(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072586
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】風車の異常診断装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
F03D 17/00 20160101AFI20230517BHJP
【FI】
F03D17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185255
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 和徳
(72)【発明者】
【氏名】吉水 謙司
(72)【発明者】
【氏名】谷山 賀浩
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 直孝
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB07
3H178BB56
3H178CC25
3H178DD52X
3H178DD54X
3H178EE01
3H178EE22
3H178EE32
(57)【要約】
【課題】作業員を派遣しなくても実施できる風車の診断技術を提供する。
【解決手段】構造物33(33a,33b…)を加振する加振手段45の動作情報36を送信する送信部と、構造物33に設置した複数の振動センサ34の各々から検出データ43を受信する受信部と、この検出データ43を周波数解析する解析部と、を備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
風の流動エネルギーから変換した回転エネルギーを伝達するロータ軸、及び前記回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機を少なくとも収容するナセルを有する風車の診断装置であって、
前記ナセルに配置された構造物を加振する加振手段の動作情報を送信する送信部と、
前記構造物に設置した複数の振動センサの各々から検出データを受信する受信部と、
受信した前記検出データを周波数解析する解析部と、を備える風車の診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の風車の診断装置において、
前記加振手段は、前記構造物を直接打撃して衝撃力を与える打撃手段である風車の診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の風車の診断装置において、
前記ナセルの内部空間におい前記打撃手段を支持し、その作業位置及び作業姿勢の少なくとも一方を可変的に設定する作業ロボットと、
前記作業位置及び前記作業姿勢を指定した前記動作情報を入力し、前記作業ロボットの駆動信号を出力する駆動部と、を備える風車の診断装置。
【請求項4】
請求項1に記載の風車の診断装置において、
前記加振手段は、前記流動エネルギーを前記回転エネルギーに変換するブレード、前記ロータ軸及び前記ナセルのうち少なくとも一つの回転動作を急制動させる機能を持つ風車の診断装置。
【請求項5】
請求項1に記載の風車の診断装置において、
前記加振手段は、風車の浮体と海底の基礎とを係留する係留索の張力を変化させる機能を持つ風車の診断装置。
【請求項6】
請求項1に記載の風車の診断装置において、
前記加振手段は、前記ナセルを頂部で支持するタワーを長手方向に強制振動させる機能を持つ風車の診断装置。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の風車の診断装置において、
前記周波数解析のデータを、対応する前記動作情報にリンクさせて登録する登録部と、
共通の前記動作情報で異なる時点に登録されている二つ以上の前記周波数解析のデータを対比し健全性に関して診断する診断部と、を備える風車の診断装置。
【請求項8】
風の流動エネルギーから変換した回転エネルギーを伝達するロータ軸、及び前記回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機を少なくとも収容するナセルを有する風車の診断方法であって、
前記ナセルに配置された構造物を加振する加振手段の動作情報を送信するステップと、
前記構造物に設置した複数の振動センサの各々から検出データを受信するステップと、
受信した前記検出データを周波数解析するステップと、を含む風車の診断方法。
【請求項9】
風の流動エネルギーから変換した回転エネルギーを伝達するロータ軸、及び前記回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機を少なくとも収容するナセルを有する風車の診断プログラムであって、
コンピュータが、
前記ナセルに配置された構造物を加振する加振手段の動作情報を送信するステップ、
前記構造物に設置された複数の振動センサの各々から検出データを受信するステップ、
受信した前記検出データを周波数解析するステップ、を実行する風車の診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、風力発電に使用する風車の異常を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
風力は、どこにでも存在し、二酸化炭素を排出せず、枯渇せずに永続的に利用できる、再生可能エネルギーの一つである。このような風力を利用した発電を促進するには、発電の安定性及び持続性を向上させるため、運転の健全性を診断する技術の確立が重要である。風力発電システムの診断は、風車の稼働状態を診断するSCADA(Supervisory Control And Data Acquisition)や、構造物の損傷や劣化等を個別に診断するCMS(Condition Monitoring System)等がある。
【0003】
SCADAでは、風向、風量、発電出力、ピッチ角、ナセル角度、主軸回転速度、オイル温度、ベアリング温度、発電機温度、ナセル内温度,外気温、等といった運転情報が収集される。これに対しCMSは、構造物に設置したセンサによる振動や音響等といった検出データが収集される。
【0004】
そして、このようにして収集した情報に基づいて、風車の運転状態の正常/異常の判定がなされる。そして、異常判定がなされた場合は、アラートが発報され、そのレベルに対応するアクションが実行される。そして、アラートのレベルによっては、風車の運転を停止させ、現場に作業員を派遣して必要な対処をし、アラートをリセットして運転を再開させるという対応が採られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、高レベルのアラートが発報された場合であっても、結果的に現場に派遣された作業員の五感(主に目視)による確認のみで運転が再開されたり、そもそも誤報であったりすることも多い。風車の運転が停止してから再開するまでの中断期間は、設備稼働率が低下し逸失発電出力の増加に寄与する。このため、現場に作業員を派遣するような事態は、具体的な作業が伴う場合に限定されることが望ましい。また、洋上設置方式の風車の場合、海の状態によっては、作業員の風車へのアクセスが困難となり、運転の中断期間が長引いて逸失発電出力がさらに増大する課題がある。
【0007】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、作業員を派遣しなくても実施できる風車の診断技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る風車の診断装置は、風の流動エネルギーから変換した回転エネルギーを伝達するロータ軸、及び前記回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機を少なくとも収容するナセルを有する風車の診断装置であって、前記ナセルに配置された構造物を加振する加振手段の動作情報を送信する送信部と、前記構造物に設置した複数の振動センサの各々から検出データを受信する受信部と、受信した前記検出データを周波数解析する解析部と、を備えている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態により、作業員を派遣しなくても実施できる風車の診断技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(A)(B)本発明の実施形態が適用される風車の全体図。
【
図2】第1実施形態に係る風車の診断装置における機構部が設置されたナセルの内部概念図。
【
図3】第1実施形態に係る風車の診断装置における制御部のブロック図。
【
図4】(A)構造物が初期状態から変化がなく周波数解析から風車の運転状態が正常判定される場合の具体例、(B)構造物の経年劣化により周波数解析から風車の運転状態が異常判定される場合の具体例。
【
図5】加振手段により加振された構造物に設置した振動センサの検出データを示すグラフ。
【
図6】受信した検出データを周波数解析したデータを示すグラフ。
【
図7】第2実施形態に係る風車の診断装置が加振させるナセルの動作概念図。
【
図8】第3実施形態に係る風車の診断装置が加振させる風車の動作概念図。
【
図9】第4実施形態に係る風車の診断装置における加振手段の概念図。
【
図10】実施形態に係る風車の診断方法の工程及び風車の診断プログラムのアルゴリズムを説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施形態が適用される風車20の全体図である。
図1(A)は着床式の洋上設置方式の一例を示し、
図2(B)は浮体式の洋上設置方式の一例を示している。このように風車20は、ブレード25と、タワー26と、ナセル30と、ハブ22を備えている。
【0012】
ブレード25は、ハブ22でロータ軸27(
図2)に連結されるように放射状に配置されている。これらのブレード25は、風の流動エネルギーを効率よく回転エネルギーに変換できるよう、風の流入方向に対しピッチ角が調節される。このピッチ角を調整するモータやブレーキ、非常用電源などの駆動機構(図示略)がハブ22内に設けられている。タワー26は、海底に築かれ海面から露出する基礎28の上面に、鉛直方向に沿って建築されている。なお
図1の実施形態では洋上設置方式をとる風車20への適用を例示しているが、これに限定されることなく、地上設置方式の風車にも適用できる。
【0013】
図2は各実施形態に係る風車の診断装置(以下、単に「診断装置」という)における機構部40が設置されたナセル30の内部概念図である。このようにナセル30は、ロータ軸27を風向きに自動的に追従させるヨー駆動部23を介して、タワー26の頂部に設けられている。そして、このタワー26の内部には、海上輸送され基礎28に上陸させた物品もしくは作業員を、ナセル30の内部に移送する昇降手段24が設けられている。
【0014】
そして、このナセル30には、各種の構造物33が収容されている。そのような構造物33は、ロータ軸27を支持する主軸受33aと、このロータ軸27の末端に接続して回転数を増速させる増速器33bと、回転エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機33cと、発電機33cの出力を変調・変圧等し系統周波数及び系統電圧に合わせた電力の外部出力29とする変換回路33eと、これら構造物33(33a,33b…)に設置された複数の振動センサ34に接続し各々の検出データ43を集約して外部伝送する伝送回路33dと、が例示されている。ここで、振動センサ34としては、加速度センサが挙げられるが、特に限定されない。
【0015】
第1実施形態の診断装置における機構部40では、構造物33(33a,33b…)への加振手段として、これら構造物33を直接打撃して衝撃力を与える打撃手段45が採用されている。さらにこの機構部40は、ナセル30の内部空間47において打撃手段45を支持しその作業位置及び作業姿勢の少なくとも一方を可変的に設定する作業ロボット46と、打撃手段45の作業位置及び作業姿勢を指定した動作情報36を入力し作業ロボット46の駆動信号を出力する駆動部49と、を備えている。
【0016】
ここで作業ロボット46としては、図示される多関節アームに限定されることはなく、打撃手段45を動作させることができるものであれば適宜採用される。また打撃手段45も、図示されるハンマーに限定されることはなく、構造物33を直接打撃して衝撃力を与えることができるものであれば適宜採用される。構造物33に局所変形が発生している場合や機器全体が揺れる場合等に関し、打撃手段45により衝撃力を与えることで、応答振動の固有振動数変化から異常検知できる。
【0017】
また多関節アーム(作業ロボット46)は、その基端部においてレール19を移動するように構成され、広範囲に亘りナセル30を内部移動することができる。またレール19の構成としては、走行のみでなく、横行と上下方向のテレスコピック機構などを組み合わせた3次元移動が可能な構成をとることもできる。なお多関節アーム(作業ロボット46)は、レール19に替えて、移動式のロボット(図示略)に設けられる場合もある。
【0018】
また作業ロボット46は、ナセル30の内部のみに限らず、タワー26の内部やハブ22の内部においても打撃手段45を支持できる。この場合、タワー26の継目のボルトの締結具合や、その内部に配置されている構造物33の診断をすることができる。また、ナセル30の内部に設置された監視カメラ(図示略)の画像データを取得して、構造物33に加振している打撃手段45が想定通りの打撃を行っているか監視するようにしてもよい。
【0019】
図3は第1実施形態に係る風車の診断装置における制御部10のブロック図である。このように診断装置の制御部10は、構造物33を加振する加振手段(打撃手段45)の動作情報36を送信する送信部21と、構造物33(33a,33b…)に設置した複数の振動センサ34の各々から検出データ43を受信する受信部15と、この検出データ43を周波数解析する解析部11と、を備えている。
【0020】
図4(A)は構造物33が初期状態から変化がなく周波数解析から風車20の運転状態が正常判定される場合の具体例を示している。
図4(B)は構造物33の経年劣化により周波数解析から風車20の運転状態が異常判定される場合の具体例を示している。
【0021】
構造物33に衝撃力を与えたとき、この構造物33はその固有振動数32(32a,32b)(
図6)で振動する。この固有振動数32は、構造物33自身の剛性や、固定ボルト37の締め付けによる剛性によって定まる。振動センサ34の検出データ43を解析部11に入力し、打撃手段45の動作情報36の入力をトリガーとして周波数解析を実行することで、構造物33の固有振動数32が分かる。
【0022】
図5は加振手段(打撃手段45)により加振された構造物33に設置した振動センサ34の検出データ43を示すグラフである。
図6は受信した検出データ43の周波数解析データ35を示すグラフである。構造物33(
図4)に亀裂38が存在したり、固定ボルト37が緩んでいたりすると、剛性が低下し、固有振動数32も符号32aから符号32bのように低下する。このように、固有振動数32を比較することで、健全性が保たれている正常状態と健全性が保たれていない異常状態とを区別して検知できる。
【0023】
図3に戻って説明を続ける。診断装置の制御部10は、さらに、周波数解析データ35を、対応する動作情報36にリンクさせて登録する登録部31と、共通の動作情報36で異なる時点で登録した二つ以上の周波数解析データ35を対比し健全性に関して診断する診断部16と、を備えている。
【0024】
さらにこの登録部31には、送信部21から送信される動作情報36も登録されている。共通の動作情報36で経年的に打撃手段45を動作させ、振動センサ34の各々から受信した検出データ43の周波数解析データをこの登録部31に蓄積していくことができる。この周波数解析データは、対応する構造物33の経年劣化に従って変化していくので、診断部16において風車の運転状態の正常/異常を判定することができる。
【0025】
さらに診断装置の制御部10は、送信される動作情報36を任意に操作して打撃手段45の作業位置及び作業姿勢を設定する操作部18を備えている。これにより、予め登録されている動作情報36では、振動センサ34から解析可能な検出データ43が得られなかった場合でも、打撃手段45の位置・姿勢に修正を加えて衝撃力を再度与えることができる。
【0026】
なお、第1実施形態において、作業ロボット46(多関節アーム)により支持される加振手段として打撃手段45(ハンマー)を用いて構造物33を加振する例を挙げている。これに限定されず、ナセル30の内部で飛行するドローンに加振手段を持たせ、構造物33の任意の位置に接近させて加振させることもできる。
【0027】
(第2実施形態)
次に
図7を参照して本発明における第2実施形態について説明する(適宜、
図3参照)。
図7は第2実施形態に係る風車20の診断装置が加振させるナセルの動作概念図である。なお、
図7において
図2と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。第2実施形態では、回転動作を急制動させることにより、自身の慣性により自由振動する構造物33の固有振動数32を解析する。
【0028】
第2実施形態における第1の加振手段は、ブレード25の回転動作51を急制動させる機能を持つ。このような機能を実行させる動作情報36を取得した駆動部49は、次のような駆動信号を出力する。すなわち、ブレード25のピッチ制御駆動モータを動作させ、ブレード25を回転した後、このピッチ制御駆動モータを急停止させる。
【0029】
そして、振動センサ34の検出データ43(
図5)に対し、この急停止を実行するブレーキへの停止指令をトリガーとして、振動応答を周波数解析する。そして周波数解析データ35(
図6)から固有振動数32bを求め、健全な状態の固有振動数32aと対比して、健全性に関する診断が行われる(
図6の事例は「異常」を示している)。第2実施形態における第1の加振手段(ブレード25の回転動作51の急制動)によれば、主に、ブレード25の捩れ振動の固有振動数32の変化から、材料欠陥などの異常を検知できる。
【0030】
第2実施形態における第2の加振手段は、ロータ軸27の回転動作52を急制動させる機能を持つ。このような機能を実行させる動作情報36を取得した駆動部49は、次のような駆動信号を出力する。すなわち、風力でロータ軸27が回転している状態で、ブレーキをかけてロータ軸27の回転を停止させる。
【0031】
そして、停止時のブレード25の慣性により風車20が振動し、振動センサ34の検出データ43に対し、この急停止を実行するブレーキへの停止指令をトリガーとして、振動応答を周波数解析する。そして周波数解析データ35から固有振動数32を求め、健全な状態の固有振動数と対比して、健全性に関する診断が行われる。第2実施形態における第2の加振手段(ロータ軸27の回転動作52の急制動)によれば、機器全体が揺れる振動や、タワー全体が揺れる振動について、固有振動数32の変化から、異常を検知できる。
【0032】
第2実施形態における第3の加振手段は、ナセル30の回転動作53を急制動させる機能を持つ。このような機能を実行させる動作情報36を取得した駆動部49は、次のような駆動信号を出力する。すなわち、ナセル30のヨー制御駆動モータを動作させ、ナセル30を回転した後、このヨー制御駆動モータを急停止させる。
【0033】
そして、停止時のナセル30の慣性により風車20が振動し、振動センサ34の検出データ43に対し、この急停止を実行するブレーキへの停止指令をトリガーとして、振動応答を周波数解析する。そして周波数解析データ35から固有振動数32を求め、健全な状態の固有振動数と対比して、健全性に関する診断が行われる。第2実施形態における第3の加振手段(ナセル30の回転動作53の急制動)によれば、機器全体が揺れる振動や、タワー全体が揺れる振動について、固有振動数の変化から、異常を検知できる。
【0034】
(第3実施形態)
次に
図8を参照して本発明における第3実施形態について説明する。
図8は第3実施形態に係る風車20の診断装置が加振させるナセル30の動作概念図である。なお、
図8において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。第3実施形態における加振手段は、風車20の浮体56と海底の基礎59とを係留する係留索58の張力を変化させる機能を持つ。
【0035】
図8の破線で示される洋上に浮かぶ風車20の平衡位置から、一方の張力調節部57を動作させ一方の係留索58の張力を高める。すると、風車20は、破線の平衡位置から、実線の傾き状態に遷移する。この状態から前記で高めた張力を開放すると、ブレード25及びナセル30の本体及び構造物33は自由振動する。
【0036】
このような動作情報36を取得した張力調節部57は、次のように動作する。すなわち、破線状態で一定の張力がかかっている一方の係留索58の張力を開放する。もしくは、この張力を一時的に高めたうえで開放する。そして、振動センサ34の検出データ43に対し、開放指令をトリガーとして、振動応答を周波数解析する。そして周波数解析データ35から固有振動数32を求め、健全な状態の固有振動数32と対比して、健全性に関する診断が行われる。第3実施形態における加振手段(係留索58の張力開放)によれば、機器全体が揺れる振動や、タワー全体が揺れる振動について、固有振動数の変化から、緩みなどの異常を検知できる。
【0037】
(第4実施形態)
次に
図9を参照して本発明における第4実施形態について説明する。
図9は第4実施形態に係る風車20の診断装置における加振手段の概念図である。なお、
図9において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0038】
第4実施形態における加振手段は、タワー26を内側に収容するとともに長手方向に変位可能に支持する筒状体54と、この筒状体54に設けられ回転駆動するモータ48と、モータ48の回転運動をタワー26の直進運動に変換するラック・アンド・ピニオン44とから構成されている。このように構成されることで、ナセル30を頂部で支持するタワー26を上下方向に強制振動させることができる。
【0039】
なお第4実施形態に適用されるモータ48は、弾性部材55を介して結合するタワー26と筒状体54とが波の上下動に合わせて相対的に挿抜する運動を電気エネルギーに変換する発電機を転用することができる。また第4実施形態は、浮体式の洋上設置方式(
図1(B)参照)を例示して説明したが、着床式の洋上設置方式(
図1(A)参照)もしくは陸上設置方式にも採用することができる。
【0040】
図10のフローチャートの例に基づいて実施形態に係る風車の診断方法の工程及び風車の診断プログラムのアルゴリズムを説明する(適宜、
図2,
図4参照)。まず、加振手段の動作情報36を送信することによりナセル30に配置された構造物33を加振する(S11)。次に構造物33に設置した複数の振動センサ34の各々から検出データ43を受信する(S12)。次に、受信した検出データ43を周波数解析する(S13)。そして、得られた周波数解析データ35と既に蓄積されている初期状態の周波数解析データ35とにおける固有振動数32の位置を対比して(S14,S15 Yes/No)、風車の健全性に関する正常/異常の判定を実施する(S16,S17,END)。
【0041】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の風車の診断装置によれば、構造物を加振したときの振動センサの検出データを周波数解析することにより、作業員を派遣しなくても風車の診断を実施することが可能となる。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0043】
以上説明した風車の診断装置は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。このため風車の診断装置の構成要素は、コンピュータのプロセッサで実現することも可能であり、風車の診断プログラムにより動作させることが可能である
【0044】
また風車の診断プログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0045】
また、本実施形態に係る風車の診断プログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、風車の診断装置は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワーク又は専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【符号の説明】
【0046】
10…制御部、11…解析部、15…受信部、16…診断部、18…操作部、19…レール、20…風車、21…送信部、22…ハブ、23…ヨー駆動部、24…昇降手段、25…ブレード、26…タワー、27…ロータ軸、28…基礎、29…外部出力、30…ナセル、31…登録部、32(32a,32b)…固有振動数、33…構造物、33a…主軸受(構造物)、33b…増速器(構造物)、33c…発電機(構造物)、33d…伝送回路(構造物)、33e…変換回路(構造物)、34…振動センサ、35…周波数解析データ、36…動作情報、37…固定ボルト、38…亀裂、40…機構部、43…検出データ、44…ピニオン、45…打撃手段(加振手段)、46…作業ロボット、47…内部空間、48…モータ、49…駆動部、51…第1回転動作、52…第2回転動作、53…第3回転動作、54…筒状体、55…弾性部材、56…浮体、57…張力調節部、58…係留索、59…基礎。