(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023072587
(43)【公開日】2023-05-24
(54)【発明の名称】水上風力発電システム、水上風力発電方法および水上風力発電プログラム
(51)【国際特許分類】
F03D 7/04 20060101AFI20230517BHJP
F03D 9/30 20160101ALI20230517BHJP
【FI】
F03D7/04 Z
F03D9/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021185256
(22)【出願日】2021-11-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 真史
(72)【発明者】
【氏名】深谷 侑輝
(72)【発明者】
【氏名】山田 敏雅
(72)【発明者】
【氏名】谷山 賀浩
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 直孝
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA26
3H178AA43
3H178AA51
3H178BB31
3H178BB33
3H178DD12Z
3H178DD42X
3H178DD52X
3H178DD54X
3H178DD61X
3H178DD68X
3H178EE02
3H178EE11
3H178EE15
3H178EE23
3H178EE34
(57)【要約】
【課題】風車ウエイクの影響で生じる発電出力の低下を抑制することができる水上風力発電技術を提供する。
【解決手段】水上風力発電システム1は、浮体8により水上に浮かべられた複数の風力発電装置2の位置を計測する位置計測機器13から風力発電装置2の位置を示す位置情報を取得する位置情報取得部36と、水上の風向を計測する少なくとも1つの風向計24から風向を示す風向情報を取得する風向情報取得部37と、水上の風速を計測する少なくとも1つの風速計25から風速を示す風速情報を取得する風速情報取得部38と、位置情報と風向情報と風速情報に基づいて、風車ウエイクがそれぞれの風力発電装置2に与える影響を評価する風車ウエイク評価部40と、風車ウエイクの評価に応じて少なくとも一部の風力発電装置2のレイアウトを変更するためのレイアウト情報を生成するレイアウト生成部42とを備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体により水上に浮かべられた複数の風力発電装置の位置を計測する位置計測機器から前記風力発電装置の位置を示す位置情報を取得する位置情報取得部と、
水上の風向を計測する少なくとも1つの風向計から前記風向を示す風向情報を取得する風向情報取得部と、
水上の風速を計測する少なくとも1つの風速計から前記風速を示す風速情報を取得する風速情報取得部と、
前記位置情報と前記風向情報と前記風速情報に基づいて、風車ウエイクがそれぞれの前記風力発電装置に与える影響を評価する風車ウエイク評価部と、
前記風車ウエイクの評価に応じて少なくとも一部の前記風力発電装置のレイアウトを変更するためのレイアウト情報を生成するレイアウト生成部と、
を備える、
水上風力発電システム。
【請求項2】
前記風車ウエイクの影響を受けた場合のそれぞれの前記風力発電装置の発電出力を計算する発電出力計算部を備え、
前記レイアウト生成部は、それぞれの前記風力発電装置の前記発電出力の減少量の合計が最小になる前記レイアウト情報を生成する、
請求項1に記載の水上風力発電システム。
【請求項3】
前記レイアウト情報に応じて少なくとも一部の前記風力発電装置を移動させる移動装置を備える、
請求項1または請求項2に記載の水上風力発電システム。
【請求項4】
前記風向情報と前記風速情報に基づいて、後に生じる前記風向と前記風速とを予測する風況予測部を備え、
前記風車ウエイク評価部は、予測される前記風向と前記風速に基づいて、前記風車ウエイクがそれぞれの前記風力発電装置に与える影響を評価する、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水上風力発電システム。
【請求項5】
前記位置情報と前記風向情報と前記風速情報に基づいて、少なくとも1つの前記風力発電装置の下流側の乱流強度を計算する乱流強度計算部を備え、
前記風車ウエイク評価部は、前記位置情報と前記風向と前記風速と前記乱流強度に基づいて、前記風車ウエイクがそれぞれの前記風力発電装置に与える影響を評価する、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水上風力発電システム。
【請求項6】
前記乱流強度の評価は、上流側の前記風力発電装置により生じる乱流領域の上方の層から下方に向かって流れ込み、下流側の前記風力発電装置に当たる気流の運動エネルギーの評価を含む、
請求項5に記載の水上風力発電システム。
【請求項7】
位置情報取得部が、浮体により水上に浮かべられた複数の風力発電装置の位置を計測する位置計測機器から前記風力発電装置の位置を示す位置情報を取得するステップと、
風向情報取得部が、水上の風向を計測する少なくとも1つの風向計から前記風向を示す風向情報を取得するステップと、
風速情報取得部が、水上の風速を計測する少なくとも1つの風速計から前記風速を示す風速情報を取得するステップと、
風車ウエイク評価部が、前記位置情報と前記風向情報と前記風速情報に基づいて、風車ウエイクがそれぞれの前記風力発電装置に与える影響を評価するステップと、
レイアウト生成部が、前記風車ウエイクの評価に応じて少なくとも一部の前記風力発電装置のレイアウトを変更するためのレイアウト情報を生成するステップと、
を含む、
水上風力発電方法。
【請求項8】
コンピュータに、
浮体により水上に浮かべられた複数の風力発電装置の位置を計測する位置計測機器から前記風力発電装置の位置を示す位置情報を取得するステップと、
水上の風向を計測する少なくとも1つの風向計から前記風向を示す風向情報を取得するステップと、
水上の風速を計測する少なくとも1つの風速計から前記風速を示す風速情報を取得するステップと、
前記位置情報と前記風向情報と前記風速情報に基づいて、風車ウエイクがそれぞれの前記風力発電装置に与える影響を評価するステップと、
前記風車ウエイクの評価に応じて少なくとも一部の前記風力発電装置のレイアウトを変更するためのレイアウト情報を生成するステップと、
を実行させる、
水上風力発電プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水上風力発電技術に関する。
【背景技術】
【0002】
上流側の風力発電装置の影響で下流側の風力発電装置の発電出力が低下する風車ウエイクという現象がある。従来、浮体で風力発電装置を洋上に浮かべた洋上ウインドファームにおいて、風力発電装置の係留索を巻取装置で巻き取ってその位置を調整し、上流側の風力発電装置の真後ろに下流側の風力発電装置が設置されないようにする技術が知られている。しかし、流体が関与する現象は複雑であり、複数の風車ウエイクが相互に干渉する場合もある。そのため、単に上流側の風力発電装置の真後ろに下流側の風力発電装置が設置されているか否かだけで発電出力が決まるものではない。例えば、下流側の風力発電装置を、上流側の風力発電装置の真後ろから、ずらすことによって、発電出力がより著しく低下する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、風車ウエイクの影響で生じる発電出力の低下を抑制することができる水上風力発電技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態に係る水上風力発電システムは、浮体により水上に浮かべられた複数の風力発電装置の位置を計測する位置計測機器から前記風力発電装置の位置を示す位置情報を取得する位置情報取得部と、水上の風向を計測する少なくとも1つの風向計から前記風向を示す風向情報を取得する風向情報取得部と、水上の風速を計測する少なくとも1つの風速計から前記風速を示す風速情報を取得する風速情報取得部と、前記位置情報と前記風向情報と前記風速情報に基づいて、風車ウエイクがそれぞれの前記風力発電装置に与える影響を評価する風車ウエイク評価部と、前記風車ウエイクの評価に応じて少なくとも一部の前記風力発電装置のレイアウトを変更するためのレイアウト情報を生成するレイアウト生成部と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態により、風車ウエイクの影響で生じる発電出力の低下を抑制することができる水上風力発電技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態の水上風力発電システムの全体構成を示す斜視図。
【
図2】水上風力発電装置と風況観測装置を示す側面図。
【
図3】水上風力発電装置のレイアウトを示す平面図。
【
図4】風車ウエイクが生じている水上風力発電システムを示す側面図。
【
図5】第1実施形態の管理コンピュータを示すブロック図。
【
図6】第1実施形態の水上風力発電方法を示すフローチャート。
【
図7】第2実施形態の管理コンピュータを示すブロック図。
【
図8】第2実施形態の水上風力発電方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、水上風力発電システム、水上風力発電方法および水上風力発電プログラムの実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について
図1から
図6を用いて説明する。
【0009】
図1の符号1は、第1実施形態の水上風力発電システムである。この水上風力発電システム1は、沖合の海洋3上に浮かべられた複数の水上風力発電装置2を備える。水上風力発電装置2とは、風Wの力を利用して風車を回し、その回転運動により発電を行うものである。多数の水上風力発電装置2が林立して設けられることで、洋上ウインドファームが構築されている。例えば、それぞれの水上風力発電装置2の間の距離が、等間隔になるように平面視で格子状に配置されている。
【0010】
ここで、上流側(風上側)の水上風力発電装置2の影響で下流側(風下側)の水上風力発電装置2の発電出力が低下する風車ウエイクという現象がある。洋上ウインドファームでは、風車ウエイクによる発電損失の影響が大きく、発電出力が低下してしまう。特に、日本国内で計画されている洋上ウインドファームでは、欧州の洋上ウインドファームと比較して、水上風力発電装置2同士の間の距離が短く、風車ウエイクのリスクが高い。
【0011】
本実施形態の水上風力発電システム1では、少なくとも一部の水上風力発電装置2が移動し、水上風力発電装置2の平面視のレイアウト(
図3)が適宜変更可能となっている。風況に応じて最適なレイアウトとすることで、風車ウエイクの影響で生じる発電出力の低下を抑制することができる。また、発電計画に沿った発電出力が得られるようになる。
【0012】
図2に示すように、水上風力発電装置2は、水上設備として、ハブ4を中心軸として回転する複数枚のブレード5を備える。これらのブレード5に風Wが当たることでハブ4を中心軸として回転し、ナセル6の内部に設けられた発電機(図示略)が発電を行う。本実施形態では、揚力型風車であり、かつ水平軸風車であるアップウインド型のプロペラ型風車を例示する。
【0013】
なお、ハブ4の内部には、ブレード5のピッチ角を変更する可変ピッチ機構(図示略)が設けられている。また、ナセル6の内部には、ブレーキ装置(図示略)などが設けられている。さらに、ナセル6の方位を変更する方位変更機構(図示略)なども設けられている。また、増速機(図示略)が設けられる場合もある。このナセル6は、海洋3上に立つタワー7の上部に設けられている。
【0014】
また、水上風力発電装置2は、水中設備として、タワー7を海洋3上に浮かべるための浮体8と、浮体8を係留する係留索9と、発電した電力を陸地まで送るための送電ケーブル10とを備える。
【0015】
なお、係留索9は、浮体8を海底に繋ぎとめる巨大な金属製のチェーンである。1つの浮体8に対して複数本の係留索9が設けられている。これらの係留索9の下端は、海底に固定されており、水上風力発電装置2が、浮体8により浮かんでいる状態であっても海流で流されずに済む。
【0016】
また、水上風力発電装置2は、係留索9で定位置に完全に固定されているものではなく、所定の範囲内であれば水平方向に移動が可能である。つまり、係留索9は、水上風力発電装置2の移動が可能な程度の長さに調整されている。なお、水上風力発電装置2は、係留索9の巻き取りと送り出しを行う捲揚機(図示略)を備えても良い。
【0017】
また、水上風力発電装置2は、水上風力発電装置2を水平方向に移動させる移動装置11を備える。この移動装置11は、浮体8の下部に取り付けられている。なお、移動装置11は、浮体8の側部に取り付けられても良い。さらに、複数の移動装置11が、浮体8に取り付けられても良い。
【0018】
移動装置11は、例えば、水中で推進力を得るためのスクリュー12と、このスクリュー12を駆動させるモータ(図示略)と、スクリュー12の向きを変更する推力変更機構(図示略)などで構成されている。なお、移動装置11は、スクリュー12以外の他の機構を用いて水上風力発電装置2を移動させるものでも良い。例えば、浮体8の上部または側部に、風Wを受けて浮体8を移動させるための帆または翼のような移動装置11が取り付けられても良い。
【0019】
また、移動装置11は、水上風力発電装置2を水平方向に移動させるのみならず、水上風力発電装置2をヨー回転させても良い。
【0020】
また、1つの浮体8が1つの水上風力発電装置2に対応して設けられているが、1つの浮体8で複数の水上風力発電装置2を浮かべるものでも良い。
【0021】
また、水上風力発電装置2は、現在の位置を計測する位置計測機器13を備える。例えば、位置計測機器13は、ナセル6の上部に設けられており、衛星測位システムから受信した電波に基づいて、水上風力発電装置2の現在の位置を計測する。
【0022】
また、水上風力発電装置2は、風車制御装置14を備える。この風車制御装置14は、例えば、ナセル6の方位の制御、ブレード5のピッチ角の制御、移動装置11の制御を行うために設けられている。さらに、風車制御装置14は、通信機器(図示略)を備えている。そして、風車制御装置14は、位置計測機器13で計測した水上風力発電装置2の現在の位置を示す位置情報を遠隔地(地上局)の本部にある管理コンピュータ30(
図5)に送信する。
【0023】
なお、本実施形態では、風車制御装置14が自動的に水上風力発電装置2を制御する態様を例示するが、その他の態様であっても良い。例えば、風車制御装置14は、水上風力発電システム1の管理者(ユーザ)の入力操作を受け付けて水上風力発電装置2を制御するようにしても良い。つまり、風車制御装置14は、管理者の手動操作により水上風力発電装置2を制御するための遠隔操作装置でも良い。
【0024】
図1に示すように、水上風力発電システム1は、海洋3上に浮かべられた複数の風況観測装置20を備える。これらの風況観測装置20は、海洋3上の風向と風速を観測するために設けられている。
【0025】
図2に示すように、風況観測装置20は、海洋3上に立つタワー21と、タワー21を海洋3上に浮かべるための浮体22と、浮体22を係留する係留索23とを備える。さらに、風況観測装置20は、海洋3上の風向を計測する風向計24と、海洋3上の風速を計測する風速計25とを備える。風向計24と風速計25は、タワー21の上部に設けられている。
【0026】
なお、本実施形態では、風向計24と風速計25が風況観測装置20に設けられているが、その他の態様であっても良い。例えば、風向計24と風速計25が水上風力発電装置2に設けられていても良い。
【0027】
風況観測装置20は、通信機器(図示略)を備えている。そして、風況観測装置20は、風向計24で計測した風向を示す風向情報と、風速計25で計測した風速を示す風速情報を、遠隔地(地上局)の本部にある管理コンピュータ30(
図5)に送信する。
【0028】
本実施形態の水上風力発電システム1は、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現される管理コンピュータ30で構成される。さらに、本実施形態の水上風力発電方法は、各種プログラムを管理コンピュータ30に実行させることで実現される。
【0029】
次に、管理コンピュータ30のシステム構成を
図5に示すブロック図を参照して説明する。この管理コンピュータ30は、水上風力発電装置2と風況観測装置20を統括的に管理する。
【0030】
管理コンピュータ30は、通信部31と入力部32と出力部33と記憶部34と制御部35とを備える。なお、管理コンピュータ30の各構成は、必ずしも1つのコンピュータに設ける必要はない。例えば、これらの構成が、ネットワークで互いに接続された複数のコンピュータで実現されても良い。
【0031】
通信部31は、インターネットなどの通信回線を介して他のコンピュータと通信を行う。例えば、通信部31は、水上風力発電装置2および風況観測装置20と通信を行う。なお、本実施形態では、管理コンピュータ30と他のコンピュータがインターネットを介して互いに接続されているが、その他の態様であっても良い。例えば、管理コンピュータ30と他のコンピュータがWAN(Wide Area Network)または携帯通信網を介して互いに接続されても良い。
【0032】
入力部32には、管理コンピュータ30を使用する管理者(ユーザ)の操作に応じて所定の情報が入力される。この入力部32には、マウスまたはキーボードなどの入力装置が含まれる。つまり、これら入力装置の操作に応じて所定の情報が入力部32に入力される。
【0033】
出力部33は、所定の情報の出力を行う。管理コンピュータ30には、解析結果の出力を行うディスプレイなどの画像の表示を行う装置が含まれる。つまり、出力部33は、ディスプレイに表示される画像の制御を行う。なお、ディスプレイはコンピュータ本体と別体であっても良いし、一体であっても良い。
【0034】
なお、本実施形態の管理コンピュータ30は、ネットワークを介して接続される他のコンピュータが備えるディスプレイに表示される画像の制御を行っても良い。その場合には、他のコンピュータが備える出力部33が、本実施形態の解析結果の出力の制御を行っても良い。
【0035】
なお、本実施形態では、画像の表示を行う装置としてディスプレイが例示されるが、その他の態様であっても良い。例えば、紙媒体に情報を印字するプリンタがディスプレイの替りとして用いられても良い。つまり、出力部33が制御する対象として、プリンタが含まれても良い。
【0036】
記憶部34は、水上風力発電システム1の制御に必要な各種情報を記憶する。例えば、記憶部34には、位置情報、風向情報、風速情報、レイアウト情報などが記憶される。ここで、レイアウト情報は、水上風力発電装置2のレイアウトを変更するための情報である。
【0037】
制御部35は、管理コンピュータ30を統括的に制御する。この制御部35は、位置情報取得部36と風向情報取得部37と風速情報取得部38と乱流強度計算部39と風車ウエイク評価部40と発電出力計算部41とレイアウト生成部42とを備える。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0038】
図3に示すように、まず、それぞれの水上風力発電装置2の基準位置2Aがあるものとする。ここで、所定の方向から風Wが吹いているものとし、この風Wの風向と風速を風況観測装置20(
図1)が観測する。これに基づいて、管理コンピュータ30(
図5)は、風車ウエイクの影響で生じる発電出力の低下を抑制するための最適な位置2Bを解析する。
【0039】
例えば、管理コンピュータ30は、風車ウエイクの影響および風車ウエイクの相互作用を計算する。なお、この計算のために所定の工学モデル(モデルの数式)を予め設定しておき、風向と風速に応じて所定の解析結果が出力されるものでも良い。さらに、大気安定度と風向の変動が解析されても良い。
【0040】
また、基準となる水上風力発電装置2に与える風車ウエイクの影響を解析するときに、基準となる水上風力発電装置2の上流側の水上風力発電装置2から受ける風車ウエイクの影響のみならず、基準となる水上風力発電装置2の下流側の水上風力発電装置2に与える風車ウエイクの影響も解析される。そして、基準となる水上風力発電装置2の最適な位置2Bが解析される。なお、基準となる水上風力発電装置2は、基準位置2Aに固定しつつ、その周囲の水上風力発電装置2を最適な位置2Bに移動させるものでも良い。
【0041】
そして、管理コンピュータ30は、それぞれの水上風力発電装置2の最適な位置2Bを示すレイアウト情報を出力する。それぞれの水上風力発電装置2は、レイアウト情報に基づいて移動装置11(
図2)を制御して最適な位置2Bまで移動する。
【0042】
図4に示すように、管理コンピュータ30は、水平方向の風Wの流動のみならず、垂直方向(上下方向)の風Wの流動についても解析する。例えば、所定の水上風力発電装置2の後方側には、風車ウエイクの原因となる乱流領域Tが形成される。
【0043】
ここで、上流側の水上風力発電装置2により生じる乱流領域Tの上方の層Lから下方に向かって流れ込む気流Fが生じる場合がある。管理コンピュータ30は、この気流Fが有する運動エネルギーが下流側の水上風力発電装置2に与える影響も解析する。例えば、この気流Fの乱流強度が高い領域を利用することができれば、風車ウエイクの影響が低減されるばかりか、下流側の水上風力発電装置2の発電出力を高められる場合がある。
【0044】
次に、第1実施形態の水上風力発電方法について
図6のフローチャートを用いて説明する。なお、前述の図面を適宜参照する。以下のステップは、水上風力発電方法に含まれる少なくとも一部の処理であり、他のステップが水上風力発電方法に含まれていても良い。
【0045】
まず、ステップS1において、それぞれの水上風力発電装置2の位置計測機器13(
図2)は、現在の位置を計測する。ここで、風車制御装置14(
図2)は、位置計測機器13が計測した現在の位置を示す位置情報を管理コンピュータ30(
図5)に送信する。そして、ステップS4に進む。
【0046】
ステップS1と並列に実行されるステップS2において、それぞれの風況観測装置20の風向計24(
図2)は、海洋3上の風向を計測する。ここで、風況観測装置20は、この風向を示す風向情報を管理コンピュータ30に送信する。そして、ステップS5に進む。
【0047】
ステップS1と並列に実行されるステップS3において、それぞれの風況観測装置20の風速計25(
図2)は、海洋3上の風速を計測する。ここで、風況観測装置20は、この風速を示す風速情報を管理コンピュータ30に送信する。そして、ステップS6に進む。
【0048】
ステップS4において、管理コンピュータ30の位置情報取得部36(
図5)は、それぞれの水上風力発電装置2から位置情報を取得する。そして、ステップS8に進む。
【0049】
ステップS5において、管理コンピュータ30の風向情報取得部37(
図5)は、それぞれの風況観測装置20から風向情報を取得する。そして、ステップS7とステップS8に進む。
【0050】
ステップS6において、管理コンピュータ30の風速情報取得部38(
図5)は、それぞれの風況観測装置20から風速情報を取得する。そして、ステップS7とステップS8に進む。
【0051】
ステップS7において、管理コンピュータ30の乱流強度計算部39(
図5)は、風向情報と風速情報に基づいて、それぞれの水上風力発電装置2の下流側の乱流強度を計算する。そして、ステップS8に進む。
【0052】
ステップS8において、管理コンピュータ30の風車ウエイク評価部40(
図5)は、それぞれの水上風力発電装置2の位置情報に加えて、少なくとも風向情報と風速情報に基づいて、風車ウエイクがそれぞれの水上風力発電装置2に与える影響を評価する。
【0053】
追加的または代替的に、風車ウエイク評価部40は、それぞれの水上風力発電装置2の位置情報に加えて、風向情報と風速情報と乱流強度に基づいて、風車ウエイクがそれぞれの水上風力発電装置2に与える影響を評価する。このようにすれば、乱流強度を含めて風車ウエイクの評価を行うことができる。
【0054】
この乱流強度の評価は、下流側の水上風力発電装置2に当たる気流F(
図4)の運動エネルギーの評価を含む。このようにすれば、乱流強度が高い領域を利用して下流側の水上風力発電装置2の発電出力が高められる。
【0055】
次のステップS9において、管理コンピュータ30の発電出力計算部41(
図5)は、風車ウエイクの影響を受けた場合のそれぞれの水上風力発電装置2の発電出力を計算する。ここで、発電出力計算部41は、風車ウエイクの影響を受けた場合の水上風力発電装置2の発電出力の状態を模擬する。
【0056】
次のステップS10において、管理コンピュータ30のレイアウト生成部42(
図5)は、風車ウエイクの評価に応じて少なくとも一部の水上風力発電装置2のレイアウト(位置)を変更するためのレイアウト情報を生成する。
【0057】
次のステップS11において、レイアウト生成部42は、生成されたレイアウト情報に基づいて少なくとも一部の水上風力発電装置2が移動した場合に、それぞれの水上風力発電装置2の発電出力の減少量の合計が最小になるか否かを判定する。ここで、発電出力の減少量の合計が最小になる場合(ステップS11でYESの場合)は、ステップS12に進む。一方、発電出力の減少量の合計が最小にならない場合(ステップS11でNOの場合)は、ステップS13に進む。
【0058】
つまり、レイアウト生成部42は、それぞれの水上風力発電装置2の発電出力の減少量の合計が最小になるレイアウト情報を生成する。なお、ステップS11の判定は、いくつかのパターン(例えば、100パターン)のレイアウト情報を生成し、その中で発電出力の減少量の合計が最小になるレイアウト情報を選択するものでも良い。また、発電出力の減少量の合計が最小になるレイアウト情報が生成されるまで、ステップS8からステップS11を繰り返すものでも良い。
【0059】
なお、レイアウト生成部42でレイアウト情報が生成される場合には、係留索9によって規定される水上風力発電装置2の移動可能な範囲、または水上風力発電装置2同士が干渉しない範囲などを制約条件として計算が行われる。
【0060】
ステップS12において、レイアウト生成部42は、発電出力の減少量の合計が最小になるレイアウト情報を出力する。ここで、管理コンピュータ30は、このレイアウト情報をそれぞれの水上風力発電装置2に送信する。そして、ステップS14に進む。
【0061】
一方、ステップS13において、レイアウト生成部42は、レイアウト情報における水上風力発電装置2の位置を修正する。そして、ステップS8に戻る。ここで、風車ウエイク評価部40は、修正後の水上風力発電装置2の位置に基づいて、再び風車ウエイクの評価を行う。
【0062】
ステップS14において、それぞれの水上風力発電装置2の風車制御装置14(
図2)は、風車移動処理を実行する。ここで、それぞれの風車制御装置14は、移動装置11を制御し、水上風力発電装置2の位置をレイアウト情報に応じた適切な位置に移動させる。このようにすれば、発電出力の低下が抑制される位置に水上風力発電装置2を移動させることができる。
【0063】
なお、風車移動処理は、少なくとも一部の水上風力発電装置2を移動させる処理である。また、風車移動処理には、ナセル6の方位の制御と、ブレード5のピッチ角の制御が含まれる。そして、ステップS1からステップS3に戻る。
【0064】
第1実施形態では、ステップS1からステップS14を繰り返すことで、風車ウエイクの影響で発電出力が減少したときの減少量を最小にすることができる。
【0065】
なお、第1実施形態の水上風力発電方法では、管理コンピュータ30が出力したレイアウト情報に基づいて、風車制御装置14が水上風力発電装置2を移動させているが、その他の態様であっても良い。例えば、管理コンピュータ30が出力したレイアウト情報に基づいて、ユーザが遠隔操作で水上風力発電装置2を移動させても良い。つまり、第1実施形態の水上風力発電方法は、管理コンピュータ30が、少なくともステップS4からステップS13までの処理を実行するものであれば良い。
【0066】
なお、第1実施形態では、風向情報と風速情報と乱流強度に基づいて、風車ウエイクの評価が行われているが、その他の態様であっても良い。例えば、風向情報と風速情報のみに基づいて、風車ウエイクの評価が行われても良い。
【0067】
なお、水上風力発電装置2が動く方向は、風向と直交する方向が良い。このようにすれば、最低限の移動距離で風車ウエイクを回避することができる。また、上流側の水上風力発電装置2を移動させる場合において、下流側の水上風力発電装置2は、上流側の水上風力発電装置2と逆の方向に移動させるようにしても良い。このようにすれば、最低限の移動距離で上流側の水上風力発電装置2に起因する風車ウエイクを回避することができる。
【0068】
なお、所定の水上風力発電装置2を移動させると、水上風力発電システム1の全体の発電出力が減少する場合は、所定の水上風力発電装置2を移動させないようにしても良い。
【0069】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について
図7から
図8を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0070】
図7に示すように、第2実施形態の管理コンピュータ30は、前述の第1実施形態の構成(
図5)に加えて、風況予測部43を備える。この風況予測部43は、管理コンピュータ30が取得した風向情報と風速情報に基づいて、後に生じる風向と風速とを予測する。
【0071】
次に、第2実施形態の水上風力発電方法について
図8のフローチャートを用いて説明する。第2実施形態の水上風力発電方法は、前述の第1実施形態のステップ(
図6)に加えて、ステップS5AとステップS6Aが追加されている。他のステップは、第1実施形態と同様である。なお、
図7に示すブロック図を適宜参照する。
【0072】
図8に示すように、ステップS5の次に進むステップS5Aにおいて、管理コンピュータ30の風況予測部43は、将来の風向を予測する。そして、ステップS7とステップS8に進む。
【0073】
ステップS6の次に進むステップS6Aにおいて、風況予測部43は、将来の風速を予測する。そして、ステップS7とステップS8に進む。
【0074】
ステップS7において、管理コンピュータ30の乱流強度計算部39は、予測された風向と風速に基づいて、それぞれの水上風力発電装置2の下流側の乱流強度を計算する。つまり、将来の乱流強度が予測される。そして、ステップS8に進む。
【0075】
ステップS8において、管理コンピュータ30の風車ウエイク評価部40は、それぞれの水上風力発電装置2の位置情報に加えて、予測される風向と風速と乱流強度に基づいて、風車ウエイクがそれぞれの水上風力発電装置2に与える影響を評価する。このようにすれば、実際に水上風力発電装置2に当たる風Wの影響が事前に予測されるため、発電出力の低減をさらに抑制することができる。
【0076】
例えば、水上風力発電装置2がレイアウト情報に基づいて適切な位置まで移動する場合に、その移動時間に10分かかるとする。ここで、風況予測部43は、この移動時間に相当する10分後の風向と風速を予測する。この予測に基づいてレイアウト情報が生成され、水上風力発電装置2が移動を開始したとすると、その移動が完了する時点(10分後)に、丁度予測通りの風向と風速になる。そのため、発電出力の低減を充分に抑制することができる。また、風況予測と組み合わせたレイアウトの変更により、発電出力の予測もできる。特に、発電計画に合わせた発電出力が得られる。
【0077】
なお、所定の閾値に応じてレイアウトを変更するか否かの判定が行われても良い。例えば、風車ウエイクの影響が無い場合の発電出力と比較して、風車ウエイクの影響が有る場合の発電出力が50%以下になる場合に、水上風力発電装置2を移動させるようにしても良い。このようにすれば、水上風力発電装置2が頻繁に移動される事態を抑制し、水上風力発電装置2の移動にかかるエネルギーを節約することができる。
【0078】
第2実施形態では、風向と風速の予測に応じて水上風力発電装置2が移動することにより、発電計画通りの発電出力を得ることができる。
【0079】
なお、第2実施形態では、風向の予測と風速の予測と乱流強度に基づいて、風車ウエイクの評価が行われているが、その他の態様であっても良い。例えば、風向の予測のみに基づいて、風車ウエイクの評価が行われても良い。
【0080】
水上風力発電システム、水上風力発電方法および水上風力発電プログラムを第1実施形態から第2実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
【0081】
なお、前述の実施形態のフローチャートにおいて、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと直列に実行されても良いし、並列に実行されても良い。
【0082】
なお、前述の実施形態では、水上風力発電装置2が海洋3上に設けられる態様を例示しているが、その他の態様であっても良い。例えば、水上風力発電装置2が湖上に設けられて良い。つまり「水上」という用語は、海上と湖上の意味を含む。
【0083】
なお、前述の実施形態では、水上風力発電装置2として、揚力型風車であり、かつ水平軸風車であるアップウインド型のプロペラ型風車を例示しているが、その他の態様であっても良い。例えば、水上風力発電装置2が、ダウンウインド型のプロペラ型風車であっても良い。また、水上風力発電装置2が、揚力型風車であり、かつ垂直軸風車であるダリウス型風車、ジャイロミル型風車、垂直翼型風車であっても良い。また、水上風力発電装置2が、抗力型風車であり、かつ垂直軸風車であるサボニウス型風車、パドル型風車、クロスフロー型風車、S字ロータ型風車であっても良い。また、水上風力発電装置2が、揚力型風車であり、かつ水平軸風車または垂直軸風車であるマグナス型風車であっても良い。
【0084】
なお、前述の実施形態では、風況観測装置20が海洋3上の風向と風速を観測しているが、その他の態様であっても良い。例えば、水上風力発電システム1が複数の空中ドローン(図示略)を備えるものであり、これらの空中ドローンが海洋3上の風向と風速を観測しても良い。
【0085】
なお、前述の実施形態では、風車ウエイクの影響を受ける場合に水上風力発電装置2のレイアウトが変更されているが、その他の態様であっても良い。例えば、夜間などの電力消費が少ない時間帯では、風車ウエイクの影響を受ける場合であってもレイアウトの変更が行われなくても良い。また、予め定められた発電計画に基づいて、充分に発電出力を得られる場合には、風車ウエイクの影響を受ける場合であってもレイアウトの変更が行われなくても良い。
【0086】
前述の実施形態のシステムは、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、またはCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)またはRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスまたはキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。このシステムは、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0087】
なお、前述の実施形態のシステムで実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一過性の記憶媒体に記憶されて提供するようにしても良い。
【0088】
また、このシステムで実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしても良い。また、このシステムは、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0089】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、風車ウエイクの評価に応じて少なくとも一部の風力発電装置のレイアウトを変更するためのレイアウト情報を生成するレイアウト生成部を備えることにより、風車ウエイクの影響で生じる発電出力の低下を抑制することができる。
【0090】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0091】
1…水上風力発電システム、2…水上風力発電装置、3…海洋、4…ハブ、5…ブレード、6…ナセル、7…タワー、8…浮体、9…係留索、10…送電ケーブル、11…移動装置、12…スクリュー、13…位置計測機器、14…風車制御装置、20…風況観測装置、21…タワー、22…浮体、23…係留索、24…風向計、25…風速計、30…管理コンピュータ、31…通信部、32…入力部、33…出力部、34…記憶部、35…制御部、36…位置情報取得部、37…風向情報取得部、38…風速情報取得部、39…乱流強度計算部、40…風車ウエイク評価部、41…発電出力計算部、42…レイアウト生成部、43…風況予測部、F…気流、L…層、T…乱流領域、W…風。