(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023006899
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】道路舗装用アスファルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20230111BHJP
E01C 5/12 20060101ALI20230111BHJP
E01C 7/18 20060101ALI20230111BHJP
C08L 95/00 20060101ALI20230111BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
C08J7/00 305
C08J7/00 CEZ
E01C5/12
E01C7/18
C08L95/00
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021109747
(22)【出願日】2021-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】390019998
【氏名又は名称】東亜道路工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】521289489
【氏名又は名称】株式会社アクセルレーター
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉武 美智男
(72)【発明者】
【氏名】平戸 利明
(72)【発明者】
【氏名】曲 慧
(72)【発明者】
【氏名】神谷 幸秀
(72)【発明者】
【氏名】森川 祐
(72)【発明者】
【氏名】原田 健太郎
【テーマコード(参考)】
2D051
4F073
4J002
【Fターム(参考)】
2D051AG01
4F073AA07
4F073BA01
4F073BA19
4F073BA41
4F073BB02
4F073CA42
4F073HA11
4J002AG001
4J002BB032
4J002BF022
4J002BP012
4J002CD002
4J002CF002
4J002CK022
4J002CL002
4J002GL00
(57)【要約】
【課題】大気開放下でのアスファルト組成物へ電子線照射で、舗装の耐久性が向上し、変形しにくい道路舗装用アスファルトを製造することができる、道路舗装用アスファルトの製造方法を提供する。
【解決手段】アスファルト組成物に大気開放下で電子線を照射する工程(S
A)を含む、道路舗装用アスファルトの製造方法であって、前記工程(S
A)において、電子線を照射される前のアスファルト組成物(X)に、エネルギーが1keV以上200MeV以下、照射線量が100kGy以上1MGy以下の前記電子線を照射する、道路舗装用アスファルトの製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルト組成物に大気開放下で電子線を照射する工程(SA)を含む、道路舗装用アスファルトの製造方法であって、
前記工程(SA)において、電子線を照射される前のアスファルト組成物(X)に、エネルギーが1keV以上200MeV以下、照射線量が100kGy以上1MGy以下の前記電子線を照射する、道路舗装用アスファルトの製造方法。
【請求項2】
前記工程(SA)において、前記電子線を照射された後のアスファルト組成物(Y)の60℃、ひずみ1%、載荷速度10rad/sにおける複素せん断弾性率が、前記電子線を照射される前のアスファルト組成物(X)の複素せん断弾性率に対し1.05倍以上になるように、前記アスファルト組成物(X)に前記電子線を照射する、請求項1に記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
【請求項3】
前記アスファルト組成物(X)が、道路舗装に使用されていない未使用品である、請求項1又は2に記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
【請求項4】
前記アスファルト組成物(X)が、道路舗装に使用された使用済品である、請求項1又は2に記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
【請求項5】
前記アスファルト組成物(X)が、ストレートアスファルトを含み、改質剤を含まない、請求項1~4のいずれか1項に記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
【請求項6】
前記アスファルト組成物(X)が、ストレートアスファルト及び改質剤を含み、
前記ストレートアスファルトと、前記改質剤とを混合する工程(SB)を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
【請求項7】
前記工程(SB)は、前記工程(SA)の前に実施される、請求項6に記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
【請求項8】
前記電子線が、電子加速器から照射された電子線である、請求項1~7のいずれか1項に記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
【請求項9】
前記電子加速器が、定置式電子加速器である、請求項8に記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路舗装用アスファルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が走行する道路は、利便性及び安全性を高めるために舗装が施されている。特に、アスファルト舗装で用いられるアスファルト混合物は、全国で材料が入手しやすく、施工の利便性が高い。また、再生利用ができる観点から、アスファルト舗装は一般的な舗装として広く利用されており、現代社会において必須の社会インフラとなっている。
【0003】
アスファルト舗装は、絶えず交通荷重や環境負荷にさらされるため、長期間供用されることにより、轍掘れ、ひび割れ、平たん性の低下などの損傷が生じてしまう。そこで、アスファルト舗装の耐久性の向上が求められている。
【0004】
化学的特性からアスファルト舗装の耐久性の向上を図る方法として、改質剤である高分子材料(ポリマー)を混合することにより、アスファルト組成物の熱的特性を向上させる方法が知られている。
また、物理的特性からアスファルト組成物を改質する方法としては、電子線照射装置(Electron beam Processing System、EPS)を用いて、アスファルト組成物において重合反応を促進させる研究が進められている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第9,186,645号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、密閉系において、アスファルト組成物に電子線を照射させることにより、アスファルト組成物を改質させている。密閉系の場合、外気を遮断することが可能であることから、酸素の影響を排除できる利点がある。
しかしながら、真空等の密閉系は、電子線照射時に発生する熱がこもり、昇温しやすくなるという問題がある。また、密閉系は、封止構造などの複雑な構造を必要とすることから、電子線照射を簡便に行うことができないという問題がある。
そこで、昇温の問題を回避しやすく、簡便性の高い、大気開放下でのアスファルト組成物への電子線照射技術の確立が望まれている。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、大気開放下でのアスファルト組成物へ電子線照射で、舗装の耐久性が向上し、変形しにくい道路舗装用アスファルトを製造することができる、道路舗装用アスファルトの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討により、道路舗装用アスファルトの製造工程において、大気開放下、特定の条件でアスファルト組成物に電子線を照射することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、下記[1]を提供する。
[1] アスファルト組成物に大気開放下で電子線を照射する工程(SA)を含む、道路舗装用アスファルトの製造方法であって、
前記工程(SA)において、電子線を照射される前のアスファルト組成物(X)に、エネルギーが1keV以上200MeV以下、照射線量が100kGy以上1MGy以下の前記電子線を照射する、道路舗装用アスファルトの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、大気開放下でのアスファルト組成物へ電子線照射で、舗装の耐久性が向上し、変形しにくい道路舗装用アスファルトを製造することができる、道路舗装用アスファルトの製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】固体状態のアスファルト組成物(X)に対する電子線の照射方法を示す概略図である。
【
図2】実施例における、アルカンの変角振動領域の赤外分光スペクトルである。
【
図3】実施例における、カルボン酸の伸縮振動領域の赤外分光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10以上、より好ましくは30以上、更に好ましくは40以上」という下限値の記載と、「好ましくは90以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは70以下である」という上限値の記載とから、好適範囲として、例えば、「10以上70以下」、「30以上70以下」、「40以上80以下」といったそれぞれ独立に選択した下限値と上限値とを組み合わせた範囲を選択することもできる。また、同様の記載から、例えば、単に、「40以上」又は「70以下」といった下限値又は上限値の一方を規定した範囲を選択することもできる。
なお、本明細書中、数値範囲の記載において、例えば、「10~90」という記載は「10以上90以下」と同義である。なお、数値範囲の記載に関する「以上」、「以下」、「未満」、「超」の数値もまた、任意に組み合わせることができる。
【0013】
[道路舗装用アスファルトの製造方法]
本実施形態の道路舗装用アスファルトの製造方法は、アスファルト組成物に大気開放下で電子線を照射する工程(SA)を含む、道路舗装用アスファルトの製造方法であって、前記工程(SA)において、電子線を照射される前のアスファルト組成物(X)に、エネルギーが1keV以上200MeV以下、照射線量が100kGy以上1MGy以下の前記電子線を照射する、道路舗装用アスファルトの製造方法である。
【0014】
なお、本実施形態の製造方法により得られる道路舗装用アスファルトを、「本実施形態の道路舗装用アスファルト」と呼ぶことがある。
【0015】
上記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討した結果、アスファルト組成物に大気開放下で電子線を照射する工程において、電子線を照射される前のアスファルト組成物(X)に、エネルギーが1keV以上200MeV以下、照射線量が100kGy以上1MGy以下の電子線を照射することにより、大気開放下でのアスファルト組成物への電子線照射で、道路舗装用アスファルトの耐久性を向上させることができることを見出した。
【0016】
一般的に、エネルギーを持った電子線を物質に衝突させると、電子と物質との相互作用により、物質に電離作用(イオン化)や励起状態を発生し結果的に化学反応を起こす。これにより、低分子量の気体の発生や架橋反応、主鎖の切断、二重結合の生成などが生じる。これらの反応は、電子線の照射条件や照射対象物の構造などに依存する。そして、アスファルトは、非常に複雑な分子構造を有する。
本発明者らは、道路舗装用アスファルトの変形抑制効果や、舗装の耐久性を向上できる効果について、アスファルト組成物中において架橋反応や二重結合の生成などが生じるためと推察している。
【0017】
また、一般的に、大気開放下での電子線照射は、酸素の存在によるアスファルト組成物の劣化が懸念される。しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、本発明における照射条件下で電子線照射を行うことにより、意外にもアスファルト組成物は酸素の影響を受けにくいことがわかった。即ち、電子線照射後のアスファルト組成物が劣化することなく、耐久性を向上させることができることを見出した。
これらの知見に基づき、本発明者らは更に鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。
【0018】
<工程(SA)>
本実施形態の製造方法において、工程(SA)は、アスファルトに大気開放下で電子線を照射する工程である。
本実施形態の道路舗装用アスファルトの製造方法では、大気開放下でアスファルト組成物(X)に電子線を照射するため、電子線照射時に発生する熱による昇温の問題を回避しやすい。また、密閉系よりも電子線照射の設備の簡便性を高めることができる。
【0019】
工程(SA)は、アスファルトに大気開放下で電子線を照射するものであれば、特に限定なく、公知の方法を用いることができる。例えば、道路上に電子線を照射される前のアスファルト組成物(X)を舗装した後、道路上で電子線照射してアスファルト組成物(Y)にする方法や、工場等の内部でアスファルト組成物(X)に電子線を照射してアスファルト組成物(Y)にした後、前記アスファルト組成物(Y)を道路に舗装する方法等が挙げられる。
これらの中でも、工場等の内部でアスファルト組成物(X)に電子線を照射してアスファルト組成物(Y)にした後、前記アスファルト組成物(Y)を道路に舗装する方法は、舗装構築後に電子線を照射するための道路規制を必要としない点で好ましい。
【0020】
前記電子線としては、例えば、電子加速器から照射された電子線などが挙げられる。
また、前記電子加速器としては、例えば、定置式電子加速器などを用いることができる。大気開放条件で大量な試料に電子線を照射可能な装置として、例えば、装置名:電子加速器ロードトロン TT200(ベルギーIBA社製)を用いることができる。
【0021】
前記工程(SA)において照射する前記電子線のエネルギーは、アスファルト組成物(Y)の物理的改質効果の観点から、1keV以上である。また、電子線がアスファルト組成物(X)のより深部まで浸透し、アスファルト組成物(X)の内部まで物理的に改質できる観点、及びアスファルト組成物(X)を均一に改質させるから、好ましくは1MeV以上、より好ましくは10MeV以上である。
前記工程(SA)において照射する前記電子線のエネルギーは、設備の照射容易性の観点から、200MeV以下であり、好ましくは100MeV以下、より好ましくは50MeV以下である。
前記照射条件で電子線を照射することにより、電子線照射されて製造された道路舗装用アスファルトは、電子線照射前のアスファルト組成物(X)よりも複素せん断弾性率が上昇するため、舗装の耐久性を向上させることができる。
【0022】
電子線のエネルギーと透過力について、水を基準して考えると、電子線の最大深さは、以下の式(1)に近似的に表現できるとされている。しかしながら、最大浸入深さは線量-深さエネルギー分布に影響を受ける。したがって、このエネルギー付与の分布が化学的・物理的作用の大きさに対応することとなる。本発明では、被照射体の深さ方向に均一に照射可能な電子線エネルギーに調整している。
最大浸入深さd=E/2 ・・・式(1)
d:最大浸入深さ(cm)
E:電子線エネルギー(MeV)
前記式(1)で表されるように、前記工程(SA)において照射する前記電子線の照射線量は、電子線のエネルギーや照射時間、照射回数などにより調整可能であるが、化学反応の促進によるアスファルト組成物(Y)の物理的改質効果、大気開放下での電子線照射の実用性の観点から、100kGy以上であり、好ましくは200kGy以上、より好ましくは300kGy以上である。
また、前記工程(SA)において照射する前記電子線の照射線量は、大気開放下での電子線照射の実用性、照射効率の向上(照射回数の低減)の観点から、1MGy以下であり、好ましくは700kGy以下、より好ましくは500kGy以下である。
前記電子線の照射線量は、例えば、装置名:CTA 線量計FTR-125(富士フィルム株式会社製)により確認することができる。
前記照射条件で電子線を照射することにより、電子線照射されて製造された道路舗装用アスファルトは、電子線照射前のアスファルト組成物(X)よりも複素せん断弾性率が上昇するため、舗装の耐久性を向上させることができる。
【0023】
前記工程(SA)において、前記電子線を照射された後のアスファルト組成物(Y)の60℃、ひずみ1%、載荷速度10rad/sにおける複素せん断弾性率としては、前記電子線を照射される前のアスファルト組成物(X)の複素せん断弾性率に対し1.05倍以上になるように、前記アスファルト組成物(X)に前記電子線を照射することが好ましい。
前記電子線を照射される前のアスファルト組成物(X)の複素せん断弾性率に対する、電子線照射後のアスファルト組成物(Y)の複素せん断弾性率の比率としては、電子線量などにより調整可能であるが、好ましくは1.05倍以上、より好ましくは1.5倍以上、更に好ましくは2.0倍以上、より更に好ましくは5.0倍以上である。
【0024】
アスファルト組成物(X)に電子線照射を行う際、電子線照射は、アスファルト組成物(X)の状態や温度、アスファルト組成物(X)が置かれた環境などに依存せずに行うことができる。
具体的には、電子線照射は、常温環境下で行われてもよいし、アスファルト組成物(X)が加熱されて流動した状態であってもよい。また、砕石などと混合されていてもよい。
電子線照射を行うアスファルト組成物(X)の状況としては、例えば、アスファルト舗装面の舗装前、アスファルト舗装面の舗装と同時、アスファルト舗装面の舗装後、アスファルト組成物の製造前、アスファルト組成物の製造中、アスファルト組成物の製造後などが挙げられる。
後述するように、アスファルト組成物(Y)の製造段階においては、化学的改質効果を有する改質剤を混合する工程の前、改質剤を混合する工程と同時、改質剤を混合する工程の後などが挙げられる。
電子線照射するアスファルト組成物(X)の形態としては、例えば、固形状態、溶融状態などが挙げられる。
【0025】
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が固体状態の場合は、前記工程(SA)において照射する前記電子線のエネルギーは、汎用性の観点から、好ましくは1keV以上200MeV以下、より好ましくは1keV以上100MeV以下、更に好ましくは1keV以上50MeV以下である。
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が固体状態の場合は、前記工程(SA)において照射する前記電子線の照射線量は、大気開放下での電子線照射の実用性の観点から、好ましくは100kGy以上1MGy以下、より好ましくは100kGy以上500kGy以下、更に好ましくは100kGy以上200kGy以下である。
【0026】
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が溶融状態の場合は、前記工程(SA)において照射する前記電子線の照射線量は、大気開放下での電子線照射の実用性汎用性の観点から、好ましくは100kGy以上1MGy以下、より好ましくは100kGy以上500kGy以下、更に好ましくは100kGy以上200kGy以下である。
【0027】
本実施形態の道路舗装用アスファルトの製造方法における、アスファルト組成物(X)への電子線の具体的な照射方法について説明する。
【0028】
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が固体状態の場合における、アスファルト組成物(X)への電子線の照射方法について説明する。
図1は、固体状態のアスファルト組成物(X)に対する電子線の照射方法を示す概略図である。
まず、常温で固体状態のアスファルト組成物(X)を用意し、電子線が均一に照射されるようにするため、厚みを一定に揃えたアスファルト組成物(X)1を作製する。次に、支持体2の表面に、前記アスファルト組成物(X)1を配置する。次に、支持体2の上方向に配置した電子線照射装置から支持体2全体に、本発明で規定する照射条件で電子線3を照射させることにより、アスファルト組成物(X)1に電子線を照射させることができる。支持体2は、移動可能であってもよい。
支持体2上に線量計4を配置し、照射される電子線の照射線量を確認することにより、前記アスファルト組成物(X)1の上面全体に電子線が照射されているか確認することができる。
【0029】
アスファルト組成物(X)に照射線量の電子線を照射する場合、被照射体であるアスファルト組成物(Y)の温度が高くなる。したがって、固体状態のアスファルト組成物(X)に照射線量の電子線を照射する場合、固体状態を維持するため、必要に応じてアスファルト組成物(Y)を冷却してもよい。
【0030】
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が溶融状態の場合における、アスファルト組成物(X)への電子線の照射方法としては、例えば、アスファルト組成物(X)を輸送する配管の中や、アスファルト混合物製造ミキサーの中において、電子線を照射する方法が挙げられる。
溶融状態のアスファルト組成物(X)に照射線量の電子線を照射する場合、反応を促進させるため、必要に応じてアスファルト組成物(Y)を撹拌してもよい。
溶融状態のアスファルト組成物(X)は、電子線が照射されたアスファルト組成物(Y)を内部へ混合できるため、固形状態のアスファルト組成物(X)よりも電子線照射によるアスファルトの反応が促進しやすい。
【0031】
[アスファルト組成物(X)]
前記アスファルト組成物(X)としては、道路舗装に使用されていない未使用のストレートアスファルト、道路舗装に使用された使用済の劣化アスファルト(再生骨材)のいずれも用いることができる。
本実施形態の道路舗装用アスファルトの製造方法で用いられるアスファルト組成物(X)は、後述する改質剤を含んでいてもよく、含まなくてもよい。
以下、前記アスファルト組成物(X)における、未使用のストレートアスファルト、使用済の劣化アスファルト、改質剤を含む態様について説明する。
【0032】
-未使用のストレートアスファルト-
前記アスファルト組成物(X)としては、道路舗装に使用されていない未使用のストレートアスファルトを用いることができる。
例えば、商品名:ストレートアスファルト60-80、ENEOS株式会社製などが挙げられる。
【0033】
前記ストレートアスファルトとしては、例えば、舗装設計施工指針(平成18年版)P222付表-8.1.9に示される舗装用石油アスファルトの品質規格(JIS K2207-1996)に適合するものなどが挙げられる。
ストレートアスファルトは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0034】
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が未使用のストレートアスファルトである場合は、前記工程(SA)において照射する前記電子線のエネルギーは、設備の照射容易性の観点から、好ましくは1keV以上200MeV以下、より好ましくは1keV以上100MeV以下、更に好ましくは1keV以上50MeV以下である。
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が未使用のストレートアスファルトである場合は、前記工程(SA)において照射する前記電子線の照射線量は、大気開放下での電子線照射の実用性の観点から、好ましくは100kGy以上1MGy以下、より好ましくは100kGy以上500kGy以下、更に好ましくは100kGy以上200kGy以下である。
【0035】
~複素弾性率~
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が未使用のストレートアスファルトである場合、前記電子線を照射される前のストレートアスファルトの複素せん断弾性率に対する、電子線照射後のストレートアスファルトの複素せん断弾性率の比率としては、舗装の耐久性を向上させる観点から、好ましくは1.05倍以上、より好ましくは1.5倍以上、更に好ましくは2.0倍以上、より更に好ましくは5.0倍以上である。また、前記電子線を照射される前の未使用のストレートアスファルト(X)の複素せん断弾性率に対する、電子線照射後の未使用のストレートアスファルト(Y)の複素せん断弾性率の比率は、高い程好ましく、伸度が低下しない範囲であることがより好ましい。
本実施形態の製造方法により得られる道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(X))の60℃における複素弾性率は、実施例に記載の方法により、測定することができる。
【0036】
~軟化点~
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が未使用のストレートアスファルトである場合、本実施形態の製造方法により得られる道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(Y))の軟化点は、舗装の耐久性を向上させる観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは43℃以上、更に好ましくは45℃以上である。また、前記アスファルト組成物(X)に電子線照射して得られたアスファルト組成物(Y)の軟化点は、高い程好ましく、アスファルト組成物(Y)の伸度が低下しない範囲であることがより好ましい。
前記道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(Y))の軟化点は、実施例に記載の方法により、測定することができる。
【0037】
~伸度~
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が未使用のストレートアスファルトである場合、本実施形態の製造方法により得られる道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(Y))の15℃における伸度は、舗装の耐久性を向上させる観点から、好ましくは30以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは100以上である。また、前記アスファルト組成物(X)に電子線照射して得られたアスファルト組成物(Y)の伸度は、物理的改質効果の観点から、高い程好ましく、アスファルト組成物(Y)の複素弾性率を可能な限り高くできる範囲がより好ましい。
前記道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(Y))の15℃における伸度は、実施例に記載の方法により、測定することができる。
【0038】
-使用済の劣化アスファルト-
前記アスファルト組成物(X)としては、道路舗装に使用された使用済の劣化ストレートアスファルト(再生骨材)を用いることができる。
例えば、道路舗装で既に使用された砕石に付着したアスファルトなどが挙げられる。また、使用済の劣化アスファルトは、改質剤を含んでいてもよい。
【0039】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、道路舗装に使用された使用済のアスファルト組成物に電子線を照射した場合についても、使用済のアスファルト組成物を用いた舗装の耐久性を向上させることができることを見出した。
一般的にストレートアスファルトは経年劣化に伴い分子量が大きくなる傾向にあるが、本発明者らは、促進劣化させたアスファルトに対して電子線を照射した場合、劣化アスファルトの分子量が低くなることを見出した。
これについて本発明者らは、経年劣化したアスファルトが、電子線照射により、主鎖切断による崩壊反応が進み、物理的な高性能化や再生回復が生じているものと推測している。
【0040】
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が使用済の劣化アスファルトである場合は、前記工程(SA)において照射する前記電子線のエネルギーは、設備の照射容易性の観点から、好ましくは1keV以上200MeV以下、より好ましくは1keV以上100MeV以下、更に好ましくは1keV以上50MeV以下である。
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が使用済の劣化アスファルトである場合は、前記工程(SA)において照射する前記電子線の照射線量は、大気開放下での電子線照射の実用性の観点から、好ましくは100kGy以上1MGy以下、より好ましくは100kGy以上500kGy以下、更に好ましくは100kGy以上200kGy以下である。
【0041】
~複素弾性率~
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が使用済の劣化アスファルトである場合、前記電子線を照射される前のアスファルト組成物(X)の複素せん断弾性率に対する、電子線照射後のアスファルト組成物(Y)の複素せん断弾性率の比率としては、舗装の耐久性を向上させる観点から、好ましくは1.04倍以上、より好ましくは1.05倍以上、更に好ましくは1.06倍以上である。また、前記電子線を照射される前の使用済の劣化ストレートアスファルト(X)の複素せん断弾性率に対する、電子線照射後の使用済の劣化ストレートアスファルト(Y)の複素せん断弾性率の比率は、高い程好ましく、伸度が低下しない範囲であることがより好ましい。
本実施形態の製造方法により得られる道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(X))の60℃における複素弾性率は、実施例に記載の方法により、測定することができる。
【0042】
~軟化点~
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が使用済の劣化アスファルトである場合、本実施形態の製造方法により得られる道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(Y))の軟化点は、舗装の耐久性を向上させる観点から、好ましくは48℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは53℃以上である。また、前記アスファルト組成物(X)に電子線照射して得られたアスファルト組成物(Y)の軟化点は、高い程好ましく、アスファルト組成物(Y)の伸度が低下しない範囲であることがより好ましい。
前記道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(Y))の軟化点は、実施例に記載の方法により、測定することができる。
【0043】
~伸度~
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が使用済の劣化アスファルトである場合、本実施形態の製造方法により得られる道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(Y))の15℃における伸度は、舗装の耐久性を向上させる観点から、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは7以上である。また、前記アスファルト組成物(X)に電子線照射して得られたアスファルト組成物(Y)の伸度は、物理的改質効果の観点から、高い程好ましく、アスファルト組成物(Y)の複素弾性率を可能な限り高くできる範囲がより好ましい。
前記道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(Y))の15℃における伸度は、実施例に記載の方法により、測定することができる。
【0044】
<工程(SB)>
前記アスファルト組成物(X)としては、ストレートアスファルト及び改質剤を含んでもよい。
本実施形態の製造方法において、ストレートアスファルトと、改質剤とを混合する工程(SB)を含むことができる。
前記工程(SB)は、前記工程(SA)の前に実施されてもよいし、前記工程(SA)と同時に実施されてもよく、前記工程(SA)の後に実施されてもよい。これらの中でも、改質剤も架橋反応により改質効果を高める観点から、前記工程(SB)は前記工程(SA)の前に実施されることが好ましい。
【0045】
前記電子線を照射された後のアスファルトの軟化点としては、前記電子線を照射される前のアスファルトの軟化点に対し、耐久性向上の観点から、1.05倍以上であることが好ましい。
【0046】
-改質剤-
前記アスファルト組成物(X)は、ストレートアスファルトの他に、化学的改質効果を有する改質剤として高分子ポリマーを含んでもよい。また、200℃以上の高温でブローイングすることで酸化改質させたブローンアスファルトであってもよい。
前記改質剤としては、例えば、スチレン・ブタジエン・ブロック共重合体(SBS)、スチレン・イソプレン・ブロック共重合体(SIS)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの高分子材料を用いることができる。
また、前記改質剤としては、既設のアスファルト舗装に含まれる舗装用バインダ、及び骨材から再生された再生アスファルトであってもよい。
前記改質剤を含んだポリマー改質アスファルトとしては、舗装設計施工指針(平成18年度版)P223付表-8.1.11に示されるポリマー改質アスファルトの標準的性状に適合するものであるが、標準的性状に適合しない改質アスファルトについても使用可能である。
改質剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が改質剤を含む場合は、前記工程(SA)において照射する前記電子線のエネルギーは、設備の照射容易性の観点から、好ましくは1keV以上200MeV以下、より好ましくは1keV以上100MeV以下、更に好ましくは1keV以上50MeV以下である。
電子線照射前のアスファルト組成物(X)が改質剤を含む場合は、前記工程(SA)において照射する前記電子線の照射線量は、大気開放下での電子線照射の実用性の観点から、好ましくは100kGy以上1MGy以下、より好ましくは100kGy以上500kGy以下、更に好ましくは100kGy以上200kGy以下である。
【0048】
~複素弾性率~
前記電子線を照射される前のアスファルト組成物(X)の複素せん断弾性率に対する、電子線照射後のアスファルト組成物(Y)の複素せん断弾性率の比率としては、舗装の耐久性を向上させる観点から、好ましくは1.05倍以上、より好ましくは1.1倍以上、更に好ましくは1.3倍以上である。
本実施形態の製造方法により得られる道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(X))の60℃における複素弾性率は、実施例に記載の方法により、測定することができる。
【0049】
~軟化点~
本実施形態の製造方法により得られる道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(Y))の軟化点は、舗装の耐久性を向上させる観点から、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上である。また、前記アスファルト組成物(X)に電子線照射して得られたアスファルト組成物(Y)の軟化点は、高い程好ましく、アスファルト組成物(Y)の伸度が低下しない範囲であることがより好ましい。
前記道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(Y))の軟化点は、実施例に記載の方法により、測定することができる。
【0050】
~伸度~
本実施形態の製造方法により得られる道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(Y))の15℃における伸度は、舗装の耐久性を向上させる観点から、好ましくは30以上、より好ましくは50以上である。また、前記アスファルト組成物(X)に電子線照射して得られたアスファルト組成物(Y)の伸度は、物理的改質効果の観点から、高い程好ましく、アスファルト組成物(Y)の複素弾性率を可能な限り高くできる範囲がより好ましい。
前記道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(Y))の15℃における伸度は、実施例に記載の方法により、測定することができる。
【0051】
-その他の成分-
本実施形態の製造方法は、その他の成分を加える工程を更に含むことができる。
前記アスファルト組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、上記成分以外のその他の成分を含有してもよい。
前記その他の成分としては、例えば、界面活性剤などの剥離防止材あるいは施工性改善材などの潤滑油や水などが挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
[舗装の耐久性]
本実施形態の製造方法により得られる道路舗装用アスファルト(アスファルト組成物(Y))は、後述する実施例に記載する轍掘れ抵抗性により、舗装の耐久性を評価することができる。
【0053】
本発明の一態様によれば、下記[1]~[9]が提供される。
[1] アスファルト組成物に大気開放下で電子線を照射する工程(SA)を含む、道路舗装用アスファルトの製造方法であって、
前記工程(SA)において、電子線を照射される前のアスファルト組成物(X)に、エネルギーが1keV以上200MeV以下、照射線量が100kGy以上1MGy以下の前記電子線を照射する、道路舗装用アスファルトの製造方法。
[2] 前記工程(SA)において、前記電子線を照射された後のアスファルト組成物(Y)の60℃、ひずみ1%、載荷速度10rad/sにおける複素せん断弾性率が、前記電子線を照射される前のアスファルト組成物(X)の複素せん断弾性率に対し1.05倍以上になるように、前記アスファルト組成物(X)に前記電子線を照射する、前記[1]に記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
[3] 前記アスファルト組成物(X)が、道路舗装に使用されていない未使用品である、前記[1]又は[2]に記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
[4] 前記アスファルト組成物(X)が、道路舗装に使用された使用済品である、前記[1]又は[2]に記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
[5] 前記アスファルト組成物(X)が、ストレートアスファルトを含み、改質剤を含まない、前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
[6] 前記アスファルト組成物(X)が、ストレートアスファルト及び改質剤を含み、
前記ストレートアスファルトと、前記改質剤とを混合する工程(SB)を含む、前記[1]~[4]のいずれか1つに記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
[7] 前記工程(SB)は、前記工程(SA)の前に実施される、前記[6]に記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
[8] 前記電子線が、電子加速器から照射された電子線である、前記[1]~[7]のいずれか1つに記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
[9] 前記電子加速器が、定置式電子加速器である、前記[8]に記載の道路舗装用アスファルトの製造方法。
【実施例0054】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
後述する各道路舗装用アスファルト(電子線照射後のアスファルト組成物)の物性は、下記方法によって測定した。
【0056】
[複素弾性率]
Dynamic Shear Rheometer test(DSR試験)により、以下の条件で複素弾性率を測定した。また、電子線照射前(比較例)の複素弾性率に対する、電子線照射後(実施例)の複素弾性率の比率を算出した。実施例1~3は、比較例1に対する比率である。実施例4は、比較例2に対する比率である。実施例5は、比較例3に対する比率である。
・装置名:MCR 102(Anton-Paar社製)
・載荷速度:10rad/s
・ひずみ:1%
・試験温度:60℃
・試験治具:内径8mm
・厚さ:1mm
【0057】
[軟化点]
舗装調査・試験法便覧(平成31年版、公益社団法人 日本道路協会発行)A042軟化点試験方法(環球法)に準拠して、軟化点を測定した。
【0058】
[伸度]
舗装調査・試験法便覧(平成31年版、公益社団法人 日本道路協会発行)A043伸度試験方法に準拠して、15℃における伸度を測定した。
【0059】
[アスファルト組成物]
道路舗装用アスファルトの製造に用いたアスファルト組成物は、以下のとおりである。
【0060】
・未使用のストレートアスファルト(X1)(商品名:ストレートアスファルト60-80、ENEOS株式会社製、サンプル形状:固体、大きさ:300mm×300mm×10mm)
【0061】
・使用済の劣化ストレートアスファルト(X2)(サンプル形状:固体、大きさ:300mm×300mm×10mm)
使用済の劣化ストレートアスファルト(X2)は、未使用のストレートアスファルト(X1)に対して、回転式薄膜加熱試験(RTFOT)を供した後、促進加圧劣化試験(PAV)を20時間行って、促進劣化させたものである。
【0062】
・改質剤含有アスファルト組成物:ポリマー改質アスファルト(ポリマー:スチレン‐ブタジエンブロック共重合体、アスファルト組成物全量に対するポリマーの含有量:5.0質量%、大きさ:300mm×300mm×10mm)
改質剤含有アスファルト組成物は、未使用のストレートアスファルト(X1)とポリマーとを混合して製造したものである。
【0063】
[道路舗装用アスファルトの製造]
次に、上述した組成を用いて、実施例1~5及び比較例1~3の道路舗装用アスファルトを製造した。
なお、実施例1~5及び比較例1~3で用いた各成分及び電子線の照射条件の詳細は、後述するとおりである。
【0064】
<実施例1>
図1に示すように、物性評価時の加熱処理による性状変化を抑えるため、試験用の型枠(大きさ:300mm×300mm×10mm)の内部に、固体状態の未使用のストレートアスファルト(X1)1を成型した試験体を作製した。次に、支持体2の上に、前記試験体を配置した。次に、常温(17.0℃~22.8℃)の大気開放下で、前記試験体の上部から、前記試験体の上面全体に対し、装置名:電子加速器ロードトロン TT200(ベルギーIBA社製)を用いて、エネルギーが10MeV、照射回数1回当たりの電子線量20kGyの電子線3を、照射線量が200kGyとなるように、照射回数10回で直接照射して、実施例1の道路舗装用アスファルトを製造した。
また、支持体2上に配置した線量計4(装置名:CTA 線量計FTR-125、富士フィルム株式会社製)により、照射された電子線の照射線量を確認し、前記試験体の上面全体に電子線が照射されたことを確認した。
【0065】
<実施例2>
実施例1の道路舗装用アスファルトに対し、電子線の照射線量を700kGy(照射回数:35回)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の道路舗装用アスファルトを製造した。
【0066】
<実施例3>
実施例1の道路舗装用アスファルトに対し、電子線の照射線量を1,000kGy(照射回数:50回)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の道路舗装用アスファルトを製造した。
【0067】
<実施例4>
改質剤含有アスファルト組成物に対し、常温(17.0℃~22.8℃)の大気開放下で、電子線強度が10MeVとし、照射線量を500kGy(照射回数:25回)とした以外は、実施例1と同様にして、実施例4の道路舗装用アスファルトを製造した。
【0068】
<実施例5>
使用済の劣化ストレートアスファルト(X2)に対し、常温(17.0℃~22.8℃)の大気開放下で、電子線強度を10MeVとし、照射線量を500kGy(照射回数:25回)とした以外は、実施例1と同様にして、実施例5の道路舗装用アスファルトを製造した。
【0069】
<比較例1>
未使用のストレートアスファルト(X1)自体を、比較例1の道路舗装用アスファルトとした。即ち、実施例1の道路舗装用アスファルトに対し、電子線を照射しないものである。
【0070】
<比較例2>
改質剤含有アスファルト組成物自体を、比較例2の道路舗装用アスファルトとした。即ち、実施例4の道路舗装用アスファルトに対し、電子線を照射しないものである。
【0071】
<比較例3>
使用済の劣化ストレートアスファルト(X2)自体を、比較例3の道路舗装用アスファルトとした。即ち、実施例5の道路舗装用アスファルトに対し、電子線を照射しないものである。
【0072】
得られた各道路舗装用アスファルトについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
[舗装の耐久性の評価]
実施例1~5、比較例1~3の各道路舗装用アスファルトについて、舗装の耐久性の評価として、轍掘れ抵抗性を評価した。具体的には、舗装調査試験法便覧「B003 ホイールトラッキング試験方法」に準拠して、道路舗装用アスファルトの60℃における動的安定度、及び60℃における最終変形量を測定した。
なお、動的安定度は、道路舗装用アスファルトが1mm変形するときのタイヤの走行回数を評価したものであり、動的安定度の数値が大きい程、道路舗装用アスファルトが変形しにくいことを表す。また、電子線照射前(比較例)の動的安定度に対する、電子線照射後(実施例)の動的安定度の比率を算出した。実施例1~3は、比較例1に対する比率である。実施例4は、比較例2に対する比率である。実施例5は、比較例3に対する比率である。
最終変形量は、数値が小さい程、道路舗装用アスファルトが変形しにくいことを表す。
【0074】
【0075】
表1からわかるように、電子線が照射されていない比較例1~3の道路舗装用アスファルトと比較して、実施例1~5の道路舗装用アスファルトは、動的安定度の数値は大きく、最終変形量の数値は小さくなった。即ち、轍掘れ抵抗性が向上した。
このことから、電子線照射された道路舗装用アスファルトは、変形しにくく、舗装の耐久性が向上したことが確認できた。
【0076】
[赤外分光分析]
次に、アスファルト組成物の特性基、部分構造、化合物の変化を解析するため、赤外分光分析を行った。分析機器は、赤外分光光度計(装置名:FT-IR8400S、株式会社島津製作所製)を用いた。結果を
図2に示す。
【0077】
電子線を照射したアスファルト組成物(Y)に対して赤外分光分析を行った結果、全ての試料において、官能基領域には大きな変化は見られなかった。
図2に示す未劣化のストレートアスファルトと改質剤含有アスファルトの指紋領域において、アルカンの変角振動(1,380cm
-1~1,365cm
-1、1,470cm
-1~1,430cm
-1)にわずかな変化が見られた。
アスファルトの特性基、部分構造、或いは化合物の変化は、赤外分光分析では観察されなかった。
大気開放下での電子線照射では、アスファルト組成物の酸化劣化が促進されることが懸念されたが、
図3に示すように、今回のエネルギー及び照射線量では、酸化劣化に伴うカルボン酸の伸縮振動(1,700cm
-1~1,725cm
-1)に変化は見られず、電子線照射により生じると推定されるラジカルによる酸化の促進は、観察されなかった。