(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023066915
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】合成皮革
(51)【国際特許分類】
D06N 3/06 20060101AFI20230509BHJP
【FI】
D06N3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021177777
(22)【出願日】2021-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】萩原 聖貴
(72)【発明者】
【氏名】新井 宏明
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA03
4F055AA21
4F055BA13
4F055CA05
4F055DA08
4F055EA01
4F055EA04
4F055EA21
4F055EA23
4F055EA30
4F055FA08
4F055FA39
4F055GA11
4F055GA32
(57)【要約】
【課題】
ポリウレタン系樹脂よりも安価であるポリ塩化ビニル系樹脂を用い、かつ耐屈曲性に優れた合成皮革を提供する。
【解決手段】
合成皮革(100)は、表皮層(10)と、生地(20)と、表皮層(10)と生地(20)との間に設けられた接着層(30)とを備え、表皮層(10)および接着層(30)は塩化ビニル系樹脂を含み、接着層(30)は、接着層(30)に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤を80質量部以上110質量部以下の範囲で含み、生地(20)に対する接着層(30)を構成する接着樹脂組成物の浸み込み厚みt1が100μm以上300μm以下となるよう構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮層と、生地と、前記表皮層と前記生地との間に設けられた接着層とを備える合成皮革であって、
前記表皮層および前記接着層は塩化ビニル系樹脂を含み、
前記接着層は、前記接着層に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤を80質量部以上110質量部以下の範囲で含み、
前記生地に対する前記接着層を構成する接着樹脂組成物の浸み込み厚みが100μm以上300μm以下であることを特徴とする合成皮革。
【請求項2】
前記合成皮革は、前記合成皮革全体において含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤を70質量部以上100質量部以下の範囲で含む請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
前記表皮層は、前記表皮層に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤を65質量部以上90質量部以下の範囲で含む請求項1または2に記載の合成皮革。
【請求項4】
前記表皮層と前記接着層との間に発泡層を備え、
前記発泡層は、塩化ビニル系樹脂を含み、
前記表皮層に含まれる塩化ビニル系樹脂の重合度は、前記発泡層に含まれる塩化ビニル系樹脂の重合度よりも高い請求項1から3のいずれか一項に記載の合成皮革。
【請求項5】
車両用シートの座部側面部を構成するためのシート状物である請求項1から4のいずれか一項に記載の合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂を含む合成皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
合成皮革は、特許文献1に示すように、生地と、その生地面上に積層された表皮層を備えて構成されている。上記表皮層は、ベース樹脂より構成される樹脂層である。上記ベース樹脂としては、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂等が挙げられる。ポリウレタン系樹脂を用いた合成皮革は耐屈曲性に優れるという利点を有しているが、ポリ塩化ビニル系樹脂と比べて価格が高い。一方、塩化ビニル系樹脂は、安価であり、加工容易性等の利点を有している。そのため、塩化ビニル系樹脂をベース樹脂とした表皮層を備える合成皮革は、様々な産業分野において汎用されている。
【0003】
たとえば、塩化ビニル系樹脂をベース樹脂とした表皮層を備える合成皮革の用途の一例として、車両内装材が挙げられる。特に自動車等の車両用座席シートとして、上記合成皮革が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図4に記載のとおり、車両用座席シート200は、座部210、背もたれ部211、頭部212、座部側面部213、背もたれ部側面部214、頭部側面部215等の多数の部分から構成される。このような複数の部分のうち、座部側面部213(特に乗降側の座部側面部213)は、亀裂が生じ易いという問題があった。
【0006】
これは、座部210に着座した人によって座部側面部213が屈曲し、大きな負荷がかかるためである。特に、SUV(Sport Utility Vehicle)等の車高の高い車では、降車する際に座部210の中央から座部側面部213寄りに体重を移動させるとともに車両用座席シート200から滑り落ちるように動作することで、降車時における座部側面部213の負荷が顕著であり、使用回数が多くなると座部側面部213を構成する合成皮革に亀裂が発生し易い。上述する亀裂を防止するためには、耐屈曲性に優れたポリウレタン系樹脂を用いた合成皮革によって車両用座席シート200を構成することが好ましい。しかし、この場合、製造コストが高くなってしまう。
【0007】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、ポリウレタン系樹脂よりも安価であるポリ塩化ビニル系樹脂を用い、かつ耐屈曲性に優れた合成皮革の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の合成皮革は、表皮層と、生地と、上記表皮層と上記生地との間に設けられた接着層とを備える合成皮革であって、上記表皮層および上記接着層は塩化ビニル系樹脂を含み、上記接着層は、上記接着層に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤を80質量部以上110質量部以下の範囲で含み、上記生地に対する上記接着層を構成する接着樹脂組成物の浸み込み厚みが100μm以上300μm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記構成を有する本発明の合成皮革は、ポリウレタン系樹脂を用いて構成された合成皮革よりも安価に製造することが可能であって、かつ耐屈曲性にも優れる。そのため本発明の合成皮革は、車両用座席シートの座部側面部等の繰り返し負荷のかかり易い部分を構成する部材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第一実施態様である合成皮革の切断面を示す概念図である。
【
図2】第一実施形態の変形例である合成皮革の切断面を示す概念図である。
【
図3】本発明の一例である合成皮革の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第一実施形態]
以下に、本発明の第一実施形態の合成皮革100について
図1~
図4を用いて説明する。
図1は、本発明の第一実施態様である合成皮革100を厚み方向に切断してなる切断面を示す概念図である。
図2は、第一実施形態の合成皮革100の変形例である合成皮革120を厚み方向に切断してなる切断面を示す概念図である。
図3は、本発明の一例である合成皮革140を厚み方向に切断してなる切断面をマイクロスコープ(製品名:VHX-5000、株式会社キーエンス製)を用い倍率100倍で撮影した写真である。
図4は、車両用座席シート200の斜視図である。
図1、
図2は、生地として織布を用いた実施態様であり、
図3は生地としてメリヤス編みの編布を用いた実施態様を示す。
尚、本発明の説明に関し、特段の断りなく上下方向という場合には、表皮層を上側にして水平面に合成皮革を設置した際の上下方向を指す。
【0012】
図1に示すとおり、本発明の合成皮革100は、表皮層10と、生地20と、表皮層10と生地20との間に設けられた接着層30とを備える。表皮層10および接着層30は塩化ビニル系樹脂を含む層であり、当該塩化ビニル系樹脂を含む接着樹脂組成物を用いて構成されている。このように塩化ビニル系樹脂を含んで構成される合成皮革100は、接着層30が、接着層30に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤を80質量部以上110質量部以下の範囲で含むとともに、生地20に対する接着樹脂組成物の浸み込み厚みt1が100μm以上となるよう構成されている。本実施形態の合成皮革100は、接着層30と表皮層10との間に、さらに発泡層40が設けられている。ただし、本発明の合成皮革は本実施形態に限定されず、発泡層40を有しない態様を包含する。
【0013】
塩化ビニル系樹脂を含む合成皮革100は、接着層30に所定範囲の可塑剤が含有されている上、接着層30を構成する接着樹脂組成物が生地20に対し十分に浸み込むよう構成されていることで、優れた耐屈曲性を示す。したがって合成皮革100は、製造コストを抑えつつ、優れた耐屈曲性が求められる用途にも十分に対応することができる。
以下にさらに詳細に合成皮革100について説明する。
【0014】
[生地]
生地20は、表皮層10を支持するための層である。生地20は、一般的な合成皮革または人工皮革の生地(基布)として利用されているものであれば何れも使用可能である。
生地20としては、編布、織布、不織布等が挙げられる。編布、織布、不織布等は、たとえば、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ナイロン等の合成繊維、綿、麻等の天然繊維、およびレーヨン、アセテート等の再生繊維から選択される単独の繊維あるいはこれらの混紡繊維より構成することができる。中でも、接着層30を構成する接着樹脂組成物を十分に浸み込ませやすいという観点からは、編布または織布が好ましい。本実施形態(合成皮革100、120)を説明する
図1、
図2では、織布を例に示す。
また、
図3に示す合成皮革140は、生地20としてメリヤス編の編布を用いて作製された。合成皮革140における生地20は、当該編布の表目を接着層30に対向させて配置されている。
図1~
図3から理解されるとおり、生地20を構成可能な編布および織布は、複数の糸で構成され、表面に凹凸が形成されるため、接着層側に突出した糸に接着樹脂組成物を浸み込ませ易い。
たとえば織布である生地20は、
図1、
図2に示すとおり経糸21および緯糸22とからなり、一方、編布からなる生地20は、編糸を用いて適宜の手法で編むことで構成される。一般的に、経糸、緯糸、編糸といった糸は、多数の繊維52からなる繊維束である。繊維52は、たとえば
図3から観察される。一般的な編布または織布を生地20として用いた本発明の合成皮革は、たとえば
図3のように、切断面をマイクロスコープで観察することで、繊維52を確認することができる。以後の説明において、生地20の繊維52などの説明では、適宜
図3も併せて参照される。尚、
図3はマイクロスコープを用い倍率100倍にて切断面を観察したが、繊維52が確認できる範囲において観察時の倍率は調整してよい。
【0015】
合成皮革100を構成するために用いられる生地20の厚みは、特に限定されないが、良好な剥離強度および十分な耐屈曲性を発揮させやすいという観点からは200μm以上であることが好ましく、250μm以上であることがより好ましく、300μm以上であることがさらに好ましい。また、合成皮革100の全体重量を抑え軽量化を図るという観点からは、生地20の厚みは、1000μm以下であることが好ましく、800μm以下であることがより好ましく、600μm以下であることがさらに好ましい。
【0016】
[接着層]
接着層30は、生地20と表皮層10との間に設けられ、直接または間接に生地20と表皮層10とを接着させるための層である。本実施形態では、接着層30は、生地20と発泡層40との間に設けられており、生地20と表皮層10とを間接に接着させている。
【0017】
塩化ビニル系樹脂:
接着層30は、塩化ビニル系樹脂を含んで構成されている。
上記塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルに由来する構造単位を含む樹脂を指す。具体例としては、塩化ビニルの単独重合体、塩化ビニル系モノマーと、これに共重合可能な他のモノマーとを用いてなる共重合体、またはこれらの樹脂のブレンド等が使用される。
上記塩化ビニル系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、たとえば、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、マレイン酸、フマル酸アクリロニトリル等が挙げられる。接着層30に含まれる塩化ビニル系樹脂は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0018】
接着層30における塩化ビニル系樹脂の含有割合は特に限定されないが、合成皮革100の製造コストを抑制するという観点からは、接着層30を構成する樹脂100質量%において、塩化ビニル系樹脂の含有割合が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、実質的に100質量%であることがさらに好ましい。
【0019】
接着層30は、上述するとおり塩化ビニル系樹脂に加え、他の樹脂を含んでいてもよい。他の樹脂としては、たとえば、ポリウレタン系樹脂またはポリオレフィン系樹脂等の、接着層の構成材として使用可能な樹脂から1種以上を選択することができる。
【0020】
一般的に接着層30は、接着層形成用塗工液(接着樹脂組成物)が、接着層30を介して対向する層のいずれか一方の層に塗布され、次いで他方の層が積層されることで形成される。このときの接着層形成用塗工液の塗工厚みは特に限定されないが、生地20に対し十分に接着樹脂組成物を浸み込ませ易いという観点からは、80μm以上、300μm以下であることが好ましい。
【0021】
可塑剤:
接着層30は、上述する塩化ビニル系樹脂とともに可塑剤を含む。接着層30は、塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含む接着樹脂組成物を用いて構成される。
接着層30において、接着層30に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤が80質量部以上110質量部以下の範囲で含まれる。このように接着層30に含有される塩化ビニル系樹脂に応じて十分な量の可塑剤を含有させることで、合成皮革100の耐屈曲性を改善することができる。かかる観点からは、接着層30に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤が90質量部以上含まれることが好ましく、95質量部以上含まれることがより好ましい。
【0022】
また本発明の所期の課題をより十分に満足させるという観点からは、合成皮革100は、接着層30を構成する樹脂100質量%において塩化ビニル系樹脂を90質量%以上の範囲で含むとともに、接着層30に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し可塑剤を80質量部以上110質量部以下の範囲で含むことが好ましい。
【0023】
ところで、可塑剤を含む合成皮革は、時間の経過により表面に可塑剤が浮き出てくる現象(所謂ブリードアウト)が発生する場合がある。そのため、合成皮革に含有される可塑剤の添加量は適度に抑えられることが一般的であった。これに対し、本発明では、表皮層10と生地20との間に設けられる中間層である接着層30において、塩化ビニル系樹脂とともに十分な量の可塑剤を含有させることで、ブリードアウトの発生を抑制しつつ合成皮革100の耐屈曲性を改善することを可能とした。また、このように十分な量の可塑剤を含む接着樹脂組成物を生地20に対し十分に浸み込ませることからも、合成皮革100は、剥離強度が良好であり、かつ表皮層10と生地20との境界領域が柔軟であって耐屈曲性に優れる。
【0024】
接着層30に含まれる可塑剤は、合成皮革の製造において用いられる可塑剤から適宜選択して使用することができる。可塑剤は、1種または2種以上を混合して用いられる。
可塑剤の具体例としては、たとえばエステル系可塑剤が挙げられる。
エステル系可塑剤とは、分子内にエステル結合を有する可塑剤である。エステル系可塑剤としては、たとえば、フタル酸系エステル可塑剤、アジピン酸系エステル可塑剤、セバシン酸系エステル可塑剤、マレイン酸系エステル可塑剤等が挙げられるがこれに限定されない。
エステル系可塑剤以外の可塑剤としては、トリメリット酸系可塑剤、リン酸系可塑剤等を挙げることができる。汎用性という観点からは、フタル酸系エステル可塑剤が好ましい。
【0025】
浸み込み厚み:
図1に示すとおり合成皮革100は、接着層30を構成する接着樹脂組成物が生地20に十分に浸み込んでいる。具体的には、浸み込み厚みt1は100μm以上300μm以下となるよう調整される。より優れた耐屈曲性を発揮させるという観点からは、浸み込み厚みt1は、130μm以上であることが好ましく、150μm以上であることがより好ましく、180μm以上であることがさらに好ましい。耐屈曲性の改善という観点からは浸み込み厚みt1の上限は特に限定されないが、良好な剥離強度を示す合成皮革100が得られやすいという観点からは300μm以下であり、280μm以下であることが好ましい。
【0026】
本発明において浸み込み厚みt1とは、生地20に対して接着層30を構成する接着樹脂組成物が含浸してなる浸み込み領域50の上下方向の厚み(最大厚み部分の寸法)を指す。浸み込み領域50とは、接着樹脂組成物が生地20を構成する繊維束の一部に含浸し、繊維52(
図3参照)を内包した状態で硬化した領域である。浸み込み領域50は、たとえば
図3に示すようなマイクロスコープで撮影された写真から実際に確認される。
図3では、多数の繊維52からなる繊維束によって構成された生地20の上端領域に白濁した領域が確認される。当該領域が浸み込み領域50である。浸み込み領域50は、生地20の上端部に含浸した接着樹脂組成物と、これに内包された繊維52とを含む。
浸み込み厚みt1は、具体的には以下のように求められる。即ち、合成皮革100を厚み方向に切断して形成した切断面をマイクロスコープ(倍率100倍)で観察し、生地20を構成する繊維52が確認できる領域の上端(即ち、浸み込み領域50の下端)から、白濁した領域の上端(即ち、浸み込み領域50の上端)までの最大寸法部分を測定する。マイクロスコープではっきりと確認された浸み込み領域50、10箇所について、上記最大寸法部分を測定し、得られた測定値の算術平均値を浸み込み厚みt1とする。
【0027】
生地20に対する接着樹脂組成物の浸み込み厚みt1は、適宜の手段で調整することができる。たとえば、一般的な合成皮革の製造方法に倣い、所定の領域(本実施形態であれば発泡層40の露出面)に接着層形成用塗工液を塗布して塗工面を作成する。上記塗工面に生地20を重ねて積層体を形成し、当該積層体を厚み方向に圧着させて各層を貼着するためにロール間に通す。このとき、互いに対向する当該ロール間の距離(クリアランス)を調整しておくことで、浸み込み厚みt1を調整することができる。また、接着層形成用塗工液の粘度、積層させる際の温度等を適宜に調整することによっても浸み込み厚みt1を調整可能である。
【0028】
本実施形態に用いられた生地20は織布であるため、上面に経糸21および緯糸22からなる凹凸が形成されている。図面では、経糸21の一部が上方に突出して凸部となり、凸部と凸部との間には、緯糸22と接着層30との間に生じた空間60が形成されている。この空間60の上方には、繊維52を含まず接着樹脂組成物のみからなる接着層30の第一部分が確認される。上述のとおり接着層30は、表皮層10と生地20とを直接または間接に接着するための層であって、マイクロスコープにより撮影された写真では、接着樹脂組成物が硬化してなる白濁した領域として視認される。具体的には、
図3において接着層30は、隣り合う浸み込み領域50の間において紙面左右方向に伸長する白濁した薄厚みの層の第一部分と、浸み込み領域50と重複する第二部分として視認される。
【0029】
図1に示す本実施形態の合成皮革100および
図3に示す合成皮革140は、浸み込み領域50が発泡層40の下面側に確認される接着層30の第一部分の上面32よりも上方まで突出しているという特徴的な構成を有している。つまり、生地20に対し接着樹脂組成物が浸み込んでなる浸み込み領域50の上端が、発泡層40の中間部に到達している。かかる特徴的な構成を備えることで、合成皮革100は、良好な剥離強度を示し、かつ十分に高い耐屈曲性を示すものと推測される。
【0030】
ただし、生地20に対し接着樹脂組成物が浸み込む態様はこれに限定されない。本実施形態とは異なる浸み込みの態様について、本実施形態の変形例である合成皮革120の切断面の概念図を
図2に示す。
合成皮革120は、繊維52の一部が接着層30の第一部分と同じ高さまで入り込んで浸み込み領域50を構成している点では合成皮革100と共通している。しかし合成皮革120は、浸み込み領域50の上端が接着層30の第一部分の上面32を超えていない点で合成皮革100と異なっている。このように本発明は、浸み込み領域50の上端の位置に関わらず、浸み込み厚みt1が100μm以上300μm以下となるよう調整されたいずれの態様も包含する。
【0031】
本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、接着層30を構成する接着樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂および可塑剤以外の他の組成が含まれていてもよい。
【0032】
(発泡層)
本実施形態の合成皮革100は、表皮層10と接着層30との間に発泡層40を備える。発泡層40は、塩化ビニル系樹脂を含んで構成される発泡樹脂層であり、層内に複数の気泡41を有する。
発泡層40を備えることにより、合成皮革100は、軽量化が図れる上、合成皮革の風合いとして好ましい柔軟性および衝撃吸収性を備える。
【0033】
発泡層40に含まれる塩化ビニル系樹脂の含有割合は特に限定されないが、合成皮革100の製造コストを抑制するという観点からは、発泡層40を構成する樹脂100質量%において、塩化ビニル系樹脂の含有割合が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、実質的に100質量%であることがさらに好ましい。発泡層40に用いられる塩化ビニル系樹脂およびその他の樹脂については、上述する接着層30と同様であるため、ここでは詳細な説明を割愛する。発泡層40を構成する塩化ビニル系樹脂は、接着層30を構成する塩化ビニル系樹脂と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0034】
発泡層40は、上述する樹脂に加え可塑剤を含有する。合成皮革100の耐屈曲性をより良好に改善させるとういう観点からは、発泡層40において、発泡層40に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤が50質量以上含まれることが好ましい。一方、良好な耐屈曲性を示しつつも可塑剤のブリードアウトの問題が発生し難いという観点からは、発泡層40において、発泡層40に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤が110質量以下の範囲で含まれることが好ましい。
特には、発泡層40を構成する樹脂100質量%において、塩化ビニル系樹脂の含有割合が90質量%以上であって、可塑剤が上述の範囲で含まれていることが好ましい。
発泡層40に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対する可塑剤の量は、接着層30に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対する可塑剤の量よりも少ないことが好ましい。上記の場合、可塑剤のブリードアウトを防止する効果を有すると推察される。
【0035】
発泡層40に用いられる可塑剤については、上述する接着層30と同様であるため、ここでは詳細な説明を割愛する。ただし、発泡層40に用いられる可塑剤は、接着層30に用いられる可塑剤は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0036】
発泡層40は、上述する樹脂および任意で添加される可塑剤等に加え発泡剤が添加された発泡層形成用塗工液を表皮層10の一方面側に塗布して加熱等の処理をすることで形成することができる。発泡剤としては、塩化ビニル系樹脂を用いた発泡樹脂を形成する際に一般的に用いられる発泡剤から適宜選択される。たとえば、発泡剤の具体例としては、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、カルシウムアジド、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボン酸バリウム、N,N’-ジニトロペンタメチレンテトラミン、p,p’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、p-トルエンスルホニルヒドラジド、p-トルエンスルホニルセミカルバジド、膨張ビーズ等が挙げられるが、これに限定されない。
【0037】
発泡層40の厚みt3は特に限定されないが、良好な衝撃吸収性または柔軟性を発揮させるという観点からは100μm以上であることが好ましく、製造コストの観点からは500μm以下であることが好ましい。発泡層40の厚みt3は、合成皮革100の切断面を観察したマイクロスコープによる写真において、無作為に選択された10箇所における発泡層の厚みを実測し、実測値を算術平均して求められる。
【0038】
(表皮層)
表皮層10は、塩化ビニル系樹脂を含んで構成される。表皮層10は、合成皮革100における表面を構成する層であり、適宜、シボまたは絞模様等が付与されて、皮革調の外観を呈してもよい。尚、ここでいうシボとは、表皮層10の表面側に設けられた不規則な凹凸であり、紋模様とは部材の表面側に装飾された模様、図柄等である。本発明は、表皮層10が合成皮革100の最表面に配置される態様、および合成皮革110の最表面に近い位置に配置される態様のいずれも包含する。本実施形態では、表皮層10よりもさらに表面側に任意の層(たとえば後述する表面保護層70)が配置されている。
【0039】
表皮層10に含まれる塩化ビニル系樹脂の含有割合は特に限定されないが、合成皮革100の製造コストを抑制するという観点からは、表皮層10を構成する樹脂100質量%において、塩化ビニル系樹脂の含有割合が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、実質的に100質量%であることがさらに好ましい。表皮層10に用いられる塩化ビニル系樹脂およびその他の樹脂については、上述する接着層30を構成する樹脂と同様であるため、ここでは詳細な説明を割愛する。表皮層10を構成する塩化ビニル系樹脂は、接着層30を構成する塩化ビニル系樹脂と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0040】
表皮層10に含まれる塩化ビニル系樹脂の重合度は、特に限定されないが、耐屈曲性および耐摩耗性に優れるという観点からは、発泡層40に含まれる塩化ビニル系樹脂の重合度よりも高いことが好ましい。このような塩化ビニル系樹脂の重合度の相対的な関係は、たとえば、表皮層10に含まれる塩化ビニル系樹脂の重合度が1000以上4000以下の範囲であり、一方、発泡層40に含まれる塩化ビニル系樹脂の重合度600以上2000以下の範囲において調整されることがより好ましい。尚、表皮層10および発泡層40が、それぞれ2種以上の塩化ビニル系樹脂を含んで構成される場合には、上述する重合度として、用いた塩化ビニル系樹脂の配合割合とそれぞれの重合度から平均重合度を求めればよい。
上述する塩化ビニル系樹脂の重合度の相対的な関係によれば、発泡層40を備える合成皮革100の製造時、離型紙等の上面にまず表皮層10を作成し、次いで表皮層10に発泡層形成用塗工液を塗布して加熱し発泡させる際、一度硬化した表皮層10の軟化または溶融を回避することができる。この結果、表皮層10の下面14は略平坦に形成される。表皮層10の上面12は、合成皮革の風合いを出すためにシボや絞模様等により凹凸が設けられていることが一般的である。これに対し、下面14を上述のとおり略平坦に形成することで、局所的に表皮層10の厚みが非常に小さくなることを回避し、部分的に合成皮革100の耐屈曲性が低下することを防止することができる。
【0041】
表皮層10は、上述する樹脂に加え可塑剤を含有していてもよい。合成皮革100の耐屈曲性を改善させるとういう観点からは、表皮層10に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤が65質量部以上含まれることが好ましい。一方、良好な耐屈曲性を示すとともに耐摩耗性に優れるという観点からは、表皮層10に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤が90質量部以下であることが好ましく80質量部未満であることがさらに好ましい。特には、表皮層10を構成する樹脂100質量%において、塩化ビニル系樹脂の含有割合が90質量%以上であって、可塑剤が上述の範囲で含まれていることが好ましい。
【0042】
表皮層10に用いられる可塑剤については、上述する接着層30と同様であるため、ここでは詳細な説明を割愛する。表皮層10に用いられる可塑剤は、接着層30に用いられる可塑剤は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0043】
また合成皮革100において、接着層30と表皮層10とが、以下の関係であることがより好ましい。即ち、接着層30は、接着層30を構成する樹脂100質量%において塩化ビニル系樹脂が90質量%以上であり、かつ当該塩化ビニル系樹脂100質量部に対し可塑剤を80質量部以上110質量部以下の範囲で含む。一方、表皮層10は、表皮層10を構成する樹脂100質量%において塩化ビニル系樹脂が90質量%以上であり、かつ当該塩化ビニル系樹脂100質量部に対し可塑剤を65質量部以上80質量部未満の範囲で含む。このように、塩化ビニル系樹脂を主たる樹脂として含む合成皮革100において、接着層30に含まれる可塑剤の比率が、表皮層10に含まれる可塑剤の比率より高くなるよう調整することによって、耐屈曲性が改善されるとともに耐摩耗性にも優れ、また時間の経過とともに、可塑剤が表皮層10の表面からブリードアウトすることを抑制することができる。
【0044】
表皮層10の厚みt2は、特に限定されないが、耐屈曲性を良好に改善するという観点からは150μm以上であることが好ましく、耐屈曲性に加え耐摩耗性に優れるという観点からは、200μm以上であることがより好ましく、250μm以上であることがさらに好ましく、300μm以上であることが特に好ましい。一方、合成皮革としての風合いや柔軟性に優れるという観点からは、表皮層10の厚みt2は、500μm以下であることが好ましく、450μm以下であることがより好ましく、400μm以下であることがさらに好ましい。
表皮層10の厚みt2は、マイクロスコープで観察した合成皮革100の切断面において、無作為に選択した10箇所において、表皮層10の厚みを実測し、その実測値を算術平均することで得られる。
【0045】
表皮層10は、塩化ビニル系樹脂および任意で添加される可塑剤に加え、さらに消泡剤および脱泡剤の少なくともいずれか一方を含むことが好ましく、両方を含むことがより好ましい。脱泡剤を含むことで表皮層10の内部に発生した気泡を表面に移動させることができ、消泡剤を含むことで表皮層10の表面に発生する気泡を壊すことができる。このように表皮層10における気泡を処理することによって、合成皮革100の耐摩耗性を良好にすることが可能である。
【0046】
本発明に関し消泡剤とは、小さい気泡を液中に溶解(吸収)させる作用や、気泡を破裂させる作用を有するものをいう。具体的な消泡剤としては、低級脂肪族アルコール系消泡剤、高級脂肪族アルコール系消泡剤、低級脂肪酸系消泡剤、高級脂肪酸系消泡剤、低級脂肪族アミド系消泡剤、高級脂肪族アミド系消泡剤、低級脂肪酸エステル系消泡剤、高級脂肪酸エステル系消泡剤、シリコーン系消泡剤等が挙げられる。
消泡剤の含有量は、表皮層10に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.05質量部以上0.3質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0047】
本発明に関し脱泡剤とは、表皮層10の内部に発生したガス(気泡)を界面に移動させる作用を有するものをいう。具体的な脱泡剤としては、ポリオキシアルキレン誘導体、ラウリルアルコール硫酸エステル、ラウリルアルコール硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム)等が挙げられる。
脱泡剤の含有量は、表皮層10に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上1.0質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0048】
その他の添加物:
表皮層10には、樹脂および可塑剤の他に、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜添加物が添加されてもよい。上記添加物としては、たとえば安定剤、充填剤、難燃剤、顔料等を挙げることができる。
【0049】
表面保護層:
合成皮革100は、表皮層10の、生地20とは反対側の面に、表面保護層70が設けられている。
表面保護層70は、適宜に選択された樹脂等から構成される。たとえば、表面保護層70は、ポリウレタン系樹脂および架橋剤を含んで構成される。表面保護層70は、表皮層10の表面を保護する層であって、合成皮革100の耐摩耗性等を向上させ得る。ポリウレタン系樹脂とは、分子内にウレタン結合を含む樹脂を指し、より具体的には主鎖の繰り返し単位においてウレタン結合を有する樹脂を指す。
【0050】
表面保護層70を構成するポリウレタン系樹脂は、ポリオール成分とポリオール成分とを反応させてなり、合成皮革100の表面側を保護するのに適した層を構成し得るポリウレタン系樹脂であればよい。たとえば、一例としては、水系ポリウレタン系樹脂が挙げられる。水系ポリウレタン系樹脂とは、親水性基を有し水に溶解または乳化可能なポリウレタン系樹脂のことをいう。かかる水系ポリウレタン樹脂としては、たとえば分子内に親水基(アニオン性親水基、カチオン性親水基、またはノニオン性親水基)を有するポリウレタン、または親水性のセグメントが付与されたポリウレタンが挙げられる。水系ポリウレタン樹脂の中でも耐久性、耐摩耗性、および耐加水分解性の観点からは、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。ポリカーボネート系ポリウレタンは、たとえばポリカーボネート系ジオールおよびポリイソシアネートを用い重付加反応させることで得られる。
【0051】
上記架橋剤は、ポリウレタン系樹脂を自己架橋または三次元架橋等させることによってポリウレタン系樹脂の物性の向上を図り得るものであればよく、たとえば、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、またはオキサゾリン系架橋剤等を挙げることができる。
【0052】
ポリウレタン系樹脂を含む表面保護層70において、表面保護層70に含まれるポリウレタン系樹脂100質量部に対して配合される架橋剤の割合は特に限定されないが、たとえば、2質量部以上20質量部以下であることが好ましい。上記架橋剤が2質量部未満であると耐摩耗性が不十分となる虞があり、20質量部を超えると表面保護層30が硬くなって屈曲時に表面保護層に亀裂が発生する虞がある。
【0053】
表面保護層70の厚みは、特に限定されないが、十分に表皮層10を保護可能であるという観点からは、0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0054】
(合成皮革)
上述するとおり、合成皮革100は、表皮層10、発泡層40および接着層30のいずれにも塩化ビニル系樹脂を含み、少なくとも接着層30に可塑剤が含有されている。表皮層10および発泡層40にも可塑剤が含まれる。
かかる合成皮革100において、合成皮革100全体において含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、合成皮革100全体において含まれる可塑剤が70質量部以上100質量部以下の範囲であることが好ましい。
より好ましい態様としては、表皮層10、発泡層40および接着層30それぞれの層において、各層を構成する樹脂100質量%以上において、塩化ビニル系樹脂を90質量%以上含むとともに、表皮層10、発泡層40および接着層30それぞれに可塑剤が含まれる態様が挙げられる。かかる態様において、各層に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、含有される塩化ビニル系樹脂の量が最も多い層が、接着層30であることがより好ましい。
【0055】
上述するとおり、塩化ビニル系樹脂を多く含んで構成される合成皮革100全体において、可塑剤を十分に含有させることによって、合成皮革100の耐屈曲性および耐摩耗性をバランスよく十分に改善し易い。
【0056】
上述にて説明した本発明の合成皮革の用途は特に限定されないが、耐屈曲性に優れるという観点から、車両用座席シート200の座部側面部213を構成するためのシート状物として好適である。本発明の合成皮革を、降車時に負荷がかかり易い座部側面部213に用いることによって、座部側面部213の亀裂を良好に防止することが可能である。もちろん、本発明の合成皮革を、車両用座席シート200の座部側面部213以外のいずれかの箇所または全てに用いることもできる。
【0057】
(合成皮革の製造方法)
以下に、合成皮革100の製造方法の一例について説明する。ただし、以下に説明する製造方法は、本発明の合成皮革を何ら限定するものではなく、本発明の合成皮革は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜、他の製造方法で製造されてもよい。以下では、表皮層10、発泡層40、接着層30および生地20を備える態様を例に説明する。
まず塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含む表皮層形成用塗工液を調製し、これをドクターナイフコーター、コンマドクターコーター、その他通常の塗布手段で離型紙に塗布し、適宜加熱硬化させて表皮層10を得る。
その後、発泡剤、塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含む発泡層形成用塗工液を、得られた表皮層10の露出面に上述と同様の塗工手段で塗布し、適宜加熱して発泡させ、発泡層40を形成する。
そして、得られた発泡層40の露出面に、塩化ビニル系樹脂および可塑剤を含む接着層成用塗工液(接着樹脂組成物)を、上述する塗工手段で塗布し、生地20を積層させ、その状態で所定間隔をあけて対向するロール間に通して厚み方向に圧着させ、適宜加熱硬化させて積層体を得る。このロール間の距離を調整することによって、生地20に対して接着樹脂組成物が浸み込む浸み込み厚みの量を調整することができる。次いで、離型紙等を剥離して合成皮革100を得る。この後、適宜、表皮層10の表面に、皮革調の外観を呈するためにシボや絞模様等を付与するためのエンボス加工等を行ってもよい。
【0058】
尚、表皮層10の表面にさらに表面保護層を設ける場合には、上述のとおり得た合成皮革100の表皮層10の表面に対し、たとえばポリウレタン樹脂形成用組成物およびイソシアネート等の架橋剤を含む表面保護層形成用塗工液を塗布して適宜加熱等し、表面保護層を形成することができる。上記表面保護層を形成する前に、表皮層10の表面に、上記エンボス加工等を行ってもよい。
【実施例0059】
以下に本発明の実施例について説明する。以下では、生地、接着層、発泡層、表皮層、表面保護層を備える構成の合成皮革を例に実施例および比較例を示す。以下に示す実施例および比較例では、表皮層、接着層、発泡層を構成する樹脂は塩化ビニル系樹脂100質量%とした。ただし以下に示す実施例は本発明を何ら制限するものではない。
【0060】
まず、各層を構成する材料を以下のとおり準備した。表1、表2には表皮層、発泡層および接着層を形成する塗工液に含まれる組成およびその配合比率を示す。また表面保護層の乾燥厚みも、表1、表2に示す。
【0061】
<表皮層形成用塗工液>
・塩化ビニル系樹脂(重合度:1800)
・可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤、製品名:PL-200、シージーエスター社製)
・消泡剤(シリコーン系化合物、製品名:BYK067A、BYK社製)
・脱泡剤(ポリオキシアルキレン誘導体、製品名:BYK3155、BYK社製)
<発泡層形成用塗工液>
・塩化ビニル系樹脂1(重合度:1000)
・塩化ビニル系樹脂2(重合度:1800)
・可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤、製品名:PL-200、シージーエスター社製)
・発泡剤(アゾジカルボンアミド)
<接着層形成用塗工液>
・塩化ビニル系樹脂(重合度:1000)
・可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤、製品名:PL-200、シージーエスター社製)
<生地>
・ポリエステル製ニット
【0062】
(実施例1)
表1に示す組成比で調製した表皮層形成用塗工液を、離型紙(大日本印刷株式会社製、商品名「DE-73」)に、硬化後において表1に示す厚みとなるように塗布し、180℃のオーブンで1分間硬化させて、表皮層を得た。
次いで、得られた表皮層の露出側面に、表1に示す組成比で調製した発泡層形成用塗工液を硬化および発泡後において表1に示す厚みとなるように塗布し、200℃のオーブンで1分間硬化させて、発泡層を得た。
さらに、表1に示す組成比で調製した接着層形成用塗工液を発泡層上に表1に示す塗工厚みで塗布し、生地を貼り合わせ、間隙(クリアランス)を離型紙/表皮層/発泡層/接着層/生地の総厚に対して80%に設定したロール間を通して貼着させた後、200℃で1分間硬化し、離型紙を剥離して積層体を得た。
そして、上記積層体の表皮層露出面に、水系ポリウレタン系樹脂用組成物および架橋剤を含む表面保護層形成用塗工液を、付着量が20g/m2となるように塗布し、150℃のオーブンで2分間乾燥し、表面保護層を形成して、これにより実施例1である合成皮革を得た。
【0063】
(実施例2)
表皮層の硬化後の厚みが200μmになるように塗布した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0064】
(実施例3)
表皮層の硬化後の厚みが400μmになるように塗布した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0065】
(実施例4)
厚みが500μmの生地を用いた以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0066】
(実施例5)
表皮層に含まれる可塑剤の添加量および発泡層に含まれる可塑剤の添加量を変更した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0067】
(実施例6)
発泡層を構成する塩化ビニル系樹脂の種類を変更した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0068】
(実施例7)
厚みが200μmの生地を用いた以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0069】
(実施例8)
発泡層を設けなかった以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0070】
(実施例9)
表皮層の硬化後の厚みが400μmになるように塗布し、発泡層を設けず、接着層形成用塗工液を表皮層上に塗工厚み200μmで塗布し、厚みが500μmの生地を用いた以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0071】
(実施例10、11)
接着層に含まれる可塑剤の添加量を変更した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0072】
(実施例12)
表皮層に消泡剤を用いなかった以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0073】
(実施例13)
表皮層に脱泡剤を用いなかった以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0074】
(比較例1)
生地を貼りあわせ後のロール間の間隙(クリアランス)を離型紙/表皮層/発泡層/接着層/生地の総厚に対して100%(すなわち、総厚と同じ)に設定した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0075】
(比較例2)
生地を貼りあわせ後のロール間の間隙(クリアランス)を離型紙/表皮層/発泡層/接着層/生地の総厚に対して60%に設定した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を得た。
【0076】
(比較例3)
接着層に含まれる可塑剤の添加量を変更した以外は、実施例1同様にして合成皮革を得た。
【0077】
得られた合成皮革を厚み方向に切断し、切断面をマイクロスコープで観察した。そして、切断面において観察された浸み込み領域、10箇所について、当該領域の最大寸法部分を実測し、算術平均により接着樹脂組成物の浸み込み厚みを得た。浸み込み厚みは表1、表2に示す。
【0078】
[評価]
各実施例および比較例で得られた合成皮革について、以下の評価を行った。尚、○(良)または△(可)の評価を実用に耐えうるものと評価した。
【0079】
<剥離強度>
JIS K6772-1994に準じ、引張試験機を用いて合成皮革の生地と接着層の界面を平行に剥がした際の剥離強度を測定し、以下の基準で評価した。
○(良)・・・7N/cm以上
△(可)・・・4N/cm以上7N/cm未満
×(不可)・・・4N/cm未満
【0080】
<耐摩耗性>
JIS L0823-1971に準じ、学振型摩擦試験機を用いて試験を行った。
得られた合成皮革を幅20mm、長さ50mmに裁断した試験片を、表面層側が外側に位置する向きで、摩擦子に取りつけた。そして、試験台上に皺が入らないように固定された6号綿帆布(幅30mm、長さ250mm)に対し、押圧荷重:1000fg、ストローク長:100mm、ストローク速度:30往復/分の条件で摩擦子を擦りつける試験を行った。10000回往復時における試験片の表面状態を目視により観察し、以下の評価基準に基づき評価をした。
○(良)・・・表面層の破れが確認されなかった
△(可)・・・表面層の破れが僅かに確認された
×(不可)・・・表面層が著しく破けていた
【0081】
<耐屈曲性>
JIS K6545-1994に準じ、-20℃下でフレキソ試験を行い、屈曲回数が5000回毎に合成皮革の状態を確認した。合成皮革に亀裂が確認されるまでの屈曲回数を測定し、以下の基準で評価した。
○(良)・・・30000回以上
△(可)・・・15000回以上30000回未満
×(不可)・・・15000回未満
【0082】
<触感>
試験者5名が合成皮革を手に持ち、その触感を確認し、柔らかく感じるか否かを判断し、以下の基準で評価した。
○(良)・・・柔らかく感じると評価した試験者が4名または5名
△(可)・・・柔らかく感じると評価した試験者が2名または3名
×(不可)・・・柔らかく感じると評価した試験者が0名または1名
【0083】
【0084】
【0085】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)表皮層と、生地と、前記表皮層と前記生地との間に設けられた接着層とを備える合成皮革であって、
前記表皮層および前記接着層は塩化ビニル系樹脂を含み、
前記接着層は、前記接着層に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤を80質量部以上110質量部以下の範囲で含み、
前記生地に対する前記接着層を構成する接着樹脂組成物の浸み込み厚みが100μm以上300μm以下であることを特徴とする合成皮革。
(2)前記合成皮革は、前記合成皮革全体において含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤を70質量部以上100質量部以下の範囲で含む上記(1)に記載の合成皮革。
(3)前記表皮層は、前記表皮層に含まれる塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、可塑剤を65質量部以上90質量部以下の範囲で含む上記(1)または(2)に記載の合成皮革。
(4)前記表皮層と前記接着層との間に発泡層を備え、
前記発泡層は、塩化ビニル系樹脂を含み、前記表皮層に含まれる塩化ビニル系樹脂の重合度は、前記発泡層に含まれる塩化ビニル系樹脂の重合度よりも高い上記(1)から(3)のいずれか一項に記載の合成皮革。
(5)車両用シートの座部側面部を構成するためのシート状物である上記(1)から(4)のいずれか一項に記載の合成皮革。