IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

特開2023-70534油剤上に貼付可能な薄型フィルム、薄型フィルム、転写シート、薄型フィルムの使用方法、および、薄型フィルムの製造方法
<>
  • 特開-油剤上に貼付可能な薄型フィルム、薄型フィルム、転写シート、薄型フィルムの使用方法、および、薄型フィルムの製造方法 図1
  • 特開-油剤上に貼付可能な薄型フィルム、薄型フィルム、転写シート、薄型フィルムの使用方法、および、薄型フィルムの製造方法 図2
  • 特開-油剤上に貼付可能な薄型フィルム、薄型フィルム、転写シート、薄型フィルムの使用方法、および、薄型フィルムの製造方法 図3
  • 特開-油剤上に貼付可能な薄型フィルム、薄型フィルム、転写シート、薄型フィルムの使用方法、および、薄型フィルムの製造方法 図4
  • 特開-油剤上に貼付可能な薄型フィルム、薄型フィルム、転写シート、薄型フィルムの使用方法、および、薄型フィルムの製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023070534
(43)【公開日】2023-05-19
(54)【発明の名称】油剤上に貼付可能な薄型フィルム、薄型フィルム、転写シート、薄型フィルムの使用方法、および、薄型フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/02 20060101AFI20230512BHJP
   A45D 44/22 20060101ALI20230512BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20230512BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20230512BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20230512BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230512BHJP
   A61K 8/85 20060101ALI20230512BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20230512BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20230512BHJP
   A61M 27/00 20060101ALI20230512BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230512BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
A61K8/02
A45D44/22 C
B32B3/30
B05D5/06 104Z
B05D3/10 Z
A61Q19/00
A61K8/85
A61K8/81
A61K8/73
A61M27/00
C08J5/18 CFD
C08J9/28 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021182772
(22)【出願日】2021-11-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮内 菜摘
【テーマコード(参考)】
4C083
4C267
4D075
4F071
4F074
4F100
【Fターム(参考)】
4C083AD092
4C083AD112
4C083AD262
4C083BB51
4C083BB60
4C083CC02
4C083CC05
4C083DD12
4C083EE07
4C083FF06
4C267AA38
4C267JJ06
4D075AC41
4D075AC53
4D075BB24Z
4D075BB79Z
4D075CB33
4D075DA04
4D075DB20
4D075DB48
4D075DC30
4F071AA43
4F071AB26
4F071AC10
4F071AD03
4F071AE19
4F071AF53
4F071AG28
4F071AG32
4F071AG34
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F074AA68
4F074AC32
4F074AD11
4F074AH03
4F074CB34
4F074CB45
4F074DA03
4F074DA53
4F074DA59
4F100AK41A
4F100AT00B
4F100DD07A
4F100DG01A
4F100DG15B
4F100EH46A
4F100EJ01A
4F100EJ86A
4F100GB66
(57)【要約】
【課題】被着体上に塗布した水分、油剤の化粧品及び、薬剤に影響されることなく、追従性が保持される薄型フィルム、薄型フィルムの転写シート、薄型フィルムの使用方法、および、薄型フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】0.1g/m以上5.0g/m以下の単位面積当たり質量を有する薄型フィルムであって、薄型フィルムの被着体と接触させる面に、直径1μm以上900μm以下である複数の空隙を有し、隣接する空隙間の距離が20μm以上2000μm以下であることを特徴とする薄型フィルム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1g/m以上5.0g/m以下の単位面積当たり質量を有する薄型フィルムであって、
前記薄型フィルムの被着体と接触させる面に、直径1μm以上900μm以下である複数の空隙を有し、
隣接する前記空隙間の距離が20μm以上2000μm以下であることを特徴とする薄型フィルム。
【請求項2】
前記薄型フィルムの空隙は、薄型フィルム自体に生じる空隙、繊維の添加物間に生じる空隙、空隙を有する添加物に由来する空隙のいずれかである、請求項1に記載の薄型フィルム。
【請求項3】
前記薄型フィルムが、繊維または空隙を有する添加物を含む、請求項1または2に記載の薄型フィルム。
【請求項4】
前記薄型フィルムは、スキンケアに用いられる、請求項1から3のいずれかに記載の薄型フィルム。
【請求項5】
請求項1に記載の薄型フィルムと、前記薄型フィルムを支持する支持基材と、を備える、転写シート。
【請求項6】
請求項1に記載の薄型フィルムを、生体である前記被着体に貼り付ける貼付工程を含む、薄型フィルムの使用方法。
【請求項7】
前記被着体は生体の皮膚であり、前記被着体に、経皮吸収を目的とする有効成分を含む液体を塗布する塗布工程を含み、
前記貼付工程では、前記液体を塗布した領域を覆うように、前記被着体に前記薄型フィルムを貼り付ける、請求項6に記載の薄型フィルムの使用方法。
【請求項8】
請求項1に記載の薄型フィルムの製造方法であって、
基材へ塗液を塗布し第1面を構成する薄型フィルムを形成する工程と、
前記第1面上に前記塗液を塗工し、乾燥前に水を霧吹きで吹きかけてから塗膜を乾燥させることで空隙が形成された第2面を構成する薄型フィルムを形成する工程と、を含むことを特徴とする、薄型フィルムの製造方法。
【請求項9】
基材へ孔構造添加物含有の塗液を塗布し第1面を構成する薄型フィルムを形成する工程を含むことを特徴とする、請求項1に記載の薄型フィルムの製造方法。
【請求項10】
基材へ塗液を塗布し第1面を構成する薄型フィルムを形成する工程と、
前記第1面上に繊維状添加物含有の塗液を塗工し、第2面を構成する薄型フィルムを形成する工程と、を含むことを特徴とする、請求項1に記載の薄型フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型フィルム、転写シート、薄型フィルムの使用方法、および、薄型フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数μm以下の厚さを有する薄型フィルムは、生体の皮膚等である被着体の表面形状に対する高い追従性を有するため、接着剤や粘着剤を用いずとも被着体に密着する。そこで、こうした薄型フィルムの種々の用途が提案されている。例えば、特許文献1や非特許文献1には、薄型フィルムを、スキンケアやメイクアップ等の美容用途や、創傷の治癒等の医療用途に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-19116号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T.Fujie et al.,Adv.Funct.Mater.,2009年,19巻,2560-2568頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薄型フィルムにおける追従性は、被着体と薄型フィルム間に介在が生じると、失われてしまう。例えば、被着体上に被着体に吸収されにくいものや、大気中に蒸散しにくいものを塗布した場合、薄型フィルムは被着体に追従できない。
【0006】
被着体をヒト皮膚と仮定すると、化粧料を塗布した後、保湿閉塞を目的として薄型フィルムを貼付する。その際、皮膚上に塗布する化粧品に、皮膚に吸収されにくく、大気に蒸散しにくい油剤を塗布することで、薄型フィルムの追従は低下してしまう。ヒト皮膚上に塗布される薬剤の種類に影響されず、油脂上でも追従性が保持され、貼付可能な薄型フィルムが望まれる。
【0007】
そこで、本発明は、被着体上に塗布した水分、油剤の化粧品及び、薬剤に影響されることなく、追従性が保持される薄型フィルム、薄型フィルムの転写シート、薄型フィルムの使用方法、および、薄型フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一局面は、0.1g/m以上5.0g/m以下の単位面積当たり質量を有する薄型フィルムであって、薄型フィルムの被着体と接触させる面に、直径1μm以上900μm以下である複数の空隙を有し、隣接する空隙間の距離が20μm以上2000μm以下であることを特徴とする。。
【0009】
本発明の他の局面は、薄型フィルムと、薄型フィルムを支持する支持基材と、を備える、転写シートである。
【0010】
本発明の他の局面は、薄型フィルムを、生体である被着体に貼り付ける貼付工程を含む、薄型フィルムの使用方法である。
【0011】
本発明の他の局面は、基材へ塗液を塗布し第1面を構成する薄型フィルムを形成する工程と、
前記第1面上に前記塗液を塗工し、乾燥前に水を霧吹きで吹きかけてから塗膜を乾燥させることで空隙が形成された第2面を構成する薄型フィルムを形成する工程と、を含むことを特徴とする、薄型フィルムの製造方法である。
【0012】
本発明の他の局面は、基材へ孔構造添加物含有の塗液を塗布し第1面を構成する薄型フィルムを形成する工程を含むことを特徴とする薄型フィルムの製造方法である。
【0013】
本発明の他の局面は、基材へ塗液を塗布し第1面を構成する薄型フィルムを形成する工程と、第1面上に繊維状添加物含有の塗液を塗工し、第2面を構成する薄型フィルムを形成する工程と、を含むことを特徴とする、薄型フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被着体上に塗布した水分、油剤の化粧品及び、薬剤に影響されることなく、追従性が保持される薄型フィルム、薄型フィルムの転写シート、薄型フィルムの使用方法、および、薄型フィルムの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一実施形態の孔あり薄型フィルムの断面構造を示す図。
図2】一実施形態の繊維状添加物入り薄型フィルムの断面構造を示す図。
図3】一実施形態の孔状構造を有する添加物入り薄型フィルムの断面構造を示す図。
図4】薄型フィルムの収容体を示す図
図5】薄型フィルムの被着体への貼付方法を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して、薄型フィルム、転写シート、および、薄型フィルムの使用方法の一実施形態を説明する。図1は、一実施形態の孔あり薄型フィルムの断面構造を示す図であり、図2は、一実施形態の繊維状添加物入り薄型フィルムの断面構造を示す図であり、図3は、一実施形態の孔状構造を有する添加物入り薄型フィルムの断面構造を示す図である。本実施形態の薄型フィルムが貼り付けられる対象である被着体は、皮膚や臓器等の生体組織である。特に、本実施形態の薄型フィルムは、生体の皮膚を被着体とする場合に好適に用いられる。
【0017】
[薄型フィルムの構成]
図1~3に示すように、薄型フィルム10は、第1面11Fと、第1面11Fとは反対側の面である第2面11Rとを有している。薄型フィルム10が被着体に貼り付けられたとき、第1面11Fは被着体に接し、第2面11Rは、被着体とは反対側に位置する最外面となる。実施形態に係る薄型フィルム10の第1面11Fには複数の空隙が形成される。空隙は、以下で説明する通り、薄型フィルム自体に生じる空隙、繊維等の添加物の間に生じる空隙、珪藻などの空隙を有する添加物により生じたものである。
【0018】
図1に記載される、孔あり薄型フィルムは積層されてもよく、第1面11F側に孔を有する。
【0019】
図2に記載される、繊維状添加物入り薄型フィルムは積層されてもよく、第1面11F側に繊維状添加物を有する。
【0020】
図3に記載される、孔状構造添加物入り薄型フィルムは積層されてもよく、第1面11F側に孔状構造添加物を有する。
【0021】
空隙は、直径1μm以上900μm以下であり、空隙と空隙の間隔は20μm以上2000μm以下であることが好ましい。当該条件を満たすことで、被着体に油系の化粧品及び薬剤を塗布してその上から薄型フィルム10を貼付する場合において、油系の化粧品及び薬剤が貼付時の圧力や毛細管現象によって、空隙部分に移動し吸収される。これにより、油系の化粧品及び薬剤が被着体とフィルム間に残存することによって発生する滑りを抑制でき、被着体と薄型フィルム10との密着性が向上する。なお、空隙は、貫通していてもよいが、貫通していないことが好ましい。空隙の深度は薄型フィルムの厚みに対して5%以上80%以内であることが好ましい。
【0022】
薄型フィルム10は、薄型フィルム10単独で被着体に対する接着性を発現する程度に薄い。言い換えれば、上記接着性を発現する程度に、薄型フィルム10の単位面積当たりの質量が小さい。具体的には、薄型フィルム10の単位面積当たり質量は、5.0g/m以下である。単位面積当たり質量が5.0g/m以下であれば、被着体の表面形状に対する薄型フィルム10の追従性が良好に得られるため、薄型フィルム10と被着体との間の密着性が高められる。また、被着体の表面形状に対する薄型フィルム10の追従性が高められていることにより、被着体が皮膚のように曲面を有していたり弾性を有していたりする場合であっても、薄型フィルム10が被着体の表面の微細な形状に追従する。それゆえ、薄型フィルム10のみが被着体上を移動することが抑えられるため、被着体への薄型フィルム10の貼付の失敗が生じにくい。
【0023】
また、薄型フィルム10の単位面積当たり質量は、0.1g/m以上である。単位面積当たり質量が0.1g/m以上であれば、薄型フィルム10の強度が良好に得られるため、薄型フィルム10に破れ等の欠陥が発生しにくくなる。また、単位面積当たり質量が0.1g/m以上であれば、連続した膜状に薄型フィルム10を形成することが容易である。
【0024】
なお、上記単位面積当たり質量は、平面視にて1mの面積を有する部分あたりに換算した薄型フィルム10の質量である。単位面積当たり質量は、例えば、複数の測定領域で測定された質量の平均値から換算すること、あるいは、薄型フィルム10の膜厚の平均値に薄型フィルム10の密度を掛けることによって求められる。薄型フィルム10の密度は、例えば、1g/cm以上3g/cm以下である。
【0025】
薄型フィルム10の材料には、高分子材料が好適に用いられる。薄型フィルム10に用いる高分子材料は、上述した範囲の単位面積当たり質量となるように薄型フィルム10を形成可能な材料であればよい。被着体が皮膚である場合には、高分子材料は、毒性、皮膚刺激性、および、皮膚感作性の低い生体適合性材料であることが好ましい。
【0026】
生体適合性を有する高分子材料としては、公知の材料が用いられる。高分子材料は、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリシロキサン類、セルロースやキチンやキトサン等の多糖類、カゼイン等の各種のタンパク質、ゴム、これらの高分子化合物の誘導体、変性体、共重合体、混合物である。
【0027】
薄型フィルム10には、上述した高分子材料のうちの1種類のみが含まれてもよいし、複数種類が含まれてもよい。また、薄型フィルム10が含む高分子材料における分子量の制限は特になく、薄型フィルム10は、所定の重量平均分子量を有する1種類の高分子材料を含んでいてもよいし、互いに異なる重量平均分子量を有する複数種類の高分子材料を含んでいてもよい。
【0028】
薄型フィルム10は、上記、繊維状添加物及び、孔状構造添加物以外の、各種の添加物を含有していてもよい。添加物は、例えば、薄型フィルム10の光学特性を調整するための高屈折率材料、低屈折率材料、光吸収剤、色素や、薄型フィルム10の濡れ性を調整するための改質剤や、導電性材料、化粧料、美容成分、薬効成分、薄型フィルム10に賦香を付与できる香料、薄型フィルム10に抗菌効果を付与できる抗菌剤である。薄型フィルム10に含有させる添加物は、薄型フィルム10にて発現が望まれる機能に応じて選択されればよい。
【0029】
薄型フィルム10は、粘着層を介さずに被着体に貼り付けられるため、薄型フィルム10が、美白やシミ対策やシワ対策のための成分のように、被着体への作用を目的とする成分を含有する場合に、こうした成分の作用が被着体に及びやすい。したがって、薄型フィルム10が含有する成分をより有効に機能させることができる。
【0030】
薄型フィルム10は、単一の膜であってもよいし、複数の膜の積層体であってもよい。薄型フィルム10が複数の膜の積層体である場合、各膜の組成は同一であってもよいし、異なってもよい。さらに、複数の膜の一部が添加物を含んでいてもよいし、複数の膜の各々が添加物を含んでいてもよい。
【0031】
[転写シートの構成]
転写シートは、薄型フィルム10を被着体に貼り付ける場合に用いられる。図1から3に示すように、転写シート20は、薄型フィルム10と、薄型フィルム10を支持する支持基材21とを備えている。支持基材21には、薄型フィルム10の第2面11Rが接する。
【0032】
支持基材21は、薄型フィルム10の保管時や、薄型フィルム10の使用に際して被着体上まで薄型フィルム10を移動させるときに、薄型フィルム10の変形を抑える機能を有する。支持基材21に支持されていることにより、薄型フィルム10が取り扱いやすくなる。
【0033】
支持基材21の材料は特に限定されない。支持基材21は、例えば、高分子フィルム、織物、編物、不織布、および、紙のいずれかであることが好ましい。
【0034】
支持基材21に用いられる高分子フィルムの材料は、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリシロキサン類、セルロース、カゼイン等の各種のたんぱく質、ゴム、これらの高分子化合物の誘導体、変性体、共重合体、混合物である。支持基材21として用いられる高分子フィルムは、エンボス加工、穴あけ加工、発泡等による多孔質化等の加工が施されたフィルムであってもよい。
【0035】
支持基材21に用いられる織物、編物、および、不織布は、天然繊維もしくは化学繊維から構成される。天然繊維としては、綿、麻、パルプ、毛、絹等を用いることができる。化学繊維としては、ポリエステル、ポリオレフィン、キュプラ、レーヨン、リヨセル、アセテート、ジアセテート、ナイロン、アラミド、アクリル等からなる繊維を用いることができる。また、支持基材21は、天然繊維と化学繊維とが混合された繊維材料から構成されていてもよい。こうした繊維材料からなる支持基材21には、エンボス加工、穴あけ加工、発泡等による繊維の多孔質化等の加工が施されていてもよい。
【0036】
支持基材21が繊維材料からなる場合、支持基材21の目付けは、3g/m以上200g/m以下であることが好ましく、10g/m以上100g/m以下であることがより好ましい。支持基材21の目付けが上記下限値以上であれば、静電気や気流に起因して縒れ等の変形が生じ難くなる程度の剛性を支持基材21が有するため、薄型フィルム10が取り扱いやすくなる。また、支持基材21の目付けが上記上限値以下であれば、支持基材21において繊維が詰まりすぎないため、転写シート20の使用に際して支持基材21を湿潤させて薄型フィルム10から剥離する場合に、支持基材21の吸液が円滑に進む。したがって、支持基材21の剥離が容易であり、支持基材21から被着体への薄型フィルム10の転写を好適に行うことができる。
【0037】
支持基材21が繊維材料からなる場合、繊維材料の製造方法は特に限定されない。例えば、湿式、もしくは、乾式で、スパンボンド法、メルトブローン法、エアレイド法、フラッシュ紡糸法等によって作製したウェブに対して、スパンレース法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法等を用いることにより製造された繊維材料を適宜選択して用いることができる。
【0038】
また、転写シート20は、薄型フィルム10の第1面11Fを覆う保護層を備えていてもよい。保護層を備えることにより、薄型フィルム10の保管時において、薄型フィルム10が保護される。保護層としては、支持基材21として例示した上述の各種の基材を用いることができる。保護層と支持基材21との材料は一致していてもよいし、異なっていてもよい。
【0039】
なお、平面視における薄型フィルム10および転写シート20の外形形状は、特に限定されない。薄型フィルム10および転写シート20の外形形状は、例えば、矩形等の多角形形状、円形状、楕円形状、これら以外の直線や曲線で囲まれた形状等である。平面視にて、薄型フィルム10と支持基材21の形状は一致していてもよいし、支持基材21は薄型フィルム10よりも大きくてもよい。
【0040】
[薄型フィルム収容体の構成]
図4は、薄型フィルム10が収容された収容体を示す。薄型フィルム収容体30は、保護層を備える転写シート20と、転写シート20を収容する包装体31とを備える。包装体31は、密封可能に構成されていることが好ましい。
【0041】
包装体31は、例えば、高分子フィルムから形成された袋状を有する。高分子フィルムとしては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ナイロン等からなる単層または複数の層からなるフィルムが用いられる。さらに、包装体31においては、高分子フィルムに有機物および無機物の少なくとも一方からなるガスバリア層が積層されていてもよい。ガスバリア層が設けられることによって、薄型フィルム10が外気における湿気等の影響を受けることが抑えられるため、薄型フィルム10の劣化が抑えられる。
【0042】
[薄型フィルムおよび転写シートの製造方法]
図1に記載される、孔あり薄型フィルムにおける空隙の形成方法としては、薄型フィルム10を構成する塗膜を乾燥させる前に第1面11Fに水を霧吹きで吹きかけてから塗膜を乾燥させる方法等が挙げられる。
【0043】
図2に記載される、繊維状添加物入り薄型フィルムにおける空隙の形成方法は、薄型フィルム10を構成する塗膜の塗液に繊維状添加物を添加する方法が挙げられる。添加される繊維は、セルロースナノファイバーなど薄型フィルム10内部に含有できるほどの微細な繊維である。
【0044】
図3に記載される、孔状構造添加物入り薄型フィルムにおける空隙の形成方法は、薄型フィルム10を構成する塗膜の塗液に孔状構造添加物を添加する方法が挙げられる。添加された添加物の孔が薄型フィルム10の空隙となる。薄型フィルムに添加される空隙を有する添加物は珪藻などである。
【0045】
薄型フィルム10は、公知の薄膜形成方法によって形成される。例えば、薄型フィルム10の材料を含む塗液を薄膜状に基材に塗布した後に溶媒を蒸発させる溶液キャスト法や、溶融した材料を押し出して薄膜状に成形する溶融押出法を用いることができる。このうち、溶液キャスト法が好適に用いられる。
【0046】
溶液キャスト法では、薄型フィルム10の材料を溶媒に溶解もしくは分散させることにより塗液を生成する。塗液が成膜用基材の表面に塗布されることにより塗膜が形成され、塗膜が乾燥されることによって、薄型フィルム10が形成される。成膜用基材としては、例えば、樹脂フィルムが用いられる。薄型フィルム10が複数の層を備える場合には、層ごとに塗液が生成され、塗膜の形成と乾燥とが繰り返されることによって、薄型フィルム10が形成される。
【0047】
塗液の溶媒は、薄型フィルム10の材料の特性に応じて選択されればよい。溶媒は、例えば、水、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、エチルメチルケトン、アセトン、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、ヘキサン等である。
【0048】
塗液の塗布方法は、所望の厚さに塗膜を形成可能な方法であれば特に限定されない。塗布方法としては、例えば、ダイレクトグラビア、リバースグラビア、小径リバースグラビア、マイヤーコート、ダイ、カーテン、スプレー、スピンコート、スクリーン印刷、コンマ、ナイフ、グラビアオフセット、ロールコート等の各種のコーティング方法が使用可能である。
【0049】
転写シート20は、例えば、成膜用基材上に形成された薄型フィルム10が支持基材21上に転写されることによって形成される。成膜用基材から支持基材21への薄型フィルム10の転写方法としては、吸引による剥離を利用する方法や犠牲膜を利用する方法等、公知の転写方法が用いられればよい。あるいは、成膜用基材が支持基材21として用いられてもよい。すなわち、成膜用基材としての支持基材21上に薄型フィルム10が成膜されることにより、転写シート20が形成されてもよい。保護層を設ける場合には、支持基材21上に配置された薄型フィルム10の表面に、保護層が重ねられる。
【0050】
[薄型フィルムの使用方法]
薄型フィルム10の使用方法を説明する。以下では、日常のスキンケアの最終段階に薄型フィルム10を用いる場合を説明する。図5は、薄型フィルムの被着体への貼付方法を説明する図である
【0051】
まず、生体の皮膚である被着体Sk上に乳液Mlを塗布する塗布工程が実施される。乳液Mlは、油分及び、有効成分を含んでいるものとする。有効成分は、薬効成分であってもよいし、美容成分であってもよい。薬効成分は、例えば、ステロイド等の炎症を抑える作用を有する成分である。美容成分は、例えば、美白のための成分や、シミやシワを改善する作用を有する成分、保湿剤、浸透促進剤である。乳液Mlは、被着体Sk上に塗布することが可能であれば、液状であってもよいし、クリームや軟膏のような半固形状であってもよい。なお、被着体Sk上に塗布されるものは乳液に限定されず、水分、油剤の化粧品及び、薬剤であってもよい。
【0052】
続いて、薄型フィルム10の貼付工程が行われる。貼付工程では、乳液Mlの塗布領域とその周囲の被着体Sk表面とに薄型フィルム10の第1面11Fが接するように、被着体Sk上に転写シート20が配置される。これにより、乳液Mlの塗布領域は薄型フィルム10で覆われる。
【0053】
次に、薄型フィルム10から支持基材21が剥離される。これにより、薄型フィルム10が支持基材21から被着体Skに転写され、貼付工程が完了する。支持基材21の剥離の前に、支持基材21に水やローション等の液体が供給されてもよい。この場合、支持基材21に液体が浸透して支持基材21の体積や繊維径が変化することにより、薄型フィルム10と支持基材21との剥離が促進される。
【0054】
その後、乳液Mlは被着体Skに長時間固定される。薄型フィルム10が被着体Skに貼り付けられた状態が、所定の期間、保たれる。これにより、薄型フィルム10に吸収された乳液Mlが、被着体Skの内部へと浸透していき、浸透促進効果を好適に得ることができる。上記所定の期間は、乳液Mlの塗布量や有効成分の種類に応じて設定されればよい。
【0055】
被着体Skと薄型フィルム10とが直接に接している部分では、皮膚の表面の凹凸であるキメ等に由来する被着体Skの細かな表面形状に薄型フィルム10が追従するため、被着体Skと薄型フィルム10との高い密着性が得られる。乳液Mlは被着体Skに吸収されず、大気に蒸発もしないため、通常のフィルムの貼付は困難であるが、本実施形態の薄型フィルム10は、乳液Mlを吸収する空隙を有するため、乳液Mlを保持したまま、薄型フィルムの貼付が維持される。
【0056】
薄型フィルム10においては、乳液Mlの透過が抑えられているため、乳液Mlが薄型フィルム10の第2面11Rにまで染み出して薄型フィルム10の貼付箇所がべたつくことが抑えられる。さらに、薄型フィルム10は極めて薄いため、薄型フィルム10の貼付箇所の外観や触感の違和感を低減できる。したがって、薄型フィルム10を使用者の皮膚である被着体Skに長時間貼り付けておく場合にも、使用者が不快感や違和感を抱くことが抑えられる。
【0057】
従来のように、ポリエチレンやポリ塩化ビニリデン等からなるフィルムを用いる場合には、乳液Ml上では、基材からの剥離が困難であることや、乳液Mlの油剤が被着体Sk及び、従来フィルム間に残存することによる滑りが発生していた。そのため、被着体Skへの貼付が困難となり、また、被着体Skへ貼付できたとしてもフィルムの剥離が生じやすかった。これに対し、本実施形態の薄型フィルム10においては、薄型フィルム内の孔構造、繊維状添加物や、孔構造添加物が薄型フィルム膜面を制御していることにより、乳液Mlの効果を得つつ、薄型フィルム10の保湿効果及び、浸透促進効果を付与することが可能である。
【0058】
また、薄型フィルム10は、粘着層を用いずに被着体Skに貼り付けられるため、粘着層によって貼り付けられるフィルムと比較して、被着体Skからの剥離が容易である。したがって、薄型フィルム10の剥離に際して被着体Skが受けるダメージを低減可能であり、また、粘着層が含む成分に起因した被着体Skの荒れも抑えられる。それゆえ、普段のスキンケアの最終段階として用いる場合、皮膚が弱っている領域に薄型フィルム10を貼り付けたとしても、薄型フィルム10の貼付や剥離による負担が皮膚にかかることを抑えることができる。
【0059】
また、被着体Skの保湿に薄型フィルム10が用いられてもよい。この場合、薄型フィルム10の貼付前に被着体Skへの乳液Mlの塗布は行われなくてもよい。乳液Mlが塗布されない場合でも、薄型フィルム10の貼付によって、被着体Skの表面付近に予め存在している水分の放散が抑えられることにより、被着体Skの保湿が可能である。また、薄型フィルム10の貼付前に、乳液Mlに代えて、有効成分を含まない水等の液体が被着体Skに塗布されてもよい。
【0060】
薄型フィルム10の貼付箇所では、良好な水分蒸散量が得られる。良好な水分蒸散量とは、健康であって肌荒れの可能性が低い前腕内側部における水分蒸散量と同等の量を意味する。水分蒸散量が良好であれば、過剰な保湿による蒸れの発生が避けられる。水分蒸散量が適正に保たれることにより、角層水分量等の皮膚内の水分量が適正に保たれる。その結果、皮膚のバリア機能等が正常に機能しやすくなり、皮膚の恒常性が正常に保たれやすくなる。また、薄型フィルム10はフィルム状であるため、従来のクリーム状や液状の保湿用の製品上に貼付した場合、製品の使用箇所のべたつきや衣服等への成分の付着も抑えられる。また、クリーム状や液状の保湿用の製品を薬剤として用いれば、べたつきを抑えつつ、保湿効果を高く得られる。
【0061】
さらに、薄型フィルム10は、被着体Skに塗布した化粧品の浸透および保湿の両方の目的で用いられてもよい。一例は、加齢に伴う変形が原因のシワの改善である。シワには、表皮上に生じる浅いシワと、真皮の変形により生じる深いシワとの2つの種類がある。浅いシワの原因は、乾燥であり、浅いシワは、肌の保湿やターンオーバーによって改善する。深いシワの原因は、真皮に存在している膠原線維や弾性線維が経年変化および光老化により減少することである。減少した繊維は、真皮への有効成分の浸透によって、回復が可能である。本実施形態の薄型フィルム10を用いることで、化粧品が含む有効成分の浸透により深いシワを目立たなくし、かつ、保湿により浅いシワを改善することが可能である。
【0062】
なお、薄型フィルム10の用途は、上述した保湿や浸透促進に限らず、被着体と薄型フィルム10との間に水分および薬剤の少なくとも一方を保持する用途であればよい。例えば、湿潤によって創傷治癒環境を改善する湿潤療法に薄型フィルム10を用いてもよい。薄型フィルム10を用いることで、被着体の表面に湿潤環境を好適に形成することができる。湿潤療法における被着体は皮膚に限らず、臓器であってもよい。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る薄型フィルム10は、0.1g/m以上5.0g/m以下の単位面積当たり質量を有する薄型フィルムであって、薄型フィルムは、表面において、直径1μm以上900μm以下である空隙を有し、空隙と空隙の間隔は20μm以上2000μm以下であることを特徴とする。これにより、被着体上に塗布した水分、油剤の化粧品及び、薬剤に影響されることなく、追従性が保持される薄型フィルムを提供することができる。そして、薄型フィルムの貼付箇所で、水分や薬剤の放散が抑えられるとともに、油剤による薄型フィルムの被着体への追従の低下を防ぐことができるため、薄型フィルム自体の閉塞効果及び、化粧品の水分や薬剤の保湿及び、浸透促進の、効果の両立が可能である。また、薬剤の塗布領域上でのべたつきも抑えられるため、高い実用性が得られる。
【0064】
また、本実施形態に係る薄型フィルム10は、日常的に用いられてもよい。従来から化粧品用途で用いられてきた薄型フィルムでは、油剤上に貼付できないため、貼付箇所及び、貼付対象が限定されていた。これに対し、本実施形態に係る薄型フィルム10は貼付時の被着体の相性を選ばないため、日常のどの状態でも貼付が可能であり、貼付における簡便性を向上できる。
【0065】
また、本実施形態に係る薄型フィルム10は、被着体上に塗布した水分、油剤の化粧品及び、薬剤に影響されることなく、追従性が保持されるため、皮膚の表面の凹凸であるキメ等に由来する被着体の状態を選ばず貼付可能である。
【0066】
また、被着体の状態に関係なく薄型フィルムを貼付でき、かつ、水分、油剤関係なく被着体上の有効成分が薄型フィルムに保持されることにより、長時間有効成分の効果を好適に得ことができる。結果的に、薄型フィルムの貼付の簡便性が向上する。
【実施例0067】
[実施例]
上述した薄型フィルムについて、具体的な実施例および比較例を用いて説明する。また、作製条件を表1に記載する。
【0068】
【表1】
【0069】
(実施例1)
ポリ-DL-乳酸(武蔵野化学研究所社製)を、酢酸ブチルに溶解させて、薄型フィルムの形成のための塗液を作製した。ポリ-DL-乳酸の重量平均分子量は10万である。塗液中における溶質成分の質量割合は10%である。その後、成膜用基材としてのPETシートに、ワイヤーバーを用いて上記塗液を塗布し、塗膜を形成した。塗膜は、乾燥後の膜の単位面積当たり質量が0.3g/mになるように、塗工し、塗膜を80℃の循環オーブンにて乾燥させることにより、第1面を構成する薄型フィルムを形成した。次に、第1面を構成する薄型フィルムの形成に用いた塗液と同じ塗液を、第1面上に、単位面積当たりの質量が0.6g・mになるように塗工し第2面を構成する薄型フィルムを形成した。その後第2面を構成する薄型フィルムに水を霧吹きで吹きかけることにより孔構造を形成させ、空隙を作製した。塗液を80℃の循環オーブンにて乾燥させた。
【0070】
続いて、成膜用基材上の薄型フィルムの上に、支持基材として不織布(フタムラ化学社製)を積層し、成膜用基材を剥離して、薄型フィルムを成膜用基材から支持基材に転写した。支持基材に用いた不織布の主成分はパルプを原料とするセルロースであり、不織布の目付けは20g/mである。これにより、支持基材と薄型フィルムとを備える実施例1の転写シートを得た。
【0071】
(実施例2)
実施例2では、第1面形成用塗液に、孔構造添加物として、珪藻を固形分比10%となるように添加したことを除き、実施例1と同じ材料を用いて転写シートを作成した。成膜用基材としてのPETシートに、ワイヤーバーを用いて上記塗液を塗布し、塗膜を形成した。塗膜は、乾燥後の膜の単位面積当たり質量が0.6g/mになるように、塗工し、塗膜を80℃の循環オーブンにて乾燥させることにより、実施例2の転写シートを得た。
【0072】
(実施例3)
実施例3は、ポリ-DL-乳酸(武蔵野化学研究所社製)を、酢酸ブチルに溶解して、薄型フィルムの形成のための塗液を作製した。ポリ-DL-乳酸の重量平均分子量は10万である。塗液中における溶質成分の質量割合は10%である。その後、成膜用基材としてのPETシートに、ワイヤーバーを用いて上記塗液を塗布し、塗膜を形成した。塗膜は、乾燥後の膜の単位面積当たり質量が0.6g/mになるように、塗工し、塗膜を80℃の循環オーブンにて乾燥させることにより、第1面を構成する薄型フィルムを形成した。次に、ポリビニルアルコール(日本合成化学工業)及び、セルロースナノファイバーを、蒸留水に溶解、分散させて、薄型フィルムの形成のための塗液を作製した。ポリビニルアルコールの重量平均分子量は40万である。塗液中における溶質成分の質量割合はポリビニルアルコールが1.25%であり、セルロースナノファイバーは1.25%である。その後、第1面を構成する薄型フィルム上に、ワイヤーバーを用いて上記塗液を塗布し、塗膜を形成した。塗膜は、乾燥後の膜の単位面積当たりの質量が0.3g/mになるように、塗工し、塗膜を80℃の循環オーブンにて乾燥させることにより、第2層薄型フィルムを形成した。
【0073】
(比較例1)
比較例1は、ポリ-DL-乳酸(武蔵野化学研究所社製)を、酢酸ブチルに溶解させて、薄型フィルムの形成のための塗液を作製した。ポリ-DL-乳酸の重量平均分子量は10万である。塗液中における溶質成分の質量割合は10%である。その後、成膜用基材としてのPETシートに、ワイヤーバーを用いて上記塗液を塗布し、塗膜を形成した。塗膜は、乾燥後の膜の単位面積当たり質量が0.6g/mになるように、塗工し、塗膜を80℃の循環オーブンにて乾燥させ、空隙のない薄型フィルムを作製した。
【0074】
(比較例2)
孔構造添加物量を固形分比30%になるように添加したこと以外は、実施例2と同様の材料および工程によって、比較例2の転写シートを得た。比較例2で用いた孔構造添加物は、固形分比30%になるように添加した。
【0075】
(貼付時間)
実施例1~3、比較例1~2のフィルムに対し貼付時間を測定した。薄型フィルムの貼付時間は、乳液を塗布した被着体における、薄型フィルム10の貼付完了までの時間を示すパラメータである。時間が短いほど貼付が容易に完結することを示す。
【0076】
貼付時間は、以下の方法で測定した。
(1)□5cm×5cmの人工皮革に対して、油剤を含む化粧品として乳液(株式会社良品計画製)を0.1g塗布し、人工皮革全面に薬さじを用いて塗り広げた。
【0077】
(2)φ30mmにくりぬいた薄型フィルムを準備し、人工皮革に薄型フィルムの薄膜側(第1面)を接触させ測定を開始した。また、人工皮革に薄型フィルムの第1面を接触させ、すぐに基材を指で剥離した。基材を指で剥離しきるまでの時間を測定した。この時間を、薄型フィルムの貼付時間(sec)とした。
【0078】
(貼付率)
実施例1~3、比較例1~2のフィルムに対し貼付率を測定した。貼付率は、以下の方法で測定した。
(1)上記、薄型フィルムの貼付時間の測定後、人工皮革上に貼付された薄型フィルムの貼付面積を、貼付前のφ30mmと比較して、何%貼付できているか、画像処理または目視で算出した。
【0079】
(ふき取り残存率)
実施例1~3、比較例1~2のフィルムに対し、ふき取り残存率を測定した。ふき取り残存率は、ふき取り前の状態の薄型フィルムの貼付面積に対する、ふき取り後の薄型フィルムの貼付面積の比率であり、以下の方法で測定した。
(1)上記、貼付率測定後の薄型フィルム貼付人工皮革に対して、不織布(旭化成株式会社製)を片手で持ちやすいサイズになるよう4つ折りにし、電子天秤上に薄型フィルム貼付人工皮革を乗せ、不織布の押し当てが、100gの加重になるよう調整し、人工皮革の上辺から下辺に向かって一方方向に10回擦り、人工皮革に薄型フィルムが残存している割合を、画像解析または目視で算出した。
【0080】
貼付時間、貼付率及び、ふき取り残存率は、薄型フィルム10の被着体への密着強度が影響している。乳液及び、クリーム等の油剤上での薄型フィルムと被着体間の密着強度は、薄型フィルムの孔構造、繊維状添加物量及び、孔状構造添加物量によって調整できる。例えば、単位面積当たりの孔構造領域及び、添加物量が大きいほど、密着強度が大きくなり、貼付時間は短く、貼付率は大きく及び、ふき取り残存率は大きくなる。
【0081】
ここで、乳液やクリーム等、油剤を含む薬剤を被着体に塗布し、薄型フィルムで薬剤を覆う用途に用いられる場合、薄型フィルム10が被着体に貼り付けられている時間は、数時間以上に及ぶことが多い。したがって、薄型フィルム10が被着体に貼り付けられてから数時間が経過した後にも、水分や薬剤の浸透促進効果と、炎症等の被着体の異常を抑える効果とが持続することが好ましい。
【0082】
(結果)
実施例1~3及び、比較例1~2における上記測定の結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
表3に、各実施例および各比較例について、貼付時間、貼付率、ふき取り残存率、および、総合評価を示す。
【0085】
貼付時間の評価結果については、貼付完了までにかかった時間を、60秒以内である場合を「○」とし、60秒より長くかかった場合を「×」とした。貼付時間が60秒以上であれば、薄型フィルムの貼付実施者が、貼付が困難であると感じやすく、薄型フィルムを触る時間が長くなるため、基材剥離によるダメージを薄型フィルムが受け、破れが発生してしまう恐れがある。
【0086】
貼付率については、100%の場合を「〇」、欠けた箇所が存在しても貼付できている場合は「△」、貼付できなかった場合を「×」とした。
【0087】
ふき取り残存率については、ふき取り前後における貼付面積の変化率が30%以内であれば「〇」、30%より大きい場合を「×」とした。ふき取り残存率が70%以上であれば、薄型フィルムを長時間貼付した際に、被着体から剥離されず残存できるのに十分な密着強度である。
【0088】
総合評価では、上記の評価結果が「○」及び、「△」のみで構成される場合を「○」とし、それ以外を「×」とした。
【0089】
【表3】
【0090】
実施例1~2に係る薄型フィルムに形成された空隙をマイクロスコープで撮影し、ImageJを用いて添加剤の直径及び、添加剤間の間隔を座標にて記録した。その後、スケールバーの座標から、1座標あたりの距離(μm)を算出し、記録した座標から直径及び添加剤間の間隔を求めた。表4に、実施例1~2の薄型フィルムに形成された空隙の直径及び空隙間の距離を示す。
【0091】
【表4】
【0092】
表3に示すように、実施例1~3は貼付時間が60秒より短く、油剤を含む化粧品上であっても素早く被着体に対して密着していることが確認された。
【0093】
実施例1においては、他の実施例と比較して均一に大きく空隙が存在しており、貼付時間を大幅に短縮することができた。また、空隙は薄型フィルムを貫通していないため、膜強度が維持され、貼付率向上につながったと考えられる。
【0094】
実施例2においては、空隙を多量に有する孔状構造添加物を添加したことにより、貼付時間が短縮された。実施例2において、貼付率が実施例1と比較して小さくなったのは、孔状構造添加物が薄型フィルムの厚み以上の大きさであったことにより、図3に記載される薄型フィルム10の様に、薄型フィルムと被着体との接触する膜の面積が減少し、膜強度が低下したためだと考えられる。
【0095】
実施例3においては、繊維状添加物を添加して空隙を形成したが、添加した繊維状添加物が1.25%と少量であったため、空隙量が小さくなり、貼付時間の短縮が実施例1~2と比較して小さくなった。また、水溶性PVAを用いた積層薄膜であることから、被着体への密着には水が必要となった。被着体へ塗布した乳液では水が不足していたため、貼付率が小さくなったと考えられる。
【0096】
これに対し、比較例1では、乳液を吸収する空隙が存在していないため、被着体と薄型フィルム間に乳液が残存してしまい、被着体への薄型フィルム接触が遅延し、貼付時間が長くなった。また、比較例2では、孔構造添加物量の配合量が30%と高かったため、薄型フィルムが脆くなり各測定が困難であった。
【0097】
被着体と薄型フィルム間に油剤を含む化粧品が存在する場合、被着体と薄型フィルム間の密着が弱まり、ふき取りを実施した際に被着体上に残存する薄型フィルムの量が減少する。しかし、実施例1~3においては、構造もしくは添加物内に油剤が吸着され、ふき取りによる剥離が発生しにくくなっていることが確認された。
【0098】
これらの結果から、実施例1~3は、従来からあった、油剤を含む化粧品上での薄型フィルム貼付課題を解決し、かつ、被着体に塗布した油剤を含む化粧品のみで薄型フィルムを貼付できるようになる。
【符号の説明】
【0099】
Sk…被着体
M1…乳液
10…薄型フィルム
11F…第1面
11R…第2面
20…転写シート
21…支持基材
30…薄型フィルム収容体
31…包装体
図1
図2
図3
図4
図5