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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023068735
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】電気設備
(51)【国際特許分類】
   A62C 3/16 20060101AFI20230511BHJP
   A62C 13/22 20060101ALI20230511BHJP
   C09K 21/02 20060101ALI20230511BHJP
   C09K 21/06 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
A62C3/16 C
A62C13/22
C09K21/02
C09K21/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021180006
(22)【出願日】2021-11-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】田辺 淳也
(72)【発明者】
【氏名】黒川 真登
(72)【発明者】
【氏名】椎根 康晴
(72)【発明者】
【氏名】本庄 悠朔
【テーマコード(参考)】
4H028
【Fターム(参考)】
4H028AA01
4H028AA22
4H028BA04
(57)【要約】
【課題】火災の発生及び拡大を防止することのできる、初期消火性に優れる電気設備を提供すること。
【解決手段】電気機器及び電気機器を収容する筐体を備え、筐体の内壁の少なくとも一部に電気機器と対向するようにして消火体が設けられており、消火体が、消火剤とバインダとを含む組成物を成形してなる消火材を含む、電気設備。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器及び前記電気機器を収容する筐体を備え、前記筐体の内壁の少なくとも一部に前記電気機器と対向するようにして消火体が設けられており、
前記消火体が、消火剤とバインダとを含む組成物を成形してなる消火材を含む、電気設備。
【請求項2】
前記電気機器と前記消火体との距離が150mm以下である、請求項1に記載の電気設備。
【請求項3】
前記消火剤が、有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、前記バインダが、ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の少なくとも一方の樹脂を含む、請求項1又は2に記載の電気設備。
【請求項4】
前記消火材が、前記塩及び前記樹脂の全量を基準として、前記塩を70~97質量%含む、請求項3に記載の電気設備。
【請求項5】
前記塩が、カリウム塩である、請求項3又は4に記載の電気設備。
【請求項6】
前記消火体が粘着層を含み、前記消火体が前記粘着層を介して前記内壁に設けられている、請求項1~5のいずれか一項に記載の電気設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気設備に関する。
【背景技術】
【0002】
配電盤、分電盤、操作盤等の電気設備では、短絡、スパーク、絶縁劣化、漏電等により火災が生じる虞がある。
【0003】
発火や火災の問題に対し、特許文献1では、消火液及び消火器を用いることが提案されている。特許文献2では、エアロゾル消火装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-276440号公報
【特許文献2】特開2017-080023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先行技術はいずれも、ある程度の時間が経過した後の火災への対処方法を提案するものである。一方、火災による被害を最小限に抑えるという観点からは、発火から間もない段階の電気設備に対し、何らかの消火作業(初期消火)が行われることが望ましい。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、火災の発生及び拡大を防止することのできる、初期消火性に優れる電気設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、電気機器及び電気機器を収容する筐体を備え、筐体の内壁の少なくとも一部に電気機器と対向するようにして消火体が設けられており、消火体が、消火剤とバインダとを含む組成物を成形してなる消火材を含む、電気設備を提供する。このような電気設備であれば、発火から間もない段階において消火体による消火作業が行われる。これにより火災の発生及び拡大を防止することができる。
【0008】
一態様において、電気機器と消火体との距離が150mm以下であってよい。
【0009】
一態様において、消火剤が、有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含み、バインダが、ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の少なくとも一方の樹脂を含んでよい。
【0010】
一態様において、消火材が、塩及び樹脂の全量を基準として、塩を70~97質量%含んでよい。
【0011】
一態様において、塩が、カリウム塩であってよい。
【0012】
一態様において、消火体が粘着層を含み、消火体が粘着層を介して内壁に設けられていてよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、火災の発生及び拡大を防止することのできる、初期消火性に優れる電気設備を提供することができる。
【0014】
本発明の利点を以下に簡潔にまとめる。
・炎が燃え広がることによる被害を最小限に留められる。
・人が火災発生を確認後、消火器を消火対象付近に持ち運び消火活動を行う必要が無い。
・自動消火装置等の設備に比して簡易的に設置できるため、設置場所の制限が少なくかつ必要な箇所に応じて適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、一実施形態に係る消火体の模式外観図である。
図2図2は、一実施形態に係る消火体の模式断面図である。
図3図3は、一実施形態に係る電気設備の模式外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
<消火体>
図1は、一実施形態に係る消火体の模式外観図である。消火体10は、基材から形成された包装袋11と、包装袋内に封入された消火材と、を備える。包装袋11は周縁に封止部11aを有し、封止部11aにおいて基材同士が接合されている。
【0018】
消火体を鉛直方向上部から見たとき、封止部11aの幅は特に制限されないが、消火剤の性状安定性の観点から、例えば2~40mmとすることができる。
【0019】
消火体の中央部の厚さは、その層構成や封入される消火材の量により変動するため必ずしも限定されないが、消火性能を維持しつつ、設置スペースを問われないよう薄型化できる観点から、例えば2~20mmとすることができる。また、消火体の主面(消火体を鉛直方向上部から見たときの面)の面積は、消火性能及び取り扱い性の観点から、例えば9~620cmとすることができる。
【0020】
図2は、一実施形態に係る消火体の模式断面図である。消火体20は、基材から形成された包装袋21と、包装袋内に封入された消火材22と、包装袋の一方の面に粘着層24(又は接着層)及び離型フィルム25と、を備える。基材は、内層として熱溶融性を有する第一の樹脂層211と、外層として第二の樹脂層(例えば水蒸気バリア層)212とを含む。第一の樹脂層211と第二の樹脂層212とは、接着層23を介して積層されている。消火材22は支持層26上に形成されている。本実施形態では、包装袋の一方の面に粘着層24が設けられているため、電気機器の配置に応じて、電気設備の筐体の内壁に消火体を設置することができる。粘着層24を覆うように設けられる離型フィルム25は、消火体を所望の箇所に貼り付ける際には剥がされるものであり、樹脂製であっても紙製であってもよい。
【0021】
消火体は、意匠層を更に備えてもよい。意匠層は印刷もしくは印字によって形成することができる。意匠の具体例として、住空間を意識した木目調や、タイル調などの白色、グレー調のベタパターン、並びに、絵柄、模様、デザイン及び文字パターンなどが挙げられる。意匠層を設けることで、意匠性を高めることができる、消火体を周囲の環境に馴染ませることができる、消火体の強度を高めることもできるなどの効果が奏される。意匠層は、例えば図2の態様であれば包装袋の粘着層側(消火体を貼り付ける側)とは逆側の面に設けることができる。基材に含まれる層が透明である場合は、基材中に意匠層を設けてもよく、例えば図2の態様であれば、第二の樹脂層212の内側に意匠層を設けてよい。意匠層は単層構造であっても多層構造であってもよい。
【0022】
(基材)
基材は樹脂層を含む。樹脂層の材質としては、ポリオレフィン(PE、PP、COP等)、ポリエステル(PET等)、フッ素樹脂(PTFE、ETFE、EFEP、PFA、FEP、PCTFE等)、ビニル樹脂(PVC、PVA等)、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド等が挙げられる。基材は、これらの材質からなる一つの樹脂層から構成されていてよく、複数の樹脂層から構成されていてよい。複数の樹脂層は、それぞれ異なる材質からなるものであってよい。基材が複数の層から構成される場合、層同士は接着剤(接着層)により接着されていてよい。接着剤としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、ウレタン系接着剤又はポリビニルエーテル系接着剤、またはそれら合成系接着剤、等が挙げられる。火災による熱により溶融し易く、消火剤に熱が加わり易い観点から、基材の最外層側(電気機器に対向する側)には融点の高すぎない樹脂層が設けられてよい。そのような層としてはポリオレフィンの層が挙げられ、例えばPE(融点:137℃)やPP(融点:163℃)の層は、PET(融点:265℃)の層に比して低融点である。配電盤等においては着火後に徐々に火災が燃え広がる(爆発的な火災ではない)ため、そのようなポリオレフィンの層を好適に用いることができる。
【0023】
樹脂層は、熱溶融性(熱融着性)を有してよい。熱溶融性を有する樹脂層を熱溶融層と言うことができる。熱溶融層は、基材の最内層側(消火材と対向する側)に設けることができる。基材が熱溶融層を備える場合、包装袋周縁の封止部をヒートシール部ということができる。熱溶融性を有する樹脂としてはポリオレフィン系樹脂が挙げられる。すなわち、樹脂層はポリオレフィン系樹脂を含んでよい。ポリオレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、無延伸ポリプロピレン樹脂(CPP)等のポリオレフィン系樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・αオレフィン共重合体等のポリエチレン系樹脂や、プロピレン・エチレンランダム共重合体、プロピレン・エチレンブロック共重合体、プロピレン・αオレフィン共重合体等のポリプロピレン系樹脂などが挙げられる。これらのうち、ヒートシール性に優れ、かつ水蒸気透過度が低く消火剤の劣化を抑制し易い観点から、ポリオレフィン系樹脂は、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、又は無延伸ポリプロピレン樹脂(CPP)を含んでよい。これらの樹脂は透明性を有しており、消火剤の外観検査が容易である。そのため、消火体の交換時期の確認等がし易くなる。
【0024】
熱溶融層を設けない場合、基材同士の接合には接着剤を用いることができる。接着剤としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ポリオレフィン系接着剤、ウレタン系接着剤又はポリビニルエーテル系接着剤、またはそれら合成系接着剤、等が挙げられる。これらのうち、85℃-85%RH高温高湿時における基材との密着性、低コストを両立する観点から、接着剤としてはエポキシ-ウレタン合成系接着剤を好適に用いることができる。
【0025】
接着剤を用いて基材の周縁を接合する場合、包装袋周縁の封止部は、接着部ということができる。
【0026】
基材は、水蒸気バリア層を含んでよい。水蒸気バリア層は、基材の最外層側に設けられていてよく、基材の中間層として設けられていてよい。基材が水蒸気バリア層を備える場合、消火体の設置場所や使用環境に依らず、消火剤の性状が大きく変化しない程度の水蒸気バリア性を維持し易くなる。水蒸気バリア層の水蒸気透過度(JIS K 7129準拠 40℃/90%RH条件下)は、消火剤の種類に応じ設計できるため特に制限されないが、10g/m/day以下とすることができ、1g/m/day以下であってよい。水蒸気透過度の調整の観点から、水蒸気バリア層としてはアルミナ蒸着層、シリカ蒸着層等の金属酸化物蒸着層を備えるポリエステル樹脂層(例えばPET層)、アルミ箔等の金属箔が挙げられる。水蒸気バリア層が金属酸化物蒸着層を備える場合、金属酸化物蒸着層は消火剤側を向いていてよい。
【0027】
基材の厚さは、消火体の使用環境や、許容されるスペース等に応じて適宜選択することができる。例えば、厚い基材であれば、水蒸気透過を抑制し易く、強度や剛性を得易く、平面性の高い形態を得易く、ハンドリングが容易となる。また、薄い基材であれば、狭いスペースに消火体を設けることができる。基材の厚さは、例えば4.5~1000μmとすることができ、12~100μmであってよく、12~50μmであってよい。樹脂層及び水蒸気バリア層の厚さは、基材の厚さに応じて適宜調整すればよい。樹脂層の厚さ(基材が複数の樹脂層を含む場合はその総厚)は、例えば25~150μmとすることができ、30~100μmであってよい。水蒸気バリア層の厚さは、例えば4.5~25μmとすることができ、7~12μmであってよい。
【0028】
<消火材>
消火材は、消火剤とバインダとを含む組成物(消火材形成用組成物)を成形してなるものである。バインダを用いて消火剤を成形することで消火剤の性状が維持され易く、消火体の交換頻度を低減することができる。消火材形成用組成物は、上記樹脂及びバインダに加え、更に液状媒体を含んでいてもよい。
【0029】
(消火剤)
消火剤は、燃焼によりエアロゾルを発生することで消火を行うことができる。消火剤は、有機塩及び無機塩の少なくとも一方の塩を含むことができる。有機塩及び無機塩は、吸湿性を有する塩であってもよい。
【0030】
消火剤として機能する有機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。有機塩としてはカリウム塩を用いることができる。有機カリウム塩としては、酢酸カリウム、クエン酸カリウム(クエン酸三カリウム)、酒石酸カリウム、乳酸カリウム、シュウ酸カリウム、マレイン酸カリウム等のカルボン酸カリウム塩が挙げられる。このうち燃焼の負触媒効果に対する有用性の観点から、酢酸カリウム又はクエン酸カリウムを用いることができる。
【0031】
消火剤として機能する無機塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩等が挙げられる。無機塩としてはカリウム塩を用いることができる。無機カリウム塩としては、塩素酸カリウム、四硼酸カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、燐酸二水素カリウム、燐酸水素二カリウム等が挙げられる。このうち燃焼の負触媒効果に対する有用性の観点から、炭酸水素カリウムを用いることができる。
【0032】
有機塩及び無機塩は、それぞれ単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0033】
有機塩及び無機塩は粒状であってよい。有機塩及び無機塩の平均粒子径D50は1~100μmであってもよく、また3~40μmであってもよい。平均粒子径D50が上記下限以上であることで系中で分散し易く、また平均粒子径D50が上記上限以下であることで、塗液としたときの安定性が向上して塗工面の平滑性が向上する傾向がある。平均粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた湿式測定により算出することができる。
【0034】
塩(有機塩及び無機塩)の量は、塩及び樹脂(後述のポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂)の全量を基準として、70~97質量%であってもよく、また85~92質量%以下であってもよい。塩の量が上記上限以下であることで、均一な消火材を形成し易く、また塩の量が上記下限以上であることで、塩の吸湿を抑制し易くかつ充分な消火性を維持し易い。塩及び樹脂の全量とは、それぞれの含有成分にも依るが、消火剤及びバインダの全量ということもできる。
【0035】
消火剤に含まれる有機塩及び無機塩の含有量は、消火機能を発現する観点から、消火剤の全量を基準として60質量%以上とすることができ、90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0036】
消火剤は、上述した塩以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、着色剤、酸化剤、酸化防止剤、難燃剤、無機充填材、流動性付与剤、防湿剤、分散剤、UV吸収剤等が挙げられる。これらの他の成分は、塩の種類及びバインダの種類により適宜選択することができる。消火剤に含まれる他の成分の含有率は、例えば40質量%以下である。
【0037】
(バインダ)
バインダは、ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の少なくとも一方の樹脂を含むことができる。ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂はいずれも水酸基含有樹脂である。ポリビニルアセタール系樹脂は、アセタール化度が大きいほど樹脂の疎水性が向上するため、塩による吸湿を抑制し易い。ポリビニルアルコール系樹脂はアセタール化されていないため、ポリビニルアセタール系樹脂と比較すると水酸基数は多いが、上記樹脂以外の他の樹脂成分との反応点が多いとも考えられる。そのため、バインダ設計の観点ではポリビニルアルコール系樹脂の方が設計自由度が高く、扱い易い。
【0038】
ポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂のケン化により得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニル、酢酸ビニルと他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。他のモノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸類、不飽和スルホン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類等が挙げられる。
【0039】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、特に制限されないが、80モル%以上であってもよく、95モル%以上であってもよい。ポリビニルアルコール系樹脂が適度なケン化度を有することで、塩との密着性が向上し易く、塩による吸湿を抑制し易い。
【0040】
ポリビニルアルコール系樹脂は変性されていてもよい。変性の態様としては、アセトアセチル基変性、カルボン酸変性、カルボニル基変性、スルホン酸変性、ヒドラジド基変性、チオール基変性、アルキル基変性、シリル基変性、ポリエチレングリコール基変性、エチレンオキシド基変性、ウレタン結合を有する基による変性、リン酸エステル基変性等が挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂を変性することで、塩との密着性が向上し易く、塩による吸湿を抑制し易い。
【0041】
ポリビニルアセタール系樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂のアセタール化により得られる。
【0042】
ポリビニルアセタール系樹脂を得るために用いるポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、特に制限されないが、80モル%以上であってもよく、95モル%以上であってもよい。
【0043】
アセタール化に用いられるアルデヒドとしては、特に制限されないが、炭素数1~10の肪族基又は芳香族基を有するアルデヒドが挙げられる。アルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n-バレルアルデヒド、n-ヘキシルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド、n-ヘプチルアルデヒド、n-オクテルアルデヒド、n-ノニルアルデヒド、n-デシルアルデヒド、アミルアルデヒド等の脂肪族アルデヒド;ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、2-メチルベンズアルデヒド、3-メチルベンズアルデヒド、4-メチルベンズアルデヒド、p-ヒドロキシベンズアルデヒド、m-ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β-フェニルプロピオンアルデヒド等の芳香族アルデヒド等が挙げられる。これらのアルデヒドは、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらのうち、アセタール化反応性に優れる観点から、アルデヒドは、ブチルアルデヒド、2-エチルヘキシルアルデヒド又はn-ノニルアルデヒドであってもよく、ブチルアルデヒドであってもよい。
【0044】
アセタール化に用いられるケトンとしては、特に制限されないが、アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、t-ブチルケトン、ジプロピルケトン、アリルエチルケトン、アセトフェノン、p-メチルアセトフェノン、4’-アミノアセトフェノン、p-クロロアセトフェノン、4’-メトキシアセトフェノン、2’-ヒドロキシアセトフェノン、3’-ニトロアセトフェノン、P-(1-ピペリジノ)アセトフェノン、ベンザルアセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、4-ニトロベンゾフェノン、2-メチルベンゾフェノン、p-ブロモベンゾフェノン、シクロヘキシル(フェニル)メタノン、2-ブチロナフトン、1-アセトナフトン、2-ヒドロキシ-1-アセトナフトン、8’-ヒドロキシ-1’-ベンゾナフトン等が挙げられる。
【0045】
アルデヒド及びケトンの使用量はアセタール化度に応じて適宜設定することができる。例えば、反応前のポリビニルアルコール系樹脂の水酸基に対して、アルデヒド及びケトンの合計量は0.30~0.45水酸基当量とすることができる。
【0046】
ポリビニルアセタール系樹脂の水酸基量(残存水酸基価)は、10~40モル%であってもよく、15~25モル%であってもよい。水酸基量が上記範囲内であると、アルデヒド及びケトンの脂肪族基や芳香族基により疎水性が得られ、吸湿スピードが鈍化し易い傾向がある。水酸基量は、主鎖の全エチレン基量に対する、水酸基が結合しているエチレン基量の割合(モル%)である。水酸基が結合しているエチレン基量は、例えば、JIS K6728「ポリビニルブチラール試験方法」に準拠した方法によって算出することができる。
【0047】
ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂は、それぞれ単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0048】
ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量Mwは、10000以上であってもよく、20000以上であってもよく、また150000以下であってもよく、100000以下であってもよい。重量平均分子量Mwが上記下限以上であることで、樹脂の疎水性を確保し易く、また重量平均分子量Mwが上記上限以下であることで、適度な樹脂柔軟性を確保し易く、耐屈曲性や塗工適性が向上し易い。重量平均分子量Mwは、GPC法により算出することができる。
【0049】
ポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂のガラス転移温度Tgは、55℃以上であってもよく、80℃以上であってもよく、また110℃以下であってもよく、100℃以下であってもよい。ガラス転移温度Tgが上記下限以上であることで、結晶性が大きくなるために樹脂の疎水性を確保し易く、またガラス転移温度Tgが上記上限以下であることで、塗工適性が向上し易い。ガラス転移温度Tgは、示差走査熱量計を用いた熱分析により測定することができる。
【0050】
バインダに含まれるポリビニルアセタール系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、同樹脂の特性を充分に発現する観点から、バインダの全量を基準として40質量%以上とすることができ、70質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0051】
バインダは、疎水性向上に伴う塩による吸湿抑制の観点から、上述した樹脂以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、シランカップリング剤等が挙げられる。バインダに含まれる他の成分の含有量は、例えば60質量%以下である。
【0052】
(液状媒体)
液状媒体としては、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、水溶性の溶媒が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリコール類;N-メチルピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン、ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類等が挙げられる。消火剤が吸湿性を有する場合がある観点から、液状媒体はアルコール系溶媒であってもよく、具体的にはエタノール及びイソプロピルアルコールの混合溶媒であってもよい。
【0053】
液状媒体の量は、消火材形成用組成物の使用方法に応じて適宜に調整すればよいが、消火材形成用組成物の全量を基準として40~95質量%とすることができる。液状媒体を含む消火材形成用組成物を、消火材形成用塗液ということができる。
【0054】
<消火材の形成方法>
消火材は、支持層上に消火材形成用塗液を塗布し、これを乾燥することにより形成することができる。支持層としてはポリエステル樹脂層(例えばPET層)が挙げられる。
【0055】
塗布はウェットコーティング法にて行うことができる。ウェットコーティング法としては、グラビアコーティング法、コンマコーティング法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコート法、スピンコート法、スポンジロール法、ダイコート法、刷毛による塗装等が挙げられる。
【0056】
消火材形成用塗液の粘度は、例えばグラビアコーティング法であれば、1~2000mPa・sとすることが好ましく、コンマコーティング法であれば500~100000mPa・sとすることが好ましく、スプレーコーティング法であれば0.1~4000mPa・sとすることが好ましい。塗液粘度が所望の範囲になるよう、上記液状媒体の量を適宜に調整すればよい。粘度は共軸二重円筒回転粘度計により測定することができる。
【0057】
消火材は、消火材形成用組成物を成形することで得ることもできる。
【0058】
消火材は発火により生じる熱に反応し、自動的に火を消し止める作用を有する。したがって、消火材を自己消火性消火材(成形により得られたものは特に自己消火性成形物)ということもできる。
【0059】
<電気設備>
電気設備は、電気機器及び電気機器を収容する筐体を備える。筐体の内壁の少なくとも一部には、電気機器と対向するようにして上記消火体が設けられている。筐体の内壁とは、筐体の背面、前面、側面、天面、あるいは配線カバー等が挙げられる。電気設備としては、配電盤、分電盤等の受変電設備や、生産機器等のための操作盤、制御盤等の設備が挙げられる。電気機器としては、これらの盤に設けられる端子台、トランス、ブレーカー、コンデンサ、漏電遮断器、電気配線等が挙げられる。これら電気機器は、電気設備における発火の危険性がある部位ということができる。電気設備は通常電気機器を複数備えており、消火体はその内の少なくとも一つの電気機器に対して設けられてもよく、全ての電気機器それぞれに対して設けられてもよい。一つの消火体が、複数の電気機器に対向するように設けられてもよい。初期消火性に優れる上記消火体をこれらの電気設備内に予め設けておくことにより、火災の発生及び拡大を防止することができる。
【0060】
図3は、一実施形態に係る電気設備の模式外観図である。図3では、電気設備の一例として配電盤を示す。電気設備100は、電気機器を収容する収容部101a及び開閉扉101bを備える筐体101と、電気機器としてブレーカー103及び配線104と、を主として備える。配線104の一部は配線カバー102内にまとめて収容されている。このような電気設備100は、例えば開閉扉101bの電気機器と対向する側に消火体30aを、収容部101aの天面の電気機器と対向する側に消火体30bを、配線カバー102の電気機器と対向する下面側に消火体30c(図中では簡単のため凡その設置位置を示す)を、収容部101a背面の電気機器と対向する側すなわち電気機器の裏側に消火体30dを備えることができる。電気設備100は、これら消火体を全て備えていてもよく、少なくとも一つを備えていてもよい。
【0061】
消火体を配置する位置は図3の態様に限られず、発火の危険性がある部位である電気機器等の配置に応じて適宜にその位置を調整することができる。また、消火体と電気機器との距離が遠い場合は、距離を調整する部材を設けた上で当該部材上に消火体を設けてよい。
【0062】
電気機器と消火体との距離は適宜に調整することができるが、150mm以下であることが好ましく、120mm以下又は100mm以下であることがより好ましい。これにより初期消火がより好適に行われる。電気機器と消火体との距離とは、電気機器とそれに対向するようにして設けられた消火体との最短距離を言う。例えば、収容部101aの天面の真下であって天面からの距離が150mm以下である電気機器に対しては、消火体を当該天面に設けることができる。また、例えば開閉扉101bに対向する位置にあって開閉扉101bからの距離が150mm以下である電気機器に対しては、消火体を当該開閉扉101bに設けることができる。電気機器に対して消火体は近い位置に設置することが望ましいが、近すぎると両者が接触する虞があるため、両者の距離は少なくとも1mm以上空けることが好ましい。
【実施例0063】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0064】
<消火体の作製>
以下の主原料を準備した。クエン酸三カリウムの平均粒子径D50は、メノウ乳鉢ですり潰したのち、800番手のメッシュでフィルタリングすることで調整した。
クエン酸三カリウム:富士フィルム和光株式会社製、製品名クエン酸三カリウム一水和物、D50=3~18μm
ポリビニルブチラール:重量平均分子量(計算値)Mw20000~100000、水酸基量15~25モル%、ガラス転移温度Tg80~100℃
【0065】
クエン酸三カリウムを含むカリウム塩25質量%、ポリビニルブチラールを8質量%、エタノール溶媒を67質量%含む塗液(消火材形成用塗液)を調製した。アプリケーター(ギャップ750μm)を用いて、得られた塗液をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布し、100℃のオーブンにて4分間乾燥させた。これにより、PETフィルム上に厚さ200μmの消火材が形成された消火体を得た。得られた消火体を100mm×150mmのサイズにカットして、以下の消火性試験に供した。
【0066】
<消火性試験>
(実施例1)
幅400mm、高さ600mm、奥行き200mmの鉄製の筐体を準備した。筐体にはガラス製の扉を設け、筐体内部が確認できる状態とした。着火した固形燃料が窒息により消火しないよう、筐体の両側面には空気導入用の開孔を20カ所ずつ設けた。開孔径はΦ10mmとした。次に、筐体背面の中央に支持部材を設け、その上に端子台を設置した。筐体背面の、端子台と対向する位置に、消火体の消火材面が端子台側になるようにして消火体を両面テープで貼り付けた。端子台と消火体との距離は4mmであった。そして、端子台上に5gの固形燃料を設置してライターで着火し、筐体の扉を閉めた。扉を閉めてから約7秒後に、消火材により火が消し止められた。
【0067】
(実施例2)
実施例1と同様にして、筐体内に端子台を設置した。筐体天面の、端子台と対向する位置に、消火体の消火材面が端子台側になるようにして消火体を両面テープで貼り付けた。端子台と消火体との距離は150mmであった。そして、端子台上に5gの固形燃料を設置してライターで着火し、筐体の扉を閉めた。扉を閉めてから約28秒後に、消火材により火が消し止められた。
【符号の説明】
【0068】
10,20,30a,30b,30c,30d…消火体、11,21…包装袋、11a…封止部、211…第一の樹脂層、212…第二の樹脂層、22…消火材、23…接着層、24…粘着層、25…離型フィルム、26…支持層、100…電気設備(配電盤)、101…筐体、101a…収容部、101b…開閉扉、102…配線カバー、103…ブレーカー、104…配線。
図1
図2
図3