IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニーの特許一覧

特開2023-6639熱伝導性シート前駆体、及び前駆体組成物、並びに熱伝導性シート前駆体から得られる熱伝導性シート及びその製造方法
<>
  • 特開-熱伝導性シート前駆体、及び前駆体組成物、並びに熱伝導性シート前駆体から得られる熱伝導性シート及びその製造方法 図1
  • 特開-熱伝導性シート前駆体、及び前駆体組成物、並びに熱伝導性シート前駆体から得られる熱伝導性シート及びその製造方法 図2
  • 特開-熱伝導性シート前駆体、及び前駆体組成物、並びに熱伝導性シート前駆体から得られる熱伝導性シート及びその製造方法 図3
  • 特開-熱伝導性シート前駆体、及び前駆体組成物、並びに熱伝導性シート前駆体から得られる熱伝導性シート及びその製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006639
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】熱伝導性シート前駆体、及び前駆体組成物、並びに熱伝導性シート前駆体から得られる熱伝導性シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20230111BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20230111BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/36 M
H05K7/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109347
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】リカルド ミゾグチ ゴルゴル
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322FA04
5E322FA09
5F136BC07
5F136FA14
5F136FA15
5F136FA16
5F136FA51
5F136FA52
5F136FA82
5F136GA31
(57)【要約】      (修正有)
【課題】熱伝導性及び電気絶縁性に優れる熱伝導性シートの前駆体及び前駆体組成物、並びに該熱伝導性シート前駆体から得られる熱伝導性シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】複数の第1の熱伝導性粒子は、異方熱伝導性粒子の凝集体であり、凝集体は、凝集体を構成する異方熱伝導性粒子間において空隙領域を有する、複数の第2の熱伝導性粒子であって、第2の熱伝導性粒子は、等方熱伝導性粒子であり、かつ、凝集体の外部に含まれる、複数の第2の熱伝導性粒子と、複数の第3の熱伝導性粒子は、第1の熱伝導性粒子及び第2の熱伝導性粒子のいずれとも異なり、かつ、少なくとも一部が凝集体の空隙領域内に含まれる、複数の第3の熱伝導性粒子と、バインダー樹脂とを含み、熱伝導性シート前駆体に約0.75~約12MPaに含まれる第1の圧力を適用したときに、凝集体の少なくとも一部が崩壊する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性シート前駆体であって、
複数の第1の熱伝導性粒子であって、前記第1の熱伝導性粒子は、異方熱伝導性粒子の凝集体であり、かつ、前記凝集体は、該凝集体を構成する前記異方熱伝導性粒子間において空隙領域を有する、複数の第1の熱伝導性粒子と、
複数の第2の熱伝導性粒子であって、前記第2の熱伝導性粒子は、等方熱伝導性粒子であり、かつ、前記凝集体の外部に含まれる、複数の第2の熱伝導性粒子と、
複数の第3の熱伝導性粒子であって、前記第3の熱伝導性粒子は、前記第1の熱伝導性粒子及び前記第2の熱伝導性粒子のいずれとも異なり、かつ、少なくとも一部が前記空隙領域内に含まれる、複数の第3の熱伝導性粒子と
バインダー樹脂と、を含み、
前記熱伝導性シート前駆体に0.75~12MPaに含まれる第1の圧力を適用したときに、前記凝集体の少なくとも一部が崩壊する、
熱伝導性シート前駆体。
【請求項2】
前記第2の熱伝導性粒子が、4.5マイクロメートル以上の平均粒子径を有する、請求項1に記載の前駆体。
【請求項3】
前記第2の熱伝導性粒子は、前記第1の圧力を適用したときに崩壊しない、請求項1又は2に記載の前駆体。
【請求項4】
前記凝集体は、50%よりも大きい空隙率を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の前駆体。
【請求項5】
前記第3の熱伝導性粒子が、3.0マイクロメートル以下の平均長径又は平均粒子径を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の前駆体。
【請求項6】
前記第3の熱伝導性粒子が、第2の等方熱伝導性粒子である、請求項1~5のいずれか一項に記載の前駆体。
【請求項7】
熱伝導性シート前駆体中に熱伝導性フィラー成分が、45~80体積%含まれており、かつ、前記熱伝導性フィラー成分中、前記第1の熱伝導性粒子は、20~90体積%含まれており、前記第2の熱伝導性粒子は、5~75体積%含まれており、前記第3の熱伝導性粒子は、5~75体積%含まれている、請求項1~6のいずれか一項に記載の前駆体。
【請求項8】
前記凝集体の平均粒子径が、20マイクロメートル以上である、請求項1~7のいずれか一項に記載の前駆体。
【請求項9】
前記凝集体が、窒化ホウ素の一次粒子を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の前駆体。
【請求項10】
前記凝集体の短軸の長さの最大値よりも大きい厚さを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の前駆体。
【請求項11】
前記第2の熱伝導性粒子及び/又は前記第3の熱伝導性粒子が、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、及び窒化ホウ素から選択される少なくとも一種である、請求項1~10のいずれか一項に記載の前駆体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の熱伝導性シート前駆体の硬化物を含む、熱伝導性シート。
【請求項13】
複数の第1の熱伝導性粒子であって、前記第1の熱伝導性粒子は、異方熱伝導性粒子の凝集体であり、かつ、前記凝集体は、該凝集体を構成する前記異方熱伝導性粒子間において空隙領域を有する、複数の第1の熱伝導性粒子と、
複数の第2の熱伝導性粒子であって、前記第2の熱伝導性粒子は、等方熱伝導性粒子であり、かつ、前記凝集体の外部に含まれる、複数の第2の熱伝導性粒子と、
複数の第3の熱伝導性粒子であって、前記第3の熱伝導性粒子は、前記第1の熱伝導性粒子及び前記第2の熱伝導性粒子のいずれとも異なり、かつ、少なくとも一部が前記空隙領域内に含まれる、複数の第3の熱伝導性粒子と、
バインダー樹脂であって、該バインダー樹脂内に、前記複数の第1の熱伝導性粒子、前記複数の第2の熱伝導性粒子、及び前記複数の第3の熱伝導性粒子が分散している、バインダー樹脂と、を含む、
前駆体組成物。
【請求項14】
前記第2の熱伝導性粒子が、4.5マイクロメートル以上の平均粒子径を有する、請求項13に記載の前駆体組成物。
【請求項15】
前記第3の熱伝導性粒子が、3.0マイクロメートル以下の平均長径又は平均粒子径を有する、請求項13又は14に記載の前駆体組成物。
【請求項16】
前記凝集体は、50%よりも大きい空隙率を有する、請求項13~15のいずれか一項に記載の前駆体組成物。
【請求項17】
請求項13~16のいずれか一項に記載の前駆体組成物を準備することと、
前記組成物を用いて熱伝導性シート前駆体を形成することと、
前記熱伝導性シート前駆体に少なくとも0.75MPaの圧力を適用して熱伝導性シートを形成することと、を備える、
熱伝導性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱伝導性シートの前駆体、及び前駆体組成物、並びに熱伝導性シート前駆体から得られる熱伝導性シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子等の発熱性部品は使用時の発熱に伴い、性能の低下、破損等の不具合を生じる場合がある。このような不具合を解消するために、熱伝導性を有するシートが、例えば、半導体のヒートスプレッダをヒートシンクに取り付ける、電気自動車(EV)のパワーモジュールの組み立てにおいて使用されている。
【0003】
特許文献1(特許第5184543号公報)には、無機充填剤を熱硬化性樹脂中に分散してなる熱伝導性シートであって、無機充填剤は、15マイクロメートル以下の平均長径を有する鱗片状窒化ホウ素の一次粒子を等方的に凝集させ、焼成して球状に形成した二次凝集粒子と、3マイクロメートル以上50マイクロメートル以下の平均長径を有する鱗片状窒化ホウ素及び/又は球状の無機粉末とを含み、無機充填剤には、50マイクロメートル以上の粒径を有する二次凝集粒子が20体積%より多く含まれ、かつ3マイクロメートル以上50マイクロメートル以下の平均長径を有する鱗片状窒化ホウ素は熱伝導性シート中で等方的に配向している、熱伝導性シートが記載されている。
【0004】
特許文献2(国際公開第2011/111684号)には、ポリイミド樹脂中に熱伝導性フィラーを含有するフィラー含有ポリイミド樹脂層を少なくとも1層有する絶縁層と、該絶縁層の片面又は両面に積層された金属層と、を有する熱伝導性積層体において、フィラー含有ポリイミド樹脂層における熱伝導性フィラーの含有量が35~80vol%の範囲内であり、熱伝導性フィラーの最大粒子径が15マイクロメートル未満であり、熱伝導性フィラーは板状フィラーと球状フィラーとを含有し、板状フィラーの平均長径DLが0.1~2.4マイクロメートルの範囲内であり、絶縁層の厚み方向での熱伝導率λzが0.8W/mK以上である、熱伝導性積層体が記載されている。
【0005】
特許文献3(特開2019-121708号公報)には、異方熱伝導性の一次粒子が凝集した等方熱伝導性凝集体、この凝集体に構成されない異方熱伝導性材料、及びバインダー樹脂を含む、熱伝導性シート前駆体であって、熱伝導性シート前駆体に3~12MPaの圧力を適用したときに、等方熱伝導性凝集体の少なくとも一部が崩壊する、熱伝導性シート前駆体が記載されている。
【0006】
特許文献4(特開2020-053531号公報)には、異方熱伝導性の一次粒子が凝集した凝集体、この凝集体とは異なり、かつ、20マイクロメートル以上の平均粒子径を有する等方熱伝導性材料、及びバインダー樹脂を含む、熱伝導性シート前駆体であって、熱伝導性シート前駆体に0.75~12MPaに含まれる第1の圧力を適用したときに、凝集体の少なくとも一部が崩壊する、熱伝導性シート前駆体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5184543号公報
【特許文献2】国際公開第2011/111684号
【特許文献3】特開2019-121708号公報
【特許文献4】特開2020-053531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、例えば、電気自動車のパワーモジュールの小型化、パワーの増加及び高性能化等に伴い、熱伝導性に加え、電気絶縁性のより向上した熱伝導性シートが望まれている。
【0009】
したがって、本開示は、熱伝導性及び電気絶縁性に優れる熱伝導性シートの前駆体、及び前駆体組成物、並びに該熱伝導性シート前駆体から得られる熱伝導性シート及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一実施形態によれば、複数の第1の熱伝導性粒子であって、当該第1の熱伝導性粒子は、異方熱伝導性粒子の凝集体であり、かつ、当該凝集体は、凝集体を構成する異方熱伝導性粒子間において空隙領域を有する、複数の第1の熱伝導性粒子と、複数の第2の熱伝導性粒子であって、当該第2の熱伝導性粒子は、等方熱伝導性粒子であり、かつ、凝集体の外部に含まれる、複数の第2の熱伝導性粒子と、複数の第3の熱伝導性粒子であって、当該第3の熱伝導性粒子は、第1の熱伝導性粒子及び第2の熱伝導性粒子のいずれとも異なり、かつ、少なくとも一部が凝集体の空隙領域内に含まれる、複数の第3の熱伝導性粒子と、バインダー樹脂とを含み、熱伝導性シート前駆体に約0.75~約12MPaに含まれる第1の圧力を適用したときに、凝集体の少なくとも一部が崩壊する、熱伝導性シート前駆体が提供される。
【0011】
本開示の別の実施形態によれば、上記の熱伝導性シート前駆体の硬化物を含む熱伝導性シートが提供される。
【0012】
本開示の別の実施形態によれば、複数の第1の熱伝導性粒子であって、当該第1の熱伝導性粒子は、異方熱伝導性粒子の凝集体であり、かつ、凝集体は、凝集体を構成する異方熱伝導性粒子間において空隙領域を有する、複数の第1の熱伝導性粒子と、複数の第2の熱伝導性粒子であって、当該第2の熱伝導性粒子は、等方熱伝導性粒子であり、かつ、凝集体の外部に含まれる、複数の第2の熱伝導性粒子と、複数の第3の熱伝導性粒子であって、当該第3の熱伝導性粒子は、第1の熱伝導性粒子及び第2の熱伝導性粒子のいずれとも異なり、かつ、少なくとも一部が凝集体の空隙領域内に含まれる、複数の第3の熱伝導性粒子と、バインダー樹脂であって、当該バインダー樹脂内に、複数の第1の熱伝導性粒子、複数の第2の熱伝導性粒子、及び複数の第3の熱伝導性粒子が分散している、バインダー樹脂とを含む、前駆体組成物が提供される。
【0013】
本開示の別の実施形態によれば、上記の前駆体組成物を準備することと、この組成物を用いて熱伝導性シート前駆体を形成することと、熱伝導性シート前駆体に少なくとも約0.75MPaの圧力を適用して熱伝導性シートを形成することとを備える、熱伝導性シートの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、熱伝導性及び電気絶縁性に優れる熱伝導性シートの前駆体、及び前駆体組成物、並びに該熱伝導性シート前駆体から得られる熱伝導性シート及びその製造方法を提供することができる。
【0015】
上述の記載は、本開示の全ての実施形態及び本開示に関する全ての利点を開示したものとみなしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の一実施形態の熱伝導性シートの断面SEM写真である。
図2】窒化ホウ素凝集体と、各種サイズの等方熱伝導性粒子とを含む熱伝導性シートの熱伝導率に関するグラフである。
図3】窒化ホウ素凝集体と、平均粒子径0.9マイクロメートルの窒化アルミニウム粒子とを含む熱伝導性シートにおける窒化アルミニウム粒子の配合割合に伴う絶縁破壊電圧に関するグラフである。
図4】第1の熱伝導性粒子である窒化ホウ素凝集体と、凝集体の内部に含まれ得る小粒径の第3の熱伝導性粒子と、凝集体の外部に含まれる大粒径の第2の熱伝導性粒子とを含む熱伝導性シートにおける、第3の熱伝導性粒子及び第2の熱伝導性粒子の配合割合に伴う熱伝導率及び絶縁破壊電圧に関するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の代表的な実施形態を例示する目的で、必要に応じて図面を参照しながらより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されない。
【0018】
本開示において「シート」には、「フィルム」と呼ばれる物品も包含される。
【0019】
本開示において「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0020】
本開示において「異方熱伝導性」又は「異方的な熱伝導性」とは、方向によって熱伝導性が異なることを意味する。例えば、熱伝導率が最も高い方向の熱伝導率よりも、他の方向の熱伝導率が、約50%以上、約60%以上、又は約70%以上低い状態を意図することができる。ここで、他の方向とは、熱伝導率が最も高い方向に対し、約10度以上、約20度以上又は約30度以上、約90度以下の範囲で、方向が異なることを意図することができる。このような異方熱伝導性を呈する材料としては、例えば、鱗片状窒化ホウ素が挙げられる。かかる窒化ホウ素は、長径方向(結晶方向)の熱伝導率が高く、短径方向(厚さ方向、又は長径方向に対して90度の方向)の熱伝導率が低いという異方的な熱伝導性を呈することが知られている。
【0021】
本開示において「等方熱伝導性」又は「等方的な熱伝導性」とは、異方熱伝導性材料よりも熱伝導性に異方性がなく、熱伝導性が略等方的であることを意味する。例えば、略球状のアルミナ粒子は、熱伝導性がいかなる方向においても略等しいという等方的な熱伝導性を呈することが知られている。本開示において「略」とは、製造誤差などによって生じるバラつきを含むことを意味し、約5~約30%、好ましくは、約5~約20%の変動が許容されることを意図することができる。
【0022】
本開示において「崩壊」とは、一次構造体が集合した二次構造体が崩れて、一次構造体の形態にほぼ戻ることを意味する。例えば、異方熱伝導性の一次粒子が凝集した凝集体の少なくとも一部が崩壊するとは、凝集体を構成する一次粒子のうちの少なくとも一部が、圧力によって崩れ、凝集前の一次粒子の形態にほぼ戻ることを意味する。ここで、「一次粒子」とは、凝集体を構成している粒子を意図し、また、「ほぼ戻る」とは、例えば、崩壊後の一次構造体の形状又は大きさが、崩壊前の一次構造体の形状又は大きさに対し、約70%以上、約75%以上、又は約80%以上保持されていることを意図することができる。
【0023】
本開示において「ランダム」とは、方向的に秩序性のない状態を意味する。例えば、図1に示される窒化ホウ素凝集体の一次粒子の状態は「ランダム」に該当するが、鱗片状の窒化ホウ素を含むシートにおいて、複数の窒化ホウ素がシートの主表面に対して略平行に配列しているような状態は「ランダム」には該当しない。ここで、凝集体の一次粒子がランダムであるか否かの判断は、凝集体の一部を見たときの状態で判断するのではなく、凝集体全体で見たときの状態で判断する。例えば、図1の「第1の熱伝導性粒子のBN凝集体を構成する異方熱伝導性のBN一次粒子」の矢印付近の一次粒子は3つの粒子が平行に配列しているが、凝集体全体で見たときには、かかる3つの粒子は、他の一次粒子とは平行に配列していないため、図1に示される窒化ホウ素凝集体の一次粒子の状態は「ランダム」であると判断できる。
【0024】
本開示において「硬化物」とは、熱硬化性樹脂の加熱重合といった化学反応によって得られるもののほか、ゴム系樹脂の加硫又は架橋といった化学反応によって得られるもの、及び熱可塑性樹脂の凝固によって得られるものも包含される。
【0025】
以下、熱伝導性シート前駆体(単に「前駆体」と称する場合がある。)の各成分についてさらに説明する。
【0026】
本開示の熱伝導性シート前駆体に含まれる第1の熱伝導性粒子の凝集体は、異方熱伝導性粒子の凝集体(例えば、異方熱伝導性の一次粒子が凝集した二次凝集粒子)である。かかる凝集体は、熱伝導性シート前駆体に所定の圧力を適用したときに、凝集体の少なくとも一部が崩壊し得る特性を有している。凝集体は、異方熱伝導性の一次粒子がランダムに凝集し、かかる一次粒子よりも等方的な熱伝導率を有することが好ましい。ここで、凝集体は、所定の圧力、例えば、約0.75~約12MPaの範囲内の全ての圧力において前駆体中で崩壊する必要はなく、かかる範囲内のいずれかの圧力(第1の圧力)を適用した場合に、凝集体の少なくとも一部が崩壊すればよい。このような圧力で崩壊し得る凝集体は、比較的低密度な凝集体であり、凝集体を構成する異方熱伝導性粒子間において空隙領域を有し、後述する第3の熱伝導性粒子をこの空隙領域内に侵入させることができる。第1の熱伝導性粒子の(凝集体)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0027】
鱗片状窒化ホウ素などの異方熱伝導性粒子の一次粒子を単にブレンドした樹脂材料からシートを形成した場合、このような粒子は一方向に配列しやすいため、得られるシートは、等方的な熱伝導性を発現しにくい。しかしながら、本開示の熱伝導性シート前駆体は、第1の圧力で崩壊し得る凝集体を採用しているため、崩壊後に、凝集体を構成する異方熱伝導性の一次粒子がランダム方向に配列しやすく、得られる熱伝導性シートは等方的な熱伝導性(単に「熱伝導性」という場合がある。)を発現しやすくなると考えている。
【0028】
熱伝導性の観点から、凝集体は、圧力適用後に、1mm当たり、約20%以上、約30%以上、又は約40%以上の崩壊率を有していることが好ましい。崩壊率の上限値については特に制限されないが、例えば、1mm当たり、約100%以下、約95%以下、又は約90%以下と規定することができる。ここで、「崩壊率」とは、シートから回収された凝集体の光学顕微鏡画像の粒子分布解析(イメージJソフトウェア(バージョン1.50i))から得られる面積平均径の変化率を意味する。
【0029】
本開示の凝集体は、第1の圧力で崩壊し得るような比較的低密度な凝集体である。凝集体の密度は、例えば、空隙率で規定することができる。かかる空隙率としては、約50%よりも大きいことが好ましく、約60%以上、又は約70%以上とすることができる。このような凝集体は、後述する第3の熱伝導性粒子が凝集体の内部に侵入しやすくなるため、熱伝導性をより向上させることができることに加え、所定の圧力でより崩壊及びランダム化しやすくなるため、熱伝導性シートに対し、等方的な熱伝導性を発現させやすい。空隙率の上限値としては特に制限はなく、例えば、約100%未満、約95%以下、約90%以下、約85%以下、又は約80%以下とすることができる。凝集体の空隙率は、例えば、凝集体の焼成温度を調整して制御することができる。焼成温度が高い場合には、凝集体は収縮して緻密化するため、凝集体の強度は高くなるが空隙率は低くなる。一方、焼成温度が低い場合には、凝集体の収縮が低減されるため、凝集体の強度を高めることなく空隙率を高めることができる。ここで、高温焼成した場合には、凝集体は、球状の形態を呈しやすい一方で、低温焼成した場合には、不完全な球状、即ち、非球状の形態を呈しやすい。凝集体の空隙率は、例えば、水銀圧入法により細孔体積を測定することによって求めることができる。
【0030】
凝集体の大きさは、最終的に得られる熱伝導性シートにおいて、熱伝導性等の所望の性能が得られるように適宜選択すればよく、特に制限はない。例えば、凝集体は、約20マイクロメートル以上、約40マイクロメートル以上、約60マイクロメートル以上、又は約80マイクロメートル以上の平均粒子径を有することができる。このような大きさの凝集体は、後述する第3の熱伝導性粒子が凝集体の内部に侵入しやすくなるため、熱伝導性をより向上させることができることに加え、崩壊後、凝集体を構成する異方熱伝導性の一次粒子がランダム化しやすくなるため、熱伝導性シートに対して等方的な熱伝導性を発現させやすい。平均粒子径の上限値としては特に制限はなく、例えば、熱伝導性シート前駆体からの耐脱落性等の観点から、約300マイクロメートル以下、約250マイクロメートル以下、又は約200マイクロメートル以下とすることができる。
【0031】
凝集体の大きさは、粒度分布データより算出されるD50(頻度の累積が50%になる粒子径)によって規定することもできる。凝集体のD50としては、約20マイクロメートル以上、約40マイクロメートル以上、又は約60マイクロメートル以上とすることができ、約300マイクロメートル以下、約250マイクロメートル以下、又は約200マイクロメートル以下とすることができる。
【0032】
凝集体の大きさは、粒度分布データより算出されるD90(頻度の累積が90%になる粒子径)によって規定することもできる。凝集体のD90としては、約30マイクロメートル以上、約50マイクロメートル以上、又は約70マイクロメートル以上とすることができ、約350マイクロメートル以下、約300マイクロメートル以下、又は約250マイクロメートル以下とすることができる。
【0033】
このような大きさの凝集体は、崩壊後にランダム化しやすく、熱伝導性シートに対して等方的な熱伝導性を発現させやすく、また、後述する第3の熱伝導性粒子を内部に侵入させやすい。
【0034】
ここで、凝集体の平均粒子径、D50及びD90は、例えば、レーザー回折・散乱法、又は光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)などの各種顕微鏡を用いて求めることができる。顕微鏡から平均粒子径を求める場合には、凝集体の面積円相当粒子径を平均粒子径とすることができる。例えば、電子顕微鏡で観察した凝集体の投影面積と同じ面積を有する円形状の粒子に換算した場合の粒子径を意図することができる。かかる面積円相当粒子径は、10個以上(例えば50個)の凝集体の平均値と規定することができる。なかでも、レーザー回折(湿式測定、LS 13 320、Beckman Coulter社製)による粒度分布測定から得られる体積平均径を用いることが好ましく、本開示では、凝集体の平均粒子径は、典型的には、かかる測定法による体積平均径を意図する。
【0035】
熱伝導性シート前駆体中における凝集体の配合量は、最終的に得られる熱伝導性シートにおいて、熱伝導性等の所望の性能が得られるように適宜調整すればよく、特に制限はない。例えば、第1の熱伝導性粒子の凝集体、後述する、第2の熱伝導性粒子、及び第3の熱伝導性粒子を合わせて「熱伝導性フィラー成分」と定義した場合、熱伝導性、機械的強度等を考慮し、熱伝導性シート前駆体中に、かかる熱伝導性フィラー成分を、約45体積%以上、約50体積%以上、又は約55体積%以上配合することができ、約80体積%以下、75体積%以下、又は70体積%以下配合することができる。本開示の熱伝導性シートは、特定の凝集体(第1の熱伝導性粒子)を用い、かかる凝集体の内部に第3の熱伝導性粒子が含まれ、かつ、凝集体の外部において第2の熱伝導性粒子が含まれているため、熱伝導性フィラー成分が、90体積%程度と高度に充填されていなくても、等方的な熱伝導性を十分に発現することができる。ここで、熱伝導性シート前駆体、崩壊前の凝集体等には空隙が含まれているが、体積%の計算には各材料の真密度を用いているため、上記の体積%の値にはかかる空隙は含まれない。
【0036】
熱伝導性フィラー成分中、凝集体は、約20体積%以上、約25体積%以上、又は約30体積%以上含有させることができ、約90体積%以下、約85体積%以下、又は約80体積%以下含有させることができる。かかる含有量で凝集体を含む熱伝導性シート前駆体は、最終的に得られる熱伝導性シートの等方熱伝導性等の性能をより向上させることができる。ここで、凝集体の含有量は、熱伝導性フィラー成分の全体量(体積%)に対する凝集体の量(体積%)から算出することができる。
【0037】
凝集体を構成する異方熱伝導性粒子(異方熱伝導性一次粒子)は、異方熱伝導性を呈する一次粒子であれば特に制限はない。例えば、針状、扁平状又は鱗片状の形状を有する無機一次粒子を、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。かかる無機一次粒子を構成する材料としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化珪素、及び窒化ホウ素から選択される少なくとも一種を挙げることができる。なかでも、凝集体崩壊後の良好な熱伝導性に加え、良好な電気絶縁性等も付与し得ることから、窒化ホウ素が好ましく、鱗片状の六方晶窒化ホウ素(h-BN)がより好ましい。窒化ホウ素は、熱伝導性及び電気絶縁性に優れるため、かかる粒子を採用することで、熱伝導性シートに対して両性能を向上させることができる。本開示において、凝集体を構成する異方熱伝導性粒子を、「第1の異方熱伝導性粒子」と称することもできる。
【0038】
凝集体を構成する異方熱伝導性粒子の大きさは、最終的に得られる熱伝導性シートにおいて熱伝導性等の所望の性能が得られるように適宜選択すればよく、特に制限はない。例えば、異方熱伝導性粒子の平均長径が、約1.5マイクロメートル以上、約2.0マイクロメートル以上、又は約2.5マイクロメートル以上とすることができ、約25マイクロメートル以下、約20マイクロメートル以下、又は約15マイクロメートル以下とすることができる。
【0039】
このような大きさの異方熱伝導性粒子は、凝集体の崩壊後にランダム化しやすく、熱伝導性シートに対して等方的な熱伝導性を発現させやすい。
【0040】
ここで、異方熱伝導性粒子の平均長径は、例えば、レーザー顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)などの各種顕微鏡を用いて求めることができる。なかでも、SEMが好ましい。SEMによる方法は、凝集体になった状態での一次粒子の平均長径も好適に測定することができる。具体的には、例えば、必要に応じて基材フィルムを用い、凝集体がバインダー樹脂に埋め込まれた状態のシートを作製した後、このシートの厚さ方向断面をSEMで観察し、得られたSEMの断面写真から10個以上(例えば50個)の異方熱伝導性粒子の長径を測定し、その平均値から異方熱伝導性粒子の平均長径を求めることができる。
【0041】
本開示の熱伝導性シート前駆体に含まれる第2の熱伝導性粒子は、上述した凝集体とは異なる等方熱伝導性粒子であり、崩壊前の凝集体の外部に含まれるものであれば特に制限はない。例えば、熱伝導性シート前駆体に適用される第1の圧力に対して崩壊しない等方熱伝導性材料を使用することができる。かかる材料を使用することで、本開示の方法で得られる熱伝導性シートは、等方的な熱伝導性をより発現しやすくなる。ここで、「上述した凝集体とは異なる」とは、材料、平均粒子径、空隙率、及び構造(例えば、非凝集体構造、第1の圧力で崩壊しない構造)からなる群から選択される少なくとも一種において、上述した凝集体と相違することを意味する。
【0042】
第2の熱伝導性粒子として、具体的には、例えば、略球状で無機系の一次粒子又は凝集体を、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。かかる無機系の一次粒子又は凝集体を構成する材料としては、例えば、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、炭化ケイ素、及び窒化ホウ素から選択される少なくとも一種を挙げることができる。このような材料を使用することで、最終的に得られる熱伝導性シートの等方熱伝導性等の性能をより向上させることができる。なかでも、熱伝導性、電気絶縁性、製造コスト等の観点から、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、又は窒化ホウ素が好ましく、窒化アルミニウム又は酸化アルミニウムがより好ましく、窒化アルミニウムが特に好ましい。
【0043】
ここで、本開示において略球状の形態とは、例えば、真円度(4π×面積/(周囲長の二乗))によって規定することができ、真円度が約0.7以上、約0.8以上、又は約0.9以上、約1.0以下の範囲のものを略球状と規定することができる。
【0044】
熱伝導性シート前駆体に適用される第1の圧力で崩壊しない略球状で無機系の凝集体は、例えば、上述した異方熱伝導性粒子が凝集した凝集体を高温焼成することによって適宜調製することができる。
【0045】
崩壊前の凝集体の外部に含まれる第2の熱伝導性粒子の量は、熱伝導性、電気絶縁性等の観点から、約80体積%以上、約85体積%以上、約90体積%以上、約95体積%以上、又は約98体積%以上とすることができ、約100体積%であること、すなわち、第2の熱伝導性粒子が、崩壊前の凝集体の内部に含まれていないことが好ましい。ここで、崩壊前の凝集体の外部に含まれる第2の熱伝導性粒子の量は、第2の熱伝導性粒子の全体量(体積%)に対する、崩壊前の凝集体の外部に含まれている第2の熱伝導性粒子の量(体積%)から算出することができる。
【0046】
第2の熱伝導性粒子は、崩壊前の凝集体内部への耐侵入性、熱伝導性、電気絶縁性等の観点から、約4.5マイクロメートル以上、約5.0マイクロメートル以上、約8.0マイクロメートル以上、約10マイクロメートル以上、約15マイクロメートル以上、約20マイクロメートル以上、約30マイクロメートル以上、又は約40マイクロメートル以上の平均粒子径を有することが好ましい。このような大きさの第2の熱伝導性粒子が含まれていると、第2の熱伝導性粒子とバインダー樹脂との界面割合が少なくなり、等方的な熱伝導性のパスが得やすくなるため、熱伝導性シートは等方的な熱伝導性をより一層発現しやすくなる。平均粒子径の上限値については特に制限されないが、例えば、熱伝導性シート前駆体からの耐脱落性等の観点から、約200マイクロメートル以下、約150マイクロメートル以下、又は約100マイクロメートル以下とすることができる。
【0047】
第2の熱伝導性粒子の大きさは、粒度分布データより算出されるD50によって規定することもできる。第2の熱伝導性粒子のD50としては、約4.5マイクロメートル以上、約5.0マイクロメートル以上、約8.0マイクロメートル以上、約10マイクロメートル以上、約15マイクロメートル以上、約20マイクロメートル以上、約30マイクロメートル以上、約40マイクロメートル以上、又は約50マイクロメートル以上とすることができ、約200マイクロメートル以下、約150マイクロメートル以下、又は約100マイクロメートル以下とすることができる。
【0048】
第2の熱伝導性粒子の大きさは、粒度分布データより算出されるD90によって規定することもできる。第2の熱伝導性粒子のD90としては、約9.0マイクロメートル以上、約10マイクロメートル以上、約16マイクロメートル以上、約20マイクロメートル以上、約30マイクロメートル以上、約40マイクロメートル以上、又は約50マイクロメートル以上とすることができ、約400マイクロメートル以下、約300マイクロメートル以下、約200マイクロメートル以下、又は約150マイクロメートル以下とすることができる。
【0049】
このような大きさの第2の熱伝導性粒子は、バインダー樹脂との界面割合が少なくなり、等方的な熱伝導性のパスが得やすくなるので、熱伝導性シートに対して等方的な熱伝導性を発現させやすく、また、電気絶縁性も向上させることができる。
【0050】
ここで、第2の熱伝導性粒子の平均粒子径、D50及びD90は、上述した凝集体と同様に、例えば、レーザー回折・散乱法、又は光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)などの各種顕微鏡を用いて求めることができる。顕微鏡から平均粒子径を求める場合には、第2の熱伝導性粒子の面積円相当粒子径を平均粒子径とすることができる。例えば、顕微鏡で観察した第2の熱伝導性粒子の投影面積と同じ面積を有する円形状の粒子に換算した場合の粒子径を意図することができる。かかる面積円相当粒子径は、10個以上(例えば50個)の等方熱伝導性材料の平均値と規定することができる。なかでも、レーザー回折(湿式測定、LS 13 320、Beckman Coulter社製)による粒度分布測定から得られる体積平均径を用いるのが好ましく、本開示では、第2の熱伝導性粒子の平均粒子径は、典型的には、かかる測定法による体積平均径を意図する。
【0051】
熱伝導性シート前駆体中における第2の熱伝導性粒子の配合量は、最終的に得られる熱伝導性シートにおいて、熱伝導性、電気絶縁性等の所望の性能が得られるように適宜調整すればよく、特に制限はない。例えば、熱伝導性フィラー成分中、第2の熱伝導性粒子は、約5体積%以上、約10体積%以上、約15体積%以上、約20体積%以上、約25体積%以上、約30体積%以上、約35体積%以上、又は約40体積%以上配合することができ、約75体積%以下、約70体積%以下、約65体積%以下、約60体積%以下、約55体積%以下、約50体積%以下、約45体積%以下、約40体積%以下、約35体積%以下、又は約30体積%以下配合することができる。かかる配合量で第2の熱伝導性粒子を含む熱伝導性シート前駆体は、最終的に得られる熱伝導性シートの等方熱伝導性等の性能をより向上させることができる。ここで、第2の熱伝導性粒子の配合量は、熱伝導性フィラー成分の全体量(体積%)に対する第2の熱伝導性粒子の量(体積%)から算出することができる。
【0052】
本開示の熱伝導性シート前駆体には、上述した第1の熱伝導性粒子及び第2の熱伝導性粒子のいずれとも異なる第3の熱伝導性粒子が、略球状粒子等の形態で複数含まれており、また、複数の第3の熱伝導性粒子のうちの少なくとも一部が、図1の平均粒子径約0.9マイクロメートルの窒化アルミニウム粒子のように、凝集体の空隙内に含まれている。ここで、「第1の熱伝導性粒子及び第2の熱伝導性粒子のいずれとも異なる」とは、第3の熱伝導性粒子が、材料、平均粒子径、空隙率、及び構造(例えば、非凝集体構造、第1の圧力で崩壊しない構造)からなる群から選択される少なくとも一種において、上述した第1の熱伝導性粒子及び第2の熱伝導性粒子と相違することを意味する。
【0053】
第3の熱伝導性粒子の大きさが小さくなると、一般的には、図2の比較例5及び9に示されるように、熱伝導性シートの熱伝導性は低下する傾向を示す。しかし、本発明者は、第3の熱伝導性粒子の大きさが凝集体の内部に侵入し得るような大きさまで小さくなると、図2の比較例1に示されるように、熱伝導性シートの熱伝導性が逆に向上することを見出した。
【0054】
その一方で、このような大きさの第3の熱伝導性粒子は、図3に示されるように、熱伝導性シートの電気絶縁性を低下させる原因となり得るが、本発明者は、この電気絶縁性に関する問題を、上述した第2の熱伝導性粒子を熱伝導性シート前駆体中に同時に配合することによって解決できることを見出した。
【0055】
第3の熱伝導性粒子としては、例えば、上述した第1の熱伝導性粒子(凝集体)及び第2の熱伝導性粒子以外の種々の熱伝導性粒子(例えば、異方熱伝導性粒子、等方熱伝導性粒子)を用いることができる。第3の熱伝導性粒子は単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。ここで、第3の熱伝導性粒子が異方熱伝導性粒子の場合には、かかる異方熱伝導性粒子を「第2の異方熱伝導性粒子」と称することができ、第3の熱伝導性粒子が等方熱伝導性粒子の場合には、かかる等方熱伝導性粒子を「第2の等方熱伝導性粒子」と称することができる。
【0056】
第3の熱伝導性粒子は、複数の第3の熱伝導性粒子のうちの一部が、凝集体の内部(凝集体を構成する異方熱伝導性粒子間における空隙領域内)に含まれていればよく、或いは、第3の熱伝導性粒子の全部が、凝集体の内部に含まれていてもよい。第3の熱伝導性粒子の一部が、凝集体の内部に含まれ、残りが凝集体の外部に含まれている場合には、外部の第3の熱伝導性粒子は、第1の圧力適用前に凝集体間に位置していた空隙等の低密度化部分を、第1の圧力適用後に少なくとも部分的に埋めて電子の侵入を低減し得るため、熱伝導性シートに対して電気絶縁性等の性能を向上させることができる。
【0057】
本開示の第3の熱伝導性粒子は、例えば、略球状、略針状、略扁平状、又は略鱗片状の形状を有する、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化珪素、窒化ホウ素等の無機一次粒子、及びかかる無機一次粒子が凝集した二次粒子の中から選択される少なくとも一種を使用することができる。なかでも、凝集体内部への侵入性、熱伝導性シートの熱伝導性等の観点から、略球状の無機一次粒子又はかかる無機一次粒子が凝集した二次粒子が好ましく、略球状の窒化アルミニウム及び/若しくは酸化アルミニウム、又はかかる窒化アルミニウム及び/若しくは酸化アルミニウムが凝集した二次粒子がより好ましく、略球状の窒化アルミニウム、又はかかる窒化アルミニウムが凝集した二次粒子が特に好ましい。
【0058】
本開示の第3の熱伝導性粒子は、凝集体内部への侵入性、熱伝導性シートの熱伝導性等の観点から、約3.0マイクロメートル以下、約2.0マイクロメートル以下、約1.0マイクロメートル以下、約1.0マイクロメートル未満、又は約0.9マイクロメートル以下の平均長径又は平均粒子径を有することが好ましい。第3の熱伝導性粒子の平均長径又は平均粒子径の下限値としては、例えば、約0.05マイクロメートル以上、約0.07マイクロメートル以上、又は約0.1マイクロメートル以上とすることができる。
【0059】
第3の熱伝導性粒子の大きさは、粒度分布データより算出されるD50によって規定することもできる。第3の熱伝導性粒子のD50としては、約3.0マイクロメートル以下、約2.0マイクロメートル以下、約1.0マイクロメートル以下、約1.0マイクロメートル未満、又は約0.9マイクロメートル以下とすることができ、約0.05マイクロメートル以上、約0.07マイクロメートル以上、又は約0.1マイクロメートル以上とすることができる。
【0060】
第3の熱伝導性粒子の大きさは、粒度分布データより算出されるD90によって規定することもできる。第3の熱伝導性粒子のD90としては、約6.0マイクロメートル以下、約4.0マイクロメートル以下、約2.5マイクロメートル以下、約2.5マイクロメートル未満、約2.4マイクロメートル以下、又は約2.0マイクロメートル以下とすることができ、約0.1マイクロメートル以上、約0.2マイクロメートル以上、又は約0.3マイクロメートル以上とすることができる。
【0061】
第3の熱伝導性粒子の平均長径は、例えば、レーザー顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)などの各種顕微鏡を用いて求めることができる。なかでも、SEMが好ましい。SEMによる方法は、シートになった状態での一次粒子の平均長径も好適に測定することができる。具体的には、例えば、必要に応じて基材フィルムを用い、第3の熱伝導性粒子がバインダー樹脂に埋め込まれた状態のシートを作製した後、このシートの厚さ方向断面をSEMで観察し、得られたSEMの断面写真から10個以上(例えば50個)の第3の熱伝導性粒子の長径を測定し、その平均値から第3の熱伝導性粒子の平均長径を求めることができる。第3の熱伝導性粒子の、平均粒子径、D50及びD90は、例えば、レーザー回折・散乱法を用いて求めることができる。本開示では、典型的には、第3の熱伝導性粒子が略球状粒子の場合には、レーザー回折・散乱法による平均粒子径等を採用することが好ましく、それ以外の形状の粒子の場合には、走査型電子顕微鏡(SEM)による平均長径を採用することが好ましい。
【0062】
熱伝導性シート前駆体中における第3の熱伝導性粒子の配合量は、最終的に得られる熱伝導性シートにおいて、熱伝導性、電気絶縁性等の所望の性能が得られるように適宜調整すればよく、特に制限はない。例えば、熱伝導性フィラー成分中、第3の熱伝導性粒子は、約5体積%以上、約10体積%以上、約15体積%以上、約20体積%以上、約25体積%以上、約30体積%以上、約35体積%以上、又は約40体積%以上配合することができ、約75体積%以下、約70体積%以下、約65体積%以下、約60体積%以下、約55体積%以下、約50体積%以下、約45体積%以下、約40体積%以下、約35体積%以下、又は約30体積%以下配合することができる。かかる配合量で第3の熱伝導性粒子を含む熱伝導性シート前駆体は、最終的に得られる熱伝導性シートの等方熱伝導性等の性能をより向上させることができる。ここで、第3の熱伝導性粒子の配合量は、熱伝導性フィラー成分の全体量(体積%)に対する第3の熱伝導性粒子の量(体積%)から算出することができる。
【0063】
本開示の熱伝導性シート前駆体に含まれるバインダー樹脂としては、最終的に得られる熱伝導性シートの使用用途などに応じて適宜選択することができ、特に制限はない。バインダー樹脂として、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及びゴム系樹脂を挙げることができる。バインダー樹脂は単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂(例えばポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリエステル樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることができる。
【0065】
熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、及びポリイミド樹脂を用いることができる。なかでも、熱伝導性シートの成形性、他部材との接着性、電気絶縁性等の観点から、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、脂環脂肪族エポキシ樹脂、及びグリシジル-アミノフェノール系エポキシ樹脂が挙げられる。
【0066】
ゴム系樹脂としては、例えば、シリコーンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ニトリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、水添NBR、アクリルゴム、ウレタンゴム、フッ素系ゴム、及び天然ゴムを用いることができる。
【0067】
熱伝導性シート前駆体中におけるバインダー樹脂の配合量は、最終的に得られる熱伝導性シートの用途に応じた所望の性能(熱伝導性、電気絶縁性、接着性等)が得られるように適宜調整すればよく、特に制限はない。例えば、熱伝導性シート前駆体中、バインダー樹脂を、約20体積%以上、約25体積%以上、又は約30体積%以上配合することができ、約80体積%以下、約75体積%以下、約70体積%以下、約65体積%以下、約60体積%以下、約55体積%以下、約50体積%以下、又は約45体積%以下配合することができる。かかる配合量でバインダー樹脂を含む熱伝導性シート前駆体は、最終的に得られる熱伝導性シートの、熱伝導性、電気絶縁性、機械的強度等の性能をより向上させることができる。ここで、熱伝導性シート前駆体、崩壊前の凝集体等には空隙が含まれているが、体積%の計算には各材料の真密度を用いているため、上記の体積%の値にはかかる空隙は含まれない。
【0068】
本開示の熱伝導性シート前駆体は、本開示の効果に悪影響を及ぼさない範囲において、上述した第1の熱伝導性粒子(凝集体)、第2の熱伝導性粒子及び第3の熱伝導性粒子以外に、任意成分として、例えば、難燃剤、顔料、染料、充填材(例えばフュームドシリカ)、補強材、レベリング剤、カップリング剤、消泡剤、分散剤、熱安定剤、光安定剤、架橋剤、熱硬化剤、光硬化剤、硬化促進剤、粘着性付与剤、可塑剤、反応性希釈剤、及び溶剤をさらに含んでもよい。任意成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。ここで、任意成分における粉体(例えば、顔料、充填剤、補強材)の熱伝導率は、一般的には、約10W/m・k以下であり、かかる粉体は熱伝導性を有さないが、例えば、熱伝導率が約15W/m・k以上、又は約20W/m・k以上であり、かつ、凝集体の内部に含まれている粉体は、上述した第3の熱伝導性粒子とみなすことができる。
【0069】
本開示の熱伝導性シート前駆体の厚さは、最終的に得られる熱伝導性シートの使用用途等に応じて適宜調整すればよく、特に制限はない。かかる厚さとしては、例えば、上述した凝集体の短軸の長さ(最も小さい側の長さ)の最大値よりも大きい厚さを有することができる。このような厚さであれば、凝集体の脱落等の不具合を低減することができる。具体的には、かかる厚さとしては、例えば、約80マイクロメートル以上、約100マイクロメートル以上、約150マイクロメートル以上、約170マイクロメートル以上、約200マイクロメートル以上、又は約250マイクロメートル以上とすることができ、約650マイクロメートル以下、約600マイクロメートル以下、約500マイクロメートル以下、約450マイクロメートル以下、約400マイクロメートル以下、約350マイクロメートル以下、又は約300マイクロメートル以下とすることができる。熱伝導性シート前駆体の厚さは、高精度デジマチックマイクロメータ(MDH-25MB、株式会社ミツトヨ製)を使用し、熱伝導性シート前駆体の任意の部分の厚さを少なくとも5回測定して算出した平均値として定義することができる。
【0070】
ここで、凝集体の短軸の長さは、例えば、凝集体を光学顕微鏡によって撮像し、撮像された画像データを取得し、次いで、かかる画像データを、イメージJソフトウェア(バージョン1.50i)の粒子分析機能を使用し、楕円近似から得られる短軸直径として求めることができる。凝集体の短軸の長さの最大値とは、凝集体100個に対し、短軸の長さを各々求め、その中の最大値として規定することができる。
【0071】
本開示の熱伝導性シート前駆体から得られる熱伝導性シートは、等方的な熱伝導性及び電気絶縁性に優れている。
【0072】
本開示の熱伝導性シート前駆体から得られる熱伝導性シートは、熱伝導性フィラー成分の配合量などによって変動するが、例えば、約4.5W/m・K以上、約5.0W/m・K以上、約5.5W/m・K以上、約6.0W/m・K以上、約6.5W/m・K以上、約7.0W/m・K以上、約7.5W/m・K以上、又は約8.0W/m・K以上の熱伝導率を有することができる。熱伝導率の上限値については特に制限されないが、例えば、約20.0W/m・K以下、約18.0W/m・K以下、又は約15.0W/m・K以下と規定することができる。かかる熱伝導率を有する熱伝導性シートは、例えば、電気自動車(EV)のパワーモジュールなどに対しても十分に使用することができる。ここで、熱伝導率の測定は、例えば、後述する熱伝導率の評価試験によって求めることができる。かかる試験は、熱伝導性シートの底面から上面への熱伝導性について調べているため、得られる熱伝導率は、等方熱伝導性に関する指標となる。
【0073】
本開示の熱伝導性シート前駆体から得られる熱伝導性シートの電気絶縁性は、例えば、絶縁破壊電圧で評価することができる。本開示の熱伝導性シートは、例えば、150マイクロメートル厚の熱伝導性シートに調製したときに、約6.5kV以上、約7.0kV以上、約7.5kV以上、又は約8.0kV以上の絶縁破壊電圧を呈することができ、例えば、パワーモジュールの分野においては、約7.0kV以上の絶縁破壊電圧を呈することが好ましい。かかる絶縁破壊電圧の上限値については特に制限はなく、例えば、約30kV以下、約25kV以下、約20kV以下、又は約15kV以下とすることができる。ここで、熱伝導性シートの絶縁破壊電圧の測定は、例えば、後述する絶縁破壊電圧の評価試験によって求めることができる。
【0074】
本開示の熱伝導性シートの厚さは、最終的に得られる熱伝導性シートの使用用途等に応じて適宜調整すればよく、特に制限はない。例えば、約80マイクロメートル以上、約100マイクロメートル以上、又は約150マイクロメートル以上にすることができ、約400マイクロメートル以下、約350マイクロメートル以下、又は約300マイクロメートル以下にすることができる。熱伝導性シートの厚さは、高精度デジマチックマイクロメータ(MDH-25MB、株式会社ミツトヨ製)を使用し、熱伝導性シートの任意の部分の厚さを少なくとも5回測定して算出した平均値として定義することができる。
【0075】
本開示の熱伝導性シートは、例えば、以下の方法によって製造することができる。この方法で使用する各種の材料は、上述した材料を同様に使用することができる。
【0076】
所定の容器中に、バインダー樹脂、溶剤、及び任意に硬化剤等を配合し、高速ミキサー等を使用して、約1,000~約3,000rpm、約10秒~約5分間、撹拌混合し、混合物を調製する。次いで、この混合物に対して、第1の熱伝導性粒子(凝集体)、第2の熱伝導性粒子及び第3の熱伝導性粒子、任意に溶剤をさらに配合し、高速ミキサー等を使用して約1,000~約3,000rpm、約10秒~約5分間さらに撹拌混合し、前駆体組成物を調製する。この前駆体組成物は、少なくとも、上述した、複数の第1の熱伝導性粒子であって、この第1の熱伝導性粒子が、異方熱伝導性粒子の凝集体であり、かつ、凝集体が、凝集体を構成する異方熱伝導性粒子間において空隙領域を有する、複数の第1の熱伝導性粒子と、複数の第2の熱伝導性粒子であって、この第2の熱伝導性粒子が、等方熱伝導性粒子であり、かつ、凝集体の外部に含まれる、複数の第2の熱伝導性粒子と、複数の第3の熱伝導性粒子であって、この第3の熱伝導性粒子が、第1の熱伝導性粒子及び第2の熱伝導性粒子のいずれとも異なり、かつ、少なくとも一部が凝集体の空隙領域内に含まれる、複数の第3の熱伝導性粒子とが、バインダー樹脂内に分散している。なお、ここでいう「分散」には、第3の熱伝導性粒子が凝集体の空隙領域内に含まれた状態で、かかる凝集体がバインダー樹脂内に分散している状態をも含む。次いで、この前駆体組成物を剥離ライナー上に、バーコーター、ナイフコーター等の公知の塗工手段を用いて適用し、必要に応じて乾燥させて熱伝導性シート前駆体を得ることができる。このような混合工程及び塗工工程を経ることによって、本開示の第3の熱伝導性粒子を凝集体の内部に侵入させることができる。
【0077】
乾燥は、一段階の乾燥でもよいが、二段階以上の乾燥であってもよく、例えば、約50~約120℃で約1~約10分間の乾燥を実施した後に、約50~約120℃で約1~約10分間の乾燥を実施してもよい。このような多段階の乾燥を経由すると、空隙を有する熱伝導性シート前駆体が得られやすい。
【0078】
次いで、得られた熱伝導性シート前駆体に対して、約50~約200℃で約1~約60分間、所定の圧力(第1の圧力)を適用して、熱伝導性シート前駆体の硬化物を含む熱伝導性シートを製造することができる。かかる圧力は、凝集体の崩壊性を考慮して適宜設定することができ、約0.75MPa以上、約1.0MPa以上、又は約3.0MPa以上とすることができ、約12MPa以下、約10MPa以下、又は約8.0MPa以下とすることができる。ここで「熱伝導性シート前駆体の硬化物」とは、熱伝導性シート前駆体中の凝集体の少なくとも一部が、第1の圧力によって崩壊した状態で含まれている、熱伝導性シート前駆体の硬化物を意図する。
【0079】
ここで、熱硬化剤を使用する場合における硬化は、上述した乾燥工程の熱を利用して実施してもよく、或いは、他の工程(例えば、圧力を適用する工程、追加の加熱工程)において別途実施してもよい。
【0080】
本開示の熱伝導性シートは、例えば、電気自動車(EV)等の乗物、家電製品、及びコンピューター機器で使用される、例えば、ICチップ等の発熱性部品と、ヒートシンク又はヒートパイプ等の放熱部品との間の間隙を充填するように配置して、発熱性部品から発生した熱を放熱部品に効率よく熱伝達し得る放熱用物品として好適に用いることができ、なかでも、パワーモジュールに使用される放熱用物品として好適に用いることができる。
【0081】
本開示の熱伝導性シートは、バインダー樹脂を適宜選択することによって、接着性も付与することができる。例えば、バインダー樹脂としてエポキシ樹脂を採用した場合には、加熱接着型の熱伝導性接着シートとして使用することもできる。
【実施例0082】
以下の実施例において、本開示の具体的な実施形態を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。部及びパーセントは全て、特に明記しない限り質量による。数値は本質的に測定原理及び測定装置に起因する誤差を含む。数値は通常の丸め処理が行われた有効数字で示される。
【0083】
本実施例で使用した商品などを以下の表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
試験例1
試験例1では、異方熱伝導性の窒化ホウ素粒子が凝集した窒化ホウ素凝集体(第1の熱伝導性粒子)と、第2の熱伝導性粒子又は第3の熱伝導性粒子のいずれかを含む熱伝導性シートの熱伝導性及び電気絶縁性について検討した。
【0086】
熱伝導性シート前駆体の調製
EOCN104S、HP-7250、及びPKHHを20mlのガラスバイアル瓶に入れ、高速ミキサーを用いて2,000rpmで2分間混合した。次いで、DISPERBYK-2013及びV-09GBを加えて混合した後、Amicure(商標)CG1400及びTS―720を加えて混合して混合液Aを調製した。混合液Aに、第2の熱伝導性粒子又は第3の熱伝導性粒子を加え、2分間、又は固形物が全て分散するまで混合した。次いで、Rheobyk-430を加えて混合した後、窒化ホウ素凝集体と溶媒を加え、固形物が分散するまで混合し、熱伝導性シート前駆体を作製するためのコーティング液(前駆体組成物)を調製した。ここで、各成分の配合量に関しては、表2に示す配合量を採用した。
【0087】
コーティング液をPET剥離ライナー(東レ・デュポン社製、A55、厚さ38マイクロメートル)上に適用した後、ナイフコーター(ギャップ280マイクロメートル)でコーティングし、110℃のオーブンで2分間乾燥して接着性フィルムを得た。この接着性フィルムを80℃、1m/分の速度で2層ラミネートし、接着性能を有する熱伝導性シート前駆体を得た。
【0088】
熱伝導性シート前駆体を用いて調製した熱伝導性シートの特性を、以下の方法を用いて評価した。その結果を表2及び図2~3に示す。ここで、図3は、比較例1~3の結果に基づいて作成したグラフである。
【0089】
熱伝導率の評価試験
Netzsch社製、Hyperflash(商標)LFA 467におけるフラッシュ分析方法を使用して熱拡散率の測定を次のようにして行った。2枚の剥離ライナーの間に3~4枚の熱伝導性シート前駆体を適用し、それをホットプレス機(ヒータープレートプレス機N5042-00、エヌピーエーシステム株式会社製)内に配置し、180℃で30分間、所定の圧力(3~7MPa)を付加して前駆体を硬化させ、厚さ約400~500マイクロメートルの熱伝導性シートのサンプルAを作製した。次いで、このサンプルAをナイフカッターで10mm×10mmの大きさに切断してサンプルBを作製し、このサンプルBをサンプルホルダー内に取り付けた。測定前に、サンプルBの両面(上面及び底面)を、グラファイト(GRAPHIT 33、Kontakt Chemie社製)の薄層でコートしてサンプルCを作製した。測定では、底面への光のパルス(キセノンフラッシュランプ、230V、300μsの継続時間)の照射後に、InSb IR検出器によってサンプルCの上面の温度を測定した。次いで、コワン法を用いてサーモグラムのフィットから熱拡散率を算出した。測定は、23℃において、サンプルCに対して3回行った。各コーティング剤の処方に関し、4つのサンプルを調製して測定した。各サンプルの熱拡散率、密度及び比熱容量に基づき、Netzsch社製のProteus(商標)ソフトウェアで熱伝導率を算出した。
【0090】
絶縁破壊電圧の評価試験
厚さを表中に記載されている厚さに変更したこと以外は上記と同様の手順で、熱伝導性シートのサンプルAを調製した。アサオ電子社製のパンクテスター(TP-5120A)を用い、大気雰囲気下、サンプルAに対して0.5kV/sの速度で絶縁破壊電圧の測定を行った。測定は、サンプルAの異なるスポットで3回実施され、その平均値を絶縁破壊電圧の値とした。
【0091】
接着性の評価試験
接着性の指針となる剥離強度の測定は、テンシロン試験機(RTC-1250A、株式会社オリエンテック製)を用いて行った。上記と同様の手順で調製した接着性能を有する熱伝導性シート前駆体を50mm×10mmの大きさにカットし、表面改質されていない2枚の銅箔の間に挟み、ホットプレス機(ヒータープレートプレス機N5042-00、エヌピーエーシステム株式会社製)内において、180℃で30分間、所定の圧力(3~7MPa)を付加して前駆体を硬化させた。室温に戻した後、20mm/分の速度での剥離強度(T型剥離強度)を測定した。
【0092】
【表2】
【0093】
試験例2
試験例2では、異方熱伝導性の窒化ホウ素粒子が凝集した窒化ホウ素凝集体(第1の熱伝導性粒子)とともに、第2の熱伝導性粒子と第3の熱伝導性粒子とを同時に配合したときの熱伝導性シートの熱伝導性及び電気絶縁性について検討した。
【0094】
熱伝導性シート前駆体の調製
表3に示す配合量に変更したこと以外は、試験例1と同様にして、試験例2の熱伝導性シート前駆体を各々調製した。ここで、第2の熱伝導性粒子と第3の熱伝導性粒子とを併用する場合には、これらを同時に混合液Aに加えた。
【0095】
熱伝導性シート前駆体を用いて調製した熱伝導性シートの特性を、上述の方法を用いて評価した。その結果を表3及び図4に示す。ここで、図4は、比較例2、実施例1、実施例2及び比較例13の結果に基づいて作成したグラフである。
【0096】
なお、図1のSEM写真は次のようにして撮影した。株式会社日立ハイテクノロジーズ製のIM4000Plusイオンミリング装置を用いて、熱伝導性シートの断面サンプルを作製し、かかる断面サンプルに対してスパッタリング装置により2nmのPt/Pd層を被覆した。次いで、株式会社日立ハイテクノロジーズ製のS3400Nを使用してサンプルの断面を観察し、SEM写真を撮影した。
【表3】
【0097】
本発明の基本的な原理から逸脱することなく、上記の実施形態及び実施例が様々に変更可能であることは当業者に明らかである。また、本発明の様々な改良及び変更が本発明の趣旨及び範囲から逸脱せずに実施できることは当業者には明らかである。
図1
図2
図3
図4