(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068584
(43)【公開日】2023-05-17
(54)【発明の名称】空気清浄機
(51)【国際特許分類】
A61L 9/20 20060101AFI20230510BHJP
F24F 8/22 20210101ALI20230510BHJP
F24F 8/80 20210101ALI20230510BHJP
【FI】
A61L9/20
F24F8/22
F24F8/80 140
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021179846
(22)【出願日】2021-11-02
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504015481
【氏名又は名称】株式会社小島産業
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正紀
【テーマコード(参考)】
4C180
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA07
4C180DD03
4C180HH05
4C180HH19
4C180MM08
(57)【要約】
【課題】簡易な構造でありつつ、安全性および殺菌・ウイルス不活化効果に優れる空気清浄機を提供する。
【解決手段】空気清浄機1は、吸気口5から排気口6までの通気空間13を内部に有する筐体2と、筐体2の通気空間13に空気を導入するためのファン10と、ファン10により導入された空気に紫外線を照射する1または2以上の紫外線照射装置11とを備えてなり、紫外線照射装置11は、253.7nmの紫外線を主に放射する紫外線ランプ19を有し、通気空間13に殺菌・ウイルス不活化室14が設けられ、殺菌・ウイルス不活化室14は、対向して設けられる2枚の側板15a、15bを有し、これらの側板は、殺菌・ウイルス不活化室14の内側を向く面が鏡面であり、これらの側板の間に紫外線照射装置11が空気の流れ方向に対して直交するように設けられ、通気空間13において、前後折り返しとなる通気経路を有さず、かつ、フィルタを有さない。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口から排気口までの通気空間を内部に有する筐体と、前記筐体の通気空間に空気を導入するためのファンと、前記ファンにより導入された前記空気に紫外線を照射する1または2以上の紫外線照射装置とを備えてなる空気清浄機であって、
前記紫外線照射装置は、253.7nmの紫外線を主に放射する紫外線ランプを有し、
前記通気空間に殺菌・ウイルス不活化室が設けられ、
前記殺菌・ウイルス不活化室は、対向して設けられる2枚の側板を有し、これらの側板は、前記殺菌・ウイルス不活化室の内側を向く面が鏡面であり、これらの側板の間に前記紫外線照射装置が前記空気の流れ方向に対して直交するように設けられ、
前記通気空間において、前後折り返しとなる通気経路を有さず、かつ、フィルタを有さないことを特徴とする空気清浄機。
【請求項2】
前記殺菌・ウイルス不活化室の容積は、前記殺菌・ウイルス不活化室以外の前記通気空間の容積よりも大きいことを特徴とする請求項1記載の空気清浄機。
【請求項3】
前記殺菌・ウイルス不活化室における通気経路の中心軸は略一直線状であり、前記筐体の排気口における排気経路の中心軸と非同軸であり、
前記ファンは、前記筐体の排気口側で前記殺菌・ウイルス不活化室の通気経路の中心軸から外れて配置され、
前記殺菌・ウイルス不活化室の2枚の側板のうち、前記ファンから遠い側の側板は、前記排気口側の端部に、通気経路を前記ファンに向ける湾曲部を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の空気清浄機。
【請求項4】
前記紫外線照射装置は、前記殺菌・ウイルス不活化室の2枚の側板の少なくともいずれかに隣接して設けられることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の空気清浄機。
【請求項5】
前記一方の側板は、前記筐体の内部に固定して設けられた固定板であり、
前記2枚の側板のうち他方の側板は、前記筐体の内部に出し入れ可能に設けられた可動板であり、
前記紫外線照射装置は、前記固定板と前記可動板にそれぞれ少なくとも1つ設けられ、
前記可動板は、前記可動板に設けられた紫外線照射装置と、前記固定板に設けられた紫外線照射装置が接触することなく、前記筐体に出し入れ可能であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載の空気清浄機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線を照射して空気を清浄にする空気清浄機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気中の細菌やウイルス(以下、「ウイルスなど」ともいう)の除去に、集塵フィルタ、オゾン、紫外線、次亜塩素酸などを用いた種々の除菌・不活化装置や除菌・不活化方法が用いられている。除菌・不活化装置としては、例えば、以下の空気清浄機が提案されている。
【0003】
特許文献1には、HEPAフィルタまたはULPAフィルタなどの集塵フィルタを紫外線ランプに並列するように配置して、該集塵フィルタで空気中の塵埃を捕集するとともに紫外線ランプによる紫外線の照射により、細菌類を殺菌して清浄空気を外部に放出する空気清浄器が開示されている。また、特許文献1には、紫外線ランプが集塵フィルタの前後両面に該集塵フィルタの濾材のプリーツ方向に対して直交して配置されることで、集塵フィルタ全体に紫外線が届いて集塵フィルタで捕集された細菌類を効率的かつ確実に殺菌できる旨が記載されている。
【0004】
特許文献2には、フィルタ材、紫外線ランプ、および循環ファンを含んで、それにより空気が吸い込まれ、濾過され、殺菌され、そして空気浄化および殺菌機能を有し、それにより空気の質を改善する殺菌空気清浄機が開示されている。また、特許文献2には、紫外線ランプは、254nm、または185nmの波長帯域もあり、それにより、殺菌空気清浄機は、効果的に空気中のバクテリアやウイルスを滅菌することが可能である旨が記載されている。
【0005】
特許文献3には、筐体を構成する対向する側板と側板の間に、反射板で形成した複数枚の仕切り板を、間隔を明けて差し渡し、隣り合う2枚1組の仕切り板と筐体の対向する側板内側とにより、前後左右を反射板で囲まれた複数の除菌室が形成された空気清浄装置が開示されている。また、特許文献3には、室内の空気が先頭の除菌室から最後尾の除菌室に至るまで、装置内部を蛇行しながら通過し、その後、排気室の排気口から装置の外部すなわち室内に、放出されることで、空気は除菌室内を、時間をかけて斜めに横断するので、照射効率がよく、効率よく除菌清浄できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-190269号公報
【特許文献2】実用新案登録第3223623号公報
【特許文献3】実用新案登録第3232435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
空気清浄機として次亜塩素酸希釈液を空中噴霧する装置を用いる場合、設置空間に加湿器のように次亜塩素酸希釈液を空中噴霧して殺菌するというメカニズムのため、噴霧濃度が過度に高くなった場合に、当該空間に人が作業・学習・スポーツなどで存在すると、人体へ影響を与えるおそれがある。また、次亜塩素酸液を希釈して装置へ挿入する手間や、年間数万円程度の薬剤購入費用を要する。
【0008】
また、空気清浄機として無声放電や沿面放電によりオゾンを発生する装置を用いる場合、オゾンの強力な酸化力によって殺菌などができる。しかし、その強力な酸化力ゆえ、オゾン濃度が過度に上昇(例えば、0.1ppm以上)すると人体に影響を与えるおそれがあり、一方、過度に低すぎる(例えば、0.01ppm以下)と殺菌効果が期待できないため、適切なオゾン濃度の管理や、維持が必要である。このように、次亜塩素酸などの殺菌性薬剤や、オゾンなどの殺菌性ガスを利用する空気清浄機は、安全性の観点から、設置場所、稼働時間などの制限を受ける場合があると考えられる。
【0009】
特許文献1に記載の空気清浄器の場合、空気中の塵や、埃、細菌の捕捉性に優れるものの、フィルタにおける圧力損失が大きいため、空気がスムーズに流れにくく、通気性が低いと考えられる。また、装置の構成部材が多く構造が複雑であるため修理の難易度が高く、フィルタ交換の手間や、年間数万円程度の交換用フィルタ購入費用も掛かる。
【0010】
特許文献2に記載の殺菌空気清浄機の場合、空気吹出口の近傍には紫外線ランプが配置されており、空気吹出口から本体ケーシングの内部を覗いた場合に、漏洩した紫外線が使用者の目に入るおそれがある。また、185nmの紫外線を発生し空気中の酸素をオゾンに変換する旨の記載があるが、その場合、通気性を低下させてしまうオゾン分解フィルタなどを設ける必要もあると考えられる。
【0011】
特許文献3に記載の空気清浄装置では、筐体内に多くの仕切り板を設けて各除菌室の対角線上に1対のスリットを形成することにより紫外線の装置外部への漏洩を抑制しているものの、装置構造が複雑であるため、故障時の装置メンテナンスや、ランプ交換の手間が大きいと考えられる。
【0012】
また、特許文献3には、筐体内の複数室の除菌室を一連に通気可能に接続している旨の記載がある。しかし、通気経路は蛇行した曲路であるとともに、通気方向に垂直な通気経路の断面積は吸気口から排気口に至るまでに拡大と縮小を繰返し、通気経路の中央には紫外線光源が配置されているため、空気がスムーズに流れにくいと考えられる。
【0013】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、簡易な構造でありつつ、安全性および殺菌・ウイルス不活化効果に優れる空気清浄機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の空気清浄機は、吸気口から排気口までの通気空間を内部に有する筐体と、上記筐体の通気空間に空気を導入するためのファンと、上記ファンにより導入された上記空気に紫外線を照射する1または2以上の紫外線照射装置とを備えてなり、上記紫外線照射装置は、253.7nmの紫外線を主に放射する紫外線ランプを有し、上記通気空間に殺菌・ウイルス不活化室が設けられ、上記殺菌・ウイルス不活化室は、対向して設けられる2枚の側板を有し、これらの側板は、上記殺菌・ウイルス不活化室の内側を向く面が鏡面であり、これらの側板の間に上記紫外線照射装置が上記空気の流れ方向に対して直交するように設けられ、上記通気空間において、前後折り返しとなる通気経路を有さず、かつ、フィルタを有さないことを特徴とする。
【0015】
上記殺菌・ウイルス不活化室の容積は、上記殺菌・ウイルス不活化室以外の上記通気空間の容積よりも大きいことを特徴とする。
【0016】
上記殺菌・ウイルス不活化室における通気経路の中心軸は略一直線状であり、上記筐体の排気口における排気経路の中心軸と非同軸であり、上記ファンは、上記筐体の排気口側で上記殺菌・ウイルス不活化室の通気経路の中心軸から外れて配置され、上記殺菌・ウイルス不活化室の2枚の側板のうち、上記ファンから遠い側の側板は、上記排気口側の端部に、通気経路を上記ファンに向ける湾曲部を有することを特徴とする。
【0017】
上記紫外線照射装置は、上記殺菌・ウイルス不活化室の2枚の側板の少なくともいずれかに隣接して設けられることを特徴とする。
【0018】
上記一方の側板は、上記筐体の内部に固定して設けられた固定板であり、上記2枚の側板のうち他方の側板は、上記筐体の内部に出し入れ可能に設けられた可動板であり、上記紫外線照射装置は、上記固定板と上記可動板にそれぞれ少なくとも1つ設けられ、上記可動板は、上記可動板に設けられた紫外線照射装置と、上記固定板に設けられた紫外線照射装置が接触することなく、上記筐体に出し入れ可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の空気清浄機は、通気空間において、前後折り返しとなる通気経路を有さず、かつ、フィルタを有さないので、通気空間内をスムーズに空気が流れ、通気性に優れる。また、紫外線照射装置は、253.7nmの紫外線を主に放射する紫外線ランプを有し、通気空間に殺菌・ウイルス不活化室が設けられ、殺菌・ウイルス不活化室は、対向して設けられる2枚の側板を有し、これらの側板は、殺菌・ウイルス不活化室の内側を向く面が鏡面であり、これらの側板の間に紫外線照射装置が空気の流れ方向に対して直交するように設けられるので、殺菌・ウイルス不活化室内で紫外線が多重反射して殺菌・ウイルス不活化効果に優れるとともに、放電方式の空気清浄機と比べてオゾンが発生しにくく、安全性に優れる。これらにより、本発明の空気清浄機は、簡易な構造でありつつ、安全性と殺菌・ウイルス不活化効果により優れる。
【0020】
殺菌・ウイルス不活化室の容積は、殺菌・ウイルス不活化室以外の通気空間の容積よりも大きいので、効率的に殺菌・ウイルス不活化(空気清浄化)できる。
【0021】
殺菌・ウイルス不活化室における通気経路の中心軸は略一直線状であり、筐体の排気口における排気経路の中心軸と非同軸であり、ファンは、筐体の排気口側で殺菌・ウイルス不活化室の通気経路の中心軸から外れて配置され、殺菌・ウイルス不活化室の2枚の側板のうち、ファンから遠い側の側板は、排気口側の端部に、通気経路をファンに向ける湾曲部を有するので、紫外線の外部への漏洩が抑制されつつ、通気空間内をスムーズに空気が流れる。これにより、本発明の空気清浄機は、室内の空気が清浄機内をより多くの回数循環でき、安全性と殺菌・ウイルス不活化効果により優れる。
【0022】
紫外線照射装置は、殺菌・ウイルス不活化室の2枚の側板の少なくともいずれかに隣接して設けられるので、紫外線照射装置が空気の流れを阻害しにくく、通気性により優れる。
【0023】
一方の側板は、筐体の内部に固定して設けられた固定板であり、2枚の側板のうち他方の側板は、筐体の内部に出し入れ可能に設けられた可動板であり、紫外線照射装置は、固定板と可動板にそれぞれ少なくとも1つ設けられ、可動板は、可動板に設けられた紫外線照射装置と、固定板に設けられた紫外線照射装置が接触することなく、筐体に出し入れ可能であるので、殺菌・ウイルス不活化室に多くの紫外線照射装置を設けた場合でも、殺菌・ウイルス不活化室の中央部の空気の流れが阻害されにくく、通気性にさらに優れる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図3】
図2に示した殺菌・ウイルス不活化室の拡大図である。
【
図4】空気清浄機メンテナンス時の断面模式図である。
【
図5】実施例1および実施例2の空気清浄機の断面模式図である。
【
図6】空間ウイルス量の経時プロットを示す図である。
【
図7】ウイルス減少割合が99%になるのに要する時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の空気清浄機の一例について、
図1を用いて説明する。
図1は、空気清浄機の斜視図である。
図1(a)は、空気清浄機の正面側の斜視図で、
図1(b)は、空気清浄機の背面側の斜視図である。
図1に示すように、空気清浄機1の直方体の筐体2の正面には正面側パネル3が設けられ、背面には背面側パネル4が設けられる。空気清浄機1は、背面側パネル4に吸気口5を備え、正面側パネル3に排気口6を備える。
【0026】
空気清浄機1の上面には、紫外線ランプの点灯確認孔7が設けられ、装置使用時に紫外線照射装置が正常に作動しているか確認できる。点灯確認孔7にはUVカットフィルターが設けられているため、紫外線ランプからの紫外線は直接外に漏れない。空気清浄機1の下面の四隅にはキャスター8が設けられ、必要に応じて装置を容易に移動できる。
【0027】
筐体2には、吸気口5を覆うように保護カバー9が設けられ、筐体内部への埃の侵入や、外部への紫外線の漏洩を抑制する。保護カバー9は、筐体2との間に所定の隙間を開けて固定され、空気の通り道である通気経路が確保される。また、排気口6は、複数の細長い貫通孔を並列して形成され、通気性を確保しつつ、筐体内部への小物の誤投入を抑制している。また、吸気口5と排気口6の形状は、通気性を確保しつつ、筐体内部への小物の誤投入などを抑制できれば、網目状などであってもよい。
【0028】
空気清浄機の内部構造の一例について、
図2を用いて説明する。
図2は、空気清浄機の横方向の断面模式図である。
図2に示すように、空気清浄機1は、筐体内部に空気を導入するファン10と、ファン10により導入された空気に紫外線を照射する紫外線照射装置11とを備える。ファン10は、円筒形状のクロスフローファンであり、排気室12とともにファンユニットとして筐体2の排気口6の内側に設けられる。
【0029】
筐体内部の通気空間13には、紫外線照射装置11が設けられる殺菌・ウイルス不活化室14が配置される。ここで、殺菌・ウイルス不活化室とは、細菌やカビなどの微生物の殺菌またはウイルスの不活化が行われる空間を意味する。紫外線照射装置11は、253.7nmの紫外線を主に放射する紫外線ランプ19を有する。殺菌・ウイルス不活化室14では、紫外線照射装置11から照射される紫外線によりウイルスなどが不活化される。また、この紫外線は臭気物(有機物)の結合を切断するため消臭効果も期待できる。紫外線照射装置11は、空気の流れ方向に対して直交するように、5本の紫外線照射装置11が所定の間隔を開けて林立して設けられている。空気の流れ方向に対して直交させることで、その周囲には空気の流れの滞留ができ(通気性を阻害しない程度)、紫外線の照射時間が増加し、殺菌・ウイルス不活化の効率を向上できる。
【0030】
殺菌・ウイルス不活化室14は、対向して配置される2枚の側板15a、15bを備える。殺菌・ウイルス不活化室14は、側板15a、15bと、空気清浄機の上板と、空気清浄機の床板(または中間板)との間に形成される空間である。2枚の側板15a、15bは、殺菌・ウイルス不活化室14の内側を向く面が鏡面加工されたステンレス板である。また、2枚の側板15a、15bは、例えば、両方が筐体に固定されてもよいし、両方が可動してもよい。または、一方が可動して、他方が筐体に固定されてもよい。殺菌・ウイルス不活化室14の内部において、紫外線照射装置11は、側板15aに3本、側板15bに2本設けられる。なお、紫外線照射装置11は、側板15a、15bのいずれかに1つだけ設けてもよいし、片方の側板のみに複数設けてもよい。
【0031】
空気清浄機1は、通気空間13において、前後折り返しとなる通気経路を有さない。ここで「前後折り返しとなる通気経路」は、1つの折り曲げ箇所で、または、連続する折り曲げ箇所を組み合わせて、略180°以上の角度で折り曲げられた通気経路を意味する。殺菌・ウイルス不活化室14における通気経路の中心軸C
1は、略一直線状である。殺菌・ウイルス不活化室14の容積は、殺菌・ウイルス不活化室14以外の通気空間(
図2の場合は排気室12)の容積よりも大きい。これにより、空気は、空気清浄機1の内部を通気する時間の大半で紫外線を照射されるため、効率的に殺菌・ウイルス不活化できる。
【0032】
2枚の側板15a、15bの殺菌・ウイルス不活化室14の内側を向く面の面間距離は、例えば、30mm~400mmとできる。紫外線による殺菌効果は、紫外線照射装置からの距離に反比例するため、面間距離は、30mm~300mmであることが好ましく、30mm~200mmであることがより好ましく、30mm~100mmであることがさらに好ましく、50mm~80mmであることが一層好ましい。
【0033】
2枚の側板の素材は、ステンレスに限らず、樹脂製の板、ステンレス、鋼、銅などの金属製の板などから自由に選択できる。紫外線による劣化防止の観点から、2枚の側板の素材は、金属製が好ましく、側板の腐食防止の観点から、ステンレスがより好ましい。樹脂製の側板を用いる場合、側板表面に金属箔を貼り付けたり、金属を蒸着して金属薄膜を形成したりしてもよい。2枚の側板の鏡面加工は、電解研磨などの化学的研磨、切削機、研削機、研磨機などを用いた機械的研磨などによって行われる。
【0034】
空気清浄機1は、筐体2の内部の通気空間13にフィルタを有していない。これにより、吸気口5で取り込まれた空気は、吸気口5から排気口6までの通気経路を一連に通気できる。本発明における「フィルタ」は、HEPAフィルタまたはULPAフィルタなどのフィルタや、オゾン分解フィルタなどを意味する。なお、通気量に影響を及ぼさない数mm程度の粗大な埃やごみを防ぐフィルタは含まない。すなわち、通気量に影響を及ぼさない数mm程度の粗大な埃やごみを防ぐフィルタであれば、これを吸気口5や排気口6に設置してもよい。
【0035】
本発明の空気清浄機は、通気空間において、前後折り返しとなる通気経路を有さず、かつ、フィルタを有さないので、通気空間内をスムーズに空気が流れ、通気性に優れる。これにより、対象室内の空気が、清浄機内を多くの回数循環できるので、殺菌・ウイルス不活化効果に優れる。また、紫外線照射装置は、253.7nmの紫外線を主に放射する紫外線ランプを有し、通気空間に殺菌・ウイルス不活化室が設けられ、殺菌・ウイルス不活化室は、対向して設けられる2枚の側板を有し、これらの側板は、殺菌・ウイルス不活化室の内側を向く面が鏡面であり、これらの側板の間に紫外線照射装置が空気の流れ方向に対して直交するように設けられるので、殺菌・ウイルス不活化室内で紫外線が多重反射して殺菌・ウイルス不活化効果に優れるとともに、放電方式の空気清浄機と比べてオゾンが発生しにくく、安全性に優れる。
【0036】
ファンは、筐体内に空気を取り入れることができれば、通気空間のいずれの位置に配置されてもよい。ファンは、紫外線の外部への漏洩抑制の観点から、殺菌・ウイルス不活化室と排気口との間に配置することが好ましい。この場合、ファンは、クロスフローファンであることがより好ましい。
【0037】
ファンの種類としては、例えば、クロスフローファン、シロッコファン、プロペラファンなどから選択できる。空気清浄機には、設置空間を迅速に除菌・ウイルス不活化することが第一に要求され、人の居住空間に設置する場合には静粛性も要求される。ファンとしては、空気吸入排気能力および静粛性の観点から、クロスフローファンが好ましい。クロスフローファンを用いた空気循環式の空気清浄機の場合、例えばプロペラタイプの換気扇用ファンよりも空気吸入排気能力に優れるので、換気力の弱い地下室や古い換気環境において、特に除菌・ウイルス不活化効果に優れる。また、ファンの空気吸入排気能力は、静粛性と殺菌・ウイルス不活化効果を両立する観点から、2m3/min~15m3/minが好ましく、3m3/min~10m3/minがより好ましく、5m3/min~8m3/minがさらに好ましい。例えば、7m3/minの空気吸入排気能力(抵抗無し)の場合、吸い込み25m3(6畳)の空間を30分で数回循環できる。
【0038】
空気清浄機が2以上の紫外線照射装置を備える場合、紫外線照射装置は2枚の側板の両方にそれぞれ設けられてもよいし、一方の側板にのみ設けられてもよい。紫外線照射装置を一方の側板にのみ設けた場合、両方の側板にそれぞれ設けた場合と比べ、殺菌・ウイルス不活化室における通気経路が直線状になりやすく通気性に優れる。また、紫外線照射装置の紫外線ランプの交換の際に作業者が手を挿入しやすく、メンテナンス性にも優れる。紫外線照射装置の数は、1または2以上で自由に設定できる。紫外線照射装置の数は、殺菌・ウイルス不活化効果と消費電力の観点から、2~10が好ましく、3~8がより好ましく、3~5がさらに好ましい。
【0039】
紫外線ランプは、253.7nmの紫外線を主に放射するものであれば、UV-Cランプや、LEDランプなどから自由に選択できる。UV-Cランプの場合、安全性の観点から、200nm以下の波長の紫外線を含まないことによりオゾン発生が起こりにくいオゾンレスタイプのUV-Cランプが好ましい。オゾンレスタイプのUV-Cランプとして、例えば、NEC社製のGL-15などを用いることができる。253.7nmの紫外線は、深紫外線とも呼ばれ、ウイルスの持つ遺伝子の光吸収スペクトルと紫外線ランプが発するスペクトルが類似(重複)している。そのため、ウイルスなどに紫外線を照射すると、遺伝子に光化学反応が起きて破壊され、ウイルスの増殖機能も失われ(不活化)、空気が浄化される。
【0040】
図2に示すように、殺菌・ウイルス不活化室14における通気経路の中心軸C
1は略一直線状であり、筐体2の排気口6における排気経路17の中心軸C
2と非同軸である。ファン10は、筐体2の排気口6の側で殺菌・ウイルス不活化室14の通気経路の中心軸C
1から外れて配置される。殺菌・ウイルス不活化室14の2枚の側板15a、15bのうち、ファン10から遠い側の側板15aは、排気口6の側の端部に、通気経路をファンに向ける湾曲部16を有する。湾曲部16の曲率半径は、例えば、10mm~200mmである。湾曲部16の曲率半径は、紫外線照射装置11から排気口6の側へ照射される紫外線が殺菌・ウイルス不活化室14へ反射されるとともに空気がスムーズに流れる観点から、10mm~150mmであることが好ましく、10mm~100mmであることがより好ましく、10mm~80mmであることがさらに好ましく、10mm~50mmであることが一層好ましい。
【0041】
上述した形状であることにより、例えば、空気吸入排気能力7m3/minのファンと所定の容積の殺菌・ウイルス不活化室を備えた空気清浄機の場合、吸入口から約0.5秒で排気口に到達し、殺菌・ウイルス不活化室を通気した空気中の細菌・ウイルスなどの大半を殺菌・ウイルス不活化できる。また、紫外線は殺菌・ウイルス不活化室の方へより多く反射され、紫外線の外部への漏洩が抑制される。また、一方の側板が湾曲部を有しない場合と比べ、ファン導入口周辺での乱流の発生が抑制されやすく、通気空間内をよりスムーズに空気が流れる。これにより、本発明の空気清浄機は、一定時間内に対象室内の空気が清浄機内をより多くの回数循環でき、安全性と殺菌・ウイルス不活化効果により優れる。
【0042】
紫外線照射装置は、殺菌・ウイルス不活化室の2枚の側板の少なくともいずれかに隣接して設けられることが好ましい。ここで、「隣接して設けられる」とは、紫外線照射装置と、この紫外線照射装置が設けられる側板との距離が、紫外線照射装置の紫外線ランプの直径よりも小さい距離で設けられることを意味する。これにより、紫外線照射装置が、通気経路の中心軸上などの側板から大きく離れた位置などに配置される場合よりも、紫外線照射装置および紫外線照射装置取付部などが空気の流れを阻害しにくく、通気性により優れる。上記紫外線照射装置と側板との距離は、通気性の観点から、紫外線ランプの直径の1/2よりも小さいことがより好ましく、紫外線ランプの直径の1/4よりも小さいことがさらに好ましく、紫外線ランプの直径の1/8よりも小さいことが一層好ましい。
【0043】
空気清浄機の一例として、2以上の紫外線照射装置が2枚の側板の両方に設けられ、側板の1枚が可動する空気清浄機について、
図3を用いて説明する。
図3は、
図2に示した殺菌・ウイルス不活化室の拡大図である。一方の側板15aは、筐体の内部に固定して設けられた固定板である。また、他方の側板15bは、筐体の内部に出し入れ可能に設けられた可動板である。紫外線照射装置11は、固定板、可動板のそれぞれの側において、中心軸C
1方向に所定の距離を離間して配置され、中心軸C
1方向に沿って進むにつれ固定板側と可動板側に交互に配置される。
【0044】
2以上の紫外線照射装置11は、固定板と可動板にそれぞれ少なくとも一つずつ設けられれば、各側板に設ける紫外線照射装置11の数は自由に設定できる。2以上の紫外線照射装置11は、固定板、可動板のそれぞれの側において、中心軸C1方向に所定の距離を離間して配置されなくてもよく、また、中心軸C1方向に沿って進むにつれ固定板側と可動板側に交互に配置されなくてもよい。
【0045】
可動板(側板15b)は、可動板に設けられた紫外線ランプ取付部18bおよび紫外線ランプ19bからなる紫外線照射装置11bと、固定板に設けられた紫外線ランプ取付部18aおよび紫外線ランプ19aからなる紫外線照射装置11aとが接触することなく、筐体に出し入れ可能である。具体的には、殺菌・ウイルス不活化室14を構成する並行に配置された2枚の側板15a、15bの面間距離Wsが、紫外線照射装置11aの突出幅Waと、紫外線照射装置11bの突出幅Wbとの和よりも大きい。
【0046】
このように、可動板は、対向する2枚の側板に設けられた紫外線照射装置同士が接触することなく、筐体に出し入れ可能な構造であるので、殺菌・ウイルス不活化室に多くの紫外線照射装置を設けた場合でも、殺菌・ウイルス不活化室における通気経路が蛇行しにくい。これにより、殺菌・ウイルス不活化室の中央部の空気の流れが阻害されにくく、通気性にさらに優れる。また、紫外線照射装置と、当該紫外線照射装置が設けられる側板により形成される隅部には乱流が生じやすく、通気する空気の一部が滞留しやすい。滞留する空気は、殺菌・ウイルス不活化室における通気経路の中心軸を流れる空気よりも比較的長い時間紫外線を照射され、良好な通気性と殺菌・ウイルス不活化の両立を図ることができると考えられる。
【0047】
上述した可動板を備えた空気清浄機のメンテナンスについて、
図4を用いて説明する。
図4は、2枚の側板の両方に紫外線照射装置を備えた空気清浄機をメンテナンスする際の断面模式図である。
図4に示すように、空気清浄機1のメンテナンス(紫外線ランプの交換や修理など)は、例えば、背面側パネルと、可動板を取り外して、固定板(側板15a)の紫外線照射装置取付側の空間を作業者の手が入りやすくした状態で行われる。これにより、メンテナンス時の作業性に優れるので、メンテナンス時に部品や紫外線照射装置11を損傷しにくい。このように、メンテナンス性の観点からも、空気清浄機1が可動板を備えることは好ましい。
【実施例0048】
<浮遊ウイルス除去性能評価>
本発明の空気清浄機の殺菌・ウイルス不活化効果を評価するため、日本電機工業会の空気清浄機の浮遊ウイルスに対する除去性能評価試験方法に準拠して試験した。本試験では、紫外線照射装置を3つ有する空気清浄機(実施例1)と、紫外線照射装置を5つ有する空気清浄機(実施例2)を用いた。紫外線照射装置には、NEC社製のGL-15を用いた。
【0049】
図5(a)に、実施例1で用いた空気清浄機の断面模式図を示す。また、
図5(b)に、実施例2で用いた空気清浄機の断面模式図を示す。
図5(a)に示すように、実施例1の空気清浄機1は、紫外線照射装置11を一方の側板15aに3本備える。また、
図5(b)に示すように、実施例2の空気清浄機1は、紫外線照射装置を一方の側板15aに3つ、他方の側板15bに2つ備える。他方の側板15bは、対向して配置される2枚の側板15a、15bにそれぞれ設けられた紫外線照射装置11a、11b同士が接触することなく筐体2に出し入れ可能である。
【0050】
以下に、試験に用いたウイルス、宿主細菌、および実験室を示す。
ウイルス:Escherichia coli phage φX174
宿主細菌:Escherichia coli C strain
実験室:6畳間の密閉空間(約21m3)
【0051】
試験は以下の方法で行った。実験室内に空気清浄機を設置し、実験室内にウイルス懸濁液を噴霧、ウイルス浮遊させた。実験室内の空気(ウイルス)を稼働0分のサンプルとして捕集後、空気清浄機の稼働を開始した。その後、稼働後10分、20分、30分と経時的に実験室内のウイルスを捕集し、ウイルス数を測定した。実施例1および実施例2のそれぞれの空気清浄機について、この試験を行うとともに、紫外線ランプを5本備えた非稼働状態の空気清浄機(比較例1)でも同様の試験を行った。
【0052】
実施例1、実施例2、および比較例1(自然減衰)のそれぞれについて、
図6に示すように空間ウイルス量の経時プロットを行った。その後、当該プロットの近似曲線の傾きを算出し、実施例1、実施例2の傾きの値から、それぞれ比較例1(自然減衰)の傾きの値の差をとることで、自然減衰の影響を排除したウイルス量変化の傾きを算出した。これらの値を基に実施例1、実施例2のウイルス減少割合が99%になるのに要する時間を算出した(
図7)。その結果、実施例1は約40分の稼働でウイルス減少割合が99%になり、実施例2は、約30分の稼働でウイルス減少割合が99%になることがわかった。なお、比較例1は、約30分の稼働ではウイルスがほとんど減少しないことが確認された。
【0053】
以上、本発明の空気清浄機について、各図を用いて説明したが上述の構成に限られない。
本発明の空気清浄機は、 簡易な構造でありつつ、安全性および殺菌・ウイルス不活化効果に優れるので、空気中の殺菌・ウイルス不活化が必要な種々の場所において広く利用できる。