(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023069815
(43)【公開日】2023-05-18
(54)【発明の名称】成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/00 20060101AFI20230511BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B29C45/00
B29C44/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021181959
(22)【出願日】2021-11-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】前川 政貴
(72)【発明者】
【氏名】三宅 翔平
【テーマコード(参考)】
4F206
4F214
【Fターム(参考)】
4F206AA04
4F206AA11
4F206AG20
4F206AH56
4F206AM32
4F206AP02
4F206AP05
4F206AR17
4F206AR20
4F206JA07
4F206JF01
4F206JF06
4F206JL02
4F206JM01
4F206JM04
4F206JM05
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4F206JN11
4F206JN21
4F206JN41
4F206JQ81
4F206JQ90
4F214AA04
4F214AA11
4F214AG20
4F214AP02
4F214AP05
4F214AR17
4F214AR20
4F214UA08
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4F214UB01
4F214UC01
4F214UL03
4F214UL11
4F214UL21
4F214UL41
4F214UM81
4F214UM90
(57)【要約】
【課題】地球環境保全に寄与するとともに、ショートショットを十分に抑制できる成形体の製造方法及び成形体を提供する。
【解決手段】本開示の一側面に係る成形体の製造方法は、(A)バイオマス由来のポリエチレン樹脂及び化石燃料由来のポリプロピレン樹脂を含有する樹脂材料と、超臨界流体と、を含む溶融樹脂組成物を調製する工程と、(B)溶融樹脂組成物を金型のキャビティ内に射出する工程と、(C)上記(B)工程後、キャビティを保圧するとともに冷却する工程と、(D)金型から成形体を回収する工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)バイオマス由来のポリエチレン樹脂及び化石燃料由来のポリプロピレン樹脂を含有する樹脂材料と、超臨界流体と、を含む溶融樹脂組成物を調製する工程と、
(B)前記溶融樹脂組成物を金型のキャビティ内に射出する工程と、
(C)前記(B)工程後、前記キャビティを保圧するとともに冷却する工程と、
(D)前記金型から成形体を回収する工程と、
を備える、成形体の製造方法。
【請求項2】
前記超臨界流体が二酸化炭素を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記超臨界流体が窒素を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記溶融樹脂組成物における前記樹脂材料の質量を100質量部としたとき、前記超臨界流体の量が1~3質量部である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記溶融樹脂組成物における前記樹脂材料の質量を100質量部としたとき、前記超臨界流体の量が0.25~1.25質量部である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
前記バイオマス由来のポリエチレン樹脂の含有量が、前記樹脂材料の全量を基準として、30~60質量%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
超臨界流体成形による成形体であって、
バイオマス由来のポリエチレン樹脂及び化石燃料由来のポリプロピレン樹脂を含有する、成形体。
【請求項8】
厚さ0.20~0.60mmの薄肉部を備える、請求項7に記載の成形体。
【請求項9】
前記バイオマス由来のポリエチレン樹脂の含有量が、樹脂の全量を基準として、30~60質量%である、請求項7又は8に記載の成形体。
【請求項10】
マイクロボイドを含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロプラスチックの地球環境への影響が注目されるようになり、脱プラスチック運動やプラスチック製品の使用を控える風潮が高まっている。食品や日用品の用途における使い捨てのプラスチック容器については、ユーザーから少しでも化石燃料由来のプラスチック使用量を少なくできないかという要望が強くなってきている。
【0003】
プラスチックを原料に用いる射出成形の分野においては、エネルギーと同様に化石燃料由来の材料からの脱却が望まれており、バイオマス由来の材料の利用が注目されている。バイオマスは、二酸化炭素と水から光合成された有機化合物であり、燃焼しても二酸化炭素の増減に影響を与えない、いわゆるカーボンニュートラルな資源である。このようなバイオマス由来のプラスチックを用いることで、化石燃料由来のプラスチックの使用量を削減することが望まれている。
【0004】
特許文献1には、発酵法により得られた原料から得られるポリエチレンと、ポリプロピレンと、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びα-オレフィン共重合体のうち少なくとも一方とを特定の量で配合し、射出成形により形成されてなる樹脂成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によると、化石燃料由来のポリエチレン樹脂と比較して、同様の密度であっても、バイオマス由来のポリエチレン樹脂は流動性に劣る傾向にある。そのため、樹脂材料がバイオマス由来のポリエチレン樹脂を含む場合には、金型のキャビティの流動末端にまで樹脂材料が至らない現象(以下、「ショートショット」という。)が発生しやすくなる。特に、目的とする成形体が薄肉部を有する場合には、ショートショットが一層発生しやすくなる。
【0007】
本開示は、地球環境保全に寄与するとともに、ショートショットを十分に抑制できる成形体の製造方法及び成形体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一側面は、(A)バイオマス由来のポリエチレン樹脂及び化石燃料由来のポリプロピレン樹脂を含有する樹脂材料と、超臨界流体と、を含む溶融樹脂組成物を調製する工程と、(B)溶融樹脂組成物を金型のキャビティ内に射出する工程と、(C)上記(B)工程後、キャビティを保圧するとともに冷却する工程と、(D)金型から成形体を回収する工程と、を備える、成形体の製造方法である。
【0009】
一態様において、超臨界流体は、二酸化炭素を含んでいてもよい。超臨界流体が二酸化炭素を含む場合、溶融樹脂組成物における樹脂材料の質量を100質量部としたとき、超臨界流体の量は、1~3質量部であってもよい。
【0010】
一態様において、超臨界流体は、窒素を含んでいてもよい。超臨界流体が窒素を含む場合、溶融樹脂組成物における樹脂材料の質量を100質量部としたとき、超臨界流体の量は、0.25~1.25質量部であってもよい。
【0011】
一態様において、バイオマス由来のポリエチレン樹脂の含有量は、樹脂材料の全量を基準として、30~60質量%であってもよい。
【0012】
本開示の他の一側面は、超臨界流体成形による成形体であって、バイオマス由来のポリエチレン樹脂及び化石燃料由来のポリプロピレン樹脂を含有する、成形体である。
【0013】
一態様において、上記成形体は、厚さ0.20~0.60mmの薄肉部を備えていてもよい。
【0014】
一態様において、バイオマス由来のポリエチレン樹脂の含有量は、樹脂の全量を基準として、30~60質量%であってもよい。
【0015】
一態様において、上記成形体は、マイクロボイドを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、地球環境保全に寄与するとともに、ショートショットを十分に抑制できる成形体の製造方法及び成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は本開示の一実施形態に係る成形体を示す斜視図である。
【
図2】
図2は
図1に示す成形体の底部及び側壁部の断面図である。
【
図3】
図3(a)は比較例1に係る容器を示す写真であり、
図3(b)は実施例1に係る容器を示す写真であり、
図3(c)は実施例5に係る容器を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<成形体の製造方法>
本実施形態に係る成形体の製造方法は以下の工程を備える。
(A)バイオマス由来のポリエチレン樹脂及び化石燃料由来のポリプロピレン樹脂を含有する樹脂材料と、超臨界流体と、を含む溶融樹脂組成物を調製する工程。
(B)溶融樹脂組成物を金型のキャビティ内に射出する工程。
(C)上記(B)工程後、キャビティを保圧するとともに冷却する工程。
(D)金型から成形体を回収する工程。
(A)工程から(D)工程の一連の工程は、例えば、MuCell射出成形機(「MuCell」はTrexel.Co.Ltdの登録商標)を使用して実施できる。
【0020】
「(A)工程」
樹脂材料と、超臨界流体とを含む溶融樹脂組成物を調製する。樹脂材料は、バイオマス由来のポリエチレン樹脂及び化石燃料由来のポリプロピレン樹脂を含有する。
【0021】
バイオマス由来のポリエチレン樹脂は、例えば、植物由来のポリエチレン樹脂のポリエチレン樹脂が挙げられる。このような植物としては、例えば、トウモロコシ、サトウキビ、ビート、マニオク及びトウゴマが挙げられる。ポリエチレン樹脂は、植物の可食部に由来するものであってもよく、非可食部に由来するものであってもよい。植物由来のポリエチレン樹脂として、例えば、ブラスケム社製のものが挙げられる。ブラスケム社は、再生可能な天然原料から、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)及び低密度ポリエチレン(LDPE)を製造し、これらを販売している。例えば、植物由来のLLDPEは、C4-LLDPEもしくはC6-LLDPEと表記される炭素数4もしくは6のα-オレフィンを側鎖に有するものである。
【0022】
バイオマス由来のポリエチレン樹脂の190℃におけるメルトフローレート(MFR)は特に制限されないが、例えば、25g/10分以下であり、20g/10分以下であることが好ましい。この値が20g/10分以下であることで、成形体の機械的強度を十分に高くすることができる。この値は、例えば、5g/10分以上であり、好ましくは7g/10分以上である。この値が7g/10分以上であることで、樹脂材料に占めるバイオマス由来のポリエチレン樹脂の割合が比較的多くても、樹脂材料の流動性を十分に維持することができる。また、射出成形時に容易に射出することができる。なお、本開示おけるメルトフローレートの値は、JIS K7210-1:2014に記載の方法に準拠し、所定の温度(190℃又は後述の230℃)及び荷重2.16kgの条件で測定された値を意味する。
【0023】
バイオマス由来のポリエチレン樹脂の密度は、例えば、0.910~0.960g/cm3であり、0.915~0.918g/cm3又は0.953~0.959g/cm3であってもよい。バイオマス由来のポリエチレン樹脂の密度が0.910g/cm3以上であることで、成形体の剛性を十分に高くすることができる。また、バイオマス由来のポリエチレン樹脂の密度が0.960g/cm3以下であることにより、成形体の透明性及び機械的強度を十分に高くすることができる。
【0024】
ポリエチレン樹脂が、バイオマス由来か否かを見分ける方法としては、例えば、ポリエチレン樹脂中の放射性炭素(C14)の含有量を測定する方法が挙げられる。当該方法について以下詳述する。大気中の二酸化炭素には、C14が一定割合(105.5pMC)で含まれている。そのため、大気中の二酸化炭素を取り入れて成長する植物(例えば、トウモロコシ)中のC14の含有量も105.5pMC程度であることが知られている。他方、化石燃料中にはC14が殆ど含まれていないことも知られている。したがって、ポリエチレン樹脂の全炭素原子におけるC14の含有量を測定することで、ポリエチレン樹脂が、バイオマス由来か否かを見分けることができる。
【0025】
ポリエチレン樹脂の下記式(1)で表されるバイオマス度(Pbio)は、例えば、85%以上、90%以上、92%以上、95%以上、又は99%以上であってよく、100%であってよい。
Pbio(%)=PC14/105.5×100・・・式(1)
[式(1)中、PC14は、バイオマス由来のポリエチレン樹脂中の放射性炭素(C14)の含有量を表す。]
【0026】
化石燃料由来のポリプロピレン樹脂としては、例えば、プロピレンのホモポリマー、ブロックコポリマー及びランダムコポリマーが挙げられ、成形性の観点から、プロピレンのブロックコポリマーを用いることが好ましい。
【0027】
化石燃料由来のポリプロピレン樹脂の230℃におけるメルトフローレートは、例えば、45g/10分以下であればよく、40g/10分以下であることがより好ましい。この値が45g/10分以下であることで、得られる成形体の機械的強度が向上する傾向にある。この値は好ましくは3g/10分以上であり、より好ましくは5g/10分以上であり、更に好ましくは7g/10分以上である。この値が3g/10分以上であることで、樹脂材料に占めるバイオマス由来のポリエチレン樹脂の割合が多くても、樹脂材料の流動性を十分に維持することができる。
【0028】
化石燃料由来のポリプロピレン樹脂の密度は、例えば、0.900~0.910g/cm3である。化石燃料由来のポリプロピレン樹脂の密度がこの範囲であることで、成形不良の発生を十分に抑制できる。
【0029】
バイオマス由来のポリエチレン樹脂の含有量は、地球環境保全に寄与することから、樹脂材料の全量を基準として、10質量以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましい。バイオマス由来のポリエチレン樹脂の含有量は、ショートショットの発生を一層抑制しやすくなることから、樹脂材料の全量を基準として、90質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。
【0030】
化石燃料由来のポリプロピレン樹脂の含有量は、ショートショットの発生を一層抑制しやすくなることから、樹脂材料の全量を基準として、10質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましい。化石燃料由来のポリプロピレン樹脂の含有量は、バイオマス由来のポリエチレン樹脂を分散させやすい、あるいは、当該樹脂と相溶しやすいことから、樹脂材料の全量を基準として、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましい。
【0031】
本発明者らの検討によると、二酸化炭素を使用する場合、樹脂材料100質量部に対して1~3質量部の超臨界状態の二酸化炭素を添加して溶融樹脂組成物を調製する。二酸化炭素の量が1質量部以上であることで、成形ショット毎の充填圧のばらつきを小さくできるとともに、二酸化炭素の添加による溶融樹脂組成物の粘度低下により、ショートショットの発生を抑制することができる。これに加え、超臨界状態の二酸化炭素に起因する発泡を促すことで成形体の内部に空隙を形成することができる。他方、二酸化炭素の量が3質量部以下であることで、(C)工程における保圧圧力を比較的低く設定することができ、膨れを抑制できる傾向にある。
【0032】
窒素を使用する場合、樹脂材料100質量部に対して0.25~1.25質量部の超臨界状態の二酸化炭素を添加して溶融樹脂組成物を調製する。窒素の量が0.25質量部以上であることで、成形ショット毎の充填圧のばらつきを小さくできるとともに、窒素の添加による溶融樹脂組成物の粘度低下により、ショートショットの発生を抑制することができる。これに加え、超臨界状態の窒素に起因する発泡を促すことで成形体の内部に空隙を形成することができる。他方、窒素の量が1.25質量部以下であることで、(C)工程における保圧の圧力を比較的低く設定することができ、膨れを抑制できる傾向にある。
【0033】
溶融樹脂組成物は、樹脂材料及び超臨界流体以外の成分を含んでもよい。すなわち、溶融樹脂組成物は、必要に応じて、例えば、フィラー、着色剤、可塑剤、紫外線安定化剤、スリップ剤、帯電防止剤及び結晶核剤を更に含んでもよい。樹脂材料及び超臨界流体の合計含有量は、溶融樹脂組成物の全量を基準として、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、97質量%、又は99質量%以上であってよく、100質量%であってもよい。
【0034】
溶融樹脂組成物の温度(スクリューシリンダ温度)は、樹脂材料の融点又はMFRに応じて設定すればよいが、200~260℃であることが好ましい。この温度が下限値以上であることで、キャビティ内において樹脂が流動しやすく、他方、上限値以下であることで、樹脂の焦げ付きを抑制できる傾向にある。
【0035】
[(B)工程]
(A)工程で調製した溶融樹脂組成物を金型のゲートを通じてキャビティ内に射出する。射出速度は、一定であってもよく、途中で変動させてもよい。射出速度を途中で変動する場合、例えば、まず、第一の速度で溶融樹脂組成物を射出し、続いて、第一の速度よりも遅い第二の速度で溶融樹脂組成物を射出してもよい。射出の途中で第一の速度よりも遅い第二の速度に変動することで、薄肉部を有する成形品を作製する場合であっても、バリの発生が抑制できる傾向にある。第一の速度は、好ましくは150mm/秒以上であり、より好ましくは200mm/秒以上であり、更に好ましくは250mm/秒以上である。射出速度が150mm/秒以上であることで、流動末端まで樹脂を到達させやすく、ショートショットの発生を抑制できる傾向にある。第二の速度は、流動末端部のバリの発生を抑制しやすくなることから、好ましくは100mm/秒以下であり、より好ましくは80mm/秒以下であり、更に好ましくは50mm/秒以下である。第一の速度から第二の速度へと変動するタイミングは、例えば、キャビティ内に占める溶融樹脂組成物の量が、キャビティ内の体積を基準として、50~90体積%となった時点であってもよい。
【0036】
キャビティのゲートから、最も遠い流動末端までの距離(以下、「最大流動長」という。)が60mm以上であっても、流動末端にまで溶融樹脂組成物が至ることが好ましい。最大流動長は、例えば、70mm以上又は80mm以上であってもよい。最大流動長の上限値は、例えば、120mmである。
【0037】
[(C)工程]
上記(B)工程後、キャビティを保圧するとともに冷却する。本発明者らの検討によると、超臨界流体として二酸化炭素を使用した場合、15~80MPaの圧力条件で保圧する。この圧力が15MPa以上であることで、ショートショットの発生を抑制することができ、他方、80MPa以下であることで、膨れの発生を抑制することができる傾向にある。この値は、好ましくは15~50MPaであり、より好ましくは15~30MPaである。超臨界流体として窒素を使用した場合、50~150MPaの圧力条件で保圧する。この圧力が50MPa以上であることで、ショートショットの発生を抑制することができ、他方、150MPa以下であることで、膨れの発生を抑制することができる傾向にある。この値は、好ましくは50~135MPaであり、より好ましくは50~120MPaである。保圧時間は、超臨界流体の種類に関わらず、例えば、0.1~1.0秒とすればよい。
【0038】
薄肉部を有する成形体を作製する観点から、キャビティ内の圧力を低下させるための「コアバック」と称される工程を実施しないことが好ましい。コアバックは、キャビティに充填された溶融樹脂組成物が固化し終わる前に、金型の可動部を移動させてキャビティの容積を拡大させる工程である。
【0039】
[(D)工程]
金型内の成形体の温度が30~60℃程度に下がった時点で、成形体を金型から回収する。本実施形態においては、(C)工程で保圧を実施するとともに、上述のように「コアバック」を実施しないため、本実施形態に係る成形体には目視で確認できるような大きな空隙があまり形成されない。本実施形態に係る成形体は、空隙による軽量化よりも、薄肉化による軽量化を主に目指したものであると言うことができる。
【0040】
[作用効果]
従来の射出成形では、バイオマス由来のポリエチレン樹脂を含む成形体の製造において、ショートショットの発生の抑制が十分ではなかった。バイオマス由来のポリエチレン樹脂は流動性に劣る(MFRの値が小さい)傾向にあるためと推察される。特に、目的とする成形体が薄肉部を有する場合には、ショートショットが一層発生しやすくなる。これに対し、本実施形態に係る成形体の製造方法においては、樹脂材料がバイオマス由来のポリエチレン樹脂に加えて化石燃料由来のポリプロピレン樹脂を含み、更に、樹脂材料と超臨界流体とを併用することで、溶融樹脂組成部の流動性を高めることができる。これによりショートショットを十分に抑制できる。また、バイオマス由来のポリエチレン樹脂と、化石燃料由来のポリプロピレン樹脂とは、相溶しづらい傾向がある。しかし、これらを含む樹脂材料と超臨界流体とを併用することで、バイオマス由来のポリエチレン樹脂と、化石燃料由来のポリプロピレン樹脂とが相溶しやすくなる。また、得られる成形体は、従来の化石燃料由来のポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂を用いて製造した成形体と比べて、機械的特性等の物性面で遜色がないため、従来のポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂成形体を代替することができる。また、得られる成形体が超臨界流体に由来するマイクロボイド(空隙)を含む場合には、マイクロボイドを有しない場合と比較して、形状が同一であっても、プラスチック使用量を削減することが可能となる。
【0041】
<成形体>
図1に示す成形体10は、上記工程を経て製造された容器である。成形体10は、平面視において、四隅が丸みを帯びている略長方形の形状を有している。成形体10は、薄肉部として底部1、一対の側壁部2a、及び一対の側壁部2bと、四隅に設けられたフランジ3とを備える。平面視において、側壁部2aは成形体10の短辺をなし、他方、側壁部2bは成形体10の長辺をなしている。フランジ3は、成形体10と嵌合する蓋(不図示)のガイドの役割を果たす。
【0042】
図2に示すように、底部1の中央部1aが金型のゲート位置に相当する箇所である。底部1には足5が形成されている。成形体10が足5を備えることで、落下耐性を高めることができる。すなわち、成形体10が、例えば、テーブルから落下しても、足5があることにより、底部1が床に直接衝突することを回避することができ、底部1及びその近傍が破壊されることを抑制できる。
【0043】
底部1の厚さは、0.30~0.60mmであり、0.40~0.50mmであってもよい。この厚さが0.30mm以上であることで、膨れを抑制できる傾向にあるとともに落下耐性を確保することができる。他方、この厚さが0.60mm以下であることで、軽量化が図られる。なお、ここでは、底部1の全体が上記範囲の厚さを有する態様を例示したが、底部の一部が上記範囲の厚さを有する薄肉部(第一の薄肉部)であってもよい。プラスチック使用量削減の観点から、底部における薄肉部の面積割合は好ましくは50%以上であり、より好ましくは70%以上であり、更に好ましくは90%以上である。
【0044】
側壁部2a,2bの厚さは、0.20~0.40mmであり、0.25~0.40mmであってもよく、0.30~0.35mmであってもよい。この厚さが0.20mm以上であることで、落下耐性を確保することができる。他方、この厚さが0.40mm以下であることで、軽量化が図られる。なお、ここでは、側壁部2a,2bの全体が上記範囲の厚さを有する態様を例示したが、側壁部の一部が上記範囲の厚さを有する薄肉部(第二の薄肉部)であってもよい。プラスチック使用量削減の観点から、側壁部における薄肉部の面積割合は好ましくは50%以上であり、より好ましくは70%以上であり、更に好ましくは90%以上である。
【0045】
成形体10は、底部1、側壁部2a,2b及び四隅に設けられたフランジ3に、目視で確認できない大きさの気泡(マイクロボイド)を含んでいてもよい。これにより、薄型の成形体で発生しやすい反りを抑制しやすくなる。このようなマイクロボイドは、例えば、成形体10を切断し、切断面を顕微鏡で観察することで確認できる。マイクロボイドは、上記行程の超臨界流体に由来する。マイクロボイドの直径は、10~200μmであってもよい。成形体10の1mm2当たりのマイクロボイドの数は、10~10000個であってもよい。マイクロボイドの数は、切断面の顕微鏡観察画像中の気泡の数を数えることにより測定できる。目視で確認できる気泡の直径の下限値は、一般的に、200μmであると言われている。
【0046】
成形体10は、バター、ヨーグルト、マーガリン及びクリームチーズなどの食品を収容する薄肉容器に適用できる。成形体10は、優れた落下耐性を有することから、比較的大容量(例えば、内容積:280cc以上)であってもよい。
【0047】
以上、本開示の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、上記実施形態においては、超臨界流体として二酸化炭素又は窒素を使用する場合を例示したが、これらのガスに代えて、例えば、アルゴン又はヘリウムを使用してもよい。
【0048】
上記実施形態においては、成形体として食品を収容する薄肉容器を例示したが、成形体は食品を収容する薄肉容器に限られない。成形体は、例えば、ウエットティッシュ等の日用品を収容する容器、インクカートリッジ、搬送用トレイ及び建装材であってもよい。このような薄肉容器が備える薄肉部の厚さは、0.20~0.60mmであってもよい。
【実施例0049】
以下、本開示について実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
<容器の作製>
(比較例1及び5)
表1に示す樹脂材料を使用し、通常の射出成形(速度制御)によって
図1に示す構成の容器を1個取りにて作製した。成形条件及び容器の構成を下記に示す。
【0051】
[成形条件]
射出成形機:MuCell射出成形機(住友重機械工業株式会社製、「MuCell」はTrexel.Co.Ltdの登録商標)
スクリュー径(Φ):40mm
スクリューストローク:160mm
・スクリューシリンダー温度(5ゾーン):210~240℃
・射出速度:金型のキャビティに充填された樹脂が、金型のキャビティを基準として0~80体積%の射出速度は350mm/秒とし、金型のキャビティに充填された樹脂が、金型のキャビティを基準として80~100体積%の射出速度は50mm/秒とした。
・保圧圧力:表1に示す値
・保圧時間:1.0秒
・キャビティにおける最大流動長:99mm
【0052】
[容器の構成]
・底部の厚さ:0.348mm(狙い値:0.350mm)
・側壁部(短辺)の厚さ:0.334mm(狙い値:0.350mm)
・側壁部(長辺)の厚さ:0.343mm(狙い値:0.350mm)
・フランジの厚さ:0.342mm(狙い値:0.350mm)
【0053】
表1に示す樹脂材料の詳細を下記に示す。
・J667TG(型番、株式会社プライムポリマー製、化石燃料由来のブロックポリプロピレン樹脂、230℃におけるMFR:36g/10分)
・SHA7260(型番、Braskem社製、植物由来のポリエチレン樹脂、バイオマス度:94.5%、190℃におけるMFR:20g/10分)
【0054】
(比較例2)
樹脂材料に対して超臨界流体を添加して溶融樹脂組成物を調製した。この溶融樹脂組成物を使用したことの他は、比較例1と同様にして容器を作製した。樹脂材料100質量部に対する超臨界流体の配合量と、超臨界流体の種類とを表1に示す。
【0055】
(比較例3及び4並びに実施例1~9)
樹脂材料、超臨界流体の種類及び配合量、並びに保圧圧力を表1及び2に示すとおりにしたことの他は、比較例1と同様にして容器を作製した。
【0056】
<容器の重量及び減量化率の測定>
(実施例1~9)
金型から容器を取り出した後、容器の重量を測定した。また、容器の減量化率を算出した。結果を表1及び2に示す。なお、減量化率の基準は、J667TGを50質量%及びSHA7260を50質量%含む樹脂材料が金型のキャビティ内に過不足無く充填された場合に得られる容器の重量(10.32g)とした。基準となる重量は、樹脂材料の加重平均から求められる密度(0.928g/cm3)と、3D-CADから算出された容器の体積とを掛け合わせて算出した。なお、食品用容器の一般的な市販品の一例(底部の厚さ:0.483mm、側壁部(短辺)の厚さ:0.467mm、側壁部(長辺)の厚さ:0.487mm、フランジの厚さ:0.453mm)の重量は、おおよそ12.80gである。
【0057】
<ショートショットの有無>
(比較例1~5及び実施例1~9)
金型から容器を取り出した後、容器を目視で観察することにより、ショートショットの有無を確認した。結果を表1及び2に示す。なお、表中「○」はショートショットが確認されなかったことを、「×」はショートショットが確認されたことを示す。
【0058】
<膨れの有無>
(実施例1~9)
金型から容器を取り出した後、容器を目視で観察した。観察結果を下記の基準で評価した。結果を表1及び2に示す。なお、「膨れ」とは、容器の表面に生じた膨らみのことを意味する。
[評価基準]
〇:膨れが生じた箇所の面積の合計が、容器全体の外側の表面積の1%未満である
△:膨れが生じた箇所の面積の合計が、容器全体の外側の表面積の1%以上10%未満である
×:膨れが生じた箇所の面積の合計が、容器全体の外側の表面積の10%以上70%未満である
【0059】
<総合判定>
下記の基準で容器を総合的に判定した。結果を表1及び2に示す。
[評価基準]
◎:ショートショットが確認されず、且つ、膨れが確認されない
〇:ショートショットが確認されず、且つ、膨れが確認される
×:ショートショットが確認される
【0060】
【0061】
【0062】
膨れの有無の評価結果が「○」に該当する容器は、全体の表面が平坦であった。当該容器においては、稀に確認された肉眼で見える気泡の直径は300μm以下であった。膨れの有無の評価結果が「△」に該当する容器は、膨れが生じている箇所がわずかに確認され、容器の表面の大部分が平坦であった。当該容器は、膨れている箇所において、300μm以上3000μm以下の気泡が存在していることが確認された。膨れの有無の評価結果が「×」に該当する容器は、評価結果が「△」に該当する容器と比較して、膨れが生じている箇所が複数確認され、容器の表面のうち、膨らみを感じさせる領域が多かった。当該容器は、膨れている箇所において、300μm以上20mm以下の気泡が存在していることが確認された。
【0063】
比較例1並びに実施例1及び5で得られた容器の写真をそれぞれ
図3(a)~(c)に示す。写真中のラベルの数字は検討番号である。比較例1の容器は、
図3(a)からショートショットが発生していることが分かる。実施例1の容器は、
図3(b)からショートショットが発生せず、且つ、容器の底部と側壁部の境界付近に膨れがわずかに発生していることが分かる。実施例5の容器は、
図3(c)からショートショットが発生せず、且つ、膨れが発生していないことが分かる。
【0064】
実施例7及び8の減量化率は、保圧圧力を高くしキャビティ内に射出される樹脂材料の量が増加したため、他の実施例と比較して小さくなっている。
【0065】
各実施例及び比較例で確認された膨れは、金型に充填される樹脂材料の内部で発生した発泡により内部の樹脂の表面側に押し上げられることで発生すると発明者らは推察している。そして、実施例5では、超臨界流体及び保圧条件を表1に示す値とすることで、樹脂内部の発泡が抑制され、膨れが抑制されたと発明者らは推察している。このような膨れは着色剤等を溶融樹脂に配合することで目立たなくし得る。
【0066】
超臨界流体として二酸化炭素を用いた場合(実施例1~5)には、窒素を用いた場合(実施例6~9)と比較して、膨れが発生しにくい傾向が確認された。
【0067】
超臨界流体として窒素を用いて得られた容器(実施例6~9)は、二酸化炭素を用いて得られた容器(実施例1~5)と比較して、マイクロボイドにより外観が白っぽくなる傾向が確認された。