)式のように材料データより定数Bを決定する場合、評価対象部位の元素量が必要になる。製品製造時の材料データが無い場合は、製品の一部を切り欠き、その切り欠いた材料から分析することも可能であるが、運用中の製品を切り欠くことが許容できない場合も多い。その際には運用開始時から現時刻までの運転履歴データ及び現時刻の脆化計測結果を入力することで、上記(1)~(4)式を用いて定数Bを逆算する。また、運転開始時からの履歴データが無い場合、任意の時刻t1及びt2における脆化計測結果とt1からt2までの運転履歴データを基に、逆算しても良い。また、前記例では定数B逆算に必要な最低限の脆化計測数を示したが、複数の脆化計測結果を組合せ、これらから定数Bを近似しても良い。算出した定数Bは評価部品材料記憶部30に記憶される。
【0066】
(リスク評価部70)
リスク評価部70は、脆化評価部60が評価した脆化量と評価部品材料記憶部30に記憶された脆化推定式の標準誤差、標準偏差等の統計量を基に評価部材の損傷リスクを評価する。
図8は損傷リスク評価の一例を示す。脆化評価部60にて評価された脆化量に、(2)~(4)式による脆化推定の標準誤差を組合せ、信頼区間を考慮した推定値を算出する。この値と脆化量の閾値からリスクを評価する。標準誤差、標準偏差等の統計量は、書き換え可能となっている。
【0067】
図中の閾値A、Bおよびaはあらかじめ設計条件等より決定した値でも良いし、評価対象機器の運用時間、評価部位温度によって変動しても良い。これらの閾値の数もこれに限るものではない。運用時間、使用温度等をパラメータとして追加しても良い。また、いずれの閾値も評価部品材料記憶部30に記憶され、材料劣化評価装置1外の機器等より得られた情報を基に更新することも可能である。
【0068】
(保守推奨時期提示部80)
保守推奨時期提示部80は、リスク評価部70にて生成された現時刻における損傷リスク及び運用計画に基づく将来の損傷リスクを基に、脆化の直接計測等の点検推奨時期ないしは部品交換時期等の保守推奨時期を提示する。保守推奨時期提示部80は、ディスプレイ装置などの表示デバイスを有しており、提案内容をユーザに提示することができる。別途ユーザが入力部35を介して入力する評価対象機器の運用計画に基づき、今後の損傷リスクを評価する機能を有する。ここで運用計画とは、例えば設備稼働率や機器の平均出力、起動停止回数頻度などを示す情報であり、運転データ記憶部40にあらかじめ格納されている。保守推奨時期提示部80は、得られた脆化量やこれに紐づけられた運転データ、履歴データに基づいて、与えられた運転計画に対して予測される脆化量を計算する。
【0069】
以上が第1の実施形態である。第1の実施形態によって、運転データから評価部材の脆化量を推定することで、評価対象装置の停止及び開放を伴う脆化計測の回数を減らすことができる。また、運転データより逐次評価部位温度を算出し、これを用いて脆化評価を行うことで、発電機器の負荷変動等による使用温度の変化にも対応可能である。更に、脆化評価に用いる各種統計量や、脆化予測式に含まれる実験的に算出した定数等を記憶するデータ記憶部において、脆化推定装置外から得られるデータを基にデータ更新可能とすることで、新たに取得した脆化計測データを今後の脆化評価に用いることができる。
【0070】
(第2の実施形態の構成)
第2の実施形態は、第1の実施形態として示す材料劣化評価装置1を構成する評価部及び記憶部を含むモジュールと、脆化評価部を含む脆化評価モジュールより装置を構成する。
図9に、2つのモジュールと脆化評価モジュールを組み合わせて構成した材料劣化評価装置を例示する。
【0071】
脆化評価部60を含む脆化評価モジュール6は、入力部35、評価部品材料記憶部30、脆化評価部60、リスク評価部70および保守推奨時期提示部80を有する。これと組み合わせて使用するモジュール7および8は、センサ10、運転データ取得部20、入力部35、運転データ記憶部40及び温度評価部50をそれぞれ有する。
【0072】
モジュール7および8では、運転データ取得から、履歴データ作成および評価部位温度算出までを行う。第1実施形態と同様に、運転データ取得部20において、センサ10より運転データを収集し、運転データ記憶部40に保存する。温度評価部50では、運転データないしは履歴データを用いて評価部位温度を算出し、運転データ記憶部40に保存する。
【0073】
脆化評価モジュール6は、脆化評価から保守時期推奨までを行う。脆化評価モジュール6は、モジュール7および8にて評価された評価部位温度および運転履歴データを収集する。これらのデータを基に、第1の実施形態同様に、脆化評価部60にて脆化評価し、評価部品材料記憶部30に記憶する。また、リスク評価部70にてリスク評価し、脆化評価結果、リスク評価結果、運用計画等を基に保守推奨時期提示部80にて保守推奨時期を提示する。保守推奨時期提示部80にて提示する保守推奨時期は、各モジュールの評価部位の損傷リスク等を個別に評価して決定しても良いし、各装置の評価結果、評価対象機器の稼働率およびメンテナンス性等を考慮し保守推奨時期をそろえる、ないしはずらすなど、相互の状態を考慮して決定しても良い。
【0074】
脆化評価モジュール6と、モジュール7および8はデータ通信可能な有線ないしは無線によって接続される。もしくはメモリカード等の各種メディアを用いてデータを交換しても良い。データ通信に必要な各種端子は入力部35に含む。付帯装置との接続及びデータ通信は、常時でも、任意の時間経過後でも良い。時間はあらかじめ決定しておいても良いし、運用データを基に決定しても良い。
【0075】
上記例では、センサ10、運転データ取得部20、入力部35、運転データ記憶部40および温度評価部50をモジュール7および8に含めたが、装置構成をこれに限るものではない。温度評価部50を脆化評価モジュール6に含める等、構成は変更可能である。また、装置構成によっては上記の運転データ記憶部40ないしは評価部品材料記憶部30を複数に分け、脆化評価モジュール6及びモジュール7ないしは8の両方にデータ記憶部を有しても良い。
【0076】
例えば、運転データ記憶部40には、運転データ取得部20が取得した運転データ、運転データを基に温度評価部50が算出した温度データの他に、温度評価部50にて使用される評価式も保存される。つまり温度評価部50を脆化評価モジュール6に含めた場合、運転データ記憶部40を脆化評価モジュール6及びモジュール7ないしは8にも設け、モジュール7ないし8に含まれる運転データ記憶部40は、運転データ取得部20の取得した運転データを保存し、脆化評価モジュール6に設けられた運転データ記憶部40は温度評価部50にて算出された温度データ、算出に用いる評価式を保存する構成としても良い。脆化評価モジュール6に2つのモジュールを接続する例を示したが、脆化評価モジュールに接続可能なモジュール数を2つに限るものではなく、それ以上に増えても良い。また、1つでも良い。
【0077】
材料劣化評価装置のモジュールに含まれる各種センサ、各評価部及びデータ記憶部は、前述の損傷評価装置をはじめとする他の材料劣化評価装置、損傷評価装置を構成するセンサ、評価部及びデータ記憶部と共有しても良い。
図10に材料劣化評価装置を構成するモジュールの共有例を示す。
図10において、9は前述の損傷評価装置であり、評価対象機器の運転データを基に評価部位の温度、発生応力を評価し、これによる疲労損傷、クリープ損傷ないしはこれらによるき裂進展損傷を評価する。損傷評価装置9は、センサ10、運転データ取得部20、評価部品材料記憶部30、入力部35、運転データ記憶部40、温度評価部50、応力評価部90、リスク評価部70aおよび保守推奨時期提示部80aを有する。
【0078】
運転データ取得部20は、第1実施形態同様に、評価対象機器を構成する部材に設けられたセンサ10より、温度や圧力、ひずみ、機器出力等を運転データとしてサンプリングし、運転データ記憶部40に保存する。
【0079】
温度評価部50では、運転データ記憶部40に保存された運転データを用いて評価部位温度を算出する。評価部位温度算出には、あらかじめ機器出力ないしは任意のセンサ10の計測値と、評価部位温度の関係式を運転データ記憶部40に記憶しておき、これを用いて評価部位温度を算出する。算出した温度データは、運転データと紐づけて運転データ記憶部40に保存される。
【0080】
応力評価部90では、運転データ記憶部40に保存された運転データを用いて評価部位に発生する応力を算出する。応力算出には、あらかじめ機器出力ないしは任意のセンサ10の計測値と、発生応力の関係式を運転データ記憶部40に保存しておき、これを用いて評価部位に発生する応力を算出する。算出した応力は運転データと紐づけて運転データ記憶部40に保存される。
【0081】
リスク評価部70aでは、運転データ記憶部40に記憶された運転データ、これと紐づけられた温度、応力評価結果、および評価部位の疲労強度特性、クリープ特性等の材料データより疲労損傷、クリープ損傷量を算出する。算出した損傷量と運転データより損傷リスクを評価する。算出した損傷量及び損傷リスク評価結果は評価部品材料記憶部30に記憶される。
【0082】
保守推奨時期提示部80aは、評価部品材料記憶部30に記憶された損傷評価結果、運転データ記憶部40に記憶された運転データ、及び別途入力される今後の機器運用計画に基づき将来の損傷量を予測し、保守推奨時期を提示する。
【0083】
材料劣化評価装置1aの評価対象部位と損傷評価装置9の評価対象部位が同じ、ないしは温度評価部50にていずれの評価対象部位温度も算出可能であれば、装置を構成するセンサ、評価部等を共有して両方の装置の機能を満たすことができる。材料劣化評価装置1aを構成するセンサ10、運転データ取得部20、評価部品材料記憶部30、入力部35、運転データ記憶部40、温度評価部50をモジュール7aとし、これを損傷評価装置9と共有することで装置構成することもできる。
【0084】
上記一例では、センサ10、運転データ取得部20、評価部品材料記憶部30、入力部35、運転データ記憶部40、温度評価部50をモジュール化したが、モジュールに含める構成をこれに限るものではなく、変更可能である。また、モジュールを、損傷評価装置9及び材料劣化評価装置1aの2つで共有する例であったが、共有可能な装置数をこれに限るものではなく、装置数を増やしても良い。以上が第2の実施形態である。
【0085】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0086】
1,1a……材料劣化評価装置、2……タービン機器、3……タービンケーシング、4……ロータ、5……動翼、6……脆化評価モジュール、7,7a,8……モジュール、9……損傷評価装置、10……センサ、11……蒸気入口、12……蒸気出口、13……蒸気入口、14……蒸気出口、20……運転データ取得部、30……評価部品材料記憶部、40……運転データ記憶部、50……温度評価部、60……脆化評価部、70,70a……リスク評価部、80,80a……保守推奨時期提示部。