(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023067367
(43)【公開日】2023-05-16
(54)【発明の名称】ウイルス感染阻止剤及びウイルス感染阻止製品
(51)【国際特許分類】
A01N 61/00 20060101AFI20230509BHJP
A01P 1/00 20060101ALI20230509BHJP
A01N 25/12 20060101ALI20230509BHJP
C08L 101/08 20060101ALI20230509BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20230509BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20230509BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20230509BHJP
【FI】
A01N61/00 D
A01P1/00
A01N25/12
C08L101/08
C08L33/04
C08L25/04
C08K3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021178528
(22)【出願日】2021-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510087564
【氏名又は名称】積水マテリアルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】川村 大地
(72)【発明者】
【氏名】西原 和也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太郎
【テーマコード(参考)】
4H011
4J002
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BB19
4H011BC19
4H011DA02
4H011DH02
4J002AA061
4J002AB031
4J002AB051
4J002BC022
4J002BG011
4J002BG022
4J002BH021
4J002CF001
4J002CK021
4J002DE076
4J002DE236
4J002DE286
4J002DJ006
4J002EG056
4J002FB082
4J002FB086
4J002FD012
4J002FD016
4J002FD181
4J002GC00
(57)【要約】
【課題】 本発明は、優れたウイルス感染阻止効果を発揮することができるウイルス感染阻止剤を提供する。
【解決手段】 本発明のウイルス感染阻止剤は、カルボキシ基を含有し且つpKa1が5.5以下であり、重量平均分子量が3000以上であるウイルス感染阻止化合物を含有することを特徴とするので、エンベロープを有するウイルス及びエンベロープを有しないウイルスの双方に対して優れたウイルス感染阻止効果を有し、様々な種類のウイルスに対してウイルス感染阻止効果を発揮する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基又はその塩を含有し且つpKa1が5.5以下であり、重量平均分子量が3000以上であるウイルス感染阻止化合物を含有することを特徴とするウイルス感染阻止剤。
【請求項2】
ウイルス感染阻止化合物の重量平均分子量が3000~1000000であることを特徴とする請求項1に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項3】
ウイルス感染阻止化合物は芳香族環を含有していないことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項4】
ウイルス感染阻止化合物は、スルホン酸基を含有していないことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項5】
スルホン酸基を有する化合物を含有していないことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項6】
ウイルス感染阻止化合物は、カルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総量が5~20mmol/gであることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項7】
ウイルス感染阻止化合物が粒子の表面に付着していることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項8】
粒子は、アクリル系樹脂粒子、スチレン系樹脂粒子又は無機粒子であることを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項9】
基材と、
上記基材に含まれた、請求項1~8の何れか1項に記載のウイルス感染阻止剤とを含有していることを特徴とするウイルス感染阻止製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染阻止剤及びウイルス感染阻止製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、季節性インフルエンザウイルスの流行に加え、新型コロナウイルス(COVID-19)が世界的に大流行している。
【0003】
又、高病原性のトリインフルエンザウイルスが変異してヒト間で感染が確認されており、更に、致死率のきわめて高いサーズウイルスも懸念されており、ウイルスへの不安感は高まる一方である。
【0004】
これらの問題に対して、特許文献1には、合成樹脂100質量部に対しスルホン酸系界面活性剤を0.5質量部以上含む抗ウイルス性合成樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記抗ウイルス性合成樹脂組成物は、スルホン酸系界面活性剤を合成樹脂中に含有させているにすぎず、スルホン酸系界面活性剤は、十分な抗ウイルス性(ウイルス感染阻止効果)を有しておらず、ウイルス感染阻止効果に優れたウイルス感染阻止剤が所望されている。
【0007】
本発明は、優れたウイルス感染阻止効果を発揮することができるウイルス感染阻止剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のウイルス感染阻止剤は、カルボキシ基又は塩を含有し且つpKa1が5.5以下であり、重量平均分子量が3000以上であるウイルス感染阻止化合物を含有することを特徴とする。
【0009】
本発明のウイルス感染阻止製品は、
基材と、
上記基材に含まれた、上記ウイルス感染阻止剤とを含有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のウイルス感染阻止剤は、カルボキシ基又はその塩を含有し且つpKa1が5.5以下であり、重量平均分子量が3000以上であるウイルス感染阻止化合物を含有しているので、エンベロープを有するウイルス及びエンベロープを有しないウイルスの双方に対して優れたウイルス感染阻止効果を有し、様々な種類のウイルスに対してウイルス感染阻止効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のウイルス感染阻止剤は、カルボキシ基又はその塩を含有し且つpKa1が5.5以下であり、重量平均分子量が3000以上であるウイルス感染阻止化合物を含有する。
【0012】
[ウイルス感染阻止化合物]
本発明のウイルス感染阻止剤は、有効成分としてウイルス感染阻止化合物を含有している。ウイルス感染阻止化合物は、分子中にカルボキシ基(-COOH)又はその塩を有している。ウイルス感染阻止化合物は、カルボキシ基又はその塩を含む分子構造部分に由来してウイルス感染阻止効果を発揮する。ウイルス感染阻止化合物は、特に、エンベロープを有するウイルスに対して優れたウイルス感染阻止効果を有する。
【0013】
ウイルス感染阻止化合物に含まれているカルボキシ基の塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩(-COONa)、カルシウム塩[(-COO-)2Ca2+]、アンモニウム塩(-COO-NH4
+)、マグネシウム塩[(-COO-)2Mg2+]、バリウム塩[(-COO-)2Ba2+]などが挙げられる。
【0014】
なお、ウイルス感染阻止効果とは、ウイルスの細胞への感染力をなくし或いは低下させ又は感染しても細胞中で増殖できなくする効果をいう。このようなウイルスの感染性の有無を確認する方法としては、例えば、繊維製品ではISO18184やJIS L1922、繊維製品以外のプラスチックや非多孔質表面の製品では、ISO21702が挙げられる。他にも「医・薬科ウイルス学」(1990年4月初版発行)に記載されているようなプラック法や赤血球凝集価(HAU)測定法などが挙げられる。
【0015】
ウイルス感染阻止化合物のpKa1は5.5以下であり、5.0以下が好ましく、4.7以下がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物のpKa1が5.5以下であると、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。ウイルス感染阻止化合物が多価の酸である場合、ウイルス感染阻止化合物は多段階に電離が進むが、pKa1は、一段階目の電離定数に基づいて算出されたpKaをいう。ここで、電解質HAが、H+とA-とに電離して電離平衡(1)をとるとき、酸解離定数Kaは式(2)で定義され、pKaは、酸解離定数Kaの逆数の常用対数(3)で定義される。
【0016】
【0017】
ウイルス感染阻止化合物のpKa1は、滴定によって測定された値をいう。具体的には、ウイルス感染阻止化合物と水酸化ナトリウムを使用して25℃にて滴定を行い、半当量点(中和が完結する量の半量を滴下した点)での25℃におけるpHを測定することで、pKa1を求めることができる。
【0018】
なお、ウイルス感染阻止化合物にカルボキシ基の塩が含まれる場合、ウイルス感染阻止化合物のpKa1は、カルボキシ基の塩をカルボキシ基に変換した後、上述の方法で測定されたウイルス感染阻止化合物のpKa1とする。カルボキシ基の塩を、カルボキシ基に変換する方法としては、例えば、ウイルス感染阻止化合物を1mol%塩酸水溶液に混合し、ウイルス感染阻止化合物に含まれているカルボキシ基の塩の全てをカルボキシ基に変換した後、凍結乾燥などの汎用の要領により塩酸と水を取り除く方法が挙げられる。
【0019】
ウイルス感染阻止化合物はポリマーを含み、ポリマーの重量平均分子量は、3000以上であり、5000以上が好ましく、10000以上がより好ましく、100000以上がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物の重量平均分子量が3000以上であると、ウイルス感染阻止剤の白化及び黄変を低減することができ、基材表面にウイルス感染阻止剤を付着させた場合に、基材の外観を損なうことなく、ウイルス感染阻止効果をより効果的に発現させることができると共に、ウイルス感染阻止化合物1分子当たりのウイルスとの吸着点が増大し、ウイルス感染阻止化合物とウイルスとの相互作用が強くなり、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を向上させることができる。
【0020】
ウイルス感染阻止化合物に含まれているポリマーの重量平均分子量は、1000000以下が好ましく、900000以下がより好ましく、800000以下がより好ましく、500000以下がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物の重量平均分子量が1000000以下であると、ウイルス感染阻止剤の黄変を低減することができ、基材表面にウイルス感染阻止剤を付着させた場合に、基材の外観を損なうことなく、ウイルス感染阻止効果をより効果的に発現させることができると共に、ウイルス感染阻止化合物の凝集性が低減され、結果としてウイルス感染阻止化合物とウイルスとが相互作用しやすい形態となり、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。
【0021】
なお、本発明において、ポリマーの重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値である。
【0022】
例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
ゲルパミエーションクロマトグラフ:Waters社製 商品名「2690 Separations Model」
カラム:昭和電工社製 商品名「GPC KF-806L」
検出器:示差屈折計
サンプル流量:1mL/min
カラム温度:40℃
溶出液:THF
【0023】
ウイルス感染阻止化合物のpHは、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、4以上がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物のpHは、12以下が好ましく、11以下がより好ましく、10以下がより好ましく、9以下がより好ましく、6以下がより好ましく、5以下がより好ましく、4.5以下がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物のpHが2以上であると、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。ウイルス感染阻止化合物のpHが12以下であると、エンベロープを有しないウイルスに対するウイルス感染阻止効果が向上する。なお、ウイルス感染阻止化合物のpHとは、ウイルス感染阻止化合物0.5gを精製水99.5gに加えて均一に混合した液における25℃でのpHの値をいう。
【0024】
カルボキシ基又はその塩を有するウイルス感染阻止化合物としては、分子中に、カルボキシ基又はその塩を1つ以上有しておればよく、例えば、線状高分子の側鎖にカルボキシ基又はその塩を有するポリマー、カルボキシメチルセルロース又はその塩、カルボキシメチル化キトサン又はその塩、カルボキシメチル化キチン又はその塩、カルボキシメチルデキストラン又はその塩、カルボキシメチル―β―シクロデキストリン又はその塩、カルボキシスクロース又はその塩、ペクチン又はその塩、キサンタンガム又はその塩、アルギン酸又はその塩、ヒアルロン酸又はその塩、フルボ酸又はその塩、フミン酸又はその塩などが挙げられる。
【0025】
線状高分子の側鎖にカルボキシ基又はその塩を有するポリマーにおいて、線状高分子としては、特に限定されず、例えば、ビニルポリマー、ポリエステル、ポリウレタンが好ましく、ビニルポリマーがより好ましい。
【0026】
線状高分子の側鎖にカルボキシ基又はその塩を有するポリマーとしては、例えば、カルボキシ基又はその塩を含有するカルボキシ基誘導体含有モノマーをモノマー単位として含有するポリマーなどが挙げられる。カルボキシ基誘導体含有モノマーをモノマー単位として含有するポリマーは、カルボキシ基誘導体含有モノマーのホモポリマーであってもよいし、カルボキシ基誘導体含有モノマーとこれと共重合可能なモノマーとのコポリマーであってもよい。
【0027】
カルボキシ基誘導体含有モノマーとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、5-カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、コハク酸モノ(メタ)アクリロイルオキシエチルエステル、ω-カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、カルボキシベタイン型モノマー又はこれらの塩などが挙げられ、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウムが好ましい。なお、カルボキシ基誘導体含有モノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0028】
カルボキシ基誘導体含有モノマーと共重合可能なモノマーとしては、特に限定されず、例えば、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、ビニルアルキルエーテル、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、ジイソブチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、2-ビニルナフタレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ビニルトルエン、ビニルピリジンなどが挙げられる。なお、カルボキシ基誘導体含有モノマーと共重合可能なモノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0029】
ウイルス感染阻止化合物に含まれるポリマーは、汎用の重合方法を用いて重合すればよい。例えば、カルボキシ基誘導体含有モノマーを含むモノマー組成物を汎用のラジカル重合開始剤の存在下にて重合させることによってウイルス感染阻止化合物を得ることができる。なお、ラジカル重合開始剤としては、1-ヒドロキシシクロヘキサン-1-イルフェニルケトン、t-ヘキシルパーオキシピバレート、ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリルなどの熱開裂型ラジカル重合開始剤などが挙げられる。
【0030】
ウイルス感染阻止化合物は、分子中に芳香族環を含有していないことが好ましい。ウイルス感染阻止化合物が芳香族環を含有していないと、ウイルス感染阻止剤の白化を低減することができ、基材表面にウイルス感染阻止剤を付着させた場合に、基材の外観を損なうことなく、ウイルス感染阻止効果をより効果的に発現させることができる。更に、ウイルス感染阻止化合物が芳香族環を含有していないと、ウイルス感染阻止化合物のかさ高さが低減されることから、カルボキシ基又はその塩を含む分子構造部分が効率よくウイルスと相互作用でき、優れたウイルス感染阻止効果を発揮する。
【0031】
芳香族環は、単環状の芳香族環であっても、単環状の芳香族環が複合して縮合(縮合芳香族環)していてもよい。芳香族環としては、特に限定されず、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル、フェノキシフェニルなどが挙げられる。芳香族環は、芳香族環及び縮合芳香族環の何れか1個又は複数個の水素原子が引き抜かれ、他の原子と共有結合により結合している。
【0032】
ウイルス感染阻止化合物は、分子中にスルホン酸基(-SO3H、H型スルホン酸基)又はスルホン酸基の塩を含有していないことが好ましく、分子中にスルホン酸基及びスルホン酸基の塩を含有していないことがより好ましい。ウイルス感染阻止化合物が分子中にスルホン酸基又はスルホン酸基の塩を含有していないと、好ましくは、分子中にスルホン酸基及びスルホン酸基の塩を含有していないと、ウイルス感染阻止剤の白化を低減することができ、基材表面にウイルス感染阻止剤を付着させた場合に、基材の外観を損なうことなく、ウイルス感染阻止効果をより効果的に発現させることができる。更に、ウイルス感染阻止化合物が分子中にスルホン酸基又はスルホン酸基の塩を含有していないと、好ましくは、分子中にスルホン酸基及びスルホン酸基の塩を含有していないと、分子中の電気陰性度の高い酸素原子が減少するため、ウイルス感染阻止化合物の凝集性が低減され、カルボキシ基又はその塩を含む分子構造部分が効率よくウイルスと相互作用でき、優れたウイルス感染阻止効果を発揮する。
【0033】
なお、スルホン酸基の塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩(-SO3Na)、カルシウム塩[(-SO3
-)2Ca2+]、アンモニウム塩(-SO3
-NH4
+)、マグネシウム塩[(-SO3
-)2Mg2+]、バリウム塩[(-SO3
-)2Ba2+]などが挙げられる。
【0034】
ウイルス感染阻止化合物中におけるカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総含有量は、5mmol/g以上が好ましく、7mmol/g以上が好ましく、9mmol/g以上が好ましく、11mmol/g以上が好ましい。ウイルス感染阻止化合物中におけるカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の含有量は、20mmol/g以下が好ましく、18mmol/g以下が好ましく、17mmol/g以下が好ましく、16mmol/g以下が好ましい。ウイルス感染阻止化合物中におけるカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総含有量が5mmol/g以上であると、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。ウイルス感染阻止化合物中におけるカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総含有量が20mmol/g以下であると、ウイルス感染阻止化合物の凝集性が低減され、結果としてウイルス感染阻止化合物とウイルスとが相互作用しやすい形態となり、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。
【0035】
なお、ウイルス感染阻止化合物中におけるカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総含有量は、滴定によって測定された値をいう。具体的には、乾燥したウイルス感染阻止化合物約1g(Ag)を精秤し、ウイルス感染阻止化合物に200mLの精製水を加えた後、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて25℃にて滴定を行い、半当量点(中和が完結する量の半量を滴下した点)までに消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(BmL)を求め、次式によってウイルス感染阻止化合物中におけるカルボキシ基の含有量(mmol/g)を算出する。なお、ウイルス感染阻止化合物がカルボキシ基の塩を含有する場合、ウイルス感染阻止化合物を1mol%塩酸水溶液に混合し、ウイルス感染阻止化合物に含まれているカルボキシ基の塩を全てカルボキシ基に変換した後、ウイルス感染阻止化合物について、上記の要領でカルボキシ基の含有量を測定し、得られたカルボキシ基の含有量(mmol/g)をカルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総含有量(mmol/g)とする。
カルボキシ基の含有量(mmol/g)=0.1×A/B
【0036】
ウイルス感染阻止剤は、スルホン酸基又はスルホン酸基の塩を含んでいないことが好ましく、スルホン酸基及びスルホン酸基の塩を含んでいないことが好ましい。ウイルス感染阻止剤は、ウイルス感染阻止化合物を含有するが、分子中にスルホン酸基を有する化合物又は分子中にスルホン酸基の塩を有する化合物を含有していないことが好ましく、分子中にスルホン酸基を有する化合物と、分子中にスルホン酸基の塩を有する化合物とを含有していないことがより好ましい。ウイルス感染阻止剤が、分子中にスルホン酸基を有する化合物又は分子中にスルホン酸基の塩を有する化合物を含有していない(好ましくは、分子中にスルホン酸基を有する化合物と、分子中にスルホン酸基の塩を有する化合物とを含有していない)と、ウイルス感染阻止剤の白化を低減することができ、基材表面にウイルス感染阻止剤を付着させた場合に、基材の外観を損なうことなく、ウイルス感染阻止効果をより効果的に発現させることができる。
【0037】
分子中にスルホン酸基を有する化合物としては、分子中にスルホン酸基を有しておればよい。又、分子中にスルホン酸基の塩を有する化合物としては、分子中にスルホン酸基の塩を有しておればよい。
【0038】
分子中にスルホン酸基を有する化合物としては、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸など)、α-オレフィンスルホン酸(C12~C18のオレフィンスルホン酸など)、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸、線状高分子(例えば、ビニル重合体など)の側鎖にスルホン酸基を有するポリマーなどが挙げられる。
【0039】
分子中にスルホン酸基の塩を有する化合物としては、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウムなど)、α-オレフィンスルホン酸塩(例えば、C12~C18のオレフィンスルホン酸ナトリウム、C12~C18のオレフィンスルホン酸カルシウム、C12~C18のオレフィンスルホン酸アンモニウムなど)、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩(例えば、アルキル基がC6~C18のアルキルフェニルエーテルのスルホン酸ナトリウム塩、スルホン酸カルシウム塩、スルホン酸アンモニウム塩など)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ラウリル硫酸塩、線状高分子(例えば、ビニル重合体など)の側鎖にスルホン酸基の塩を有する重合体などが挙げられる。
【0040】
ウイルス感染阻止剤は、ウイルス感染阻止化合物を含有しているが、ウイルス感染阻止剤の製造方法は、特に限定されず、ウイルス感染阻止化合物に、必要に応じて添加される化合物を汎用の要領で混合してウイルス感染阻止剤を製造することができる。
【0041】
ウイルス感染阻止剤は、ウイルス感染阻止化合物の作用によって、各種ウイルスに対してウイルス感染阻止効果を有し、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスの双方に対して優れたウイルス感染阻止効果を発揮する。
【0042】
エンベロープウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス(例えばA型、B型等)、風疹ウイルス、エボラウイルス、コロナウイルス[例えば、SARSウイルス、新型コロナウイルス(SARS―CoV―2)]、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、アルボウイルス、RSウイルス、肝炎ウイルス(例えば、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス等)、黄熱ウイルス、エイズウイルス、狂犬病ウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、ニパウイルス、リッサウイルスなどが挙げられる。
【0043】
ノンエンベロープウイルスとしては、例えば、ネコカリシウイルス、アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、ポリオウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトパルボウイルス、脳心筋炎ウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルスなどが挙げられる。
【0044】
ウイルス感染阻止剤は、粒子の表面に付着(担持)させて用いてもよい。ウイルス感染阻止化合物を粒子の表面に付着させておくことによって、ウイルス感染阻止剤が塊状となることなく、後述する基材に均一に分散させることができる。従って、ウイルス感染阻止剤の表面積を大きくすることができ、ウイルス感染阻止剤とウイルスとの接触を十分に確保し、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を十分に発揮させることができる。
【0045】
ウイルス感染阻止剤を表面に付着させる粒子としては、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を阻害しなければ、特に限定されない。粒子は、樹脂粒子及び無機粒子を含む。粒子は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0046】
樹脂粒子を構成している合成樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ABS樹脂;スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)などの合成ゴムなどが挙げられ、スチレン系樹脂が好ましく、ポリスチレンがより好ましい。
【0047】
スチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなどのスチレン系モノマーをモノマー単位として含む単独重合体又は共重合体、スチレン系モノマーと、このスチレン系モノマーと共重合可能な一種又は二種以上のビニルモノマーとをモノマー単位として含む共重合体などが挙げられる。
【0048】
スチレン系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなど)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなど)などのアクリル系モノマー、無水マレイン酸、アクリルアミドなどが挙げられる。
【0049】
アクリル系樹脂としては、特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレートなどのアクリル系モノマーをモノマー単位として含む単独重合体又は共重合体、アクリル系モノマーと、このアクリル系モノマーと共重合可能な一種又は二種以上のビニルモノマーとをモノマー単位として含む共重合体などが挙げられる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0050】
アクリル系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、アクリルアミドなどが挙げられる。
【0051】
無機粒子を構成している無機材料としては、特に限定されず、例えば、ゼオライト、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0052】
樹脂粒子を構成している合成樹脂は、芳香族環を含有していることが好ましい。芳香族環が、樹脂粒子の表面に付着しているウイルス感染阻止化合物の疎水性部分を引き付け、カルボキシ基を外方に配向させる作用を奏し、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果をより効果的に発揮させることができる。
【0053】
芳香族環は、単環状の芳香族環であっても、単環状の芳香族環が複合して縮合(縮合芳香族環)していてもよい。芳香族環としては、特に限定されず、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル、フェノキシフェニルなどが挙げられる。芳香族環は、芳香族環及び縮合芳香族環の何れか1個又は複数個の水素原子が引き抜かれ、他の原子と共有結合により結合している。
【0054】
樹脂粒子に対するウイルス感染阻止化合物の付着量は、樹脂粒子100質量部に対して1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、7質量部以上がより好ましく、10質量部以上がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物の付着量が1質量部以上であると、樹脂粒子の表面にウイルス感染阻止剤を均一に付着させることができ、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果をより効果的に発揮させることができる。
【0055】
樹脂粒子に対するウイルス感染阻止化合物の付着量は、樹脂粒子100質量部に対して50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がより好ましい。ウイルス感染阻止化合物の付着量が50質量部以下であると、ウイルス感染阻止剤同士の結合が行われず、効率的に樹脂粒子表面にウイルス感染阻止剤が配置されウイルス感染阻止効果が向上する。
【0056】
樹脂粒子表面へのウイルス感染阻止剤の付着要領は、特に限定されず、例えば、ウイルス感染阻止剤の接着力によってもよいし、バインダー樹脂を用いて樹脂粒子の表面にウイルス感染阻止剤を接着してもよいが、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を効果的に発揮させることができるので、ウイルス感染阻止化合物自体の接着力によって、ウイルス感染阻止化合物が樹脂粒子の表面に付着していることが好ましい。
【0057】
ウイルス感染阻止剤は、ウイルス感染阻止効果を付与したい基材に含有させて用いられ、ウイルス感染阻止剤を含有する基材は、ウイルス感染阻止製品としてウイルス感染阻止効果を発現する。
【0058】
ウイルス感染阻止剤を含有させる基材としては、ウイルス感染阻止剤を含有させることができれば、特に限定されず、例えば、合成樹脂成形体、塗料、壁紙、化粧シート、床材、繊維製品(織物、不織物、編物)、車輛(例えば、車、飛行機、船など)用の内用品及び内装材(シート、チャイルドシート及びこれらを構成している発泡体など)、キッチン用品、ベビー用品、建築内装材などが挙げられる。
【0059】
塗料としては、従来公知の塗料が用いられ、例えば、油性塗料(例えば、調合ペイント、油ワニスなど)、セルロース塗料、合成樹脂塗料などが挙げられる。塗料には、紫外線などの放射線の照射によって重合してバインダー成分を生成する光硬化性塗料も含まれる。
【0060】
塗料には、その物性を損なわない範囲内において、顔料、可塑性、硬化剤、増量剤、充填剤、老化防止剤、増粘着、界面活性剤などの添加剤が含有されていてもよい。なお、塗料中にウイルス感染阻止剤を含有させる方法としては、例えば、ウイルス感染阻止剤と塗料とを分散装置に供給して均一に混合する方法などが挙げられる。なお、分散装置としては、例えば、ハイスピードミル、ボールミル、サンドミルなどが挙げられる。
【0061】
建築内装材とは、特に限定されず、例えば、床材、壁紙、天井材、塗料、ドアノブ、スイッチ、スイッチカバー、ワックスなどを挙げることができる。
【0062】
車輛内用品及び車輛内装材とは、特に限定されず、例えば、シート、チャイルドシート、シートベルト、カーマット、シートカバー、ドア、天井材、フロアマット、ドアトリム、インパネ、コンソール、グローブボックス、吊り革、手すりなどを挙げることができる。
【実施例0063】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0064】
ウイルス感染阻止化合物として、カルボキシ基含有化合物1~6、カルボキシ基の塩含有化合物、スルホン酸の塩含有化合物1及び2、並びに、アミノアルキル基含有化合物を用意し、これらのウイルス感染阻止化合物をウイルス感染阻止剤として用いた。
【0065】
[カルボキシ基含有化合物1~4及びカルボキシ基の塩含有化合物の粒子の作製]
表1に示した所定量のアクリル酸、アクリル酸ナトリウム及びアクリル酸メチルを混合してアクリルモノマー溶液を得た。得られたアクリルモノマー溶液に、ラジカル重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキサン-1-イルフェニルケトン(IGM Resins B.V.社製 商品名「Omnirad 184」)を表1に示した所定量添加して溶解させて原料組成物を作製した。
【0066】
原料組成物をポリエチレンフィルム上にワイヤーバーコーター♯14を用いて塗工し、厚み35μmの塗工層を形成した。UVコンベア装置(アイグラフィックス社製 商品名「ECS301G1」)を用いて25℃にて塗工層に波長365nmの紫外線を積算光量が2000mJ/cm2となるように照射してラジカル重合を行って、ウイルス感染阻止化合物として、カルボキシ基含有化合物(線状高分子の側鎖にカルボキシ基を有するポリマー)1~4及びカルボキシ基の塩含有化合物(線状高分子の側鎖にカルボキシ基の塩を有するポリマー)を得た。
【0067】
ウイルス感染阻止化合物をロールプレス装置(セイシン企業社 商品名「150型」)を用いて回転数25rpm、押力25tの運転条件にて粗粉砕後、ジェットミル装置(日清エンジニアリング社製 商品名「SJ-500」)を用いて、ウイルス感染阻止化合物の供給速度1kg/h、圧縮空気圧力0.75MPaの運転条件下にて粉砕してウイルス感染阻止化合物(カルボキシ基含有化合物1~4及びカルボキシ基の塩含有化合物)の粒子を得た。
【0068】
[カルボキシ基含有化合物2の粒子が表面に付着したポリスチレン粒子の作製]
カルボキシ基含有化合物2の粒子を5質量部、及び、平均粒子径4μmを有するポリスチレン樹脂粒子(一次粒子)10質量部を水100質量部に供給し、スプレードライヤーを用いてアトマイザー回転速度20000rpmにて粉体化し、ポリスチレン粒子の表面にカルボキシ基含有化合物2の粒子全量を付着(担持)させた後、ジェットミル装置(日清エンジニアリング社製 商品名「SJ-500」)を用いて、原料供給速度1kg/h、圧縮空気圧力0.75MPaの運転条件下にて粉砕し、カルボキシ基含有化合物2の粒子が表面に付着したポリスチレン粒子を得た。なお、表2において、「カルボキシ基含有化合物2の粒子が表面に付着したポリスチレン粒子」は、「粒子付着カルボキシ基含有化合物2」と表記した。
【0069】
[カルボキシ基含有化合物5の粒子の作製)
アジピン酸(東京化成工業社製 商品名「Adipic Acid」)をロールプレス装置(セイシン企業社 商品名「150型」)を用いて回転数25rpm、押力25tの運転条件にて粗粉砕後、ジェットミル装置(日清エンジニアリング社製 商品名「SJ-500」)を用いて、ウイルス感染阻止化合物の供給速度1kg/h、圧縮空気圧力0.75MPaの運転条件下にて粉砕してウイルス感染阻止化合物(カルボキシ基含有化合物5)の粒子を得た。なお、表2の「重量平均分子量」の欄にアジピン酸の分子量を便宜上、記載した。
【0070】
[カルボキシ基含有化合物6の粒子の作製)
アジピン酸の代わりに、カプリン酸(東京化成工業社製 商品名「Decanoic Acid」)を用いたこと以外はカルボキシ基含有化合物5の粒子の作製と同様の要領にてウイルス感染阻止化合物(カルボキシ基含有化合物6)の粒子を得た。なお、表2の「重量平均分子量」の欄にカプリン酸の分子量を便宜上、記載した。
【0071】
[スルホン酸の塩含有化合物1の粒子の作製)
アジピン酸の代わりに、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(カルボキシ基及びカルボキシ基の塩は含有していない、Nouryon社製 商品名「Versa-TL 502」)を用いたこと以外はカルボキシ基含有化合物5の粒子の作製と同様の要領にてウイルス感染阻止化合物(スルホン酸の塩含有化合物1)の粒子を得た。
【0072】
[スルホン酸の塩含有化合物2の粒子の作製]
アジピン酸の代わりに、ラウリル硫酸ナトリウム(カルボキシ基及びカルボキシ基の塩は含有していない、花王社製 商品名「エマール10PT」)を用いたこと以外はカルボキシ基含有化合物5の粒子の作製と同様の要領にてウイルス感染阻止化合物(スルホン酸の塩含有化合物2)の粒子を得た。なお、表2の「重量平均分子量」の欄にラウリル硫酸ナトリウムの分子量を便宜上、記載した。
【0073】
[アミノアルキル基含有化合物の粒子の作製]
アジピン酸の代わりに、アミノアルキル基含有化合物(カルボキシ基及びカルボキシ基の塩は含有していない、スルホン酸基及びスルホン酸基の塩は含有していない、Evonik Nutrition & Care GmbH社製 商品名「オイドラギットEPO」)を用いたこと以外はカルボキシ基含有化合物5の粒子の作製と同様の要領にてウイルス感染阻止化合物(アミノアルキル基含有化合物)の粒子を得た。
【0074】
ウイルス感染阻止化合物の重量平均分子量、カルボキシ基及びカルボキシ基の塩の総含有量(カルボキシ基及びその塩の総含有量)、pKa1及びpHを表2に示した。
【0075】
(実施例1~5及び比較例1~5)
上述の要領で作製された表2に示した粒子状のウイルス感染阻止化合物3質量部を含むウイルス感染阻止剤と、紫外線硬化型アクリル塗料(コートテック社製 商品名「AI-N2」)97質量部とを混合して塗料組成物を作製した。塗料組成物をポリエチレンフィルム上にワイヤーバーコーター♯8を用いて厚み18μmに塗工して塗工層を形成した。
【0076】
UVコンベア装置(アイグラフィックス社製「ECS301G1」)を用いて25℃にて塗工層に波長365nmの紫外線を積算光量500mJ/cm2となるように照射して紫外線硬化型アクリル塗料を硬化させて厚みが18μmの塗膜を形成した。
【0077】
(実施例6)
上述の要領で作製された、カルボキシ基含有化合物2が表面に付着したポリスチレン粒子を含むウイルス感染阻止剤(カルボキシ基含有化合物2を3質量部含む)と、紫外線硬化型アクリル塗料(コートテック社製 商品名「AI-N2」)97質量部とを混合して塗料組成物を作製した。塗料組成物をポリエチレンフィルム上にワイヤーバーコーター♯8を用いて厚み18μmに塗工して塗工層を形成した。
【0078】
UVコンベア装置(アイグラフィックス社製「ECS301G1」)を用いて25℃にて塗工層に波長365nmの紫外線を積算光量500mJ/cm2となるように照射して紫外線硬化型アクリル塗料を硬化させて厚みが18μmの塗膜を形成した。
【0079】
得られた塗膜について、水噴射試験及び熱安定性試験を下記の要領で行い、その結果を表2に示した。
【0080】
ウイルス感染阻止化合物を含むウイルス感染阻止剤について、インフルエンザウイルス(エンベロープウイルス)及びネコカリシウイルス(ノンエンベロープウイルス)を用いて抗ウイルス試験を行い、その結果を表2に示した。
【0081】
(水噴射試験)
塗膜について、JIS K7227に準拠して水噴霧試験を行い、水噴霧試験後の塗膜のヘイズをJIS K 7361に準拠して評価した。ヘイズは、室温25℃、相対湿度40%の環境下にて、ヘイズメータ(村上色彩技術研究所社製、「HM-150」)を用いてヘイズ値(%)を測定した。水噴霧試験は、試験層の温度を40℃±2℃とし、試験時間は24時間として実施した。
【0082】
(熱安定性試験)
塗膜について、JIS K 7212に準拠して熱安定性試験を行い、熱安定性試験前後の塗膜のイエローインデックスの差(ΔYI)(ΔYI=熱安定性試験後の塗膜のイエローインデックス-熱安定性試験前の塗膜のイエローインデックス)を測定した。熱安定性試験における試験温度は250℃とし、試験時間は10分間とした。
【0083】
(抗ウイルス試験)
塗膜について、一辺が5.0cmの平面正方形状を切り出すことによって試験片を作製した。
【0084】
得られた試験片の塗膜の表面を一辺が10cmの平面正方形状の不織布(日本製紙クレシア社製 商品名「キムワイプ S-200」)に1mLの水を染み込ませ、塗膜表面を不織布で10往復させて拭き取り、試験塗膜とした。
【0085】
得られた試験塗膜について、インフルエンザウイルス及びネコカリシウイルスの抗ウイルス試験をISO21702に準拠して行った。反応後のウイルス懸濁液について、プラック法により試験塗膜のウイルス感染価を算出した。
【0086】
ウイルス感染阻止剤を含有させないこと以外は上記と同様の要領でブランク塗膜を作製し、このブランク塗膜に基づいて上記と同様の要領でウイルス感染価(常用対数値)(PFU/cm2)を算出した。ブランク塗膜のウイルス感染価(常用対数値)は、6.5PFU/cm2であった。
【0087】
ブランク塗料のウイルス感染価から試験塗膜のウイルス感染価を引くことによって抗ウイルス活性値を算出した。
【0088】
【0089】