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特開2023-7043窒素酸化物からアンモニアを合成する触媒
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  • 特開-窒素酸化物からアンモニアを合成する触媒 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023007043
(43)【公開日】2023-01-18
(54)【発明の名称】窒素酸化物からアンモニアを合成する触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/83 20060101AFI20230111BHJP
   C01C 1/04 20060101ALI20230111BHJP
【FI】
B01J23/83 M
C01C1/04 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021110007
(22)【出願日】2021-07-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/産業活動由来の希薄な窒素化合物の循環技術創出―プラネタリーバウンダリー問題の解決に向けて」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】難波 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶祐
(72)【発明者】
【氏名】眞中 雄一
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA01A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169CB82
4G169DA06
4G169EC03X
4G169EC03Y
4G169FC08
(57)【要約】
【課題】非貴金属を使用した触媒を用いて、窒素酸化物からアンモニアを合成する。
【解決手段】触媒は、酸化セリウムと、酸化セリウムに担持された銅を有する。酸化セリウムと銅の質量の和に対する銅の質量は、5~20%であることが好ましい。また、酸化セリウムの比表面積は、130~170m/gであるであることが好ましい。この触媒を用いると、温度150~230℃の比較的低温の環境下で、窒素酸化物からアンモニアが効率よく合成できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素酸化物からアンモニアを合成するための触媒であって、酸化セリウムと、前記酸化セリウムに担持された銅を有する触媒。
【請求項2】
請求項1において、
前記酸化セリウムと前記銅の質量の和に対する前記銅の質量が5~20%である触媒。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記酸化セリウムの比表面積が130~170m/gである触媒。
【請求項4】
窒素酸化物からアンモニアを合成するための触媒であって、酸化アルミニウムと、前記酸化アルミニウムに担持された銅を有する触媒。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかの触媒の存在下で、窒素酸化物と一酸化炭素と水を反応させてアンモニアを合成するアンモニアの製造方法。
【請求項6】
請求項5において、
温度130~300℃で、窒素酸化物と一酸化炭素と水を反応させるアンモニアの製造方法。
【請求項7】
請求項6において、
温度150~230℃で、窒素酸化物と一酸化炭素と水を反応させるアンモニアの製造方法。
【請求項8】
請求項4の触媒の存在下で、窒素酸化物と一酸化炭素と水を反応させてアンモニアを合成するアンモニアの製造方法。
【請求項9】
請求項8において、
温度180~300℃で、窒素酸化物と一酸化炭素と水を反応させるアンモニアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、非貴金属を使用した触媒を用いて、窒素酸化物からアンモニアを合成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素(NO)からアンモニア(NH)を合成するための触媒として、チタニア(TiO)に白金(Pt)を担持したものが知られている(非特許文献1)。しかしながら、NOからNHを合成するためにPt/TiO触媒を用いる場合、反応温度が低くなるとともに、原料ガスに含まれる還元剤の一酸化炭素が、Ptに強く吸着して、この変換反応を阻害する。このため、Pt/TiO触媒では、比較的低温でのNH合成が効率的でなかった。また、Pt/TiO触媒は高価な貴金属を使用している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Catal. Sci. Technol., 2019, 9, p.2898-2905
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願は、このような事情に鑑みてなされたものであり、非貴金属を使用した触媒を用いて、窒素酸化物からアンモニアを合成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願のある態様の触媒は、窒素酸化物(NO)からアンモニアを合成するための触媒であって、酸化セリウム(CeO)と、酸化セリウムに担持された銅(Cu)を有する。
【0006】
本願の他の態様の触媒は、窒素酸化物からアンモニアを合成するための触媒であって、酸化アルミニウムと、酸化アルミニウム(Al)に担持された銅を有する。
【0007】
本願のアンモニアの製造方法は、本願の触媒の存在下で、窒素酸化物と一酸化炭素(CO)と水(HO)を反応させてアンモニアを合成する。
【発明の効果】
【0008】
本願の触媒はCuを使用している。このため、Ptを使用した触媒と比べて、本願の触媒は安価である。また、本願の触媒を用いれば、Ptを使用した触媒を用いたときと比べて、低温でNOからNHが合成できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1、実施例5、比較例1、および比較例2の触媒をそれぞれ用いたときの反応温度とNOのNHへの変換率の関係を示すグラフ。
図2】実施例1~実施例4の触媒をそれぞれ用いたときの反応温度とNOのNHへの変換率の関係を示すグラフ。
図3】実施例1と実施例6の触媒をそれぞれ用いたときの反応温度とNOのNHへの変換率の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本願の触媒とアンモニアの製造方法について、実施形態と実施例に基づいて説明する。なお、本願で「~」を用いて2つの数値の間の範囲を表わす場合、これら2つの数値もこの範囲に含まれる。また、重複説明は適宜省略する。本願の触媒は、窒素酸化物からアンモニアを合成するための触媒である。窒素酸化物としては、NO、NO、NO、N、N、Nなどが挙げられる。窒素酸化物からアンモニアを合成するときの化学反応は下記で表される。
2NO+(2x+3)CO+3HO→2NH+(2x+3)CO
【0011】
本願の第一実施形態の触媒は、酸化セリウムと銅を備えている。銅は酸化セリウムに担持されている。第一実施形態の触媒は、無機化合物担体に金属を担持させる通常の方法によって製造できる。例えば、銅イオン水溶液中に酸化セリウム加えて静置した後、水分を蒸発させ、焼成した後に水素還元することによって第一実施形態の触媒が得られる。第一実施形態の触媒には、窒素酸化物からアンモニアを合成するのを妨げなければ、酸化セリウムと銅以外の物質が含まれていてよい。
【0012】
例えば、亜鉛などの金属、ならびに酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、および酸化プラセオジムなどの金属酸化物が第一実施形態の触媒に含まれていてもよい。酸化セリウムと銅の質量の和に対する銅の質量(銅の質量/(酸化セリウムの質量+銅の質量))は、5~20%であることが好ましい。NOからNHへの転化率が高いからである。また、酸化セリウムの比表面積は、130~170m/gであることが好ましい。NOからNHへの転化率が高いからである。
【0013】
本願の第一実施形態のアンモニアの製造方法は、第一実施形態の触媒の存在下で、窒素酸化物と一酸化炭素と水を反応させてアンモニアを合成する。窒素酸化物と一酸化炭素と水を反応させるときの温度は、130~300℃であることが好ましい。温度130℃以上で反応させると、NOからNHへの転化率が高くなるものの、300℃を超える温度で反応させても、NOからNHへの転化率は、温度200~300℃のときと比べてあまり向上しないからである。NOからNHへの転化率が高いので、この反応温度は150~230℃であることがより好ましい。なお、温度150~200℃で反応させると、NOからNHへの転化率が80%程度から90%以上となる。
【0014】
本願の第二実施形態の触媒は、酸化アルミニウムと銅を備えている。銅は酸化アルミニウムに担持されている。第一実施形態の触媒と同様に、第二実施形態の触媒には、窒素酸化物からアンモニアを合成するのを妨げなければ、酸化アルミニウムと銅以外の物質が含まれていてよい。本願の第二実施形態のアンモニアの製造方法は、第二実施形態の触媒の存在下で、窒素酸化物と一酸化炭素と水を反応させてアンモニアを合成する。窒素酸化物と一酸化炭素と水を反応させるときの温度は、180~300℃であることが好ましい。NOからNHへの転化率が60%以上となるからである。
【実施例0015】
実施例1:5%Cu/CeO触媒の調製
硝酸銅三水和物(和光純薬工業株式会社)0.60gをイオン交換水5mLに溶解した。この水溶液にCeO(第一稀元素化学工業株式会社、Type A、比表面積170m/g)3gを加えて30分間静置し、混合液を得た。この混合液を100℃で16時間乾燥させて固形分を得た。空気中でこの固形分を500℃で4時間焼成した後、90vol%窒素と10vol%水素の混合気流下、400℃で1時間還元して5%Cu/CeO触媒(Cuの質量/(CeOの質量+Cuの質量)が5%であり、CuがCeOに担持されている触媒。以下同様)を得た。
【0016】
実施例2:10%Cu/CeO触媒の調製
硝酸銅三水和物1.20gを用いた点を除いて、実施例1と同様にして10%Cu/CeO触媒を得た。
【0017】
実施例3:20%Cu/CeO触媒の調製
硝酸銅三水和物2.40gを用いた点を除いて、実施例1と同様にして20%Cu/CeO触媒を得た。
【0018】
実施例4:1%Cu/CeO触媒の調製
硝酸銅三水和物0.12gを用いた点を除いて、実施例1と同様にして1%Cu/CeO触媒を得た。
【0019】
実施例5:5%Cu/CeO触媒の調製2
CeO(第一稀元素化学工業株式会社、Type B、比表面積130m/g)を用いた点を除いて、実施例1と同様にして5%Cu/CeO触媒を得た。
【0020】
実施例6:5%Cu/Al触媒の調製
CeOに代えてAl(高純度化学研究所株式会社、29424D)を用いた点を除いて、実施例1と同様にして5%Cu/Al触媒を得た。
【0021】
比較例1:5%Cu/ZrO触媒の調製
CeOに代えてZrO(第一稀元素化学工業株式会社、RSC-H)を用いた点を除いて、実施例1と同様にして5%Cu/ZrO触媒を得た。
【0022】
比較例2:5%Cu/SiO触媒の調製
CeOに代えてSiO(富士シリシア株式会社、Q-15)を用いた点を除いて、実施例1と同様にして5%Cu/SiO触媒を得た。
【0023】
触媒活性評価
実施例1~実施例6および比較例1~比較例2の触媒について、一酸化窒素をアンモニアに転化する活性をそれぞれ評価した。原料ガスとして、NO1000ppm、CO3000ppm、HO10000ppm、およびバランスガスであるアルゴンから構成される混合ガスを用いた。窒素酸化物と一酸化炭素と水を反応させてアンモニアを合成するときの化学反応は下記で表される。
2NO+5CO+3HO→2NH+5CO
【0024】
内径10mm×長さ360mmの石英製の反応管内の中央部に、石英ガラスウールで上下に挟んだ各物質0.15gを設置した。両端の開口が上下になるようにこの反応管を設置し、上の開口から反応管内に原料ガスを毎分250mLで供給し、原料ガスを各物質に接触させた。なお、反応管内の温度は500℃に維持し、原料ガスの供給開始から30分間経過後の接触後ガス、すなわち反応後ガスを上の開口から採取し分析した。分析は多重反射ガスセルを備えたフーリエ変換赤外分光計(ThermoFischer、Nicolet is50)とガスクロマトグラフ(Inficon、3000 MicroGC)によって行った。また、反応管内の温度を500℃から降下させ、所定の温度でも同様にして、原料ガスの供給開始から60分間経過後の反応後ガスを分析した。
【0025】
NOとNHの濃度は、赤外分光計にて計測された1934cm-1と1122cm-1での面積値からそれぞれ算出した。また、NOのNHへの変換率は以下の計算式によって算出した。
NOのNHへの変換率(%)=反応後ガス中のNH濃度/原料ガス中のNO濃度×100
【0026】
図1は、実施例1、実施例5、比較例1、および比較例2の触媒をそれぞれ用いたときの反応温度とNOのNHへの変換率の関係を示す。図2は、実施例1~実施例4の触媒をそれぞれ用いたときの反応温度とNOのNHへの変換率の関係を示す。図3は、実施例1と実施例6の触媒をそれぞれ用いたときの反応温度とNOのNHへの変換率の関係を示す。図1に示すように、5%Cu/CeO触媒によれば、反応温度130~300℃で、NOの42~92%をNHに変換でき、反応温度150~230℃の比較的低温でも、NOの78~92%をNHに変換できた。また、5%Cu/Al触媒によれば、反応温度180~300℃で、NOの62~70%をNHに変換できた。
【0027】
これに対して、5%Cu/ZrO触媒は、反応温度300℃以下では、最大でもNOの37%しかNHに変換できなかった。5%Cu/ZrO触媒でNOのNHへの変換率が42%以上になるのは、反応温度が330℃を超えたときであった。また、Cu/SiO触媒は、反応温度の上昇にともなって、NOのNHへの変換率も上昇するが、反応温度が500℃を超えてもNOのNHへの変換率が36%であった。以上より、Cu/CeO(CuがCeO2に担持されている物質。以下同様)とCu/Alは、Cu/ZrOとCu/SiOと比べて、NOのNHへの変換性能に優れていることが分かった。
【0028】
図2に示すように、Cu/CeO触媒中のCuの担持量が5~20質量%のとき、反応温度150~230℃の比較的低温でも、NOの79~95%をNHに変換できた。なお、1%Cu/CeO触媒は、5%Cu/CeO触媒、10%Cu/CeO触媒、および20%Cu/CeO触媒と比べると、NOのNHへの変換性能が少しだけ低い。しかし、1%Cu/CeO触媒は、反応温度200℃の比較的低温でも、NOの71%をNHに変換でき、窒素酸化物からアンモニアを合成するための触媒として十分機能することが分かった。
【0029】
また、図3に示すように、Cu/CeO触媒では、CeOの比表面積が大きい方が、NOのNHへの変換性能に優れていることが分かった。しかし、CeOの比表面積が130m/gである実施例1の触媒と、CeOの比表面積が170m/gである実施例6の触媒は、反応温度200℃の比較的低温でも、NOの53~92%をNHに変換でき、窒素酸化物からアンモニアを合成するための触媒として十分機能することが分かった。
図1
図2
図3